ガルヴォルスextend 第12話「悲壮の雷鳴」
かりんの死に悲しみに暮れるガクト。部屋の前で、医師が深刻な面持ちで声をかける。
「紫堂さんのご遺体、鷲崎さんのお宅に引き渡したいと思います。今すぐ準備いたしますので・・・」
「いや・・・オレが運ぶ・・・」
医師の計らいをあえて断り、かりんを抱えて部屋を出るガクト。医師や入院患者たちに困惑の眼で見られながら、彼は病院を後にした。
(かりん、お前はバカなヤツだ・・・あぁ・・ホントにバカなヤツだったよ・・・ガルヴォルスを信じようだなんて・・・そのせいでお前は・・・)
街中を歩きながら、ガクトがかりんのことを思う。
(コイツと会うとケンカしてたっけか・・バカみてぇに突っかかってきやがって・・・)
瞳を閉じている彼女の顔を見て、ガクトが物悲しい笑みを浮かべる。
(オレもバカなヤツだ・・ほんの少しでも、ガルヴォルスを信じようとしてたんだから・・・)
ガクトの眼から涙があふれ、かりんの頬にこぼれ落ちる。
(オレが守りきっていたらよかったんだ・・オレが無理矢理にでもお前と瑠那を引き離していれば、悟に会わせないようにしていれば・・こんなことには・・・!)
周囲の困惑の眼などお構いなしで、ガクトはかりんの死を悲しんだ。やがてその悲しみは、次第にガルヴォルスに対する憎しみへと変わっていった。
瑠那をかばったかりんを手にかけてしまったことを悔やむ悟。彼の口からそのことを夏子とサクラも利かされていた。
「そんな・・・!?」
「かりんちゃんが・・・!?」
夏子が愕然となり、サクラが悲しみに暮れる。悟自身もどうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。
「悟くん・・あなたは瑠那さんのことを思って戦ったんでしょう?だったら、誰もあなたを悪く思ったりしないわ。」
「先輩・・・」
悟が顔を上げると、夏子が優しく微笑みかけてきていた。
「そんなに自分を責めないほうがいいわよ。」
しかし彼女の励ましを受け入れても、悟はなかなか割り切れないでいた。
「かりんさんが・・死んだ・・・!?」
かりんを抱えてセブンティーンに戻ってきたガクト。彼から美代子たちは、かりんの死を知ったのだった。
その驚愕の事実に、美代子は愕然となった。
「そんな・・・かりん!」
華帆が悲しみのあまりに胸を押さえる。利樹はあまりに突然のことに呆然となっていた。
かりんを空いているテーブル席に座らせて、ガクトはそれを沈痛の面持ちで見つめていた。
(かりん・・もうお前のように、傷つけるヤツをみんな倒すから・・・)
眼からあふれている涙を拭い、ガクトは決意する。
(オレが全部倒すから・・・オレが・・・!)
今まで望んでいた、ガルヴォルスを倒すことを。今度こそ。
そんな重く沈んだ空気の店のドアが開いた。悟が困惑の面持ちで店を訪れてきた。
「あ、悟さん・・・」
美代子が動揺を見せながら、悟に声をかける。しかし悟は困惑のあまりに反応を見せない。
華帆も沈痛の面持ちで悟を見ていた。しかしその中で、ガクトだけが苛立ちを感じていた。
「かりんさん・・・オレの・・オレのせいで・・・!」
胸を痛める気分を感じながら、悟はおもむろにかりんに手を差し伸べた。しかしそこへ拳が振るわれ、悟は殴られて倒れる。
殴られた頬を手で当てながら顔を上げると、怒りをあらわにしたガクトが立っていた。
「ガクト・・・」
「何しにきやがったんだ・・お前・・・!?」
ガクトが低い声音で、困惑する悟に言い放つ。
「お前に・・かりんに会う資格はない・・・かりんを殺した、お前には!」
彼の言葉に、美代子たちが息をのむ。悟は彼の怒号に困惑を見せる。
「オレはお前を許さない。ガルヴォルスを許さない!オレにとってガルヴォルスは全て敵だ!ヤツらを見過ごすつもりはない!」
