ガルヴォルスExbreak
第１０話「悲劇の序曲」
飛びかかったタイガーガルヴォルスを援護しようと、２体のモールガルヴォルスが地中から迫り、ガイの足をつかんで動きを封じてきた。
「これでテメェの最期だ！」
タイガーガルヴォルスが勝ち誇り、ガイ目がけて爪を振りかざした。
その直後、ガイが右足に力を入れて、強引にモールガルヴォルスごと振り上げた。
「えーっ!?おわっ！」
驚くモールガルヴォルスが、タイガーガルヴォルスの爪に切り裂かれた。モールガルヴォルスが鮮血をまき散らして倒れた。
「コ、コイツ・・無理やり足を動かして、オレの仲間を引きずり出したぞ・・・！」
もう１人のモールガルヴォルスがガイの力に脅威を覚える。
「何人束になっても意味はない・・全員まとめて、オレが倒す・・・！」
ガイが鋭く言って、倒れているモールガルヴォルスの手を振り払った。
「おのれ・・全員でかかれ！数で押して、１人で何とかできるはずがない！」
タイガーガルヴォルスが苛立って、他のガルヴォルスたちに命令する。
「いくぞー！」
ラットガルヴォルスたちが一斉に飛びかかる。モールガルヴォルスもガイの足をつかんで、地中に引きずり込もうとする。
ガイも強く握りしめた両手を振りかざす。彼の拳が衝撃波を伴い、ラットガルヴォルスたちを吹き飛ばした。
さらにガイが右足を振り下ろして、地面の下にいるモールガルヴォルスを踏みつけた。
「うぎゃあっ！」
ガイに頭を踏みつぶされて、モールガルヴォルスが地中で事切れた。
「おのれ・・裏切り者のガルヴォルスがー！」
タイガーガルヴォルスもスピードを上げて、ガイに飛びかかる。しかし彼の突撃はガイに軽々とかわされる。
「よけるな！」
タイガーガルヴォルスが怒号を放ち、両手を振り下ろす。ガイが目つきを鋭くして、両手を振り上げてタイガーガルヴォルスの両腕を叩いた。
「うがあっ！」
叩かれた両腕の激痛で、タイガーガルヴォルスが絶叫を上げる。
「腕が・・腕が思うように動かねぇ・・！」
「アニキが危ねぇ！」
悲鳴を上げるタイガーガルヴォルスを助けようと、ラットガルヴォルスたちが一斉に飛びかかる。
「どいつもこいつも・・オレを排除しようとする・・・！」
ガイが怒りを強めて、力を込めて右手を振りかざした。彼の爪から光の刃が現れ、ラットガルヴォルスたちの体を切り裂いた。
「なっ!?」
ラットガルヴォルスが一気に全滅したことに、タイガーガルヴォルスが目を疑う。光の刃を手に宿したまま、ガイが彼に振り向く。
「た・・助けてくれ！オレたちが悪かった！もう２度とお前に手出しはしない！だから見逃してくれ！」
タイガーガルヴォルスが恐怖に囚われて、ガイに助けを請う。
「勝手なマネをした後に命乞いをするなら、最初からやるべきではないと理解していない・・それだけで、お前は生きる価値もない・・・！」
ガイが鋭く言って、左手を振りかざして光の刃を伸ばした。
「ギャアッ！」
タイガーガルヴォルスが体を切り裂かれて、断末魔を上げて倒れた。
「そうだ・・自分の犯した罪を償わない、償おうとしないヤツは、存在さえも許されない・・・！」
ガイが呟いてから、ドラゴンガルヴォルスから人の姿に戻る。
「ヴォルスレイ・・バサラ・・・お前たちは絶対に許さない・・・！」
彼はバサラたちに対しても、憎しみを強くしていた。
（アキハ・・お前の命を奪ったアイツらは、必ずこの手で・・・！）
ガイはアキハのことを思い出して、悲しみも感じていた。
春日アキハ。ガイの幼馴染みで、大学に通い始めた頃に彼と再会した。
