ガルヴォルスExbreak
第14話「封印の過去」

 

 

 ツバサはマサキとシュラからガルヴォルスとヴォルスレイのことを可能の限り話した。
「そんなことが・・・信じられない・・・」
 ツバサが困惑して、思わず顔を横に振る。
「信じられないのもムリはありません。ガルヴォルスの力そのものが常軌を逸しているのですから・・」
 シュラが苦笑いを浮かべて言葉を返す。
「ガルヴォルスは動植物のような姿と能力を持っていて、その身体能力は普通の人間を凌駕しています。我々は、人を襲うガルヴォルスを討伐するために行動しています。騒ぎにならないよう、秘密裏に。」
「その仕事に、マサキくんも参加しているというわけですか・・」
 シュラの説明を聞いて、ツバサが頷いていく。
「マサキくんの意思を、私は汲み取っているつもりです。あくまでマサキくんは私たちの仕事を手伝い、その報酬をもらっているということです。」
 シュラがマサキとの関係について、話を続けていく。
「もちろん納得できなければ、マサキくんは契約解消を申し出ることができますが・・」
「今のところは、そのつもりはないけど・・・」
 シュラに話を振られて、マサキがため息まじりに言う。
「それでツバサさん、ガルヴォルスのことや私たちのことは口外しないようにお願いします。私たちと会うときは、周りに十分に注意を払うように。」
「分かっています・・マサキくんがあんな姿になるなんて、私から言いたくないですから・・」
 シュラから警告をされて、ツバサが深刻な面持ちで頷いた。
「でも、1つだけ聞きたいことがあるのですが・・・」
「いいですよ。答えられる範囲になりますが・・」
 ツバサが問いかけて、シュラが微笑みかけた。
「ガルヴォルスとは、何なのですか・・?」
 ツバサの投げかけたこの質問を聞いて、シュラが顔から笑みを消した。
「それはオレも気になっていた・・オレはガルヴォルスになる前は、人間だと思って疑わなかった。だけどガルヴォルスになって、自分が何者なのかを気にするようになった・・・ガルヴォルスって、一体何なんだ・・!?」
 マサキもガルヴォルスについて疑問を感じていた。
「分かりました。マサキくんも覚悟を決めているようですし、そろそろ話してもいいでしょう・・」
 シュラが表情を曇らせたまま、ガルヴォルスについて打ち明けることにした。
「ガルヴォルスは、人の進化です。人の細胞に変化が起こることで、ガルヴォルスに転化するのです。」
「何だって!?」
「ガルヴォルスが、人の進化・・!?」
 シュラが口にしたことに、マサキもツバサも驚きを隠せなくなる。
「元々人間だったオレが、怪物になったっていうのか・・・ちょっと待て!オレが今まで戦ったガルヴォルスも、みんな・・!?」
「はい。全員が元は普通の人間です。それがガルヴォルスへと変化して、多くの人はその力を使って暗躍しているのです・・」
「だとしたら、オレは人殺しをしていたことになるんじゃないか・・!」
「それは違います・・あなたのような人は例外ですが、ガルヴォルスとなった人はその力に溺れて心を失った獣と化してしまったのです・・」
 不安を覚えるマサキに、シュラが弁解を入れる。
「倒さなければ、罪のない人たちが犠牲になる・・両者を救えるのが1番ですが、罪を犯すガルヴォルスを倒すことも選択肢に入れなければなりません。」
「それは・・確かにそうだけど・・・」
「いいとは言えませんが、割り切るべきことだと理解してください・・・」
「シュラさん・・・オレはこれからも戦うぞ・・ツバサちゃんやみんなを守るためにも・・・!」
 シュラに説得されて、マサキは覚悟を秘めて戦う決意をした。
「マサキくん・・・」
 危険な戦いに身を投じていくマサキに、ツバサが不安を感じていく。
「戻ってくるんだよね?・・ジンボーに、ヘイゾウさんのところに・・」
「もちろんだ。ガルヴォルスの犯罪を止めて、生きて帰ってくるさ・・!」
 ツバサからの問いかけに、マサキが真剣な面持ちで答えた。
「約束だからね・・ララちゃんやマスターを悲しませたら、今度こそ許さないから・・」
「分かっている・・そんなことになったら、オレがオレを許せなくなるから・・」
 ツバサと約束をして、マサキが決意を伝えた。
(ガルヴォルスの真実を聞いても、マサキくんはガルヴォルスとの戦いをやめるわけではなかった・・)
 マサキの心の強さを知って、シュラは戸惑いを感じていた。
(マサキくんが戦っていくのが、あなたの望みなのですね、バサラさん?・・ガイくんと戦うことも・・)
 彼はバサラの考えを気にして、表情を曇らせた。

