ガルヴォルスEternal 第23話「世界」

 

 

 シオンによって石化されていた女性たち。しかしシオンが命を落としたことで、彼女たちにかけられていた石化が解けた。

 しかし石から元に戻っても、女性たちの体には石化による快感が染みついていた。

 実際には込み上げてきていないにもかかわらず、女性たちは快感を感じていると思い込んでいた。その気分に溺れて、彼女たちは言葉にならない声を上げるばかりになっていた。

 女性たちが発見されて保護されたのは、石化が解けてからしばらくたってからになった。

 

 シオンが消息不明になったことに、政治家や議員たちは焦るばかりになっていた。必死に連絡を試みるが、全く応答がない。

「どういうことなんだ・・シオンさん、どうしてしまったんだ・・・!?

「このままではバケモノどもの殺戮を止めることができない!」

「このままでは、我々は・・!」

 政治家たちが危機感を募らせて、慌てふためく。

「特にあの2人・・手を打たなければ、確実に我々が壊滅することに・・!」

「今は逃げるしかない!他の国にかくまってもらおう!」

「ふざけるな!そんなことをしたら他国への示しがつかなくなる!」

「みすみす殺されるよりは確実にいい!」

 政治家たちが声を荒げて議論を交わしていく。

「やむを得ない・・ヤツらが大人しくなるかいなくなるまで、我々は避難するしかない・・・!」

「早速手配のほうを・・!」

「急げ!時期にヤツらがここに攻めてくるぞ!」

 政治家たちが昇や香澄、怪物たちの脅威から逃れるために、国外への逃亡を画策する。彼らは自らの国やその国民を守る責務を放棄して、自分たちを守ることを優先させていた。

 

 シオンを手にかけて、昇は香澄とともに国の上層部への攻撃を続けていた。2人は人間を手にかけることを全く気に病んではいなかった。

 本当の平穏を取り戻すために、敵を根絶やしにする。昇の意思は今も変わっていない。

 敵と見なしたもの、自分たちの前に立ちはだかるものは徹底的に倒す。それが昇の頑なな意思だった。

 政治家の1人の屋敷に踏み込んだ昇と香澄。立ちふさがるボディガードも、2人は手にかけた。

「お前ら・・ここまで乗り込んできたか・・・!」

 政治家が乗り込んできた昇と香澄にいら立ちを見せる。

「そうまでしてこの国を、世界を敵に回すつもりか・・!?

「お前らがオレを敵に回したんだろうが・・・!」

 声を荒げる政治家を昇が鋭く睨みつけてくる。香澄も政治家に対して敵意を向けていた。

「私個人としては人間も怪物も関係なくまとめようとしているのだが・・」

「オレはお前らの思い通りにはならない・・絶対に・・・!」

 自分の考えを告げようとする政治家だが、昇は聞く耳を持たない。

「何を言ってもムダか・・やむを得ない・・・!」

 ため息をつく政治家の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「あなた、まさか・・!?

