ガルヴォルスFang 第4話「すれ違う兄弟」
自分の怪物の姿をナツに見せることになったハル。ナツもハルも困惑を隠せなくなっていた。
「ハル・・どういうことなんだよ・・・!?」
ナツが沈黙を破って、ハルに問いかけてきた。
「今のはバケモン・・本物の怪物・・・!?」
「兄さん・・・」
「何なんだよ・・何でお前まで、あんなバケモンに!?」
答えられないでいるハルに、ナツが感情をあらわにして詰め寄ってきた。
「ありえないよね・・ハルがバケモンになって、人殺しなんて・・!」
「人殺しなんてしたくないよ!」
心配の声をかけるナツに、ハルも声を荒げる。彼のこの声でナツが我に返る。
「ゴメン・・ハル、お前、自分のこんなことになっているのを悩んでたのか・・・?」
「うん・・・僕にも、何かどうなってるのか分かんないよ・・・」
互いに気持ちを落ち着けようとするナツとハル。
「それで、さっきの姿には、自由になったりできないのか・・・?」
「今は、まだ・・・僕、もう怪物から元には・・・」
ナツの質問に答えて、ハルが不安を打ち明ける。
「何言ってんだよ、ハル!?・・お前は人の心を失っちゃいないだろ・・!」
「人の心って何・・怪物になっても、心を失わないって確実に言えるの・・!?」
呼びかけるナツだが、ハルは疑心暗鬼に駆り立てられていた。
「僕にばかり答えさせないでよ・・僕にだって、何がどうなってるのか分かんないんだよ!」
ハルはナツを突き飛ばして、逃げるように走り出していった。
「ハル・・・」
困惑に囚われて、ナツはハルを追うことができなかった。
ガルヴォルスとなったハルに返り討ちにされて、シャドウガルヴォルスは不愉快を感じていた。姿を現した彼は人の姿へと戻った。
「まさかアイツもガルヴォルス、しかもかなりやるみたいじゃないか・・・!」
男が不気味な笑みを浮かべながら、ハルに敵意を向けていた。
「ここのところ、誰にも気づかれないで獲物を仕留めていくのを楽しみとしていたが、派手に皆殺しにするのもオレらしくあるな・・」
自分が備えている力で殺戮を楽しもうと、男は野心をむき出しにしていた。
「このままには済まさないぞ・・絶対に・・絶対に仕留めてやる・・・!」
ハル打倒に向けて、男は行動を開始するのだった。
ナツと向き合うことができなくなり、ハルは絶望を募らせていた。
(僕は・・このまま怪物になっていくんだろうか・・体だけじゃなくて、心まで・・・)
完全な怪物へと変わってしまうことを、ハルは恐れていた。
(何で・・何で僕がこんな思いをしなくちゃなんないんだ・・僕は落ち着いて過ごしていたいだけなのに・・・)
今の自分に降りかかっている不条理に対して、ハルが不満を膨らませていく。
(失いたくない・・自分も、この気分も・・・)
自分が大事にしているものへの渇望を、ハルは強めていた。
それからハルは家に帰った。そのときにはナツも帰ってきていたが、ハルは顔を合わせようともしなかった。
沈黙を破ることができないまま、ハルもナツも声をかけられないでいた。
学校でもそのようにすれ違っている2人に、マキも心を痛めていた。
「ナツ、いったいどうしちゃったの?・・ハルくんも、いつもよりも元気がないじゃない・・」
「マキ・・オレも何がどうなってるのか分かんなくて、説明できないよ・・」
マキが心配の声をかけるが、ナツはうまく答えられないでいた。
「ちょっと、心の整理をさせてくれないかな・・ホントにゴメン、マキちゃん・・」
ナツはマキに言うと、自分の教室に戻っていった。
「ナツ・・・ハルくん・・・」
ナツとハルに、マキは困惑を感じていた。彼女のいる教室で、アキがハルに声をかけてきた。
