ガルヴォルスExbreak
第12話「混迷の錯綜」

 

 

 マサキの行方を追って街中を走り回っていたツバサ。彼女は近くの場所が騒がしくなっているのを耳にして、そこへ向かった。
 駆けつけたツバサが目にしたのは、マサキが変身しているデーモンガルヴォルスがマンティスガルヴォルスと戦っている場面だった。
(怪物!?・・本当に怪物がいるというの・・!?)
 怪物の常人離れした戦いに、ツバサが恐怖を覚える。
 マサキが剣の一閃で、マンティスガルヴォルスを切り裂いて倒した。マサキはひと息ついてから、人の姿に戻った。
(えっ!?マサキくん!?)
 怪物がマサキになったことに、ツバサは目を疑った。彼女は動揺を膨らませて、体の震えを抑えるのに必死になっていた。
 スマートフォンで連絡をしてから、マサキがツバサのいるところへ近づいてきた。彼女を目の当たりにして、マサキも驚きを見せてきた。
「ま・・まさか・・今のを見られた・・・!?」
 ガルヴォルスであることをツバサに知られ、マサキも愕然となっていた。
「マ・・マサキくんが、怪物・・・!?」
「ツバサちゃん・・・これは・・・!」
 恐怖して離れていくツバサに、マサキが困惑する。
「来ないで!近付かないで!私を殺さないで!」
 ツバサが悲鳴を上げて、マサキが絶望感を膨らませて体を震わせる。
「ツバサちゃん・・オレはそんなつもりは・・・!」
「私のところに来ないで!大学にもジンボーにも来ないで!」
 言い訳をするマサキを拒絶して、ツバサが逃げ出してしまった。
「ツバサちゃん!」
 マサキが呼び止めるが、ツバサを追いかけることができず立ち止まってしまう。
(恐れていたことが起こった・・オレがガルヴォルスだということを知られて、ツバサちゃんがオレを拒絶してしまった・・・!)
 ツバサにひどく嫌われてしまったことを痛感して、マサキはその場に膝をついてうなだれた。
「マサキくん!」
 そのとき、シュラが車で戻ってきて、降りてマサキに駆け寄ってきた。
「どうしたんだ、マサキくん?何かあったのですか・・!?」
「シュラさん・・・」
 シュラが問いかけると、マサキが顔を上げた。
「見られてしまいました・・・ツバサちゃんに、オレのことを・・・!」
「な、なんと・・・!」
 マサキが今起きたことを話して、シュラが緊張を覚えた。シュラたちにとっても忌々しき事態であると痛感していた。

 ガルヴォルスであるマサキに恐怖して、ツバサは彼から逃げるように走り続けた。彼女はジンボーの近くに来たところで足を止めた。
(マサキくんが怪物だった・・普通の人間のフリをして、ずっと私たちと一緒にいたなんて・・・!)
 マサキに裏切られたと思い、ツバサが絶望を募らせていく。
(マサキくんがいる限り、私はここにも大学にも行けない・・私の方が、ここから出ていったほうがいいのかもしれない・・・)
 マサキと会うことを心から恐れるようになっていたツバサ。彼女はジンボーの前まで来ることができず、きびすを返して自宅を目指した。

