ガルヴォルスExbreak
第8話「正義の狂気」

 

 

 体から刃を伸ばして殺人を繰り返すソードガルヴォルス。その脅威の能力に、マサキもシュラたちも手を焼かされることになった。
「全身から刃を出すガルヴォルスか・・厄介なことですね・・・」
 ソードフィッシュガルヴォルスの能力と、ヴォルスレイの部隊の状況を確かめて、シュラが不安を感じていく。
「私の指揮する部隊の半数が殺害されました。1度追跡隊を再編成する必要があります。」
 ソウマが自分の部隊の状況を、シュラに報告する。
「マサキくん、ケガの方は大丈夫ですか・・?」
 シュラがマサキに振り向いて、心配の声を掛ける。
「イタタタ・・傷よりも包帯巻かれるときのほうが痛いっての・・きつく締め付けすぎだって・・・!」
 隊員に包帯を巻かれているカナタが悲鳴を上げる。
「ガルヴォルスの身体能力の高さ・・傷は浅くはなかったですが、回復が早いです。」
 シュラがマサキの回復力を確認して微笑む。
「それはホントに・・・オレの体も、アイツらと同じバケモンってわけか・・・」
 マサキも自分の回復力を実感して、皮肉を口にする。
「体はそうですが、あなたには人の心もしっかりと持っています。力に溺れて心を失った他のガルヴォルスとは違います・・」
「心・・オレには心がある、か・・・」
 シュラが励ましを投げかけるが、マサキはさらに皮肉を感じていく。
「あのガイってヤツも、心のあるガルヴォルスじゃないのか?」
「えっ?ガイくんが・・?」
 マサキがガイのことを話して、シュラが当惑を覚える。
「以前にヴォルスレイで働いていたんだろ?そのときにはガルヴォルスになっていて・・」
「それは、確かにそうですね・・ヴォルスレイに所属していた頃のガイくんは、ガルヴォルスでありながら、悪事を働くガルヴォルスと戦っていましたね・・」
 マサキの問いかけに、シュラが落ち着きを見せて答える。
「シュラ隊長、裏切り者のそのような話をしても意味がありません。」
「いえ、マサキくんはガイくんと出会い、戦っているのです。話しておく必要は十分にあります。」
 ソウマが苦言を呈するが、シュラはマサキとの会話を続けた。
「ガイくんもあなたと同じく、ガルヴォルスでありながら人々を守るために戦っていたのです。」
 シュラがガイのことをマサキに語り始める。
「しかしガイくんの大切な人をガルヴォルスに人質にされてしまったのです・・ガイくんはバサラさんに助け出すことを優先してほしいと頼んだのです・・」
 話を続けるシュラが悲しい顔を浮かべる。
「しかしバサラさんはガルヴォルス打倒を優先して、私は命令を受けて部隊を派遣したのです・・」
「ま、まさか・・!?」
「敵のガルヴォルスを銃撃。人質はその流れ弾を受けて死亡したのです・・」
 シュラの話を聞いて、マサキが愕然となる。
「ガイくんは怒りを爆発させ、私たちに攻撃してきたのです。結果的に私たちはそれまでで1番の被害を被りながらも、彼を撃退することになったのです・・」
「それで、ヴォルスレイの裏切り者ということか・・話を聞く限りじゃ、裏切ったのはアンタたちってことになると思うぞ・・ガイの気持ちを無視して傷付けたんだからな・・」
 語りかけるシュラに、マサキが苦言を呈した。
「貴様・・我々を愚弄するつもりか・・!?」
「いいんですよ、ソウマ隊長。あれは我々の過ちなのですから・・」
 ソウマが不満を浮かべると、シュラが苦笑いを浮かべて言い返す。
「あなたは変わりましたね・・竜間ガイの一件までは、あなたもバサラさんと同様、任務遂行のみに尽力していたはずです・・」
 ソウマが肩を落として、昔のシュラのことを口にする。
「シュラさんも、冷たい人間だったっていうんですか・・!?」
「アハハ・・今思えば、お恥ずかしい限りですけどね・・」
 驚きを覚えるマサキに、シュラが笑みをこぼす。
