ガルヴォルスextend 第7話「断ち切れる絆」

 

 

 賢治の変わり果てた姿に動揺を隠せなくなる悟。ガクトも悟の登場に攻め気を欠いてしまっていた。

 あまりの動揺のため、賢治は人間の姿に戻ってしまう。級友同士の2人が、複雑な気持ちで見つめ合っていた。

「賢治・・どうして、こんなことを・・・!?」

「悟・・僕は、このままアイツらがいい気になっているのを、我慢できないんだ・・・!」

 悟の心配の声を聞かずに、賢治はそのまま駆け出してしまった。

「あっ・・・!」

 油断していたガクトが驚きの声をもらす。逃亡を図った賢治を追うことができなかった。

「賢治・・どうしてアイツが、ガルヴォルスになって、みんなを・・・!?」

 変わり果てた級友に、悟は愕然となるしかなかった。その前で、ガクトはガルヴォルスに対する憎悪をさらに増大させていた。

 

 街中で起こった爆発とガルヴォルスの出現。警察によって事件の処理が行われていた。

 悟も、追いかけてきた夏子とサクラと合流していた。

「悟くん、大丈夫!?」

 夏子が心配の声をかけるが、悟は答えない。体より心のほうが心配に思えた。

「とにかく、今はどこかで休もう。悟にだって、いろいろ大変なんだから。」

 サクラが気遣いの言葉をかけるが、悟は首を横に振った。

「今回の事件を引き起こしていたガルヴォルス・・実は、オレの知り合いだったんです・・・」

 悟の悲痛な説明に、夏子もサクラも返す言葉を失った。何とか言葉をかけようとしていた2人だが、彼は振り向いて背を向けた。

「悪いけど、1人にさせてください・・・」

 賢治とのすれ違いを感じながら、悟は無言の彼女たちに見送られる形でこの場を後にした。

 

 アルマジロガルヴォルスを取り逃がしてしまったガクト。行方を追う手立ても分からなかったので、彼はひとまず仕事に戻ることにして、バイクを止めていた場所に戻っていた。

「あのガルヴォルス・・悟の知り合いだったっていうのかよ・・・けど、アイツはガルヴォルス・・倒さないと、悟が・・・!」

 ガルヴォルスに対する怒りはそのままだったが、悟の苦悩を目の当たりにしたために、ガクトも困惑を感じていた。

 バイクを走らせようとしたところで、彼は夢遊病者のように歩いてくる悟を発見する。知り合いのことで深く思いつめているのだと思い、ガクトは悟に駆け寄った。

「おい、こんなところで何やってんだ?」

 いつもの振る舞いを装って、ガクトが悟に声をかけてくる。悟はその声に顔を向ける。

「君・・・その格好・・・?」

 悟はガクトの格好に一瞬唖然となった。私服ではなく、どこかの店の制服だった。

「あぁ、今バイト中でな。配達の帰りの途中で騒ぎが起こったってわけだ。」

「そう・・・実はその騒ぎ、オレの高校の親友がやってたんだ・・」

「えっ・・・!?」

 悟の言葉にガクトは驚いた。事情は大方知っていたが、改めて聞かされて困惑を感じていた。

「オレは、これからどうしたらいいのか分からない。アイツの気持ちを、尊重はしたいと思うけど・・」

「なるほどな・・けど、お前はそのダチのやってることが、正しいと思ってるのか?」

「えっ・・?」

 ガクトの問いかけに悟は戸惑う。

「そいつがお前のホントのダチだっていうなら、そのダチのことを大切にしたいっていうなら、そいつが間違ってるって思うことを止めるべきなんじゃないか?」

「間違ってること・・・」

「・・何はともあれ、そのダチにとりあえず会ってきたらどうだ?お互いの気持ちが分かってくると思うぜ。」

 気さくに振舞うガクトの言葉に、悟は勇気付けられて頷いた。そして賢治の真意を確かめるために、彼はこの場を駆け出した。

「ふう・・何だかなぁ・・」

 彼の後ろ姿を、ガクトは笑みをこぼして見送った。

 