 香澄が驚きを覚える前で、政治家がライオンの怪物へと変わった。

「あなたも怪物だったんだね・・・!」

「世界は広いということだな。まだまだ君たちの知らないこともあるということだ。」

 鋭く言いかける香澄に、政治家が淡々と言いかける。

「関係ないと言っている・・お前が怪物になろうと、結局はゴミクズなんだよ・・・!」

 昇は態度を変えずに怪物に言いかける。

「こちらの言葉を聞こうともしない・・どちらかが始末されるしかないとは・・・」

 怪物はため息をつくと、昇と香澄に近づいていく。昇がいきり立ち、怪物に飛びかかる。

 両手で組み付いて力比べをする昇と怪物。昇が力を上げて、怪物を押し込んでいく。

「やはり力が上がっている・・その力で、多くの人間や怪物たちを・・・!」

「お前らはどちらでもない・・自分たちのために他のヤツを平気で虐げて満足しているゴミクズ連中だ!」

 毒づく怪物に昇が怒号を放つ。彼に押し切られて、怪物が突き飛ばされる。

「だがここで死ぬわけにはいかん・・むざむざ死んでやるつもりなどない・・!」

 怪物が全身に力を込めて昇を鋭く見据える。

「お前たちが問答無用で攻め立てるようならば、私もお前たちを倒す以外に、生き延びる方法はないようだ!」

「お前らは死ぬしかない・・それ以外は、オレが認めない!」

 互いに言い放つ怪物と昇。怪物が振りかざした爪が昇の体に傷をつける。

「こんなもので、オレをどうにかできはしない!」

 昇は痛みに苦しむことなく、怪物に飛びかかる。振りかざした彼の拳が、怪物に強く叩きこまれていく。

「こうまでして・・こうまでして、世界を敵に・・・!」

 怪物が声と力を振り絞り、昇への反撃を仕掛ける。そこへ死神の鎌を手にして振り上げて、香澄が飛び込んできた。

「これが、私たちの選んだ道・・心から安心できるようにするために・・・!」

 香澄は低く告げると、怪物に向けて鎌を振り下ろした。鎌の刃が怪物の背中に突き刺さった。

「がはっ!」

 怪物が体から血をあふれさせるだけでなく、口からも吐血する。

「お前にも、強さが・・それなのに、世界を乱すなど・・・」

 怪物が息の根を止められて、昏倒して崩壊していった。

「狂わせているのは、お前らのほうだっていうのに・・・!」

 昇が政治家たちにいら立ちを見せる。

「どいつもこいつも、どこまでもオレの敵に・・・!」

「昇・・・」

 怒りを募らせる昇に、香澄が戸惑いを覚える。

(全てを敵に回しても、昇は昇の意思を貫く・・きっとまた、私と敵対することになっても・・・)

 昇に対する複雑な思いを膨らませたまま、香澄は彼についていく。2人は次の敵を倒しに場所を移動した。

 

 国外への逃亡の準備を進める政治家たち。その間にも、昇と香澄の行動が彼らにも届いていた。

「アイツら、まだ我々を脅かして・・!」

「自衛隊も特殊部隊もことごとく壊滅に・・!」

「誰もあの2人を止められないのか!?

 政治家たちが昇と香澄に対していら立ちを募らせていく。

「どうすればいいのだ・・どうするのが、懸命な決断だというのだ・・・!?

「もはや我々が取れる手段は1つしかない・・!」

「避難すること・・そして安全を確保次第、バケモノどもを根絶やしにする・・・!」

 あくまで自分たちを守ることを優先させる政治家たち。彼らの集まるエアポートに小型ジェット機が来た。

「これで空港へ向かい、乗り換えて国外へ出る!」

「そして怪物全滅後、改めて我が国の情勢を整える!」

 政治家たちはジェット機に乗って空港を目指す。彼らは自分たちのために、自分の国の国民さえも見捨てるような行為を行おうとしていた。

 