「私のこの変化は受け入れられていますが、バサラさんのあの毅然とした態度は変わっていません・・」
「毅然というよりは冷たいっていうところだけどな・・・」
 シュラとマサキがバサラのことを考える。マサキがヴォルスレイを完全に信じ切れていない1番の理由は、バサラにあった。
「さて、オレは一旦帰らせてもらうぞ。あの刃物のガルヴォルスとの次の戦いに備えなくちゃな・・」
 マサキが立ち上がり、ジンボーへ帰ることにした。
「隊長・・夜倉マサキを野放しにするのは危険です。竜間ガイの二の舞になりかねません。」
 ソウマがマサキに対する疑念を、シュラに告げる。
「そのような攻撃的な考えのほうが、裏切りを誘発しかねない気がしますよ・・・」
 シュラが肩を落として注意するが、ソウマは考えを変えなかった。
「それよりも、連続殺人のガルヴォルスの行方を探りましょう。追跡は厳しいですが、事件の場所を参考にすれば範囲を狭められるはずです。」
「分かりました。そのように捜索方法を変更いたします。」
 シュラの言葉を聞いて、ソウマがソードフィッシュガルヴォルスの捜索を続行した。
 
 ジンボーに向かいながら、マサキは考え事をしていた。ソードフィッシュガルヴォルス、ヴォルスレイ、ガイ。ガルヴォルスを中心にして様々なことが起こっていると、マサキは思っていた。
(いろいろなことが絡みついてきて、イヤな気分になるな・・)
 悩み事が増して、マサキがため息をついた。
「マサキくん、今帰ってきたんだね。」
 ジンボーを目前にしたところで、マサキはツバサに声を掛けられた。
「ツバサちゃん、丁度仕事帰りか。」
「うん。まさか入れ違いで会うことになるなんてね。」
 マサキが言葉を返して、ツバサが頷いた。
「マサキくん、ここのところ忙しいみたいだけど、何かあったの・・?」
 ツバサが思い切って、マサキに問いかけてきた。
「この前なんてクタクタになってジンボーに来たし・・」
「他にもやることができたんだ。それで忙しくなってるって感じか。」
 心配をするツバサに、マサキが笑みを作って答える。
「やることって・・とんでもないことに巻き込まれているんじゃ・・・!?」
「違う、違う・・強いて言うなら、忙しいのがとんでもないってところか・・」
 疑いの眼差しを向けるツバサに、マサキが苦笑いを見せた。彼がごまかしていると思い、ツバサはますます疑いを強めていた。
「殺人事件が起こっているし、あまり外をうろつかないほうがいいわよ・・」
「あぁ。それも気を付けているよ。ありがとうな、心配してくれて・・」
 注意を投げかけるツバサにお礼を言って、マサキはジンボーに向かった。
(マサキくんは何かを隠している・・後を付けてみるしかなさそうね・・)
 疑問を膨らませていくツバサは、マサキの動向を探ろうとしていた。
 
 マサキとの交戦を果たした後も、ソードフィッシュガルヴォルスによる殺人は続いた。殺されたのはいずれも、犯罪者や犯罪と見られる人ばかりだった。
 大学に足を運んでいたマサキは、事件のことを考えて滅入っていた。
「何で悪いヤツばかりを殺して回ってるんだ?・・何かイヤなことでもされたんだろうか・・・?」
 マサキがスマートフォンで事件のニュースを見て、ため息をつく。
「すっかりその事件で持ちきりになっているみたいだな。」
 アツオがやってきて、マサキに声を掛けてきた。
「あぁ・・ただこの犯人が、何で悪者ばかりを殺しているのかが気になってな・・人殺しだけが目的なら、無差別になるはずだ・・」
「そういえばそうだな・・恨みを晴らすとかでこんなことをやっているのかな?」
 マサキが推測を巡らせて、アツオが疑問を投げかける。
「復讐とかのために殺人をやっているってわけ?」
 リョウもやってきて、マサキたちの話に加わった。
(復讐・・・ガイもヴォルスレイへの復讐のために戦っている・・あの刃物のヤツも、復讐のために殺人を・・・!?)