「ただいまぁ。」

 セブンティーンに戻ってきたガクトが気の抜けた挨拶をする。街での事件をTVで知っていた美代子が、戸惑いを見せながら彼に声をかける。

「おかえりなさい、ガクトさん。大変だったでしょう、いろいろと。」

「別にそんな大げさなことでもないさ。直接巻き込まれたわけじゃねぇし。」

 近くの空いている椅子に腰かけて、安堵をつくガクト。そこへかりんが半ば呆れた面持ちで近寄ってきた。

「アンタも運がいいほうなんだね。騒ぎを間近で見れたんだから。」

「そんな安直なもんじゃねぇよ、あれは・・」

 彼女のからかいの言葉に憮然とするガクト。彼の反応に少し言い過ぎたと思い、彼女は押し黙る。

「今回はちゃんと届けたぜ。営業スマイルも忘れちゃいねぇ。一応言っとく。」

「分かってるわ。その点に関しての満足は。」

 ぶっきらぼうに言い続けるガクトに、美代子は微笑んで頷く。

「どんな根拠からそんなことが分かるんですか?」

 かりんが疑問符を浮かべて美代子に問いかける。

「それは、17歳としての勘じゃないかしら?」

「おいおい・・」

 とぼけて振舞う美代子に、ガクトは華帆に言われたようにツッコミを入れた。呆れた面持ちを浮かべながら。

 そのとき、店の扉が開き、美代子たちが振り向く。

「いらっしゃいませ。」

 美代子とかりんが一礼して挨拶する。客は女性2人である。しかしガクトはそのうちの1人の驚きをあらわにする。

「ア、アンタ・・!?」

「ガ、ガクト!?こんなところで何してるのよ・・!?」

 ガクトと夏子が驚きを隠せないでいる。彼女の横でサクラがきょとんとしている。

「あの、夏子さん?お知り合いなんですか?」

 そこへサクラが唐突に夏子に尋ねる。

「まぁ、昔、いろいろあってね。」

 夏子が答えるとガクトがムッとしてそっぽを向く。

「へぇ。何やらあるみたいね。悪いことでもしてたとか?」

 かりんが再びからかうような態度でガクトを見る。

「ただのスピード違反よ。もう懲りてるみたいだけどね。」

「ほっとけ。」

 彼女の言葉に答える夏子。ガクトが愚痴をこぼし、かりんとサクラが微笑む。

「私は秋夏子。探偵をしているわ。」

「探偵さん?・・もしかして、あの怪物に詳しい探偵さんでは?」

 自己紹介した夏子に、美代子が微笑みかけてくる。夏子は一瞬きょとんとなりながら、「えぇ、まぁ。」と付け加える。

「私、鷲崎美代子、17歳です。」

「おいおい。」

 美代子の自己紹介にかりんとガクト、そして事情を知らないはずのサクラもツッコミを入れてきた。

(おいおい・・・)

 夏子も後から呆れながら、胸中でツッコミを入れたのだった。しかしすぐに表情を戻して、かりんに視線を向ける。

「丁度いい機会だからね。あなたの名前は?」

「私ですか?紫堂かりんです。」

 かりんも夏子に名乗る。夏子が彼女の名前を聞いた後、悟のことを気にして考え込んでいた。

「どうしたんだ?」

「実は、悟くんが・・・」

 突然ガクトに訊ねられて、夏子がもらすように答えるが、すぐに言葉を切らしてしまう。ガクトも悟の名を聞いて眉をひそめる。

「悟?・・速水悟か?」

「えっ?悟を知ってるの?」

 ガクトの呟きにサクラが聞き返す。

「まぁな。今のアイツ、何かダチのことで悩んでたな・・とりあえず、励ましの言葉はかけといたけど。」

 ガクトが悟のことを気にかけていることに、夏子とサクラが安心の笑みをこぼす。

「大丈夫。きっとそのお友達も安らぐときが来ます。」

 そこへ美代子も満面の笑みを見せる。夏子もサクラも、悟とその友人の安らぎを信じることにした。

(何よ。けっこういいとこあるじゃない。)

 かりんも胸中で、ガクトの優しいところを誉めて笑みをこぼしていた。

 

