ガルヴォルスextend 第20話「王の目覚め」
ガクトとかりんの石の体を優しく抱きしめている華帆。衣服を脱ぎ捨てて肌の触れ合いを堪能している華帆は、2人の石の頬を指先で撫で始めた。
「きれいな顔つきしてるね、2人とも。石じゃなかったら、きっと大福みたいに柔らかいんだろうね。」
華帆がいつもの明るい笑顔で、ガクトとかりんの石の頬の手触りを確かめていた。彼女の言動に、ガクトもかりんも胸中で不安を覚えていた。
「あたしはね、会ったときからかりんとガクトのことが好きだった。会話したり一緒に仕事したりするだけじゃ足りなくて、こうして肌と肌で触れ合いたかった。かりんは女だし、ガクトは告白したけど断られちゃったし。でも、それでもあたしは諦めきれなかった。この気持ちを捨てることができなかったの。」
自分の気持ちを伝えていくうちに、次第に悲痛さをあらわにしていく華帆。ガクトとかりんにすがって泣きじゃくる。
「だからね、2人がガルヴォルスの王に石にされちゃったことを、ホントは嬉しかったんだ。もしもあたしのこんな気持ちを押し付けちゃおうとしたら、2人とも、あたしのことを嫌いになっちゃうと思うから。」
(華帆・・・)
「それでも、それでもあたしはガクトが好き!かりんが好きなの!」
困惑するかりんの声。悲痛にさいなまれる華帆の強まる声。
「あたしは人間を信じられない。誰もあたしたちを助けない、誰も救いの手を差し伸べてくれなかった人間を、信じることができない・・・」
(おい、華帆、何を言って・・!?)
「だから・・人間なんて、みんないなくなっちゃえばいいんだよ。でも美代子さんたちはいてほしいけどね。」
動揺を浮かべるガクトの声をさえぎって、華帆が妖しく語りかける。彼女の言動はもはや魔性の囁きとしか思えなかった。
「ガルヴォルスの王が蘇ったら、この世界から人間がいなくなる。あたしたちの新しい、幸せな世界がやってくるんだよ。」
(何言ってんだよ、華帆!人間が滅んでいいわけないだろ!眼を覚ませ!)
「眼なら覚めてるよ。正気でもあるよ。」
いきり立つガクトだが、華帆は受け入れようとしない。
「ガクトはガルヴォルスが滅んじゃえばいいと思ってるみたいだけど、滅ぶのは人間のほうだってあたしは思う。それが実現するなら、王が目覚めてしまってもいい。あたし自身、悪魔にでもバケモノにでもなってもかまわない。」
(華帆!)
悲痛の叫びを上げる華帆に、ついにかりんもたまりかねる。その声に華帆は眼を見開く。
(こんなの、私の知ってる華帆じゃない!だって華帆は笑顔を絶やさず、誰とでも仲良くなれる元気で優しい人じゃない!それが、こんなの・・・)
「それは、あたしの表向きの姿だよ。今のあたしが、ホントのあたし。」
悲痛に駆られるかりんに対し、華帆は動じる様子を見せない。
「人間が嫌いで、だけどガクトとかりんは心の底から好きなのが、ホントのあたしなの。」
(バカな・・華帆!お前はお前を信じているみんなの気持ちを、裏切るつもりなのか!?)