 マサキは落ち着きを取り戻そうとしながら、シュラに今回の事情を説明した。
「これは我々にも落ち度がありました・・ガルヴォルスを警戒するあまり、監視が行き届かなくなってしまいました・・」
 シュラが責任を感じて肩を落とす。
「いや、危険が及ばないようにと思って、オレがアンタたちを遠ざけたのがいけなかったんだ・・・」
 マサキが彼を気遣い、顔を横に振る。
「オレもあのガルヴォルスを止めるのに必死だった・・周りのことを気にしている暇もないくらいに・・・」
 マンティスガルヴォルスとの戦いを思い返して、マサキが肩を落とす。
「今までの戦いだって、近くに人がいたときぐらいしか、周りを気にしていなかった・・・そのサポートも、アンタたちはしてくれたんだよな・・・?」
「守秘義務も私たちは持ち合わせていますからね。」
 さらに記憶を呼び起こしていくマサキに、シュラが微笑んで答える。
「だからオレは、思い切り戦うことができたわけか・・・」
「それがあなたをサポートすることですから。」
 助けられていることを実感するマサキに、シュラが笑顔を見せた。
「天上ツバサさんの行方を探りましょう。彼女と話をするつもりなのでしょう?」
 シュラがツバサ捜索に乗り出すことを決めた。
「だけど、ツバサはオレのことをすっかり怖がっている・・会いに行っても、避けられてしまう・・・」
 ツバサから拒絶されていることを、マサキは気に病んでいる。
「とは言いますが・・君以外に彼女を説得できる人がいないのです・・酷だとは思いますが・・・」
 シュラが檄を飛ばすが、マサキは迷いと苦悩を振り切ることができない。
「こういうことはお互いにデリケートなのです・・私たちが無理やり解決しようとしても、意味がないのです・・・」
「それは、分かっているけど・・・」
 深刻な面持ちで言いかけるシュラだが、それでもマサキは立ち直ることができない。
「これは思っている以上に大変なことになっていますね・・・」
 シュラが肩を落としてから、通信機で連絡を取った。
「天上ツバサさんの捜索と監視をお願いします。接触は避けるように。」
“分かりました。”
 シュラが指示を送り、アルトが答えた。
「これでツバサさんの居場所は把握できます。後はあなた次第です、マサキくん。」
「お膳立ては完璧ってところか・・確かにこれは、オレがしっかりしないといけないことだな・・・」
 作り笑顔を見せるシュラに、マサキはため息をついた。気を引き締めなおそうとする彼だが、冷静さを取り戻せないでいた。

 市街地から離れた山道を、2人の男女が歩いていた。
「バードウォッチングをするには、絶好のお天気だね。」
「うん。これなら鳥や雲の動きが分かるよ。」
 女性が空を見渡して、男性が双眼鏡で遠くの様子を見据える。
「今のところ鳥が通りがかる様子はないね。もうちょっと見てみる。」
「私は反対方向を見てみるよ。」
 男性と女性が声を掛け合い、空を見渡して鳥の行方を追った。
「あっ!あっちから何か飛んでくるよ!」
 女性が声を上げて、男性が彼女の指さしたほうに目を向ける。雲を抜けて1つの影が飛行してきた。
「あの動き・・鳥みたいだけど・・・」
 男性がその影を注視して、動きを伺う。
「こっちに向かってくる。撮影できそうだよ。」
 女性が言いかけて、男性がビデオカメラを手にして、再び影のいるほうを見た。
「姿がハッキリしてくるぞ・・・ん?鳥か・・?」
 影の正体を確かめようとする男性が、その姿に疑問を覚える。
「お、おい・・何だ、コイツは・・・!?」
「えっ?な、何よ・・・?」
 声を荒げる男性に、女性が問いかける。影が2人に近づいてきて、さらにスピードを上げてきた。
「おい・・あれは、鳥じゃない・・!?」
 男性が緊迫を覚えたときだった。飛び込んできた影に彼が連れていかれた。
「えっ!?」
 男性の姿か消えて、女性が驚いて振り返る。男性は鳥のような姿の怪物の鋭い嘴に、体を貫かれていた。
「キ、キャアッ!」
 男性の惨殺を目の当たりにして、女性が悲鳴を上げる。鳥の怪物、ホークガルヴォルスは刺した男性を上空から振り落とした。
 男性は女性の目の前で倒れて、そばにはビデオカメラが落ちていた。

 ホークガルヴォルスに人が襲われる事件は、すぐに警察に通報された。
 男性が撮影していたビデオカメラは、警察によって回収、解析された。しかしホークガルヴォルスのスピードが速く、その映像には姿がはっきりとは映っていなかった。
「んんん・・これでは素早く飛ぶというだけで、犯人を特定するまではならないな・・・」
「人の目でも追い切れない速さ・・これでは捕まえるのも、一筋縄にはいかないですよ・・・」
 テツオが歯がゆさを覚えて、トモヤが不安を浮かべる。
「弱音を吐くな!必ず犯人を見つけて逮捕するぞ!」
 テツオが檄を飛ばして、トモヤとカリヤが敬礼した。
「トモヤは周囲に聞き込みだ!カリヤは空の監視だ!」
「はい!」
 テツオの指示を受けて、トモヤたちは行動を開始した。

