ガルヴォルスExbreak
第4話「闇の復讐者」

 

 

 ジロウを止められなかったこと、ジロウを手に掛けたことに、マサキは心身ともに疲弊していた。
 自分が暮らすマンションに戻ってきたマサキ。彼は着替えることなく、ベッドに仰向けに倒れた。
(オレはこれからも、こんな戦いをしていくんだろうな・・たとえバサラたちとの契約を解約しても・・・)
 ガルヴォルスの戦いの非情さを痛感して、マサキは絶望感を膨らませていた。
(だったらやるしかない・・オレが生きるために。みんなを守るために・・オレなりのやり方で・・・)
 彼は自分に言い聞かせていくうちに、疲れのために眠りについていた。
 
 ジロウとの戦いについて、シュラはバサラに報告していた。
「順調に倒しているようだな。無法者となっているガルヴォルスを。」
 シュラからの報告を聞いて、バサラが言いかける。
「はい。しかし精神的に追い込まれているようです。」
 シュラが深刻な面持ちでバサラに答える。
「そのうち慣れるだろう。他のヤツもそうだったように・・」
「はい・・ただ、暴走させないようにしないと・・彼のように・・」
「分かっている。くれぐれもそこはおろそかにするな。」
「はい。」
 バサラからの注意に答えて、シュラは退室した。
(彼は我々を強く憎んでいます。私たちを仕留めようと、今も狙い続けている・・)
 一抹の不安を胸に秘めて、シュラは暗躍するガルヴォルスの捜索を再開した。
 
 一夜が明けて、マサキは宇井野大学に足を運んでいた。
 ジロウは死んだ。2度と大学に現れることはない。マサキだけがそれを分かっていた。
「マサキくん、おはよう♪」
 ララがツバサとともに来て、マサキに声を掛けてきた。
「おはよう、2人とも・・今日も元気いっぱいみたいだな。」
「エヘヘ♪元気にやらなくちゃ毎日が損だからね♪」
 微笑みかけるマサキに、ララが笑顔とやる気を見せる。
「ララの場合は、元気とやる気が空回りしているけどね。」
「ツバサ、ひどいこと言わないでよー!」
 ツバサが注意して、ララがふくれっ面を見せる。
「オレは先に行くぞ。2人とも、講義に遅れないようにな・・」
 マサキはため息をついてから、次の講義の部屋へ向かった。
「うわ~!マサキくん、置いてかないでよ~!」
 ララが慌ててマサキを追いかけていった。
(マサキくん、本当に元気がない・・この前はどこにいたのか分からなくなっていたし、どうしたのかな・・?)
 ツバサはマサキのことを心配して、彼の行動を気にするようになっていた。
 
 街外れの小さな広場に、3人の女子大生がいた。彼女たちは近くのコンビニエンスストアで昼食を買って、広場で食べていた。
「ここだと静かにご飯が食べられるから安心だよねぇ。」
「辛気臭いのが残念だけど、邪魔されずに過ごせるからね。」
「大学からもうちょっと近かったらなぁ・・」
 女子大生たちが広場の使い勝手について語っていく。
「さて、さっさとご飯を食べて、大学に戻るよ。」
「うん♪」
 彼女たちが食事を進めて、大学に戻ろうとした。
 そのとき、女子大生たちのいる広場に揺れが起こった。
「えっ!?地震・・!?」
「でもここでじっとしてれば、危なくないはずだよ!」
 彼女たちは驚きながらも、この場にじっとして揺れが治まるのを待った。
 そのとき、地面から大きな獣の手が出てきて、女子大生の1人の足をつかんだ。
「えっ!?キャッ!」
 驚く女子大生が手に引っ張られて、地面に引きずり込まれる。
「た、助け・・・!」
 2人が手を伸ばそうとするが届かず、つかまれた女子大生は地面の中に消えていった。
「イヤ・・イヤアッ!」
 2人が恐怖と絶望で悲鳴を上げた。
 