 バサラたちヴォルスレイへの復讐を誓うガイ。彼はヴォルスレイの本部を追い求めて、隊員やガルヴォルスとの戦いを続けていた。
(今の1番の手がかりは、ヴォルスレイの下で戦っているあのガルヴォルスか・・名前はマサキと言ったか・・)
 マサキのことと彼と戦ったときを思い出すガイ。彼はマサキと互角だったことも痛感していた。
(アイツと戦えば、ヴォルスレイのヤツらも出てくるはずだ・・・!)
 ガルヴォルスが出てくれば、マサキやヴォルスレイと遭遇するかもしれない。ガイはそれを狙い、再び動き出した。

 人目の付かない地下の施設の1室。そこで1人の男が数人の男たちに囲まれていた。
「助けてくれ!やめてくれ!・・オレにもう1度チャンスをくれ・・!」
 男が恐怖しながら必死に助けを求める。
「お前は重大な失敗をした。その尻拭いに手を焼かされたのだぞ・・」
 他の男の1人、阿久津(あくつ)ザンキがため息まじりに言う。
「その落とし前は付けてもらうぞ。金や幸福を求めて自分からこの“阿久津会”に入ると決めたのだからな・・」
 目つきを鋭くするザンキの顔に異様な紋様が浮かび上がった。彼の姿が、頭と肩、肘に鋭い角を生やした異形の怪人となった。
「う、うわあっ!」
 悲鳴を上げて逃げ出す男の姿も、カエルに似たフロッグガルヴォルスに変わった。
「逃げられると思っているのか?」
 ザンキが肩を落としてから、右手を振り上げて指から針のような光を飛ばした。フロッグガルヴォルスが針に体を貫かれて、鮮血をまき散らして倒れた。
「無能ならせめておとなしくしてればよかったのに・・」
「高収入なんだからしっかり仕事しないとですね。」
 男たちがフロッグガルヴォルスが崩壊するのを見下ろしてあざ笑う。
「他のヤツらもコイツみたいな情けないヤツになるなよ。成果を挙げられないヤツは地獄に落ちるだけだぞ・・」
 人の姿に戻ったザンキが、男たちに忠告する。
「しかし邪魔者が増えてきたのも確かですよ。人間に味方する裏切り者と、ガルヴォルスを倒している連中と・・」
「どっちも片づけて数は減らしてきてるが、そんなヤツらの中に力にあるヤツが出てくるかもしれない・・」
 男たちが邪魔者に対して警戒を抱く。
「何を弱気になっている?オレはもちろん、お前たちもかなりの力を持っているんだぞ。そうじゃなきゃ阿久津会で生き残れはしないからな。」
 ザンキが激を飛ばし、男たちが気を引き締めなおす。
「まずは借金取りの仕事だ。払えないなら捕まえてここへ連れてこい。逃げ出したヤツもだ。」
「はい!」
 ザンキの命令に答えて、男たちは部屋を飛び出した。
(裏社会では大きく動いているオレたちだ。お前が黙って見ているわけがないだろう、バサラ?)
 バサラのことを考えて、ザンキは笑みを浮かべた。ザンキはバサラとは旧知の間柄だった。