 ソードフィッシュガルヴォルスに対して感情移入をしていくマサキ。彼はソードフィッシュガルヴォルスの考えについても知っておきたいとも思うようになっていた。
「でも、いくらなんでもこの大学では起こらないだろうな。アハハ・・」
 リョウが皮肉を口にして苦笑いを見せた。
「おい、リョウ・・そういう冗談を言うのは・・」
 アツオが彼に苦言を呈していたときだった。
「キャアッ!」
 マサキたちの耳に女性の悲鳴が入ってきた。
「な、何だ!?」
「行ってみる!」
 リョウが驚きの声を上げて、マサキが悲鳴のした方へ走り出した。アツオとリョウも彼を追いかける。
 マサキたちが来た大学のキャンパスの裏で数人の男子が血まみれで倒れて、近くで1人の女子が泣きじゃくって震えていた。
「う、うわあっ!・・し、死んでる!?」
「まさか、またあの殺人犯が・・!?」
 リョウが悲鳴を上げて、マサキが緊張を覚える。彼が周りを見回すが、ガルヴォルスを見つけることができない。
(もういなくなったのか!?・・近くにいたはずなのに、オレが全然気が付かなかったなんて・・・!?)
 マサキがソードフィッシュガルヴォルスを見つけられず、疑問を感じていく。
(いや・・ほんの一瞬だけ、力を感じた気がしていた・・それも、オレのすぐそばに・・・)
 マサキが記憶を呼び起こしながら、感覚を研ぎ澄ます。彼は自分のそばにソードフィッシュガルヴォルスがいると考えていた。
 
 マサキたちがこの日の講義を終えて、大学を後にした。彼がジンボーでのバイトをする間、シュラたちがソードフィッシュガルヴォルスの行方を追っていた。
 マサキの伝えてきた情報も考慮して、シュラたちの捜索は進むことになった。
 そしてついに、シュラたちはソードフィッシュガルヴォルスの正体を探り当てることができた。そのことは、仕事を終えたマサキにも伝えられた。
 
 夕方になって、またもソードフィッシュガルヴォルスによる殺人事件が起こった。その様子は、ソウマが新たに編成した追跡隊に監視されていた。
 監視に気付いていたソードフィッシュガルヴォルスは、刃を伸ばして追跡隊も攻撃した。追跡隊はソードフィッシュガルヴォルスに近づきすぎないようにして、反撃に備えていた。
 追跡隊を振り切って退避しようとしたソードフィッシュガルヴォルス。その最中、マサキが近づいてきていることに気付いた。
 デーモンガルヴォルスとなってたマサキが、ソードフィッシュガルヴォルスの眼前に降り立った。
「まさかお前が、連続殺人をするガルヴォルスだったとは・・・」
 マサキが深刻な面持ちで言って、人の姿に戻った。
「何でこんなことをするんだ?・・お前の口から話してくれないか・・・」
「・・・オレのことに、気付いていたのか・・・」
 マサキに呼びかけられて、ソードフィッシュガルヴォルスが口を開いた。
 ソードフィッシュガルヴォルスも人の姿になった。その正体はアツオだった。
「アツオ・・正直、オレは信じられなかったぞ・・お前が人殺しのガルヴォルスだったなんて・・!」
「お前も、オレと同じだったなんて・・しかも、オレの邪魔をしてくるとは・・・!」
 マサキとアツオが互いの正体を知って、困惑していく。
「邪魔しないといけないだろうが・・いくら悪いヤツが相手でも、人殺しをしていいわけがない・・!」
「悪はどこまでも悪の道を進む・・説得にも耳を貸さず、極悪人は逮捕されても改心しない・・息の根を止めなければ、ヤツらの悪事は止まらない・・・!」
 声を振り絞って言い返すマサキに、アツオが悪人への憎悪を口にする。
「だからって命を奪ったら、その悪いヤツらと同じになってしまうぞ・・!」
「だったらどうすればヤツらの悪さを止められる!?殺す以外にヤツらを止める方法があるのか!?」
 説得を投げかけるマサキに、アツオが憎悪をむき出しにする。
「人を殺すことが罪なのは分かっている!それでもそうしなければ、悪の罪は消えない!」
 怒号を放つアツオが、ソードフィッシュガルヴォルスになる。
「邪魔をするなら、たとえお前でも許さないぞ、マサキ!」
「アツオ・・怒りと憎しみに囚われてしまったのかよ・・・!?」
 鋭く睨みつけてくるアツオに、マサキも憤りを感じていく。
「オレはまだ、犯罪者をこの手で裁かなければならない!」
 アツオが走り出して、マサキの横をすり抜けて突き進んでいく。
「待て、アツオ!」
 マサキがデーモンガルヴォルスとなって、飛翔してアツオを追いかける。
 アツオが新たな犯罪者を目撃して、左手を前に出して刃を伸ばす。
「やめろ!」
 マサキが剣を具現化して、アツオ目がけて投げつけた。気付いたアツオが背中からも刃を伸ばして、剣を弾いた。
 マサキが加速して、アツオとの距離を縮めていく。
「来るな、マサキ!」
 アツオが叫んで、体からさらに刃を出していく。かいくぐろうとしたマサキだが、かわし切れずに刃が体をかすめた。
 マサキは痛みを感じながらも、アツオに詰め寄った。
「うぐっ!」
 次の瞬間、アツオが体から伸ばした多数の刃を体に突き立てられて、マサキが激痛を覚えてうめく。体から血をあふれさせた彼が、体勢を崩して倒れた。
「邪魔をするなと言っている・・オレに近づくだけでも、お前は傷だらけになる・・・!」
 アツオが足を止めて、倒れているマサキを見下ろす。マサキは血をあふれさせて、激痛で悶絶していた。
「オレに接近戦を挑むのは命取りだ。だからといって遠くからの攻撃に対応できないオレではない・・誰もオレを止められない・・オレは止まるわけにはいかないんだよ!」
 アツオが強い意思を示して、再び犯罪者に向けて刃を伸ばした。
(ダメだ・・これ以上、アツオの手を汚させるわけにいかない・・・!)
