ガルヴォルスFang 第8話「新たなる牙」

 

 

 ハルを切り刻もうとするシンジ。シャークガルヴォルスとなった彼は、ファングガルヴォルスとなっているハルに襲い掛かる。

 ハルが迎え撃って右手を突き出す。しかしその先にシンジの姿はなかった。

「えっ・・!?

 目を見開いた瞬間、ハルは体に傷をつけられた。シンジの素早い動きによる爪と角による攻撃が、ハルを切りつけたのである。

「僕がちょっと本気を出すと、ついてこられなくなるようだね・・」

 ハルの背後にいたシンジが、振り返って声をかけてきた。

「でも悔しがることはないよ。僕に本気を出させただけでも、自分をほめるべきことだから・・」

「関係ない・・そうやって考えを押し付けられるのがイヤなんだよ、オレは・・・!」

 語り続けるシンジに、ハルが苛立ちを見せてくる。彼の言葉と態度に、シンジが笑みを消す。

「勝手だって言っているそっちのほうが勝手だって・・」

 シンジがため息をつくと、素早く飛び込んで右手の爪をハルに突き立てた。爪を体に突き刺さられて、ハルが苦痛を覚える。

 血をあふれさせたハルに、シンジがさらに爪を振りかざしていく。さらに体を切りつけられて、ハルが顔を歪める。

「これで少しは諦めを覚えただろう?僕に任せておけば、苦しまないで切り刻んでやるよ・・」

「それがイヤなんだよ・・お前の考えをオレに押し付けるな・・・!」

 笑みを強めるシンジに、ハルが苛立ちを向ける。するとシンジが肩を落としてため息をつく。

「文句ばっかり言う・・それで“分かりました”って言ってもらえると思っているの・・・?」

 シンジが素早く動いて、ハルの背後に回り込んだ。シンジが突き出した爪が、ハルの背中に突き刺さる。

 シンジがそのまま押し込んで、ハルを突き倒す。体に傷をつけられて出血するハルは、全身に痛みを感じていた。

「どうしたの?文句を言っていたさっきの勢いはどうしたの?」

 うずくまっているハルを見下ろして、シンジがあざ笑ってくる。

「みんな無様になっていくんだよ・・僕に対して調子に乗るヤツは、みんなズタズタになるんだよ・・」

 シンジがハルを狙って右手を構える。ハルが全身に力を込めて、右の肘を突き出してシンジを突き放す。

「オレは調子に乗っていない・・調子に乗っているのはお前のほうだろうが!」

「往生際が悪いことだ・・」

 言い放つハルにシンジが苛立ちを募らせていく。ハルが体から刃を引き抜いて、シンジに飛びかかる。

 だがハルがまたも体に傷をつけられる。直後に彼が持っていた刃が手から離れる。

「どこまでも鬱陶しくしてきて・・2度と往生際が悪くできないように、そろそろとどめを刺してやるとするか・・」

 ハルにとどめを刺そうと、シンジが再び右手を構える。

「待ったー!」

 そこへ声がかかり、シンジが振り向く。この場に駆け込んできたのはサクラだった。

「サクラ・・・!?

「また見られてしまったか・・時間をかけすぎたか・・」

 声を上げるハルと、ひとつ吐息をつくシンジ。

「逃げるなら今のうちだよ・・コイツを仕留めたら、すぐに君をズタズタにするから・・」

「やめてって・・ハルをこれ以上傷つけないで!」

 言いかけるシンジにサクラが呼びかける。

「オレは今は怪物の姿になっている・・何でサクラが、オレのことを・・・!?

 ハルは耳を疑った。今の彼の姿に対して、サクラはその正体を分かっていた。

「コイツよりも僕に切り刻まれたいのかい?それでも僕は構わないけど・・」

「ハルはもう傷つけさせない・・あたしも傷つかない・・・!」

 悠然とするシンジに言いかけるサクラの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女の変化にハルが目を疑う。

「サクラ・・まさか・・・!?

