ガルヴォルスextend 第16話「過去の大罪」

 

 

 家族を殺したガルヴォルスはかりんだった。その真実にガクトは愕然となってしまった。

 あまりにも衝撃的な出来事だったため、ガクトは走り去ってしまったかりんを追うことさえできなくなっていた。

「何なんだよ・・・何なんだよ、これは!」

 混乱にさいなまれてガクトはたまらず叫ぶ。悟も夏子も華帆もサクラも、彼の姿を見つめながら困惑を隠せないでいた。

 

 ガクトに自分がガルヴォルスであることを知られ、かりんはたまらずに走り抜けていた。彼女はいつしか街外れの草原の中に入り込んでいた。

 そこで彼女は立ち止まり、悲しみのあまりにうなだれる。

「ガクトが、ガルヴォルス・・ガルヴォルスを憎んでいるガルヴォルス・・・」

 錯乱のあまりに、かりんはおもむろに言葉を並べる。

「私が・・ガクトの家族を殺したの・・・私が・・・!?」

 ガクトの肉親に手をかけたことに絶望感を感じるかりん。震える自分の体を抱きしめる。

「そう・・私はあのとき殺しちゃった・・・みんなを、この手で・・・」

 かりんは自分の手を見つめる。そしてパーキングエリアの悲劇を呼び覚ました。

 

 ガクトは未だに混乱していた。かりんが死神のガルヴォルスだということを目の当たりにして、どうしたらいいのか分からなくなっていた。

「ガクト・・・」

 夏子が沈痛の面持ちで呟くと、ガクトは振り返って彼女に詰め寄った。

「いったいどうなってるんだよ!?何でアイツが・・!?」

「私たちも初めから知っていたわけじゃないわ。さっき知ったばかりで、私たちも驚いているの・・」

 声を荒げるガクトに夏子は首を横に振って答える。みんなかりんがガルヴォルスだということに動揺を隠せなかったのである。

「ううん、あたしは・・」

 そこへ華帆が否定を見せ、ガクトたちが驚きをあらわにしながら振り返る。

「もしかして華帆さん、かりんさんのことを初めから知っていたの?ならなぜ私たちに言わなかったの!?」

 夏子がいぶかしげに問いつめると、華帆は後ろめたい面持ちを見せる。

「だって、だって・・かりん、自分がガルヴォルスだっていうことを嫌がってたから・・・」

「華帆さん・・・」

「あたしもかりんと一緒にあのパーキングエリアにいたから・・・」

 胸を締め付けられるような感覚にさいなまれながら語りかける華帆に、ガクトは真剣な顔で近寄る。

「どういうことなんだ?アイツが、自分のガルヴォルスの力を嫌っていたって・・」

 問いつめてくる彼に頷いて見せて、華帆は語りだした。

 

