ガルヴォルスextend 第13話「Die・決闘」

 

 

 突然、死んだはずのかりんが、何事もなかったかのように眼を覚まし、ゆっくりと椅子から立ち上がっていた。そして驚愕している美代子たちに、きょとんとした面持ちを見せる。

「あれ?美代子さん・・・ここは・・セブンティーン・・・」

 かりんが店内を見回しながら、揺らいでいる記憶を巡らせる。

「そういえば、私・・瑠那をかばって、それで悟さんに・・・」

 悟からの攻撃を受けたときの光景と衝撃が脳裏に蘇る。その一撃で死んだのだと彼女も薄々自覚していた。

「かりん・・どうして・・・!?」

 華帆が困惑しながらも声を振り絞る。

「そうだ・・美代子さん、ガクトは?悟さんは?瑠那は?」

 かりんに問いかけられて、美代子がようやく我に返る。

「あっ・・みんな、外に出てしまったわ。その直前、ガクトさんが悟さんに対して、何だか険悪なムードだったみたいで・・」

 その言葉にかりんは不安を覚えた。

(もしかして、ガクト・・悟さんと・・・!?)

 かりんは思い立って、たまらず店を飛び出した。

「かりん!」

 華帆もたまらずにかりんの後を追いかけて店を出た。

 かりんは最悪の事態を恐れていた。自分の死によってガクトがガルヴォルスへの憎しみをさらに募らせ、その矛先を悟に向けているのではないか。

 瑠那のことも気がかりにしながらも、彼女は事態が悪化しないことを心から願った。しかし彼女の願いも虚しく、今まさに最悪の事態が起ころうとしていた。

 

 悟に言いつけられて、サクラはひとまず事務所に戻ってきた。彼女の帰りに夏子が振り向いてくる。

「ただいまです、夏子さん・・」

「おかえりなさい、サクラさん・・悟くんは?」

 悟がいないことに気付いて、夏子がサクラに問いかける。

「悟なら瑠那さんを探しに1人で・・私も一緒に行こうと思ったんですが、1人で行くと言って・・」

「1人で・・まずいわ!」

 サクラの話を聞いた夏子がとっさに立ち上がり、椅子にかけていた上着をつかみ上げる。

(これ以上、2人を戦わせるわけにはいかないわ!)

 不安の現実化を予感して、夏子は慌しく事務所を飛び出していく。

「夏子さん!」

 サクラも慌てて彼女を追いかける。

(ガクト、悟くん、早まったマネをしないでよ!)

 2人の安否を祈りながら、夏子は2人のところに急いだ。

 

 ガルヴォルスへの変身を遂げ、互いをにらみ合うガクトと悟。もはや互いに敵同士でしかない。倒さなければならない存在だと認識していた。

「お前らガルヴォルスのせいで、みんなが傷つくことになるんだ・・そんなヤツら、オレが滅ぼしてやる!」

「お前は人の心までも壊そうとしている!だからオレはお前を倒す!」

 感情の赴くままに言い放つガクトと悟。先に攻撃を仕掛けてきたのはガクトだった。

「どこまでも・・お前らは!」

 右の拳を振りかざして悟に向けて突き出す。悟もこの攻撃に対して拳を振るう。

 2つの拳が衝突し、激しい火花が閃光のように飛び散る。2人の咆哮も荒々しくぶつかり合う。

 その激突が反発し、その反動で再び距離を取るガクトと悟。息は乱れていないが、怒りのために歯ぎしりを浮かべていた。

(ガクト、オレはお前を倒す。お前のしていることは、絶対にかりんさんのためにも、他の誰かのためにもならない。)

(悟、オレはお前を許さない。みんなを騙して、かりんを殺したお前を・・お前を!)

