ガルヴォルスextend 第21話「交錯する運命」
ガルヴォルスの力を蓄えたキングガルヴォルスが、利樹の小さな体を突き破り、その姿を現した。その姿に悟、夏子、サクラが驚愕し、声号が眼を見開いて哄笑をもらす。
「ついに、ガルヴォルスの王は目覚めた。これで世界はガルヴォルスによって駆逐される。」
声号が歓喜の声を上げる中、キングガルヴォルスは周囲の彼らに視線を巡らせる。そしてその視線が声号で止まる。
「さぁ、王よ、私の人間の心を食らうがいい。私にとって人間の部分など邪魔でしかない。」
声号が王の洗礼を受け入れようとする。キングガルヴォルスは何の反応を示さないまま、ゆっくりと声号のところへ近づいていく。
「やめろ!」
そこへ悟がたまりかねて、声号とキングガルヴォルスの間に割って入ろうとする。しかしそれに気付いていたキングガルヴォルスは、右手を伸ばして衝撃波を放つ。
「ぐあっ!」
その痛烈な衝撃に吹き飛ばされる悟。何回も横転した後、人間の姿に戻る。
「悟くん!」
夏子が声を荒げ、サクラが駆け寄ろうとする。しかし悟は必死に体を動かして、彼女を手で制する。
キングガルヴォルスは再び声号に視線を戻して歩みを再開する。そして彼の眼前で立ち止まり、彼の両肩をつかんで力を込める。
「声号さん!」
叫ぶ夏子に振り向き、スコーピオンガルヴォルスの影に映し出された声号が不敵に笑う。
「よく見ておくといい。これが人間を食らうということだ。」
彼がそう言いつけた直後、キングガルヴォルスが両手に力を込める。そこから発せられた光が、スコーピオンガルヴォルスの体に、そしてその影の声号の姿へと伝達する。
すると声号がその光の力を受けて叫び声を上げる。何かが壊れるような衝動に苦痛を感じていたのだ。しかし喜ばしいことに伴う痛みと確信していたので、不快とは思っていなかった。
影の体に無機質な音とともに亀裂が入り広がっていく。苦悶の表情を見せると、声号は不敵な笑みを崩さない。
「これが王の力・・私から余分なものを吸い出し、鼓舞させてくれる・・・これで私は、人を切り捨てた完全なガルヴォルスとなる・・・」
感嘆の声をもらす声号の人としての姿が、無機質な物体の崩壊のように崩れて弾ける。光が治まったスコーピオンガルヴォルスが、人としての心を完全に捨て去ることに成功した。
「これで私は人間ではない・・・何のためらいもなく、敵であるものをこの手にかけられる・・・」
哄笑を上げる声号が、驚愕を浮かべたままの悟たちに振り返る。
「本当に・・人間の部分だけを取り出して、怪物としての肉体を確立させた・・・!?」
王の放った洗礼を目の当たりにして、悟は息を呑んだ。
「悟、ここは逃げよう!」
傷だらけの彼を、サクラが駆け寄って起き上がらせる。夏子も銃を構えて相手の出方をうかがいながら、ひとまずこの場を離れることにした。
しかし声号もキングガルヴォルスも、彼らの逃走を放置していた。
「逃げてもムダだ。王の力の前では、君たちのいかなる行為も徒労にしかならない。」
そういって声号は、歩き出した王の姿を見送った。王はガルヴォルスの気配を辿りながら、その力の脅威を拡大させようとしていた。
王の洗礼を受け、人間の姿を奪われ破壊されたガルヴォルスは、2度と人間に戻ることはできない。人としての姿や心を失ったため、本能の赴くままに牙を向ける本物の怪物と化してしまったのだ。
ようやく石化から解放されたガクトとかりん。固められたときと同じように、彼は彼女を抱きしめていた。
2人は抱き合ったまま、肩の力を抜いて床に横たわる。そして互いの困惑の面持ちを見つめ合う。
「何とか元に戻れたみたいだね・・」
「そうみたいだな・・」
2人とも気の抜けた口調で語りだす。
「何でなんだろう・・こうして裸でいると、誰かに触れていると、気分がよくなってくる・・・」
「おい、何言ってんだよ。華帆と同じ気分になっちまったって言うんじゃねぇだろうなぁ?」
小さく笑うかりんに、ガクトは恥じらいを覚えながら呆れる。
「私も、ガクトの気持ちが知りたい。私をどこまで憎んでいたのか。そのホントの気持ちも・・・」
