ガルヴォルスExbreak
第6話「襲撃の罠」

 

 

 マサキとガイが交戦したことは、別部隊の監視を通じて、シュラに伝わっていた。
「分かりました・・・みなさんはマサキくんを解放してください。」
“はい。治療班とも連絡を取り合い、応急措置を行います。”
 シュラが指示を送り、隊員が答えた。
“シュラさん、こちらは完了しました。”
 アルトからも通信が入ってきて、シュラに報告した。
「では全員移動です。戦闘は極力避けるように。」
 シュラが指示を送って通信を終えた。
(マサキさん、みなさん、時間稼ぎに感謝します。)
 マサキの救援に喜んで、シュラもこの場を後にした。
 シュラと連絡を取り合った別働隊が、倒れているマサキに駆け寄って状態を見た。
「すぐに車に乗せろ!応急措置は確実に済ませるぞ!」
「はい、ソウマ隊長!」
 別働隊の隊長、千早(ちはや)ソウマの指示に隊員が答える。彼らがマサキを車に乗せて、手当てを始めた。
「外山(とやま)レンジ隊長の部隊は全滅です・・全員死亡しています・・・」
 隊員たちが隊長、レンジたちの死を確認する。
「羽沢(はざわ)隊が処理に当たる。今は撤退とマサキくんの治療に専念だ。」
「了解。これより撤退します。」
 ソウマが呼びかけて、他の隊員たちも車に乗り込んで、走り去った。
 マサキを撃退して全身を続けるガイは、ヴォルスレイの本部の前に辿りついた。
(戻ってきた・・あの日を境に、オレはヴォルスレイを敵だと認識した・・・)
 本部の建物を見上げて、ガイが過去を思い返す。彼にとって怒りと悲しみが渦巻く過去を。
「バサラ、ここをお前たちの墓場にする!」
 ガイが拳を振りかざして、壁を突き破った。彼は建物の中に入り、廊下を進んでいく。
(中に誰もいない・・本部なのに何の警戒もされていないのはおかしい・・・)
 本部内に人がいないことに、ガイが疑問を覚える。
(逃げたか・・ヤツららしくはあるが、何も手を打たずに本部を見捨てるはずがない・・何かある・・・)
 ガイは足を止めて、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。彼は本部に人がいないかを捉えようとした。
(やはり誰もいない・・オレを陥れるために、罠を仕掛けている・・・!)
 ガイが策略にはまったと判断したときだった。彼のいる廊下のシャッターが落下して閉じられた。
(こんなものでオレを捕まえられるとは・・・いや、それでも時間稼ぎにはなる・・!)
 バサラたちの狙いを予測して、ガイが拳を振りかざしてシャッターをぶち破った。しかしその先にもシャッターが下ろされていた。
「おのれ・・おのれ、バサラ!」
 激高したガイが、壁に拳を叩きつけた。壁が破られて、外へ通じる穴が開いた。
 ガイがその穴から外へ飛び出した。その瞬間、ヴォルスレイの本部が爆発を起こした。
「うぐっ!」
 爆発の炎と衝撃に強く押されて、ガイが地面に強く叩きつけられた。ヴォルスレイの本部が大爆発によって建物が瞬く間に吹き飛んでいった。
「オレを倒すためだけに、本部に爆弾を仕掛けるとは・・・!」
 顔を上げたガイが、バサラたちへの憎悪を強める。
「ここまでやるということは、本当の本部は別の場所に・・・!」
 かつての本部を囮にして、新たな本部にバサラたちが移動したと、ガイは考えた。
 バサラの作戦によって、彼らはヴォルスレイのかつての本部を脱出して、新たな本部に移動していた。
「旧本部は爆破したか。事故処理を怠るな。」
 バサラが毅然とした態度で、シュラたちに指示を出す。
「はい。しかしガイくんでしたら、あれほどの爆発でも確実に倒せたとは言えません・・」
 シュラがガイの底力を懸念する。
「ガイの生死を確認しろ。決してこの新たな本部の所在を知られるな。」
「了解。」
 バサラからの指示に、シュラが落ち着きを払って答えた。
「マサキはどうした?」
「ソウマ隊が保護。移動しながら応急措置を行っています。」
 バサラがマサキのことを聞いて、シュラが答えた。
「私もソウマさんと合流します。失礼します、バサラさん。」
