ガルヴォルスFang 第6話「牙の暴走」
コウとの戦いで力を消耗して、意識を失ってしまったハル。彼は通りがかった人に助けられて、病院に運ばれた。
ハルが眠っている病室に、知らせを聞いてきたナツとマキが駆け込んできた。
「ハル、大丈夫か!?ハル!」
ナツに呼びかけられて、ハルが意識を取り戻した。
「・・・ここは・・・?」
「ハル・・よかった・・目が覚めた・・」
体を起こしたハルに、ナツが安心の笑みをこぼした。
「・・アキちゃん・・アキちゃんは・・?」
ハルが病室を見回してアキを探す。しかしアキの姿はない。
「アキちゃん?・・アキちゃんは来てないけど・・?」
「そんなはずない・・アキちゃんもいる・・僕と一緒だったんだから・・・!」
ナツが答えるが、ハルは聞こうとせずにさらに病室を見回す。
「ハルくんを見つけたときには、ハルくん以外いなかったって・・」
マキも言いかけるが、ハルはこれにも聞く耳を持たない。
「そうだ・・あのとき、アイツが・・・まさか、アキちゃんが・・・!?」
ハルはアキの身に何かあったと思い、ベッドから飛び起きた。
「待て、ハル!まだ休んでないと・・!」
「探さないと・・このままじゃ、アキちゃんが・・・!」
呼び止めるナツを振り切って、ハルが病室を飛び出してしまった。
「ハルくん!」
マキの声も届かず、ハルは外に出ていってしまった。
「マキちゃんは先生に知らせてきて!オレがハルを連れ戻す!」
「わ、分かったよ!」
ナツに呼びかけられてマキが頷く。2人も病室を飛び出していった。
病院を飛び出したハルは、アキを追い求めて道を走っていた。しかし何の手がかりもない彼は途方に暮れることになった。
(アキちゃん・・どこなんだ、アキちゃん・・・!?)
それでもハルは立ち止まろうとせず、アキを探し続けた。彼を突き動かしていたのはアキへの思いだけだった。
アキと一緒なら平穏に過ごすことができる。アキがいなくなったら自分を見失ってしまう。ハルはそう思っていた。
(どこにいるんだよ、アキちゃん・・出てきてくれ・・僕の前に現れてよ・・・!)
ひたすらアキに懇願するハル。この気持ちはハルの感覚を研ぎ澄ませることになった。
“・・やめて・・助けて・・・”
ハルの耳にアキの声が飛び込んできた。
(アキちゃん・・!?)
アキの声に反応して、ハルが周りを見回す。彼がいる場所にアキの姿はない。
(アキちゃん、どこに!?・・声のするほうにいけば、アキちゃんのいるところに行けるはず・・・!)
思い立ったハルがアキの声が聞こえるほうへ走り出していった。
コウに連れ去られて、部屋に連れ込まれたアキ。部屋には金の美女の像が立ち並んでいた。
「ここにいるのは・・もしかして、本物の・・・!?」
「そうだよ。みんな僕がきれいにした・・みんな気分をよくしていったよ・・」
恐怖を覚えるアキに、コウが悠然と言いかけていく。
「君も気持ちよくなれるよ。きれいになっていく変化から、君は気持ちよさを感じることになる・・」
「イヤ!私、金になんてなりたくない!」
手招きをしてくるコウに、アキが悲鳴を上げる。
「怖がることはないよ・・僕が優しく輝かせてあげるから・・」
コウが淡々と言いかけると、アキに向けて右手をかざす。彼の右手から金色の光があふれ出す。
「やめて・・助けて・・・!」
