ガルヴォルスExbreak
第18話「天使の慟哭」

 

 

 ツバサはガルヴォルスだった。エンジェルガルヴォルスとなった彼女に、マサキは驚きを隠せなくなった。
「ツバサちゃん・・・どうしたんだよ!?・・ガルヴォルスだったのか・・・!?」
 マサキが声を振り絞り、ツバサに問いかける。
「怪物?・・・私が・・怪物・・・!?」
 変化した自分の両手を見つめて、ツバサ自身も驚愕する。
「違う・・私がこの姿になったのは、初めてじゃない・・あのときも・・・!」
 ツバサが過去の記憶を呼び起こしていく。過去の出来事の中にある真実を。
(私はあのとき、何もできずに命拾いをしたわけじゃなかった・・私は今みたいにこの姿になって、襲ってきた怪物を倒した・・・)
 両親を殺した犯人のガルヴォルスを自ら倒したことを思い出すツバサ。
(でも私はものすごい恐怖を感じて、そのときの記憶がなくなった・・私は今まで、普通の人間だと思い込んで生きてきた・・・)
 ガルヴォルスであることを忘れて、平穏の日常を生きてきたツバサ。事件から今までガルヴォルスになることはなかった。彼女はそう思っていた。
「まさかその娘もガルヴォルスだったとは・・しかもただ者ではない・・・!」
 カリヤがツバサから発する力を感じ取り、脅威を感じていく。
「まずは夜倉マサキを始末して、1度撤退するしかなさそうだ・・・!」
 狙いをマサキだけに絞り、カリヤが右手を振りかざして光の刃を飛ばした。マサキに向かって飛んでいく刃だが、ツバサが目つきを鋭くした瞬間に突然砕けた。
「何っ!?」
 攻撃が破られたことに、カリヤが目を見開く。
「マサキくんには手出しさせない・・心まで怪物になっているあなたを、私は許さない・・・!」
 ツバサが低い声音で告げて、カリヤに敵意を向ける。
「ならばこれならば!」
 彼は爪を地面に突き立てて、土煙をまき散らした。マサキとツバサが視界を遮られて、カリヤを見失う。
「また隠れて狙ってくるつもりか・・!?」
 カリヤの気配を感じ取ることができず、マサキが危機感を膨らませる。
「分かる・・あのガルヴォルスがどこにいるのか・・・!」
 一方でツバサはカリヤの正確な位置をつかんでいた。
「マサキくん横に動いて!」
 ツバサが呼びかけて、マサキがとっさに言うとおりにした。
 ツバサが両手を前に出して、光を放出した。光は地面の中に入り、潜っていたカリヤに向かっていった。
 攻撃が近づいたことに気付いて、たまらず動くカリヤ。光が左足をかすめて、彼が顔を歪める。
「お、おのれ・・かなり離れていたはずなのに・・・!」
 地上に出たカリヤが苛立ちを噛みしめる。ツバサが確実に気配を捉えていると、彼は痛感していた。
「もはやこれまでか・・引き上げるしかない・・・!」
「トモヤ!?」
 カリヤが撤退を考えたときだった。テツオが駆け付けて、トモヤに声を掛けてきた。
「すぐに救急車をよこせ!トモヤが重傷を負っている!」
 テツオがとっさにスマートフォンを手にして、救急車を呼んだ。
「トモヤ、しっかりしろ!すぐに助かるからな!」
「い・・猪熊警部・・すみません・・カリヤを・・止められませんでした・・・」
 呼びかけるテツオに、トモヤが謝罪する。
「テメェ・・ホントにカリヤなのか!?・・そんなバケモノがホントにいたなんて信じらんねぇが・・テメェがそれだなんて・・・!?」
 テツオがカリヤに振り向いて、鋭い視線を向ける。
「警部、あなたにまで正体を知られることになるとは・・・」
 カリヤがため息をついてから、テツオをあざ笑う。
「大人しくしろ、カリヤ!テメェはオレたちを裏切り、罪のない人やトモヤを手に掛けた!その罪を償わせてやる!」
 テツオが怒号を放ち、銃を構える。
「そんなものが効かないのは、トモヤが私にやられたことが物語っている。1人で逃げたほうがまだ懸命ですよ。」
「黙れ!そんなこと、テメェに殺されるよりもよっぽど大恥だ!」
 さらに嘲笑するカリヤに、テツオが声を張り上げて言い返す。
「これ以上、人を傷つけないで!」
 そこへツバサが悲痛の声を上げて、背中の翼をはばたかせた。翼から閃光が放たれ、カリヤに降り注がれた。
「ぐあっ!」
 カリヤが激痛に襲われるも、光から脱して逃げ出した。
「また逃げられた・・ちくしょう!」
 マサキが悔しさをあらわにして、地面に拳を叩きつけた。
「あの人はもう、遠くに逃げてしまった・・私も感じない・・・」
