ガルヴォルスFang 第7話「波乱の3人」
「牧野サクラ♪みんな、よろしくね♪」
女子、サクラがクラスメイトたちに元気にあいさつをする。その中でハルが滅入っていて、アキが困惑を感じていた。
「それじゃ牧野さん、後ろのあの席についてー。」
「やったー♪ハルの隣だよ〜♪」
担任が指し示した席に、サクラが軽い足取りで向かっていった。するとハルがさらに肩を落としてきた。
「ハルと隣の席だなんて、とっても嬉しいよ〜♪改めてよろしくね、ハル♪」
「やめろ・・・」
笑顔を見せてくるサクラに、ハルが苛立ちを覚える。
「分かんないことがあるかもしれないから、そのときはハルに聞くから・・♪」
「やめろ!」
言いかけていたサクラにハルが怒鳴りかかった。感情をあらわにした彼に桜が押し黙り、アキが困惑を募らせた。
1時限目が終わると、サクラがハルに声をかけてきた。
「ホントに久しぶりだね、ハル♪いやぁ、またハルと一緒の学校に通えて嬉しいよ〜♪」
「何で来たんだよ・・僕はお前と一緒にいるのがイヤだって、何度も言ったじゃないか・・」
喜びを見せるサクラに、ハルが不満を見せる。
「だって、ハルがいないとさみしくなっちゃって・・うまく転校できてよかったよ〜・・」
サクラは微笑んだまま、ハルに向けて話を続ける。
「ハルが元気そうでよかったよ〜♪あたしもそんなハルが大好きだったんだけどね〜♪」
「だからやめろって・・・!」
「お兄ちゃんもこの学校だよね?後でお兄ちゃんにも声をかけとかないと・・♪」
「やめろって言ってるのが分かんないのか!?」
ハルが感情をあらわにして、床を強く踏みつけた。苛立ちを膨らませていく彼に、サクラが動揺を見せる。
「お前はあのときから何も変わってない・・お前には理解力がないのか・・・!?」
「ハル・・・」
「そんなふうにされるのがイヤだって分かんないのかよ!?」
ハルが怒りを膨らませて、困惑を見せてるサクラにつかみかかる。ハルはそのままサクラの首をつかんで、締め上げてきた。
「みんなそうだ・・自分が正しいと思い込んで、誰かがイヤだと思っていることも平気でやって、それを悪いとも思っていない・・・!」
「ハル・・くる・・し・・・!」
「そんなムチャクチャな理屈、オレは認めない!自分勝手を押し付けてくるなら、ボコボコにしてでも分からせてやる!」
「分かった・・分かったから・・やめて・・ハル・・・!」
憎悪をむき出しにするハルの言葉を受け入れて、サクラが助けを求める。苛立ちを浮かべたまま、ハルはサクラから手を放した。
「くだらないことで僕に声をかけるな・・自分勝手を僕に押し付けるな・・今度やったらどんなことになるのか、分からないとは言わせない・・・!」
「ハル・・・あのときのこと、やっぱり覚えてたんだね・・・」
言いかけるハルに対して、サクラが咳き込みながら声を振り絞る。ハルは苛立ちを抱えたまま、教室を出ていった。
(ハルくん・・牧野さん・・・)
ハルとサクラの様子を見て、アキは困惑を抱えていた。
「えっ!?サクラちゃんが転校してきた!?」
マキからの話を聞いて、ナツが驚きの声を上げる。そしてナツは不安の表情を浮かべてきた。
「参ったなぁ・・ハル、サクラちゃんのことをすごく嫌ってるからなぁ・・」
「えっ?でも牧野さんはハルくんのことが好きみたいだったけど・・」
「一方的に入り浸ってるんだよ、サクラちゃんが・・」
マキに返事をして、ナツが肩を落としてため息をつく。
「ハルが無理やり何かをされたり考えを押し付けられたりするのを嫌ってるのは、マキちゃんも知ってるよね?」
「う、うん・・」
「その嫌悪感を決定づけさせちゃったのが、サクラちゃんなんだ・・」
戸惑いを見せているマキに、ナツが話を続ける。
「引っ込み思案のハルを引っ張ってあげようとしてたんだろうな、サクラちゃん・・でもハルはそれが強引なやり方と捉えてしまった・・感情的になって、サクラちゃんに暴力を振るった・・」
「それで、牧野さんとハルくんは・・・?」
「ハルはそれからしばらく登校拒否・・また登校するようになったのは、サクラちゃんが転校して少ししてから・・」
ナツの説明を聞いて、マキも気まずくなっていた。