 シュラは一礼してから、バサラの前から立ち去った。
(これでガイが我々の居場所を見出すことができなくなった。我らの部隊に本部の場所を聞き出そうとしても、死んでも口を割ることは決してない。)
 ガイが新たな本部を見つけることもできないと確信して、バサラが笑みを浮かべていた。
 午後の講義に出席してきていないことに、ツバサは疑問と心配を感じていた。
(マサキくん、どこに行ったのよ?授業をサボるような人じゃなかったのに・・)
 講義を聞きながら、ツバサがマサキのことを考える。
(出席数が1つ足りなくなるだけ・・それだけで単位が取れなくなるわけじゃないんだけどね・・)
 小さくため息をついてから、ツバサは講義に集中するのだった。
 ソウマたちの手当てが終わったところで、マサキが意識を取り戻した。
「あ・・あれ?・・オレ・・いつの間に眠っちまったんだ・・・?」
「丁度気が付いたか、夜倉マサキ。」
 体を起こすマサキに、ソウマが声を掛けた。
「ここは?・・オレは、どうしたんだ・・・?」
「君は竜間ガイと交戦して意識を失った。ガイを行かせることになったが、こちらの作戦を遂行する時間稼ぎになった。」
 マサキが問いかけて、ソウマが現状を話す。
「時間稼ぎって・・アンタたち、何を企んでたんだ・・!?」
「ガイの注意を引き付け倒すために、かつてのヴォルスレイ本部を犠牲にしたのだ。」
 困惑を覚えるマサキに、ソウマがさらに語りかけた。
「おいおい・・アイツを倒すためだけに、本部丸ごとぶっ壊したのか!?」
「前の本部はガイに場所を知られていたからな。攻め込まれるのは時間の問題だった。」
「そんなマネしてまでして、アイツを倒したかったのかよ!?関係ない他のものも巻き込んで・・!」
「そうしなければ、ガイがそうしていた。我々を滅ぼすためだけに・・」
 不満を覚えるマサキだが、ソウマが表情を変えずに告げる。納得がいかなかったマサキだが、反論する言葉が見つからなかった。
「世の中を乱すガルヴォルスを排除するのが、我々の使命。全滅するわけにはいかないのだ。」
「だからって、こんな・・こんなやり方・・・!」
「ならば正々堂々と戦い、おめおめと全滅をしたほうがいいというのか?やり方で正しい、汚いを選んでいる場合ではない。」
「そんな・・・そんなことって・・・!」
 ソウマの言葉と態度に納得できず、マサキが憤りを募らせていく。
「ガイが裏切った理由、分からなくないかもな・・アンタたちみたいな非情なヤツらにいいようにされたんじゃな・・・!」
 ヴォルスレイのやり方に、マサキは疑問を感じていく。
「ならば君も我々の敵に回るか?たとえガルヴォルスでも、敵に回るなら全力で討つだけだ・・」
「そうだとしても、それは今じゃない・・給料がいいからな、この仕事・・」
 敵視を向けてきたソウマに、マサキが自分の考えを口にした。
「ならば、我々の任務の邪魔だけはしないでもらおうか・・」
 注意を投げかけるソウマに言い返さなかったが、マサキは腑に落ちずにため息をついた。
 シュラからの連絡を受けたソウマの部隊は、指定された場所で1度停車することになった。彼らと合流したシュラが、マサキの無事を自分の目で確かめて、安堵を覚えた。
「マサキくん、無事だったのですね・・よかった・・・」
「シュラさん・・アンタ、こっちに出てきたのか・・・」
 声を掛けてきたシュラに、マサキが振り向いて言い返す。
「アンタも、本部を犠牲にすることは知っていたのか・・・?」
 マサキが表情を曇らせて、シュラを問い詰める。
「・・・えぇ。部隊を指揮する身ですからね・・・」
「こんなやり方、アンタも納得しているっていうのか・・!?」
「悪意あるガルヴォルスの討伐と、その邪魔をするものの排除が私たちの任務ですからね。」
「ヴォルスレイそのものが、こんな感じか・・・」
 目的のために手段を選ばない戦いを続けるシュラたちに、マサキは肩を落とすしかなかった。
「これではさすがに、大学の講義に間に合いそうにないですね・・・申し訳ありません、マサキさん・・・」
 シュラが腕時計を見て、マサキに謝罪する。マサキは何も言わず、深刻な面持ちを浮かべていた。
