ガルヴォルスextend 第3話「2つの姿」
「ガルヴォルスは全てオレが倒す!」
悟に言い放って、ガクトがえん曲の剣を出現させ振り下ろす。悟はそれを騎士の剣で受け止める。
2つの剣がぶつかり、刀身が火花を散らす。ガクトが強引に押し込もうとさらに力を込める。
「お前らが、オレの全てを壊したんだ!」
「何!?」
ガクトの言葉に悟が眉をひそめる。
「お前らのようなバケモノがいるから、みんなが・・みんなが!」
いきり立ったガクトが悟の剣を弾き、さらに追撃を加えようとする。悟はそれを受け止めて反撃に転ずるが、ガクトは後退してかわす。
距離を置いて互いを見据えるガクトと悟。苛立ちを表面化させているガクトと真剣の面持ちの悟。
「ガルヴォルスは人間を傷つける悪魔!そんなヤツら、オレが打ち倒してやる!」
「つまり、ガルヴォルスでありながら、それを滅ぼすと・・」
悟の言葉に、ガクトは答える代わりに剣の切っ先を向けてくる。悟はそれを質問の肯定と悟った。
「なら見せてやる。これがオレの、もうひとつのガルヴォルスの姿を。」
「何!?」
悟の言葉に今度はガクトが眉をひそめる。悟は剣を下ろして、意識を集中する。
するとその姿が変貌を遂げる。腕や足の筋肉が少し細くなり、力が弱まったような雰囲気に見えた。
「この混沌の本当の力、力押しのお前には破れない。」
平然と言い放った後、悟は移動を開始した。それも先ほどとは明らかに違う、眼にも留まらぬほどの速さで。
その速さに驚愕したガクトに、悟の素早い一撃が叩き込まれる。その強い衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ちくしょう・・なんてスピードだ・・!」
悟の速さに毒づきながら、ガクトが体を起こして身構える。しかし彼の巡らせる視界の中に悟の姿がない。
そこへさらに一撃を受け、ガクトがうめく。危機感を覚えた彼は、背中から竜の翼を広げて飛翔する。
上空に避難したガクトは、体力の回復を計りながら悟の位置を探る。空なら奇襲を仕掛けてきても対応できると思っていた。
「悪いけど上に逃げてもムダだ。」
「なっ!?」
突然かかってきた声にガクトは驚愕する。上を見上げると、ガクトのさらに上に悟はいた。
ガクトのように翼を持っていたわけではない。悟はスピードだけでなく、跳躍力も増大していたのだ。その力でガクトのさらに上まで飛び上がっていたのだ。
その勢いのまま、悟がガクトに向けて剣を振りかざす。剣で受け止めたものの、ガクトは叩き落されて工事中のビルの壁に叩き込まれる。
屋根の上にひとまず着地した悟が、ガクトの動きを見計らうためにそのビルに向かう。しかしその中にガクトのいる気配は感じられない。
「いない・・逃げたのか・・・」
ガクトがいないことを確認して、悟はビルから離れた。物陰で戦いを見守っていたサクラの前に着地して、人間の姿に戻る。
「悟!」
安心感を持ったサクラが悟に駆け寄る。悟は振り返って彼女に微笑む。
「倒したの、あのガルヴォルス?」
「いや。逃げられた・・けどあのガルヴォルス、少し雰囲気が違った。」
「違ったって・・?」
悟の答えに疑問符を浮かべるサクラ。
「アイツはガルヴォルスでありながら、ガルヴォルスを憎んでいた。心を傷つけられた人間のように・・」
突如乱入してきたドラゴンガルヴォルスに、悟は疑念を抱いていた。その正体を知り、その心を救ってあげたい。心密かに彼は誓うのだった。
一方、悟の力に撤退を余儀なくされたガクト。人間の姿に戻り、満身創痍に陥った体を道の壁に預ける。
「ハァ・・ハァ・・なんて速さだ・・オレが追いつけないなんて・・・」
息を荒げながら、カオスガルヴォルスの脅威を噛み締めるガクト。
(力がほしい・・もっと・・もっと力が・・・!)