「伊沢くん・・どうか、したの・・・?」
しかしハルはアキの声に何も答えない。アキも困惑を感じて、これ以上声をかけられなかった。
「はーい。今日もホームルーム始めるよー。」
担任が教室に入ってきて声をかけてきた。それからもハルは苦悩を抱えたままで、アキも不安を感じずにいられなかった。
シャドウガルヴォルスによる暗殺が繰り返されていることも気づかないまま、街はこの日も人々が行き交っていた。その中でシャドウガルヴォルスは、さらなる殺戮を楽しもうとしていた。
街中の影から黒い刃を出していくシャドウガルヴォルス。その黒い刃に刺されて、人が1人ずつ、黒い影の中に引きずり込まれていった。
「いいぞ、いいぞ。この調子でどんどんやってやる・・」
暗殺を楽しんでいくシャドウガルヴォルス。だが彼の中でハルへの憎悪が膨らんでいた。
「だがオレの最大の狙いは、あのガルヴォルスだ・・・!」
ハルに狙いを変えて、シャドウガルヴォルスは影の中を動いていった。
気持ちの整理がつかないまま、ハルは下校しようとしていた。正門を通った彼に、ナツが追いついてきた。
「ハル、待ってくれ・・このまま、まっすぐに家に帰るんだろ・・・?」
「兄さん・・・うん・・そのつもりでいるよ・・もう、イヤな思いはしたくないから・・・」
ナツに声をかけられて、ハルが小さく頷く。
「もう自分から関わろうとするな・・あんな物騒なヤツらとは・・・」
「兄さんに言われなくても、僕はもう関わりたくないよ・・・」
「それならいいんだ・・それで・・・」
「だから兄さん・・もう気にしなくていいよ・・・」
ナツの呼びかけを聞くも、ハルはそそくさにナツから離れていってしまった。
(ハル・・・ホントにもう関わらないでよ・・・)
ハルに対する不安を拭えないまま、ナツも家に向かおうとした。
「ナツ・・」
そこへマキがやってきて、ナツに声をかけてきた。
「マキちゃん・・・」
「ハルくん、ホントに大丈夫かな?・・授業中も、悩みがいつもより深かったみたいだったよ・・」
戸惑いを浮かべるナツに、マキも思いつめていた。
「一応言っておいたけど・・どうしても不安が消えなくて・・さっきも言ったけど、オレもどういうことなのか分かんなくて・・」
「直接聞いて、ハルくんを怒らせたらよくないし・・どうしたらいいのか、全然分かんないよ・・」
「オレたちが言うのもなんだけど、気難しい年頃だな・・」
「ホント、自分が言うのもなんだね・・・」
互いに作り笑顔を見せて、何とか気持ちを和らげようとするナツとマキ。
「さて、そろそろオレも家に帰らないとな。ハルを1人にさせると、何が起こるか分かんないし・・」
ナツは改めて家に向かって走り出していった。
ナツを置いて先に家に向かったハル。彼は急いで家に帰って、危険から遠ざかろうとしていた。
「もうちょっとで家に着く・・今日は、もう・・」
「このまま帰れると思っているのか・・?」
家を目前にして声をかけられ、ハルが緊張を覚える。彼はとっさに走り出して、家の前を通り過ぎた。
ハルの影から黒い刃が飛び出していた。彼が走り抜けていなかったら、黒い刃の餌食になっていた。
「そんな逃げ腰でも、ガルヴォルスというだけのことはあるな・・」
影から姿を現したシャドウガルヴォルスが、ハルに不気味な笑みを見せる。
「だけどもう逃がさない・・確実に仕留めてやるぞ・・・!」
シャドウガルヴォルスが敵意を見せて、ハルにゆっくりと迫っていく。
「これ以上・・これ以上僕に関わってくるな!」
激高したハルが変貌を遂げる。ファングガルヴォルスとなった彼が右の拳を振りかざして、その衝撃でシャドウガルヴォルスを吹き飛ばす。