 女子大生たちの知らせを受けて、テツオたちが急行した。
「地面の下に人が引きずり込まれる・・またおかしなことが起こりやがった・・・」
 女子大生が引きずり込まれた穴を見て、テツオが肩を落とす。
「穴の深さは15メートル以上はあります・・地下の陥没にしては崩壊の規模が小さすぎます・・」
 トモヤが鑑識と計測班からの報告を、テツオに伝えた。
「わざわざ地下の底から掘り進んで、1人を引きずり込んだってのか?ずいぶんと大がかりな殺人だな・・」
 それを聞いてテツオが呆れる。
「警部、地下にも捜索範囲を広げます。捜索隊を編成して向かいます。」
 刑事、鮫口(さめぐち)カリヤがテツオに進言した。
「よし。カリヤは地下、トモヤは地上のこの近辺を徹底的に調査しろ!」
「はい!」
 テツオも命令に答えて、トモヤとカリヤが調査に向かった。
「今度こそ・・今度こそ我々がこの事件を解決してやる・・・!」
 テツオが使命感を強くして、操作を続行した。
 
 街中にある牛丼屋にて、1人の青年が食事をしていた。大盛りの牛丼とサラダを食べていた彼は、衣服の汚れが目立っていた。
「ふぅ・・食べた、食べた・・」
 食べ終わった青年が1つ深呼吸をする。
「おい、メシの支払いを。」
 彼は食べたものの料金を取り出して、店員に差し出した。
「は、はい。ありがとうございました。またお越しくださいませ。」
 店員が動揺しながら支払いを受け取って、店を出ていく青年を見送った。
「あれが噂のお客様か・・牛丼の大盛りとサラダを決まって頼む・・」
「何かスポーツのプロみたいに食べていくけど、格好はそういう風には見えないですね・・・」
 店員たちが青年のことを話していく。この牛丼チェーン店の各地の店舗で同じメニューを食べていく彼は、系列内での噂になっていた。
 
 牛丼屋から出て、歩きながら軽く腕を回していく青年。彼は通りの傍らで足を止めて、深呼吸をしてから視線を移した。
(やっと戻ってきたぞ・・・お前たちを叩き潰すぞ・・・!)
 青年が顔から笑みを消して、心の中にある憎悪を強めた。彼の視線の先にあったのは、ヴォルスレイの施設だった。
 
 この日の講義を終えて、マサキは1人で大学を後にした。帰路の途中で、彼はスマートフォンに連絡が入ったことに気付いた。
(またバサラたちから連絡が来たか・・)
 ガルヴォルス打倒の仕事が入ったと思い、マサキは電話に出た。
“マサキさん、よろしいですか?”
「あぁ・・」
 電話に出たシュラに、マサキが答える。
“また常軌を逸した事件が起こりました。ガルヴォルスが犯人である可能性が高いです。”
 シュラの話を聞いて、マサキが目つきを鋭くした。
“詳しい話は駅前の喫茶店でいかがでしょうか?”
「分かった。今行く・・」
 シュラの誘いを受けて、マサキは連絡を終えて再び歩き出した。彼は駅前の喫茶店に辿りついて、テーブル席に座っているシュラを見つけた。
「わざわざすみません。いきなり呼び出してしまって・・」
 シュラが手招きをして、マサキが彼と向かいの席に座った。
「それは別にいいけど・・ここで話をしてもいいのか?」
「他の人の会話に紛れるから問題はないです。私たちの本部に無闇に出入りするよりはね。」
 マサキが疑問を投げかけて、シュラが苦笑いを見せて答えた。
「では本題に入りましょうか・・人が地面に引きずり込まれる事件が続発しています。」
 シュラが真剣な面持ちを浮かべて、マサキに話を切り出した。
「陥没事故と比べて範囲が小さく、目撃者によれば何者かの手が地面から出て、被害者を引きずり込んだとのことです。」
「その手の主がガルヴォルスだというのか?」
「まだ断定には至っていませんが、可能性は高いです。しかし、同じガルヴォルスの高い感覚なら、犯人の動きを捉えることができるかもしれません。」
「その捜索をオレにやれというのか?」
「最初の捜索は私たちでします。範囲が絞れたら、あなたに頼みます。」
「最後の締めをオレがするわけか・・それなら・・・」
 シュラからの提案をマサキは聞き入れた。
「現在、私の部下が捜索を続けています。連絡が入るのを待ちましょう。」
「だったら1回帰らせてくれ。まだ時間はあるだろう・・」
「しかし見つかったときにすぐに動けなければ逃げられてしまいます。私と行動を共にすれば、より迅速に現場に行けますよ。」
「そうか・・・時間外労働を請求してやろうか・・・」
 シュラに言いくるめられて、マサキは愚痴をこぼした。
「では、ここで小休止してから、僕の車に乗ってください。あ、軽いものでしたら私がおごりますよ。」
 シュラがマサキに気さくに言って、呼び出しのボタンを押した。するとウェイトレスが2人の前にやってきた。
「ご注文をお伺いいたします。」
「ドリンクバーを2つ。以上で。」
 ウェイトレスにシュラが注文を言う。
「ドリンクバーをお二つですね。ではあちらのドリンクコーナーからどうぞ。」
 注文を確認して、ウェイトレスがドリンクバーのコーナーを示して、マサキたちの前から去っていった。
「では好きな飲み物をどうぞ。他にケーキか何か頼むのでしたら遠慮なく。」
 シュラはマサキに言って、コーヒーを取りに行った。
「気楽に待つしかないのか・・バケモノと戦うときまで・・」
 マサキが肩を落として、シュラが戻るのと入れ違いで飲み物を取りに行った。
 
