ガルヴォルスextend 第2話「竜と混沌」
悟の前に乱入してきたドラゴンガルヴォルス。いきり立った彼は、スネイクガルヴォルスに向かって飛び込んでいった。
その突進に虚を突かれ、突き飛ばされるスネイクガルヴォルス。しかしすぐに体勢を整えて、毒づきながら体液を吐きかける。
それを即座にかわしつつ、湾曲の剣を出現させるドラゴンガルヴォルス。振り下ろして地面に叩きつけたその剣によって、地面だけでなくビルまでもが真っ二つになって崩壊する。
その破壊で噴煙が巻き起こり、それが周囲の視界をさえぎることとなった。ドラゴンガルヴォルスが相手を見失っているうちに、追い詰められたスネイクガルヴォルスが逃走を図る。
悟もその行方を追おうとするが、既にスネイクガルヴォルスは姿を消していた。
「くっ!逃げられたか・・・」
毒づいた悟。ようやく噴煙が治まり、視界が開けてきた。
「悟!」
隠れていたサクラが慌しく駆け寄ってきた。悟が彼女を見つめた後、ドラゴンガルヴォルスに視線を向ける。
彼は苛立ちをあらわにして、拳を強く握り締めていた。
「ガルヴォルスはみんなを傷つける・・ガルヴォルスは、オレが全て滅ぼしてやる!」
そう言い放ってドラゴンガルヴォルスは飛び立った。彼が消えていくのを、悟とサクラは見送った。
「悟、あれは・・・」
「分からない・・だけど、すごい力を持ったガルヴォルスだ・・・」
竜の怪物の脅威に、サクラも悟も動揺を隠せなかった。
ひとまず事務所に戻ってきた悟とサクラ。資料を整理していた夏子が、彼らからの事情を聞く。
「なるほど。街で人々を石にしていたガルヴォルスに、別のガルヴォルスが乱入して向かっていったわけね。」
「はい。結局、蛇のガルヴォルスに逃げられましたが・・・それにしても、あのガルヴォルス、並のレベルではなかったです。ビルを真っ二つにするほどのあのパワー・・」
ドラゴンガルヴォルスの脅威に息をのむ夏子。しかし悟はそれほど気負いを浮かべてはいなかった。
「確かに戦闘力は強力だけど・・オレが敵わないほどではないですよ。」
「えっ?」
自信ありげな悟の言葉に、夏子が一瞬きょとんとなる。
「大丈夫ですよ。悟はけっこう強いんですよ。最初は怖かったけど、悟は悟のまんまだって分かって、安心したんですよ。」
サクラも悟の力を賞賛する。本人以外で初めてその力を目の当たりにした人間のお墨付きに、夏子も信頼の笑みを浮かべた。
翌日、ガクトは自分の性格に合った店でのバイトが確定し、早速向かおうとしていた。
そのバイト先とは、街の中でもにぎわいを見せているピザハウスである。その女性マスターが朗らかな性格からみんなに慕われていて、バイトを探していた彼の申し出を快く受け入れてくれたのだ。
教えられた住所を頼りに、そのピザハウスに辿り着くガクト。まだ店は営業直前のようで、店内は騒がしくなかった。
「ちわーっす。」
ぶっきらぼうな挨拶をかけながら、ガクトは店の扉を開ける。
「あ、いらっしゃい。あなたが竜崎ガクトくんね?」
店内に入ると、厨房前にいた女性が笑顔で優しく挨拶を返してきた。腰の辺りまである黒髪をした、大人の魅力を放っている女性である。
「あぁ。アンタがここのマスターの・・」
「はい。私がこのピザハウス“セブンティーン”のマスター、鷲崎美代子(わしざきみよこ)、17歳です。」
(おいおい・・・)
マスター、美代子の自己紹介に、ガクトは苦笑いを浮かべて内心ツッコミを入れる。いくら若く見えても、17歳というのはムリがあった。
「もう、マスターったら、あんまりおふざけしないでくださいよ。」
そこで、厨房から呆れ顔で1人の少女が姿を見せた。彼女の顔に見覚えがあり、ガクトは一瞬呆然となる
「あっ!」
「あああっ!!」
ガクトとその少女、かりんが指を指して驚きの声を上げる。
「アンタは昨日の変態男!」
「バ、バカ言うな!誰が変態だ!」
「まぁっ。」
言いがかりをつけるかりんの言葉を否定するガクト。彼女の言葉に美代子が頬を赤らめて、笑顔は崩してはいない。