そういってかりんはガクトの手をつかむ。そしてその手を自分の胸に当てさせる。
「おい、何を・・!?」
ガクトが後ろめたい気持ちに駆られて声を荒げる。彼の手を当てさせたまま、かりんは胸を揺らす。
「ガクト、今だけは私の体に触ることを許すよ。今だけは、今だけは・・・」
かりんの作り笑顔が次第に揺らいでいく。それがガクトの心にさらなる揺さぶりをかける。
「何言ってんだよ、お前・・オレはそういうのは人一倍恥ずかしいって思ってる!お前と最初に会ったときは、不可抗力で、アクシデントで・・!」
抗議の声を上げるガクトに、かりんは身を乗り出して口付けを交わす。その行為が彼の言葉をさえぎる。
こうして体の触れ合いをすることを望んでいたのは、ガクトではなくかりんのほうだった。自分がガルヴォルスであることを知られ、ガクトの家族を手にかけたことを悔やみ、無二の親友の華帆の気持ちともすれ違ってしまっていた。
揺さぶられた彼女は、何かにすがりたい気持ちでいっぱいだった。
「ガクト、今いろいろなことが起こっていてそれどころじゃないっていうのは私にも分かる。でも今だけは・・私と一緒にいさせて・・・!」
「かりん・・・」
突然の口付け、突然の抱擁にガクトは戸惑いを見せる。しかしすぐに我に返って、彼女の体を押しのける。
「おい、いい加減にしろよ!お前はオレの家族の仇で、オレはお前を憎んでいる!それなのに、こんなハレンチなこと・・・!」
ガクトがかりんの行為を嫌悪するが、心のどこかで彼女を嫌いになれないでいた。困惑のあまりに後ろめたい気分に駆られる。
「始めは・・気付かなかったけど、今ははっきりと分かる。私はいつの間にか、ガクトのことが好きになっていたことに。」
「なっ・・・!?」
かりんの告白にガクトは唖然となって返す言葉が出なくなる。
「ガクトに嫌われても恨まれても構わない。でも、この気持ちにウソをつくことはできない・・・」
自分の中に秘めている想いを告げていくかりんが満面の笑みを見せる。
「ゴメンね・・ずい分のわがままなこと言っちゃって・・・私は一向に構わない。だからガクト、私に触れて・・・」
「やっぱダメだ、かりん。たとえオレがお前のことを好きだったとしても、そんな恥ずかしいマネ、できねぇよ・・・」
「大丈夫。ここには私とアンタの2人だけだから・・・」
ためらうガクトの両手を取って、かりんが微笑む。そして再び自分の胸に押し当てる。
「せめてこのときだけは、最後くらいは、人間でいさせて・・・」
仰向けになりながら、ガクトを引き寄せるかりん。彼女の顔を間近で見て、彼は安らぎを覚えていた。
(コイツ、こんなにかわいかったんだな・・きれいで柔らかい体、けどその中は傷だらけだ・・自分の中の死神を、ずっと心に押し込もうと必死だったんだな・・・)
ガクトはかりんの裸身を見渡していく。彼女はその心身に触れてほしいと彼の手を動かして胸を撫でさせる。
「うく・・感じる・・ガクトの心が、私の中に・・・」
かりんが押し寄せてくる快感を感じながら小さく呟く。その囁きはガクトの耳にも届いていた。
「そうだ・・オレは無意識のうちに、コイツのことを欲していたって言うのか・・・」
強まっていく欲情を抑えきれなくなり、ガクトはたまらずかりんの唇に自分の唇を重ねる。彼女のあえぎが唇を通じて彼に流れ込んでくる。
少女の肌に触れるガクト。その手に触れられるかりん。2人とも心地よい気分に次第に陥っていた。
しばらく胸を撫でられた後、かりんはガクトの腕をつかんでいた手を離し、彼の首に腕を回した。そして彼の頭をそのまま自分の胸の谷間に押し寄せた。
「んふっ!?」
予期していないことにガクトが当惑する。しかし顔を胸に押し当てられているため、声を上げることができない。
それでもかすかな吐息は出てくる。その息を感じて、かりんのあえぎ声が強まる。
「ガクト、もっと・・もっと私を感じて・・・!」
かりんが叫んでさらにあえぐ。ガクトも押し寄せる快楽に次第に身を沈めていく。
(ダメだ・・このままだとオレ・・どうにかなっちまいそうだ・・・!)