かつてのガイは穏やかな性格だった。しかし少し人見知りなところがあった彼は、友達が少なかった。
世話焼きだったアキハを、ガイは最初は迷惑がっていた。しかしアキハはガイの心境を察して、彼を傷付けないように気を遣った。
ガイは次第にアキハに心を開くようになっていき、２人は仲良くなっていった。
アキハと再会する前から、ガイはガルヴォルスとして覚醒していた。ガルヴォルスの力と本能に始めは振り回されていた彼だが、次第に制御できるようになっていった。
その後にガイはシュラと出会い、ヴォルスレイの一員としてガルヴォルスと戦うことになった。
自分の周りにいる人々を守るため、暗躍するガルヴォルスと密かに戦っていたガイ。みんなのためになっているという手応えと生き甲斐を、彼は感じていた。
始めはガルヴォルスであることを、アキハに秘密にしていた。しかし彼女を守ろうとして、ガイはガルヴォルスの姿を見せることになった。
怪物の姿に恐怖を覚えたアキハだが、ガイがみんなを守るために戦っていることを理解して、受け入れるようになった。
「アキハ・・こんなオレ、怖いに決まっているだろう・・・？」
ガイがアキハに嫌われたと思い、物悲しい笑みを浮かべる。
「ガイくん・・姿が変わっても、ガイくんってことに変わりはない・・そう思ったら、今のあなたでも怖くはないよ・・・」
アキハが正直な気持ちを伝えた。彼女の言葉がガイの心を打った。
「こんなオレでもいいのか？・・いつか、オレが分からないうちに、お前を傷付けてしまうかもしれない・・・」
「それでも、ガイくんはガイくんだから・・・」
不安を浮かべるガイに、アキハが信頼を送った。彼女に元気付けられて、ガイが安らぎを覚えた。
「ありがとう・・・そう言ってくれて・・気持ちが少し楽になった気がする・・・」
ガイが感謝して、アキハと握手を交わした。
（アキハに受け入れられて、本当にホッとしている・・嫌われたら、オレはどうしたらいいのか分からなくなっていたかもしれない・・・）
心の中で呟くガイ。彼はアキハを心の支えにしていた。
数々のガルヴォルスを倒してきたガイ。彼を目の敵にして、ガルヴォルスたちが暗躍を始めていた。
「もう縄張り争いをしている場合じゃないな・・」
「まずは竜間ガイを始末するのが先だ・・！」
「アイツのせいで、オレの仲間がことごとくやられちまった・・許しちゃおかねぇぞ・・・！」
ガルヴォルスである男や青年たちが、ガイに対する警戒や憎悪を強めていく。
「だが、数を揃えても竜間ガイを仕留められるとは限らない・・他に手を考えないと・・・！」
「アイツの弱点になる何かを見つけなければ・・アイツの身近にいる人間とか・・・」
ガイ打倒の策を男たちが考えていく。
「身近な人間・・確かにいるな・・」
「最近、その人間に入れ込んできているみたいだぜ・・」
青年たちがガイのことを語っていく。彼らはガイとその周辺を監視していた。
「そいつのことを詳しく話せ。そいつを利用させてもらう・・」
男が青年たちから話しを聞く。彼らは次の一手を練り上げていった。
カニのクラブガルヴォルスとタコのオクトパスガルヴォルスが、白昼堂々と暴れ回っていた。
その知らせをシュラから聞いたガイは、クラブガルヴォルスたちの前に来た。
「ガルヴォルス、こんな派手に暴れて・・！」
ガイがクラブガルヴォルスたちに怒りを覚える。
「来たな、竜間ガイ・・仲間の仇を取らせてもらうぞ・・！」
「今のオレたちは、貴様への憎しみでいっぱいになっている！」
