ガルヴォルスextend 第14話「すれ違う心」
激しい戦いの末、ともに街中の川に落ちたガクトと悟。それを呆然と見つめるしかなかったかりんたち。
「そんな・・・いけない!ガクト!」
かりんがたまらずに川のほうへ駆け出した。
「かりんさん!」
夏子が呼び止めるが、かりんは止まらずに進んでいってしまう。
「仕方ないわね・・サクラさん、あなたは悟くんを探して。私はかりんさんを追いかけるから。」
「はい。」
夏子の指示にサクラが頷き、かりんとは違う方向から川に向かっていく。
「あたしも違うところからガクトと悟さんを探してみます。分担したほうが効率がいいですから。かりんをお願いします・・」
「華帆さん・・分かったわ。任せておいて。」
夏子にかりんを任せて、華帆も別方向からガクトと悟を探すことにした。彼女を見送ってから、夏子もかりんを追っていった。
「ガクト!ガクト、どこなの!?」
必死にガクトの行方を追って川沿いを歩くかりん。彼女の後を追いながら、夏子も彼らの行方を探していた。
「ところでかりんさん。」
そこへ夏子が呼び止め、かりんが足を止めて振り向く。
「あなたは悟くんの攻撃を受けて死んだって聞いたわ。なのにあなたはこうして生きてる。これってどういうことなの・・・!?」
その問いかけにかりんも当惑を隠せなかった。少し沈痛の面持ちを浮かべた後、重く閉ざしていた口を開いた。
「死んでいたと思います。正確には仮死状態になっていたのかと・・もしも生きていたままだったら、私はまだ病院にいたはずでしたから・・」
「・・そうね・・でもこうして無事でいたことは、奇跡としか言いようがないわ・・」
夏子は安堵の息をつきながらも、一抹の疑念を抱いていた。その答えを知っているかのように、かりんは思いつめた面持ちを一瞬浮かべていた。
その答えを確かめたいばかりに、夏子はかりんに問いかけようとした。だが、
「あっ!あれは・・!」
かりんが河岸に漂っている人影を発見し、指差した。彼女もそこに向かい、夏子も続いて駆け出した。
かりんがその人物を引き上げ、その姿を確かめる。しかしそれはガクトではなく、
「さ、悟さん・・・!?」
かりんと夏子が引き上げたのは悟だった。彼は満身創痍の状態で、意識を失っていた。
「怪我をしている・・早くどこかで手当てを・・・」
かりんが悟の介抱をしようとしたとき、悟の傷が徐々に消えていっていた。眼の錯覚ではなく、何もしていないのに傷が癒えていったのだ。
「これがガルヴォルスの身体能力よ。全てにおいて人間を超えているのよ。」
夏子がガルヴォルスについて語りかけると、かりんが思いつめた表情を再び見せる。
彼女は何かを隠している。ガルヴォルスについての何かを。夏子の刑事として養った勘がそう告げていた。
しかし、そのことをこの場で考えている場合ではない。ガルヴォルスの治癒力で治ろうとしていても、早く悟を安全なところに運ぶ必要がある。
「近くに広場があるわ。そこで手当てをしましょう。」
「はい。分かりました。」
夏子の指示にかりんは頷いた。2人は協力して、悟を広場に運び出した。
一方、悟を追い求めて河岸を駆けていたサクラ。
「悟!悟!」
声を上げて呼びかけるサクラ。そこで彼女は川を流れている人影を発見する。
「悟!」
サクラは靴やスカートが濡れることも構わずに、川の中に飛び込んだ。そしてその人影を川から引きずり出す。
「あなた、セブンティーンにいた・・!?」
それは悟ではなくガクトだった。彼も傷を負っていてその痛みに苦悶の表情を浮かべていた。
「悟のことも気がかりだけど、ガクトさんを放っておくこともできない・・」
サクラはガクトを担ぎ上げて、河岸から移動を始めた。そして辿り着いたのは、子供たちが秘密基地にしそうな廃工場だった。
平らな場所へガクトを横たわらせてから、サクラは近くの蛇口に向かう。水を出して、持っていたハンカチを濡らし、それをガクトの額に当てる。
そこで一息ついて、サクラは濡れたスカートを絞って水を落とす。ある程度の水を落としてから、彼女は改めてガクトの顔を見る。
するとガクトがうっすらと眼を開いた。一瞬驚きを見せるサクラだが、すぐに笑みを戻す。
「よかった。気がついたんだね・・・」
