ガルヴォルスExbreak
第9話「2人の追う者」
ヴォルスレイの新たな本部を追い求めて、ガイはあらゆる場所を探し回っていた。しかし本部の手がかりさえも見つけることができないでいた。
(ヴォルスレイ・・バサラ・・ヤツらはどこへ消えた・・・!?)
バサラたちへの憎悪をたぎらせていくガイ。
(ヴォルスレイの隊員を捕まえても、ヤツらは死んでもヴォルスレイのことを語らない・・任務に忠実であると言いたげに・・・!)
敵対の姿勢を崩さないヴォルスレイに、彼はいら立ちを募らせていく。
(だがオレは絶対に諦めない・・絶対に許さない・・オレは必ず、ヴォルスレイを滅ぼす・・仇を討つんだ・・・!)
辛い過去を思い返して、ガイは怒りを燃やす。彼はヴォルスレイを追い求めて歩き出した。 アツオとの戦いで彼を救えず、深い絶望に襲われたマサキ。精神的に追い込まれた彼は、ヴォルスレイの医療センターに運ばれた。
安定剤を打たれて眠りについていたマサキ。彼が意識を取り戻したのは、その日の夜だった。
「ここは・・・オレは、どうしたんだ・・・?」
マサキが横たわったまま、視線を移して自分の居場所を確かめる。
「気が付きましたか、マサキくん・・」
シュラがマサキに声を掛けて微笑んできた。マサキは医療センターの病室のベッドで目を覚ましたのだった。
「オレはどうしたんだ?・・もしかして、ガルヴォルスと戦って・・・?」
記憶を呼び起こしてマサキが呟く。
(まさか、アツオくんが死んだときのことを忘れている・・!?)
大きなショックによる記憶の欠落が彼に起きていると思い、シュラが当惑を覚える。
「シュラさん、何があったのか教えてくれ・・・」
マサキが話を聞いてきて、シュラが迷う。
「マサキくん・・・君は今回、とてもつらい経験をしたようです。話を聞けばまた激しく苦しむことになってしまいます・・」
深刻な面持ちで忠告するシュラに、マサキが小さく頷いた。
「アツオくんが亡くなりました・・あなたの救いの手を振り切って・・・」
「あっ・・・!」
シュラが真実を告げて、マサキが記憶を呼び起こした。力でしかアツオを止められず、救うこともできなかったことを。
「アツオ・・・アツオ!・・・あああああ!」
再び絶望を感じて、マサキが頭を抱えて悶絶する。
「マサキくん、落ち着いてください!・・だから言ったのですが・・・」
マサキに滅入ってから、シュラが連絡を入れた。医師が病室に来て、シュラが押さえているマサキに安定剤を打った。
(友人を死なせてしまってこの状態ですからね・・家族やもっと仲のいい人が死んでしまったら、どうなってしまうのか・・・)
マサキのかなりの神経質に、シュラは不安を募らせていた。
「私は仕事に戻ります・・マサキくんのこと、よろしくお願いします・・」
「分かりました。慎重に手当てします、シュラ様。」
シュラの呼びかけに医師が答える。彼に小さく頷いてから、シュラは病室を後にした。 ジンボーに戻らず、大学にも姿を現さないマサキ。それを気にして、ツバサは彼がどこにいるのかを考えるようになっていた。
(マサキくん、どこで何をしているのかな?・・とんでもないことに巻き込まれている気がしてならない・・・)
マサキへの心配を募らせていくツバサ。
(ヘイゾウさんは相変わらずの放任主義だし、私がやるしかないわね・・・)
彼女は自力でマサキの動向を探ろうとしていた。
「ツバサ、何か考え事?」
そこへララがやってきて、ツバサに声を掛けてきた。
「ララ・・ううん、大したことじゃないよ。今日の講義のことを、頭の中で予習していただけ。」
「勉強熱心だなぁ、ツバサちゃんは~・・そこはあたしはついていけないよ~・・」
微笑んだツバサにララが感心する。
(もしもマサキくんが危険なことに首を突っ込んでいるなら、ララは巻き込めない・・本当に私だけで・・・)
ララを気遣っていたツバサは、あえて彼女に嘘をついたのだった。 マサキが再び目を覚ましたのは、次の日の正午だった。今度はアツオを手に掛けた記憶を忘れてはいなかった。
(オレはホントに、アツオをこの手で・・・傷つけることでしか、オレはアイツを止められなかった・・・)
自分の無力さと罪を痛感して、マサキが落ち込んでいく。
(オレでは誰も救えないのか?・・ガルヴォルスの力は、壊すことしかできないのか・・・!?)