 その翌日、賢治は普段通りに大学に向かった。悟に自分の本当の姿を見られ、当惑を隠せないでいた。

 そんな迷いを拭おうとしながら、彼はパソコン室に入った。講義まで少し時間があったので、そこで暇つぶしをしようと考えたのだ。

 そこで彼はゼミ仲間を見つける。いくつもあるパソコンのうちの1台を操作している黒のショートヘアの女子で、隣には彼女の親友の女子が立っていた。

 賢治は一声かけようと彼女たちに近づいた。そこで彼は眼を疑った。

 彼女たちが見ているパソコンには、彼が苛立ちを感じているサイトの1画面が映し出されていた。

「何よ、この“ケン”ってヤツの書き込み。趣味悪いったらないわね。」

 「ケン」という単語に賢治は息を呑んだ。

「ホント。悪趣味だらけで返って笑っちゃうわね。まさに腐ったミカンってね。」

「でも本気ってわけじゃないでしょ?最近そういう女の書き込みも多いからね。」

 あざ笑いを浮かべる級友と思っていた女子たち。彼女たちの態度に、賢治に苛立ちが広がっていく。

「おい・・これはどういうことだよ・・・!?」

 彼に声をかけられ、女子たちが振り向く。

「あら?真島くん、来てたのね?」

 女子たちは悪びれた様子も見せずに答える。それが賢治の感情をさらに逆撫でする。

「僕は・・“ケン”はここにいるんだ・・・お前たちは僕のことを・・そんな風に思ってたのか・・・!?」

 憤怒する賢治の顔に紋様が走る。

「腐ってるのは、他人をありもしないことに仕立てて、それを正当化しているお前たちのほうだ!」

 その姿がアルマジロの怪物に変化する。その異様な姿に、女子たちだけでなく周囲の生徒や講師たちが驚愕する。

「ち、ちょっと真島くん、これって・・・!?」

「誰かをけなすということは、その誰かに陥れられることも覚悟していたんだろ?そう、死ぬことも・・・!」

 恐怖で顔を歪めるゼミ仲間に、賢治は爪を突き立てる。その鋭い爪が、彼女の命を奪い取る。

 ガルヴォルスの牙に傷つけられた彼女が、石のように固まる。突き立てられている爪が引き抜かれた直後、その衝動を受けて彼女の体が砂のように崩れ去っていく。

「キャアッ!ちょ、ちょっと!」

 彼女の級友が眼前の瞬間に愕然となる。ゼミ仲間を絶命に追い込んだ自分の爪を見て、賢治は微笑をもらした。

「そうだ・・僕には力がある・・間違いを正すだけの力が・・・僕はこの思い上がったクズを始末する!」

 その笑みが次第に咆哮へと変わる。それを気に周囲の人たちがいっせいに逃げ出した。

 賢治が彼らに敵意を向けていた。人間全てを傲慢なものだと思っている彼には、もはや人の心を失っていた。

 

 その頃、ガクトはかりんと華帆に連れられて、買い物につき合わされていた。荷物持ちにされる形になって、彼は腑に落ちない気分を感じていた。

 そんな彼の不機嫌を気にしているのかいないのか、かりんたちは買い物の品定めを続けていた。

「ハァ・・まだ買い物するつもりなのかよ・・・全く。」

 小声で愚痴をこぼしながら、2人の買い物が早く終わることをガクトは願った。

 そのとき、突然爆発音が鳴り響いた。その轟音にガクトと、品定めをしていたかりんと華帆が振り返る。

「な、何だ、この騒ぎは・・!?」

「行ってみよう!」

「うんっ!」

 驚きを見せるガクト。かりんと華帆がその騒ぎの起きた場所へと向かっていく。

「おいっ!この荷物持ってついてこいっていうのかよ!」

 さらにかん高い愚痴をこぼしながら、ガクトはその荷物を抱えて2人を追いかけた。

 

 賢治のことが気がかりになっていた悟も、彼の通っている大学に向かっていた。彼がまたガルヴォルスに変身して暴走しないとも限らない。悟はそれが心配になっていた。

(賢治・・あまり早まったマネをしないでくれ。)