 翌日でのジンボーでの仕事を、マサキとツバサはやり取りをうまくして進めていた。
「マサキくんとツバサちゃん、前よりも息が合ってない?」
「うんうん。前よりもよく話をしてる・・」
 ララが他のウェイトレスたちとマサキたちのことを話していく。
「このまま付き合ってゴールイン、なんてことはないかな~♪」
「え~!?あたしもマサキくんにアタックしちゃいたいのに~!」
 他のウェイトレスがマサキたちの話を盛り上げていく。
「コラコラ、君たち。おしゃべりばかりしてないで、仕事しないといかんよ。」
 ヘイゾウがララたちに近づいて注意をしてきた。
「うわ~!すみませ~ん!」
 ララが悲鳴を上げて、ウェイトレスたち共々慌ただしく仕事に戻った。
「やれやれ・・・しかし、あの2人は前よりも仲良くなったのは確かじゃ。」
 ヘイゾウは肩を落としてから、マサキとツバサを見て感心する。
(このままくっついて幸せな家庭を作るのも一興じゃのう~・・)
 マサキの将来が明るいものだと予想して、ヘイゾウは満面の笑みを浮かべて頷いていた。

 この日の仕事を終えて、マサキはスマートフォンを確認して、シュラから連絡が入っていたのを確かめた。
「もしもし?また事件が起こったのか?」
“はい。ガルヴォルスの起こした事件が続発しています。”
 マサキが電話を掛けて、応答したシュラが説明する。
“詳しい話は合流してからにしましょう。駅前に来てください。”
「分かった。すぐに行く。」
 シュラの指示を聞いて、マサキは電話を切った。
「戦いに行くの・・?」
 ツバサが声を掛けてきて、マサキが振り向いた。
「あぁ・・ケリを付けて戻ってくる。」
 マサキはツバサに微笑んでから、ジンボーを飛び出した。
(このように、マサキくんはガルヴォルスと戦っていく・・自分もガルヴォルスとなって・・・)
 マサキの過酷な戦いを想像して、ツバサが不安を感じていく。
(私も力があったら、マサキくんを助けることができるかもしれないのに・・・)
 彼女は自分の無力さと力への渇望を感じるようになる。
(あ、あれ・・?)
 そのとき、ツバサが突然違和感を感じてふらつきかけた。
(えっ?・・どうしたのかな?・・もしかして、ここ最近大変だったから、疲れたかな・・?)
 マサキがガルヴォルスだと知って深く苦悩したことで疲弊したのだと思い、ツバサが深呼吸をして気持ちを切り替えた。

 駅前に来たマサキは、レストランで待っていたシュラと合流した。
「事件が続発してるって、どういうことなんだ・・?」
 シュラのいるテーブル席に、マサキも座った。
「本当に続発しているのです。昨日だけでも5件。それも違うガルヴォルスによる犯行です。」
「つまり、今回の事件は全部・・・」
「おそらく、ガルヴォルス数人が手を組み、散開して犯行に及んでいます・・」
「ガルヴォルスの集団か・・こりゃまた厄介なことに・・・」
 シュラの話を聞いて、マサキが気まずくなる。
「今のところは、ガルヴォルスをしらみつぶしに叩くしかないですね。その間に私たちがグループの主犯を捜し出してみせます。」
「それまで重労働になりそうだ・・・」
 ガルヴォルス打倒の詳細を伝えるシュラに、マサキが肩を落とす。
「それじゃ、オレはまず1人を捕まえて、親玉について話を聞くとするか・・」
 マサキが席を立って、外へ出てガルヴォルス捜しをした。
「私も作業開始といきますか。」
 シュラはコーヒーを飲み終えると、会計を済ませてレストランを後にした。

