ガルヴォルスExbreak

第24話「死闘の終焉」

 

 

 ツバサから力を与えられ、自身の強化を果たしたマサキ。彼はひと息ついてから、ガイに向かって飛びかかった。
 ガイが右手を強く握りしめて、マサキを迎え撃つ。2人が同時に拳を繰り出してぶつけ合い、巻き起こった衝撃が周囲の壁や地面を損傷させる。
「ぐっ・・!」
 攻撃した右手に痛みを感じて、ガイが顔を歪める。
「オレの力を、上回っているだと・・!?」
 マサキの力を痛感し、ガイが驚愕を募らせる。
「オレはこれでお前を止める・・オレとツバサの力で・・・!」
「マサキ・・・」
 言い放ち両手を握りしめるマサキに、ツバサが戸惑いを浮かべる。
「たとえ誰が邪魔をしてきても、オレは止まるわけにはいかない・・たとえアキハが喜ばなくても、オレを恨むようになっても、アイツが死んでいいことになるのは、絶対に納得ができない!」
 ガイは戦いをやめようとせず、マサキに飛び掛かる。ガイが繰り出す拳を、マサキが見切ってかわす。
(力が強くなっただけじゃない・・感覚ももっと鋭くなった気がする・・ガイの動きが、手に取るように分かる・・・!)
 今まで打ちのめされてきたガイの攻撃に対応できていることに、マサキは戸惑いを感じていた。
(自惚れや気持ちが楽になったとかじゃないが、今は負ける気がしない・・・!)
 確信を抱いたマサキが、ガイの動きを冷静に見抜いていく。
「逃げるな!」
 ガイが激高し、マサキの右肩をつかんだ。
「がはっ!」
 次の瞬間、マサキの左の拳が体に叩き込まれて、ガイが激痛に襲われた。
(攻撃に耐えられない!?・・ここまで力が上がっているのか・・・!?)
 思うように動けなくなり、ガイが驚愕する。
(それでもオレは止まらない・・ヴォルスレイを滅ぼすまでは、殺されるほどの苦痛を受けても、絶対に死なない・・!)
 彼はマサキが力を上回っていることを痛感しながらも、憎悪を強めて飛びかかる。
「オレはまた倒れるわけにはいかないんだ!」
「止める!オレたちはお前を止める!」
 怒号を放つガイに、マサキが言い返す。
 ガイが繰り出した右の拳をかわして、マサキが左手でその腕をつかんだ。右腕をつかむ手を振り払えず、左の拳を繰り出すガイだが、これもマサキに止められる。
 ガイが苛立ち、右足を出して膝蹴りをマサキの体に当てた。しかしマサキは全く動じない。
「あり得ない・・オレはここで止められるわけにはいかない・・この戦いに勝たなければならないんだ!」
 ガイは退かず、右膝を押し込んで強引にマサキを押していく。しかしマサキはすぐに踏みとどまり、押されなくなる。
「その暴走を、オレたちが必ず止める・・!」
 マサキがガイを持ち上げて、上へ放り投げた。ガイが空中で体勢を整えて、マサキに向かって降下する。
「マサキ、オレはお前たちも必ず倒す!」
 ガイが降下の勢いに乗って、マサキ目がけて拳を繰り出す。
(よけたら攻撃の衝撃で周りに被害が出る・・受け止めても致命傷を受けるかもしれない・・迎え撃つしかない・・!)
 マサキが握りしめた右手に力を集中させていく。2人が出した拳がぶつかり合い、閃光とも爆発ともつかない衝撃が巻き起こった。