オクトパスガルヴォルスとクラブガルヴォルスがガイに敵意を向ける。
「オレへの復讐のためにこんなバカなことを・・・許しちゃおかないぞ！」
ガイが怒りを燃やして、ドラゴンガルヴォルスに変身した。
「アイツの首は、オレがもらうぞ・・！」
「いや、オレのハサミでいただいてやるぜ！」
オクトパスガルヴォルスとクラブガルヴォルスがガイに向かっていく。
オクトパスガルヴォルスがガイを狙って触手を伸ばす。ガイは素早く動いて触手をかわす。
クラブガルヴォルスがその隙を狙い、右手のハサミを振りかざしてきた。
「くっ！」
ハサミの刃先が体をかすめ、ガイが顔を歪める。
「もらったー！」
オクトパスガルヴォルスが触手を伸ばして、ガイを縛りつけた。
「このまま押さえとけ！オレがズタズタにしてやるぜ！」
クラブガルヴォルスがいきり立ち、ガイに向かってハサミを突き出した。
「そうはいかないぞ！」
ガイが力を込めて、オクトパスガルヴォルスの触手を引きちぎった。彼は直後にクラブガルヴォルスのハサミをジャンプでかわした。
「オ、オレの足が～・・！」
オクトパスガルヴォルスが触手を切られて悲鳴を上げる。
「ガルヴォルス、お前たちはここでオレが倒す・・・！」
ガイが怒りを燃やして、両手を強く握りしめる。
「そんなもので、オレのハサミに勝てると思ってるのか！」
クラブガルヴォルスがガイに向かって両手を振り下ろす。ガイが両手を突き出して、ハサミに直撃させた。
「がはっ！」
ハサミが打ち砕かれて、クラブガルヴォルスが絶叫を上げる。
「痛いー！オレの、オレのハサミがー！」
「おのれー！よくもやったなー！」
悶絶しているクラブガルヴォルスを見て、オクトパスガルヴォルスもいら立ちを膨らませる。彼が数本の触手を伸ばすが、ガイが振りかざす爪に切り裂かれていく。
「あー！またオレの足がー！」
オクトパスガルヴォルスも悲鳴を上げて震える。
「もう２度と悪さをするな・・人を傷付けたり、物を壊したりするのはやめろ・・・！」
ガイがクラブガルヴォルスたちに忠告を送る。
「許さない・・このままで済ましてたまるかよ！」
クラブガルヴォルスが退かずにガイに飛びかかる。
「倒されないと分からないというのか・・・!?」
ガイが歯がゆさを感じながら、クラブガルヴォルスに向かって右手を突き出した。
「がはっ！」
ガイの手に体を貫かれて、クラブガルヴォルスが激痛を覚えて吐血する。
「力の差もわきまえないで、自己満足に突っ込んできて死に急ぐ・・それがバカなことだと理解しようともしないのか・・・!?」
憤りを噛みしめて、ガイが右腕を振ってクラブガルヴォルスを叩き落とした。
「ちくしょう・・ちくしょうめー！」
オクトパスガルヴォルスがいきり立って、ガイに突っ込んでいく。オクトパスガルヴォルスが口から隅を吐くが、これもガイにかわされる。
ガイがオクトパスガルヴォルスの頭上に来たところで、足を振り下ろす。オクトパスガルヴォルスが背中を踏まれて、地面に押し付けられた。
死んでいなかったオクトパスガルヴォルスだが、傷だらけになり動くことができなかった。
「次に悪さをすれば、命はないぞ・・・！」
ガイが再び忠告して、１人立ち去ろうとした。
「竜間ガイ・・いい気になっていられるのも今のうちだ・・・他のガルヴォルスが、お前の知り合いのところに行っているはずだ・・・」
オクトパスガルヴォルスが笑みをこぼして、ガイに向けて言いかけた。
「オレの知り合い・・まさか、アキハに何かしたのか!?」
