ガルヴォルスExbreak
第11話「異形の暴露」

 

 

 ツバサが見張るようにそばにいたため、マサキはガイとガルヴォルスたちの戦いに向かうことができなかった。彼はツバサと共にジンボーに戻ってきた。
「おかえり、マサキ。おや、ツバサちゃんも一緒かい。」
 ヘイゾウがマサキとツバサに挨拶をしてきた。
「ツバサちゃんに追いかけられて、自由時間を有意義に使えなかったですよ・・」
 マサキがヘイゾウにため息まじりに話しかけた。
「ちょっと!私が邪魔したみたいな言い方やめてよ!」
「だってそうじゃないか。おかげで気が休まらなかったんだから・・」
 ツバサが文句を言うと、マサキが気まずい素振りを見せる。
「最近、マサキくんの考えていることが分からない・・何に首を突っ込んでいるのか、突き止めてやるんだから・・・!」
 ツバサは不満を浮かべたまま、マサキたちの前から去っていった。
「ツバサちゃん・・・」
 マサキがツバサの態度に複雑な気持ちを感じていた。
「まぁ、気に病むな、マサキ。ツバサちゃん、お前さんの心配をしているんじゃよ・・」
 ヘイゾウが励まして、マサキが小さく頷く。しかしマサキはツバサのことを気に掛けて、深刻さを拭えずにいた。
「マスター・・マスターは気にしてないんですか?オレが最近どうしているのかを・・」
 マサキが不安を感じながら、ヘイゾウに問いかけた。
「気にしとらんと言ったらウソになるな。じゃがこうして自立に向かって頑張っておる。それだけでもよしと思っておる。」
「マスター・・優しいのか、能天気というか・・・」
 自分の考えを正直に言うヘイゾウに、マサキが苦笑いを見せた。
「オレは少し休みますんで・・」
「あぁ・・わしらは仕事を続けてるんで、何かあれば呼んでくれ。」
 マサキが声を掛けて、ヘイゾウが微笑んで答えた。マサキはひと息ついてから、自分の部屋に戻った。
 部屋に入ってドアを閉めてから、マサキはスマートフォンを取り出して、シュラに連絡を入れた。
「もしもし、シュラさん?・・連絡もできなくてすいません・・」
“いえ。あなたの事情も大体把握しています。あなたの知り合いがそばにいたのですね。”
 謝るマサキにシュラが弁解をする。
「そのことなんだけど・・その知り合い、ツバサちゃんなんだけど・・オレのことを怪しんで付け回ってきているんだ・・」
“それはまずいことになりましたね・・我々のことを知られずにあなたの追跡を妨害するのは、手を焼く作業になりますね・・”
 マサキが事情を話して、シュラが気まずさを感じた。
“ガルヴォルスの対処は極力我々がします。マサキくんはしばらくは日常に戻ってください。”
「だけどそれじゃ、シュラさんたちが大変なんじゃ・・」
“私たちはガルヴォルス退治のプロですよ。力では敵いませんが、対処法はたくさん持ち合わせています。”
「そうか・・・迷惑かけてすまない・・オレのために・・・」
 指示を送るシュラに謝罪して、マサキは電話を切った。
「ハァ・・こんな形で休むことになるなんて・・・恨むぞ、ツバサちゃん・・・」
 マサキはため息をついて、嗅ぎ回ってくるツバサに対して恨み言を呟いた。
「今日は軽く勉強をしてから、飯食って風呂入って寝るか・・・」
 彼は気持ちを切り替えようとして、ノートを広げて復習をするのだった。

 翌日、マサキは気分が晴れないまま、大学に向かうことになった。その途中に、彼のところにツバサとララが駆け込んできた。
「マサキくん、おはよう♪あれ?ちょっと元気ないみたいだね?」
 ララが挨拶して、マサキの様子を気にする。
「ま、まぁな・・」
 マサキが生返事をして、ツバサに目を向ける。するとツバサがマサキに疑いの眼差しを向けてきた。
「ん?2人とも、何かあったの・・?」
 ララが気にして問いかけるが、マサキもツバサも互いを見たまま答えない。
「だ、大学に行こう・・講義に遅れちゃうよ・・・」
 ララが気持ちを切り替えようと、大学に向かって歩き出す。マサキもツバサも言葉を投げかけないまま、ララについていった。

