ガルヴォルスExbreak

第19話「野心の刃」

 

 

 シュラがデータ収集のための検査を頼み、ツバサが引き受けた。彼女へのチェックを、マサキとシュラが真剣に見守っていた。
「オレが事前に受けたのと同じ検査みたいだ・・」
「あのときはお手数をおかけしました。そして今回も・・」
 マサキが自分が検査を受けたときのことを思い出し、シュラが謝意を示す。
「オレもオレの力がどんなものか分かったからよかったとは思っている。ただ、ツバサちゃんは自分が調べられるのをどう思っているのか・・」
「それは本人にしかまずは・・」
 ツバサを気遣い、マサキとシュラが悲しい顔を浮かべた。
 マサキたちがしばらく待つと、ツバサの検査とデータ収集が完了した。
「ツバサちゃん・・・!」
 戻ってきたツバサに、マサキが駆け寄ってきた。
「大丈夫か?・・体だけじゃなく、気分とか・・」
「うん・・私の持っている力に、不安は感じているけど・・・」
 マサキが心配して、ツバサが微笑んで答える。
「シュラさん、私も戦いたいです・・ジンボーのみんなの仇を討ちたいです・・・!」
 ツバサが戦いの参加をシュラに申し出てきた。
「ツバサちゃん、危険な戦いだ・・特にあのサメヤローはオレでも勝てるって保証はない・・」
「でも、私の力を使いこなすことができたら、あのガルヴォルスを見つけられる・・私にもやらせて・・・!」
 心配するマサキだが、ツバサは戦う決意を変えない。
「ツバサちゃん・・・分かった・・だけど、危なくなったらすぐに逃げるんだ・・最悪、オレたちに構わずに・・・」
 マサキが聞き入れながらも、ツバサに注意を投げかけた。
「あのガルヴォルスのような悪い人は、必ず止めないと・・・!」
 ジンボーの人たちを手に掛けたカリヤへの怒りを、ツバサは心の中で強めていた。
(ツバサちゃんは、みんなの敵討ちをする気持ちが強くなりすぎている・・下手をしたら、何をしでかすか分からない・・オレがうまくなだめまいと・・・)
 ツバサの心境を察したマサキが、彼女を気にかけていた。

 ヴォルスレイの壊滅を狙っていたガイだが、暗躍するガルヴォルスの数が増えていることに気付き、彼らにも敵意を向けていた。
(力のあるガルヴォルスが活発化しているようだ・・オレの近くにも潜んでいる・・・!)
 ガイがガルヴォルスの気配を感じて、周囲を気にする。
(オレの邪魔をするならば、誰だろうと容赦しない・・ガルヴォルスだろうと、人間だろうと・・・!)
 敵意を募らせながら、ガイはヴォルスレイの新たな本部の場所を探った。