ガイが感情をあらわにして、オクトパスガルヴォルスをつかみ上げて問い詰める。
「どこだ!?ガルヴォルスは、お前の仲間はどこだ!?」
「さぁな・・オレも詳しくは知らないよ・・・」
怒りをあらわにするガイに、オクトパスガルヴォルスがあざ笑う。
「お前！」
激高したガイが拳を繰り出して、オクトパスガルヴォルスの体を貫いた。
「ぎえぇっ！」
オクトパスガルヴォルスが絶叫を上げて、事切れて動かなくなった。
「アキハ・・何も起きないでくれ・・・！」
アキハの身を案じて、ガイは感覚を研ぎ澄まして急いだ。
クラブガルヴォルスが派手に暴れたのは、ガイをおびき出すためのガルヴォルスの罠だった。
ガルヴォルスの男たちがアキハの居場所を突き止め、今捕まえようと取り囲んでいた。
「何なの、あなたたち!?・・私に何か用・・・!?」
アキハが緊張を覚えて身構える。
「オレたちについてきてもらうぞ・・オレたちの復讐を果たすためにな・・・！」
男の１人が言いかけると、他の男たちがアキハに迫った。
「来ないで！近寄らないで！」
アキハが悲鳴を上げて逃げようとするが、男たちに行く手を阻まれる。
「オレたちから逃げ切れないぜ・・」
「たとえ警察が来ても、オレたちは止められないぜ・・！」
男たちが不気味な笑みを浮かべて、ガルヴォルスの姿に変貌した。
「あ、あなたたち・・怪物・・!?」
アキハが恐怖を覚えて体を震わせる。
（同じ怪物の体でも、ガイとは全然違う・・人の心が全然ない・・自分たちのことしか考えていない、本当の怪物・・・！）
ガイとは違うガルヴォルスがどういうものなのかを、アキハは思い知ることになった。
「一緒に来い！」
ベアガルヴォルスに首をつかまれて、アキハは苦しんで意識を失った。彼女を連れて、男たちは移動した。ガイをおびき出して倒すための場所へ。
アキハを捜し回るガイが、シュラに連絡して彼らにも捜索を頼んだ。アキハがガルヴォルスたちによって街外れの廃工場に連れ込まれたと、情報が入った。
「アキハはオレが助ける・・シュラさんたちは手出しをしないでくれ・・・！」
ガイがアキハの身を案じて、シュラに呼びかける。
“そうはいきません。ガルヴォルスはあなたを罠に陥れようとしているのは目に見えています。彼女を人質にして、あなたを戦わせないようにする可能性も高いです・・”
しかしシュラはガイが１人で行くことに苦言を呈する。
「だとしても、アキハを見捨てるようなことはできない！」
ガイはシュラの制止を振り切り、単身アキハを助けに向かった。
アキハが連れ込まれた廃工場の近くに来たガイ。彼は真正面から乗り込まず、アキハを助けることを優先して裏から忍び込むことにした。
（ガルヴォルスになれば気配を読まれやすくなる・・なるのは見つかってしまったときだ・・・）
ガイが気を引き締めて、慎重に廃工場に入る。中には複数の男たちとアキハがいた。
（アキハ・・気絶はしていない・・アイツらを引き離して脱出すればいい・・！）
アキハを救い出せると確信したガイが、ゆっくりと近づいていく。彼はアキハにより近い物陰まで来た。
（よし・・ここなら救い出せるぞ・・・！）
笑みを浮かべたガイが、思い切って飛び出した。
「そこまでだ、ガルヴォルス！」
そのとき、数人の兵士たちが廃工場に駆け込んできて、男たちに対して銃を構えた。
（あれはヴォルスレイの部隊・・まさか!?）
ガイが兵士たちがアキハがいるのも構わずに射撃するのではと考える。
「ガルヴォルスは１人残らず始末しろ！」