 レストランから出たときに、マサキとシュラの元に連絡が入った。
“市立公園で女性が引きずり込まれました。”
「分かった。その地点へ急行する。」
 部下からの報告に答えて、シュラは連絡を終えた。
「ここから近いですね。マサキさん、準備をしておいてください。」
「いよいよオレの出番か・・うまくいくか分かんないが・・」
 微笑みかけるシュラに、マサキが真剣な面持ちを浮かべた。彼はシュラの車に乗って、市立公園に向かった。
 公園の近くの道で、シュラは車を止めた。
「隊長、現場は公園の南南東。ここから300メートルほどです。」
 部下、御手洗(みたらい)アルトが来て、シュラに報告をした。
「分かった。ここからは私とマサキくんにお任せを。」
「了解。」
 シュラからの指示に答えて、アルトは彼らから離れた。
「オレは行く。まだこの近くにいるなら・・」
「私もついていきます。サポートを怠ることはできません。」
 マサキとシュラが車から降りて、公園の中に入っていく。
「感覚を研ぎ澄ませて、ガルヴォルスの動きを探る・・・」
 アルトの言っていた地点の近くで立ち止まり、マサキは目を閉じて意識を集中した。
(今までと何かが違う・・遠くの音まで拾えそうな気がする・・・)
 彼が耳を澄まして、あらゆる音を耳に入れていた。
(遠くの場所だけじゃない・・空を動くものも、地面の下の音も・・・)
 マサキは地中にも意識を傾けた。
(これは・・・!?)
 地中からかすかに聞こえる違和感のある音。マサキはそれをガルヴォルスの動きであると直感した。
「シュラさん、この地下を掘り進んでいる何かがいます・・モグラとかの小動物じゃないです・・・!」
 マサキが地中の音を捉えながら、シュラに言いかける。
「地下道ですね・・地下道に待機している隊員たちに、すぐに連絡して警戒を強化させます・・!」
 シュラが頷いて、別働隊に連絡をした。
「ホントに遠くの音が聞こえてきた・・オレの体、どうなっちまったんだ・・・!?」
「ガルヴォルスは人間よりも身体能力が大きく優れているのです。ガルヴォルスの姿になっていない状態でも、能力は人を超えています。」
 戸惑いと疑問を覚えるマサキに、シュラがガルヴォルスについて話す。
「だから力の使い方を間違えない限り、正体を知られることはないです。悪いガルヴォルスからしたら、普通の人と見分けがつかず、人混みに紛れれば捜し出すのは難しいです・・」
「ガルヴォルス捜しに、オレも駆り出されたわけか・・」
「悪い言い方になってしまいますが、ガルヴォルスを捜すには、同じガルヴォルスの力を借りるのが効率がいいのです。」
「確かに悪い言い方だな・・・」
 シュラの話を聞いて、マサキが皮肉を感じていく。
「地中の音が、こっちに近づいてきている・・・!」
 マサキがさらに音を聞き分けて、シュラが身構える。
「ここから離れろ!」
 マサキが呼びかけて、シュラと共に走り出した。シュラのいた場所の地面が爆発のように吹き飛んだ。
 舞い上がった土煙の中から、1体の怪物が現れた。モグラの怪物、モールガルヴォルスがマサキたちの前に姿を見せた。
「お前か、地面をもぐって人を襲っていたヤツは・・!」
 マサキがモールガルヴォルスに向かって声を掛ける。
「オレの仲間か・・せっかくだから、一緒に人を襲おうぜ・・・!」
 モールガルヴォルスがマサキと手を組もうと誘う。
「ふざけるな・・人を襲って満足するヤツは、許しちゃおかないぞ!」
 マサキが怒りを燃やして、モールガルヴォルスに鋭い視線を向ける。