 息をのむハルの目の前で、サクラの姿が変化する。猫に似た怪物、キャットガルヴォルスにサクラは変わった。

「君もガルヴォルスだったか・・今日はガルヴォルスとよく遭遇するな・・」

 サクラの変化した姿を見ても、シンジは悠然さを崩さない。

「でもガルヴォルスだろうと何だろうと、僕にズタズタにされることに変わりはないんだから・・」

 シンジが目を見開いて、サクラに向かって飛びかかる。だがサクラは彼の横を素早くすり抜けて、倒れているハルに駆け寄った。

「ハル、大丈夫・・!?

「サクラ・・・!?

 心配の声をかけるサクラに、ハルが動揺を見せる。彼はサクラに支えられて立ち上がる。

「相手するなんて言った覚えはないよ・・ハルは連れていくからね・・・!」

「だから、僕がズタズタにするんだって・・」

 呼びかけるサクラをシンジがあざ笑ってくる。彼がスピードを上げて捕まえようとするが、サクラはハルを抱えたまま、素早くジャンプしてこの場を離れた。

 立ち止まって振り返ったシンジが探りを入れるが、サクラもハルもいなくなっていた。

「まさか僕から逃げられる人がいたとはね・・・」

 シンジは言いかけると、人間の姿に戻った。

「でも今度会ったら絶対に逃がさない・・必ず切り刻んでやるから・・・」

 ハルとサクラに敵意を向けながら、シンジは歩き出していった。

 

 ハルを助けて彼の家の近くまで移動してきたサクラ。人間の姿に戻ってから、彼女はハルに改めて声をかけた。

「ハル、大丈夫!?・・どこか悪くなったとことかない・・!?

 心配の声をかけるサクラに、ハルは動揺を膨らませていた。

「サクラ・・お前も怪物だったの・・・!?

 ハルが困惑したままサクラに問い詰める。するとサクラが苦笑いを浮かべてきた。

「あたしも、ハルと同じだったんだね・・・ガルヴォルスになりながらも、ガルヴォルスと戦ってる・・・」

「もしかして・・サクラも誰かを襲って・・・!?

「そんなことないって!たとえガルヴォルスにならなかったとしても、強引なのはハルのことで懲りてるから・・」

 サクラがハルに物悲しい笑みを浮かべる。

「そんなことを言われても、僕が信じると思っているの・・・!?

 ハルはサクラに対して疑心暗鬼を見せる。彼はかつてサクラからされたことが今でもトラウマになっていた。

「ハル・・もう帰るね・・何かあったら声をかけてね・・あたしのできることなら、何でもするから・・・」

 サクラはハルに言いかけてから、振り返って歩き出していった。彼女が去っていくのを、ハルは見送らなかった。

 

 サクラの転入とガルヴォルスへの転化に、ハルは複雑な気分を拭えないでいた。どうしようもない気持ちのまま、彼はナツと一緒に登校した。

「ハル・・休まなくて大丈夫か・・?」

「うん・・今日は家に1人だけでいるほうが辛くなりそうな気がするから・・・」

 心配の声をかけるナツに、ハルが微笑んで答える。

「そう・・何かあったら遠慮せずに言ってきてくれ。オレでもマキでも。アキちゃんでもいいぞ・・」

「うん・・そうするよ、兄さん・・・」

 励ましてくるナツに頷くハル。教室に来たところで、ハルはナツと別れた。

「ハルくん・・おはよう・・・」

「うん・・おはよう・・・」

 アキに声をかけられて、ハルが挨拶を返す。

「おはよー、ハルー♪」

 そこへサクラが元気に声をかけてきた。するとハルが嫌そうな顔を浮かべてきた。

「ゴメン、ハル・・・でも、元気出してね・・」

 サクラが苦笑いを浮かべて、ハルから離れていった。

(ハルくん・・サクラさん・・・)

 2人の様子を見て、アキは戸惑いを感じていた。

 

 昼休みになり、ハルは屋上で昼食をとっていた。彼は1人になりたい気分を感じていた。

「サクラもガルヴォルスという怪物に・・でも、サクラらしさが消えていなかった・・・それがいいこととは思えないけど・・・」

 パンを口に運びながら、ハルが呟いていく。

「ハル・・」

 そこへサクラがやってきてハルに声をかけてきた。彼女のその声は元気がなかった。

「サクラ・・・!?