「待て！やめろ！」
隊長が命令して、ガイが怒鳴り声を上げる。兵士たちが男たちに向かって発砲した。
「アキハ！」
叫ぶガイがドラゴンガルヴォルスになって、アキハに向かって飛び出した。ガイがアキハを抱えて、全速力で離れた。
男たちもガルヴォルスとなるが、兵士たちの放つ雨のような射撃と砲撃で、瞬く間に全滅した。
「アキハ、大丈夫か!?どこもケガは・・！」
廃工場から離れたところで、ガイがアキハに呼びかけた。その瞬間、ガイはアキハの服が赤く染まっていくのを目の当たりにした。
「アキハ!?・・おい、アキハ！」
ガイが目を見開いて、アキハに向かって叫ぶ。無事に助け出したと思っていた彼だが、兵士の射撃はアキハにも当たっていた。
「ガイくん・・ゴメンね・・・あなたに、迷惑を掛けて・・・」
「しゃべるな、アキハ・・すぐに病院に連れていくから・・！」
謝るアキハを抱えて、ガイが人の姿に戻って運ぶ。
「ガイ・・あなたは他の怪物とは違う・・あなたは人間だよ・・・」
「だからしゃべるなって！」
声を振り絞るアキハを、ガイが声を張り上げる。
「だから・・今のままのガイでいて・・・みんなを守れるガイのまま・・・」
ガイを信じて満面の笑顔を見せたアキハ。その直後、彼女は力尽きて、手をだらりと下げた。
「アキハ!?・・どうしたんだよ、アキハ・・・!?」
動かなくなったアキハに、ガイが目を疑う。
「おい・・動いてくれ・・・しゃべるなとは言ったけど・・動くなとは言っていないじゃないか・・・！」
ガイが必死の思いで呼びかけるが、アキハは反応しない。ガイが足を止めて、ゆっくりとアキハを降ろす。
「アキハ・・・目を開けてくれ、アキハ・・・アキハ、おい！」
ガイが絶望をあらわにして、アキハを呼び続ける。彼の目から涙があふれて、アキハの頬に落ちた。
泣き続けるガイの前に、兵士たちが駆けつけてきた。
「ガルヴォルスの集団は全滅した。君も治療を受けるんだ。」
部隊の隊長がガイに近づいて手を差し伸べてきた。
「なぜ撃った!?・・・まだ、アキハがいたのに・・・！」
ガイが声を振り絞り、隊長たちに問い詰める。
「ガルヴォルスがいたからだ。ガルヴォルスの殲滅が、我々の任務だ。」
「アキハがいたのになぜ撃ったと聞いているんだ!?」
口調を変えずに告げる隊長に、ガイが怒りをあらわにする。
「人質を気にして好機を逃すわけにはいかない。それが我々の判断なのです。」
「ふざけるな！自分たちの目的のために、アキハを見殺しにしたのか!?」
「ガルヴォルスを野放しにすれば、多くの命が犠牲になる。ならば最小限に抑えるのが妥当だろう。」
「アキハが死んでもいいだと!?何を寝ぼけたことを言っている!?」
隊長の冷徹な考えが、ガイの怒りを逆撫でする。
「これは私だけの判断ではない。バサラ様の命令でもある。」
「バサラが・・そんなことを・・・!?」
隊長が続けて言った言葉に、ガイが耳を疑う。
「我々ヴォルスレイは、秘密裏にガルヴォルスを葬り、その事実を完全に隠蔽すること。そのためには一切の失敗は許されない。任務遂行のため、いかなる手段も行使する。」
「そのためなら、アキハが死んでもよかったっていうのか・・・!?」
自分たちの背負う責務を告げる隊長に、ガイの怒りは頂点に達した。
「許さない・・お前たちのその身勝手な考え方のせいで・・・アキハは死んだんだ・・・！」
隊長を睨みつけるガイの頬に紋様が走る。
「オレの敵はガルヴォルスだけじゃない・・お前たちも敵だったんだ！」