「裏切る?そんなつもりないよ。むしろ、あたしは人間に裏切られてるんだから・・・」
ガクトとかりんの必死の呼びかけに耳を傾けず、華帆は胸を2人の腕に押し当てる。
「ガクト、かりん、あなたたちはあたしのものだよ。あたしと一緒に、気分をよくしよう。」
そして2人の石の体を、華帆は滑らかに舐め始めた。その生暖かい感覚に、かりんとガクトは苦悶を覚えた。
王の復活を阻止するために利樹を狙った悟。その彼を妨害する声号。
「どけ・・どいてくれ・・みんなのためにも、そして利樹くんのためにも、王は倒さなくちゃいけないんだ・・」
「悪いがそうはいかない。この愚かな世界を改善するためにも、王の復活は光栄なことなのだ。邪魔はさせないよ。」
衝突する2人のガルヴォルス。しかし焦りと動揺のため、悟は防戦一方となっていた。
どういう理由で悟が利樹を狙い、声号と争っているのか、未だに夏子とサクラは飲み込めないでいた。
「どういうこと・・いったいどうなってるっていうの・・・!?」
「そ、そんなことよりも夏子さん、今のうちに利樹くんを。」
困惑を拭えないでいる夏子にサクラが呼びかける。その先には、無表情のまま戦いを見つめている利樹の姿があった。
「そうね。とにかく利樹くんを安全な場所に避難させないと。」
思い立った夏子が利樹に向かって駆け出す。
「ダメだ、先輩!」
そこへ悟の声がかかり、彼女はふと踏みとどまる。悟はその隙を突かれ、声号に痛烈な一撃を受けていた。
歯がゆい面持ちを見せながらも戦意を捨てない悟。彼の様子をあざけるように声号は嘆息する。
そのとき、この広場で突然地鳴りが轟きだした。悟、夏子、サクラが何事かと周囲に視線を向ける。
「な、何だ!?何が起こって・・!?」
現状を把握しようとする悟。その眼前で、声号は悠然と立ちはだかっていた。
「ついに、ついに目覚めたようだ・・ガルヴォルスの王が。」
「王が、目覚めた・・・!?」
その言葉に悟も、夏子もサクラも驚愕する。彼らが視線を向けた先、利樹の体から神々しい光があふれてきていた。
「そんな・・!?」
「まさか、利樹くんが・・ガルヴォルスの王・・・!?」
光を宿した利樹が周囲の人たちに視線を巡らせる。その姿に、ガルヴォルスの力を奪い取っていた影が重なる。
そして徐々に形を変えていく影が表に現れた瞬間、幼い少年の体が崩壊を起こして破裂する。
「利樹くん!」
肉体を破壊された利樹にサクラが悲痛の叫びを上げる。その眼前で、ガルヴォルスの王、キングガルヴォルスが完全な復活を遂げたのだった。
その姿はほとんど人型をしているが、その体から放たれる威圧感は王と呼ばれるにふさわしいほどに強大だった。
声を上げることもできないガクトとかりんの体を、華帆は滑らかな指の動きで弄んでいく。頬だけでなく、腕、肩、胸、腰と次々と撫で回していく。
(華帆・・お願い・・やめて・・・)
かりんが苦悶の言葉を投げかける。華帆の手に触れられていることに、彼女は、ガクトも快楽を感じ始めていたのだ。
「かりんの胸、丸くていい感じだよ。あたしも胸に自信がないわけじゃないんだけど。」
かりんの石の胸を指先で軽くつつきながら、華帆が微笑む。石の胸は本来の柔らかさを失い固くなってしまっていたが、華帆にとってはどちらでも構わなかった。
「そしてガクトの体・・たくましくあたたかい・・でもいろんなところに傷ができてる。あたしには分かる。心の傷が、体にまで刻み付けられていることを・・」
ガクトの体にも触れながら、華帆はその心身に付けられている傷跡を感じ取っていた。それは自分にもあるはずのものだが、そこに込められている意味と思いが全く相対的だった。
「理由は違うけど、あたしたちが心の傷を受けていることは同じ。だからガクト、かりん、新しい世界で一緒に生きよう。もう辛い思いをする必要なんて、全然ないから・・・」
切実な思いを告げながら、華帆は身をかがめる。そして2人の下腹部に手を差し伸べた。
(ち、ちょっと華帆、そこはやめて・・・!)
(おい、どこ触ってんだよ・・・!)
かりんとガクトが強い刺激を感じてあえぎ声を上げる。それを気に留めながら、華帆はさらに手で撫でていく。
「あたし、もっともっとガクトとかりんのことが知りたいの。だから感じさせて。2人の心の中まで。」
華帆の指先が、ガクトたちにさらなる刺激を与えていく。抵抗したい気持ちは石にされているという現状に阻まれる。
「代わりにあたしの全てを見せるから。これで一緒にいさせて!」
華帆は立ち上がり、ガクトとかりんの体を再び抱きしめた。願いを強く込めるあまり、華帆は眼から大粒の涙を流していた。
「ガクトとかりんがいないと、あたしはみんなといられなくなっちゃう・・・」
完全に甘えるような形で、華帆が2人にすがりつく。石の腕に胸を押し付けている彼女の秘所から愛液があふれて床にこぼれ落ちていた。
ガクトとかりんは快楽を感じて心が揺らいでいた。そこへ華帆に詰め寄られて、どうかなってしまいそうな混乱に陥りそうになる。
しかしここで負けてしまうわけにはいかない。自分たちには、貫いてきたものがあるのだから。
それを強く心に留めて、ガクトは華帆に呼びかけた。
(華帆、オレは人間を捨てるわけにはいかない・・みんなを傷つけるガルヴォルス。そんな悪魔たちだけの世界なんて、オレはまっぴらだ!)