「・・ここ・・は・・・?」
ガクトがもうろうとした意識の中で、周囲を見回して自分が今いる場所を確かめる。
「お前、確か店に来てたな・・えっと、名前は・・・」
眼の前にいる少女の名前を思い出そうとするが、意識がはっきりしていないせいもあって、なかなか思い出すことができない。
「私は友近サクラ。とにかく無事でよかったわ。」
サクラは自己紹介をしながら安堵の笑みを見せる。
「お前が、オレを助けてくれたっていうのか・・?」
「たまたまあなたを見つけたから、こうして手当てをしたんだけど・・ホントは悟を探してたんだけど・・」
「悟!?」
サクラの言葉を聞いて、ガクトは思い立って立ち上がろうとする。しかし傷ついた体が悲鳴を上げ、彼を踏みとどまらせる。
「待って!まだ動けるような体じゃないんだよ!もう少しここで休んで!」
サクラもガクトを呼び止めようとするが、彼の感情は治まらない。
「放せ!悟は倒さなくちゃなんないガルヴォルスなんだ!アイツが、アイツがかりんを・・!」
「かりんさんは生きてるわ。」
サクラのこの言葉に、いきり立っていたガクトの動きが止まる。
「何!?・・かりんが、生きてる・・・!?」
「どういうことなのか分からないけど・・けど、あなたを探していた彼女と会って、あなたと悟を探しに一緒に来たんです。」
困惑を見せるガクトに、サクラも動揺を感じながら語りかける。
「かりんが・・かりんが生きてた・・・」
整理がつかないまま、ガクトが体を震わせながら笑みをこぼす。しかし死んだと思っていたかりんがなぜ生きていたのか、彼も疑問に思っていた。
ガクトとの戦いの爆発で吹き飛ばされた悟が、ようやく眼を覚ました。彼が起きたことに、介抱していたかりんと夏子が微笑んできた。
「よかった。眼が覚めたんですね、悟さん。」
微笑みかけるかりんの姿に、悟は眼を疑った。死んでいたとばかり思っていた彼女が、何事もなかったかのように平然とこの場にいたからだった。
「かりんさん、生きていたのか・・・!?」
傷ついた体を起こして、悟は夏子に視線を向ける。
「奇跡と思うようなことだけど・・でもかりんさんはこうして生きているわ。」
笑みを見せる夏子の言葉に安堵を思えたものの、悟はかりんを手にかけたことに対する後悔にさいなまれていた。
「かりんさん・・本当にゴメン・・オレは・・早く君と瑠那さんの気持ちを分かってやればよかったんだ・・・」
「悟くん・・・」
自分を責める悟に夏子も沈痛の面持ちを見せる。そんな彼にかりんは首を横に振る。
「悟さんは何も悪くない。あなたの気持ちのことも考えなかった私がいけなかったんです。」
「いや、それだけじゃない!・・オレは瑠那さんを守ることができなかった・・」
「瑠那が・・・!?」
悟の言葉にかりんは耳を疑った。彼をじっと見つめるが、首を横に振るしかなかった。
「オレは自分の力や狂気に囚われかけているガルヴォルスに、人間の心を取り戻させてやりたいと思っていた。しかし、ガクトが・・・!」
悟は言いかけて言葉を切って飲み込んだ。瑠那を殺めたのが、ガルヴォルスへの憎しみを募らせたガクトだと言えば、かりんがさらに傷つくことになりかねない。
「・・とにかく悟くん、今は体を休めましょう。仕事をするにしても、戦うにしても、こんな状態じゃきついだろうからさ。」
夏子は淀んだ疑念を中断させようと話を切り替える。彼女の言葉に同意して、悟もかりんも頷いた。
一時は感情に駆られてムリをしようとしていたが、ガクトは落ち着きを取り戻して安静にしていた。そんな彼を、サクラは安堵の笑みをこぼしながら見つめていた。
しかし唐突に笑みを消して、彼女は問いかけた。
「ガクトさん、ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
彼女の問いかけにガクトが視線を向けてくる。
「ガクトさんは、どうして悟と戦ったの・・?」
その問いに、ガクトはいぶかしい表情を見せる。悟のことを快く思っていない彼は、彼女の気持ちに不純を感じていた。
「アイツはガルヴォルスだ。死ななかったものの、アイツはかりんを騙して手にかけようとした。」
「それは違うわ。」
否定するサクラ。ガクトがムッとする。
