ガルヴォルスEternal 第24話「平穏」

 

 

 国の上層部や怪物たちとの戦いを続けていた昇と香澄。2人は1年ぶりにポニテへと戻ってきた。

「また帰ってきた・・ここに・・・」

「本当に久しぶり・・・オレたちがどこに行っても、何があっても、ここがオレたちの家になってるんだな・・・」

 香澄と昇がポニテの玄関を見つめて呟きかける。そのとき、店の玄関のドアが開いて、涼子が顔を出してきた。

「香澄ちゃん・・・昇くん・・・」

「涼子さん・・・ただいま・・・」

 戸惑いを見せる涼子に、香澄が微笑んで挨拶する。2人が歩み寄って、あつい抱擁を交わす。

「香澄ちゃん・・無事だったんだね・・全然連絡がないから・・・!」

「ごめんなさい・・この1年は、戦いの連続だったから・・・」

 互いに自分たちの気持ちを口にしていく涼子と香澄。

「香澄ちゃん・・昇くん・・帰ってきたんだね・・・」

 亮太も店から出てきて、昇と香澄に声をかけてきた。

「ひと段落ついたから、戻ってきた・・・」

「疲れてるはずだから、今は休もう。2人とも、中に入って・・」

 亮太に言われて、昇と香澄は店の中に入っていった。その奥の部屋に来て、2人は腰を下ろして安堵を見せた。

「この1年で、国も世界も大きく変わったよ・・きっと、君たちが影響しているんだろうね・・」

 亮太が情勢と昇、香澄のことを口にする。彼の言葉に昇と香澄が真剣な面持ちを見せる。

「タカ派の人たちはほとんどなりを潜めておとなしくなっている。君たちのような人に何かされるのを怖がっているみたい・・」

「それで慎重派が慎重を重ねて議論を重ねているみたいだけど、どれも決定に踏み切れていない・・」

 亮太に続いて涼子も言いかける。

「もうアイツらはわずかも信じちゃいない・・何をしてこようと許しはしない・・」

 昇は頑なに世界への憎悪を示す。

「相変わらずだね、昇くんは・・でも、僕たちには1つの変化があったよ・・」

「変化・・?」

 亮太が口にした言葉に、香澄が疑問符を浮かべる。

「私たち、1ヶ月前に結婚したの・・」

「け、結婚・・おめでとうございます!涼子さん、亮太さん!」

 涼子が結婚したことを打ち明けて、香澄が祝福を口にする。

「これからはもっと力を合わせてがんばっていくつもりよ。このお店で、みんなに笑顔を届けるために。」

「涼子さん、亮太さん・・がんばってるんですね、2人とも・・みんなのために・・・」

 微笑みかける涼子の話を聞いて、香澄も安らぎを感じて笑みをこぼしていく。

「涼子さんと亮太さん・・2人の絆が深まって・・できることがもっと深まりましたね。」

「香澄ちゃん、ちょっと、恥ずかしいって、そういうこと言われると・・」

 香澄が投げかけた言葉を聞いて、涼子が頬を赤らめる。

「そういう、香澄ちゃんも昇くんも・・・」

「わ、私たちはそんなんじゃ・・・!」

 今度は香澄が涼子に言われて赤面する。しかしすぐに香澄が表情を曇らせる。

「私も昇も、最初は望んで一緒になったわけじゃなかった・・おかしな石化のせいだったのが始まりだった・・・」

「おかしな気分になって・・体が言うことを聞かなかった・・オレたちは交わっていた・・・」

 香澄に続いて昇も語りかける。2人がシオンの石化がもたらした恍惚を思い出して、困惑を感じていく。

「元に戻っても、オレたちが交わってしまったことは変わらない・・もう、生きるも死ぬも一緒の状態になってしまった・・・」

「以前だったら許せない生き地獄と思ったけど・・お互いの過去や気持ちを確かめ合ったら、憎み合う気持ちが薄れてしまった・・・」

 自分と互いへの思いを口にしていく昇と香澄。2人の話を聞いて、涼子と亮太が困惑を募らせていく。

「それで、2人は今は・・?」

「・・・分かりません・・・ただ、前みたいな憎しみは、本当に弱いです・・・」

 亮太が聞くと、香澄が首を横に振る。

「私の憎んでいた敵が元々、昇と同じだったというだけ・・今だってそう・・」

「それで今までずっと戦ってきたのね、あなたたちは・・・」

 香澄の話を聞いて、涼子が納得する。

「今日はもう休んでいって。これから何をするにしても、体を休めてからじゃないと・・・」

「涼子さん・・・はい・・ありがとうございます・・」