あくまでガルヴォルスと敵対する意思を見せるガクト。その答えに華帆は愕然となる。
「違う!ホントに悪魔なのは人間のほうだよ!ガクト、かりん、あなたたちならあたしの気持ちが分かるんでしょ!?大切な人を守れないことを!大切なものを奪った受け入れられない非情な態度を!」
(華帆、お前がオレと同じように傷つき、辛い思いをしているのは分かる。けど、オレとお前とでは、敵と見ている相手が全然違うんだよ・・・!)
もはやガクトの気持ちが完全に揺るぎないものとなっていることを、華帆は受け入れるしかなかった。そして彼女の気持ちは、親友と信じているかりんへと向けられる。
「かりん、かりんなら分かってくれるよね?あたしやあなたに恐怖を与えたのは、ガルヴォルスじゃなくて人間のほうだって。」
(華帆・・・)
「かりんがガルヴォルスになってみんなを傷つけたのも、ガルヴォルスの力に怯える毎日を送ることになったのも、全部人間が悪いんだよ。だからみんなやっつけて、新しい幸せな世界を作っていこうよ・・・」
かりんに対して切実に呼びかける華帆。ガクトが受け入れてくれない以上、もはや彼女はかりんを頼りにするしかなかった。
しかしかりんは沈痛さを浮かべながら、その願いを拒んだ。
(ゴメン、華帆・・私は、あなたの気持ちを受け入れることはできないよ・・・)
その返答に華帆は信じられない面持ちを浮かべる。
「どうして・・・かりん、どうして!?あなたをここまで苦しめてるのは、ガルヴォルスじゃなくて人間のほうなんだよ!」
(それでも・・たとえ華帆の言葉がホントのことだったとしても、私は人間を信じたい。人として生きていきたいの。)
華帆の悲しみ、ガクトの優しさを感じ取って、かりんも決意する。まだ死を受け入れるわけにはいかないと。死ぬのはみんなを陥れている危機を食い止めてからだと。
(かりん・・お前・・・)
(ガクト、私も美代子さんや悟さん、みんなに傷ついてほしくない気持ちは同じだからね・・・)
心の中でかりんは、戸惑いを浮かべているガクトに微笑みかける。彼女の決意を目の当たりにして、ガクトはさらなる困惑を覚える。
かりんは家族を殺した死神のガルヴォルス。しかし彼女の心の中には、自分が守りたいと思っている優しさが存在している。
どちらを取るべきなのか。どちらを尊ぶべきなのか。ガクトの苦悩は、ここに来て彼に迷いを植えつけていた。
「そう・・かりんまで人間を守ろうって言うんだね・・・」
華帆は自分の願いが拒絶されて、物悲しい笑みを浮かべる。
「あたしが頼りにできる人は、もういないんだね・・・ガクトもかりんも、あたしのことを信じてくれると思ったんだけどね・・・」
微動だにしない2人の顔を見つめて、華帆は笑みを消す。
「ガクト、かりん、あなたたちは人間として、人間を守るために戦うけど、あたしは人間を捨てるよ。」
(華帆・・!?)
華帆の言葉に、ガクトとかりんが驚愕を覚える。
「教えてあげるよ。ガクトは聞いてるけどね。ガルヴォルスの王はね、人間の部分だけを取り込んで、ガルヴォルスを完全な姿にすることができるんだって。」
(おい、華帆!)
ガクトがたまらず声を荒げるが、華帆はそれをあえて無視して続ける。
「あたしは王の力で、人間を完全に捨てるからね。」
(華帆、ダメ!そんなこと・・!)
