ガルヴォルスextend 第11話「信頼と裏切り」

 

 

 瑠那を連れて、かりんと悟はセブンティーンに戻ってきた。美代子と華帆、そして入れ違いに店に訪れていた利樹が笑顔で彼らを出迎える。

「瑠那さん・・よかった、見つかったのね。」

「あ、悟さんも。もしかして、一緒に探してくれたんですね?」

 美代子が安堵し、華帆が悟の姿に気付いて声をかける。悟が彼女たちに微笑んで頷く。

「たまたまかりんさんにばったり会ってしまって、それで事情を聞いて・・」

 悟の説明を聞いて、一同が納得する。彼の言葉の一部に作り話であることをかりんは分かっていた。瑠那のことを気遣ってのことだろう、と。

 そのとき、誰かが悟の背中を軽く叩いた。彼が振り向くと、サクラが満面の笑みを浮かべていた。

「来たよ、悟、みなさん。あれ?初めての方が・・」

 一同に挨拶をしたところ、サクラは瑠那の姿に眼を留めてきょとんとなる。

「初めまして。私は諸星瑠那。」

「私は友近サクラ。よろしくね。」

 サクラが喜びながら手を差し伸べる。瑠那は微笑んで、彼女と握手を交わした。

「それにしても、何だかお疲れの様子ね。何があったか聞かないけど、ここはその疲れを取っちゃいましょう。」

 まるで自分の家にいるみたいな振る舞いを見せて、サクラが店内に入っていく。

 その後、ガクトが憮然とした面持ちを見せながら戻ってきた。

「あら、ガクトさん、おかえりなさい。」

「ただいまぁ。」

 微笑む美代子に、ガクトが気の抜けた挨拶を返す。それをよそに、サクラがかりんたちに振り返る。

「かりんちゃん、華帆ちゃん、瑠那ちゃん、一緒にお風呂でもいかが?」

「えっ!?お風呂!?」

 サクラの誘いに、なぜか歓喜を浮かべる利樹。しかしすぐにかりんのゲンコツを受ける羽目になった。微笑んでいる美代子の隣で悟が頬を赤らめている。

 そしてガクトは完全に赤面してしまい、硬直してしまった。彼はハレンチなことは、想像してしまうだけでも錯乱してしまうシャイな一面を持っていた。

 

 サクラの提案で、かりん、華帆、瑠那はバスルームにいた。少し広めの風呂場で、少女たちは裸の戯れをしていた。

「あぁ〜。気持ちいい!」

「もう、サクラちゃんったら。ここの住人じゃないのに、こんなに羽目外しちゃって。」

 サクラの振る舞いにかりんが苦笑いを浮かべて、華帆も瑠那も笑みをこぼす。

「それにしても、いいスタイルしてるね、サクラちゃん。」

 華帆に体のことを言われて、サクラが一瞬きょとんとなる。が、すぐに笑みを返す。

「そうかな?・・私、スタイルいいなんて言われたことなんてないから・・でもやっぱり、胸は・・・」

 自分の胸元を見て、気まずそうな面持ちを見せるサクラ。そしてかりんや華帆のふくらみのある胸を見て僻みの視線を向ける。

「みんな、いい胸してるね・・やっぱり男の人は、胸の大きい女がいいのかなぁ・・・?」

 突然の言葉にかりんたちが赤面する。かりんが何とか言葉を切り出す。

「べ、別にそう決まってるわけじゃないと思うよ。だいたい、そんな解釈で女を選ぶ男なんて切り捨てよ。」

 必死に弁解するかりんに、サクラたちが笑みをこぼす。瑠那も微笑んでいることに、かりんは胸中で喜びを感じていた。

 そのとき、サクラが意地悪そうな顔で突然後ろからかりんの胸に手をかけた。

「わっ!・・ち、ちょっと、サクラちゃん!?」

「私より大きくなってる胸の発育状況をチェックしてあげるわ。」

 嫉妬していると言わんばかりに、サクラがかりんの胸を揉みだした。こみ上げてくる快感にあえぎ声を上げながらも、かりんは必死に抗議の声をかけた。

 その2人の様子に、華帆も瑠那も笑顔を見せていた。

 