 カリヤを追って、ツバサは躍起になっていた。しかしそれを焦っていると思い、マサキが深刻に考えていた。
「ツバサちゃん、あのガルヴォルスを追うなら、落ち着いて、どこにいるのかを探るんだ・・アイツを見つけられるのは、ツバサちゃんだけなんだから・・」
「うん・・ありがとう、マサキくん・・・」
 マサキがなだめて、ツバサが微笑んで感謝した。
「近くにガルヴォルスがいるかどうか、確かめてみる・・・」
 ツバサが目を閉じて意識を集中する。彼女は普通の人にはない強い気配を感じ取っていく。
「強い感じがする・・近づいてくる・・・!」
「あのカリヤってガルヴォルスか・・またオレたちを狙って・・・!」
「違う・・あの前の、サメのガルヴォルスとは違う・・・!」
「何だって・・!?」
 ツバサが口にした言葉に、マサキが驚く。その直後、2人は近づいてくる足音を耳にして振り向いた。
 マサキたちの前に現れたのはガイだった。
「ガイ・・ここに来ていたのか・・・!」
「お前たちは、この前の・・知り合いだったのか・・」
 警戒するマサキと当惑しているツバサを見て、ガイが呟く。
「この気配・・お前もガルヴォルスだったとは・・・!」
 ガイはツバサがガルヴォルスであることに気付き、目つきを鋭くする。
「そのことを黙っていたのか・・・?」
「私自身、分かっていなかったのよ・・でもガルヴォルスになって、そのときの記憶がよみがえってきたの・・」
 ガイに問われて、ツバサが自分のことを話した。
「ガルヴォルスであることを忘れていたのか・・それだけ苦痛な記憶だったということか・・・」
 ツバサの事情を把握して、ガイが吐息を1つつく。
「それで、オレたちに何の用だ?・・オレたちを倒すつもりなのか・・・!?」
 マサキが警戒しながら、ガイに問いかける。
「お前たちがヴォルスレイに与するなら、お前たちもオレの敵だ・・だが今のオレの敵はそれだけではないようだ・・」
「・・お前も気付いているのか・・阿久津会のことを・・・」
 ガイがカリヤたちにも敵意を向けて、マサキが言葉を返す。
「阿久津会・・そいつらがガルヴォルスによる大規模なそしきであろうと、行動次第でオレは倒すことになる・・・!」
「それなら、私たちと一緒に戦いませんか!?敵が同じなら、力を合わせてもいいはずじゃ・・・!」
 ザンキたちも敵視するガイに、ツバサが協力を求める。
「言ったはずだ。ヴォルスレイに与するなら、お前たちもオレの敵だと・・・!」
 目つきを鋭くするガイが、ツバサたちとの協力を拒む。
「お前たちもヴォルスレイと決別すべきだ・・ヤツらはガルヴォルスを利用することしか考えていない・・」
 ガイがヴォルスレイへの不信感をマサキたちに伝える。
「オレもそう思っていないわけじゃない・・だけど、ヴォルスレイの全員が、悪いヤツだとはまだ断定できない・・お前のいうような悪い集団になっているのは、きっと、バサラが指揮しているからだ・・・」
「バサラを何とかすれば丸く収まると考えているのか?ヤツだけでなく、ヤツの言いなりになっているヤツらも同罪だ・・!」
 ヴォルスレイの全員が悪くないと考えるマサキだが、ガイはヴォルスレイに属する全員を敵だと認識していた。
「オレと協力したいなら、ヴォルスレイと袂を分かつことだ・・・!」
 ガイが吐き捨てると、マサキたちの前から立ち去っていった。
「ガイ、心の底からヴォルスレイを憎んでいるんだな・・ヴォルスレイの味方をするヤツも含めて・・・」
 マサキがガイの心境を察して困惑する。
「バサラたちの出方次第で、オレたちも覚悟を決めないといけなくなりそうだ・・・」
 状況やヴォルスレイの動向を伺うことを決めていたマサキに、ツバサの心は揺れていた。

 ヴォルスレイを憎み、マサキにも反発を示しているガイ。彼は憤りを抱えたまま、1人道を歩いていた。
(オレはオレの戦いをする・・人間もガルヴォルスも関係ない・・敵は必ず始末する・・・!)
 自分の敵を倒すことを貫く。ガイのこの意思は強固なものとなっていた。
 そのとき、ガイが気配を感じて足を止めた。
(近くにいる・・オレを遠くから狙っているヤツが・・・)
 ガイは目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。彼は自分に近づいてくるものを感じ取った。
 地面を割って光の刃が飛び出す直前に、ガイがドラゴンガルヴォルスとなって回避した。
「お前も私の居場所をつかめるのか。また厄介な・・」
 近くの地面から、シャークガルヴォルスとなったカリヤが飛び出してきた。
「お前か・・オレやアイツらを狙っているガルヴォルスは・・」
「お前も私の居場所を察知できるとは・・お前も早めに始末したほうがよさそうだ・・・」
 鋭い視線を向けるガイを、カリヤが警戒する。
「オレを狙うならば、お前も敵として叩き潰す・・!」
「噂通りの憎しみだ・・狙われれば厄介なことになる・・・」
 拳を握り締めるガイに、カリヤが肩を落とす。
「早めに潰させてもらう・・・!」
 カリヤが目つきを鋭くして、右手を振りかざして衝撃の刃を飛ばした。ガイは即座に動いて、衝撃をかわした。
 その直後、カリヤは地面の下に入り、ガイの視界から消えた。
(地中深く潜って、遠くから攻撃するやり方か・・・!)
 カリヤの攻め方をすぐに把握したガイ。
(だが・・!)
 ガイが全身に力を入れて、上げた右足で地面を強く踏みつけた。足からの衝撃が地中を駆け抜け、奥底にいたカリヤに届いた。
「ぐっ!」
 カリヤがとっさに地上に飛び出した。しかし彼は左肩に衝撃を受けて、苦痛を感じていた。
「お前もあの女と同じように、気配を読むことに長けているのか・・・!」
 ガイの力を痛感して、カリヤが毒づく。
「オレに何かしようとするなら、命を失う覚悟があるということだな・・・!」
 ガイが目つきを鋭くして、カリヤに飛びかかる。カリヤがとっさに回避しようとしたが、ガイの速い突進をかわしきれずに突き飛ばされる。
「うぐっ!」
 カリヤが激しく地面を転がり、激痛を覚える。
「パワーもスピードも、私を大きく上回っている・・これでは、私には勝てない・・・!」
 ガイが圧倒的に強いと考え、カリヤが危機感を募らせていく。
「おのれ!」
 カリヤがとっさに右手を振りかざして、地面を切り裂いて土煙を舞い上げた。
「オレを狙って逃げられると思うな・・!」
 ガイが鋭く言い放つと、右足を強く振りかざした。土煙が吹き飛ばされ、彼は全速力で逃げていくカリヤの姿を捉えた。
 ガイが一気にスピードを上げて。カリヤを追いかけていった。