自分の無力さを悔やみつつ、ガクトはさらなる憎悪をたぎらせた。
「ただいま戻りました、先輩。」
ガルヴォルスの引き起こした事件を解決し、事務所に戻ってきた悟とサクラ。夏子が「ごくろうさま」と2人を迎える。
「ガルヴォルスはやむを得ず倒しました。あと、その直後に別のガルヴォルスが飛び込んできて。撃退しましたが。」
「別のガルヴォルス?」
悟の状況報告に夏子が眉をひそめる。
「不思議なガルヴォルスでした。竜に似た姿で、自分もガルヴォルスでありながら、同じガルヴォルスを憎み滅ぼそうとしていた・・」
ドラゴンガルヴォルスの抱える憎悪を思い返す悟。彼の説明に夏子も考えを募らせる。
「・・多分、何かでガルヴォルスを恨むようになり、それからガルヴォルスになってしまったのね。そのガルヴォルスを巻き込んだ事件がきっとあるはずよ。」
そういって夏子は机の引き出しを開け、ルーズリーフの1冊を取り出す。
「ガルヴォルスに関する事件を整理しておくわ。その間、また悟くんたちには行ってほしいところがあるの。」
「行ってほしいところ?また事件ですか?」
悟が聞き返すと、夏子は机の片隅に置いていた新聞のコピーを取り出す。
「街外れの山間部で、奇怪な事件が起きたわ。人間が凍りついた姿で次々と見つかった。多分、ガルヴォルスの事件だと思われるから・・」
「では私と悟で行ってきますね。夏子さんも何か分かったら連絡くださいね。」
「ち、ちょっと待ってくれ、サクラ。まだ帰ってきて少しも休んでないんだから。」
現場に向かうことを受け入れるサクラに、悟が抗議の声を上げる。
「山間部じゃ歩きじゃちょっと辛い。車で行くにしても、オレが運転しなくちゃいけないんだぞ。」
「フフ、ムリしないでよ、悟くん。たまには電車でいってらっしゃい。」
参った面持ちを見せる悟に、夏子が微笑んで案を告げる。その言葉に彼は少し安心する。
「分かりましたよ。今回は電車で行ってきますよ。」
「そうだよ。現場は駅から離れてないし。」
承諾する悟にサクラは笑顔で付け加える。こうして2人は新たな事件の場に気楽に向かうこととなった。
午後からのバイトに精を出していたガクト。しかしその気構えが空回りしているのか、仕事のミスが目立っていた。
カオスガルヴォルスとの戦いに敗れたこと。それが彼をさらに感情的にさせていた。
そして今、配達に向かおうとするところでピザの箱を落としてしまう。
「あらぁ、ピザ落としちゃったのね。」
それに気付いた美代子が気まずそうな面持ちを見せる。それに構わず、ガクトが箱の中のピザを確認する。
「あ、大丈夫、大丈夫。そんなに崩れてないし。」
「あらあら、ダメよ、ガクトさん。」
改めて箱を重ねて持ち上げたガクトを美代子が呼び止める。
「見た目はそうでなくても、ピザの中の愛情が崩れてないとも限らないのよ。すぐに作り直すから、少し待っててね。」
笑顔で言い聞かせて、美代子は厨房に入っていった。憮然とした面持ちを見せて、ガクトは待つことを余儀なくされた。
都心から離れていく電車。それに揺られながら、悟とサクラは事件の現場へと向かっていた。
窓から外の流れる景色を見て微笑んでいるサクラの傍らで、悟は安心したように眠っていた。車での移動が多かった中、彼にとって他の移動手段はありがたかったのだろう。
しばらく電車に揺られること数十分、2人は目的の駅に着いた。その駅前で、悟は大きく背伸びをする。
「くぅぅぅ。こんなに気持ちよく寝たのが久しぶりな気分がするよ。」
「もう、悟ったら大げさなんだから。」
サクラが思わず笑みをこぼす。苦笑を見せてから、悟は現場のほうに振り向く。
「あの山かい?事件が起きてるっていうのは・・」
「うん。警官とか警備に来てるけど、夏子さんが連絡を入れてるから私たちも入れるよ。」
悟の問いかけにサクラが答える。それを聞いて悟は現場の山へと向かい、サクラも後に続いていった。