 街外れの道を必死に逃げる1体のガルヴォルス。猫のキャットガルヴォルスは、ライオンガルヴォルスに追われていた。
「もう来ないでよ!私はもうあなたたちに関わりたくないのよ!」
 キャットガルヴォルスが悲鳴を上げるが、ライオンガルヴォルスが前に回り込んできた。
「逃げられはしねぇんだよ・・阿久津会からもオレからもな・・!」
 ライオンガルヴォルスが不敵な浮かべて、キャットガルヴォルスに迫る。
「冗談じゃない!もうこんなのはウンザリよ!」
 キャットガルヴォルスが不満の声を上げて、ライオンガルヴォルスに飛びかかる。2人が右手を振りかざして、爪をぶつけ合った。
「うっ!」
 キャットガルヴォルスの爪が欠けて、彼女が痛みを覚えて顔を歪める。
「猫がライオンに勝てると思っているのか?」
 ライオンガルヴォルスが右手を動かしながら、キャットガルヴォルスをあざ笑う。
「ムダな時間は掛けられねぇ。さっさと仕留めさせてもらうぞ・・!」
 ライオンガルヴォルスが構えて、両手の爪を煌かせる。キャットガルヴォルスが恐怖を覚えて後ずさりする。
「ガルヴォルス、何をやっている!?」
 そこへマサキが駆けつけて、ライオンガルヴォルスたちに呼びかけてきた。
「人間に見つかっちまったか・・マジでのんびりしてられねぇな・・・!」
 ライオンガルヴォルスが毒づき、マサキに鋭い視線を向ける。
(ガルヴォルス・・元はみんな人間・・オレも、アイツらも・・・!)
 マサキがライオンガルヴォルスとキャットガルヴォルスを見て、2人も自分も元は人間だったことを実感する。
「見られたからには仕方ねぇ・・テメェも始末してやるぞ!」
 ライオンガルヴォルスが右手を振り上げて、かまいたちを飛ばした。
「アイツとは戦う必要があるようだ・・!」
 マサキがデーモンガルヴォルスとなって、地面を削りながら迫るかまいたちをかわした。
「アイツもガルヴォルスだったのか・・!」
 ライオンガルヴォルスがマサキを警戒する。
「ここで何をしている!?何のためにその力を使っているんだ!?」
「何のため?オレたちのために力を使っているに決まってんだろうが!」
 問い詰めるマサキを、ライオンガルヴォルスがあざ笑う。
「自分の目的のために、他のヤツを平気で傷つける・・お前もそういうヤツなんだな・・・!?」
「ゴチャゴチャとうるせぇヤツだ・・たとえガルヴォルスでも、オレたちの邪魔をするヤツは容赦しねぇ!」
 目つきを鋭くするマサキにいら立ちを覚えて、ライオンガルヴォルスが飛びかかる。彼が振りかざす爪を、マサキが紙一重でかわす。
「だったら、お前はここで倒すしかないみたいだな!」
 マサキが反撃に出て、拳を振りかざす。打撃はかわしたライオンガルヴォルスだが、拳の圧力に押されて体勢を崩す。
「コイツ、強い・・まともにやり合っちゃやられちまう・・・!」
 マサキの強さを痛感して、ライオンガルヴォルスがたまらず彼から離れる。
「だが、獲物をしとめるためには手段を選ばないオレだ・・ヤツを倒す方法はいくらでもある・・・!」
 彼が笑みを浮かべて、マサキの不意を狙う。
 そのとき、キャットガルヴォルスが2人の交戦をチャンスと見て、この場から逃げようとしていた。
「逃がすか、裏切り者が!」
 ライオンガルヴォルスがキャットガルヴォルスを追いかける。
「待て!」
 マサキもライオンガルヴォルスを追う。彼らの戦いが混戦へと向かいつつあった。

 周囲は炎に包まれていて、そばには両親が倒れていた。恐怖のあまりに泣くこともできなくなる少女の目の前には、1体の怪物がいた。
 怪物は少女を襲おうと迫ってきた。恐怖と激情が一気に高まった瞬間、少女の記憶は途切れた。

 悲惨な出来事を思い出して、ツバサは苦悩していく。かつて怪物に襲われた少女は、彼女だった。
(私はあのとき、怪物に襲われた・・また怪物を見かけたときとマサキくんがガルヴォルスだったことを知って怖がったのも、きっとそのときがトラウマになっていたから・・・)
 記憶を呼び起こして、ツバサが悲しみを募らせていく。
(でも、何か忘れている気がする・・すぐに思い出せないけど・・・)
 心の中で引っかかりを感じていた。彼女は昔のことでまだ何かあると思えてならなかった。
 
 
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