 この夜、瑠那がセブンティーンで1泊することが決まった。そして祝い事があるわけでないのに、美代子がパーティーを開くことを言い出した。

 彼女の提案にかりんもガクトも同意した。悟もサクラもこのパーティーに誘われ、参加することを決めた。

 パーティーはいい結果をもたらした。瑠那が次第に元気を取り戻していったからだ。

 少女たちの活気あふれた様子を見つめて笑みをこぼすガクト。そこへ店のドアが小さくノックされたことに気付いて振り向く。

 小さく開いたドアの隙間から、夏子の姿が見えた。ガクトは彼女に呼ばれ、無言で店を出た。

「アンタの言いたいことは何となく分かる。アイツを、悟を信じてやってほしいってんだろ?」

 ぶっきらぼうに問いかけるガクトに夏子は頷いた。するとガクトは店内を横目で見つめる。

「かりんが瑠那のことを信じるなら、オレも悟のことを信じてもいいのかもな。」

「えっ・・?」

 嘆息しながら告げたガクトの言葉に、夏子が一瞬唖然となる。

「ガルヴォルスは危険な存在。命だけじゃなく、心まで傷つける。それなのに、かりんはガルヴォルスである瑠那を最後まで信じようとしている。バカみてぇに思えるけどさ。」

 苦笑しながらこめかみを指でかくガクト。彼の照れくさそうな態度を見て、夏子は笑みをこぼした。

「そうね。信じてみるのも悪くないかもね。ガルヴォルスの中にも、人間の心を持ってる人がいるって。」

 彼女の励ましに笑みを見せるガクト。しかし彼は信頼とともに、ガルヴォルスの裏切りを不安にしていた。

 

 にぎわったパーティーから一夜が明けた。全員騒ぎすぎたせいか、みんな疲れ果てて店内で眠ってしまっていた。

 その中で最初に眼を覚ましたのは瑠那だった。彼女は沈痛の面持ちで、かりんをはじめとした店内の人たちを見回した。

(かりん、いろいろありがとうね・・・ホントに・・・)

 かりんに感謝の気持ちを秘める瑠那。彼女は振り返り、サクラのバックからメモ帳を取り出し、秋探偵事務所の住所を調べてからそれを戻した。

 

 サクラを美代子に任せた悟と夏子は事務所で一晩を過ごしていた。仮眠していた悟の傍らで、夏子は1人で考えを整理していた。

 瑠那がガルヴォルスであり、その力にさいなまれていること。そんな彼女を救いたいと思っているかりんと悟。ガルヴォルスを敵視していたガクトが、瑠那に危害を加えるかもしれない不安。

 瑠那を信じているかりんを目の当たりにして、ガクトは信頼を覚えるようになったものの、その不安は拭いきれてはいない。

 しばらく考え込んでいると、悟が眼を覚まして起き上がってきていた。

「おはようございます、先輩・・あれ?もしかして寝てません?」

「あら?起こしちゃった?」

 悟が訊ねるのと同時に、夏子が苦笑いを浮かべる。

「あまり深く考えても、結果が出てくるとは限らないですよ。とりあえず体を休めて、それから改めて考えましょう。」

「・・そうね。とりあえず少し休むね。ゴメン、悟くん。」

 悟の言葉を受けて夏子は頷き、椅子に体を預けて休もうとした。

 そのとき、事務所の電話が鳴り出し、夏子の休息に水を差す。悟はひとつ息をついてから、その受話器を取った。

「はい、こちら秋探偵事務所・・・瑠那さん・・!?」

「えっ?」

 電話の相手は瑠那だった。悟だけでなく、夏子が驚いて体を起こす。

“悟さん、ちょっといいですか・・・もしよかったら、昨日の街の広場に来てください・・1人で・・・”

 それだけ伝えて、瑠那は一方的に電話を切ってしまった。ただただ唖然となる悟。眉をひそめて彼を見つめる夏子。

「先輩・・・すみませんが・・ここはオレが・・・」

 そういって悟は事務所を飛び出した。彼の姿が見えなくなったところで、はやり彼一人を向かわせるのははばかられたので、夏子もその後を追った。

 

 指示された街の広場に駆けつけた悟。そこでは約束どおり、瑠那がその中心にいた。

「瑠那さん・・これはどういう・・・?」

 事情を飲み込めない悟が瑠那に訊ねる。彼に呼びかけられて、瑠那が悲痛の面持ちを見せる。

「かりんから聞きました。あなたも、ガルヴォルスなんですね・・・?」

 瑠那の問いかけに、悟は困惑のあまり、素直に頷くことができなかった。それに構わず、瑠那は続ける。

「ガルヴォルスであるあなたに、お願いがあります・・・私を殺してください・・・」

「何!?」

 この願いに悟は驚愕を覚える。

「私、このままじゃまたみんなを傷つけてしまうことになっちゃう・・人の心をなくして見境をなくして、かりんさえも手にかけてしまう・・そうなったら・・・!」

 自分の体を強く抱きしめて、悲痛の声を上げる瑠那。彼女はかりんを殺めてしまうことをこの上なく恐れていた。

 そんな最悪な事態が起きるくらいなら、自分の命を絶ったほうがいい。瑠那はそう覚悟して、その役目を悟に任せようとした。

「ダメだよ、瑠那さん・・そんなことをしても・・・たとえ君が満足しても、かりんさんは絶対に悲しむ。まだ人間の心を持っているなら、このまま人間として生きていくこともできる。そう信じるんだ、瑠那さん!」