人通りの少ない道路を数分進むと、警官が待機している山の入り口に到着する。
「すみません。秋夏子さんの下で働いている者ですが。」
「あぁ、君か?速水悟くんと友近サクラさん。」
悟が挨拶をかけると、現場を指揮している警部が振り返る。
「はい。それで、状況はどうなってますか?」
「連絡を受けてから今までで、また2人の犠牲者が出たよ。いずれもTVや何かのように氷に包まれていた。」
警部が説明をして、悟が考えを巡らせる。人知を超えた被害から、これがガルヴォルスの仕業である可能性が強まっていた。
「キャアッ!」
そのとき、山のほうから女性の悲鳴が轟いてきた。
「この声は!?」
その声に警部や他の警官が血相を変えて振り返る。悟とサクラも笑みを消して、この事態に備える。
「オレが行きます。サクラはここにいて。」
「うん。」
悟が現場に向かおうとするとサクラが頷く。
「大丈夫なのか、君ひとりで?」
「大丈夫ですよ。悟はこれでも強いですから。」
警部の心配に答えたのはサクラだった。そこまで過大評価するほどでもないと思いながら、悟は警部に小さく頷いてから山に向かって駆け出した。
奇怪な事件が多発している山。そこに登山している1人の女性がいた。彼女はとある会社のカメラ記者で、その事件の調査のために単身、直接この山にやってきていた。
しかししばらく歩いてみても、何の変哲のない山だった。唯一気がかりなことは、人どころか鳥や虫のいる気配さえ感じられないことだった。
そしてさらに奥に歩いていくと、もうひとつ気がかりなことを見つけた。それは季節外れの氷だった。
この季節では雪ももう解けて流れてしまっているはずである。それなのに草木の一部に氷がこびりついている。
奇妙だと感じながら、女性は手にカメラを持って再び歩き出す。そのとき、彼女は突如の寒気を覚えて足を止めて振り向く。
そこには1人の少女がいた。白い着物と水色の帯と髪。怪談話などに出る雪女か雪ん子を思わせる姿だった。
「あれ?どうしたの、こんなところで?」
女性が声をかけると、その少女は妖しく微笑む。
「お姉さん、凍っていないね?」
「えっ?」
少女の奇妙な言葉に女性は疑問符を浮かべる。
「凍ってないのはきれいじゃない。凍ってないのは私の庭には入れたくない。だから・・・」
少女が語りかけると、滝のように鮮明な髪がふわりと広がる。そして彼女の白い頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「みんな凍っておしまい!」
少女の姿が不気味な怪物へと変わる。銀ぎつねを思わせる姿を見せた少女から猛吹雪が吹き荒れる。
「キャアッ!」
女性はたまらず腕で自身を守ろうとする。しかし吹雪で長い髪を揺らめかせた状態のまま、女性が透明な氷に包まれてしまう。
吹雪が治まったところで、怪物の少女、シルバーフォックスガルヴォルスが微笑をもらす。
「そう。そうやって凍っていたほうが気分がいいのよ。夏の暑さでも解けない私の氷で、この山を包み込んであげるんだから。」
満足げに凍りついた女性を見つめる少女。
「待て!」
しばらく氷の女性の姿を堪能している少女のところへ、悲鳴を聞きつけてきた悟が駆けつけてきた。
「君なのか・・山に入ってきた人たちを、凍りつかせたのは・・・!?」
振り返ってきた怪物に、悟が息をのみながら声をかける。彼の憶測どおり、この事件もガルヴォルスの仕業だった。
「お兄さん、何の用なの?ここは私の庭。凍っていない人がいると、気分が悪くなってくるんだよね・・」
怪物は少女の声で悟に言葉を返してきた。彼女の心は、もはや人のものではなくなってしまっていた。
「もうこれ以上、みんなを傷つけるのはやめるんだ。」
「傷つける?じゃ逆に言うけど、あなたたち人間も、この自然を傷つけてたりするんだよね。」
悟の説得に、少女が逆に彼に呼びかける。
「自分たちのことだけ考えて、木や草を切り取って奪って・・だから私も、この庭を守るためにも、みんな凍らせてるってわけなのよ。」