 ツバサが気配を探るが、カリヤを追い切れなかった。
「ツバサちゃん・・・君も、ガルヴォルスだったのか・・・!?」
 マサキに問いかけられて、ツバサが動揺を覚える。心を揺さぶられて、彼女はエンジェルガルヴォルスから人の姿に戻った。
「き、君は、天上ツバサさん!?・・君も怪物だったのか・・!?」
 テツオがツバサを見て驚愕する。ツバサも彼のそばにいるトモヤを見て、再び緊迫を覚える。
「どいてください!私がその人を治します!」
 ツバサが言いかけて、トモヤに駆け寄った。
「何をする!?トモヤに手を出すな!」
「早くしないと間に合わなくなります!」
 テツオが銃口を向けるが、ツバサが感情をあらわにする。彼女に怒鳴られて、テツオが押し黙る。
「ツバサちゃん、治せるのか・・・!?」
「だんだんと思い出してきた気がする・・こうして人を助けることができるのも・・・」
 マサキが問いかけて、ツバサが小さく頷いた。マサキが気分を落ち着けて、人の姿に戻った。
「お、お前もバケモノだったのか・・!?」
「はい・・ですがあのサメの怪物は、心まで怪物になっています・・・!」
 さらに驚愕するテツオに答えて、マサキがカリヤに対する憤りを噛みしめる。
 ツバサがトモヤに手をかざして、目を閉じて意識を集中する。彼女の手が淡く光ると、トモヤの傷がだんだんと塞がっていく。
「あ・・あれ?・・苦しくない?・・傷が治った・・・!?」
 トモヤが体を起こして、自分の両手を見つめて動かしてみる。
「よかった・・治すことができた・・・」
 ツバサがひと安心して、力を消耗してその場に座り込んだ。
「信じられん・・こんなことで、これだけの傷が治るなど・・・!」
 彼女やマサキたちガルヴォルスの力に、テツオは驚きを隠せなくなっていた。
「早くあのガルヴォルスを追いかけないと・・また、私たちの周りの人たちが・・・!」
 ツバサがカリヤを追おうとするが、ふらついてマサキに支えられる。
「ムチャをしたらダメだ・・こんなすごい力を使って、疲れないはずがない・・・!」
「マサキくん・・ありがとう・・・」
 心配するマサキに、ツバサが微笑みかける。
「まずはマスターたちのところに戻らないと・・みんな心配している・・」
「うん・・・」
 マサキが呼びかけて、ツバサが頷く。2人がヘイゾウとララのところへ向かう。
「待て、お前たち!」
 そのとき、テツオが呼び止めて、マサキたちに対して銃を構えた。
「オレと一緒に来てもらうぞ!お前らのこと、お前らの知ってること、全部話してもらう!」
 テツオが捕まえようと考え、振り向いたマサキとツバサが困惑を覚える。
「どうする、マサキくん・・・?」
「正体を知られてしまったんだ・・話して分かってもらうしかない・・・」
 ツバサが聞いて、マサキがやむなくテツオに話すことを決めた。
 そこへ1台の車が走り込み、煙幕をまき散らしてきた。同時に車はマサキたちのそばに来た。
「早く乗ってください!」
「シュラさん!」
 シュラが呼びかけて、マサキが声を荒げる。マサキはとっさにツバサと一緒に車に乗り込んだ。
「ま、待て・・!」
 テツオが呼び止めるが、車は彼の前から走り去っていった。
「何なんだ一体!?・・何かとんでもねぇもんがあるっていうのかよ・・・!?」
 分からないことだらけになり、テツオが苛立ちを膨らませて地団太を踏む。
「猪熊警部・・今はカリヤを追いましょう・・アイツにこれ以上、罪を犯させるわけにはいかないです・・!」
 トモヤが深刻な面持ちを浮かべて、テツオに呼びかけてきた。
「分かった・・ただしお前は1度病院で体を診てもらってこい・・何かあったらいけねぇからよ・・・」
「ツバサさんの力で、オレの体は治ってます!オレにもカリヤを追わせてください!」
「それがどういう力なのか分かんねぇから、ちゃんと診てもらって、自分のことをちゃんと理解しとくんだろうが!」
「猪熊警部・・・」
 テツオから檄を飛ばされ、トモヤが戸惑いを覚える。
「カリヤはオレが逮捕する・・最悪、アイツを射殺せざるを得なくなる・・・!」
「それは、オレも覚悟しています・・・警部、危なくなったら、迷わずに引き上げてください・・・!」
 強い意思を示すテツオを、トモヤが答えて気遣った。
「おめぇに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ・・肝に銘じておくぞ・・」
 テツオが頷いて歩き出し、トモヤが敬礼をして見送った。