 胸中で互いへの憎悪をたぎらせる悟とガクト。いきり立ったガクトが剣を具現化し、再び悟に向けて飛びかかった。

 

 都心から離れたとある女子校。自然があふれているこの学校は、昼休み、校庭では元気に遊ぶ女子たちでにぎわっていた。

 そこへ一条の閃光が注がれる。それを不審に思って、女子たちが足を止めて空を見上げる。

 太陽の光ではない。太陽とは違うきらびやかな輝きだった。

 そのとき、校庭にいる女子たちの何人かが、突然苦悶の表情を浮かべてうなだれる。ボールを持っていた人が、手からボールを落とす。

 苦痛を感じてふらつく女子たちが次第に増えていく。同時に降り注ぐ光がさらに強まる。

 そして苦しんでいた女子たちが脱力し、その体が徐々に縮小されていく。校庭の地面に次々と倒れていく彼女たちは、その後全く動かなくなってしまった。

 光が治まり、校内に静寂が訪れた。その校舎の屋上に、妖しく笑う1人の少女がいた。しかしそれは人間ではなく、マネキンに見えるような姿をしていた。

 光は彼女が放ったものだった。手から放たれるこの光を受けた人は、体を収縮されて人形になってしまうのである。

「いい気味ね。あたしをいつまでも子供扱いした罰よ。君たちは子供だと思っていたあたしに、好きなように遊ばれるんだからね。」

 人間の姿に戻った少女が満面の笑みを浮かべる。メガネをかけていていかにも大人しそうに見える、この学校の制服を身に付けた少女だった。

 人形遊びに凝っていた彼女は、周りから子供扱いされていた。それを不快に感じていた少女は、いつしかマリオネットガルヴォルスへの変貌を遂げていた。

 その力を使って、少女はついに学校内の女子たちを人形に変えることを思い立ったのである。

 しかし、彼女の企みとガルヴォルスの力はこれだけに留まらなかった。

 

 ガクトたちのことが気がかりになり、街中を駆けていたかりん。

 切羽詰った心地で駆けつける彼女。曲がり角を曲がったところで、彼女は正面衝突してしまう。

「キャッ!」

 しりもちをついたところで、ぶつけた鼻を押さえて痛がるかりん。

「えっ!?か、かりんさん!?」

 前から聞こえてくる驚きの声にかりんは顔を上げる。そこには動揺をあらわにしている夏子とサクラの姿があった。

「サクラさん、彼女があなたの言っていた、紫堂かりんさん・・・!?」

 サクラが頷くのを見て、夏子も改めて驚きをあらわにする。

「でもあなた、瑠那さんをかばって、命を落としたはずじゃ・・!?」

「・・今はそれどころではないです!早くしないと、ガクトと悟さんが!」

「待って!」

 かりんが話を切り捨てて再び駆け出そうとしたところを、夏子が腕をつかんで呼び止める。

「あなたも悟くんたちのところに行くつもりなの!?なら私たちと同じ目的地ね。」

「えっ?」

 夏子が笑みを浮かべると、かりんが一瞬きょとんとなる。

「私は私立探偵、秋夏子よ。よろしく。」

「はい、こちらこそ。」

 笑みを見せ合って、夏子とかりんが握手を交わす。そしてすぐに彼女たちはガクトたちのところに向かった。

 

 ガクトと悟の戦いは熾烈を極めていた。悟が具現化した剣とガクトの剣がぶつかり合い、周囲に激しい振動を及ぼす。

 ガクトはガルヴォルスの憎悪を徐々に増しながら、それを力に変えて悟に叩き込む。しかし悟も負けまいと押し返す。

 再度距離をとって互いを睨みつけるガクトと悟。言い放つカオスガルヴォルスの影から悟の思念が現れる。

「お前も分かっているだろう。オレが別の姿を持っていることを。そしてお前はオレの速さに追いつけてはいない。」

 悟の言葉にガクトが毒づく。

「今までは逃がしてきたけど、もうそうはさせない・・人間の心を守るため、オレはお前を倒す!」

 悟の姿が変貌を遂げる、速さを重視した2つ目の姿に。

 眼にも留まらぬ速さで驚愕するガクトに一気に詰め寄り、剣を振り抜く。ガクトは紙一重で剣で受け止めるが、速い攻撃に圧倒されて突き飛ばされる。

 しかし悟の攻撃は留まることを知らない。次々と剣が振り下ろされて、ガクトは反撃もままならなくなっていた。

(ぐっ!本気で逃がさずにオレをやるつもりなのか!)