「あの、ガクトさん、かりんちゃん、お知り合いなの?」
「違います、マスター!こんなハレンチ男・・!」
「何でお前がここにいるんだよ!お前のような恩知らず、2度と会いたくねぇって思ってたのによ!」
「あら、私はここでバイトしてるのよ。やりがいがあるし、マスターは優しいし。」
自慢げになるかりんに、ガクトは愕然となる。最高の環境の仕事場から一転、最悪の人材のいる場と化したと彼は思うしかなかった。
「丁度よかったわ。彼が今日から新しく入ることになった竜崎ガクトさんよ。」
「えっ!?」
満面の笑みを見せて紹介する美代子。彼女の言葉に、今度はかりんが絶望に浸る。
「そんなことって・・・アイツがここに働くなんて・・・」
へたり込む彼女に、ガクトは舌打ちをする。そこへもう1人の少女と1人の少年が厨房から出てきた。
「どうしたのよ、かりん。まだ営業時間じゃないのに・・・あっ!」
呆れ顔を見せる少女だが、ガクトの顔を見るなり歓喜の表情を見せる。
「ガクトさん!どうしたんですか、ここに来て!?も、もしかして・・!?」
喜びを見せる少女、華帆に、美代子も笑みをこぼして頷く。
「ガクトさん、彼女たちはここで働いている、紫堂かりんちゃんと美崎華帆ちゃん、そしてかりんちゃんの弟の・・」
「オレは利樹(としき)。たまにお姉ちゃんや美代子さんの手伝いをしてるんだよ。」
美代子の紹介を受けて、黒短髪の少年、利樹が気さくな笑みを見せる。
「美代子さんの作るピザやパスタは超一流だからね。オレもそれにあやかりたくて。」
「あやかりたいのは一流の腕じゃなくて、その腕でできた料理じゃないの?」
美代子を誉めたところで華帆にからかわれ、そわそわとした様子を見せる利樹。
「ウフフ、ありがとう、利樹くん。お姉ちゃん、もっと腕によりをかけちゃうからね。」
「おいおい!」
感謝をかけた美代子に、華帆と利樹がなぜかツッコミを入れる。入れたのは感謝ではなく、美代子が自分のことを「お姉ちゃん」と言ったことにだった。
唖然となっているガクトを眼にして、華帆が彼に歩み寄って小声で言う。
「マスター、ツッコミを入れられるのが好きみたいだから、こういうときは“おいおい”って言ってあげると喜ぶよ。」
華帆の説明を聞いても、ガクトは疑問符を浮かべるしかなかった。
「ところでお姉ちゃん、何かあったの?」
未だに落ち込んでいるかりんを見て、利樹が気になって声をかける。
「利樹、今は何も聞かないで・・・」
そういってさらに落ち込むかりんだった。
それから、ピザハウス「セブンティーン」のこの日の営業が始まった。美代子からいろいろと教えられたガクトは、難なく仕事をこなしていった。彼の気さくな言動が、この店や客に好評を評してくれていたようだった。
しかしその中で、かりんは彼に対して不満の表情を浮かべていた。
その点を除いて、この日の営業は問題なく終えることができた。夜の盛り上がりを終えて客が少なくなってきた頃、ガクトは美代子に声をかけられた。
「ガクトくん、新しくメニューを考えて作ってみたんだけど、試食してもらえないかな?」
「えっ?試食?」
美代子の頼みにガクトが眉をひそめる。そそくさに彼女が出してきたのは、特製のミネストローネスープだった。
「私も味を見てみたけど、他の人の意見も参考にしたいと思って・・まかないだと思って、遠慮せずどうぞ。」
「そうッスか?・・じゃ、いただきます。」
美代子の言葉に甘えて、スープをスプーンにすくうガクト。しかしすぐに口に運ばず、息を吹きかけてスープを冷まし始めた。
「あら?ガクトさん、もしかして猫舌なの?」
「あ、はい。でも気にしないで。自分で冷ますから。」
言いながら冷ましつつ、スープを口に運ぶガクト。
「ご、ごめんなさい。今度は気をつけるから。」
「いや、ホントに平気だから。それにこのスープ、ウマイッスよ。メニューに取り入れても大丈夫ッス。」