声を出せない代わりに、心の中で叫ぶガクト。
「もう、我慢できない・・我慢したくない!」
かりんが眼を見開き、ガクトの顔を胸から離す。その直後、彼女の秘所から愛液があふれ出して床に流れていく。
「あっ・・・」
今まで溜め込んでいた感情が液状になって外にもれたことに、かりんは困惑を見せる。しかし自分の気持ちをもっとガクトに知ってもらいたいと思い、再びガクトに腕を回す。
そして今度はガクトの顔を、愛液のあふれている股下に押し当てる。
「か、かりん・・こんな汚い・・・かりん・・・」
声を荒げるガクトの顔に愛液が付着する。彼の吐息が秘所に辺り、かりんは刺激を感じて呼吸を荒くする。
白く汚れた顔を上げて、ガクトが快感に酔いしれているかりんを見つめる。
「かりん・・お前の気持ち、お前自身で感じろ・・・」
そう告げてガクトは、愛液のついた顔を近づけ、そのままかりんと口付けを交わす。液を吸っている舌を彼女の舌に絡ませ、快楽を共感していく。
(ガクト・・・私の中に入ってきて・・・)
心の中で囁きながら、かりんはガクトの下腹部に手を伸ばす。そして彼の性器を自分の秘所に差し込む。
「くあっ!」
「お、おい、かりん!」
さらにあえぐかりん。ガクトもたまらず声を荒げる。
互いの心身がひとつとなり、2人は声を張り上げる。心身から発する声が、薄暗い部屋の中に響き渡る。
「ガクト!ガクト、私・・・う、うああぁぁぁ・・・!!」
「かりん、たまんない!気持ちがどんどん高まってく・・・!」
ガクトは押し寄せる刺激の中で、かりんの裸身を強く抱きしめた。ガルヴォルスの王に力を奪われて石化されていったときのように、彼は打ちひしがれていた少女をしっかりと受け止めていた。
「かりん・・オレは、オレは・・・!」
しばらく強い刺激にさいなまれると、ガクトとかりんは脱力して横たわる。体の力を振り絞る結果となり、2人は抱き合ったまま眠りについた。
キングガルヴォルスからひとまず逃げ延びることに成功した悟、夏子、サクラ。傷ついた体を彼女たちに支えられながら、事務所に戻ろうとしていた。
「悟くん、大丈夫・・!?」
「は、はい・・少し、驚かされただけです・・」
夏子の心配に笑みを見せる悟だが、ムリして笑っているとしか彼女もサクラも思えなかった。
「とにかく事務所にいったん戻りましょ。情報とか気持ちとか、いろいろ整理したいこともあるし。」
夏子の指示に悟とサクラも頷く。王という強大なガルヴォルスを相手に、彼らは劣勢を強いられていた。
(ガルヴォルスの王・・利樹くんの体を打ち破って復活し、声号さんの人間性をも奪った。早く何とかしないと、人々が犠牲に・・・!)
急を要する事態に毒づきながらも、悟は満身創痍の自分の体の状態に焦りを感じていた。
王の脅威は、人々のすぐ近くにまで迫ってきていた。
しばらくして眼を覚ましたガクトとかりん。互いの体を抱きとめて、互いの顔を見つめていた。
「私、ガルヴォルスの力を怖がってた。ガルヴォルスの力に振り回されて、誰かを傷つけることを怖がってた。たとえみんなが私のことを信じてくれても、今は平気でも、いつ人の心を失くすか分からない。それが怖かった・・・」
かりんが悲痛さを感じてガクトに寄りかかる。
「私の中の死神が、私の知らないうちにみんなを傷つけてしまうかもしれない!私が生きていたら、ガクトやみんなに迷惑がかかる・・・!」
彼女の眼から涙があふれ、ガクトの体にもこぼれ落ちる。
「今しなくちゃいけないことはある。でもその後にガクト、私を殺してほしいの。」
切実に死を願うかりん。自分の忌まわしい命でガクトの心に安らぎを与えられるなら、これほどいい気分はない。
しかしガクトはその願いに頷かず、かりんの体を改めて抱きしめる。
「お前も苦しかったんだよな・・辛かったんだよな・・・?」
「ガ、ガクト・・・!?」
予想していなかったガクトの答えに、かりんは困惑してしまう。
「お前は加害者なんかじゃない。オレと同じ被害者だったんだ。お前の中にいる死神に苦しめられていたんだよな・・・?」
「違う・・・違うよ!・・私はガクトを・・みんなを・・・!」
「オレの家族を殺したのはお前じゃない。お前を苦しめてきた死神だったんだ。」
笑みを見せてきたガクトに、かりんは言葉をかけることができなくなっていた。
「かりん、オレはオレの大切なものが何なのかに気付いた。いつも邪険にしていたから、気付かなかったんだ・・・」
ガクトはかりんを強く抱きしめる。
「それがお前だ・・かりん・・・」
彼の告白に、かりんは胸を強く打たれた感覚を覚える。唖然となりながら、彼の顔を真っ直ぐに見つめる。
「ガルヴォルスが憎いって気持ちは今も持ってる。けどオレは、お前が好きだっていう気持ちを止められない。」