かりんも華帆に制止を呼びかける。すると華帆は瞳を閉じて、ガクトとかりんの石の頬に自分の唇を当てる。その行為に2人は胸中で戸惑いを覚える。
その反応を感じ取って、華帆は満面の笑顔を作る。
「でもガクトとかりんのことは、いつまでも忘れないからね。」
そういって華帆は、床に脱ぎ捨てた衣服を抱えて部屋を出て行った。ガクトとかりんの心の声は、彼女を呼び止めることができなかった。
(・・私やガクトだけじゃなかった・・あの事件で傷ついていたんだよ、華帆も・・・)
華帆は華帆への悲痛にさいなまれながら、ガクトにすがりついた。ガクトは自分自身にある苦悩を噛み締めるように、彼女の体を抱きしめた。
(ガクトはガルヴォルスが許せなくなり、私は自分の中にある死神が怖くなり、華帆は人間が信じられなくなった。それでも、私たちは何かを信じて、今まで生きてきたんだよね・・・)
(華帆・・・)
(ガクト、私は死のうと思ってるけど、その前にやらなくちゃいけないことを見つけたの。華帆を助けたい。みんなを守りたい。)
困惑するガクトに、かりんは真剣な真剣な眼差しを向ける。
(みんながみんなでなくなるなんて、私には耐えられない。これで私の罪がなくなるわけじゃないけど、みんなが私と同じようになるなんてイヤなの・・・)
ガルヴォルスとなり、罪のない人にまで手をかけてしまった自分。それと同じ思いをする人たちを増やしたくない。
かりんの願いも意思も決して揺らぐことのないものへと変わっていた。
(何が正しいかなんて、オレには分からねぇ。けど、今オレがしなくちゃならないことくらいは分かる。)
ガクトも迷いを振り切ろうとしながら、自分の意思を再確認する。
(ガルヴォルスの王がみんなを傷つけるって言うなら、オレはそいつを叩き潰してやる!)
自分の拳を強く握り締めてから、ガクトはかりんを強く抱きしめた。彼女の柔肌が彼の腕に、彼女の胸が彼の体に触れ合う。
互いの決意が交錯に、互いを結びつける思いを形作っていた。しかし彼らはそこで1つの問題を思い返す。
ガルヴォルスの王は、利樹の体に入り込んで完全な復活のために行動している。たとえかけられている石化を何とか解いたとしても、無二の親友、自分の弟、たった一人の肉親を、ためらいなく手にかけられるとは言い切れなかった。
(どうしたらいいのか、今は分からない。だけどオレは利樹から、ガルヴォルスの王を引っぺがしてやる!)
かりんに対して言い放つガクト。かりんのためではなく、自分の心のためだと彼は思っていた。しかしかりんはどちらのためでもあると確信していた。
2人の想いは無意識のうちに絡み合い、強いひとつの光となって彼らの体を包み込んだ。
(これは・・・!?)
ガクトとかりんがこの衝動に驚きを見せる。2人を包む光は、現実の彼らの石の体にも現れていた。
ひび割れた箇所から光があふれ出し、その強さを受けてヒビが広がり、石の殻が剥がれ落ちていく。そしてそれが弾けるように全て剥がれ、ガクトとかりんの生身の体が現れる。
ガクトがかりんを抱きしめる形のまま石化した状態から解放された彼らが、互いの顔を見つめる。きょとんとしながらも互いの素顔が瞳の中に映し出される。
「ガクト・・・」
「かりん・・・オレは・・オレは・・・」
戸惑いを見せるかりんを、ガクトはそのまま抱きしめていた。様々な思いの交錯で、彼の心も大きく揺さぶられていた。
ガクト、かりんとの決別を覚悟していた華帆は、王の完全な復活を察知していた。脱ぎ捨てた衣服を改めて身に付け、キングガルヴォルスのところに向かって歩き出していた。
(かりん、ガクト、あたしは必ず帰ってくるからね。人間を捨てた、新しいあたしになって・・・)
最後まで信頼していた相手のことを思いつつ、華帆は人間に対して敵意を見せる。それがガルヴォルスを証明する異様な紋様として顔に現れるが、すぐに消えてしまう。
王の洗礼を受け、完全なガルヴォルスとなって人間を捨てる。それが華帆の人間に対する報復の始まりだった。
次回
「ガクト、私に触れて・・・」
「そんな恥ずかしいマネ、できねぇよ・・・」
「これが人間を食らうということだ。」
「私も生きたい・・どこまでも生きていたい・・・!」
「生きよう・・たとえどんなことが起きても、オレたちは生きるんだ・・・!」