 ハルが目を見開いてサクラから離れようとする。

「待って、ハル・・ガルヴォルスのことを話しておきたいと思って・・」

「ガルヴォルス?・・あの怪物のこと、知っているの・・・?」

 サクラが話を振ると、ハルが警戒を和らげた。

「あたしの知ってる限りだけどね・・話せるだけでいいなら・・」

 サクラが切り出す話に頷いてから、ハルは耳を傾けた。

「ガルヴォルスは人間の進化。人はみんなガルヴォルスの因子を持ってて、それが刺激されてガルヴォルスになるんだって・・」

「ガルヴォルスの因子・・そんなものが、僕の中にも・・・」

 サクラの説明を聞いて、ハルが自分の両手を見つめて震える。

「あたしがガルヴォルスになったのは、この学校に転校する1ヶ月ぐらい前かな・・いきなり怪物になっちゃって、おかしくなっちゃいそうになったよ・・」

 サクラも話を続けて、自分の右手を見つめて今の自分を実感していく。

「でも分かったんだよね・・怪物になってもあたしがあたしだってことは変わってなかったって・・」

「自分は自分・・僕も僕のままだって・・・?」

「きっとそうだよ・・ハルもハルらしさを失ってないよ・・変わったとしたら、変えてしまったとしたら、あのときだから・・・」

 戸惑いを見せるハルに、サクラが彼を怒らせたことを思い出していた。

「暴力振って脅して振り回して、それでハルを怒らせた・・ハルがどれだけ不満に思ってたか、あたしはやっと分かった・・・」

「今更そんなことを言われても、僕は信じないよ・・・」

「・・そうだよね・・勝手だったあたしのことなんて、信じられないほうが普通だよね・・・」

 疑心暗鬼になっているハルに、サクラが物悲しい笑みを浮かべた。

「もう教室に戻るね・・ゴメンね、ハル。お昼の邪魔して・・」

 サクラが苦笑いを見せて、ハルのいる屋上から校舎に入っていった。

「・・信じられるわけない・・信じさせて、僕をまた陥れようとすることだって考えられる・・・」

 サクラへの不信を呟きながら、ハルはパンを口に運んでいった。

 

 ハルを追い求めて、アキも屋上に向かっていった。ハルのいる屋上に出ようとしたところで、彼女はサクラとすれ違った。

「サクラさん・・!?

 アキが声をかけると、サクラが足を止めた。

「アキちゃん・・・ゴメン・・ハルにすっかり嫌われちゃったみたい・・・」

 サクラが振り向いて、アキに物悲しい笑みを浮かべてきた。彼女が抱えている悲痛さを悟って、アキも戸惑いを感じていく。

「ハルは屋上にいるけど、今はそっとしておいたほうがいいかも・・」

「サクラさん・・・ハルくん・・・」

 サクラからの言葉を受けて、アキはハルのいる屋上に振り向いた。

「ごめんなさい、ハルくん・・・」

 ハルに対する辛さを抱えて、アキはサクラと一緒に屋上を離れた。

 