微笑を浮かべて自分の考えを見せ付けようとする少女。しかし悟は彼女の言葉が腑に落ちなかった。
「だけど、君は人だけじゃなく、この山の木や虫まで凍りつかせて傷つけている。君の考えはその行動と矛盾しているよ。」
切実に言いかける悟に、少女の体が苛立ちで震えだす。
「私の庭を傷つけさせはしない・・そうだよ・・みんな凍ってしまえばいいんだよ!」
少女はいきり立って、再び吹雪を解き放つ。悟が身構えてその冷気をかわす。
「そんなにみんなを傷つけようというのか・・・だったら!」
戦うことを心に決めた悟が、少女と同種の怪物へと姿を変える。人の進化、ガルヴォルスの姿へ。
「へぇ、お兄さんもガルヴォルスなんだね。でも、私の庭を荒らすなら容赦しないよ。」
少女が関心の言葉をかけながら、悟に向けて再び吹雪を放ってきた。悟は回避行動を取るが、吹雪は素早く彼の右肩を氷に包んでしまう。
(くっ!効果が速いな・・)
「私を甘く見ないほうがいいってこと。すぐに全身凍りつかせてあげるから。」
凍てついた右肩を押さえて毒づく悟に、少女が妖しく微笑む。しかし悟はすぐに笑みを取り戻す。
「悪いけど、オレを凍りつかせるのはムリだよ。これから見せる姿のオレには・・・」
悠然と構える悟の姿が変化する。速さ重視の細身の姿に。凍てついていた右肩の氷も、変身の反動で粉砕されていた。
少女がさらに吹雪を展開する。しかし今の悟にとって回避することは造作もなかった。
眼にも留まらぬ動きで吹雪をかいくぐり、少女の眼前に詰め寄る。そして具現化させた剣で銀ぎつねの怪物の体を貫く。
速さの反動で突き飛ばされる少女。仰向けに倒れ、人間の姿に戻る。手にかけたことに心を痛めながら、悟も人間の姿に戻る。
「どうして・・私の吹雪をかわすなんて・・・」
苦悶の表情を見せる少女を、悟が歯がゆい面持ちで見下ろす。
「混沌は姿かたちを自在に変えられる。オレのもうひとつの姿は、パワーは劣るけど、スピードと的確性が向上するんだ。」
彼の話を聞いた少女が物悲しい笑みを浮かべる。その笑顔が固まり、砂のように崩れて消えていく。
風に流れていく少女の亡がらを見送る悟。
「確かに自然の破壊は間違っている。だからこれ以上、この山を悪くしないようにさせるから・・・」
少女の一途な思いを受け継いで、悟は人間の心を守ることを心に誓うのだった。
「お、帰ってきたぞ。」
悟が下山してきたのを確認した警部やサクラたちが笑みをこぼす。戦いを終えた彼を手厚く迎える。
「速水くん、無事だったのか・・?」
「はい。もう大丈夫です。ただ・・・」
「ただ・・?」
笑みを消して悲しい表情を見せる悟に、警部が眉をひそめて聞き返す。
「あまり自然環境を傷つけるのはよくないと思うんです。」
「えっ・・・?」
あまりに唐突なことを言われて、警部やサクラが呆然となる。
「山の中で女の子に会いました。あの子は、自然を大切にしたいと願っていました。せめてこの周辺でも、自然を大事にしてあげたいんです・・・」
「悟・・・」
悟の言葉に沈痛さを感じながらも、喜びの笑みを見せるサクラ。警部も笑みをこぼして承諾の意味を込めて頷いた。
「分かったよ、速水くん。ここを起点に自然保護の強化に努めよう。」
「ありがとうございます、警部・・」
悟は喜びをあらわにして頷く。こうして山の自然保護運動が全面的に導入され、少女の思いが遂げられつつあった。
「よかったね、悟。これからもみんなのために頑張っていこうね。」
「あっ・・あぁ・・・」
声をかけてきたサクラに、悟は戸惑いを込めた返事をする。みんなを守るために幼い少女を手にかけたことに、彼は困惑を拭えなかったのである。
次回
「あまりムリしないほうが・・・」
「オレにはやらなくちゃならないことがあるんだ。」
「この液は空気に触れると、石膏のように固まるのさ。」
「あたしのこの想い、受け取ってくれますか、ガクトさん!」