 その後もツバサは講義の時間以外はマサキのそばを離れなかった。いつまでも付いてくる彼女に、マサキは滅入っていた。
「どこまで付いてくる気だよ・・これじゃまるでストーカーじゃないか・・」
「失敬な・・せめて調査って言ってもらいたいわね。」
 不満をあらわにするマサキに、ツバサが文句を言い返す。
「すっかり不審者扱いかよ・・参っちゃうなぁ・・・」
 ため息をついてマサキが歩き出し、ツバサが追いかける。
「おいおい、トイレまで付いてくる気かよ・・・?」
「えっ・・・?」
 呆れるマサキにツバサが当惑する。マサキは男子トイレに入ろうとしていた。
 腑に落ちないツバサだが、トイレに行くマサキを見送るしかなかった。
(でもここで待っていれば、マサキくんは出てくることになる・・)
 ツバサはマサキを待って、トイレのそばにいることにした。
(でもトイレには、窓が付いていて・・・)
「しまった!」
 思い立ったツバサが走り出して、外へ飛び出した。マサキはトイレの窓から外へ抜け出て、逃げ出していった。
「マサキくん!」
 ツバサが慌ててマサキを追いかける。しかし彼女は彼を見失ってしまう。
「マサキくん・・何をしているのか、絶対に突き止めてやるんだから・・!」
 ツバサが悔しさをあらわにして、マサキを追って再び走り出した。

 ツバサをようやく振り切ったマサキは、走りながらシュラに連絡を入れた。
「シュラさん、急いでオレを拾ってくれ!やっとツバサちゃんから逃げ切れた!」
 マサキが報告すると、シュラの運転する車が来た。
「乗ってください、マサキくん!」
「シュラさん、早い!」
 窓から顔を出して呼びかけるシュラに、マサキが声を上げる。停車したところで、マサキが後ろのドアを開けて車に乗った。
「災難でしたね、マサキくん。これで少しは気が休まるでしょうか・・?」
「ヴォルスレイのそばにいて気が休まるとはな・・・」
 心配するシュラに言い返して、マサキがため息をつく。
「ガルヴォルスの事件やガイのことは・・?」
「新しい事件は起こっていませんし、ガイくんの行方も分かっていません。しばらくはこちらの仕事はなさそうです・・」
 マサキの質問に、シュラが落ち着きを払って答える。
「困ったものだ、ツバサちゃんには・・これじゃオレたちのことがばれるのも、時間の問題だぞ・・・」
 マサキがツバサの追跡を気に病んで、気まずくなっていた。
「手荒な方法でしたらいくつかあるのですが、それはよくないですからね・・」
「もちろんだ!物騒なマネはやめてくれ!」
 シュラが呟いた言葉に、マサキが感情をあらわにして反論する。
「もはやお手上げですね・・私からアドバイスはできると思いますが、まずはあなたが彼女を説得することになるでしょうね・・」
「オレたちのことはオレたちがってことか・・・」
 苦笑いを浮かべて言いかけるシュラに、マサキはまたため息をついた。
「それで、どこへ向かいますか?まだ大学に戻りますか?」
「いや、昼間は人の目の届かないところにいる。今日はジンボーでの仕事はないし・・この後の講義に出られなくなるのは残念だけど・・・」
 シュラの問いかけに、マサキが考えを伝える。
「分かりました。ヴォルスレイの管理する施設に向かいましょう。」
「すいません、シュラさん。」
 頷いたシュラにマサキが感謝した。シュラが車を施設に向かわせようとした。
 そのとき、シュラに向けて通信が入った。彼は車にある通信機のスイッチを入れた。
「どうしました?」
“ガルヴォルスと思しき事件が発生しました。人間の体を切り裂く鋭い刃物を有している可能性が高いです。”
 シュラが問いかけると、アルトが説明をした。
「引き続き調査を行ってください。何かありましたら、深入りせずに連絡をしてください。」
“了解。調査を続けます。”
 シュラが指示を送って、アルトが答えた。通信を終えたシュラがひと息つく。
「どうやら休んでいる暇はないみたいだな・・」
「すみません。お手数をおかけします・・」
 ため息をつくマサキに、シュラが苦笑いを見せて謝った。

 体を両断される殺人事件が発生し、テツオたちが捜査をしていた。
「こりゃまたエグい殺し方をしやがる・・・!」
「切れ味抜群の刀で切ったみたいな・・・」
 テツオとトモヤが死体を見て、不快感を覚える。
「警部、殺害現場から500メートル先から、壁や鉄柱に切り傷があるのを発見しました。」
 カリヤがテツオたちのところに来て、報告をした。
「猟奇的だな・・見境なしに刃物を振り回したようだ・・ふざけやがって・・・!」
 殺人犯に強い怒りを浮かべるテツオ。
「捜査範囲を広げるぞ!トモヤ、カリヤ、行け!」
「了解!」
 テツオが命令して、トモヤたちは駆け出した。