申し訳なさそうにしながらもガクトに誉められて、美代子は喜びを感じて笑顔を見せた。
「教えてあげるよ。猫舌の男って、頼りないんだよ。」
そこへかりんが厨房から出てきてガクトに声をかけてきた。からかわれたと思って、彼はムッとした面持ちを見せる。
「へいへい。どうせオレは頼りにならない男だよ。」
彼の反論にかりんもムッとする。2人のやり取りに美代子は満面の笑みを浮かべる。
「あらあら、2人ともすっかり仲好しさんね。」
「だ、誰がこんなヤツと!」
「冗談はやめてくださいよ、マスター!」
彼女の言葉に反論するガクトとかりん。互いの顔を見て一瞥して、そしてそっぽを向く。険悪としか思えない2人の様子を、美代子は相変わらずの笑顔で見守っていた。
「ところでガクトさん、住むところは見つかったの?何でも、いろいろ移動して回ってるって聞いてるけど・・」
美代子が唐突に声をかけると、ガクトが言いにくそうな面持ちを見せる。
「よかったらここに来たら?ここはけっこう部屋が多いから、不自由しなくていいと思うんだけど。」
「ち、ちょっとマスター、おふざけはいい加減にしてください・・!」
彼女の誘いに、かりんが抗議の声を上げる。
「バイト時間だけじゃなく、プライベートまでコイツと一緒だなんてウンザリですよ!」
「って、まさかお前、ここに住んでるのか?」
眉をひそめるガクトに、かりんがそっぽを向く。
「マスター、ワリィけど断らせてもらう。コイツとひとつ屋根の下だなんて、落ち着けずにおちおち夜も眠れねぇ。」
「でも、当てがあるの?ホテルとかだと少し距離があるわよ。」
店から出ようとしたガクトを美代子が不安の面持ちで呼び止める。彼女の言うとおり、彼にはこの近辺で行く当ても、ホテルや宿に泊まる資金も持っていなかった。
「・・ったく、マスターがそこまで言うから、仕方ない。厄介にさせてもらうぜ。」
「ありがとう、ガクトさん。」
「全く、もう・・」
ふてくされながら受け入れるガクトに、美代子は喜び、かりんは呆れ果てていた。
それから一夜が明け、また新しいセブンティーンの営業が始まろうとしていた。
かりんと華帆はバイトのために更衣室で着替えていた。不機嫌が治っていないかりんと、ため息をつく華帆。
「最悪。あんな変態とこれから暮らしていかなくちゃいけないと思うとゾッとするわ。」
愚痴をこぼしながら着替えを終えるかりん。美代子や利樹が大喜びしていたので、余計に悩ましく思えていた。
「かりんったら、ホントにガクトさんのことを気にかけてるのね。」
「じ、冗談じゃないよ、華帆!あんなヤツ、切捨てゴメンよ!」
微笑みかける華帆に、かりんは手を振って必死に弁解する。すると華帆は満面の笑みを見せて、
「じゃ、あたしがゲットしちゃおうかな。」
「ご自由に。私は一向に構いません。」
悩ましい視線を向けてくる華帆に、かりんはスッキリしたような面持ちで更衣室を出て行こうとした。
「ところで、ガクトさんはどこなの?」
「知りません。今日はオフだって聞いてたから。私にとってはアイツがいなくて気分がよくなるけどね。」
華帆の問いかけに平然と答えつつ、かりんは今度こそ更衣室を出た。
人気が少なくなっている街外れの道。そこを慌しく駆けていく1人の女性。レディーススーツに身を包んだ長い黒髪の女性。おそらく寝坊して急いでいるようだった。
慌てふためきながら道を急ぐ彼女の前に、突如1人の男が立ちはだかった。不審に思いながらも、女性はその中年の男とすれ違おうとした。
「へぇ、なかなかの美人じゃないか、お前。」
「えっ?」
唐突に男に声をかけられて、女性は足を止める。振り返ったその男の顔に紋様が浮かび上がる。
「固めがいがあるじゃないか。」
不気味な笑みを見せた男の姿が変貌を遂げる。蛇のような怪物となった男に、女性が恐怖を感じて数歩後退する。
蛇の怪物、スネイクガルヴォルスがその女性に襲い掛かり、牙をその右腕に差し込んだ。
「イヤアァァッ!!」