 そのとき、マサキの頬に異様な紋様が浮かび上がった。彼の姿がデーモンガルヴォルスに変わった。
「やっぱりお前もオレの仲間・・なのに人の味方をするなんて・・・!」
 モールガルヴォルスがマサキに不満を感じていく。
「こうなったらお前もやっつけて、人間をどんどん生き埋めにしてやるぞー!」
「そんなことはさせるか!」
 不満をあらわにするモールガルヴォルスと、怒りを込めて言い返すマサキ。2人が同時に飛び出して、拳を繰り出してぶつけ合う。
 モールガルヴォルスがマサキの拳の力に競り負け、突き飛ばされて地面を転がる。
「イタタタ・・こうなったら、オレの得意技で・・!」
 モールガルヴォルスがいきり立ち、両手の爪を伸ばして地面を掘り出した。彼は速いスピードで地面の下にもぐっていった。
「また地面の下に・・・しかも逃げたんじゃなく、オレたちを狙っている・・・!」
 マサキがモールガルヴォルスの動く音を耳で拾い、シュラが緊張を募らせていく。
(オレの足元に!)
 マサキがモールガルヴォルスが近づいたのに気付いて、地面を強く踏みつけた。
「うぐっ!」
 出ようとしていたところで左肩を蹴られて、モールガルヴォルスがうめく。
「ち、ちくしょう・・!」
 モールガルヴォルスはいら立ちを膨らませると、再び地面にもぐった。
(次は逃げられないように、捕まえて引きずり出す・・!)
 思い立ったマサキが、感覚を研ぎ澄ませてモールガルヴォルスの行方を追う。
「この動き・・・シュラさん、逃げろ!」
 緊迫を覚えたマサキが、シュラに呼びかけた。離れようとした彼の足元から、モールガルヴォルスの手が伸びてきた。
「ぐっ!」
 シュラが左足をつかまれて、モールガルヴォルスに引っ張られる。
「アイツ!」
 マサキが飛びかかるが、シュラの左足が穴に入れられる。
(力を込めて踏みつけたら、シュラさんまで危険に・・!)
 シュラに被害が出るのを気にして、マサキが攻撃をためらう。
「コイツから始末しようか・・!」
 モールガルヴォルスが笑みをこぼして、シュラを穴の中に引きずり込もうとする。
「くっ!」
 シュラがとっさに銃を手にして発砲した。
「うっ!」
 弾丸を体に受けた瞬間、モールガルヴォルスが体に痺れを覚えた。体の自由が利かなくなった彼が、シュラから手を放した。
「大丈夫か、シュラさん!?」
「え、えぇ・・ガルヴォルスに対して効果的な麻酔弾が役に立ちました・・・!」
 マサキが声を掛けて、シュラがひと息つく。
「ガルヴォルスの動きが鈍っているはずです。今のうちに引きずり出して倒すのです・・・!」
 シュラが指示を送り、マサキがモールガルヴォルスの行方を追う。
 そのとき、マサキは強い力を感じて目を見開いた。
「どうしました、マサキさん・・・!?」
 シュラがマサキの異変に疑問を投げかける。次の瞬間、シュラの視界に1人の青年の姿が入ってきた。
「あ、あなたは・・!?」
 その人物を見て、シュラが緊迫を覚える。
「ヴォルスレイ・・こんなところにいたか・・・!」
 青年がシュラに鋭い視線を向ける。
「ヴォルスレイは滅ぼす・・オレが1人残らず、この手で倒す!」
 憎悪をむき出しにした青年の顔に紋様が走る。彼の姿が龍を思わせる体をした怪人に変わった。
「アイツも、ガルヴォルス・・!?」
 青年が変貌したドラゴンガルヴォルスを見て、マサキが緊張を膨らませる。
「まずはお前だ・・シュラ!」
 ドラゴンガルヴォルスがシュラを狙って、高速で飛びかかった。
 
 
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