「くっ・・!」
踏みとどまったシャドウガルヴォルスに、ハルが鋭い視線を向けてきていた。
「もう許さない・・・これ以上オレを苦しめることは許さない・・・!」
ハルが引き抜いた刃を手にして、シャドウガルヴォルスに近づいていく。シャドウガルヴォルスは即座にそばの影に入り込んで姿を消した。
視線を巡らせるハルだが、シャドウガルヴォルスの居場所をつかむことができない。そんな彼に、シャドウガルヴォルスの黒い刃が容赦なく襲い掛かる。
「ぐっ!」
黒い刃に左肩を切りつけられて、ハルが痛みを覚えて顔を歪める。振り返るハルだが、シャドウガルヴォルスは再び刃を影の中に潜めてしまった。
「このままいたぶってやるぞ・・じっくりたっぷり、オレの怒りを叩きつけてやるぞ・・・!」
シャドウガルヴォルスが影の中で勝ち誇る。ハルが刃を持ったまま、動きながらシャドウガルヴォルスを迎え撃とうとする。
だが黒い刃が飛び出してくるだけで、シャドウガルヴォルスの居場所をつかむことができない。
(どこだ・・どこにいるんだ・・・!?)
徐々に焦りを感じていくハル。その彼に、シャドウガルヴォルスは黒い刃を突き出していく。
(そろそろ終わりにするか・・これでとどめだ!)
シャドウガルヴォルスが影から黒い刃を伸ばす。その刃がハルの左肩に突き刺さった。
「ぐあっ!」
左肩を刺されてハルが絶叫を上げる。刃が刺さっている肩からおびただしい血があふれていた。
「外れたか・・だがこれで傷が大きくなったはず・・回復しないうちに、今度こそとどめを・・!」
シャドウガルヴォルスが影の中から勝ち誇ったときだった。
「捕まえた・・これで居場所が分かった・・・!」
ハルが黒い刃をつかんで引き出していく。影に隠れていたシャドウガルヴォルスが外に引きずり出された。
「こうでもしないと居場所をつかめなかったからな・・危ないマネだったけど、こうでもしなかったら見つけられなかったから・・」
「お前・・そのためにわざとやられて・・・!?」
「何もしないでその影の中にいつまでも隠れてたら、オレも何もしなかった・・・!」
驚愕を覚えるシャドウガルヴォルスに、ハルが刃を突き出した。体を刃で貫かれて、シャドウガルヴォルスが激痛を覚える。
「こんなことで・・こんなことでオレが・・・!」
「悔しさとか後悔とか、そういうのを感じるぐらいなら、最初から何もしなければよかったんだ・・オレもお前も、イヤになることはなかった・・・」
うめくシャドウガルヴォルスから、ハルが刃を引き抜いた。苦痛を感じながら、シャドウガルヴォルスが影の中に入り込もうとする。
だがハルが振りかざした刃に切りつけられて、シャドウガルヴォルスが影の中に入り込めないまま昏倒した。
体からさらに血をあふれさせて、シャドウガルヴォルスは事切れた。彼の体が溶けるように消えていく。
「終わった・・これで今度こそ、イヤなものから遠ざかることができる・・・」
人間の姿に戻ったハルが、自分が危険から解放されたと思っていた。
「もう帰ろう・・兄さんが心配して・・兄さん・・・」
自分に言い聞かせようとして、ハルはナツのことを気にする。
「そうだ・・兄さん、怪物になって戦っている僕を、受け入れてくれているんだろうか・・ううん、受け入れられないよ・・受け入れられないのが普通だよ・・」
ナツに対する不安を募らせていくハル。苦悩していく彼が自分の体を震わせる。
「どうしたらいいんだ、僕は・・兄さんと一緒にいたほうがいいのか、いないほうがいいのか・・・」
割り切ることができず、ハルが落ち込む一方となる。
「ありえない・・兄さんが僕を追い詰めるなんて、絶対にありえない・・・!」