「女に暴力を振るう男は最低って、ちょっと前までは言われてたんだけどね・・そんな考え方はハルには通用しない・・」
「ハルくんなら十分あり得る・・というより、そうでないとハルくんらしくない・・・」
マキがナツと一緒に肩を落としてため息をついた。
「それで、またいつものように・・」
「ハルくんの様子を見るんだね・・でも幼馴染みが相手だと力負けしそう・・」
頼み込むナツに、マキはさらに肩を落としていた。
その頃、警察が街外れに次々に急行してきていた。また立て続けに奇怪な事件が起こっていた。
「また派手にやらかしたもんだなぁ・・」
「警部、感心してる場合じゃないッスよ・・こんなの見てトラウマになんないほうがどうかするくらいッス・・」
警部と刑事がため息と不満の声をもらす。彼らが来ていた場所は、地面や壁が血まみれになっていた。
「これで8件目ッス。被害者は全員体をバラバラに。切断したっていうよりも、切り刻まれたり食いちぎられたりって感じで・・」
刑事が事件の状況を口にして肩を落とす。
起こっている事件は、人がバラバラにされて殺されているというものである。猟奇的な殺害がされているが、被害者に共通点はなく、犯行は無差別に行われていた。
「これも人間業じゃないッスよ・・クマとかライオンとか、そういう獣に襲われたとしか・・」
「また獣か・・その割にはうまく立ち回ってるんだよな、その犯人は・・」
「まさか、これも人間の仕業って思ってるんじゃないッスよね・・!?」
「んん〜・・人か獣か、どっちにしても矛盾が出るんだよな・・」
「人間クラスの知能を持った動物が、うまく立ち回って人を襲ってるっていうんスか・・!?」
「ありえない話だがな・・そう考えたほうが合点がいくんだよなぁ・・」
「ありえない話・・ありえないから、何でもかんでもうまくいくように感じてしまえるもんスよ・・」
「だろうな・・さ、早いとこ犯人を割り出さないと・・またこんなのを出すわけにはいかんからな・・」
刑事と言葉を交わしてから、警部は捜査を続行した。
放課後になり、ハルは逃げるように教室を飛び出して、学校から出た。するとサクラが彼を追いかけてきた。
「ハルー♪一緒に帰ろうよー♪」
サクラが声をかけた途端、ハルが立ち止まって殴りかかろうとする。驚いたサクラが自分の顔を守ろうとする。
だがハルはギリギリで繰り出した拳を止めた。閉ざしていた目を開いたサクラが、憤りをあらわにしているハルの顔を目の当たりにする。
「いい加減にしてくれ・・僕が無理やりにされるのがイヤだって分かんないのか・・・!?」
「ハル・・・」
「それとも、死なないと分かんないって言いたいのか・・・そこまで理解力がないっていうのか・・・!?」
ハルに憎悪をむき出しにされて、サクラは言葉が出なくなってしまう。苛立ちを抱えたまま、ハルは再び歩き出していった。
その2人の様子を、アキが物陰から見守っていた。
(ハルくん・・牧野さん・・・私、これからどう声をかけたら・・・)
困惑と不安からハルにもサクラにも声をかけられなかったアキ。
(ハルくんがイヤな思いをしているのに、私ばかりが楽な思いをするわけにいかないよね・・・)
うつむいていたアキが、気を引き締めて顔を上げた。すると彼女の眼前にサクラが近づいてきていた。
「アンタ、同じクラスにいた子だよね?・・名前は、えっと・・・」
疑問符を浮かべるサクラの前で、アキはただただ立ち尽くしていた。
「えっと・・大丈夫・・・?」
サクラがて手をかざすが、アキはしばらく反応しなかった。
サクラへの不満を抱えたまま、ハルは帰路を歩いていた。彼は家に帰りたい気持ちを膨らませていた。
(もうイヤだ・・サクラが来るなんて耐えられない・・・)
我慢の限界を感じながら、ハルは家に急いでいく。
(しばらく家に閉じこもっていたほうがいいのかな・・押しかけてきたら、今度こそ容赦なく・・・)
ハルのサクラへの不満は、いつしか敵意や殺意に変わりつつあった。
そのとき、ハルの耳に不気味な音が入ってきた。生き物がむごいことをされているような音だった。
(もしかして・・またあの怪物が・・・!?)