「ダメですよ・・私にはそんな強さはない・・・お願い・・私を殺して・・・!」

 瑠那の切実な願い。彼女は自分の運命を呪いつつも、親友のことを心の底から想っていた。悟は彼女の気持ちを理解していた。

「瑠那さん・・本当にそれでいいのか・・・!?」

 息詰まるような不快感を感じながら、悟が問いつめる。覚悟を決めていた瑠那が頷く。

「分かったよ・・・オレも覚悟を決める・・・!」

 迷いを振り切り、悟は瑠那を倒すことを心に決める。真剣な面持ちになる彼の顔に紋様が浮かぶ。

「待って!」

 そこへかりんが駆け込んできて、瑠那と悟が驚きながら振り向く。その驚愕で、悟の顔から紋様が消える。

「かりん・・どうして・・・!?」

 瑠那はかりんがやってきたことが信じられなかった。セブンティーンにいた全員が寝ている間に、何も言わずに出てきたはずなのに。

「分かってたよ・・あなたがこっそり出て行ったことは・・・私たち、幼なじみだからね・・・」

 困惑している瑠那に、かりんが微笑みながら語りかける。親友のことは、かりんには何もかもお見通しだった。

「大丈夫だよ。瑠那は私が守るから。瑠那は人間として生きられるって、私は信じてるから・・」

 満面の笑みを見せて、かりんは瑠那に優しく手を差し伸べた。どんなことをしても親友を守りたい。かりんは今その一心だった。

「かりん・・・うあっ!」

 微笑みかけたところで、瑠那は体の苦痛を覚えてうなだれ始めた。その顔には、ガルヴォルスへの変貌を意味する紋様が浮かび上がっていた。

「瑠那・・!?」

 かりんが眼を見開いて瑠那に近づく。しかし瑠那はそんなかりんを突き放す。

「ダメ、かりん・・・私は・・私は!」

 悲痛の声を上げる瑠那の姿が、虎の怪物へと変化する。かりんは困惑で体を震わせながら、瑠那をじっと見つめている。

「くっ!もうどうにもならないのか・・!」

 歯がゆい気分を感じた悟が、ガルヴォルスへの変身を遂げる。そして具現化した剣の切っ先を、うめいている瑠那に向ける。

「悟さん・・・やめて、悟さん!」

 それを見かねたかりんが、悟の前に立ちはだかって瑠那をかばう。

「何をしているんだ・・・そこをどくんだ、かりんさん!」

「ダメッ!瑠那は私が守ってあげるの!瑠那は死なせない!絶対に!」

 どくように促す悟だが、かりんは断固として瑠那をかばい立てしようとする。かりんに立ちふさがれて、悟は剣を振り抜くことができないでいる。

 そこへ、狂気に駆られて理性を失っていた瑠那が、かりんを押しのけて悟に飛びかかってきた。虚を突かれた悟がとっさに剣を身構えるが、瑠那が振りかざした腕と爪によって剣が払いのけられる。

「うわっ!」

 突き飛ばされて倒れる悟。弾かれた剣が落下して地面に突き刺さる。

 見境をなくした瑠那が間髪置かずに追撃してくるかもしれない。そう身構えた悟は素早く体勢を立て直して、彼女に向かって拳を突き出す。

 しかしその間に割り込んできたのはかりんだった。

「なっ!?」

 悟はその拳を止められなかった。拳が瑠那をかばったかりんの腹部に直撃する。

「キャアッ!」

 悲鳴のような声を上げたかりんが、ガルヴォルスの強い力で突き飛ばされる。そして広場の地面を横転して、そして動かなくなってしまった。

 

 出て行った瑠那を追いかけたかりんを探しに、ガクトも外に、街に出ていた。瑠那がガルヴォルスとなってかりんを手にかけてしまうのではないか。彼はそう思えて仕方がなかった。

(かりん、無事でいてくれよ・・・!)

