ガルヴォルスExbreak
第5話「憎悪の龍神」

 

 

 モールガルヴォルスと交戦中のマサキとシュラの前に現れた青年。彼はドラゴンガルヴォルスとなって、シュラに飛びかかった。
 そのドラゴンガルヴォルスの前にマサキが立ちはだかった。
「お前も人殺しを目的としてるガルヴォルスか!?」
「ガルヴォルス!?お前もガルヴォルスなのか!?」
 呼びかけてきたマサキに、ドラゴンガルヴォルスが足を止めて聞き返す。
「人殺しをしようというなら、オレが阻止してやる!」
 マサキが言い放ち、ドラゴンガルヴォルスに組み付いて押し返そうとする。
「何をやっているんだ、お前は!?オレはそいつらを、ヴォルスレイを倒さなければならないんだ!」
「はっ!?オレたちは人を襲うガルヴォルスの悪さを止めないといけないんだよ!」
 自分の目的を明かすドラゴンガルヴォルスに、マサキが不信感を見せる。
「騙されるな!ヴォルスレイは、目的のために他のヤツを駒のように扱う連中だ!」
 ドラゴンガルヴォルスが言い返して、力を込めてマサキを押し込んだ。
「ぐっ!」
 マサキが突き飛ばされて、後ろの大木の幹に叩きつけられた。
「つ、強い・・なんて力だ・・・!」
 ドラゴンガルヴォルスの力を痛感して、マサキが毒づく。
「たとえ同じガルヴォルスでも、ヴォルスレイに味方するなら、オレの敵だ!」
 ドラゴンガルヴォルスが憎悪をたぎらせて、シュラに視線を戻す。シュラが銃を構えて、ドラゴンガルヴォルスに銃口を向ける。
「やべぇ・・シュラさんが危ない・・・!」
 マサキが危機感を覚えて、ドラゴンガルヴォルスに飛びかかる。
「お前・・どこまでも邪魔をするのか!?」
 ドラゴンガルヴォルスが怒号を放ち、拳を振りかざす。マサキが紙一重でかわして、ドラゴンガルヴォルスに拳を繰り出した。
 命中したように見えたマサキの打撃だが、ドラゴンガルヴォルスの左手に拳を止められていた。
「何っ!?」
「お前も・・オレが叩きつぶす!」
 驚愕するマサキに、ドラゴンガルヴォルスが右手を握りしめて拳を繰り出す。
「ぐふっ!」
 重みのある一撃を体に受けて、マサキが激痛を覚えて目を見開く。
「マサキくん!」
 怯んで地面に膝をついたマサキに、シュラが叫ぶ。
「お前はガルヴォルスになって日が浅いようだな・・まだまだオレには届かないぞ!」
 ドラゴンガルヴォルスが鋭く言って、体に当てている拳を押し込んで、マサキを突き飛ばした。
「マジで強い・・今まで会ったガルヴォルスたちがかわいく思えるくらいだ・・・!」
 うずくまるマサキが痛みに耐えながら、ドラゴンガルヴォルスの動きを伺う。
「マサキさん、目を閉じてください!」
 シュラが呼びかけて、マサキがとっさに目を閉じた。同時にシュラが銃を構えて発砲した。
 放たれた弾丸はドラゴンガルヴォルスの頭上で閃光を煌かせた。
「マサキさん、空へ飛んでください!」
 黒いサングラスを掛けたシュラが、マサキに駆け寄って呼びかける。マサキは背中から翼を生やして、シュラを抱えてこの場を離れた。
 光で目をくらんだドラゴンガルヴォルスだが、怒りに任せて地面に拳を叩きつけて、衝撃波を放った。しかし既にマサキたちは離れていて、光も弱まってドラゴンガルヴォルスの視力が戻った。
「逃げられた・・素早さはあるようだ・・・!」
 マサキの力を把握して、ドラゴンガルヴォルスが毒づく。
「他のヤツもいない・・だが、必ず滅ぼす・・ヴォルスレイも、ヤツらに味方するヤツも・・・!」
 シュラたちだけでなくマサキにも怒りの矛先を向けたドラゴンガルヴォルス。彼は人の姿に戻って、公園を後にした。
 ドラゴンガルヴォルスの強襲から辛くも脱したマサキとシュラ。公園から少し離れた場所に着地して、マサキがシュラを降ろす。
「かぁ・・危ないところだった・・・」
 マサキがひと息ついて、ガルヴォルスから人の姿に戻った。
「ガルヴォルスの中に、あんなすごい力を持ったヤツがいたなんて・・・」
「彼は私たちが知るガルヴォルスの中でも、上位の力を備えています。」
 緊張を解かないマサキに、シュラがドラゴンガルヴォルスのことを口にする。
「シュラさん、アイツを知っているのか・・!?」
 彼の言葉を聞いて、マサキが驚いて問いかける。
「私たちと共にガルヴォルスと戦うあなたにも話したほうがいいですね・・」
 シュラが深刻な面持ちを浮かべて、ドラゴンガルヴォルスについて打ち明けることにした。
「竜間(たつま)ガイ。あなたより前に、私たちと協力してガルヴォルスと戦っていた人です。」