 放課後、下校しようとしていたハルに、ナツが声をかけてきた。

「ハル、今日は一緒に帰ろう。お前、最近いろいろと気が滅入ってるように見えるから・・」

「兄さん・・うん、いいよ・・兄さんだったら・・・」

 ナツの言葉にハルが小さく頷いた。2人はそろって学校の正門を通って帰路についた。

「まだ怪物に関わってるのか・・?」

「好きで関わっているわけじゃないよ・・みんな僕にちょっかいを出してくるんだよ・・・」

「そうだとしたら・・ハルはホントに厄介ごとを持ってくる天才かもな・・」

「冗談でもそういうこと言わないでよ、兄さん・・気分が悪くなるよ・・」

「ゴメン、悪かったよ、ハル・・だけど、オレたちが心配してるってことだけは、覚えといてくれよ・・」

「うん・・ありがとう、兄さん・・・」

 励ましてくるナツに、ハルが小さく頷いた。

「さっきも言ったけど、ホントにオレたちに相談してくれよな・・オレもいるんだからな・・」

 ナツが続けてハルに励ましを投げかけた。

「見つけたよ、あのときのひ弱そうな人・・」

 そこへ声をかけられて、ハルとナツが足を止めた。聞き覚えのあった声に、ハルが緊張を覚える。

 2人の前に現れたのはシンジだった。

「ここで会ったのが運の尽きだよ。君も、そこにいる人もね・・・!」

 笑みを強めたシンジの頬に紋様が走る。彼の変化を目の当たりにして、ナツも緊張を覚える。

「お前も・・!?

 ナツが声を上げた瞬間、シンジがシャークガルヴォルスに変わった。

「やっぱりガルヴォルスだったか・・!」

「へぇ。あなたもガルヴォルスのことを知っているの?・・仮にガルヴォルスだったとしても、2人まとめて僕が切り刻んでやるよ!」

 焦りを浮かべるナツに言い放って、シンジが飛びかかってきた。

「兄さん!」

 ハルがナツを横に突き飛ばした直後に、ファングガルヴォルスになってシンジの爪をかわした。

「兄さん、逃げろ!いたら殺される!」

 ハルがナツに向けて呼びかける。しかしナツはハルを置いて逃げることを躊躇する。

「だから2人とも切り刻むって・・!」

 シンジがナツに再び飛びかかる。だがハルに背中を押されて、地面に押さえつけられる。

「兄さんに近づくな・・指一本でも触れたら、許さない・・・!」

「許さない?・・許してもらおうなんて、全然思ってないさ!」

 目つきを鋭くするハルに言い返して、シンジが押し返して起き上がる。

「早く逃げろ、兄さん!」

「ハル!」

 ハルに怒鳴られて、ナツはようやく走り出して逃げ出していった。彼の後ろ姿を見て安堵を感じた直後、ハルがシンジに突き飛ばされる。

「他のことを気にしているなんて、ずいぶんと余裕じゃないか・・」

「余裕なんてない・・余裕があったら、兄さんに逃げろなんて言わない・・・!」

 あざ笑ってくるシンジに、ハルが苛立ちを込めて言い返す。

「兄さんに、オレの周りの人に手出しするな・・さもないと・・!」

 声を振り絞るハルが、シンジに突き飛ばされて壁に叩きつけられる。

「ぐっ・・!」

「さもないと、何・・?」

 うめくハルをあざ笑ってくるシンジ。するとハルが押さえつけてきているシンジの腕をつかみ返してきた。

「さもないと・・地獄に落とす・・殺されても、お前を地獄に落とすまで、お前を殺す・・・!」

 敵意をむき出しにするハルの体に力が入る。彼の高まった力にシンジが緊張を覚える。

「殺されても、オレは死なない!」

 言い放ったハルから衝撃が巻き起こった。その圧力で突き飛ばされたシンジが、地面に足をつけて踏みとどまる。

 ハルに視線を戻したシンジ。彼が視線を戻した先のハルの体が、変化を起こしていた。

 全身の棘と角の数が増え、禍々しさのあるオーラがあふれてきていた。

「何だ、これは!?・・すごくイヤな感じがする・・・!」

 シンジが今のハルに対して危機感を感じていく。ハルが閉ざしていた目をゆっくりと開いて、シンジに殺気を向ける。

「2度と、オレの前に現れないようにしてやる・・・!」

 ハルがシンジに向けて低く言いかける。彼はシンジを倒すという攻撃本能に駆り立てられていた。

 

 

次回

第9話「絶望の始まり」

 

「どうしたっていうの、ハル・・・!?

「僕・・何をしていたんだ・・・!?

「どんなヤツでも・・絶対に切り刻んでやるぞ・・・!」

「ハル、くん・・・!?

 

 

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