ガルヴォルスの力について考えるようになるマサキ。ガルヴォルスでも命を守ることができると、彼は信じたかった。
(もっとうまく力を使いこなさないと・・誰も救えないし、何も守れない・・・!)
マサキは決意と覚悟を胸に秘めて、ガルヴォルスとの戦いに臨むことにした。
(遅かれ早かれ、ガイと戦うときが来る・・アイツとも向き合わないといけない・・・!)
彼はガイのことも考えて、ベッドから立ち上がった。 マサキの行方を追って街中を巡っていくツバサ。しかし彼女はマサキどころか、手がかりも見つけることができなかった。
(マサキくん、どこ?・・そんなに遠くに行ってしまったの・・・!?)
心配と不安を募らせていくツバサ。彼女は街外れの通りにまで足を運んでいた。
(さすがにここまで来ていないよね・・ジンボーから離れているし、人が少ないし・・)
ツバサが肩を落として、街に戻ろうとした。
そのとき、ツバサは近くから物音が聞こえてきて、緊張を覚えた。
「な、何・・!?」
彼女が恐る恐る音のしたほうに向かって歩いて、道の先の空き地を目にした。
(えっ・・!?)
そこでツバサが見たのは、数体の怪物たちだった。彼らは1人と数体が対立していた。
トラに似た姿のタイガーガルヴォルスとネズミのラットガルヴォルスたちに取り囲まれていたのは、ドラゴンガルヴォルスとなっているガイだった。
「ガルヴォルスなのに、同じガルヴォルスを手に掛けるとは・・!」
「お前にいい気になられると、オレたちみんな迷惑するんだよ・・!」
ラットガルヴォルスたちがガイに文句を言う。
「オレはオレの敵を倒しているだけだ・・相手が人間だろうとガルヴォルスだろうと関係ない・・・!」
ガイが自分の考えを口にする。この答えを聞いて、タイガーガルヴォルスたちがいら立ちを膨らませる。
「テメェ・・マジで調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
タイガーガルヴォルスがいきり立ち、ガイに手の爪を振りかざす。ガイはわずかに動いて、爪を紙一重でかわす。
タイガーガルヴォルスが続けて爪を振りかざすが、ガイに膝蹴りを食らい突き飛ばされる。
「アニキ!?」
「ヤロー、よくもアニキを!」
ラットガルヴォルスたちが怒りをあらわにして、一斉にガイに飛びかかる。ガイが両手を振りかざして、爪でラットガルヴォルスたちを切りつけていく。
「や、やべぇ・・コイツ、マジで強い・・・!」
「オレたちが束になってもやられちまうぞ・・・!」
ラットガルヴォルスたちが危機感を覚えて、タイガーガルヴォルスに歩み寄る。
「これで済んだと思うなよ・・必ずテメェの息の根を止めてやる!」
タイガーガルヴォルスが捨て台詞を吐いて、ラットガルヴォルスたちと共に逃げ出した。
「逃げるな!」
怒号を放つガイだが、タイガーガルヴォルスたちを追わなかった。
「ちくしょう・・アイツら以外にもオレの邪魔をする敵が湧いて出てくる・・・!」
ガイがため息をついてから、ドラゴンガルヴォルスから人の姿に戻った。
(えっ!?・・人になった・・!?)
ガイの争いと正体を目撃して、ツバサが驚愕していた。
(知らせないと・・まずは警察に通報して・・・!)
彼女が警察を呼ぼうとして後ずさりしたとき、足元に会った空き缶に当たって転がしてしまう。
(しまった!)