きびすを返し、ガクトは店を出て行こうとする。ドアの手前で足を止めて、最後に言い放つ。
「オレはガルヴォルスをブッ潰す・・・1人残らず!」
そしてガクトは店を後にした。彼が去っていくのを、美代子も華帆も利樹も困惑を浮かべたまま見送るしかなかった。
彼の憎しみを込めた言葉に、悟は一抹の憤りを覚えだしていた。
かりんの死とガクトの怒りに直面して、悟は何もできず、にぎわう街中で途方に暮れていた。
彼が恐れている最悪の事態は、徐々に現実味を帯びて降りかかろうとしてきている。ガルヴォルスの滅亡を望むガクトと、生死を賭けて戦うことになると。
迷いから脱せない彼の肩を優しくかける手があった。振り向くとそこには笑顔を作るサクラがいた。
「サクラ・・・」
「悟は瑠那さんのことを、かりんちゃんのことを思って、いろいろ悩んでやったんでしょ?・・かりんちゃんも、きっと分かってくれるよ。」
「サクラ・・・ダメだ。たとえかりんさんが許しても、オレはオレを許せないんだ・・・それに・・・」
「それに・・?」
「ガクトは全てのガルヴォルスを滅ぼそうとしている。多分、1番オレを憎んでいると思う。彼と戦うことになるかもしれないんだ・・・」
悟の不安にサクラも動揺を見せる。これから事態がどうなっていくのか、彼らは予想さえつかなくなってしまっていた。
「とにかく、オレは瑠那さんを探してみるよ。人間に戻るにしろ、ガルヴォルスになってしまうにしろ、彼女を放ってはおけない。」
「なら私も・・」
サクラが協力しようとすると、悟は首を横に振る。
「サクラは事務所に戻って、先輩を助けてあげて。あの人も何かといろいろ抱え込んでいるみたいだから。」
「そう・・分かったよ。悟も気をつけてね。」
「ありがとう、サクラ。」
2人は振り返り、各々の目的のために動き出した。
ガルヴォルスを求めて街をさまよっていた。
どんな小さなガルヴォルスも見逃さずに根絶やしにする。どんな小さな火種でも、放置すれば必ず災いを引き起こすことになる。彼はそう思っていた。
しかし彼はいつしか、秋探偵事務所の前に辿り着いていた。そしてそこで夏子とも対面した。
2人は困惑を見せることなく、真剣に互いを見据える。雑踏の中の沈黙を先に破ったのはガクトだった。
「ワリィが、もうアンタの出番はない。オレがガルヴォルス全員、この手で倒してやるから。」
そう言い放ってこの場を立ち去ろうとしたガクトの腕を、夏子はたまらずつかむ。
「ちょっと、何考えてんのよ!?」
「何すんだよ!」
その手を振り払い、夏子をねめつけるガクト。しかし夏子は下がらない。
「ガルヴォルスの中には、人間の心が残ってる人もいるのよ!そんな人まで殺すというの!?アンタは人殺しになろうとでもいうの!?」
「何言ってんだよ!?ガルヴォルスは人間の敵だ!体や命だけじゃなく、心まで弄ぶ!そんなヤツら、オレが全部ブッ倒してやる!」
ガクトが言い放つと、夏子は上着の内ポケットに手を伸ばす。そこには常備している銃が収められている。
「無闇にガルヴォルスを倒そうとするなら、私はアンタを止めなくてはいけなくなる。最悪、敵として対立することも。」
夏子は覚悟を決めていた。どんなことをしてでも、今のガクトを止めなくてはいけない。そう思っていた。
しかしガクトは苛立ちをあらわにして、
「止める相手が違うだろ・・アンタもガルヴォルスを何とかしたいって思ってるんだろ!?」
憤りを感じる彼の顔に紋様が浮かび上がる。
「もしも邪魔をするっていうなら、アンタでも容赦しねぇ!」
そういってガクトは夏子とすれ違う。ガルヴォルスへの変身の前兆を表す紋様は、同時に消えてしまっていた。
「ガクト・・・!」
夏子は呆然とガクトを見つめるしかなかった。最悪の事態に対する不安を覚えながら、彼女はひとまず事務所に戻ることにした。
