ガルヴォルスextend 第22話「無限の正義」
キングガルヴォルスの脅威を受けて、痛烈なダメージを負った悟。夏子が王の行方を常に把握しようとしている中、彼はサクラの介抱を受けながら体力の回復を待っていた。
「先輩、王はどうなってますか?」
「まだ目立った行動を起こしてはいないみたいよ。どちらにしても、今の私たちに王を止める方法はない。」
満身創痍の体を引きずる悟の問いに、夏子は若干焦りを覚えながら答える。
「悟くん、サクラさん、あれはもう利樹くんじゃないわ。ガルヴォルスの王。あの子の心は王に食われてしまったのよ・・・だから、もう迷ってはいけないわ。」
「ちょっと待ってください、夏子さん!利樹くんはまだ・・!」
「サクラ。」
夏子に対して切羽詰るサクラを、悟は制して首を横に振る。
「辛いのはオレも先輩も同じなんだ。利樹くんを助けられたなら、オレもそうしたいよ・・・」
うめくように言いかける悟に、サクラは困惑の表情を見せる。彼女の移した視線の先で、夏子も思いつめた表情を見せていた。
「とにかく、人々にまで危害を及ぼすわけにはいかない。王を止めなくちゃ、何が何でも・・」
悟の言葉に彼女たち2人も頷く。王の危害が人々に及んでしまうことに、彼らは不安を感じていた。
キングガルヴォルスの洗礼を受け、人間の姿を失った声号は、とある研究施設を訪れていた。突然の怪物の登場であるにもかかわらず、研究員の言動は普段と変わらなかった。彼らは声号がスコーピオンガルヴォルスであることを知っているのである。
部下たちの一礼を受けながら、声号は施設の奥へと進んでいった。その機密施設の扉を開き、中に入る。
その中には数個のカプセルが並べられていて、それぞれ裸の少女たちが入れられて眠りについていた。
「彼女たちの調子はいかがですか?」
「全員、全ての点において正常。いつでも出撃できます。」
声号の問いかけに、研究員の1人が答える。
「では全員を王の護衛につかせるよう言いつけてください。」
「了解しました。」
そういって声号は一礼する研究員たちに見送られながら、施設を後にした。悟や他の人間たちをこの手で始末しようと考えていた。
(王の手を煩わせることもない。私の手で彼らの中途半端な考えをねじ伏せてやろう。)
胸中で思い返しながら、声号は悟を追い求めて歩き出した。人間を捨て、ガルヴォルスの狂気の赴くままに。
新たな決意と想いを胸に秘めたガクトとかりんは、ひとまず「セブンティーン」に戻ってきていた。自分たちが裸であることを隠すため、ガルヴォルスとなって店まで戻ってきたところだった。
街の人の眼をかいくぐって、素早くここまで移動してきた2人。店の中に入ったところで人間の姿に戻る。
「ふう。何とかここまで来れたな。素っ裸を見られるわけにはいかないからな。」
「そうね。早く部屋に行って服着ちゃわないと。」
頷いてそれぞれの部屋に向かおうとするガクトとかりん。
そのとき、店内の明かりが突然つけられ、2人が身構えて振り返る。そこにはきょとんとしている美代子がいた。
「まぁ、ガクトさん、かりんちゃん・・」
「マ、マスター・・・う、うわっ!」
自分たちの裸を見られて、ガクトとかりんが恥ずかしがる。しかし美代子はいつもと変わらない満面の笑みを彼らに見せていた。
「2人とも無事で何よりだわ。今、あったかいコーヒーを用意するわね。あ、でもガクトさんはあんまり熱くしないほうがいいわね。」
まるで2人が裸であることなど気にしていないように、美代子は笑みを崩さずに、ガクトの猫舌を考慮しながら、厨房へと入っていった。
「マスター、けっこう心が広いんだなぁ・・」
「単に深く気にしないだけなんだよ、美代子さんは。それよりここまで戻ってきたんだから、早く服着ちゃおうよ。」
「あぁ。そうだな・・」
美代子の心の広さに感心しながら、ガクトとかりんは各々の私室に向かった。