一気に緊張を膨らませるツバサ。その音を耳にして、ガイが振り向いた。
「誰だ!?」
ガイが駆け込んで、逃げようとするツバサの前に現れた。
「お前・・・普通の人間のようだ・・・」
「信じられない・・怪物が、実際にいるわけ・・・!」
様子を見て呟くガイに対して、ツバサが恐怖して震える。
「今のことは忘れろ。そしてこれ以上騒ぎにするな・・・」
ガイが低い声でツバサに忠告した。しかしツバサは意識を失ってこの場に倒れた。
「気を失ったか・・オレの言うことを聞き入れる前に・・・」
ガイがツバサを見下ろして肩を落とす。
「他のガルヴォルスやヴォルスレイにいいようにされても、オレの気が済まなくなるからな・・・」
彼はツバサを抱えて、場所を変えることにした。 ガイとタイガーガルヴォルスたちの交戦は、ソウマ隊に察知され、シュラに報告された。
(マサキくんはまだ精神面が不安定です・・落ち着くまでは、私たちで対処するしかなさそうですね・・・)
マサキを気遣い、シュラはガイたちの様子をうかがうことにした。
「ガイくんを含めたガルヴォルスの動向を把握してください。ただし監視だけで、こちらから攻撃するようなことはしてはいけません。」
“了解。監視を続けます。ただし状況次第では応戦することをお許しください。”
シュラの指示に答えて、ソウマが進言をする。
「では、私も現場へいきましょうか。」
ソウマとの通信を終えてから、シュラは自分に言い聞かせて現場に向かった。 病室での時間を過ごして、マサキは自分の気持ちの整理を付けられるようになった。
(込み入った事情を持っているなら、今度こそ殺さずに止めないと・・・)
アツオの死を心の刻み、マサキは決意と覚悟を新たにしていた。
「先生、オレも行きます。お世話になりました・・」
彼はベッドから起き上がり、病室を出ようとした。
「待ちなさい。1度チェックをさせてもらいますよ。異常が残っているのに退院させるわけにはいかない。」
「はい・・すいません・・」
医師に呼び止められて、マサキが小さく頷いた。彼は肉体と精神のチェックを受けて、肉体のほうは異常がないと判断された。
「心の方はまだ不安定の状態です。わずかでも異常を感じたら、すぐに休息してください。」
「分かりました。気を付けます・・」
医師からの注意をマサキが聞き入れる。彼は深呼吸をしてから、病室を後にした。 ガイとタイガーガルヴォルスの戦いを目の当たりにして気を失ったツバサ。彼女はそことは別の空き地で目を覚ました。
「あれ?・・私、寝ていた・・・?」
「目が覚めたか・・」
疑問符を浮かべるツバサに、近くにいたガイが声を掛けてきた。
「あなたは、さっきの・・あの怪物・・・!?」
記憶を呼び起こしたツバサが、ガイから後ずさりする。
「お前が見たオレのことは黙っていろ・・あまり騒ぎにされても困る・・・」
ガイが改めてツバサに忠告をした。
「そう言おうとしたところで、お前がいきなり気を失った・・何も分からないまま騒がれても迷惑だからな・・・」
「そのためにわざわざ、私を放っておかずにそばにいたの・・・?」
「そうしないと面倒になるからな・・・」
ツバサが不安を込めて問いかけて、ガイが憮然とした態度で言い返す。
「あなたは何なの?・・あんな怪物が、実際にいるなんて・・・」
「空想の存在だと思い込んでいるヤツらが多いが、これが現実だ・・オレはお前たちが言うバケモノだが、本当のバケモノは他にもいる・・」
恐る恐る問いかけるツバサに、ガイが怪物について語っていく。彼は自分の敵に対する憎悪を膨らませていく。
「これ以上は話すつもりはない。でなければお前も深く関わることになり、後戻りできなくなる・・・」
ガイから釘を刺されて、ツバサは言葉を投げかけることができなくなる。
「オレはもう行く・・オレにはやらなければならないことがある・・・」
「待って!・・1つ聞きたいことがあるんだけど・・・」
立ち去ろうとしたガイをツバサが呼び止めた。
「あの・・夜倉マサキという人を知りませんか・・?」
「ん?そんな名前は知らないな。オレはもう、あまり人と深く関わらないようにしているのでな・・・」
ツバサがマサキのことを聞くが、ガイが顔を横に振る。
「そうですか・・・それじゃ、私はこれで・・・」
ツバサが気落ちしたまま、ガイに背を向けた。彼女が振り返る姿を目にした瞬間、ガイが1つの瞬間を思い出した。
「アキハ!」
ガイがたまらず叫び、その声を聴いてツバサが思わず動きを止めた。
「あ、あの・・・私、アキハって名前じゃないんですけど・・・」
ツバサに言われて、ガイが我に返って当惑を覚える。
「いや・・何でもない・・気にするな・・・」
ガイが肩を落としてから、ツバサの前から立ち去った。
(アキハに似ていた・・だけど、アキハはあのとき、ヴォルスレイに・・・!)