街外れに巻き起こる少女たちの悲鳴。ガルヴォルスの狂気に駆られた瑠那の吐き出した青白い有毒ガスによって、下校途中だった少女たちが悶え苦しみ、最後には固まって事切れた。
それを目の当たりにした瑠那が我に返り、再度愕然となる。今度はまだ幼い子供にまでその毒牙にかけてしまったのだ。
「どうしたら・・どうしたらいいの・・・かりんも死んじゃって、私を助けてくれる人はもう・・・」
自分の中の狂気に、どうにもならなくなってその場に座り込む瑠那。
「瑠那さん!」
そこへ騒ぎを聞きつけて、瑠那を探していた悟が駆けつけてきた。彼の登場に、瑠那は動揺をあらわにする。
悟は周囲を見回して、現状を把握する。ガルヴォルスの力を制御できなくなった瑠那は、少女たちを固めて殺めてしまっていた。
悟は気を落ち着けて、ゆっくりと歩み寄る。怯えて離れようとする瑠那を優しく抱きとめて、笑みを見せて頷く。
「瑠那さん、気持ちをしっかり持つんだ。かりんさんのことを思うなら。」
悟の言葉に瑠那は眼を見開く。今まで自分を中から苦しめていた何かが弱まったような気分を感じた。
「ガルヴォルスの力に囚われるのは、必然なものじゃない。力に溺れてしまうかどうかなんだよ。君がガルヴォルスの力に負けるかどうかは、あくまで君自身なんだよ。」
「私自身・・・」
悟の呼びかけに瑠那の心が揺らぐ。自分自身の心のあり方で、自分が白にも黒にもなるのだと。
「君であり続けるんだ。そして、かりんさんのためにも生きていかないと・・」
彼の励ましに瑠那の中に強い気持ちがあふれてきた。迷いと不安が雲のように晴れ渡り、かりんへの強い思いへと確立していく。
「悟さん、私、生きていきたいと思います。そして、私の中にあるガルヴォルスに打ち勝ちたい・・」
「瑠那さん・・・」
彼女の決意に悟は安堵の笑みを浮かべた。彼女の心を救えたと思い、彼は安心感と満足感を覚えていた。
しかしそこまで辿り着くまでに、大きな犠牲を生み出してしまった。かりんは瑠那を守ろうとして、命を落としてしまった。もっと早くこう言ってあげればよかった。もっと早く気付くべきだった。
悟は満足と同時に、強い後悔を覚えていた。
そのとき、周囲の空気が一気に重くなったような不快感を悟は感じた。動揺を浮かべて振り向くと、その先にはガクトの姿があった。
「ガクト・・・!」
悟は眼を見開いてガクトを見つめる。ガクトは敵意をむき出しにして、悟と瑠那を睨みつけている。
「オレはガルヴォルスを倒す・・1人も逃がすつもりはねぇ・・・」
怒るガクトの顔に紋様が浮かび上がる。
「お前らがどんなことをしようと・・お前らの罪は許されねぇ・・かりんを殺した、ガルヴォルスの罪は!」
その姿が竜の怪物へと変貌する。怒りに満ちたガクトの姿からは、殺意が紅い霧のようなものとなってあふれているようだった。
悟はガクトの言動に思わず身構える。そして傍らにいる瑠那に眼を向ける。
「瑠那さん、逃げるんだ!」
悟は瑠那を突き放し、ガクトと対峙する。カオスガルヴォルスに変身し、剣を出現させて駆け出す。
ガクトも剣を出して悟の攻撃を受け止める。2つの刃が重なり、2人の心が激突する。
その合間に、瑠那が悟に言われたとおりにこの場を離れようとする。しかし、それを見逃すガクトではなかった。
剣に力を込めて、悟をこのまま押し切ろうとする。悟も負けじと踏みとどまる。
しかし悟の脳裏に、かりんの顔が蘇る。
ガルヴォルスの心を取り戻させるために戦い、かりんをその戦いに巻き込み、そして傷つけてしまった。
その後悔の念が、この戦いへの迷いを生み出してしまう。
ガクトに一気に押し切られて、悟は突き飛ばされる。そしてガクトの追撃に押され、壁に叩きつけられたところで人間の姿に戻ってしまう。
攻め気をなくした彼を見て、ガクトも戦意をそがれる。嘆息をつこうと思ったが、ガクトは逃げる瑠那に振り返る。
「逃げるな!」
ガクトが憤慨して飛び上がる。そして逃げ出していた瑠那の前に立ちはだかる。敵意を見せつける竜の怪物に、瑠那は立ち止まって動揺する。