「ええっ!?マサキくんが大学から逃げた!?」
 ツバサからマサキのことを聞き出して、ララが驚いた。
「だから私もマサキくんを追いかけるから、ゼミのみんなにはそう言っておいて・・」
「ち、ちょっと!ツバサちゃんまでそんな勝手しちゃって~・・!」
 両手を合わせてお願いをするツバサに、ララが不満の声を上げる。
「後でハンバーガーをおごるから・・・!」
「ビッグサイズのヤツで手を打つからね・・・!」
 さらに頼み込むツバサに、ララが注文を付け加えた。
「分かった。それでお願いね。それじゃ・・!」
 ツバサは聞き入れてから、大学から外へ出ていった。
「ツバサちゃん、マサキくんにすっかり入れ込んじゃってるね・・」
 ツバサとマサキの関係を気にして、ララは複雑な気分を感じていた。

 警察の捜査の裏で、ヴォルスレイの各隊員も秘密裏にガルヴォルスの行方を追っていた。時刻が夕暮れになろうとしていたときだった。
「2件目の事件現場の近くです。犯人と思しき人物を発見しました。」
 隊員の1人が報告をしていた。アルトたちが犯人を特定し、隊員たちがマークしていた。
「引き続き監視を続けます。動きがあり次第、報告しま・・」
 隊員が引き続き報告を伝えようとしたときだった。一閃が駆け抜けると、隊員の体が両断された。
 鮮血をまき散らしながら倒れた隊員の前には、刃を煌かせた影がいた。

 報告をしてきた隊員がその途中で通信を切ったことに、シュラは警戒心を抱いた。
「隊員の居場所に気付いて襲撃した模様です。厄介なことになってきました・・」
 ヴォルスレイさえも襲撃されたことに、シュラが気まずくなっていた。
「すぐに居場所を特定します。その後にお願いします、マサキくん。」
「今度のガルヴォルスも、好き勝手に人を襲うヤツなのか・・・!」
 彼が深刻な面持ちで告げて、マサキが気を引き締める。
“ガルヴォルスを発見しました。大通りに向かっています。”
 アルトの部隊の隊員から通信が入った。シュラがマサキとともに頷いて、車のスピードを上げた。