 ツバサの居場所は、アルトたちの部隊によってすぐに見つかった。それはシュラにすぐに伝えられた。
「ツバサさんが見つかりました。向かうなら私がお送りしますが・・」
 シュラがマサキに呼びかけて、車の後部座席のドアを開けた。
「どうしたらいいのか・・ツバサちゃんに何を言ったらいいのか、全然分かんないけど・・・行くよ・・行かなくちゃならない気がしてる・・・」
 マサキはシュラの言葉を聞いて、車に乗った。
「すみません・・このくらいしか、マサキくんの力になれなくて・・・」
「いやいや、十分すぎて感謝しないといけないくらいだ・・・」
 謝意を示すシュラに、マサキが苦笑いを浮かべた。シュラは車を走らせて、ツバサのところへ向かった。
(もう2度と、オレはツバサちゃんと分かり合えないかもしれない・・それでも、もう1度会わずに諦めるわけにはいかない・・・)
 自分の正直な気持ちを確かめて、マサキはそれをツバサに伝えようと決意していた。
 空高くから急降下し、地上の人間を嘴で刺したり、捕まえて空から落下させたりするホークガルヴォルス。自分の行う殺人に、ホークガルヴォルスは快感を覚えていた。
「たまんないなぁ・・人間が死んでいく感触というのは・・・」
 ホークガルヴォルスが自分の嘴に手を当てて、喜びを感じていく。
「しかし獲物があんまり来ないのが悩みだな・・街の方に行けばたくさんいるけど、オレの姿を見られる危険が高くなるからな・・」
 周囲の目を警戒するホークガルヴォルス。彼は自分の獲物を仕留める楽しみのために、あらゆる手を打っていた。
「早く次の獲物が来ないものかぁ・・・」
 ホークガルヴォルスはため息をついてから、翼をはばたかせて飛び上がった。

 マサキから離れようとするツバサは、家の自分の部屋に閉じこもっていた。
「ツバサ、慌てて帰ってきたみたいだけど・・何かあったの・・?」
 ツバサの母、チヒロが彼女に声を掛けてきた。
「お母さん・・ううん、何でもないよ。勉強で分からないところが出ただけだから・・・」
「そう?あまり深く気にしないようにね。ツバサだから、すぐに身に着くわよ。」
 ツバサが答えて、チヒロが励ましを送った。
(このことはお母さんは巻き込めないし、話しても信じてもらえないよね・・・)
 怪物のことをチヒロに話さないようにするツバサ。
(今は私は、マサキくんを信じることができない・・・)
 自分の気持ちを確かめて、ツバサが悲しみを募らせていた。

 ツバサが自宅に戻っていることを知って、マサキはシュラの車でその近くまで来た。
「ツバサちゃん、家に戻ってきているのか・・」
 マサキが車の中から家のある方を見つめて呟く。
「ちくしょう・・度胸がないな、オレ・・ここまで来たのに、こんなところでウジウジするなんて・・・!」
「でもやはり、ここまで来たなら腹をくくるしかないですよ・・諦めるなら、最初にしないと・・・」
 頭を抱えるマサキに、シュラが気まずくなって肩を落とした。
 そのとき、マサキが気配を感じて緊張を覚える。
「どうしましたか、マサキくん・・?」
「何かが近くにいる・・これは、ガルヴォルスか・・・!」
 シュラが問いかけて、マサキが真剣な面持ちで答える。
「こっちに近づいてくる・・ツバサちゃんたちが襲われたら大変だ・・・!」
 マサキが車から降りて、ガルヴォルスを迎え撃つため走り出した。
「マサキくん!・・・ガルヴォルスが近づいています!監視を強化してください!」
 彼を呼び止めるシュラが、部隊に指示を送った。
“ガルヴォルスの捜索は我々がします。”
 ソウマからの応答に頷いて、シュラはマサキを追って車を走らせた。ツバサの監視はアルトの部隊が続けていた。