 マサキが心の中で思いを呟いていく。
(アツオを止められる力を・・アイツの暴走を止められる力を・・・!)
 マサキは力を求めて、全身に力を入れて起き上がる。血があふれてふらつくが、それでも彼は力を振り絞る。
 マサキは意識を傾けて、弾かれた剣を手元に引き寄せた。
「これで少しは対抗できるか・・・!」
 構えた剣にさらに意識を集中するマサキ。剣の刀身に光が宿っていく。
「アツオ・・もうやめろ!」
 マサキが剣を振り下ろして、光の刃を飛ばした。気付いたアツオが刃を鞭のように振りかざすが、刃が光の刃に切られた。
 アツオがとっさに回避行動をとって、体から刃を出して身を守るが、速く威力のある光の刃に体の刃を切り裂かれた。
「何っ!?オレの刃が折られただと・・!?」
 切られた刃を目の当たりにして、アツオが驚愕する。
「力を集めれば、お前の刃物を打ち砕くことができるみたいだな・・・!」
 マサキが言いかけて、アツオに近づきながら剣を構える。
「いい気になるな!オレが止まることはないと言ったはずだ!」
 アツオが怒りを募らせて複数の刃を伸ばしてきた。マサキが剣を振りかざして、光の刃を飛ばす。
 複数の刃は束になって、光の刃を受け止めた。
「オレは犯罪者を撲滅する・・オレしかそれを果たすことはできないんだ!」
「そんなやり方はさせない・・犯罪者がいなくなっても、その家族や友達が悲しむことになるんだぞ・・・!」
 悪への憎悪を募らせるアツオに、マサキが必死に説得を呼びかける。
「そんな悲しみを広げてまで、お前は自分の考えを押し通すのかよ・・!?」
「償わせようとしても、犯罪者は償わない!滅ぼさなければならない!」
 叱りつけるマサキだが、アツオは怒りに囚われていて、聞こうとしない。
「力ずくでないと止められないというのか!?・・お前も、罪を償わない犯罪者と同じように、自分のしていることを悔い改めないのか・・・!?」
 マサキが憤りを抑え切れなくなり、躊躇を振り切った。
「まずはアツオの力を止める・・命を奪わなくても、止めることができるはずだ!」
 決意を強めたマサキがアツオに向かって走り出す。
「真正面から来るとは・・そんなにやられたいのか、マサキ!」
 アツオがいきり立ち、マサキに向かって刃を伸ばしてきた。マサキは剣を的確に掲げて、刃を受け流してかいくぐっていく。
「バカな!?オレの攻撃が当たらない!?」
 刃に切られることなく突き進んでくるマサキに、アツオが驚愕する。
「アツオ!」
 マサキが剣を縦にして、押し当てるように剣を突き出した。アツオが体からさらに刃を出して、剣を受け止めた。
「ぐっ!」
 しかし剣を押し込まれて右肩に当てられ、アツオが痛みを覚えて顔を歪める。
「オレの体に、傷が付けられるとは・・・だが!」
 激高するアツオがマサキに向かって左手を振りかざす。
「うぐっ!」
 アツオの手の爪が右のわき腹に突き刺さり、マサキもうめく。2人とも互いに相手から刃を引かない。
「オレは犯罪者を滅ぼす・・滅ぼさなければ、世の中はよくならない!」
「そのために命を蔑ろにするのか!?人の心を失ってしまったのか、アツオ!?」
 憎悪に囚われているアツオに、マサキが憤りを募らせていく。
「これ以上お前に、命を奪うマネはさせない!」
 マサキが剣に力を込めて、アツオごと押し込んでいく。
「マサキ・・お前も結局は、人殺しで終わらせようとしているだけか・・・!」
 アツオが口にしたこの言葉を耳にして、マサキが動揺する。剣を押す手から力が抜ける。
 その瞬間にアツオが押し込んで、マサキが突き飛ばされた。
「力ずくで目的を果たすことは同じ・・お前にオレを責めることはできない!」