「えっ・・!?」
 シュラの話を聞いて、マサキが驚きの声を上げる。
「しかしガイくんは私たちヴォルスレイのやり方に不満を覚え、その怒りを爆発させてしまったのです・・姿を消してしまった彼ですが、再び私たちの前に現れたのです・・」
「復讐ってヤツか・・・バサラのあの性格を考えると、納得しちまうなぁ・・」
 青年、ガイのことを語っていくシュラに、マサキが腕組みして納得する。
「それはバサラさんに失礼ですよ・・」
 それを受けてシュラが苦笑いを浮かべた。
「ガイさんは私たちを滅ぼすために生きています。その邪魔をする者、自分の命を脅かそうとする者は、容赦なく排除するでしょう・・人間でも、ガルヴォルスでも・・」
「・・見境なく暴れ回ることになったら、まずいことになるな・・・」
 ガイの戦い方に警戒を抱くシュラとマサキ。
「マサキさん、今のあなたの力では、ガイさんと戦って無事では済まないでしょう。もしも彼と戦うことになり、危険だと判断したら迷わずに逃げてください。」
「オレよりも、アイツのほうが強いってわけか・・・」
 シュラから忠告を送られて、マサキが悔しさを覚える。
「しかしあなたの力はまだまだ未知数であると、私たちは予想しています。その潜在能力が吉と出るか凶と出るか、判断しかねていますが・・」
 シュラがマサキに秘められている力に期待を寄せる。
「アイツみたいに暴走して見境をなくさなきゃいいが・・・」
 自分の力を制御できなくなる不安を感じて、マサキが苦笑いを浮かべた。
「結果的に、あのモグラのガルヴォルスを見失うことになりました・・そちらの捜索も私たちで行いますので、今日はこれで解散になります。お疲れ様でした。」
「あぁ。またな、シュラさん・・」
 シュラと別れたマサキは、ヘイゾウのところへ戻っていった。
(オレの前に、バサラと共に戦っていたガルヴォルスか・・・)
 帰路を歩くマサキが、ガイのことを考えていた。
(ガルヴォルスは、どうやって強くなるんだ?・・人間のように、鍛えて強くなるのか・・?)
 彼に対抗しようと、マサキは強くなる方法も考えるようになっていた。
 ヴォルスレイ本部に戻ったシュラが、バサラにガイのことを報告した。しかしそのときには既に、バサラにも情報は伝わっていた。
「ガイ・・我々に本格的に牙を向けてきたか。」
「はい・・ガイくんは私たちに対して、激しい憎しみを抱いています・・目的のために私たちに利用されて、傷ついて・・」
 バサラの声に答えて、シュラが深刻さを感じていく。
「感傷に浸るな。ヤツはもはや我々の敵だ。」
「分かっています。私たちの任務は、常に非情でなくてはなりませんからね・・」
 表情を変えないバサラに、シュラが小さく頷いた。
「ガイくんとモグラのガルヴォルス、2人の捜索を続けます。それと、マサキくんの強化に期待するしかないですね・・」
「この修羅場の中にいれば、イヤでも強くなる。そうしなければ自分が死ぬことになるのは、今はマサキも分かっているはずだ。」
 これからのことを言うシュラに、バサラが言葉を返す。
「失礼します。」
 シュラは一礼してから、バサラのそばから離れていった。
(その敵を作り出したのが、私たちの行いだというのに・・・)
 ガイが敵になったことへの皮肉を感じていたシュラだが、バサラに伝えることはできなかった。
 ジンボーに戻ってきたマサキは、その奥にある住居の、自分の部屋の前に来た。
「おかえり、マサキ・・またずいぶんと疲れとるじゃないか・・」
 挨拶するヘイゾウが、マサキの様子を見て心配する。
「あぁ・・ちょっとはしゃぎすぎちまったかな・・」
 マサキが苦笑いを浮かべて、部屋の中に入った。
「あんまりムチャせんようにな。体を休めるのも仕事や勉強のうちじゃぞ。」
「分かってる。今日はメシを食べて風呂入ったら寝るって・・」
 ヘイゾウからの注意に答えて、マサキがベッドの上に仰向けになった。
「まぁ、自力で何とかしようとしとるから、それはよしとするかのう・・」
 マサキを前向きに守ろうとしながら、ヘイゾウは気持ちを落ち着けて、マサキの部屋から離れていった。
 マサキの攻撃とガイの乱入によって、撤退を余儀なくされたモールガルヴォルス。彼は2人を警戒して、地上に出ることができなくなっていた。
(僕自身はじっと土の中にいても平気だけど、これじゃ人間を襲えないじゃないか・・)
 地面の中で待つモールガルヴォルスが、心の中で不満を呟いていく。
(いつまでも我慢できるもんじゃない・・もうちょっとしたら、また動き出すぞ・・・!)