「何が違うんだ?ガルヴォルスは罪のない人を手にかける。体も命も、心さえも弄びやがる。」
「ガクトさんだってガルヴォルスじゃない。それなのにガルヴォルスを倒そうと考えているの?」
「そうだ。毒をもって毒を制すって、実に皮肉な話だけどな。けど、オレはガルヴォルスを倒さないといけない。かりんを傷つけなかったとしても、オレは悟を許すことはできない。」
ガクトが苛立たしげに言い放つと、サクラは立ち上がって言い返す。
「悟はあなたが考えているような人じゃない!人間でい続けようとしているガルヴォルスのことを、いつも考えて悩んでいるの!」
必死に訴えかけるサクラに一瞬唖然となりながらも、ガクトは苛立ちを覚えだしていた。
「悟のことは私が誰よりも知ってるつもりだよ!悟はみんなのことを心から思っているんだよ!」
「騙されるな!」
サクラの訴えをさえぎって、ガクトが傷ついた体を揺り動かす。
「お前は騙されてるんだ!ガルヴォルスは心までも弄ぶ!そのせいでかりんは危うく命を落としかけたんだ!」
「それはかりんさんも悟も、瑠那さんのことを思っていたからだよ。それでその気持ちが食い違って・・」
いつしか対立してしまっていたガクトとサクラ。悟に対する思いと怒りが、この廃工場に反発していた。
「オレはガルヴォルスを倒す!みんなが傷ついたり悲しんだりするのを見たくはない!」
「それが逆に、みんなを傷つけたり悲しませたりすることになるんだよ!」
「ガルヴォルスを倒さないと、みんな浮かばれねぇんだよ!ヤツらに手を差し伸べたら、ヤツらに殺されたみんなの思いがムダになっちまう!」
必死に訴えかけるガクトとサクラ。悟のことを思っていた彼女は、ガクトと完全と対立する覚悟を決めた。
「もしもこれ以上、悟に危害を加えるなら、私が悟をかばうから!」
「・・やってみろよ・・・!」
立ちはだかるサクラに対し、ガクトが敵意を見せつける。その顔には、ガルヴォルスへの変貌を表した紋様が浮かび上がっていた。
店を飛び出したかりんと華帆のことが気がかりになっていた利樹。美代子も心配はしていたが、慌てても仕方がなく、また彼女たちのことを信じていたので、彼女は外に出ようとはしていなかった。
しかし利樹はそこまで落ち着いてはいなかった。心配でたまらなく、ついに腰かけていた椅子から立ち上がる。
「やっぱり、オレもお姉ちゃんたちを追いかけるよ!」
「利樹くん、ここは待っていましょう。かりんちゃんたちは必ず帰ってくるから。」
飛び出そうとした利樹を、美代子が微笑みながら呼び止める。しかし利樹は腑に落ちない。
「でもやっぱり・・ただ待ってるなんてこと、オレにはできない!」
利樹は美代子の制止を聞かずに、そのまま店を飛び出していった。美代子は追いかけようとせず、ただ沈痛の面持ちを浮かべるしかなかった。
戦いの傷を完治させようとしている悟。しかしかりんが生きていたことが気になって仕方がなく、思いつめながらも彼女に問いつめることにした。
「かりんさん、こんなことを聞くのは心苦しいんだけど・・」
「えっ・・?」
悟の声にかりんが当惑を見せる。彼が何を言おうとしているのか感付いていたため、夏子は緊張を覚えた。
「構いませんね、先輩?このままでは、どうも気になってしまって・・」
夏子に確認を取って言いとがめてから、悟は当惑を浮かべているかりんに視線を戻す。
「かりんさん、あのとき、オレは反射的だけど、手加減せずに攻撃を加えようとした。君は瑠那さんをかばおうとしてそれを受けた。普通の人間じゃ、この全力の攻撃を受けてまず無事ではいられないだろう。それなのに、君はこうして生きている。なぜなんだ・・?」
「それは・・・」
真剣に問いかけてくる悟に、かりんは答えることを躊躇する。
「・・危ない!」
そのとき、夏子が突然悟とかりんを突き飛ばす。横倒しになる2人が顔を上げると、夏子がまばゆい光を受けて束縛されていた。
「先輩!」
「夏子さん!」
悟とかりんが叫ぶ先で、夏子が苦悶の表情を浮かべながら、必死に声を振り絞る。
「悟くん・・かりんさんを連れて・・逃げて・・・」
光に包まれた夏子の体が徐々に収縮されていく。力なく地面に落ちた彼女は、光の効果で人形にされてしまった。
「人形・・・ガルヴォルスの仕業か・・!」