 数年前のことだった。ある日、かりんの家族は旅行に出かけていた。彼女の誘いを受けた華帆も一緒に。

 かりんも華帆も旅行を楽しみにしていたので、胸を躍らせて落ち着きのない様子を時折見せていた。

 その途中、彼女たちを乗せた車は一路、休憩のためにパーキングエリアにやってきた。そこでかりんと華帆は、トイレのついでに飲み物を買ってくるといって車を降りた。

 ジュースをひと通り買い、2人は車に戻っていく。そこで彼女たちは、両親が不良たちに脅されているのを目の当たりにする。

 周りの眼など一向に気にしない様子で、金を出せと迫っていた。

「やめなさい!」

 かりんは置けるところにジュースを置いて、不良に立ちはだかった。

「何だ、譲ちゃん?オレたちはカモから金を巻き上げてるだけなんだよ。外野は黙った、黙った。」

「そうはいかないわ!」

 鋭い眼つきで脅しつける不良だが、かりんは引き下がろうとしない。

「それとも、譲ちゃんが代わりに出してくれるのかい?」

「そうだ。譲ちゃんが体で払うって言うのもいいんじゃねぇの?」

 かりんに対してあざ笑いを見せる不良たち。その1人が彼女の腕をつかむ。

「キャッ!」

「や、やめなさい!娘に手を・・!」

 父親がたまらずかりんを助け出そうとする。しかし父親は別の不良に殴りつけられてしまう。その手には、ナイフと思しきものの柄。

「お、お父さん!?」

 かりんが、うなだれて倒れていく父親の姿に眼を疑った。母親が大きく悲鳴を上げて、それが周囲を振り向かせた。

「テメェ、わめくんじゃねぇよ!」

 不良が苛立ちをあらわにして、母親にもナイフを突き立てる。

「ウソ・・・!?」

 かりんが愕然と母親が倒れていくのを見つめていた。華帆が動揺をあらわにしながら、周囲の人たちに視線を向ける。

「だ、誰か、警察と救急車を・・!」

 必死に助けを求める華帆だが、人々は困惑を見せるだけで、不良に立ち向かおうとも、連絡を取ろうともしない。

 かりんは両親に手をかけてあざ笑っている不良に対して怒りを覚えていた。

「許せない・・・!」

 憤怒する彼女の顔に異様な紋様が走る。その変貌に不良たちが動揺を見せる。

「アンタたちは、絶対に許さないから!」

 叫ぶかりんの姿が、異様な怪物へと変化する。その右手には死神の鎌が握られていた。

「や、やばいぜ、こりゃ!早く逃げようぜ!」

 怯えだした不良たちがいっせいに逃げ出す。しかし両親を殺された怒りとガルヴォルスの狂気に駆られたかりんが逃がすはずもなかった。

 鎌を振りかざし、逃げ惑う不良たちを次々と斬りつけていく。血飛沫をまき散らしながら、不良たちが固まり、砂になって崩れていく。

 不良全員を手にかけて、かりんが周囲を見回す。彼女の中にあふれている憎悪と狂気はこれに留まらなかった。

 かりんは見境なく鎌を振りかざす。この刃が罪もない人たちや車を切り刻んでいく。鮮血が飛び散り、爆発が巻き起こる。

「かりん!・・キャッ!」

 必死にかりんに呼びかける華帆だが、爆風に煽られて吹き飛ばされる。硬い車体に体を叩きつけられ、彼女はうつ伏せに倒れる。

「か・・かりん・・・やめ・・て・・・」

 猛威を振るうかりんに向けて声を振り絞るも、華帆は燃え盛る火炎の中で意識を失った。

 

「そう・・あのとき私が・・ガクトの家族を・・・」

 狂気の赴くままに関係のない人たちまで殺してしまった自分を悔やむかりん、ガクトの家族までその手にかけてしまっていた。

「やっぱり、最後まで隠し切ることなんてできないんだね・・・恐怖と罪は、ずっと私に付きまとっていくもんなんだね・・・」

 あまりの絶望に、彼女は物悲しい笑みを浮かべてしまう。

「私は・・生きてちゃいけないんだね・・・」

 自分の恐ろしい姿を責めながら、かりんはゆっくりと立ち上がって重い足取りで歩き出した。

 

 華帆の口から語られた出来事に、悟も夏子も困惑を隠せなかった。その中でガクトだけが、鋭い眼つきを保っていた。

(そういうことかよ・・アイツはガルヴォルスになって、関係のない人たちまで殺したっていうのかよ・・オレの家族・・久恵まで手にかけたっていうのかよ!)

 抱えている憤りを振り切るように、握り締めていた拳を強く振る。

(やっぱ、アイツはオレを騙してたのか・・・!?)

 彼の心の中に、かりんに対する怒りが膨らみだしていた。

「対立していた2人が、こうしてこの場にいたとは幸運でしたよ。」

 そこへ声がかかり、ガクトたちが振り返る。その先には先ほどの女性と、紳士服に身を包んだ黒髪の男がいた。

「竜崎ガクトくん、速水悟くん、君たちを上位のガルヴォルスとして、お話をうかがいたいのですが。」

 男が優しく微笑み、ガクトと悟に向けて手を差し伸べる。彼を不審に思っているガクトと悟の横で、夏子が訝しげに声をかける。

「あなたは何者?その女といい、どうもガルヴォルスに詳しそうだけど。」

 彼女の言葉に、男の横にいる女性が顔色を変えずにメガネを軽く上げる。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は佐宗声号(さそうせいごう)。で、彼女は私の秘書の・・」

「神童花織(しんどうかおり)です。」

 声号の紹介を受けて、花織が一礼する。

「あなたのこともうかがってますよ、私立探偵、秋夏子さん。何なら、あなた方もお話をお聞きになりますか?」

 声号が視線を向け、華帆もサクラも小さく頷いた。

 

 かりんたちを必死に探し続けている利樹。しかし姉の影も形も見当たらず、彼は途方に暮れていた。

「お姉ちゃん・・・」

 もはやどうにもならなくなったと実感し、ひとまず「セブンティーン」に戻ろうとした。

 そのとき、利樹の瞳から生の輝きが消え、意識が遠のいた。そして何らかの力に操られるかのように、突如彼の体が宙に浮上し、姿が消える。

 そして近くの建物の屋上に移動する。あまりに一瞬の出来事だったため、周囲の人々は全く気付いていない。

 利樹は街中の人ごみに視線を巡らせていく。そしてそれがある少女に留まる。下校途中で他の女生徒たちと仲良く話し込んでいる。

 利樹は彼女に向けてゆっくりと手を伸ばす。その指先から淡く輝く鞭のような、触手のような光が放たれる。

 光は真っ直ぐに少女へと向かい、その体を取り巻く。突然のことに動揺を見せる少女の体に、光の先端が入り込む。

「ちょっと、何・・!?」

 光を振り払おうとする少女だが、光はその手をすり抜けるかのように振り払うことができない。その間に光が少女から何かを抽出して吸い取っていく。

(何なの・・・体から、力が抜けてく・・・)