 欲求不満になっていくモールガルヴォルスが、再び地中を掘り進み始めた。
 翌朝、ガイは街の牛丼屋を訪れて、牛丼の大盛りとサラダを頼んだ。彼はそれを朝食として食べていた。
「朝からあれだけ食べるなんて・・・!」
「きっとプロのスポーツ選手なんだよ・・・!」
 店内の他の客が、ガイの食べっぷりを見て感心する。
「ごちそうさま。」
 食べ終わってひと息ついたガイが、店を出て振り向いた。
(今日でヴォルスレイを潰す・・たとえどのようなガルヴォルスを飼い慣らして送り込んでも、そいつらも倒す・・・!)
 ヴォルスレイの本部のあるほうに目を向けて、ガイが憎悪を膨らませた。
 部隊の作戦を指揮していたシュラに、アルトからの通信が入った。
“完了まであと少しです。10分以内に済ませられるでしょう。”
「急いでください。ガイくんがいつ攻めてくるか分かりません。」
 報告するアルトに、シュラが指示を返した。
“竜間ガイが本部に近づいてきます!”
 別働隊からシュラに向けて通信が入った。
“我々が食い止めます!その間に作戦完了を!”
「交戦は極力控えるように・・彼は普通のガルヴォルスとは違うのですから・・・」
“しかし、それでは本部に攻め込まれます・・!”
「戦っても全滅は必至です・・最低でもけん制に留めるように・・!」
 ガイを食い止めようとする別働隊を、シュラがなだめる。
(そう言ってもみなさん、ヴォルスレイのために任務を果たすでしょうね・・自らの命を投げ出してでも・・・)
 任務に忠実な部下を気に掛けて、シュラは気まずくなった。
「ここはマサキくんに知らせるしかないですね・・モグラのガルヴォルスのこともあるので、この作戦に駆り出すわけにいかなかったのですが・・」
 危機感を募らせるシュラが、マサキに連絡を入れた。
 マサキがシュラから連絡をもらったのは、彼の午前中の講義が終わった後だった。
「午後から店の仕事が入っているんだ。それまでの間になるから、あんまり時間はかけられないが・・」
“少しでも時間を費やせるなら構いません。あなたならガイくんがどこにいるのかを感じ取ることができるはずです。”
 進言をするマサキに、シュラが助言を送る。
「感じ取る・・アイツの力を感じ取る・・・」
“それではお待ちしています。それまで私たちでガイくんを食い止めます。”
 呟きかけるマサキに、シュラが声を掛けた。彼との連絡を終えると、マサキが目を閉じて意識を集中する。
(アイツの力を感じろ・・アイツがガルヴォルスになってるなら、オレでも分かるはずだ・・・!)
 マサキが自分に言い聞かせて、ガイの気配を探る。
「いた・・あっちか・・!」
 ガイの力を感じ取ったマサキが、その方向へ走り出す。彼は急ぐために、1度人目の付かない路地裏に入った。
(オレに・・オレに力を・・!)