 シュラに連れられて、テツオたちの前から去ったマサキとツバサ。自分がガルヴォルスだったことを思い出し、ツバサは困惑していた。
「まさかあなたもガルヴォルスだったとは・・あの事件以来、記憶を失っていて、自らガルヴォルスになったこともないので、私たちでも把握しきれなかったです・・」
 シュラが深刻な面持ちを浮かべて、マサキたちに向けて語っていく。
「あの事件・・もしかして、あのときのことを知っているんですか・・・!?」
 ツバサが動揺を膨らませて、シュラに事件のことを聞く。
「あのときも部隊が展開して監視していました。しかし現場にいた隊員全員が殉職していました・・」
「その事件に、ツバサちゃんもいたっていうのか・・!?」
「いたどころか、彼女は事件の当事者だった可能性があります。もちろん犯人という意味ではありません。」
「ホントに、どういうことなんだ・・・!?」
 事件について語るシュラに、マサキが問い詰める。
「ツバサさん、この話をして、あなたが強いショックを受けるかもしれません・・聞きたくなければ、ここではこの話は控えますが・・」
「いえ、話してください・・私が忘れているかもしれない、真実を・・・」
 シュラが気を遣うが、ツバサは気を落ち着けて話を聞こうとしていた。彼女の覚悟をシュラが汲み取った。
「あなたも犯人であるガルヴォルスに襲われました。そのとき、あなたはガルヴォルスに覚醒し、犯人を打ち倒したのです・・」
 シュラが事件のことを語りかけて、マサキとツバサが息をのむ。
「しかしこの後、あなたの発揮した力が周囲にも及びました。おそらく力を制御できずに暴走してしまったのでしょう・・」
「それで、周りにいた人たちまで巻き込んで・・・!?」
 シュラが話を続けて、ツバサが愕然となる。
「そのことがトラウマになったのでしょう。あなたはこの事件に関する記憶を失い、ガルヴォルスとなることはあのときまでありませんでした・・」
「その忘れていた記憶がだんだんと戻ってきて、ついにガルヴォルスになれることも思い出した・・・」
 シュラが経緯を言って、ツバサが納得していく。
「だけどツバサ、お母さんはちゃんといるじゃないか・・前にオレが忘れ物を届けたとき、お母さんが出てきたぞ・・」
 マサキが疑問を投げかけると、ツバサが顔を横に振る。
「本当のお母さんじゃない・・本当のお母さんの、双子の妹なの・・」
「それじゃホントに、ツバサの家族はその事件に巻き込まれて・・・!?」
「・・・お母さんもお父さんも殺されて、私も殺されそうになった・・気が付いたら、病院のベッドにいた・・誰かが助けてくれたと思ったけど・・本当のことを思い出したの・・・」
「そんなことになっていたなんて・・・ツバサちゃん・・・」
 ツバサの本当の事情を知って、マサキが困惑していく。
「それで・・私はこれから、どうなるんですか・・・?」
「君の能力について、我々やマサキくんだけでなく、あなた自身も把握しきれていません。詳しい調査をしたいのですが・・」
 ツバサがこれからのことを聞いて、シュラが答える。
「悪いようにはしませんが、拒否するのでしたらそれでも構いません。」
「いえ・・それで本当の私のことが分かるなら、調べてください・・・!」
 気を遣うシュラに、ツバサが調査を志願した。
「分かりました・・本部に伝えておきます。」
 シュラが頷いて、通信でこのことを本部に報告した。