助けを求めるアキの体が、光を浴びて金に変わっていく。金になっていくことで、彼女は体の自由が利かなくなっていく。
にもかかわらず、アキは恐怖を感じなくなり、逆に心地よさを感じるようになっていく。
「どうなっているの?・・金にされているのに・・気分がよくなっていく・・・」
「そうだよ。僕の力で、君はきれいになっていくだけじゃなく、気分もよくなっていくんだよ・・完璧にきれいになったとき、君の心も満足しているよ・・」
戸惑いを浮かべているアキに、コウが優しく声をかけていく。
「さぁ、このまま僕に任せるんだ・・そうすれば君は楽になれるんだから・・・」
「違う・・・」
呼びかけるコウに、アキが声を振り絞って言い返した。
「ハルくんが・・いない・・・ハルくんと・・一緒じゃないと・・・」
「僕の力を受けても、気持ちよくなっていない・・・?」
ハルに助けを求めていくアキに、コウが眉をひそめる。金になっていくのに、アキは気持ちよさに心を奪われておらず、ハルへの思いを募らせていた。
「そんなことはない・・完全に光が行き渡って金に変われば、気持ちよさを心から実感することができる・・」
コウは落ちつきを取り戻して、光を出している右手に力を込める。アキの体がさらに金に変わっていく。
「ハルくん・・・ハルくん・・・」
「そんな・・僕の力を受けているのも、気持ちよくなっていないなんて・・・!?」
ハルを求めているアキに、コウは驚きを感じていた。アキが金になるときの心地よさよりもハルへの思いを感じていたことを、コウは信じられないでいた。
「でもあの彼のことを気に掛けることで、気持ちよさを感じていくことになるかもしれない・・完璧にきれいになるのをこのまま見守ることにしよう・・」
コウはさらにアキに金の光を注いでいく。アキの体のほとんどが金に変わり、首から上を残すだけになった。
「ハルくん・・・ハル・・く・・ん・・・」
声を出すこともできなくなり、アキは完全に金に変わっていった。彼女は物言わぬ金の像と化していた。
「やった・・これで君もきれいになった・・・」
コウがアキを見て喜びの笑みを浮かべる。
「こうすれば、もう君もこの心地よさを堪能できていることだろう・・君も楽しんでいくといい・・これからずっと・・・」
アキの金色の姿を見つめて、コウは喜びを膨らませていた。
そのとき、コウは誰かが近づいてきていることに気付いて、笑みを消した。
「誰か来る・・しかもこっちに向かってきている・・・」
コウはアキたちのいる部屋を出て外に向かう。
「もしかしたら、あのガルヴォルスの彼かもしれない・・そこまであの子のことを気にするなら・・・」
ハルが来ていることを予感して、コウは目つきを鋭くした。
「2度と出てこれないように、僕の手で完璧に排除する・・・」
アキを取り戻させないように、コウはハルを叩き潰すことを決意した。
アキの声に導かれるように、ハルは走り続けていく。彼は地下への入り口の前にたどり着いた。
(アキちゃん・・ここにいるのかな・・・!?)
問いかけるように心の中で呟くと、地下へと進んでいった。
最初は暗闇で満ちていた地下道だが、進むにつれてだんだんと明るくなっていった。そしてハルは整った形状の廊下に入った。
(ここにアキちゃんが・・どこにいるんだ、アキちゃん・・・!?)