 アツオがマサキに言い放つと、犯罪者を狙って刃を伸ばした。
「やらせない・・・アイツにこれ以上、人殺しをさせたくない・・・!」
 感情を高ぶらせたマサキが、持っている剣に力を込める。彼は剣を振りかざして、アツオに向かって光の刃を放った。
 光の刃は伸びてきた刃を切り裂いて、アツオの体に食い込んだ。
「がはっ!」
 アツオが体から鮮血をあふれさせて、吐血して倒れた。伸びていた刃も彼の体に戻っていく。
「マサキ・・お前も、オレと同じように、息の根を止めてオレの行為を止めたか・・・!」
 アツオがマサキに対して皮肉を口にする。
「アツオ!」
 マサキが人の姿に戻って、アツオに向かっていく。体力を大きく消耗していた彼はふらついてしまい、思うようにアツオに近づけない。
「オレはまだまだ情けない・・もっといい方法でお前を止められるはずなのに、オレはそれを思いつくことができなかった・・・!」
 自分の無力さを責めて、マサキが悔しさをあらわにする。
「アツオ・・病院へ連れていく・・こんなことをしたオレに助ける資格はないけど、それでも・・・!」
 マサキが力を振り絞ってアツオに駆け寄り、病院に連れていこうとする。
「マサキ・・・お前も、自分勝手なヤツだ・・・」
「そう認めるしかないな・・お前を止めて、お前やみんなを助けられるなら、それでもいい・・・!」
 嘲笑するアツオに、マサキが正直に言い返す。わがままなのは承知。それでもアツオを助けたいというのが、マサキの考えだった。
「助けられるなら、わがままでいい・・・言うよな、お前もオレも・・・」
 アツオが苦笑すると、肩を貸していたマサキを突き飛ばした。
「アツオ、何をするんだ!?」
「たとえわがままだろうと、オレはオレの正義を貫く・・息の根を止めてでも、オレは犯罪者を裁く!」
 声を荒げるマサキに敵意を向けて、アツオが右手を出して刃を伸ばした。だが刃はマサキに刺さることなく外れた。
「ア、アツオ・・・!?」
「オレも・・ここまでのようだ・・・無念だ・・・!」
 目を見開くマサキに、アツオが笑みをこぼして倒れた。力尽きた彼の体が崩壊して消えた。
「アツオ・・アツオ!」
 アツオの死に心が傷つき、マサキが叫ぶ。絶望を強めて、彼はその場に倒れて悶絶した。
「マサキくん!」
 そこへシュラがアルトたちと共に駆けつけ、マサキのそばに来た。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください、マサキくん!」
「精神面の大きな負荷が掛かっています!」
 シュラがマサキに呼びかけて、アルトがマサキの状態を見て危機感を覚える。
「安定剤を早く!このままでは危険だ!」
「はい、ただ今!」
 アルトが指示して、隊員が慌ててトラックに行って安定剤を取ってきた。アルトは受け取った安定剤の注射を、他の隊員たちに取り押さえられているマサキの腕に打った。
 マサキが意識を失って目を閉じた。
「今回はかなりの負担となってしみました・・・医療センターに運び、精神療法を施します。」
「分かりました。直ちに移送します。」
 シュラからの指示に答えて、アルトは隊員たちと共にマサキをトラックに乗せて、ヴォルスレイの医療センターへ運んだ。
(マサキくんのガルヴォルスとの戦いは、私たちの予想していた以上に負担が大きくなってしまったようです・・慎重に対応しないと、マサキくんが再起不能になりかねないです・・・)
 マサキの安否を気にして、シュラは深刻さを募らせていた。
 
 
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