ガクトとかりんが新しい衣服を着ていた頃、美代子はテーブル席のひとつの上でコーヒーを用意していた。ガクトのものはあまり熱くならないように温度を調整していた。
そのコーヒーを口にして、かりんは落ち着きを取り戻していた。ガクトはまだ熱く感じているのか、さらに息を吹きかけて冷ましていた。
こうして一息しながら、彼らは美代子に事のいきさつを話した。かりんが死神の姿をしたガルヴォルスで、ガクトの家族を殺した仇だったこと。利樹にガルヴォルスの王が宿り、力を奪われて石化されたこと。華帆もガルヴォルスで、彼女に石の体を弄ばれ、さらにすれ違いを感じたこと。
そして、ガクトとかりんが和解したことを。
「そう。それで2人とも裸だったわけね。」
「あ・・・」
何のためらいもなく頷いてみせる美代子に、ガクトもかりんも顔を赤らめて黙り込んでしまう。
「何はともあれ、2人が仲良くなって戻ってきてくれて、私は嬉しいわ。」
「それはどうも・・・でも、ホントに大変なのはこれからかもしれない・・」
笑みを消すかりんに、ガクトも美代子も息をのむ。事態はさらなる悪化の道を辿っていた。
もうガルヴォルスの王は利樹の体を破ってこの世界に覚醒している。華帆は人間を捨てて王の洗礼を受けようとしている。
「それで、ガクトさんとかりんちゃんはこれからどうするの?」
美代子がガクトとかりんに向けて問いかける。2人の気持ちは既に決まっていた。
「華帆を、利樹を助ける。そして、かりんを守る。」
「私も華帆を止める。あの子を本物の怪物になんてさせたくない。」
それぞれ決意を告げる2人。すると美代子は笑みを崩さずに問いつめる。
「でも、もし取り返しがつかなくなってしまったら・・・?」
「・・・そのときは、覚悟を決めます。」
その問いかけにかりんは頷き、ガクトに寄り添った。
「私の大切なものが何か、やっと気付いたから・・その大切なものを守りたいって、心に決めたから・・・」
大切なものはどんなことが起きても守り通したい。それはかりんの願いであり、ガクトの願いでもあった。
最悪、利樹も華帆も救えず、彼らと対立することになる。彼らを倒すことになるという苦渋の決断を強いられることになるだろう。
しかしその中で、何が何でも守りぬきたい確かなものがあることも事実だった。
「ガクトさん、かりんちゃん、あなたたちの好きなようにしなさい。私はみんなの帰りを待ってますよ。」
美代子が2人に対して満面の笑みを見せた。いつも見せている笑顔を。
「ありがとう、美代子さん。あったかいコーヒーとピザを用意して待っててね。でも、熱いとガクトが困っちゃうか。」
照れ笑いを見せるかりんに、ガクトが苦笑いを浮かべる。2人のそんな姿を見て、美代子も微笑んで頷いた。
(私も戦う。華帆を止めなくちゃ!でないと、華帆はみんなを裏切ってしまうから・・・!)
3人でのつかの間の団らんの中、かりんは華帆を助けようと、改めて決意を胸に秘めた。
「さて、そろそろ行くとするか。」
ガクトは店の外に向かう。かりんもその後に続く。
彼は自分のバイクに乗ってメットを被る。そして予備のメットを彼女に放る。
「後ろに乗れよ。一気に突っ走るぞ。」
「いいの?またスピード違反で捕まっちゃうわよ?」
「そんな細かい面倒ごとは、後でいくらでも引き受けてやるよ。オレは人間として戦いたいんだよ。」
からかうつもりでかけたかりんの言葉に、ガクトは真面目に答える。たとえ体は怪物でも、あくまで人であり続けたい。そんな思いが込められていた。
かりんは微笑んで頷き、メットを被ってガクトの後ろにつく。
「振り落とされねぇように、しっかり捕まってろよ。」
「うん、分かってるよ。」
彼女が乗ったことを確かめると、ガクトはバイクのエンジンを入れ、全ての思いの決着に向けて発進した。
「キャアッ!」
研究所の女性社員が悲鳴を上げる。施設内は炎上や爆発を起こし、地獄のような事態に陥っていた。
他の女性社員たちは、その炎と煙の中で固まって動かなくなっていた。周囲にふらついているガルヴォルスに危害を加えられたのだ。