  ピキッ ピキッ ピキッ

 そのとき、少女の着ていた制服が引き裂かれ、素肌がさらけ出される。その体は白く固まり、ところどころにヒビが入っていた。

「な、何なの、コレ・・!?」

 少女が赤面しながら変わりゆく自分の体を見つめる。半裸状態の彼女を目の当たりにして、周りにいた女生徒や人々も動揺を見せる。

 光の抽出と少女の石化が徐々に進行していく。同時に少女の衣服を引き剥がしていく。

「やめて・・こんな・・・」

 少女が恥じらいを見せながらも、自分の変化に好感を持ち始めていた。周りなど気にせず、あえぎ声を上げる。

  パキッ ピキッ

 解放感に駆られていく少女の体のほとんどを、石化が包み込んでいく。快楽に漂ってしまっている少女の眼は虚ろになっていた。

「とっても・・気持ち・・・いい・・・」

  ピキッ パキッ

 快楽の声を発していた唇さえも石になり、頬にもヒビが入る。

    フッ

 そしてもうろうとしていた瞳にも亀裂が入り、少女は完全な裸身の石像となった。その直後に、その石の体を取り巻いていた光が離れていく。少女の中にあった何かを完全に吸いきったことを意味しているのだろうか。

 伸びていた光が利樹の指に戻る。発動していた力が彼の中に戻っていく。

 その直後、利樹はようやく意識を取り戻したのだった。

「あれ?・・オレ、何を・・・?」

 自分が何をしていたのか分からない面持ちで、利樹が周囲に視線を巡らせていた。そのとき、彼はかりんの姿を発見するのだった。

「あれは、お姉ちゃん!」

 姉の姿をようやく見つけて、利樹は安堵の表情を見せながら屋上を降りていった。

 

 突如、ガクトたちの前に現れた声号と花織。彼らが持ちかけてきた話にガクトたちは耳を傾ける。

「単刀直入に言います。もうじき、ガルヴォルスの王がこの世界に覚醒する。」

「何!?」

 声号の口にした言葉に、悟たちが眉をひそめ、ガクトが訝しげに声を返す。

「いったい何なんです?その、ガルヴォルスの王というのは・・・?」

 華帆が戸惑いを見せながら訊ねてくる。声号は彼女に笑みを見せるが、答えたのは夏子だった。

「ガルヴォルスの王。それは、ガルヴォルスの起源と言われている存在よ。任意的に人間をガルヴォルスに転化させることのできるパラサイドガルヴォルスも、元々は王の能力だったというのが有力な話よ。」

「そう。その王が、この現代に再び目覚めようとしている。我々の企業の一端は、その王を初めとしたガルヴォルスの研究、調査を行っています。」

 声号が微笑ましく語りかけるが、夏子は困惑を浮かべていた。

 彼女はガルヴォルスの研究を行っている人物や集団に対して疑念を抱いていた。その中のほとんどは、研究を称してガルヴォルスをただの実験体としてしか扱わない傾向にある。彼女の元上官、アスカ蘭もそれを目論んでいた1人だった。

「その調査の結果、王は恐るべき存在であることを突き止めました。人間にとっても、ガルヴォルスにとっても。」

 その言葉に悟たちが驚きを見せる。

「ガルヴォルスは人間の進化系。といっても、怪物の本能と人間の心を併せ持っている存在がほとんどです。ガルヴォルスの因子は、破壊すれば人間としての心身を破壊する切り離すことのできない連鎖したものです。ところがガルヴォルスの王は、その人間の部分だけを取り出して、そのガルヴォルスを完全な怪物に変えることが可能なのです。つまり、王の復活と力は人間を怪物へと変え、世界を混乱に導いてしまう最悪の存在と言えるのです。」

 声号の話にガクトも悟も驚愕を浮かべていた。声号はそんな2人に視線を向けて言いかける。

「ガクトくん、悟くん、君たち2人は考えは違えど、人間を深く愛していることに変わりはない。どうでしょう?ガルヴォルスの王を倒すため、君たちを私たちの同士として迎え入れたいのですが?」