ドラゴンガルヴォルスとなった彼の体から、黒いオーラが放出された。
「な、何だ、この禍々しい光は・・!?」
隊長が緊張を覚えて後ずさりする。
「許しはしない・・お前たちも、ヴォルスレイも！」
ガイが怒りに身を任せて、握りしめた右手を振りかざした。隊長が拳の圧力に押されて、その先の大木に叩きつけられた。
「隊長！」
「貴様、何をする!?」
隊員たちが叫び声を上げて、ガイに銃口を向けた。
「お前たちは、オレがここで滅ぼす！」
ガイが地面を強く踏みつけて、隊員たちに近付いていく。
「構わん！撃て！」
隊員たちがガイに向けて発砲する。ガイは弾丸を体に受けるが、負傷することなく前進を続ける。
「対ガルヴォルス用の弾丸が通じない・・!?」
「ガルヴォルスの中では上位であることは分かっていたが、この弾丸を跳ね返す程とは・・！」
兵士たちがガイの発揮している力に脅威を覚える。
（アキハ、すまない・・オレはもう、今までのオレのままではいられそうにない・・・）
ガイが心の中でアキハに謝る。彼は怒りを抑えられないことが、アキハの願いを裏切ることになると思っていた。
（でもそうしないと、お前が死ぬのが正しいことにされてしまう・・それは絶対にダメだ・・・！）
絶望に囚われないようにするあまり、ガイは怒りを力に変えていた。
「砲撃だ！木っ端微塵に吹き飛ばすしかない！」
兵士たちがバズーカを構えて、ガイを狙う。
「これ以上、アキハを傷付けさせるか！」
アキハが砲撃に巻き込まれることに激高して、ガイが兵士たちに向けてオーラを放出した。
「うわっ！」
兵士たちが吹き飛ばされ、バズーカがオーラによってねじ曲げられて破壊される。
「わ、我らの武器が・・・！」
「撤退だ！これでは手に負えない！」
兵士たちが危機感を覚えて逃げ出していく。
「逃げるな！」
ガイが高速で飛びかかり、兵士たちを次々に殴り飛ばした。兵士たちが吐血しながら、激しく横転して動かなくなった。
「助けて！助けてくれー！」
兵士が恐怖に囚われて、必死に逃げようとする。彼の前にガイが立ちはだかる。
「だったらアキハも助けろよ・・自分だけ助かろうなんて、虫がよすぎると思わないのか・・・!?」
ガイが鋭く言って、兵士の胸ぐらをつかんで持ち上げる。
「た、助けて！お願いだ！何でもするからー！」
「何でも・・・だったらアキハに謝りに行け！」
命乞いする兵士に向けて、ガイが拳を振りかざした。兵士が拳に体を貫かれて、鮮血をまき散らした。
（アキハ、ゴメン・・・オレにもっと、力があれば・・・！）
ヴォルスレイだけでなく、アキハを守れなかった自分の無力さも呪うガイ。
（お前は望まないかもしれないけど・・オレはお前の仇を討つ・・ガルヴォルス以上のバケモノだったヴォルスレイは、オレが滅ぼす・・・！）
ヴォルスレイへの強い怒りと憎しみに囚われて、ガイはアキハの亡骸を抱えて歩き出した。
ガイはアキハを人気のない草原の真ん中に寝かせた。そこならヴォルスレイの手も伸びず、アキハが安らかに眠れると、ガイは思った。
（さようなら・・アキハ・・・）
アキハに別れを告げて、ガイは１人歩き出す。彼は優しさを心の奥底に押し込めて、自分の戦いに身を投じた。
（アキハ、お前はオレを許さないだろう・・だがその不満をぶつけられても、オレはヤツらを叩き潰さないと気が済まないんだ・・・！）
今も強い怒りに突き動かされているガイ。彼はバサラたちを追って、孤独の戦いを続けた。 第１１話へ 作品集に戻る TOPに戻る