「ガクト・・・」
「お前が心も体も傷だらけだってことを知って、いつしか思ってたんだな。お前を救ってやりたい。守ってやりたいって。」
ガクトが純粋な願いとともに、眼から涙をあふれさせる。
「生きよう・・たとえどんなことが起きても、オレたちは生きるんだ・・・!」
「ガクト・・・私にこれからを生きていく資格なんて・・・」
「資格なんて関係ねぇ!お前がホントに望んでいるのはどっちなんだ!?」
戸惑うかりんにガクトが言い放つ。その言葉で、彼女は自分が本当は何がしたいのか、何を望んでいるのかを、心の中で思い返していた。
「私も生きたい・・どこまでも生きていたい・・・!」
「かりん・・・」
「こんな私をここまで心配してくれたのは、ガクトだけだよ・・家族の仇のはずの私を、こんなに心配してくれて・・・」
「言っただろ・・オレが憎いのはお前じゃなく、お前の中にいる死神だってな。お前のことはいいヤツだって思ってる。こうして抱いてると気分がよくなってくる・・」
「もう、ガクトったら・・・」
ガクトの味気ない言葉に、かりんは恥じらいを感じて頬を赤らめる。
「これからはオレが・・オレが守ってやる・・そしてお前の体をこうして抱きしめていたい・・・これがオレの正直な気持ちだ・・・」
「・・・私もだよ、ガクト。私もガクトのことが好き。私もガクトと一緒にいたい・・・」
ガクトの体に頬を当てて、かりんが微笑む。
「でもガクト、私は守られてるだけじゃない。私だってガクトを、みんなを守れるし、守りたいだから・・・」
かりんが言いつけると、ガクトは彼女を抱えたまま身を乗り出す。
「ありがとう、かりん・・けど、オレがお前を守りたいっていう気持ちは変わらないから・・・」
「分かってる・・・いいよ。今はガクトの好きにしちゃっても・・・」
ピキッ ピキッ
そのとき、ガクトの手が触れているかりんの頬にヒビがはいった。ガルヴォルスの王に力を奪われたときのように、白い石に変わっていたのだ。
驚きを見せたガクトが触れている手を放す。その直後、その手も同様に石化をしていた。
「これは・・・!?」
完全に驚愕を見せるガクト。だがそのとき、石化していた右手が、石の殻が剥がれ落ちて元に戻りだした。
「なっ・・・!?」
ガクトがまたも驚愕を見せる。視線を移すと、頬の石化が解けていたかりんが微笑んでいた。
「私が覚えたガルヴォルスの力・・相手の姿を見て強く念じると、死神の死の力の効力と合わさって、石化させることができるの。」
「かりん、お前・・・!?」
「大丈夫。相手がそうしてほしいって願わない限り、私はこの力を使わないよ。」
眼を見開いたガクトに、かりんが苦笑いを見せて弁解する。しかしすぐに真面目な顔をして続ける。
「とりあえずそのことだけ言っておくね。こういうことはもう隠したくはないから・・・」
「そうか・・分かったよ、かりん・・・」
頷くガクトに、かりんは自分の裸身を委ねた。ガクトはそんな彼女の左胸に顔を近づけ、その乳房を口に含んだ。
「ん・・んあ・・・ガクト・・・」
再びあえぎ声を上げるかりん。彼女の乳房を弄んで快感を覚えながら、ガクトは胸中で家族のことを思っていた。
(父さん、母さん・・久恵・・・ワリィ・・オレ、みんなを殺した死神を体に入れてるヤツを好きになっちまったみてぇだ・・・)
家族に対してすまなそうに思うガクト。
(許されるはずねぇだろうな。ガルヴォルスへの怒りをかなぐり捨てて、そのガルヴォルスが好きになって、今こんなことをしているんだから・・・)
かりんの乳房から口を離すガクト。ふと移した視線の先に、妹、久恵の姿が映った。
(久恵・・!?)
ガクトは一瞬眼を疑った。しかし彼の眼に映し出された久恵の姿が、彼の心が映し出した幻ということを感じて困惑を覚える。
「お兄ちゃん・・・」
兄に向けて天使のような微笑みを投げかけてくる久恵。その姿が霞のように消えていってしまう。
「久恵・・・ゴメン・・・ありがとう・・・」
「ガクト・・・?」
つい口に出てしまったガクトの久恵への言葉。その呟きを耳にしたかりんが聞き返し、彼は我に返って笑みを見せる。
「あぁ・・ちょっと、いろいろ考えちまってたんだ。でももう大丈夫だ・・・」
ガクトはかりんと口付けを交わした。心地よい気分を感じながら、2人は互いを見つめていた瞳を閉じる。
(みんな、オレのことを信じてくれてるから・・・)
その中で、ガクトは家族の気持ちを改めて理解したのだった。
次回
「王を止めなくちゃ、何が何でも・・」
「まぁ、ガクトさん、かりんちゃん・・」
「私も戦う。華帆を止めなくちゃ!」
「私たちが人工的に作り出した、エクステンドガルヴォルスだ。」