 念じたマサキの姿がデーモンガルヴォルスとなった。彼は背中から翼を生やして、空高く飛翔してから移動した。
 ヴォルスレイに身を置いていた頃に、ガイはその本部の位置を知っていた。本部を目指す彼の前に、ヴォルスレイの戦闘部隊が立ちはだかった。
「止まれ!止まらなければ発砲するぞ!」
 隊員たちがガイに忠告を送り、持っていた銃を構えた。
「お前たちも、オレを敵だと認識しているか・・・!」
 彼らに憤りを感じていくガイの顔に紋様が走る。ドラゴンガルヴォルスとなった彼が、隊員たちに鋭い視線を向ける。
「う、撃て!」
 隊員たちがガイに向けて発砲する。弾丸はガイの体に当たるが、負傷どころか平然としていた。
「き、効かない・・!」
「お前たちの武器は、オレには通じないぞ・・!」
 目を見開く隊員たちに、ガイが憎悪をむき出しにして飛びかかる。彼が繰り出した拳を受けて、隊員の1人が突き飛ばされて、その先の壁に叩きつけられた。
「なっ!?」
 ガイの一撃の威力と鮮血をあふれて動かなくなった隊員を目の当たりにして、他の隊員たちが驚愕する。
「隊長の言う通り、歯が立たないというのか・・・!?」
 隊員たちが危機感を募らせて、ガイから離れていく。
「ヴォルスレイは滅ぼす・・オレはお前たちを、絶対に許さない!」
 ガイが怒号を放ち、隊員たちに飛びかかる。
「うがっ!」
 隊員たちが次々に殴り飛ばされて倒れていく。
「確実にやられる・・しかしせめて、1秒でも時間稼ぎを・・!」
 残りの隊員が銃に麻酔弾を装てんして、ガイに向かって発砲した。ガイが麻酔弾を撃たれて動きを止めた。
「やった・・これでしばらくは・・・!」
 ガイが眠りにつくと思い、隊員が安心した。
 次の瞬間、ガイが動き出して隊員に突撃してきた。
「がはっ!」
 壁に強く叩きつけられて、隊員が吐血した。
「そんな・・全く効果がない・・・!?」
 愕然となる隊員が、事切れて動かなくなった。
「オレは力を上げて麻酔も睡魔も跳ね除ける・・そんなものはオレには通じないぞ・・・!」
 ガイが鋭く言って、ヴォルスレイの本部を目指して全身を再開する。
「止まれ!」
 そこへマサキが駆けつけて、ガイの前に降り立った。
「お前はこの前のガルヴォルス・・・!」
 ガイがマサキを見て眉をひそめる。マサキが倒れている隊員たちを見て、憤りを覚える。
「前はこっち側だったんだろう?・・そのお前が、人殺しをするなんて・・・!」
「人殺しという点では、ヴォルスレイも同じだ・・自分たちのためなら手段を選ばず、他のヤツを犠牲にする・・・!」
 マサキとガイが互いに憤りを募らせていく。
「人殺しを憎むお前が、人殺しをするヴォルスレイに加担するつもりか!?」
「アイツらが人殺し・・オレが、人殺しに加担・・・!?」
 ガイが指摘したことに、マサキが動揺を覚える。彼の脳裏に、自分がジロウを手に掛けたときの瞬間がよみがえってきた。
「同じガルヴォルスなら、ヴォルスレイを見限れ・・ヤツらに従えば、確実に駒にされることになる・・!」
「違う・・オレは、バサラたちに利用されるつもるはない!」
 ガイの投げかける言葉をはねつけて、マサキが構えを取る。
「アイツらの味方をするなら、どんな事情でもオレの敵だ!」
 ガイが飛びかかり、マサキに向けて拳を振りかざす。マサキがとっさに拳をかわして、ガイに拳を振りかざす。
 拳はガイに命中したが、彼はビクともしない。
「その程度の攻撃は、オレには通用しない・・・!」
 ガイが鋭く言って、マサキの体に拳を叩き込んだ。
「ぐふっ!」
 マサキが激痛を覚えて、口から血をあふれさせる。彼はふらついて、ガイから後ずさりする。
「オレはヴォルスレイを滅ぼすため、ヤツらの戦力に負けないほどに力を上げてきた・・並みのガルヴォルスでは、オレの足元にも及ばない・・」
 地面に膝をついたマサキを見下ろして、ガイが右手を強く握りしめる。
「お前も力は高いが、オレを止めるまでではない・・!」
 ガイがマサキ目がけて拳を振り下ろした。マサキがとっさに後ろに跳んだが、ガイの打撃の衝撃に押される。
「うっ!」
 マサキが体勢を崩したところへ、ガイが舞い上がる砂煙から飛び出して、右足を振りかざしてきた。
「うあっ!」
 マサキが蹴り飛ばされて、その先の壁を突き破って激しく転がった。
「オレの邪魔をするヤツは、何者だろうと容赦しない・・ヴォルスレイは、必ずオレが・・・!」
 ガイは怒りをたぎらせたまま、ヴォルスレイの本部に向かって歩き出した。傷つく倒れたマサキが、ガルヴォルスから人の姿に戻っていた。
 
 
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