 ガクトは次第に苛立ちを募らせて、咆哮を上げながら強引に反撃に転じようとする。そこにできた隙を、悟は的確に捉えた。

 大振りしたガクトの右わき腹を狙って、素早く剣を突き出す。ガクトがとっさに剣を動かして受け止めようとする。

 しかし悟の剣の切っ先は、ガクトの剣を弾き飛ばし、さらに彼の右肩をも穿つ。

「ぐあっ!」

 苦悶の表情を浮かべたガクトが、悟に突き飛ばされる形で地面に叩きつけられる。それでも相手の姿を捉えようと必死に眼を開く。

「もう容赦はしない。今度こそとどめを刺してやる!」

 悟が剣の切っ先を向けて言い放つ。そしてまたも速い動きで突っ込んでくる。

 ガクトが眼を見開いた瞬間、眼前の地面が大きくえぐられて爆発を起こす。砂煙とともにガクトが吹き飛ばされる。

 その姿を捉えていた悟が振り向き、間髪置かずに飛び掛って剣を振り上げた。

 

 ガクトの脳裏に、幼いながらも笑顔を見せる妹、久恵の姿が蘇ってきていた。彼女や両親の存在が、彼の心のよりどころとなっていた。

 久恵は歌が好きだった。歌うのも、歌の歌詞を考えるのも。そして彼女は英語が好きだった。だからときどき面白い英語の歌詞の歌を考えたりもしていた。

 彼女の作詞に、ガクトは心を癒されたりもしていた。このひと時が、何よりもかけがえのないものだった。

 しかしその笑顔は、あの悲惨な出来事で一瞬にして消えてしまった。久恵の体は砂のように崩れて、その亡がらさえも残らなくなってしまった。

 ガクトは涙した。悲しみのあまりに泣き叫んだ。

 その悲しみを心に秘めていたところで、彼はかりんと出会った。人助けをしたというのに、その恩を仇で返されるという最悪の出会いだった。

 しかも同じ店で働くことになり、ガクトは憮然となるしかなかった。口が悪く愛想がなく、すぐに文句を行ってくるイヤなヤツ。それが彼にとっての彼女の第一印象だった。

 だが、亡くなった両親のことを心の底から思っているかりんの姿を見たとき、ガクトは揺らいだ。本当は大切なものを人一倍に大切にする優しい少女だったのだ。

 ガルヴォルスを倒すことだけでなく、彼女のような笑顔を絶やさないようにすること。ガクトはさらなる決意を心に秘めた。

 その矢先のことだった。

 かりんが悟によって命を落としたのだった。ガルヴォルスを信じたばかり、そのガルヴォルスに裏切られて、そして殺された。

 あまりにも馬鹿げたことと思った。しかしそう簡単に割り切れるほど安直なものでもない。

 失った命は帰らない。その命の重みが、ガクトの胸にのしかかる。

(かりん・・どうしてお前が死ななくちゃいけないんだ・・・どうして・・・)

 ガクトがかりんに対して悲痛さを感じる。どんなに願っても彼女は帰ってこない。そう思っていた。

(ガルヴォルスを信じようだなんて馬鹿げてる・・けど、それでもお前はお前なりに何かしたかったんだよな・・・)

 かりんに対する思いが強まり、ガクトの拳にも力が入る。

(もう苦しむことはないよ、かりん・・お前のように傷つく人を増やさない。みんなを守りたい・・・だから・・)

「こんなことで・・こんなことでオレは!」

 ガクトの中で何かが弾けた。

 

 悟がとどめを刺そうと素早く間合いを詰めていく。しかし剣を振り下ろそうとしたところで、彼は攻撃の手を止める。

 ガクトの姿が変貌を遂げていた。本来のものよりも機敏で、翼の形も研ぎ澄まされたものとなっていた。

 紅い眼光を光らせながら、ガクトが荒々しく吼える。そして悟に勝るとも劣らない速さで、悟に一気に飛び込んだ。

「ぐっ!」

 強い衝撃を受けて突き飛ばされる悟。高速化されたガクトの動きに、彼は脅威を覚えだしていた。

 