 テツオたちに正体を知られ、ツバサに返り討ちにされ、カリヤは焦りを感じずにいられなかった。
「まさかこの私が、ここまで追い込まれることになるとは・・・!」
 カリヤが自分の現状に苛立つ。
「お前らしくないな、カリヤ。このような失態をするとは・・」
 そこへザンキが来て、カリヤに声を掛けてきた。
「申し訳ありません・・まさか標的の近くに、強力なガルヴォルスがいようとは・・・しかし必ず、ヤツらの息の根を止めてみせます・・・!」
「油断ならない相手が・・だがそろそろ、噂のアイツがヴォルスレイに対して動き出すようだ。」
 謝罪するカリヤに、ザンキが話を続ける。これを聞いて、カリヤが息をのむ。
「しかしヤツは一匹狼・・何者にも従いはしませんよ・・・」
「確かに・・だが、利用することはできる・・我々はそれに付け込み、漁夫の利を狙えばいいのだ。」
「あの男の動きに細心の注意を払う必要はあります。最悪、その利用が裏目に出る危険も否定できません・・」
「そこはオレたちのほうでも十分注意しよう。軽率なことをすれば死ぬと忠告してある。」
 カリヤが警戒心を強めて、ザンキが呟く。2人はガイのことを考えて、その敵対心を利用しようとしていた。

 シュラたちが訪れたのは、ヴォルスレイの検査施設だった。表向きはドラッグストアだが、地下に施設が設置されていた。
「ここにもヴォルスレイの施設があるなんて・・・」
 マサキが施設のことを知って、戸惑いを覚える。
「ヴォルスレイの施設を知っている人は、メンバーの中でも限られています。」
 シュラがマサキたちに施設を案内して、説明をしていく。
「ツバサさん、ここであなたの分析します。それがあなた自身の役に立てればいいと思っています。」
「私の・・・私も、マサキくんやあなたたちの力になれて、マスターたちを守ることができたら・・・!」
 シュラの考えを聞いて戸惑いを感じてから、ツバサが決意を固める。彼女はジンボーが襲われたときのことを思い出して、深い悲しみを感じていた。
「オレもその調査に立ち会わせてくれ・・シュラさんたちを信じてないわけじゃないが、何かあったときのために・・」
「構いませんよ、マサキくん。私と一緒に動向を見守りましょう。」
 マサキが立ち合いを申し出て、シュラが頷いた。
「では、お願いします。」
「はい。」
 シュラが言って、研究員がツバサを連れて研究室に入った。
(もう誰も失いたくない・・大丈夫だとは思うけど・・もしもヴォルスレイも何か企んでくるなら、オレはヴォルスレイも敵に回す覚悟があるぞ・・・!)
 マサキは心の中で、ジンボーの仲間の死の悲しみと敵への怒りを膨らませていた。

 ツバサが調査を受けたという報告は、バサラにもすぐに伝わった。
「そうか・・天上ツバサに細心の注意を払え。能力値だけでなく、ヤツの動向・・もちろん、夜倉マサキにもだ。」
「了解。」
 バサラが指示を送り、隊員が答えて部屋を後にした。
(利用できるものは全て利用する。それが私の憎むべき敵であろうと・・)
 バサラが自分の目的を果たそうと考える。彼はマサキもツバサも全て利用しようと企んでいた。
 
 
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