ガルヴォルスextend 第25話「守り抜きたい確かなもの」
ガクトの危機に飛び込んできた悟。奇襲を仕掛け、キングガルヴォルスの体を剣で切り裂いた。
ひとまず間合いを取りつつ、ガクトに駆け寄る悟。キングガルヴォルスの攻撃で、ガクトはふらついていた。
「こんなところでふらついていている場合じゃないと思うんだけど?」
「いきなり割り込んできて、勝手なこと言ってんじゃねぇよ。」
からかい半分に言いかけてくる悟に、ガクトが憎まれ口を返す。
「そんな態度ができるなら、まだまだ戦えそうだ。」
ガクトに笑みを見せてから、悟はキングガルヴォルスに振り向く。ガクトも立ち上がってそちらを見据える。
深々と体を切り裂かれたにも関わらず、王は平然としていた。まるで痛みをかんじていないかのように。
しかしガクトと悟が驚いたのはこれからだった。斬られたはずの傷が、見る見るうちに消えていったのだ。
「バカな・・あれだけの傷が・・・!?」
「こんなに簡単に再生しちまう・・・これが王だって言うのかよ・・・!」
悟が驚愕を見せ、ガクトが毒づく。キングガルヴォルスの再生能力は、他のガルヴォルスの非ではなかった。
左手を軽く動かしつつ、キングガルヴォルスが2人に視線を向ける。そして、これまで重く閉ざしていた口を開いた。
「ガルヴォルスの力を持ちながら、人間としての生を志す者たちよ。」
「えっ・・・!?」
「しゃべった・・・!?」
重く低い王の言葉に、悟とガクトが息をのむ。
「生を成す者には、種族に相応する形が存在する。お前たちはガルヴォルスでありながら、その形から外れようとしている。お前たちのあり方は既に決まっている。我にその光を捧げるのだ。」
「口聞いてくれたと思ったら、勝手なことをベラベラと・・・!」
王の言葉に対し、ガクトが苛立ちをあらわにする。
「言っとくがな!オレはガルヴォルスを倒すために、あえてこの力を使ってるんだ!オレの生き方はオレが決める!お前なんかに勝手に決め付けられてたまるか!」
「ガルヴォルスは、元々は人間だった存在だ!怪物の体でありながら、人間の心を持った存在なんだ!」
ガクトに続いて、悟も王に向かって言い放つ。
「ガルヴォルスは怪物と人間の間の存在。お前の力を受け入れたら、もうガルヴォルスではいられない。ただの怪物でしかないんだ!」
言い放つ悟、そしてガクトが各々の剣を握り締める。
「人の心は決して失ってはならない。その心を守るために・・」
「オレには守りたい、たったひとつの確かなものがある。そいつを守り抜くために・・」
「ガルヴォルスの王、お前を倒す!」
悟とガクトの声が重なる。2人の意思が王に向かって解き放たれる。
しかしキングガルヴォルスは態度を変えない。
「それが、お前たちが選びし道か・・ならば理解するがいい。お前たちのその道が、己の破滅を意味するものということを・・」
淡々と言い終えた後、キングガルヴォルスが意識を集中する。その衝動にガクトと悟が身構える。
キングガルヴォルスが下ろしていた右手を振り上げる。臨戦態勢を取っていた2人に向けて、漆黒の刃が地面を切り裂きながら迫ってくる。
2人はその一撃をそれぞれ横に飛びのいて回避する。体勢を整えたところで向けた視線の先で、切り裂かれた地面、王の一撃の威力に愕然となる。
「何て威力だ・・・!」
ガクトが息をのむ傍らで、悟が王に向かって飛びかかる。渾身の力を込めて、剣を振り下ろす。