 衝突したマサキとガイの拳から血があふれていた。激しい衝突によって、2人の拳は大きく傷ついた。
(2人の力はかなり高まっている・・2人の攻撃がぶつかり合えば、その反動も大きい・・ダメージもここまでになってしまう・・・!)
 マサキとガイの激突と負傷を目の当たりにして、ツバサが困惑していく。
(マサキの傷を治したいけど、もう私には力が残っていない・・・!)
 自分の力をマサキに与えたため、ツバサは彼を助けることができない状態だった。
(オレの拳が・・ここまで傷つくとは・・・!)
 負傷した右手を思うように動かせず、ガイが体を震わせる。
(いくら今のオレでも、戦いを長引かせたら不利になる・・次で決着を付けないと、ガイを止めることができなくなる・・・!)
 力が上がっても危機感を拭えないマサキが、次の攻撃で決着を付けようと考える。
(この一撃は必ず当てる・・肉を切らせて骨を断つ形になっても・・・!)
 彼は覚悟を決めて、痛めている右手を握りしめて力を込める。
(オレは倒れない・・まだ、敵討ちを完全に終えていないのだから・・・!)
 ガイが感情を強めて無理矢理痛みを抑え込み、マサキに向かってゆっくりと歩を進める。
(アキハ、たとえこれでお前がオレを許せないと思っても、オレはヴォルスレイを野放しにするわけにはいかないんだ・・・!)
 アキハの二の舞を増やさないために、ガイは退かずに戦う意思を貫く。
(どんなに危険な戦いでも、逃げずに立ち向かう・・その勇気はいいと思う・・・それでも、オレはお前を止める・・お前のためにも!)
 ガイの揺るぎない信念を理解しながらも、マサキも彼を止める意思を貫こうとする。
(マサキ、あなたならガイを止められると、私も信じている・・・!)
 マサキを信じるだけのツバサが、目から涙を流す。
 マサキとガイが同時に飛び出し、右の拳を繰り出す。ガイの拳を紙一重でかわして、マサキが彼の体に拳を叩き込んだ。
 ガイが激痛を覚えて、前のめりに倒れる。その直後、マサキも彼の拳の衝撃が左腕に伝わり、顔を歪めて倒れた。
「マサキ!?」
 ツバサが叫び、マサキに近づこうとする。しかし彼女はまだ体力が戻らず、思うように体を動かせない。
 マサキもガイも意識を失ってしまったと、ツバサは思った。
 そのとき、ガイが体に力を入れて起き上がってきた。彼は傷付いた体を強引に動かした。
「そんな・・ここまでしても、ガイさんを止められないの・・・!?」
 ツバサがガイを見て愕然となる。
「オレは行く・・ヴォルスレイを滅ぼすまで、オレは死なない・・・!」
 ヴォルスレイを憎む本能だけで動くガイ。満身創痍の彼は力なく前進していく。
「マサキ、しっかりして・・このままじゃシュラさんが・・・!」
 ツバサが声を振り絞るが、マサキは起き上がることができない。
「私たちは、ここが限界だというの・・・!?」
 2人の力を合わせてもガイを止められなかったことに悔しさを感じて、ツバサはたまらずその場に突っ伏した。
(ツバサ・・・ガイ・・・)
 マサキが倒れたまま、2人のことを考える。しかし意思に反して、彼の体は動かなかった。