 いくつかのモニターだけが活動している暗い部屋。荒々しい光景を映し出している画面を見て、1人の男が不敵に笑った。

「竜崎ガクトと速水悟・・2人ともガルヴォルスとしては飛びぬけているな。」

 男は腰かけていた椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

「それだけに惜しいな。2人を戦わせるには・・」

 出る直前にモニターを横目で見て、男は残念そうにため息をついた。

 そこへ紳士服に身を包んだ1人の女性が現れた。彼女は身をかがめて、男に頭を下げる。

「隠密からの報告です。強大な力を備えたガルヴォルスを発見したとのことです。所属している女子校の生徒たちを人形に変え、それら全てを抱えて姿を消したそうです。」

「そうか。分かった。とりあえず様子見ということで。近いうちに僕が交渉に向かうよ。」

 女性の報告に男が頷く。すると女性は音もなく姿を消した。

「さて、この勝負、どちらが生き残るのかな?せめてどちらか1人でも、こちらの側に引き込みたいところだよ。」

 モニターに映っている戦いを気にかけて、男は再び笑みをこぼした。

 

 新たな姿に変化したガクト。その姿の脅威的な速さを持って、悟の速さに追いついていた。

 これでガクトと悟の速さはほぼ同等。しかし全体の優劣まではそうはいかなかった。

 悟の第2の姿は、速さが増大される分、攻撃力が低下する。しかしガクトの変身に力の低下が全く見られない。

 力の代償の違いで、悟は劣勢を強いられていた。

(ダメだ!力不足で決定打を与えられない!かといって元に戻れば、逆にスピードで追いつけなくなる!)

 胸中で毒づきながらも、悟はガクトの攻撃をかいくぐれずにいた。痛烈な一撃を腹部に叩きつけられ、紅い吐血をする。

 上空に突き飛ばされた悟が息を荒げる。このままではいずれやられることになる。

 着地してその悟を見上げるガクト。しかし彼にも余裕がなくなっていた。

(くそっ!この姿、体力の消費が激しすぎる・・あんまり長引かせると、倒す前にこっちが参っちまう!)

 体に響く苦痛に耐えながら、ガクトが決着を急ぐ。剣を具現化して、力強く柄を握り締める。

 高らかと叫び声を上げながら、悟に向けて飛び上がる。

(このままやられるくらいなら、この一撃を、確実に倒すためだけに!)

 覚悟を決めた悟が本来の姿に戻る。かわされることになっても、力で負けるわけにはいかないと思い、この一撃に全てを賭けようとしていた。

 剣を構え、向かってくるガクトに対して悟も飛び出した。

「ガクト!」

「悟!」

 感情の赴くまま、敵であるものを絶対に倒すため、怒りの刃が突き出される。

 2つの刃は荒々しく、かつ的確に衝突した。刃と膨大な力の激突によって、巨大な爆発が起こる。

「があぁぁ!!」

「ぐああぁぁ!!」

 絶叫を上げながらその爆発で吹き飛ばされるガクトと悟。2人は体勢を立て直すほどの余力すらなく、そのまま川の中に落ちていった。

 

 荒々しい衝突に気付いて、かりんや夏子たちが足を止める。

「この爆発は・・!?」

 夏子が突如怒った空の爆発に困惑を見せる。

「まさか!?」

 不安を覚えたかりんが、止めていた足を再び動かした。

「あっ!かりんさん!」

 夏子もサクラも、そしてようやく追いついた華帆もかりんを追いかけていく。

 上空に漂っている爆発と黒い煙。かりんたちが眼を凝らすと、その中から2つの影が飛び出してきた。

 煙に巻かれているため、その明確な姿を捉えることが彼女たちにできなかった。呆然と見つめていると、その影は落下して下の川に落ちていった。

 それはガクト、悟の危機的状況を忠実に物語っていた。

「そんな・・・悟!」

「ガクト!」

 愕然としながらも叫ぶサクラとかりん。暗雲が残る空に、彼女たちの声がこだました。

 

 涼しげな雰囲気の街中の川。一定の流れのないその川に漂う2人の体。

 全ての力を解き放ち、ガクトと悟は川の中をさまよい、すれ違っていた。

 薄れゆく意識の中で、彼らは互いの倒すべき相手と想う人の姿を見据えていた。

 様々な思いとやるせなさを交錯させながら、2人は傷ついた体を揺り動かすこともできず、流れと呼べないほどの川の流れに身を任せるしかなかった。

 

 

次回

第14話「すれ違う心」

 

「あなた、セブンティーンにいた・・!?」

「かりんさん、生きていたのか・・・!?」

「悟はみんなのことを心から思っているんだよ!」

「ガルヴォルスを倒さないと、みんな浮かばれねぇんだよ!」

「これが、私が生きていられた理由なんです・・・」

 

 

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