 シュラの運転する車の中で、ツバサが気配を感じて緊張を覚えた。
「いた・・・この感じ・・あのサメのガルヴォルスと、さっきの・・ガイって人の・・・」
「アイツの!?・・アイツが、あのガルヴォルスと戦っているのか・・!?」
 ツバサの声を聞いて、マサキが緊張を覚える。
「ガイくんがカリヤを倒すことには賛成ですが、周りに被害が出る危険が・・・」
 シュラが苦言を呈して、マサキが息をのんだ。
「シュラさん、オレも行きます!ガイが無差別に攻撃しないよう、オレが止めないと・・!」
「私もついていきます・・どこにいるか、感じますので・・・!」
 マサキとツバサがシュラに頼みごとをする。
「分かりました・・ですが2人とも、ムチャは避けるようにしてください・・」
「もちろんです・・気を付けます、シュラさん・・・!」
 聞き入れたシュラからの注意に、マサキがツバサと一緒に頷いた。

 ガイの追撃から必死に逃げるカリヤ。カリヤは街中に逃げて、人の姿になって人混みに紛れた。
(こうしておけば手は出せないだろう。もしも攻撃を仕掛けてくるなら、他の人まで巻き添えになり、騒ぎになる。)
 普通の人のいるところで攻撃はできないと確信していたカリヤ。彼はガイが来たところで、周りに気付かれないように反撃しようと考える。
「うわあっ!」
「怪物!?」
「怪物が出たー!」
 ところがガイは人の姿に戻ることなく、人前に出てきた。
(バカな!?人目を気にせず攻撃するつもりか!?)
 彼の行動にカリヤが驚愕する。
「おのれ!」
 カリヤが毒づき、他の人たちと共にガイから必死に逃げる。ガイがカリヤの居場所を正確に見抜き、走り出す。
 ガイは人々の上を跳び越えて、カリヤを追っていく。しかし進む先に人がいるのを確認して、攻撃をしない。
(無闇に仕掛けてはこないか。見逃さずに私を追っていくつもりか・・!)
 確実な追跡をするガイに、カリヤは危機感を募らせていった。
(ならばまだ奥深くに隠れて、奇襲を仕掛けるしかない・・ヤツが私の位置を分かっていても・・・!)
 カリヤが再びシャークガルヴォルスとなって、地面を割いて中に飛び込んだ。
「オレから逃げられないと言ったはずだ・・・!」
 ガイが低い声で言って、地面を強く踏みつけた。その衝撃が、奥深くに潜ったカリヤを揺さぶる。
「出てこい・・オレの敵は、決して許してはおかない・・・!」
「ガイ!」
 カリヤに敵意を向けたところで、ガイが声を掛けられた。彼の前にマサキとツバサが駆け付けた。
「ガイ、落ち着け!みんなを巻き込んだらダメだ!」
 マサキがガイに攻撃をやめるように呼びかける。
「お前たち・・・邪魔をするなら容赦しないぞ・・・!」
 ガイがマサキたちに鋭い視線を向ける。彼は敵を倒す邪魔をする者も敵だと考えていた。
「あなたの今の姿を見て、みんな怖がっていたよ・・人までで簡単に見せていいものでないのは、あなたにも分かるはず・・・!」
 ツバサもガイの行動に対して苦言を呈する。
「敵はその人も巻き込むことも気にしていない・・遠慮をすれば、ヤツの思うつぼになる・・・」
「だからって、関係ない人を巻き込んでいいことにはならないだろう!」
 自分の考えを変えないガイに、マサキが怒鳴る。
「巻き込んでいるのは敵の方だ・・敵をすぐに倒すのが、最善の方法だ・・・!」
 ガイも鋭く言い返して、握りしめた右の拳を地面に叩きつけた。拳の衝撃が地中を駆け抜けて、奥にいるカリヤに命中させた。
「ぐっ!」
 攻撃を当てられたカリヤが、その衝撃で地上に飛び出した。
「お、お前たちも来たのか!?・・・最悪の状況だ・・・!」
 カリヤが愕然となり、冷静さを保てなくなる。
(もはや手段を選んでいる場合ではない・・他の者を利用してでも・・・!)