それをキングガルヴォルスは右手で軽々と受け止めてみせる。あまりに簡単に受け止められたことに、悟は眼を疑った。
「我に同じ手は2度効かん。最も、その程度の力、防ぐまでもないが。」
キングガルヴォルスは刀身から手を放した瞬間に、左手から衝撃波を放つ。激しい圧力に悟は吹き飛ばされる。
「ぐっ!・・・オレたちの攻撃が通用しない・・・!」
体を起こす悟が、王を見据えてうめく。キングガルヴォルスの力は、他のガルヴォルスを凌駕していた。
人間の姿に戻り、死神の鎌を地面に置いたかりん。瀕死の状態に陥った華帆の体を優しく抱きとめる。
「華帆、ゴメンね・・でも私は、ガクトやみんなを守りたかったの。もちろん華帆の心もね。」
かりんが力尽きようとしている華帆に向けて、必死に笑顔を作ろうとする。
「できるなら、もう1度楽しい時間を過ごしたかった。華帆には、人間に戻ってほしかった・・・ホント・・ゴメンね・・・」
華帆の体を抱きしめて、悲痛に顔を歪めるかりん。
「・・か・・・かりん・・・」
「えっ・・・?」
華帆の唐突の呟きに、かりんは眼を見開く。
「・・ありが・・とう・・・」
感謝の言葉をかけた直後、華帆の体が崩壊を起こす。かりんの腕から亡がらの砂がこぼれ落ちる。
かりんが呆然と自分の手のひらを見つめる。砂のついた手のひらをじっと見つめていた。
押し寄せてくる悲しみを噛み締めるように、その手を強く握り締めるかりん。ゆっくりと立ち上がってきびすを返し、そこで後ろに振り向く。
「華帆、私、行くから・・・」
華帆の亡がらを見つめて、かりんは眼から流れてくる涙を拭いながら歩き出した。ガクトが戦っている王のところへ。
キングガルヴォルスの強烈な念動力に吹き飛ばされるガクトと悟。彼らは王の脅威の前に手も足も出なかった。
「くそっ!・・攻撃しても全然効かねぇ・・すぐに再生して元に戻っちまう・・!」
ガクトが毒づいて愚痴を吐き捨てる。悟が立ち上がりながら、王の力を分析しようと試みる。
(考えろ・・どんな相手にだって、弱点が1ヶ所ぐらいあるはずだ。あれだけの再生力、それを可能としている何かが必ずあるはずだ。)
王の弱点を必死に探ろうとする悟。しかし現時点で弱点を見出すことは困難を極めていた。
「ちくしょうが・・ちょっとやっただけじゃ元通りになるなら、それができないくらいに木っ端微塵にしてやるさ!」
いきり立ったガクトが、速さを重視した形態へと変化する。悟も彼に触発されるかのように、速さ重視の姿に変身する。
先に仕掛けたのは悟だった。だが攻撃はせず、王の気を引こうとし、ガクトに攻撃を仕掛けさせようと考えたのだった。
王の視線がわずかに悟に向けてそれた。そこへガクトが剣を突き立てて飛び込んできた。
えん曲の刀身が王の体を貫く。しかし王は全く動じる様子を見せない。ガクトは間髪置かずに追撃を繰り出す。
素早く威力のある斬撃で、王の体がバラバラになっていく。五体が地面に落ちるが、鮮血は全く吹き出ない。
全力を出し切って息を荒げているガクト。王の奇妙さに悟は眉をひそめていた。
(どういうことだ・・これだけバラバラになっても、血が全く出ていない。)
深まっていく謎にさらなる疑念を抱く悟。そのとき、彼の眼に、五体の中で紅く輝いている何かが映った。
「これは・・・」
彼が呟いたそのとき、バラバラになっていた五体が収束し、再び元の形に復元していく。
「バカな・・・これだけやっても・・・!?」
王の脅威の再生力に眼を疑うガクト。
(まさか、さっきの紅いものは・・!)