ハルがガルヴォルスの犯行を予感する。同時に彼は現実の拒絶を強めていた。
(僕には関係ない・・僕はもう、平穏な時間を過ごしていくんだから・・・)
自分に言い聞かせて、ハルは自分の家に急いだ。
そのとき、ハルの前に血しぶきが飛び出してきた。一気に恐怖を膨らませたハルが、ゆっくりと振り向く。
その先には鮮血だけでなく、バラバラになった人の体が飛び散っていた。
(まさか・・こんな近くで・・・!?)
残酷な光景を目の当たりにして、ハルが後ずさる。
「見られてしまったか・・僕としたことが・・・」
その惨状の場から1人の少年が姿を現した。少年は笑みを浮かべたまま、ハルに視線を向ける。
「見ちゃったからには仕方がないね・・そうなった運命を呪うといいよ・・・」
少年の顔に異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がサメの姿の怪物へと変わった。
「ガルヴォルス・・・!」
ハルが恐怖に駆られるように逃げ出していく。しかし少年、シャークガルヴォルスにすぐに回り込まれる。
「僕から逃げられると思っているの?そんな勝手で甘い考えは僕には通用しないよ・・」
シャークガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべる。ハルが抱えている恐怖がさらに高まっていった。
1度近くの公園に来て小休止を取ることにしたアキとサクラ。2人は公園のブランコに揺られていた。
「ゴメンね。何だか無理やり引っ張りまわしちゃったみたいで・・」
「いえ、そんな・・無理やりってわけじゃなかったし・・」
苦笑いを浮かべるサクラに、アキが微笑みかける。
「えっと・・その・・あの・・・」
話をしようとするアキが、うまく言葉を出せないで口ごもる。
「もしかして、ハルと仲良くなってた?」
「えっ・・・!?」
サクラが投げかけてきた質問に、アキが動揺をあらわにする。
「その反応じゃ、もしかしたら友達以上になっていたりして・・」
「と、友達以上って・・・!?」
サクラがからかうと、アキがさらに動揺する。するとサクラがふと物悲しい笑みを浮かべてきた。
「あたしもハルと友達以上の関係・・って、自信満々に言えないんだよね・・・」
肩を落としたサクラに、アキが戸惑いを覚える。
「あたしの場合は、あたしが一方的に入り浸ってるだけ・・当のハルはあたしのことを迷惑だって思ってる・・」
「牧野さん・・・」
「あたしがハルを振り回したから・・ハルはあんなにも暗い性格になっちゃったんだよ・・あたしがバカあったから・・・」
「あの・・何が、あったの・・・?」
落ち込んでいるサクラに、アキが声をかけてくる。するとサクラが視線を向けてくる。
「い、いえ・・言いたくなかったら言わなくても・・・」
「ううん・・ハルと仲のいい君にだったら、話してもいいかも・・」
動揺を見せるアキに、サクラが話を切り出した。
「それは中学の時・・あたしが同好会を立ち上げて、ハルを無理やり誘ってからだった・・あのときのあたしは、自分が正しい、自分の思い通りにならないと気が済まない考え方をしてた・・」
サクラが昔の自分たちのことをアキに打ち明けた。
「ハルにもみんなにも無理やりいうことを聞かせてた。そうしたほうが絶対にいいって信じてた・・でもある日、そんなあたしを、ハルは・・」
記憶を呼び起こしていくサクラが、イヤな思い出を思い出していく。