「逃がさないと言っただろ!お前は、かりんの気持ちを踏みにじったんだぞ!」
憤慨したガクトの姿が再び変貌を遂げる。本来の竜の殻を破り、新たな姿が現れる。
背中の翼は解き澄まされたとげのように伸び、速さにものをいわせるような姿だった。
瑠那はその驚異に圧倒されてしまい、思わずガルヴォルスに変身してしまう。だが、ガクトは全く動じず、瑠那に向かって飛びかかった。
その速さは通常のものを遥かに凌駕していた。眼にも留まらぬ打撃の連続が、次々と瑠那に叩き込まれていく。
速さでは指折りなタイガーガルヴォルスだが、真の姿を見せたドラゴンガルヴォルスの速さのほうが上だった。
幾度か攻撃を与えた後、ガクトは剣を出現させる。
「よくも、よくもかりんを!」
その剣を全力で振り下ろす。その狂気の刃が、容赦なく瑠那の体を切り裂く。
「あっ・・・!」
そこへ満身創痍の悟が駆けつけるが、彼はガクトの手にかかって、瑠那の体から鮮血が飛び散る。紅い血をまき散らしながら、彼女が人間の姿に戻る。
力なく倒れる瑠那が、驚愕をあらわにする悟に手を伸ばす。
「悟さん・・わた・・し・・・」
弱々しく瑠那が呟く。その伸ばされた手が、彼女の体が石のように固まり、砂のように崩れ去っていく。
悟はさらに愕然となった。守れたはずの心と命が、眼前の光景のように崩れ去ってしまった。
敵である存在の1人を倒し、方の力を抜くガクト。戦意を抑えた彼が、人間の姿に戻っていく。
「これで・・・かりん・・・」
ガクトが満足げな不敵な笑みを浮かべる。かりんのことを思いながらも、彼は彼女の親友を滅ぼしてしまったのだ。
「ガクト!」
そこへ憤怒した悟が、ガクトに向かって叫ぶ。振り返ったガクトの笑みが不気味なものとなっていた。
「瑠那さんは・・瑠那さんは人の心を取り戻した!それなのに、お前はその彼女を殺したんだぞ!」
怒る悟が叫び続けるが、ガクトは全く動じず笑みを強める。
「ガルヴォルスに心なんてない。オレは、かりんを殺したバケモノを倒した。それだけのことなんだよ。」
その言葉が、悟の中に秘めていた怒りを爆発させた。
「お前!それでも人間の心を持っているのか!?かりんさんが、こんなことを望んでいるとでも思ってるのか!?」
「勝手なことを言うな!かりんを殺したのはお前なんだぞ!」
悟の怒りに、ついにガクトも激昂をあらわにする。
「これ以上、アイツと同じように苦しめるガルヴォルスを倒す!1人残らず!」
「ふざけるな!お前は心を取り戻そうとしているガルヴォルスさえも倒すというのか!」
怒りに染まる2人の顔に紋様が走る。
「悟!」
「ガクト!」
叫び声を上げると同時に、2人の姿がガルヴォルスに変わる。思いを違えた2人の青年が、今ここで激突しようとしていた。
かりんの死によって、セブンティーンの中は未だに重い空気に包まれたままだった。
その中で、利樹は悲痛にさいなまれながら、椅子に座られていた姉に歩み寄った。
「お姉ちゃん・・・父さんも母さんも死んで、お姉ちゃんまでいなくなったら・・オレ・・・」
悲痛の言葉をかりんにかける利樹。こらえようとしても涙があふれ、拭ってもどんどん頬を伝ってくる。
そんな状態で、利樹は深く眠っているかりんをじっと見つめる。もうその瞳が開かれることはない。
はずだった。
「えっ・・!?」
利樹がその瞬間に驚愕を隠せなかった。開くはずのないかりんの瞳が突然開かれたのである。
美代子も華帆も動揺を隠せないでいた。まるで死んでいたのが嘘だったかのように、かりんはゆっくりと椅子から立ち上がったのである。
次回
「かりん・・どうして・・・!?」
「これ以上、2人を戦わせるわけにはいかないわ!」
「人間の心を守るため、オレはお前を倒す!」
「こんなことで・・こんなことでオレは!」
「ガクト!」
「悟!」