悟が紅いものの正体に気付いた瞬間、キングガルヴォルスが右手に収束させていた光を刃にして解き放った。鋭い光刃が悟の右肩を一瞬にして射抜いた。
「なっ・・・!?」
あまりにも一瞬なことだったため、悟は苦痛を感じるのに刹那の時間を要した。光の刃が肩から引き抜かれた直後、
「ごはっ!」
激痛を覚えた悟が、鮮血の飛び散る肩を押さえる。あまりの痛みのため、人間の姿に戻ってしまう。
「悟!」
ガクトが倒れる悟を目の当たりにして思わず叫ぶ。光を宿したままの右手を見つめながら、キングガルヴォルスがひとつ息をつく。
「その程度の攻撃、小細工を交えたところで我には通じん。志と力が浅はかであることを、死という敗北とともに理解するがいい。」
その光を無数の弾に変えて、ガクトに向けて解き放つ。とっさに剣を振りかざすガクト。いくつかは剣で弾き返したものの、完全に防ぎきることができず突き飛ばされる。
痛烈な攻撃に怯み、ひざをつくガクト。それでも戦う意思だけは失くすまいと必死になっていた。
「これがお前の終焉だ。その命、散らすがいい。」
キングガルヴォルスが光の弾を再びガクトに放つ。ガクトが傷ついた体に鞭を入れて剣を構える。
そのとき、2人のガルヴォルスの間を一条の光の刃が割り込んでくる。刃は王の光の弾の全てを切り裂いた。
ガクトとキングガルヴォルスが、刃の飛んできたほうに振り向く。そこには、死神の鎌を構えているかりんの姿があった。
「かりん・・・」
ガクトが眼を見開いてかりんを見つめる。すると彼女が真剣な眼差しを彼に返してきた。
「待たせたね、ガクト。」
かりんが呆然としているガクトに駆け寄ってきた。
「かりん、華帆は・・・」
ガクトが息をのみながら問いかけると、かりんは何も言わずに首を横に振る。
「その話は後。とにかく今は、一緒に戦おう、ガクト!」
キングガルヴォルスを見据えるかりんの言葉を受けて、ガクトも力を振り絞って立ち上がる。キングガルヴォルスの傍らには、重傷を負っている悟の姿があった。
「このままじゃ、アイツが・・!」
ガクトがいきり立って駆け出そうとすると、キングガルヴォルスが動けないでいる悟の腕をつかむ。
(やられる!)
ガクトとかりんが間に合わないと覚悟を覚える。しかしキングガルヴォルスは悟にとどめを刺そうとせず、向かってきたガクトに放り投げた。
「おわっ!」
予想だにしていなかったことに虚を突かれ、ガクトは投げ込まれた悟を受け止めて、そのまま後ろに倒される羽目になった。
「くっ・・どういうつもりなんだ・・!?」
ガクトが王のこの行為に疑念を抱く。すると王が彼らに語りかける。
「我は無抵抗の同族を倒す意思はない。ガルヴォルスから人間の意思を奪う。それだけだ。」
淡々と告げるキングガルヴォルス。しかし王の意思が人間を抹消することに変わりはない。
その意思を叩き潰すため、ガクトとかりんは王への敵意を消さないでいた。
「冗談じゃねぇぜ。お前なんかに“人間”を滅ぼされてたまるか!」
「そうよ!人間の心が消えるのはもう見たくない・・だから私も王を倒す!」
ガクトとかりんが王の前に完全と立ちはだかる。人間の心を守り抜くために。
「よかろう。お前たちの人の心、我が力の糧としてくれよう。」
キングガルヴォルスが広げた両手に力を込める。ガクトとかりんが同時に飛び出す。
その2人に向けて、キングガルヴォルスが念動力を放つ。強い束縛に囚われ、身動きを封じられる2人。
「ぐっ!」
「体が・・動かない・・・!」
必死に束縛を振り切ろうとするガクトとかりんだが、王の力の前に手も足も出ない。
「お前たちが何をしようと、我に及ばないことは分かっているはずであろう。」
「くそっ!・・こんなところでくたばってたまるか!」
ガクトは強引に念動力を引き剥がす。その衝動が周囲に空気の爆発として地面を揺るがす。
そこへキングガルヴォルスが間髪置かずに衝撃波を放つ。体を広げた体勢のときに衝撃を受けたため、ガクトが痛烈さに吐血する。
「ガクト!・・こんなもの・・・!」
かりんが力を振り絞って鎌を振るい、念動力の概念を断裂する。効果そのものを斬りつけたことによって、彼女は束縛から解放される。
「ガクト、大丈夫!?」
「オレに構うな・・それより・・・!」