 マサキたちが急行する間も、他の隊員たちが殺人犯の襲撃を受けていた。犯人は隊員たちが隠れているのを、正確に察知していた。
「ダメだ!これ以上の追跡は危険だ!撤退しま・・!」
 危機感を覚えて引き上げようとした隊員も、犯人に見つかり惨殺された。
「こんなおかしな邪魔者まで出てきたのか・・・」
 殺人犯であるガルヴォルスがため息をつく。カマキリの姿をしたマンティスガルヴォルスである。
「せっかくの殺戮ショーだ・・邪魔するヤツは誰だろうと切り刻んでやるぞ・・!」
 マンティスガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべて、次の標的を求めて歩き出す。
「チッ!・・また邪魔者が来たみたいだな・・・」
 マンティスガルヴォルスが気配を感じて舌打ちをする。彼の前に、シュラの運転する車が止まった。
「お前か・・人殺しのガルヴォルスは・・!」
 車から降りたマサキが、マンティスガルヴォルスに鋭い視線を向ける。
「ほう・・お前もガルヴォルスのようだな・・」
 マンティスガルヴォルスがマサキの正体に感付いて笑みをこぼす。
「シュラさん、オレとアイツで1対1でやる。アンタたちは少し離れたほうがいい・・」
「今回は巻き込まれてしまうのはよくないですからね・・みなさんにもそう通達します。」
 マサキの言葉を聞き入れて、シュラは車に乗ってこの場を離れた。
「ここにいるのはオレだけのはずだ。アンタの相手はオレだけってことになるな。」
「ガルヴォルスなのに、人間の味方をするつもりなのか?・・ふざけるのもいいとこだぜ・・・!」
 不敵な笑みを見せるマサキに、マンティスガルヴォルスがいら立ちを見せる。
「もう人殺しはやめろ・・罪を重ねるんじゃない・・・!」
 マサキが顔から笑みを消して、マンティスガルヴォルスに警告する。するとマンティスガルヴォルスが笑い声を上げた。
「ガルヴォルスのくせに正義の味方気取りか・・マジで馬鹿馬鹿しい話だな!」
 マンティスガルヴォルスがいきり立ち、マサキに向かって飛びかかる。マサキがデーモンガルヴォルスとなって、マンティスガルヴォルスが振りかざした両手の刃をかわした。
 マンティスガルヴォルスがさらに刃を振りかざす。その切っ先がマサキの頬をかすめた。
「速い・・油断していると、オレもバラバラに切り刻まれてしまう・・!」
 マサキがマンティスガルヴォルスのスピードに毒づく。
「お前もすばしっこいな・・だがいつまで逃げ切れるか!」
 マンティスガルヴォルスが言い放ち、マサキに両手を振りかざす。回避が間に合わないと判断して、マサキが剣を具現化して、マンティスガルヴォルスの右手の刃を受け止める。
「オレの刃を止めるとはな・・だが1つ止めたぐらいで、いい気になるな!」
 マンティスガルヴォルスが左手の刃を振り下ろして、マサキの剣を叩き落とした。マサキがとっさに後ろに下がり、マンティスガルヴォルスの追撃をさけた。
「そら!のんびりしてる暇はないぜ!」
 マンティスガルヴォルスが両手を振りかざす。
「うぐっ!」
 刃が体を切りつけ、マサキが激痛を覚える。彼は鮮血をあふれさせて、地面に膝をついた。
「今度はどこを切り裂いてやろうか・・腕か足か・・思い切って首か!」
 マンティスガルヴォルスが勝ち誇り、右手を振り上げた。
(やられるかよ・・こんなヤツの、命を奪って平気な顔をするヤツのいいようにさせるか・・・!)
 怒りを燃やすマサキが、全身に力を込める。マンティスガルヴォルスが振り下ろした右手の刃に、マサキが右の拳でぶつけた。
 マサキの拳は切られることなく、マンティスガルヴォルスの刃を打ち砕いた。
「何っ!?」
 マンティスガルヴォルスが驚愕しながらも、左手の刃も振りかざした。マサキが素早く身を屈めて、刃をかわした。
「はっ!」
 マサキが再び右手を握りしめて、マンティスガルヴォルス目がけて振り上げた。
「がはっ!」
 重みのある打撃を体に叩き込まれて、マンティスガルヴォルスが吐血する。彼がとっさに左手の刃を振って、マサキを引き離す。
「オレが切り裂けないヤツが出てくるなんて・・そんなバカなことが・・・!?」
 砕かれた右手の刃に、マンティスガルヴォルスが目を疑う。刃だけでなく、彼の自信も砕かれていた。
「許さねぇ・・絶対に許さねぇぞ!たとえ同じガルヴォルスだろうと、バラバラに切り刻んでやる!」
 怒りを膨らませたマンティスガルヴォルスが、マサキに飛びかかる。マサキが落ちている剣を呼び寄せて、マンティスガルヴォルスの刃を受け止めた。
「く、くそー!」
 マンティスガルヴォルスが力を込めるが、逆にマサキに押し返される。マンティスガルヴォルスがマサキを飛び越えて着地すると、怒りで我を忘れて見境なしに刃で周りのものを切りつけていく。
「いい加減に、みんなを傷付けるな!」
 マサキも怒りを膨らませて、剣を構えて力を込める。剣の刀身から光があふれて、強くなっていく。
 マサキが一気に加速して剣を振りかざす。彼の一閃は、マンティスガルヴォルスの左手の刃を打ち砕き、体を切り裂いた。
「ギャアッ!」
 マンティスガルヴォルスが絶叫を上げて倒れて、体が崩壊して消えた。
「また、倒すしかなかった・・心を失ったバケモノを、野放しにするわけにいかない・・・!」
 救えなかったことと被害を増やしてはならないという思いの板挟みにあい、マサキは葛藤していた。
「シュラさんに連絡して、戦いが終わったことを伝えないと・・・」
 マサキは気持ちを切り替えて、ガルヴォルスから人の姿に戻った。
「もしもし、シュラさん。ガルヴォルスは倒した。もうこっちに来ても大丈夫だ・・」
“分かりました。我々がそちらに戻るまで、現場で待っていてください。人目が付かないところがあったので、そこに身をひそめるように。”
 マサキがスマートフォンで連絡して、シュラが応答した。
「さて、束の間の休息ってヤツに入るか・・」
 マサキがひと息ついて、近くの倉庫で小休止しようとした。
 だがそこにツバサがいた。動揺を隠せなくなっている彼女を目の当たりにして、マサキが驚愕する。
(ツ、ツバサちゃん・・・!?)
 ツバサが戦いの場にいたことに、マサキも動揺を隠せなくなる。
「ま・・まさか・・今のを見られた・・・!?」
 ガルヴォルスであることをツバサに知られ、マサキは絶望を痛感していた。
 
 
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