ガルヴォルスExbreak

第20話「狂気の戦乱」

 

 

 カリヤが倒されたことは、ザンキの耳に届いた。
(あの男、竜間ガイがカリヤを倒したのか・・)
 ザンキがガイを警戒して、緊張を募らせる。
(いつまでもここでじっとしているわけにはいかない・・オレが直接、ヤツに引導を渡さなければならんな・・・)
 椅子から立ち上がった彼は、自ら敵の排除に出向くことにした。

 ヴォルスレイの一員であるシュラを攻撃しようとするガイ。ツバサが念力で止めようとするが、ガイは強引に前進していく。
「強い力・・というよりも、無理やり私の力に逆らっている・・・!」
 ガイの力と感情に押されて、ツバサが脅威を覚える。
「ツバサちゃん、ムチャしないで・・・!」
 マサキに呼び止められて、ツバサがとっさに念力を中断した。マサキがシュラを抱えて、ツバサと共に移動する。
「逃げるな!」
 ガイが怒号を放ち、マサキたちを追いかける。マサキが振り向き様に拳を振り下ろし、地面にぶつけて土煙を舞い上げた。
「逃げるなと言っている!」
 ガイが右の拳を振りかざして、その衝撃で土煙を吹き飛ばした。しかしその先にマサキたちの姿はなかった。
「逃がさないぞ・・ヴォルスレイも、ヴォルスレイを庇うヤツらも・・・!」
 怒りを膨らませたまま、ガイは人の姿に戻って歩き出した。彼の怒りの矛先はヴォルスレイだけでなく、マサキとツバサにも向いていた。

 ガイから辛くも逃げ切ったマサキたち。ガイと対立することに、マサキとシュラだけでなく、ツバサも困惑していた。
「ガイのヤツ、オレたちも敵だと認識したみたいだな・・・!」
「ヴォルスレイを憎んでいるガイくんは、私たちに味方するあなたたちにも怒りの矛先を向けてしまった・・・」
 深刻な面持ちを浮かべるマサキに、シュラがガイの心境を伝える。
「どうしてそこまで・・・!?」
「あなたたちには、詳しく話していませんでしたね・・ガイくんがヴォルスレイを憎んでいる理由について・・」
 ツバサが困惑していると、シュラがガイのことを語り出す。
「ヴォルスレイが無慈悲な戦いをしたために、ガイくんのガールフレンドを死なせてしまったのです・・」
「えっ・・!?」
 シュラからガイのことを聞いて、ツバサが目を見開く。
「ヴォルスレイの非情なやり方を、ガイくんは許せないと思っています・・彼の心を傷つけてしまったのは、私たちです・・・」
「だからガイはあそこまで、ヴォルスレイを憎んでいるのか・・・!」
 罪の意識を感じるシュラに、マサキが渋々納得する。
「大切な人を殺された悲しさと怒りは分かるけど・・それで関係のない人を巻き込むような戦いをするのは・・・」
「その怒りで頭がいっぱいになっているのです・・敵を野放しにすることができないと・・・」
 ツバサがガイに対して複雑な気持ちを感じて、シュラが言葉を返す。
「アイツは・・バサラはどう思っているんですか?・・ガイの大事な人を手に掛けてしまったことを・・・」
 マサキがバサラのことを聞いて、シュラが一瞬緊迫を浮かべた。
「バサラさんは・・あくまでガルヴォルス討伐を考えています・・ガイくんも、世界を脅かす敵と認識しています・・・」
「そんな!?ガイはアンタたちのせいで、復讐の鬼になっているんだろうが!」
 深刻な面持ちで答えるシュラに、マサキが怒鳴る。
「私としては責任を感じています・・しかしバサラさんは、ガルヴォルス討伐を変えるつもりはなく・・・」
「ガルヴォルス討伐・・・もしかして、私たちも敵だと思っているんじゃ・・・!?」
 話を続けるシュラに、ツバサが問い詰める。シュラは答えることができず、沈黙する。
「そんな考えだから・・そんな態度だから、ガイはあなたたちを許せないと思っているんですよ!」
「・・・私個人はそう思います・・しかし、バサラさんは・・・」
 マサキが怒鳴るが、シュラは深刻さを募らせながら言葉を返すばかりだった。
「バサラとガイ、どっちの味方になればいいか、分からなくなってきた・・・」
「マサキ・・私・・シュラさんはともかく、ヴォルスレイそのものは信用できない・・・」
 マサキとツバサがヴォルスレイ、特にバサラに対する不信感を膨らませた。
「私はヴォルスレイの一員です。もしもヴォルスレイの任務を妨害するのでしたら、私はあなたたちに相応の対処をしなければなりません・・」
「それは・・・シュラさんの立場上、そうなるだろうけど・・・」
 毅然とした態度を取ろうとするシュラに、マサキは一瞬当惑する。
「オレたちだって、オレたちの考えがある・・アンタたちがオレたちをどうこうしようとするなら、オレたちも容赦しないぞ・・・!」
 マサキがシュラに対して鋭い視線を向ける。マサキとツバサも最悪、ヴォルスレイと敵対することも覚悟していた。
「私としては・・あなたたちと対立しないことを願っています・・・」
 シュラが悲しい表情を浮かべて、本心を口にする。マサキもツバサも彼に対して複雑な気分を感じていた。
「今はガイを追いかけるのが先か・・バサラを倒しに行くために、関係ない人が巻き込まれるのだけは避けたい・・・!」
「うん・・行きましょう、マサキくん・・・」
 マサキがガイのことを言って、ツバサが頷いた。
「マサキくん・・・ツバサさん・・・」
 シュラは困惑して、2人を見送ることしかできなかった。