悟は身構えて周囲をうかがうが、満身創痍の体が彼に痛みを訴えてくる。
「ダメです、悟さん!そんな体で戦うなんて!」
「いや、かりんさん、今戦えるのはオレしかいない。君はここから早く逃げるんだ。」
心配するかりんに逃げるように促す悟。彼らの前に1人の少女が現れる。大人しそうなメガネの少女が、妖しく微笑みかけてくる。
「悪いけど、そのお姉ちゃんにはあたしのお人形になってもらったからね。」
その少女の顔に紋様が走る。そしてその体質が無機質のものへと変化する。
「そこのお兄ちゃん、お姉ちゃん、あたしと一緒に遊ぼう。」
怪物へと変貌した少女、マリオネットガルヴォルスが、悟とかりんを優しく誘う。
「かりんさん、早く逃げるんだ!」
悟は満身創痍の体を突き動かして、ガルヴォルスに変身して少女に立ち向かう。少女は手の指先からきめ細かな糸を伸ばす。
悟は飛び上がってそれをかわす。少女が空中に退避した悟を見上げて微笑む。
「そんなに逃げないでよ。つまんなくなるじゃない。そんなことしちゃうなら、こういうことして遊ぶからね。」
そういって少女は指先の糸を動かし、いつの間にかばらまかれていた人形たちにつなげる。するとその人形たちが、まるで意思を持ったかのように動き出し立ち上がる。
「これは・・・!?」
緊迫を覚える悟に、人形たちがいっせいに振り向く。
「さぁ、お人形さんたち、そこのお兄ちゃんと遊んであげて。」
少女がそういうと、人形たちが悟に向かって飛びかかってきた。人形を使った奇策に翻弄されながらも、悟は反撃に転じようとした。
しかし人形に攻撃しようとした悟の動きが止まる。迫ってくる人形の中に、少女に人形にされた夏子の姿があった。
「まさか、この人形全て・・!?」
悟はとっさに人形の群れから抜け出して着地する。そして人形たちの中にいる夏子に眼を向ける。
(どうなってるの・・さっきまで手や足が全然動かせなかったのに、体が勝手に動いてしまう・・・!)
毒づく夏子の心の声が、悟の脳裏に響いてくる。
「こんなことが・・迂闊に攻撃すれば、人形にされた人たちまで傷つけることになる・・!」
攻撃の手を封じられた悟の前に、少女の糸に操られた人形たちが立ちふさがる。
「こうなったら、違う姿に変身して、一気に詰めて動きを封じるしか・・!」
悟は速さを重視した姿への変身を試みる。
「ぐっ!」
そのとき、傷ついた体が悲鳴を上げて悟は苦悶の表情を浮かべる。満身創痍の体の訴えで、別形態への変身が妨げられる。
そこへ人形たちがいっせいに悟に突進してきた。人形とは思えないような強い突進に、攻め手を欠いた悟は防戦一方のまま突き飛ばされる。
傷つき倒れた悟が横転し、人間の姿に戻ってしまう。立ち上がることさえままならなくなった彼の眼に、困惑を見せているかりんが飛び込んでくる。
「か、かりんさん・・早く逃げるんだ・・・オレに、構わず・・・」
残った力を振り絞って、かりんに呼びかける悟。しかしかりんはこの場から逃げようとはしない。
それどころか彼女は戦いの場に歩み出てきた。その彼女の行動に悟が眼を疑う。
「悟さん、教えてあげます。これが、私が生きていられた理由なんです・・・」
かりんの言ったことの意味を、悟は分からずに当惑する。その反応を気にせずに、かりんは眼前のマリオネットガルヴォルスと人形たちを見据える。
体に力を入れる彼女の手の指先が硬直を見せる。そして何かを奮い立たせるような様子を見せる。
そして力を込めているかりんの顔に異様な紋様が浮かび上がる。
「何っ・・!?」
悟はその変貌に眼を疑う。彼の眼の前でかりんが叫び声を上げる。
その瞬間、かりんの姿が異様なものへと変化する。その体からは淡い赤の殺気があふれているように見えた。
兜や仮面のような硬さを備えた頭部。両肩には小さな数本のトゲ。右手でえん曲の刃の鎌を握っていた。
その姿はまさに死神そのものだった。
デッドガルヴォルスに変身したかりんに、悟も、人形にされている夏子も驚愕を覚えていた。
次回
「あなたがガルヴォルスだったなんて・・・!?」
「これでガクトとの犬猿の仲がさらに悪化しちゃうかな。」
「それでもあたしは、かりんのことを信じてる。」
「お前が久恵を・・オレの家族を!」