 政治家たちが下した昇と香澄への指名手配は解かれていなかった。それでも昇と香澄は全く動じていなかった。

 さらに2人への指名手配は世界各国に広まっていた。

「これも国や世界の上層部の仕業なんだね・・・」

 自分たちが置かれている状況に、香澄が辛さを噛みしめる。

「私たちは・・世界の敵に・・・」

「違う・・世界がオレを敵に回したんだ・・・」

 呟いている香澄のそばで、昇が憤りを口にする。

「こんな馬鹿げたマネを繰り返すゴミクズは、1人も野放しにしない・・オレが全員叩きつぶす・・・!」

「全滅させて、その後は・・・?」

「その後は安心できる時間があるだけだ・・アイツらがいるから、オレは安心できないんだよ・・・」

「そのために他の人は混乱することに・・・」

「ゴミクズ連中を野放ししている他のヤツも、もう同罪と思われても文句は言えないんだよ・・・!」

 香澄が言いかけるが、昇は頑なな意思を変えない。

「オレをここまで追い込んでいるのはヤツらだ・・それを分かろうともせず、明らかに間違っていることを正しいことだと思い込んで、思い上がって・・・!」

 昇は言いかけて、さらに歩き出す。昇に対して国や世界が取っている手立ては、逆効果でしかない。

「今オレがやっていることが許されないと言い張るヤツも、オレは許しはしない・・・」

「昇・・・」

 歩き出す昇に香澄が困惑を募らせていく。

(今の戦いは私も付き合う・・私も世界を狂わせている敵を許せないから・・でもその後に私は、昇を・・・)

 香澄の昇に対する覚悟は、昇の怒りとともに増していた。

 

 昇と香澄の攻撃は、各国の政府が手立てを加えるほどに過激化を強めていく。彼らや怪物を滅ぼそうとする者は、強硬手段に訴えても成功せず、責任を問われて追い込まれる事態となった。

 やがて昇たちや怪物たちに対して、処分や攻撃を仕掛けることをしないと表明する国さえ出てきた。刺激しなければ向こうは何もしてこないと判断した者が多かった。

 怪物に怯える国民たちからは批難が殺到した。しかしその国民を守るため、多くの国の政府は停戦の意思を貫いた。

 そして各国からの攻撃手段が途絶えると、次第に昇と香澄の攻撃は表立たなくなっていった。

 やがて各国政府は迂闊に議案や法案を決定することができなくなってしまった。下手に手を打てば、昇たちの怒りを買うことになりかねない。そのジレンマが彼らの選定に歯止めをかけてしまった。

 萎縮して消極的になってしまった各国政府。一方で昇と香澄の攻撃は途絶えることになった。

 

 そして、昇と香澄が表立った行動を見せなくなってから1年が過ぎた。

 怪物の事件がまるで嘘だったかのような静寂が、国や世界に戻っていた。多くの人が怪物のことを忘れていて、事件は風化が進んでいた。

 

 この1年の間に、涼子と亮太は結ばれた。2人は今もポニテの経営を続けていた。

「昇くんと香澄ちゃんがここからいなくなって、もう1年となるのね・・」

「2人の指名手配が世界にまで広がったと聞いたときは、本当に驚かされたよ・・」

 涼子と亮太が昇と香澄のことを考えていく。

「2人がいたから、今の世界はおとなしくなっているんだと思う・・2人の力が鎌をかけていて、政府の独裁を押さえ込んでいるのかもしれない・・」

「直接怒りと憎しみをぶつけられることでおとなしくなってしまうなんて・・私たちはみんな・・・」

 亮太が情勢を口にして、涼子が皮肉を感じていく。

「本当・・こんな形で、情勢がよくなっていくなんて・・・」

「みんな、どこかでいいところと悪いところがある・・絶対に許されないことも・・・」

「その絶対に許されないことを憎んだ・・昇くんも・・香澄ちゃんも・・・」

「2人とも、今どこで何をしているのかな・・・」

「2人とも・・帰ってきてほしい・・・もう1度、ここに戻ってきて・・・」

「僕も、もう1度2人に帰ってきてほしいと思う・・」

 涼子と亮太が会話を続けて、昇と香澄のことを思う。涼子も亮太も昇と香澄への心配を募らせていた。

「きっと帰ってくる・・2人とも約束してくれたんだから・・・」

「今までも信じて待ち続けてきたんだ。これからも待つよ、昇くんたちを・・」

 涼子と亮太が信頼を募らせて、互いに微笑み合う。

「さて、これからもおいしい料理を提供しないと。」

「私もお客様に笑顔をお届けするわね。」

 亮太と涼子が気を引き締めて、ポニテでの仕事に専念するのだった。

 昇と香澄は必ずポニテに帰ってくる。2人ともそう信じ続けていた。

 