 ヴォルスレイの本部にて、バサラはガイやガルヴォルスの動向を伺っていた。
「竜間ガイが本部に接近してきています。」
 兵士の1人がバサラに報告をした。
「気付かれる前に処理しろ。最悪、近隣の犠牲もやむなしだ。」
「了解。」
 バサラが命令を出し、兵士が外にいる部隊に通達した。
(ガルヴォルスは滅びなければならない。誤った進化をした存在を認めることは、人類の破滅につながる・・)
 ガルヴォルスに対する憎悪を募らせるバサラ。
(毒を以て毒を制す形でも、私はこの使命を果たす。)
 彼はガルヴォルス殲滅のために、マサキたちを利用することも厭わなかった。

 ヴォルスレイの本部を目指し、ガイは移動を続けていた。彼はヴォルスレイの部隊の気配を捉えつつあった。
(この近くに、ヴォルスレイの今の本部があるのか・・・?)
 敵意の強い気配を感じ取り、ガイが目つきを鋭くする。
(しかもこの辺りに、人が隠れている・・しかも気配を殺しているようだ・・・)
 彼は足を止めて感覚を研ぎ澄ませ、身をひそめている人物の居場所を捉える。
(出てこないなら叩き出す・・敵は逃さずに叩き潰す・・・!)
 ガイがドラゴンガルヴォルスとなって、全身から衝撃波を放つ。
「ぐっ!」
 隠れていた兵士たちが衝撃に体を揺さぶられて、物陰から引きずり出された。
「わ、我々が、こうも簡単に揺さぶられるとは・・!」
 ソウマがガイの力を痛感して息をのむ。
「ヴォルスレイ・・お前たちは1人残らず、オレが倒す・・・!」
 ガイが鋭く言って、右手を握りしめてソウマたちに飛びかかる。
「撃て!近づけさせるな!」
 ソウマが指示を出し、隊員たちが銃を発砲する。ガイが素早く動き、射撃をかわした。
 ガイが手を握りしめて、拳を振りかざして兵士たちを殴り飛ばした。兵士たちが強い衝撃に襲われ、倒れて動けなくなる。
「我々の隊員が、一撃で倒されるとは・・・!」
 ソウマが緊迫を募らせて、銃を構えたまま後ずさりする。
「オレはお前たちに復讐する・・ヴォルスレイ、お前たちが存在することを、オレは認めない・・・!」
 ガイがソウマに飛びかかり、拳を振りかぶる。ソウマがとっさに閃光弾を投げつけた。
 煌めいた光に当てられ、ガイが目を細めた。その隙にソウマが離れながら、銃を連射して彼に弾丸を叩き込んだ。
(これで一瞬でも体勢を崩させることができれば、その隙に脱出して・・・!)
 ソウマがすぐに離脱して、バサラたちに報告しようとした。
「ぐっ!」
 次の瞬間、ソウマが体に激痛を覚えた。ガイが煙を突っ切り、右手を体に叩き込んできた。
 ソウマが体を貫かれ、目を見開き吐血した。
「こちらの位置を、正確に捉えてくるとは・・・!」
「オレは敵の居場所を正確に捉えられるようになった・・どこにいても、もう逃がしはしない・・・!」
 愕然となるソウマに、ガイが鋭く言う。彼はそのまま押し込み、ソウマをその先の壁に叩きつけた。
「バ・・バサラ・・様・・・」
 ソウマがバサラに向けて声を振り絞り、脱力してうなだれた。ガイが彼を落として、気配を感じて振り返る。
「バサラが近くにいるのは分かっている・・もう逃がしはしない・・・!」
 ガイが感覚を研ぎ澄まして、気配を感じ取って振り向いた。彼はその先にバサラがいることを感知していた。