 かりんの無事を心の中で強く願いながら、ガクトは必死に彼女の行方を追った。そして彼も、瑠那が悟を呼び出した街の広場へと辿り着いた。

 そこで彼が目の当たりにしたのは、カオスガルヴォルスの攻撃を受けて突き飛ばされるかりんの姿だった。

「あっ・・・!?」

 ガクトは自分の眼を疑った。改めて信じようとしていたガルヴォルスが、人間の少女のかりんに手をかけていたのだ。

 

「そんな・・・かりんさん・・・!?」

 悟もこの瞬間に愕然となった。死を望んでいた瑠那をかばって、かりんが彼の攻撃を受けてしまったのである。

 ガルヴォルスの痛烈な打撃を受けた彼女は、昏倒したまま動かない。気絶しているのか、それとも。

「かりん!」

 そこへ青年の声がかかり、悟が振り向く。そこには肩で息をしているガクトの姿があった。

「ガクト・・・」

 悟が困惑しながらガクトを見つめている。ガクトは次第に苛立ちの表情を浮かべていく。

「お前が・・かりんを・・・!」

 その表情に紋様が浮かび、ガクトが竜の怪物へと変身する。

「お前!」

 怒りをあらわにしたガクトが、悟に拳を叩きつける。その一撃を受けて突き飛ばされる悟。

「かりんを、かりんを!お前がぁぁーーー!!!」

 絶叫を上げながら、次々と悟に攻撃を加えていく悟。悟はかりんを手にかけてしまった罪悪感を感じて、戦意を失っていた。

 反撃も防御もしてこない相手に、ガクトは怒りに駆られて容赦なく攻撃する。そして強烈な拳の一撃で、ついに突き飛ばされてビルのひとつの窓に叩きつけられる。

 ガルヴォルスの狂気から解放されて我に返った瑠那は、その光景を目の当たりにして、またかりんが傷つき倒れてしまったことに思わず逃げ出してしまった。

 体を縛り付ける怒りが治まらないまま、ガクトは人間の姿に戻る。

「かりん!」

 そしてかりんに駆け寄り、彼女の体に手を差し出す。

「おい!かりん、しっかりしろ!」

 ガクトが必死にかりんに呼びかける。しかし頭から血を流している彼女は全く反応しない。

「おい、冗談はやめろよ・・いくらオレが気に喰わないからって、こんな・・・!」

 混乱の中で必死に笑みを取り繕おうとするガクト。しかし取ったかりんの手が、彼の手から力なくこぼれ落ちる。

 ガクトは眼を疑った。この現実を疑った。

「そんな・・・!?」

 愕然となるしかなかった。どうしたらいいのか分からなくなっていた。

 それでもまだ希望があることを信じて、ガクトはかりんを抱え上げて近くの病院に急いだ。

 

 しかしその最悪の事態を打破することはなかった。

 医師の検査さえも、ガクトが考えたくなかった結果を示していた。

「もはや手の施しようがありません。残念ですが・・・」

 医師の心苦しい宣告さえも、ガクトは信じることができなかった。

「そんな・・そんなバカなことが・・・なぁ、アンタ!医者なんだろ!?何とかしてくれよ!」

 ガクトがたまらず医師に詰め寄った。かりんがこんなことで死ぬはずがない。そう思えてならなかった。

 しかし医師は沈痛の面持ちで、首を横に振った。

「我々とで、失った命を蘇らせることはできません・・・」

 その言葉に、ガクトは歯がゆい気分を感じるしかなかった。

 信じられない気分を抱えたまま、彼はかりんの前に立った。彼女は眠っているように横たわっていた。

 もう彼女は眼を覚まさない。どんなことをしても、眠ったまま動き出すことはないのだ。

 彼女の横たわるベットにすがるようにガクトがうなだれる。悲痛にさいなまれる彼の脳裏に、家族を失った残酷な出来事が蘇る。

 手を伸ばした瞬間に、妹、久恵の体が崩れる。ガルヴォルスに命を奪われた証だった。

 その光景が、彼の中で淀んでいた悲しみがさらに深まった。

「く、くあああぁぁぁぁーーーー!!!」

 ガクトが悲しみの叫びを上げる。その声が静寂だったこの部屋にこだましていた。

 

 

次回

第12話「悲壮の雷鳴」

 

「あぁ・・ホントにバカなヤツだったよ・・・」

「かりんさんが・・死んだ・・・!?」

「そんなに自分を責めないほうがいいわよ。」

「お前は心を取り戻そうとしているガルヴォルスさえも倒すというのか!」

「オレはガルヴォルスをブッ潰す・・・1人残らず!」

 

 

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