 マサキたちとガイの戦いを、ヴォルスレイの兵士の生き残りが遠くから監視していた。マサキたちの状況を、兵士たちはシュラに伝えた。
「マサキさん、ツバサさん・・・分かりました。報告、ありがとうございました・・・」
 シュラが困惑を覚えながら、兵士に礼を言う。
「マサキさんたちを保護して手当てをしてください。激しい戦闘で疲れているはずですから・・」
“隊長はどうされるのですか・・・?”
「私が可能な限り、時間を稼ぎます・・・マサキさんたちのこと、お願いします・・・」
“隊長・・・どうか、無事に生きてください・・・!”
「努力します・・私に何かあったら、あなたたちやマサキさんたちが悲しみますからね・・・」
“分かりました、隊長・・帰りをお待ちしています・・・!”
 シュラが微笑んで、兵士との連絡を終えた。
(マサキくんとツバサさんでも止められなかった・・ガイくんは確実に、私を狙ってやってきます・・)
 シュラがガイが襲いに来ることを確信して、苦笑をこぼす。
(私も生き残りたいというのが本音です・・マサキさんたちと、日常の中で交流を持ちたいです・・・)
 シュラが心の中で本音を呟いていく。
(ガイさんはかなり疲弊しているはずです・・彼からどこまで逃げ延びられるか・・・)
 彼は気を引き締めて、ガイの位置情報を頼りに動き出す。
(ゆっくりではありますが、こちらに向かってきています・・確実に私のことを捉えて、狙っていますね・・)
 シュラが街と反対側を目指して移動していく。彼は無関係な被害が増えないように、人気のない山林地帯を目指していた。
(ここへ来る人は滅多にいませんからね・・ガイくんを誘い込むなら、ここですね・・)
 疲弊している体を突き動かし、シュラは山林地帯の木々の間を進んでいく。
(少しでも逃げないと・・ガイくんが力を使い果たすまでは・・・)
 マサキたちとの戦いでガイが疲弊していると判断して、シュラは彼が疲れ果てることを狙って距離を稼ぐ。
(マサキくん、ツバサさん・・あなた方の尽力をムダにはしません・・ガイくんの命を奪うことになっても、私は必ず止めます・・・!)
 マサキたちに謝意と決意を示して、シュラはさらに進んでいった。
(私の方へまだ向かっている・・よほど許せないのですね・・私が・・ヴォルスレイが・・・)
 シュラがレーダーを確かめて、ガイの憎悪が尋常でないことを痛感する。
(あなたに殺される覚悟はあります・・その上で、私は生きて帰ります・・マサキさんたちのところへ・・)
 1つの希望を胸に秘めて、シュラはさらに走り続けた。そして彼が森の奥の広場にたどり着いたときだった。
 シュラが強い殺気を感じて、思わず足を止めた。彼の後方にガイの姿があった。
「逃がさないぞ、シュラ・・今度こそお前の息の根を止める・・・!」
 ガイがシュラに鋭い視線を向ける。
「私たちは償い切れないほどの罪を犯しました・・あなたたちに対しても・・償いのためにあなたに殺されるのもやむなしです・・ですが、マサキくんとツバサさんのために、私は死ぬわけにいきません・・・!」
 シュラが自分の思いを口にして身構える。
「お前も、往生際が悪い・・どこまでもオレたちを苦しめて・・・!」
 憎悪を募らせるガイの頬に紋様が走る。しかし痛みを感じたため、彼はドラゴンガルヴォルスになることができない。
「マサキくんたちの力を完全に上回ったわけではないようですね・・さすがのあなたも、想像以上に力を消耗していますね・・」
 シュラがガイの様子を見て笑みをこぼす。
「だとしても、オレがお前たちを許すことにはならない・・たとえアキハが満足しなくても、オレはアイツのために、お前たちを滅ぼさなければならない・・・!」
 ガイが押し寄せる激痛を押し返し、力強く地面を踏み込んで前進する。
「これは、力尽きるのを待つのは期待できませんね・・・」
 シュラが苦笑いを見せて、ガイの動きを伺いながらゆっくりと移動していく。
「逃げるな・・逃げるなと言っている!」
 ガイが体を突き動かし、強引にドラゴンガルヴォルスとなった。
「本当に予想外だらけですよ・・あなたのことは・・・」
 シュラが皮肉を言って、ガイの追跡から必死に逃げる。しかしガイは徐々に距離を詰めてくる。
「申し訳ありません・・ガイくん!」
 シュラが銃を手にして発砲する。ガイは弾丸を体に受けるが、弾丸のほうが砕け散る。
「気休めにもならないなんて・・反則ですね、ガイくんの力の高さは・・・」
 ガイの底力に、シュラは苦笑するしかなかった。
「せめて、弾を全て撃ち込んで・・・!」
 シュラが続けて射撃をするが、ガイには通じない。
「これは、ムダな抵抗にもなりませんね・・・」
 弾を全て撃ち尽くして、シュラが銃を捨てる。
 ガイが力を振り絞ってシュラを追う。しかしガイの前進は徐々に遅くなっていく。