 級友の安否を祈りながら、悟は大学の正門の前に差し掛かった。

 そのとき、大学から爆発が轟いた。驚いた後、悟は不安の表情を浮かべる。

「まさか・・!?」

 たまらず大学に入っていく悟。逃げ惑う生徒たちをかき分けて、広場に辿り着く。

 そこではアルマジロの怪物が、また1人の女子を手にかけていたところだった。その手から彼女の体が崩れ去っていく。

「賢治・・何やっているんだ、賢治・・・!?」

 悟が体を震わせながら、必死の思いでアルマジロガルヴォルス、賢治に近寄っていく。

「賢治、眼を覚ましてくれ!オレはお前に、誰かを傷つけてほしくないんだ!」

 賢治の両肩に手をかけて、説得する悟。しかし賢治はその手を払いのける。

「賢治・・・!?」

 眼を疑う悟。

「・・邪魔を・・邪魔をするな!」

 叫ぶ賢治がそんな彼を突き飛ばす。横転し、そのまま倒れ伏す悟。

 必死の思いで悟は顔を上げる。しかし賢治は彼に見向きもせずに、次の標的を求めて歩き出してしまった。

 悟は歯がゆい思いを感じていた。その声はもはや、賢治には届いていない。

 その精神的苦痛に完全に立ち上がれなくなってしまう。もう級友を止めることができない。

 そこへ騒ぎを聞きつけてきたガクトたちが駆け込んできた。悟に気付いた彼らが駆け寄ってくる。

「ア、アンタ・・!?」

「悟さん・・・!?」

 ガクトとかりんが悟に呼びかける。しかし悟はその声に反応できるほど冷静ではなかった。

「オレは・・何もできない・・・アイツを、止められなかった・・・」

 おぼろげな意識の中で、彼は言葉をもらす。

「アイツはもう人間じゃない・・・心を・・人としての心を失っている・・・自分の憎しみのためだけに、みんなを傷つけて・・・オレの声は、もうアイツには届かない・・届かない・・・」

「悟さん・・・」

 もはや自暴自棄に陥っている悟を、かりんが悲痛の面持ちで見つめている。華帆はその光景から眼を背けてしまっていた。

 悟の絶望を目の当たりにしたガクトが、真剣な面持ちで立ち上がる。

「かりん、華帆・・悟を頼んだぞ・・」

「ガクト、どうするの・・・?」

 悟を任せるガクト。かりんが聞き返してくるが、ガクトは無言で駆け出していった。

 

 ガルヴォルスの本能と憎悪に駆り立てられて、さらに生徒たちを手にかけていく賢治。校内の花園に足を踏み入れていた彼に、ガクトが駆けつけてきた。

 ガクトは賢治を見据えて、悟の言葉を思い返していた。眼の前にいる彼の級友は、もはや人間ではなくなってしまっている。

(アイツはもう人間じゃない・・・心を・・人としての心を失っている・・・)

「オレは、アイツを助けてやりたい。たとえ傷つけることになっても、オレが全力で止める!」

 決意を胸に秘めて叫ぶガクトの顔に紋様が浮かぶ。

「お前は体や命だけじゃなく、心まで・・・アイツを裏切ったお前は・・・アイツの代わりにオレが止める!」

 その姿が竜に似た怪物に変わる。その変貌に一瞬驚きを見せるも、賢治は咆哮を放つ。

 そして彼は前転を始める、するとその体が球体のようになって、ガクトに向かって転がっていく。

 ガクトはその突進を身を翻してかわす。すぐさま剣を出現させて構える。

 賢治が再びガクトに向けて突進を仕掛けてくる。ガクトは剣を振り下ろしてそれを叩き伏せる。

 地上に叩き落された賢治が、傷ついた体を起こして再び戦意を見せつける。ガクトもいきり立って、剣を振りかざす。

 賢治はそれを両手の爪で弾き返していく。ガクトはさらに勢いを加速させて、剣を突き立てる。

 その強い衝撃についに賢治が怯む。そこへガクトが叫び声を上げながら剣を突き立てる。

 えん曲の刃が、アルマジロの硬い体を突き崩し貫く。絶叫を上げる賢治が、痛烈な一撃に命を閉ざす。

「さ・・さと・・る・・・」

 賢治が死に際に親友の名を呼んだようにガクトは聞こえた。しかし悟への悲痛さにさいなまれて、その声は彼の脳裏からかき消えてしまった。

 絶命した賢治の体が固まり、砂になって崩れていく。その瞬間を目の当たりにしながら、ガクトはその命を奪った剣を下ろす。

 単純に傷つけるだけでなく、心や信頼関係までも踏みにじるガルヴォルス。ガクトの心に、人の進化の滅亡を込めた憎悪がさらに強まっていった。

(オレはガルヴォルスを倒す・・・父さん、母さん、久恵の仇を討つためだけじゃない・・悟や、みんなの心を守るために・・・)

 人間の姿に戻ったガクトが、胸中で決意を秘める。悟、かりん、華帆、美代子、利樹を守るためにも戦うことを心に誓って、彼は静けさの訪れた花園を後にした。

 しかしその悟が最も敵視しているガルヴォルスであることを、このときのガクトはまだ知らなかった。

 

次回

第8話「思い出の交わり」

 

「まさかお前も、あの事件に巻き込まれてたとはな。」

「まさかアンタがここに来るなんて。」

「キンピカになって、いい気分にさせてやるよ。」

「かりん、お前はガルヴォルスってバケモノを、どう思ってんだ?」

 

 

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