 それからマサキはシュラたちによって身体チェックをされた。ガルヴォルスとなっているマサキの体に変化や異変はないかを検査するのも、シュラたちの任務の1つである。
「ダメージは大きかったですが、異常はないですね。そのダメージも回復が早いです。」
 シュラがマサキの身体データを確かめて微笑む。
「ガイの力を受けたら、普通の人なら死んでるところなのに・・これがガルヴォルスってことなのか・・・」
 ガルヴォルスの能力について実感していくマサキ。
「普通の人間よりもあらゆる能力が上回っています。自然治癒力もです。タイプ次第で再生や復元も可能としている者もいます・・」
「そんなヤツもいるのか!?・・ますますバケモンだな、そりゃ・・・!」
 シュラの言ったことに、マサキが驚く。
「マサキくんには、現時点でそのような能力は見られませんけどね・・」
「アハハ・・そのほうがだいぶマシだけどな・・・」
 シュラが話を続けて、マサキが苦笑いを浮かべた。
「シュラ、新しい本部に移動することになったって・・・」
「はい。本部の位置情報は今まで以上の機密事項となりましたので、マサキさんにも教えることはできません。」
 マサキが本部のことを聞いて、シュラが冷静に答える。
「もしものときは、バサラさんが直接あなたに会いに行きますので。」
「アイツの顔、好き好んで見たいとは思わないけどな・・・」
 微笑んで話を続けるシュラに、マサキがため息をついた。
「今さら大学に戻ってもしょうがないし、今日は帰ることにする・・」
 マサキが言いかけて、車のドアを開けた。
「そうですか・・途中まで送りますよ。」
「いや、1人で帰れる・・近づきすぎたら、オレもアンタたちも都合が悪いんだろ?」
 親切に言うシュラだが、マサキは断って車を降りて歩いていった。
「これは・・ずいぶんと嫌われてしまったものです・・・」
 彼を見送って、シュラが苦笑いを浮かべた。
「しかしこれが我々の任務です。その意思に反することは、最悪敵に回ることと同じになります。」
「分かっているんですけどね・・ガイくんの例もありますし・・」
 ソウマが苦言を呈すると、シュラが肩を落とした。
「目的のために手段を選ばないのが私たちです。しかし、同じ轍を踏む、同じ失態を繰り返すのは愚かなことですよ・・」
「我々は失態をしたつもりはありません。あくまで竜間ガイの裏切りです。」
「・・バサラさんも、そう考えていますね・・・」
「はい。」
 皮肉を言うシュラに、ソウマは毅然とした態度を崩さなかった。
「私たちは戻りますよ。新しい本部へ。」
「了解。」
 シュラが真剣な面持ちを浮かべて呼びかけて、ソウマが答えた。彼らは本部に向けて移動していった。
 地中で人を襲うタイミングをうかがっていたモールガルヴォルスは、地上の騒々しさを感じ取っていた。
(何が起こっているのかな?・・でも治まってきた・・・)
 地上の様子を気にするモールガルヴォルスが耳を澄ます。
(そろそろ動き出してもいいかな・・丁度、僕のいるほうの地上に来る人がいるし・・・)
 好機と判断したモールガルヴォルスが、地上に向かって両手の爪で掘り進んだ。
(よーし。この先のヤツを捕まえて、引きずり込んでやるー・・)
 また自分の楽しみができることを喜んで、モールガルヴォルスが地上へ向かった。
 シュラたちと別れて1人でジンボーに向かっていたマサキ。彼はヴォルスレイに対する不信感を抱えて、落ち着きを取り戻せないでいた。
(バサラたちのやり方は、やっぱ納得できないものがある・・だけど、まだ給料がすごいってメリットの方が高いか・・・)
 ヴォルスレイとの契約の続行か、離反か。マサキは2つの選択に対して苦悩を膨らませていた。
(だけど、マジで我慢できなくなったときが、潮時だな・・)
 見切りを付ける瞬間が見えてきた気がして、マサキが小さく頷いた。
 そのとき、マサキは気配を感じ取り、足を止めた。
(この感じ・・・あのガルヴォルスがいる・・この近くに・・・!)
 モールガルヴォルスの接近に気付き、マサキが身構える。
(オレの今いる足元だ・・掘り進んでくる・・!)