その中の1体が、右手から白いガスを噴射してくる。吹き付けられた女性の悲鳴が途切れ、ガスの中から凍りついた女性が現れる。
対象を固めることに喜びを覚えているガルヴォルスたち。その中には、不敵な哄笑を浮かべているスコーピオンガルヴォルス、声号の姿があった。
「このガルヴォルスが目覚めれば、君たちは彼らの本能の糧になるだけだ。私も彼らの力量を再確認できた。」
満足げにガルヴォルスたちの前に出る声号。
「では行こうか。王の支配のために。」
彼の指示に、ガルヴォルスたちは無言で従い、彼についていった。
彼らこそが、この施設で生成された人工ガルヴォルスである。
ガルヴォルスの起こす事件に晒されながらも、にぎやかさを絶やさない街並。その中で行き交う人々を見つめている3人の黒ずくめの人物。
立ち上がった彼らの顔に紋様が走る。その姿が、いずれもアリジゴクを思わせる怪物へと変わりだした。
脅威をあらわにしたアントガルヴォルスたちが、悲鳴を上げて逃げ惑う人々に向けて、口から砂を吐き出してきた。その砂煙に巻かれながら、人々はそれを振り払おうと必死になる。
だがその砂煙の中には、張り付いたものを石に変えてしまう特殊粒子が混じっていた。その粒子が付着した場所から、人々が次々と石化に包まれていった。
「やったぜ。みんな悲鳴を上げて、どんどん石になっていくぜ。」
「街でやるのは初めてだったが、やっちまえばどうってことはなかったな。」
哄笑をもらすアントガルヴォルスたち。そこへ近づいてくる1台のバイクに気付いて、彼らが振り返る。
「飛んで火にいる何とやらだ。とりあえずメットを剥がして、怖がってる素顔を見ながら石にしてやろうか。」
不気味な哄笑を上げるアントガルヴォルスの1体が、向かってくるバイクに飛びかかる。バイクはとっさに停車し、運転手とその後ろにいた人物がメットを外す。
逆立った黒髪の青年と、短い茶髪の少女。ガクトとかりんである。
「へぇ、いい女じゃないか。女だけ石にするか、男と仲良く石にしてやるか。」
アントガルヴォルスたちが哄笑を上げる。ガクトとかりんがバイクから降りて、怪物たちを見据える。
「ワリィがオレたちは急いでるんだ。相手をするにしてもだ、早く終わらせてもらうぜ。」
「甘く見ないほうがいいよ。」
ガクトとかりんの顔に紋様が走る。その変化に怪物たちが動揺を見せる。
「お前ら、まさか・・!?」
驚愕の声を上げる怪物たちの前で、ガクトとかりんもガルヴォルスへと変身する。それぞれえん曲の剣と死神の鎌を具現化して身構える。
「お前らもガルヴォルスだったか・・まぁいい。怪物の姿でも、怯えさせることはできる。」
アントガルヴォルスたちがいきり立ち、口から石化の砂を撒き散らす。
「それで眼くらましをするつもりみたいだけど、そんなもの・・」
かりんは鎌を回転させて、その風圧で迫ってくる砂煙をはね返す。石化の効果を受け付けないものの、自分たちが吐き出した砂にまかれて、アントガルヴォルスは視界をさえぎられる。
ガクトとかりんは間髪置かずに、怪物たちに詰め寄り、各々の武器を振り下ろす。アントガルヴォルスが1体ずつ切り裂かれ、砂になって消えていく。
「お、お前ら・・・!」
残った1体がガクトとかりんを見据えたまま、驚愕しながら後ずさりをする。
「みんなを元に戻せ。でないとお前も命はないぞ。」
ガクトが剣の切っ先をアントガルヴォルスに向ける。怪物は敵わないと悟り、毒づく。
「くそっ!」
怪物がきびすを返し、砂を撒き散らしながら逃げ出した。
「待て!」
ガクトが追いかけようとするが、かりんが彼の腕をつかんで止める。
「今は華帆を探すのが先だよ!早くしないと、あの子が王に・・!」
「王はガルヴォルスを求めてるんだろ?アイツを追えば王に行き着くかもしれねぇ。そうすれば、華帆との接触を止められるだろ?」
慌てるかりんにガクトが淡々と言いかける。彼の言葉に納得して、彼女は小さく頷いた。