駆け寄ってきたかりんにガクトがうめく。すぐに王に視線を戻すと、
「なっ!おわっ!」
再びキングガルヴォルスの念動力が2人に襲いかかってきた。束縛に顔を歪めるが、ガクトは不敵な笑みを浮かべてきた。
「王って言う割には芸がねぇな。バカのひとつ覚えみたいに。」
先ほどと同じように、ガクトは強引に念動力を破ろうとする。するとキングガルヴォルスが、念動力を放つ両手を動かす。
「うわっ!」
「キャッ!」
念動力によって、ガクトとかりんが衝突させられる。強引に動こうとしていた集中が、この激突でかき乱されてしまった。
「我が力に掌握されているお前たちに、もはや力押しなど意味はない。」
変わらぬ口調で言いつけるキングガルヴォルス。両手を下げ、ガクトとかりんと地面に叩きつける。
体に悲鳴を上げるのを感じている2人に、キングガルヴォルスが近づいてくる。苦痛の表情を見せる2人の前で足を止める。
「我にここまで向かってきたことは賞賛しよう。我が洗礼を受け、ガルヴォルスとしての生を全うするがいい。」
キングガルヴォルスがガクトとかりんの首をつかみ、持ち上げる。息苦しさを覚えて2人がうめく。
王の両手から光が放たれ、ガクトとかりんに注がれる。光は2人の体だけでなく、影に映し出された2人の人間としての姿にまで及び始めていた。
「な、何、この光・・ホントに・・ホントに息が詰まるような・・・」
「まさか、この光は・・・!?」
かりんが不安を感じ、ガクトが驚愕を口にする。王が放っている光は、ガルヴォルスから人間の部分を奪い取るものである。
心や魂を直接握り締められるような感覚に襲われ、苦悶の表情を浮かべる2人。抱擁による快感とは全く違う、死を突きつけられるような不快感だった。
「ガクト、もしかしてこの光・・・!?」
「あぁ、コイツは人間を完全なバケモンにしちまう光だ・・このままじゃ、オレたちも華帆みたいに・・・!」
王の洗礼から必死に逃れようとするガクト。しかし光のもたらす突き刺すような激痛に襲われて、心身ともに疲れ果てていく。
ガルヴォルスの影に映し出された人間の姿に亀裂が侵食していく。人間の崩壊の表れだった。
石化のように体を別の物質と化して束縛される感覚ではない。石化し、さらにそのまま壊れて崩れてしまうような感覚だった。
(ダメだ・・このままガルヴォルスになっちまうなんて・・・そんなのは・・・!)
(私も、華帆みたいにホントの死神になっちゃうのかな・・・2度と人間に戻れなくなっちゃうのかな・・・)
王の力を受け入れまいと思いながらも、その脅威に押しつぶされようとしていたガクトとかりん。次第に力が入らなくなり、眼が虚ろになる。
“お兄ちゃん!お姉ちゃん!”
そのとき、ガクトとかりんの耳に声が響いてきた。聞き覚えのある声に、2人は消えかかっていた意識を覚醒させる。
「この声、まさか・・・!?」
「・・利樹・・!?」
なぜ利樹の声が聞こえてきたのか分からず、ガクトもかりんも当惑する。しかしすぐに、それが空耳でも幻でもないことに気付いた。
王の影に、一糸まとわぬ姿の利樹が現れる。
「と、利樹・・・!?」
「ホントに、利樹なの・・・!?」
2人が再び問いかける。すると利樹がいつも見せているような無邪気な笑顔を見せてきた。
「ゴメン、お兄ちゃん、お姉ちゃん。何か、いろいろ心配かけちゃって・・・」
「利樹・・ホントに、ホントにアンタなんだね・・・」
無事と思われた利樹に、かりんが小さく微笑む。ところが、利樹は見せていた笑みを突然消した。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、いきなりなんだけどお願いがあるんだ・・」
「お願い・・・?」
利樹の深刻な表情を浮かべての言葉に、ガクトが眉をひそめる。
「王を・・オレを倒してほしいんだ!」
「えっ!?」
ガクトだけでなく、かりんも驚愕をあらわにした。利樹は2人に、王もろとも自分を倒してほしいと言い出したのだった。
次回
「ダメだよ・・利樹を殺すなんてできないよ!」
「みんなが人間として生きられるなら、オレは死ぬことなんて怖くないよ。」
「ガクト、王を倒すんだ!」
「みんな・・・」
「生きよう、ガクト・・私は、ガクトとなら・・」
「オレたちは人間として、これからを生きてやるんだ・・・!」