「まさかここまで来てしまうとは・・」
さらにアキを探すハルの前に、コウが姿を現した。
「お前・・やっぱりここにアキちゃんがいるんだね・・・!?」
「あの子ならもうきれいになって、気持ちよくなっているよ・・」
問い詰めてくるハルに、コウが淡々と言いかけていく。しかしコウはすぐに笑みを消した。
「ここを知ってしまったからには、無事に帰すわけにいかなくなった・・消えてもらうよ・・」
低く告げるコウの頬に紋様が走る。彼の体が金色の怪物へと変わった。
「アキちゃんを返して・・アキちゃんを、返せ!」
叫ぶハルの頬にも紋様が走る。彼もファングガルヴォルスとなって、コウに鋭い視線を向ける。
「返せ?せっかく気持ちよくなっているのに、それを解いてしまうのはもったいないじゃないか・・」
「返せと言っているんだ・・アキちゃんはイヤな思いをしているんだぞ・・・!」
「だからあの子もいい気持ちになっているんだって・・」
「オレもアキちゃんもイヤな思いをさせておきながら!」
悠然とするコウに言い返して、ハルが全身に力を込める。衝撃波を放つ彼の体から刃が生えていく。
「僕を葬るつもりかい?・・気持ちよくなっているみんなを、また辛い思いをさせようというのかい?」
「勝手を押し付けるな・・自分の価値観が他と同じだと思うな・・・!」
悠然さを崩さないコウに、ハルが怒りを募らせて飛びかかる。右の拳をコウの体にぶつけるハルだが、逆に苦痛を覚える。
「僕の体は簡単には傷つかない。この前やられたのが不思議だったよ・・」
コウが言いかけると、右手を押さえているハルに迫り、首をつかんできた。
「ぐっ・・!」
うめくハルがコウの腕を振り払おうとするが、うまく力を入れることができない。
「今回の僕は本気だよ・・本気で相手を砕こうとしている・・」
コウがハルに対して敵意を見せる。
「僕はこれからもみんなをきれいにして、気持ちよくさせていく・・誰にも邪魔はさせない・・邪魔を増やされる前に、僕がここで消してやるよ・・・!」
コウがさらにハルをつかんでいる手に力を込める。
「アキちゃんを返せ・・アキちゃんは、オレの心の支えになってくれる人なんだ・・・!」
ハルもさらに全身に力を込めて、コウの手を振り払おうとする。
「ムダだよ。君が息絶えるまで、もうこの手を離さないから・・」
「お前の言うことは聞くつもりはない・・オレはお前を倒して、アキちゃんを連れ戻す・・・!」
コウの言葉をはねのけるハルが、首を締め付けてきている両腕をつかみ返す。彼の両手に力が入る。
「力が強くなっている・・また爆発的に力を上げるつもり・・・!?」
驚きを感じていくコウが、力負けしないように力を込める。しかしハルの両手に腕を放されていく。
「僕は・・まだみんなをきれいにして、気持ちよくさせてあげないといけないのに・・・!」
「お前の考えていることなど、知ったことじゃない・・・!」
声を荒げるコウに言い返して、ハルはついに自分の首を締め付けてきていた両手をはねのけた。
「いくら力が強くなっても、僕の体を傷つけられるということには・・!」
反撃に出ようとしたコウの体に刃が突き刺さった。ハルが即座に刃を引き抜いて、コウに突き立てていた。
「バカな・・僕の体を傷つけるだけじゃなく、刺して貫いたなんて・・・!?」
自分の身に起こっている出来事に、コウは目を疑った。力を入れられなくなった彼が仰向けに倒れていく。
「ぼ・・僕を殺す気かい?・・君も本格的に、ガルヴォルスの争いに飛び込もうというのか・・・?」
「そんなこと、関係ない・・・アキちゃんを助け出せるなら・・どんなことでもしてやる・・・!」
笑みを見せてくるコウに、ハルが感情をあらわにする。彼が手にしていた刃を力強く振り下ろした。
コウの硬い金の体は、ハルの刃に再び貫かれた。
「ぐはっ!」
激痛に襲われてコウが絶叫を上げる。彼の口から血があふれて、床に飛び散った。
「僕は・・僕はまだ・・みんなを心地よく・・して・・あげ・・な・・い・・・と・・・」
声を振り絞るコウの体が崩壊を起こす。崩れた彼を見下ろして、ハルが歯がゆさを浮かべていた。
(どうしてみんな・・自分の思い通りにしないと気が済まないんだ・・自分のためだったら、平気でみんなを困らせられるのかよ・・・!?)