悲鳴を上げて怪物から必死に離れる女性。誰かに助けを求めようときびすを返して逃げようとする。
しかし違和感を覚えて女性は再び足を止める。視線を移すと怪物に噛まれた腕が灰色に変わっていた。
「イヤアッ!」
驚愕と恐怖を覚えて女性が悲鳴を上げる。彼女を容赦なく灰色の変貌が広がっていく。
「そうだ。もっと恐れろ。怖がれ。そんな顔で固まっていくのを見ると、実に心地よくなってくる。」
その恐怖を見ながら、怪物が不気味な哄笑を上げる。その眼の前で女性は完全な石像に変わり果てた。
「クフフフフ。この恐怖の集約こそが、オレの心を満たしてくれる。まさに快感だぁ・・・」
石化した女性の恐怖に歓喜を覚えるスネイクガルヴォルス。ガルヴォルスとしての力を自分の使役と充満のために振り絞っていた。
「やめろ!」
そこへ1人の青年が立ちはだかり、スネイクガルヴォルスが振り返る。悟だった。
「ほう?街にいたヤツか。オレに何か用か?」
スネイクガルヴォルスがあざ笑うように悟に問いかける。悟は怪物の暴挙に苛立ちを見せていた。
「お前には、もう人間の心はないのか・・・人間を何だと思ってるんだ・・・!」
「はぁ?そんなの決まってるだろ?・・おもちゃだよ。オレの喜びのためのな!」
悟の気持ちを込めた言葉をさらにあざ笑う怪物。
「オレは人間を超えたんだ!この力で、弱っちぃ人間を弄んでやるんだよ!ヒャハハハハ!」
哄笑を上げる怪物。もはや人間であることを切り捨てている男に、悟は覚悟を決める。
「そうか・・・ならみんなを守るために、オレはお前を倒す。」
言い放つ悟の顔に紋様が浮かび上がる。スネイクガルヴォルスは未だに哄笑を浮かべている。
やがて悟の姿が人間でない姿へと変貌を遂げる。だがその姿は人の形に酷似していて、両肩には棘のようなものがついていた。
これが悟のもうひとつの姿、混沌のカオスガルヴォルスである。
「お前がガルヴォルスだっていうのは前に分かっていたが、そんな弱っちぃ姿だとはな。これじゃあんまり楽しめそうにねぇなぁ。」
スネイクガルヴォルスが嘆息をもらす。悟はそのことにあまり気にせず続ける。
「あんまり見かけで判断するもんじゃない。お前と比べても、オレのほうが強いのがよく分かったから。」
悟が分析を告げると、怪物は悠然とした態度から一変、憤怒の態度をあらわにしてきた。
「あんまり調子に乗るもんじゃねぇぜ!」
憤ったスネイクガルヴォルスが悟に向かって飛び込んでいく。悟は右手をかざすと、そこから騎士が持つような剣が出現する。
その柄を握ると同時に、悟はスネイクガルヴォルスの毒牙をかわす。そして大蛇の頭部にその剣を突きたてる。
「ぎええぇぇーー!!」
絶叫を上げるスネイクガルヴォルス。剣を引き抜き、悟はすぐさま距離を取り、剣を振って刀身に突いた紫の血を振り払う。鮮血にも石化の毒が混じっている可能性を考慮してのことだった。
急所を突かれ、激痛にさいなまれる怪物。鮮血を振りまきながら倒れ、そして事切れる。
ガルヴォルスの死は完全な消滅を意味していた。絶命した怪物は1度固まり、砂になって消えていった。
「こうする以外に、方法はなかったのか・・・」
歯がゆい気分を感じながら、悟が風に流されていく怪物の亡がらを見つめる。悲壮感の漂う彼を、サクラが物陰から困惑の面持ちで見守っていた。
そして、彼女の他に悟を見つめる人物があった。その人物は憤りをあらわにしながら、突如悟に向けて飛び込んできた。
その人物、ガクトの顔に紋様が浮かぶ。その姿が竜の姿を模した怪物に姿が変わる。
「むっ!?」
振り返った悟がその怪物、ドラゴンガルヴォルスの奇襲に身構える。
「ガルヴォルスは全てオレが倒す!」
悟に言い放って、ガクトがえん曲の剣を出現させた。
次回
「ガルヴォルスでありながら、それを滅ぼすと・・」
「お前らが、オレの全てを壊したんだ!」
「みんな凍っておしまい!」
「もっと・・もっと力が・・・!」
「見せてやる。これがオレの、もうひとつのガルヴォルスの姿を。」