「竜間ガイがこちらに接近してきます!」
 兵士が慌ただしくバサラに報告する。
「ヤツは我々の居場所を完全に把握しているようです。この本部が襲撃されるのは確実です!」
「バサラ様、今のうちに脱出をされた方が・・!」
 兵士たちが慌ただしくバサラに撤退を進言する。
「竜間ガイは確実に殲滅する。ヤツを討たずに逃げ回れば、ガルヴォルスがのさばる事態になってしまう・・」
 しかしバサラは引き下がらず、ガイを迎え撃つことを命令する。
「ですが、それではあなたが・・!」
「あなたに万が一のことがあれば、ヴォルスレイは・・・!」
 兵士たちが困惑を覚えて、バサラに苦言を呈する。
「ガルヴォルスは1人たりとも生かしてはおかん!」
 バサラが怒号を放ち、兵士たちが息をのむ。
「たとえこの本部を墓場に変えてでも、我々はガルヴォルスを討伐する!」
「バサラ様・・・!」
 ガルヴォルス打倒への執念を強めるバサラを前にして、兵士たちは覚悟を決めた。
「竜間ガイ、本部の敷地内に侵入しました!」
 別の兵士がレーダーを見て報告する。地下にある本部の地上に、ガイは足を踏み入れていた。
「足を止めました!やはり我々のことに気付いているようです!」
 兵士が報告してバサラたちが上を見上げた。
「ガイを処刑場におびき寄せろ。そこで確実にヤツを始末する。」
「し、処刑場に!?・・しかし、そこまで向かわせるまでに、本部に甚大な被害が・・・!」
「そうしなければ被害はその上を行く。最小限に食い止めたければ、この命令通りにしろ。」
「バサラ様・・・分かりました・・竜間ガイを処刑場に引き付けます・・・!」
 バサラに命令されて、兵士たちはその通り従うことにした。彼らはガイの動向を把握しながら、処刑場の近くで迎撃態勢を敷いた。

 バサラの居場所を捉えたガイが、地面を強く踏んだ。地面に開けられた穴に飛び込み、彼はヴォルスレイの本部に侵入した。
「竜間ガイが来たぞ!」
 兵士たちが叫び、ガイに向けて銃を撃ちながら徐々に移動していく。
「距離を取りながら攻撃!詰め寄られるな!」
 兵士たちが声を掛け合い、処刑場に向けて後退していく。
「逃げるな!」
 ガイが怒号を放ち、右手を振りかざして衝撃波を放つ。
「うわっ!」
 兵士たちが衝撃波に押されて、壁に叩きつけられて苦痛を覚える。
「怯むな!攻撃を続けるんだ!」
「はい!」
 兵士たちが立ち上がり、移動しながらガイを射撃する。ガイは弾丸をものともせずに兵士たちに迫る。
(どこかにおびき出そうというのか?・・何を企んでいようと、全て葬るまで・・・!)
 ガイは迷うことなく、兵士たちを追って前進する。
「もう少しで目的地に到着します・・!」
「そこまで持たせろ・・ヤツが侵入次第、そこから脱出するぞ・・・!」
 兵士たちが連絡を取り合い、処刑場の前まで来た。彼らを追って、ガイも処刑場に入った。
「よし、今だ!」
 その瞬間、兵士の1人が処刑場に煙幕を噴射した。同時に別の兵士が大音量のスピーカーを鳴らした。
(視界と耳を封じるか・・しかしこれで逃げられると思うな・・・!)
 ガイが感覚を研ぎ澄ませ、兵士たちの気配を感じ取っていく。
(逃げられると思うな!)
 ガイが全身に力を入れて、衝撃波を発した。衝撃が煙幕を吹き飛ばしたが、既に兵士たちは外へ出て扉も閉まっていた。
「これで逃げたつもりか!」
 ガイが処刑場から飛び出そうとした。そのとき、彼に向かって複数の熱線が照射された。
「ぐっ!」
 集中的に熱線を当てられ、ガイが激痛に襲われる。
(強い熱で、オレの体を焼き尽くすつもりか・・それでオレはやられはしない!)
 ガイが全身に力を入れて、熱線を押し返す。
(お前の仇を討つまでは、死んでも死にきれないんだ・・・アキハ・・・!)
 アキハへの思いが、ガイの怒りと力、生への執着を強めていく。彼の体から衝撃がほとばしり、処刑場全体をゆがませ熱線の装置を破壊した。
 息を乱しながら、ガイは崩壊した処刑場から出ていった。