現実の不条理を呪うハル。人間の姿に戻った彼は、ゆっくりと廊下を歩いていく。
「アキちゃんを連れ戻さないと・・これからも一緒に過ごすんだから・・・」
自分に言い聞かせてハルは歩いていく。アキへの思いがハルを突き動かしていた。
コウが命を落としたことで、金にされていた女性たちが元に戻った。アキも元に戻った途端、戸惑いを感じていた。
「私・・何を・・・?」
自分に何が起こったのが思い出せず、アキは動揺を感じていた。
そのとき、部屋のドアが開いて、廊下の明かりが差し込んできた。ドアの先には誰の姿もなかった。
「誰もいない・・今のうちに外に出たほうが・・・」
「助けを呼びに行ったほうがいいよ・・・!」
「助かった!助かったんだよ、あたしたち!」
女性たちが解放感を感じながら、助けを求めて部屋を飛び出していった。動揺していたアキは、最後に部屋を出ることになった。
「誰が助けてくれたの?・・・もしかして、ハルくん・・・?」
疑問と不安を感じたまま、アキも部屋を出る。その先の廊下の真ん中に、ハルは立っていた。
「ハルくん・・本当に、ハルくん・・・?」
「アキちゃん・・・無事だったんだね・・アキちゃん・・・」
戸惑いを見せるアキに、ハルが喜びを感じていく。
「ハルくん・・・ハルくんが、あの人を何とかしてくれたの・・・?」
アキが投げかけたこの問いかけに、ハルは答えられなかった。自分が怪物であることを知られたくなかったため、彼は言葉が出なくなった。
「よく分からないけど・・ハルくんが来てくれた・・・」
「アキちゃん・・・帰ろう・・こんなところにいるのはよくないよ・・・」
安心を見せるアキに、ハルが不安を込めて言いかける。アキは微笑んだまま小さく頷いた。
「ありがとう、ハルくん・・ここまで来てくれて・・・」
「できなかったんだよ・・アキちゃんを放っておくことも、見捨てることも・・・」
感謝を見せるアキに、ハルが自分の気持ちを口にしていく。2人もコウのいた地下から出た。
病院を飛び出したハルを探し回っていたナツ。しかしハルを見つけることができず、ナツは途方に暮れていた。
「ハル・・あんな体で、どこまで・・・!?」
徐々に不安を募らせていくナツ。病院に戻っているかもしれないと思い、彼は1度戻ろうとした。
ナツの目にハルとアキの姿が入ってきた。2人はナツのいるほうにゆっくりと歩いてきていた。
「ハル!アキちゃん!」
ナツが疲れた体を動かして、ハルとアキに駆け寄った。
「兄さん・・・」
「ハル、どこに行ってたんだよ!?・・心配してたんだから・・・!」
戸惑いを見せるハルに、ナツが声を上げてきた。
「ゴメン、兄さん・・どうしても、アキちゃんのことが・・・」
ハルが困った顔を見せて、自分の気持ちを口にする。アキも彼の顔を見て、戸惑いを感じていた。
「とりあえず病院に戻るぞ・・1回先生に診てもらって、帰るかどうかを決めよう・・」
「もう大丈夫だよ・・ダメだって言われても帰るよ・・・」
呼びかけるナツに、ハルが不満げになる。そんな素振りを見せながらも、ハルはナツと一緒に病院に向かった。
「ハルくん・・本当に・・ありがとう・・・」
ハルの後ろ姿を見つめて、アキは感謝を示した。
体に問題はないと診断されて、ハルはこの日に家に帰ることができた。それからハルはナツに、この日起こったことを話した。
ナツはハルがアキを助けたことを素直に喜べなかった。怪物として戦い、相手が怪物とはいえ命を奪ったことを、ナツは快く思わなかった。
それでもハルが無事に帰ってきたことには、ナツは安心を感じていた。
そしてその翌日、ハルはナツと一緒に学校に登校した。教室に来たところで、ハルはアキに声をかけられた。
「おはよう、ハルくん・・昨日は、本当にありがとう・・・」
「アキちゃん・・・」
感謝の言葉をかけてきたアキに、ハルが笑顔を見せた。これからもアキとの平穏な時間が過ごせるのだと、ハルは思っていた。
「ハルー♪」
そのとき、1人の女子が突然ハルに飛びついてきた。飛びつかれたハルだけでなく、それを目の当たりにしたアキも動揺を覚える。
「また会えてよかったよ、ハル〜♪」
「な、何で・・!?」
笑顔を見せてくる女子に、ハルは動揺と怖さを見せていた。
次回
「ハルが元気そうでよかったよ〜♪」
「そんなふうにされるのがイヤだって分かんないのかよ!?」
「私、これからどう声をかけたら・・・」
「見られてしまったか・・僕としたことが・・・」