「そうだね。今は全然手がかりがない状態だからね。だったら、少しでも近づけるほうに。」
ガクトとかりんはひとまず人間に戻り、バイクでアントガルヴォルスを追いかけることにした。あくまで人として戦う道を彼らは選んでいた。
アントガルヴォルスの出現を聞きつけて、悟も街に出てきていた。満身創痍の体を引きずってガルヴォルスの行方を追う彼に、夏子とサクラもついてきていた。
現場付近を巡回していた警察からの連絡を夏子が聞き、悟たちは足を速めた。その連絡とは、彼らのいるところへそのガルヴォルスが移動してきているということだった。
「見えた・・あれか!」
街の空を見上げた悟の眼に、跳躍していくアントガルヴォルスが映る。石化の砂を振りまいている怪物を迎え撃つため、悟はガルヴォルスへと変身する。
彼らに向かって、焦りに囚われているアントガルヴォルスが降りてくる。悟は剣を握り締めて迎撃に出る。
アントガルヴォルスの爪と悟の剣の刀身が衝突し、火花を散らす。アントガルヴォルスが離れ際に砂煙を撒く。
警戒した悟が、とっさに砂の届かないところまで距離を置く。近辺の植木が石化の粒子の効果で灰色に変わる。
(思ったとおり、何らかの効果を持っていたか。無差別に石にしてしまう効果が・・)
悟が胸中で相手の能力を分析する。そしてその弱点とそこを突く手立ても見出す。
アントガルヴォルスが再び砂煙を吐き出す。そこへ悟が、持っていた剣を投げつける。
剣は砂煙の真っ只中を突き抜け、アントガルヴォルスの左肩を貫く。
「ぐおっ!」
突然剣を突き立てられた怪物が激痛にうめき、この場にくず折れる。
剣は急所を外れていた。悟は急所を突く力があったにも関わらず、あえてそこを外したのだった。
人間の心を守りたいという彼なりのやり方だった。
戦う力を失いつつあったアントガルヴォルスに、悟はゆっくりと近づいた。傷ついた怪物を見下ろし、彼は言い放つ。
「できることなら殺したくはない。だが、もしもこのままみんなを元に戻さないというなら、仕方がないが・・・」
悟はアントガルヴォルスの肩に突き刺さっている剣を引き抜く。鮮血が飛び散り、アントガルヴォルスが絶叫を上げる。
動くこともままならなくなっているアントガルヴォルスに対し、悟は剣の切っ先を向けながらも相手の出方を待つ。
「ぐあっ!」
そのとき、アントガルヴォルスがさらなる絶叫を上げる。その体には、数本の氷の刃が突き刺さっていた。
「何っ・・!?」
その光景に驚愕する悟。この奇襲で、アントガルヴォルスが絶命し崩れ去ってしまう。
その先の場所を悟が、夏子とサクラも見据える。そこにはサソリの姿をした怪物と、奇妙な姿の怪物が数体。
「声号さん・・・!?」
悟が声号の登場に息をのむ。声号は不敵な笑みを浮かべて、彼に言い放つ。
「相変わらず、甘い考えを貫いているようだな、悟くん。だが、王が覚醒した今、そんなハンパな考えは許されない。」
「佐宗声号!あなたは自分の施設の人間に危害を及ぼした!いったい、何を考えているの!?」
銃を取り出して銃口を向ける夏子。しかし声号は彼女をあざ笑うかのような振る舞いを見せる。
「人間を襲い、彼らの恐怖や、固まっていく様を見ることがガルヴォルスの喜び。私は単にその本能に従って行動しているだけですよ。」
「ふざけないで・・あなたは人の心を・・・!」
「中途半端なあなたたちに見せてあげましょう。彼らこそが、私たちが人工的に作り出した、エクステンドガルヴォルスだ。」
憤る夏子、そして悟とサクラに対し、声号が後ろのガルヴォルスたちを紹介する。声号の目線に合わせて、ガルヴォルスたちが悟に向けて飛びかかる。
身構える悟に、ガルヴォルスたちが襲いかかる。その猛攻を振り払おうとする悟だが、数体の怪物の前に、劣勢を強いられるのだった。
次回
「しばらく会わないうちに、ずい分と弱くなったじゃないのか?」
「見つけたよ、王・・」
「そろそろ決着をつけるとしようか。」
「オレはこの考えを変えない。どんなことが起きても!」
「一気に決めるぞ!」