ツバサがアキハと重なって見えたことに、ガイは動揺を感じていた。彼の失った大切な人は、春日(かすが)アキハだった。 医療センターから外へ出たマサキは、新たに出現したガルヴォルスの集団の行方を追っていた。
(オレが戦うのは、悪いガルヴォルスだ・・もちろん、そいつの事情を知ってからだが・・)
自分の戦い方を改めることを決めていたマサキ。
「まずはシュラさんと合流するか・・」
彼はシュラと連絡を取ろうと、スマートフォンを取り出した。
「マサキくん!」
そこへツバサがやってきて、マサキが驚いて振り向いた。
「ツ、ツバサちゃん!?何でここに!?」
「そういうマサキくんこそ、何をしているの!?」
声を荒げるマサキに、ツバサが問い詰めてきた。
「最近のあなた、前よりもすごく忙しなくなって・・何か危ないことに首を突っ込んでいるんじゃないかって・・・!」
「危ないこと!?そんなことに関わりたくないって・・!」
疑いの眼差しを送るツバサに、マサキが動揺を見せて言い返す
「マサキくんのこと、本当に心配しているんだからね・・・!」
「・・・ゴメン・・でも、オレ自身で決めた、オレのことだから・・・」
不安を浮かべるツバサに、マサキが自分の考えを伝える。
「マスターはすっかり信じ込んじゃっているみたいだけど、私はマサキくんのしていること、気になってしょうがないんだから・・・」
「そう言われてもなぁ・・・」
心配と不信感を募らせるツバサに、マサキは気が滅入る。
(こりゃ話さないとどこまでもついてくるパターンになりそうだ・・だけど話したらツバサがガルヴォルスとの戦いに巻き込まれることになる・・・!)
気まずい事態になったと思い、マサキはどうしたらいいかを悩むようになっていた。
そのとき、マサキが強い力を感じて緊張を覚えた。
(この力・・複数のガルヴォルスか・・そのうちの1人は、ガイ・・・!)
ガイがガルヴォルスと戦っていることに気付くマサキ。しかしツバサがそばにいるため、彼は現場に行くことができない。
(アイツが、ガルヴォルス同士の戦いをしているみたいだ・・今は下手に動かないほうがよさそうだ・・・)
ツバサにガルヴォルスのことを知られないために、マサキはじっとしていることを決めた。 ガイの前に再びタイガーガルヴォルスとラットガルヴォルスたちが立ちはだかった。タイガーガルヴォルスたちがガイを取り囲んでいた。
「今度こそテメェの息の根を止めてやるぜ・・・!」
「今度は数を揃えてきたぜ!いくらなんでも相手が多けりゃ、お前なんか・・!」
タイガーガルヴォルスとラットガルヴォルスの1人が不敵な笑みを浮かべる。ラットガルヴォルスの数が前よりも増えていた。
「何人だろうと、敵ならば全員倒すまでだ・・・!」
ガイが鋭く言って、ドラゴンガルヴォルスに変身した。
「テメェ・・いつまでも調子乗ってんじゃねぇぞ!」
怒りを爆発させたタイガーガルヴォルスが、ガイに向かって飛びかかる。ガイが迎え撃とうと右手を振りかぶった。
そのとき、ガイの足元の地面から手が出て、彼の足をつかんできた。
「ん!?」
突然の不意打ちに、ガイが注意を乱される。彼の足をつかんできたのは、地中を掘り進んで近づいてきた2体のモールガルヴォルスだった。
「コイツら・・!」
タイガーガルヴォルスが画策した奇襲に襲われ、ガイが憤りを募らせた。 第10話へ 作品集に戻る TOPに戻る