 ガルヴォルスを追跡して前進していくマサキ。彼はガルヴォルスが近づいてくるのを感じ取っていた。
(ガルヴォルス・・どこだ!?・・この近くのはずなんだが・・・!)
 マサキが周りを見回して、ガルヴォルスを捜す。
「まさか、空高く飛んでいるのか!?」
 彼が見上げた上空にいたのは、飛行しているホークガルヴォルスだった。
「あんなところにいるのか・・・!?」
 ホークガルヴォルスの姿を視認したマサキが、デーモンガルヴォルスに変身した。彼が背中から生やした翼をはばたかせて飛翔した。
(近づいてきている・・アイツもオレのことに気付いている・・!)
 ホークガルヴォルスが空で待ち構えていることを察知するマサキ。彼がさらに距離を縮めたところで、ホークガルヴォルスが加速してきた。
「うぐっ!」
 ホークガルヴォルスの高速の突撃を受けて、マサキがうめく。体勢を崩した彼だが、空中で踏みとどまって落下を止めた。
「アイツ、空を飛ぶスピードはオレよりも上だ・・!」
 空中戦で不利だということを痛感して、マサキが焦りを噛みしめる。
「ガルヴォルス・・しかも空を飛べるヤツが来たか・・だけどスピードはオレのほうが上だぜ!」
 ホークガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべて、マサキに向かって突っ込む。マサキがとっさに身を翻すが、突撃を回避できずに、ホークガルヴォルスの左翼を体に叩き込まれた。
「うあっ!」
 マサキが突き飛ばされて、下にあるマンションの屋上に落ちた。
「くそっ!・・反応してもよけられないぞ・・・!」
 立ち上がったマサキが、ホークガルヴォルスに追い詰められて焦りを膨らませていく。
(やられてたまるか・・オレがやられたら、ツバサちゃんもみんなもアイツに襲われてしまう・・・!)
 ツバサたちのことを思うマサキが、力への渇望を強めていく。
「今度はいつものやり方でお前を狩らせてもらうとするか・・!」
 ホークガルヴォルスが笑みをこぼして、高い視力で地上にいるマサキを見据える。
「行くぜ!」
 ホークガルヴォルスがマサキに向かって急降下する。
「ちくしょう!」
 マサキが毒づき、必死に回避する。ホークガルヴォルスが突っ込み、屋上の床を突き破った。
「ヤバいぞ・・これじゃ建物や地面に風穴が開きまくるぞ・・!」
 被害が増すのを懸念して、マサキが再び飛翔した。空中戦では自分が不利になることを承知の上で。
 ホークガルヴォルスがマンションから出てきて、マサキに向かってきた。
「ぐっ!」
 ホークガルヴォルスの鋭い嘴が左肩に刺さり、マサキが激痛を覚えて顔を歪める。
「つ・・捕まえた!」
 彼が痛みに耐えて、右手でホークガルヴォルスの顔面をわしづかみにした。
「オラ!」
 マサキが右足を振り上げて、膝蹴りをホークガルヴォルスの顎に叩き込んだ。
「んぐっ!・・ぐへっ!」
 ホークガルヴォルスも激痛を覚えて、たまらずマサキから嘴を引き抜いた。
「オ、オレの顔に傷をつけるとは・・やってくれたな、お前・・!」
 蹴られた顎に手を当てて、ホークガルヴォルスが憎しみを膨らませていく。
「串刺しにしてズタズタに引き裂いてやる!」
 彼は血を吐き捨ててから、マサキを狙って加速した。マサキが上昇して、地上から遠ざけようとする。
「逃げるな!やり逃げできると思ったら大間違いだぞ!」
 ホークガルヴォルスが怒鳴り声を上げて、マサキを追っていく。
(さっきよりもスピードが遅くなっている!これなら反撃は不可能じゃない!)
 ホークガルヴォルスの動きを見定めて、マサキが剣を具現化して構えた。
「オレの嘴の餌食にしてやる!」
 スピードを上げるホークガルヴォルスの嘴を、マサキが横に動いてかわした。同時に彼は剣を出して、ホークガルヴォルスの左肩を突き刺した。
「うぎゃあっ!」
 ホークガルヴォルスが絶叫を上げて、血をあふれさせながら落下していく。マサキが彼を追って降りていく。
「これでとどめとさせてもらう!」
 マサキが剣を構えて、ホークガルヴォルスにとどめを刺そうとした。
“来ないで!近付かないで!私を殺さないで!”
 そのとき、マサキの脳裏にツバサの悲痛の叫びが響いた。拒絶する彼女の姿に、マサキは苦悩と迷いを覚えた。
(ツバサちゃん・・・!)
 マサキは動揺するあまり、地面に落ちたホークガルヴォルスに剣を振り下ろすことができなくなる。
「何だかよく分かんないが・・隙あり!」
 ホークガルヴォルスが力を振り絞り、嘴を突き出した。嘴がマサキの左わき腹を貫いた。
「ぐあぁっ!」
 体から大量の血をあふれさせて、マサキが絶叫を上げる。必死に離れて嘴を引き抜くが、マサキは激痛に襲われて倒れた。
「形勢逆転だな・・今度こそオレの餌食だぜ・・・!」
 ホークガルヴォルスが笑みをこぼしてマサキに迫る。負傷とガルヴォルスとして戦うことへの苦悩で、マサキは心身共に追い詰められていた。
 
 
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