 彼は周囲を見回して笑みを浮かべて、手を振りかざしてかまいたちを飛ばした。
「危ない!」
 マサキがデーモンガルヴォルスとなって、シュラを抱えて横に飛んだ。ツバサもエンジェルガルヴォルスとなって飛翔し、カリヤのかまいたちを回避した。
「アイツ、見境なしに攻めてきたのか!」
 マサキがカリヤに目を向けて声を荒げる。
「アイツ・・!」
 ガイが怒りを募らせて、カリヤに向かって飛びかかる。カリヤが後ろに下がろうとするが、ガイが一気に距離を詰めてきた。
「オレから逃げられると思うな!」
 ガイが怒号を放ち、カリヤに拳を叩き込んだ。
「がはっ!」
 カリヤが吐血して、跳ね上げられて地面に叩きつけられた。激痛に襲われる彼に、ガイが飛びかかり再び拳を振り下ろした。
 地面がめり込むほどの衝撃で、カリヤが絶叫を上げた。
「や、やった・・・!」
「やったけど、周りの建物が・・・!」
 戸惑いを覚えるシュラと、周囲も巻き添えになったことに愕然となるマサキ。
「わ・・私が・・狩られることになるとは・・・」
 カリヤが絶体絶命を痛感して絶望する。
「これでとどめだ・・・!」
 ガイがカリヤに当てていた拳に、再び力を入れた。衝撃を受けたカリヤの体から、鮮血があふれた。
「とどめを刺した・・躊躇なく・・・!」
 シュラが息をのみ、ガイがゆっくりと立ち上がる。
「ヴォルスレイの1人・・ここで倒す・・・!」
「おい、待て!オレたちはお前と戦うつもりは・・!」
 シュラに敵意を向けるガイを、マサキが呼び止める。
「ヴォルスレイを倒すのがオレの生きる意味・・お前を倒す!」
 ガイが目を見開き、シュラを狙って飛びかかる。
「よせって言うのが分かんないのかよ!」
 マサキが怒鳴り、シュラの前に出てガイの突撃を受け止めた。
「シュラさんはお前が思っているような悪いヤツじゃない・・!」
「ヴォルスレイはオレの全てを奪った敵だ・・その罪を、死によって償わせる・・・!」
 マサキが呼び止めるが、ガイはシュラへの憎悪を消さない。
「ヴォルスレイに味方するなら・・誰だろうと容赦しない・・・!」
 ガイが目つきを鋭くして、マサキを押し込んでいく。
「マサキ!」
 ツバサがたまらず感情を高ぶらせる。彼女がエンジェルガルヴォルスに変わり、背中から翼が広がった。
「やめて・・暴れて、みんなを巻き込むようなことはしないで・・・!」
 呼び止めるツバサが意識を傾けると、ガイが思うように動けなくなり目を見開いた。
「体が・・・アイツの力なのか・・・!?」
 ガイがツバサに目を向けて、その力の高さを痛感する。
「だがオレは・・止まるわけにはいかない!」
 ガイは力を高めて、強引にツバサの念力を打ち破った。その瞬間、彼の体から血があふれ出した。
「そんな!?」
「かなりの負担が掛かったはず・・その上で・・・!」
 ツバサが驚き、シュラがガイの力を改めて痛感する。
「まずはヴォルスレイの一員であるシュラを倒す・・バサラも他のヴォルスレイも、すぐに倒す・・!」
 ガイがシュラを狙って飛びかかる。
「やめろ!」
 マサキがガイの前に割って入る。2人が同時に拳を振りかざして、強くぶつけ合う。
「ぐあっ!」
 マサキが突き飛ばされて、後ろの壁に当たって突き破った。
「マサキくん!」
 重い一撃を受けたマサキに、ツバサが叫ぶ。ガイがひと息ついて、シュラに視線を戻す。
「オレの敵に回る者を許してはおかない・・ヴォルスレイの存在を、オレは許さない・・・!」
 怒りと憎しみを膨らませて、全身に力を込めるガイ。彼が一気にスピードを上げて、シュラに飛びかかった。

 

 

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