強引、暴力、脅迫、あらゆる方法を取ってきたサクラに、ハルの怒りが爆発した。彼はサクラの顔面をつかんで床に押し付ける。そこから彼女の体を強く踏みつけた。
周りにいた生徒たちに止められたが、サクラは病院送りになってしまった。
責任を追及されても、ハルはサクラに謝らなかった。自分は悪くないの一点張りだった。
こうして間に溝ができたまま、ハルとサクラは別々の高校に進学したのだった。
「ハルくんと牧野さんに、そんなことが・・・」
サクラの話を聞いて、アキが戸惑いを感じていた。
「ホントにゴメンね・・ハルがあんな性格にしちゃったのは、あたし・・ハルが好きなくせに、ハルに嫌われても文句が言えない・・・」
「でも牧野さんは悪い人じゃない・・みんな悪くないんです・・あなたも、ハルくんも・・・」
落ち込んでいるサクラに、アキが弁解を入れる。彼女に励まされて、サクラが元気を取り戻す。
「ありがとうね、励ましてくれて・・あたし、元気が出てきたよ〜・・!」
「そ、それはどうも・・・」
「あたしのことは“サクラ”でいいよ♪えっと・・君の名前は・・」
「アキ・・三島アキ・・よろしく・・・」
互いに自己紹介をするサクラとアキ。サクラに手を握られて、アキが動揺を見せる。
「よろしくね、アキちゃん♪」
「う、うん・・」
笑顔を見せるサクラに、アキも微笑んで頷いた。
そのとき、サクラが突然笑みを消して、ブランコから飛び上がった。
「サ、サクラさん・・・!?」
「ゴメン、アキちゃん・・あたし、そろそろ行くね・・・」
驚きを見せているアキに声をかけてから、サクラは公園を飛び出していった。アキは戸惑いを感じたまま、サクラの後ろ姿を見送っていた。
シャークガルヴォルスに遭遇し、壁に追い込まれていたハル。彼を見据えて、シャークガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべる。
「鬼ごっこに付き合うつもりはないよ・・せめて痛みを感じないようにするから・・」
シャークガルヴォルスが言いかけて、右手を構えて鋭い爪をきらめかせる。
「イヤだ・・こんなことで、僕は死にたくない・・・!」
激情を膨らませるハルの頬に紋様が走る。
「死にたくないんだ!」
激高した彼の姿もガルヴォルスとなった。シャークガルヴォルスが彼を見て目を細める。
「まさか君もガルヴォルスだったとは・・僕は鮫島シンジ。同じガルヴォルスとして、自己紹介ぐらいはしておかないとね・・」
シャークガルヴォルス、シンジが自己紹介をしてきた。
「知りたくもないよ・・あまりしつこくすると、容赦できなくなる・・・!」
ハルが冷たく言葉を返して、シンジに敵意を向ける。
「しつこくされたくなかったら、おとなしく僕に切り刻まれればいいんだよ・・さっきも言ったように、痛みを感じないようにすぐに終わらせるから・・・!」
シンジが笑みを強めて、ハルに向かって飛びかかる。ハルも右手を突き出して、シンジを迎え撃つ。
ハルとシンジが交錯する。すると2人の突き出した腕に切り傷がついた。
「うっ・・!」
「やるね・・まさか僕が逆に傷をつけられるなんて・・・」
うめくハルに、シンジが笑みを浮かべたまま言いかける。
「ただでは死なせないよ・・僕の気が済むまで、切り刻んでやるよ・・・!」
目を見開いたシンジが、ハルに再び飛びかかった。
次回
「僕に対して調子に乗るヤツは、みんなズタズタになるんだよ・・」
「ハルをこれ以上傷つけないで!」
「サクラ・・・!?」
「あたしも、ハルと同じだったんだね・・・」