「竜間ガイ、処刑場から脱出!ダメージがほとんどありません!」
 兵士からの報告を聞いて、バサラが目を見開く。
「ガルヴォルスのレベルさえも大きく超えているというのか・・・!?」
 予想以上のガイの身体能力に、バサラも驚愕を隠せなくなっていた。
「もはや、この本部全てを自爆させるしかない・・・!」
 いきり立ったバサラが、本部を爆破してガイを吹き飛ばすことを考える。
「おやめください、バサラ様、本部全体の自爆をすれば、この地区だけでなく、周辺の多くの地区も廃墟と化してしまいます!」
 兵士の1人が危機感を浮かべて、バサラを呼び止める。
「これは命令だ・・ヤツを野放しにすれば、世界中の人間が蹂躙される・・それだけは阻止しなければならん・・!」
「こればかりは聞けません!その人間の命が失われることになります!」
 バサラが鋭く言うが、兵士は聞こうとしない。するとバサラが銃を取り出し、彼に向けて発砲した。
 撃たれた兵士が即死し、他の兵士たちが緊張を募らせる。
「これは人類を守る戦いだ・・それに従えないのは、人類の敵になるのと同じだ・・・!」
 バサラが鋭く告げて、兵士たちが息を呑む。バサラがガルヴォルスを滅ぼすためにあらゆる手段を使うと、兵士たちは痛感していた。
「竜間ガイを本部の中心に留まらせる・・全員それまでヤツを足止めし、自爆の直前に脱出しろ。」
「わ・・分かりました・・バサラ様・・・!」
 バサラが再び命令を出し、兵士たちは従うことにした。
(ガルヴォルスは滅ぼす・・竜間ガイのような障害は、なおのこと野放しにはしない・・・!)
 ガイのことを確実に倒すべき存在だと認識するバサラ。彼はそのために手段を選ばなかった。

 処刑場の仕掛けも破り、ガイはバサラを追って廊下を進む。
「竜間ガイ!」
 兵士たちがガイの前に現れ、銃を構えた。
「貴様をここから出すわけにはいかない!」
「我々が始末する!」
 兵士たちが言い放ち、発砲する。しかし弾丸はガイに命中する前にかき消された。
「わずかでも・・1秒でも時間を稼げれば・・・!」
 兵士はガイの出方を伺いながら、発砲を続ける。
「いつまでもオレをなめるな・・・!」
 ガイが怒号と共に衝撃波を発する。
「ぐあっ!」
 兵士たちが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて吐血する。
「ダメだ・・これでは、足止めもできない・・・!」
「これではあのガルヴォルスに殺されてしまう・・・!」
 兵士たちの中に恐怖に囚われた人が出て、ガイから逃げ出していく。
「馬鹿者!敵前逃亡するヤツがあるか!」
 他の兵士が怒鳴るが、逃げた兵士たちは戻らない。
「攻撃してきても逃げても、お前たちは全員オレに倒される・・・!」
 ガイが一気にスピードを上げて、爪を振りかざした。応戦していた兵士たちが切り裂かれて、鮮血をまき散らして倒れた。
「バサラ・・もうオレから逃げられないぞ・・・!」
 ガイがバサラの動きを捉えて、足早になる。彼は強引に壁を破り突き進んでいく。
 そしてガイが、本部から出ようとしたバサラの前に出てきた。
「竜間ガイ・・・!」
 バサラがガイを目の当たりにして、苛立ちを浮かべる。
「見つけたぞ・・新藤バサラ・・・!」
 ガイがバサラに対して目つきを鋭くしていた。

 

 

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