 そういって声号は手を差し伸べる。悟はその手を取ろうかどうか迷っていた。

「悪いけど、オレはアンタの誘いは受けねぇよ。」

 一方、ガクトははねつけるように言い放ち、声号の話を断る。

「それはどうしてかな?よかったら、理由を聞かせてくれるとありがたい。」

 声号は顔色を変えずにガクトに聞き返す。

「別にアンタの考えが気に入らないわけじゃねぇ。ただ今、オレにはやらなくちゃならないことがあるんだ。」

「やらなくてはならないこと?」

「ガクト、まさか・・!?」

 声号が聞き返し、悟が思い立って声を荒げる。

「誰にも止めさせねぇよ。オレは、オレの家族の仇を討つんだ・・!」

 悟の制止を聞かずに、ガクトがきびすを返す。そして悟に背を向けたまま、

「アイツの次はお前だからな、悟!」

 そういってこの場から駆け出した。悟もガクトの行動に対して揺らいでいた。

「すみませんが、返事を待っていてもらえませんか?今は一刻を争う事態なので・・」

「返事も何も、私は君たちに話を持ち出したに過ぎないよ。信じるも信じないも君たちの判断に委ねるよ。」

 微笑む声号に視線を向けてから、悟もガクトとかりんを追って駆け出した。

 

 心身ともにもうろうとしたまま、かりんは独り歩いていく。彼女は自分の罪を悔やみ、命を切り捨てようとも思っていた。

(もういいよね・・・こんな私が生きていたら、また誰かを傷つけちゃうから・・・)

 自分の死に場所を求めて、かりんはさまよう。悲壮に暮れている彼女の前に、ガクトが立ちはだかり鋭い視線を向ける。

「ついに見つけたぞ、かりん・・いや、家族の仇・・・!」

「ガクト・・・」

 ガクトは怒りをあらわにして、拳を強く握り締める。その姿にかりんは戸惑いを見せる。

「お前はオレの家族を殺しただけじゃない。周りのみんなの信頼関係まで裏切った。オレはお前を絶対許さない・・・だからオレはかりん、お前を殺す!」

 叫ぶガクトの姿が竜の怪物へと変わる。殺意に満ちたガルヴォルスを目の当たりにして、かりんも思わずデッドガルヴォルスに変身してしまう。それがガクトの怒りを逆撫でする結果となる。

「お前が久恵を、オレの家族を・・みんなの気持ちを!」

 具現化した剣を振りかざし、かりんに敵意を見せつけるガクト。かりんも死神の鎌を握り締めて身構える。しかしこれは振りだけで、かりんはガクトと戦うつもりは全くなかった。

 全ては自分を殺させるためだった。自分の命でガクトの復讐を成し遂げられるなら一石二鳥。かりんはそう思っていた。

(これでガクトの心が晴れるなら、私は・・・)

 自分の死を受け入れて、かりんは構えだけを作る。その瞬間に、ガクトが剣を振り上げて彼女に飛びかかる。

「やめろ、ガクト!」

 そこへ飛び込み、ガクトを押さえ込んできたのはカオスガルヴォルス、悟だった。不意を突かれたために、ガクトは振り下ろそうとしていた剣を手から落としてしまう。

「くそっ!放せ!」

 両腕を押さえつけてくる悟を振り払おうとするガクト。必死に押さえ込もうとする悟。

 2人の心が交錯する様を目の当たりにして、かりんは死の決意が次第に揺らいでしまっていた。

 

 姉、かりんの姿を発見した利樹は、その方向へと急いで向かっていた。姉の死の謎と安否、ガクトや悟たちに対する気持ち。確かめたいことは山ほどあった。

 そしてようやく到着した草原で足を止める利樹。そこではかりんだけでなく、彼女の前でガルヴォルスに変身し、敵意を見せつけるガクトの姿があった。

「お兄ちゃん、何を・・!?」

 利樹がガクトの行動に驚愕を感じ取る。しかし彼が本当に驚きを見せたのはこれからだった。

 かりんの姿も同様の怪物へと姿を変えた。その光景に利樹は愕然となった。

「そんな・・・お姉ちゃんが、ガルヴォルスだったなんて・・・!?」

 あまりにも驚愕なことに感じたため、利樹は当惑してその場に座り込む。錯乱してしまったため、何らかの力で一瞬意識が遠のいたことに彼は気付かなかった。

 彼の前でも、かりんを倒そうとするガクトと、それを阻止しようとする悟が争う様が繰り広げられていた。

 

 

次回

第17話「彷徨う殺意」

 

「かりんさんを殺したら、お前は人間の心を失ってしまう!」

「力がないのが悔しかった。何もできない自分がイヤだった。」

「お姉ちゃんを信じてあげてよ、お兄ちゃん!」

「好きにしちゃっていいよ、ガクト・・・」

「オレはこのときのために、今まで生きてきたんだ・・・!」

 

 

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