 モールガルヴォルスの居場所を把握した瞬間、マサキのいる場所の地面が吹き飛んだ。
「勢いよく出すぎたか・・すぐに捕まえて引きずり込んで・・・」
 地中から出てきたモールガルヴォルスが、マサキの行方を追う。
「あれ?・・いない・・?」
「捜しているのはオレのことか?」
 周りを見回すモールガルヴォルスに声が掛かった。彼が見上げた空に、デーモンガルヴォルスとなって飛翔したマサキがいた。
「えっ!?お、お前は、あのときのガルヴォルス!?」
 着地したマサキに、モールガルヴォルスが驚愕する。
「お前よりオレの方が、ガルヴォルスを感じ取る能力は上だったみたいだな・・」
「僕が来るのが分かっていて、出てくる瞬間にタイミングを合わせて飛んだっていうのか・・!?」
 落ちつきを払うマサキに、モールガルヴォルスが動揺を膨らませていく。
「これ以上、人を襲わせるものか・・もう2度と、土の下に行かせるものか・・・!」
 マサキが鋭く言って、モールガルヴォルスに向かって飛びかかる。
「ひえー!」
 モールガルヴォルスが怖がって、急いで地中に潜ろうとした。しかし地中に入る直前で、彼はマサキに右腕をつかまれた。
「えっ!?うわー!」
 地中から引きずり出されて、モールガルヴォルスが悲鳴を上げる。
「放してー!放してくれよー!」
 モールガルヴォルスが慌てふためき、マサキに助けを求める。
「今のお前と同じように、襲ってきたお前に命乞いをしていた人がたくさんいるはずだ・・その人たちを、お前はどうしたんだ・・!?」
 マサキが怒りを覚えて、モールガルヴォルスに問い詰める。
「だって、それが楽しみなんだもん・・この楽しみをなくすなんて考えられないよ・・・!」
 自分の楽しみについて主張するモールガルヴォルス。自分のことしか考えていない彼に、マサキが怒りを募らせる。
「それなのに助けてほしいなんて・・図々しいだろうが!」
 マサキが手に力を入れてモールガルヴォルスを空高く投げ飛ばした。
「うわあっ!」
 空で身動きが取れず、モールガルヴォルスが悲鳴を上げる。マサキが剣を具現化して、翼をはばたかせて飛翔する。
「助けてー!助けてよー!」
「そういうことは、他人のために命懸けになってから言え!」
 悲鳴を上げるモールガルヴォルスにマサキが怒鳴る。彼が剣を出して、落下してきたモールガルヴォルスの体を貫いた。
「ギャアッ!」
 絶叫を上げるモールガルヴォルスを、マサキが剣を振りかざして回していく。剣が引き抜かれて、モールガルヴォルスが飛ばされて地面を転がった。
「イヤだ・・死にたくない・・死にたくないよ~・・・」
 生き延びることを懇願するモールガルヴォルスだが、力尽きて肉体が崩壊した。
「コイツも、自分のことしか考えてないのかよ・・・!?」
 モールガルヴォルスの身勝手な考えに、マサキは憤りを抑えられなくなっていた。
(ガイってヤツも、自分のことしか考えないガルヴォルスなんだろうか?・・もしかしたら、悪いガルヴォルスを叩き潰しているオレも・・・)
 ガイと自分自身のことも考えて、マサキは苦悩を感じていく。
「オレも、力の使い方を間違わないようにしないと・・・」
 人の姿に戻ったマサキは、自分に言い聞かせてから歩き出した。自分は過ちを犯してはならないと、彼は決意を固めていた。
 ジンボーではヘイゾウの他、ツバサやララたち複数の店員が仕事をしていた。
「マサキくん、午後の講義だけじゃなくここの仕事も休むつもりなのかな・・?」
「ここまで迷惑かけるような人じゃなかったのに・・・」
 ララがマサキを心配して、ツバサが疑問を感じていく。
「ここのところ、本当に変ね、マサキくんは・・・」
 講義や仕事を休むようになってきたマサキを、ツバサは気に掛けるようになっていた。
「すいませーん!遅くなりましたー!」
 マサキがジンボーに駆け込んできて、ヘイゾウたちに声を掛けてきた。
「マサキ、遅刻しちゃいかんぞ!早く着替えてこい!」
「は、はい!」
 ヘイゾウが檄を飛ばして、マサキが慌てて答えた。
「忙しくなっておるようじゃのう、マサキ・・」
 マサキを見届けて、ヘイゾウが笑みをこぼす。彼はマサキが一所懸命になっていることに感心していた。
「遅刻した分、頑張らないとな・・」
 制服に着替えたマサキが気を引き締めて、仕事に取り組んだ。
 
 
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