「あなたの強い意思とは裏腹に、体の方は限界を超えていますね・・・」
「それでもオレはお前たちを滅ぼす・・オレの体がバラバラになるようなことになっても、オレは死なない・・・!」
 苦笑するシュラに言い返し、ガイが一歩ずつ前進していく。
「オレの・・オレたちのような悲劇をする人を増やさないために、オレはヴォルスレイを滅ぼす・・そうしなければ、死んでも死に切れない・・・!」
 ガイはアキハのことを想いながらも、自分の果たすべき信念を貫いていた。
 シュラがさらにガイから離れようとした。しかし途中で足をつまずいて、彼は倒れてしまう。
 すぐに起き上がるシュラだったが、ガイが彼のそばまで詰め寄ってきた。
「お前も終わりだ、シュラ・・お前の息の根を止めれば、ヴォルスレイの壊滅まで目前となる・・」
「もう終わりですよ・・ここまでの被害が出た時点で、ヴォルスレイは解散するしかありません・・・」
 低い声で告げるガイに、シュラが皮肉を口にする。
「お前たちは滅びる以外にない・・悲劇を繰り返す敵は、オレが全員息の根を止める・・・!」
 ガイが敵意を強めて、右手を構えて爪を尖らせる。
「お前も終わりだ、シュラ・・・!」
 ガイが憎悪を込めて、シュラに向けて右手を突き出した。
 だが、ガイの右手の爪がシュラに当たる前に止まっていた。
 ガイが強引に手を押し込もうとする。しかし意思に反して彼の体が動かない。
「何故だ・・ヤツを仕留めなければならないのに・・・言うことを聞かない・・・!」
 ガイが憤りを感じて、さらに力ずくで手を押し込もうとする。
「体が限界を迎えたようです・・怒りや精神が限界突破しても、体の方がついてこれなくなりましたね・・・」
 シュラが彼の限界を把握して、ひと息つく。
「これ以上強引に体を動かそうとしてもついてこれません・・逆に体が崩壊しかねません・・・」
「オレは死なない・・お前たちを滅ぼすまでは、オレの体が壊れることも許さない・・・!」
 シュラが忠告をしても、ガイは聞かずに強引に手を前に出そうとする。次の瞬間、ガイの体から鮮血があふれ出した。
「ぐ・・うぐっ・・!」
 ガイがかつてない激痛に襲われ、目を見開いてうめく。
「私たちへの憎悪と裏腹に、あなたの体は崩壊に向かっています・・強引に動いても崩壊を早めるだけです・・・」
「黙れ・・・オレは・・お前たちを許しはしない・・・!」
 シュラが忠告を続けても、ガイは聞かずに彼の体に爪の切っ先を当てた。
「くっ・・!」
 シュラがとっさに離れて、ガイの必死の攻撃をよけた。
「残念ですが、あなたの復讐を完了させるわけにはいきません・・・私には、帰る場所ができたのですから・・・」
 シュラはガイから離れて、1人歩いていく。
「待て!・・待て、シュラ・・・!」
 ガイがシュラを追おうと体を動かすが、体からさらに血飛沫が噴き出した。
「お前たちがいる限り・・悲劇が繰り返される・・・オレたちのような人を、増やすわけにいかないんだ・・・!」
 それでもシュラたちを討つことしか考えないガイ。彼は多くの血を流しながらも、前進を止めない。
「オレは死なない・・オレが死ぬとしたら、それはオレの戦いが全て終わった後だ・・・!」
「もう無理しないで、ガイ・・」
 そのとき、ガイは声を耳にして目を見開いた。彼はそばにアキハがいると感じた。
「私は復讐は望んでいない・・あなたが無事に生きていてくれたら、それで・・・」
「それでは、オレが無事に生きることにはならない・・ヴォルスレイがいる限り、オレは・・オレたちは・・・!」
 アキハが呼び止めるが、彼女の声でもガイは止まらない。
「もうそれは私たちの願いじゃない・・あなただけの意固地だよ・・・」
「そうかもしれない・・今のオレは、これしかない・・・」
 悲しみを告げるアキハに言い返して、ガイは前に進もうとする。しかし揺るぎない意思に反して、彼は前のめりに倒れた。
「まだだ・・・オレは死ねない・・・オレが死んだら・・まだ、悲劇が・・・」
「ガイ・・・本当に、手に負えないくらいに強情なんだから・・・」
 倒れたまま前に進もうとするガイに、アキハが悲しい顔を浮かべる。
「それがあなたの悪いところであり、いいところでもある・・・ガイ・・・」
 アキハが呟いてから、ガイのそばから姿を消した。
「アキハ・・・オレは・・・オレは・・・」
 アキハのことを想いながらも、シュラを追うことに最後まで固執したガイ。彼は自分でも気付かないまま倒れ、肉体が崩壊していった。

 竜間ガイ。大切な人を殺され、ヴォルスレイへの復讐のために生きてきた男。
 復讐に固執してきたガイだが、ヴォルスレイの崩壊を引き起こしたが、メンバーの全滅を完了しないまま力尽きた。
 復讐を果たせない無念を抱えながら。

 

 

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