 怪物の事件は減少の傾向にあった。しかし完全になくなったわけでも、怪物がいなくなったわけでもなかった。

 怪物はより密かに暗躍を行っていた。そして怪物たちが倒されていくのも。

 昇と香澄はまだ戦いを続けていた。自分の目的のために人を襲う怪物たちと。

「おめぇら・・まだ生きてたのかよ・・・!」

 ネズミの怪物が後ずさりして、昇と香澄から離れていく。

「お前が勝手なマネをしてたからだろうが・・」

「自分が満足するために、関係ない人を襲って喜んで・・・」

 昇と香澄が低い声音で言いかける。すると怪物がいら立ちを見せてきた。

「せっかく力を手に入れたんだから、それを存分に使って何が悪い!?楽しまないともったいないじゃないか!」

「それで他の人を傷付けて・・お前は心が痛まないの・・・!?

 怒鳴りかかる怪物に、香澄が怒りを口にする。

「もうお前も、倒さないといけない・・・!」

 香澄はさらに言いかけて、手にしている鎌を振りかざす。鎌の一閃が怪物の体を切り裂いた。

 血しぶきをまき散らしながら、怪物は昏倒して事切れた。

「今でも、こういうのがまだいるんだね・・」

「どいつもこいつも、まだ勝手なマネをしている・・そうまでしてオレや他のヤツらを怒らせたいのかよ・・・」

 不安を口にする香澄と、憤りを噛みしめる昇。

「でも、1年前までと比べたらずいぶんおとなしくなったよね、みんな・・好き放題にやっていた人たちが、すっかりおとなしくなって・・・」

「単に表立ってやらかしていないだけかもしれない・・今のコイツのように、影で勝手なマネをしているのかも・・・」

「もしそうだとしたら、必ず尻尾を出してくる・・何か動きがあるはず・・・」

「そこを叩きつぶしていくだけだ、オレは・・」

 香澄が声をかけていくが、昇は頑なな意思を変えない。

「昇・・1回、ポニテに帰ろう・・涼子さんも亮太さんも、きっと心配しているよ・・・」

 香澄が昇に涼子たちのことを持ちかけた。もしかしたら聞かないかもしれないと、彼女は心の片隅で思っていた。

「そうだな・・1回、戻ってもいいか・・・」

「昇・・・」

 聞き入れた昇に香澄が戸惑いを見せる。

「なら戻ろう・・涼子さんたち、待っているから・・・」

「あぁ・・・」

 香澄の声に昇が頷く。2人はポニテに向かって休息を取ることを決めた。

「涼子さんと亮太さん、どうしてるのかな・・ずっと仕事続けてるよね・・・」

「そんなに帰りたかったのか・・・もう1年だから仕方がないか・・・」

「連絡もしていない・・絶対に心配させてる・・ホントに迷惑をかけちゃってる・・・」

「そういうのを気にしてたら、ここまで戦えなかったはずだ・・オレはそこまで気にして戦っていなかった・・・」

「私も、敵を前にしたら、迷いとかが消えていた・・怒りで忘れていたっていうか・・」

「怒りで我を忘れる、か・・オレはずっとそんな感じか・・・」

 香澄と昇が言葉を交わして、皮肉を感じていく。

「国や世界に狂わされた怒りがあるから、今のオレがある・・もしもこんなふざけたことがなかったら、今のオレもなかったかも・・」

「周りが狂っているから、私たちの人生も狂った・・何もかも、そういうのがなければよかったのに・・・」

 今の自分たちと向き合う昇と香澄。これまでの自分を振り返っていくが、2人はもうどうにもならないと思うようになった。

「とにかく戻ろう、ポニテに・・これからのことは、その後で・・・」

 香澄が言いかけて、昇とともに歩き出す。2人は涼子、亮太たちのいるポニテに向かっていった。

 

 

次回

第24話「平穏」

 

「これで、安心できる世の中になったんだろうか・・・」

「これでやっと・・救われるのか・・・」

「私たちは全ての抑止力・・・」

「乱れを潰すために、私たちは存在している・・・」

 

 

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