思い込むことで苦悩を和らげようとしながら、ハルは家に戻っていった。
ハルが家に帰ってきたときには、ナツが先に家に帰ってきていた。
「兄さん・・・」
「ハル・・・」
ハルとナツが互いに戸惑いを見せる。
「もう僕は、普通の人間には戻れない・・だけど、僕は今のままで過ごすよ・・」
ハルがナツに向けて自分の考えを告げる。それはハル自身が思い込むための動作でもあった。
「もう怪物なんかに関わらない・・イヤなものはとことん拒絶する・・僕はこれからも、平穏無事に過ごしていくんだ・・・」
「ハル・・・いつものハルに戻ったな・・というより、今まで以上にハルらしくなったっていうところか・・」
自分の部屋に行くハルを見て、ナツが安心を覚えた。
部屋に行ったハルは、心身ともに疲れていたため、すぐにベッドに横たわった。
(そうだ・・僕はこのまま今までのような日常を過ごす・・イヤな思いのしない、落ち着ける時間を過ごすんだ・・・)
部屋でも自分に言い聞かせていくハル。
たとえ現実逃避になろうと逃げ口上になろうと、自分が納得できるならそれで構わない。彼はそう思い続けてきた。
自分に言い聞かせていくうちに、ハルは眠ってしまっていた。彼が目を覚まして体を起こしたところで、ナツが部屋にやってきた。
「夜ご飯できてるぞ・・食べるか・・?」
「兄さん・・うん・・食べる・・・」
ナツの声にハルが頷く。2人はやや遅めの夜ご飯を口にしたのだった。
夜明け前の街を訪れた1人の青年。美女を次々と金に変えていった青年である。
青年は既にこの街で美女を数人連れ去って、金に変えていた。
「この街はいいね。美女があふれかえるほどいるよ・・」
青年が街を見下ろして、喜びを募らせていく。
「まだまだいるけど、そろそろ朝になるか・・残念だが今回はここまでにしておこうか・・・」
青年が腑に落ちない気分を抱えながら、1度この街から引き上げようとしていた。
そのとき、青年の視界に登校途中の学生たちの姿が入ってきた。
「学生・・女子高生か・・すぐに連れて行けないことが、どれだけ心苦しいことか・・・」
胸に手を当てる青年が、女子高生たちを見回していた。
「せめて目星だけでもつけて、もう1度見つけ次第すぐに連れて行けるようにしないと・・・」
青年は次に狙う女子たちを記憶しようとする。彼は記憶力に自信があった。
同じ頃、アキも高校に登校するため、家を出ていた。クラスメイトたちに振り回されることがなくなったアキは、そのことに安心を感じていた。
しかしアキはハルへの心配も感じていた。いつも元気や落ち着いた様子を見せていない彼に、アキは不安にならずにいられなかった。
(大丈夫かな、伊沢くん・・どうしてあげるのが、伊沢くんにはいいのかな・・・?)
ハルを何とかして励ましてあげたい。アキの心に、彼に対する勇気が湧きあがってきていた。
「あっ、そろそろ学校に行かないと・・・」
アキは時間に気付いて慌て始める。彼女は戸締りをして、家を出た。
(勇気を出さないと・・ハルくんだって自分の考えを見せていたんだし・・)
自分に言い聞かせていくアキが、学校に急いだ。
街から離れようとしていた青年が、学校に向かっていたアキの姿を目撃した。
「あの子・・絶対に手に入れたい・・・」
アキに対する欲情を募らせていく青年。
「近いうちにまた見つけたいものだ・・楽しみだよ・・・」
青年は期待を膨らませながら街を去った。彼はアキに狙いを定めていた。
次回
「一緒に、寄り道でもどうかな・・・?」
「僕の安らぎが・・こういう形で実現するとは・・・!」
「一緒に来てほしいんだ・・」
「オレの心を壊すようなマネをするな・・・!」