 呼びかけてくる涼子に香澄がお礼を言う。

「ちょっと待っていて。すぐに掃除するから・・」

 亮太が立ち上がって、空き部屋の掃除に向かう。

「そんな・・そこまでしていただかなくても・・」

 香澄が慌てて亮太についていく。2人を見送って、涼子が笑みをこぼす。

「この国も世界もおとなしくなってきた・・でもまだ全部が終わったわけじゃない・・」

 昇が真剣な面持ちで言いかけて、涼子が深刻さを感じていく。

「また、出ていくの・・・?」

 涼子が問いかけるが、昇は真剣な面持ちのまま、何の反応も示さない。

「もうみんな落ち着いてきている・・悪いことが正しいことになっていることも少なくなっている・・もう、あなたたちがムリすることは・・・」

「これでおとなしくなって、またヤツらが勝手なマネをしてきたんじゃ・・・」

 落ち着かせようとする涼子だが、昇は自分の意思を変えない。

「どこかでまた何か企んでいるなら、オレは野放しにしない・・オレが叩きつぶす・・・!」

「どうしても行くの、昇くん・・・?」

「オレが心から安心できるために・・・」

 涼子が呼び止めても、昇の意思は変わらない。

「そこまでの気持ちなら、もう私も亮太も止められない・・でもここがあなたと香澄ちゃんの家でもあることを忘れないで・・絶対に・・・」

「あぁ・・分かった・・・」

 涼子に呼びかけられて、昇は小さく頷いた。

 

 それから昇と香澄は亮太が整理した部屋で休息を取ることになった。夕食を終えて、2人は布団に横たわっていた。

「すっかり助けられちゃったね、涼子さんと亮太さんに・・・」

「ここがオレたちの家、か・・そのことにすっかり安心しちまうとは・・」

 香澄が微笑みかけて、昇が憮然とした素振りを見せる。

「これで、安心できる世の中になったんだろうか・・・」

「分からない・・そうあってほしいと願い続けているんだけど・・今までも今も・・・」

 昇の呟きに香澄が切なさを込めて答える。

「オレたちがいれば、みんなふざけたマネはしなくなる・・すれば叩きつぶされることを思い知っているからだ・・・」

「うん・・そう・・私たちは全ての抑止力・・・」

 昇の口にした言葉を聞いて、香澄が皮肉を口にする。

「乱れを潰すために、私たちは存在している・・・本当に世界を動かしているのは、私たちかもしれない・・・」

「オレは、そんなつもりはない・・・」

「私たちがそのつもりが全然なくてもね・・私もおかしなことだとも思ってる・・」

 憮然さを募らせる昇に、香澄も苦笑をこぼす。

「おかしなことといえば、オレたちもだな・・・」

「えっ?・・・うん・・こうなったのも、あのおかしな気分に襲われたのがきっかけ・・・」

 昇が切り出した話題で、香澄は自分たちのことを思い返していく。

「あのときはイヤだったのに、体が言うことを聞かなかった・・だけど今は、自分の意思で受け入れている・・」

「もう私たちは、離れたくても離れられない・・・」

 昇と香澄が見つめ合って、顔を近づけて唇を重ねた。2人は抱擁と交わりの心地よさに心を委ねていく。

「これからも、オレはどこまでも付きやってやる・・オレが安心できるようになるためなら・・・」

「私も、もう迷いはない・・昇にどこまでもついていく・・・」

 互いに自分の気持ちを伝え合う昇と香澄。2人は交わって恍惚を募らせていく。

「私、もしも昇が自分の力や考えに歯止めがかからなくなったら、私が止めようと考えているの・・」

 香澄が昇に、自分が抱え込んでいた本音を打ち明けた。

「何があったときに、昇を止められるのはきっと、私しかいないから・・・」

「香澄・・・」

 香澄の思いを聞いて、昇が戸惑いを感じていく。

「それでもオレは止まるつもりはない・・ゴミクズを徹底的に叩き潰すために・・・」

「昇・・昇ならそう言うと思ってた・・」

 昇の答えを聞いて、香澄が笑みをこぼす。2人はさらに抱擁を続けて、互いのぬくもりを感じていく。

「それでも私は、いつか昇を止めるときが来るのを覚悟する・・・」

「ムダな覚悟になるかもしれないが・・・」

「それならそれが1番いいんだけど・・・」

「何もなければいい・・そう・・それが1番なんだけど・・・」

 香澄が投げかける言葉を、昇は冷静に答えていく。

「オレはこれからも敵を倒し続ける・・誰にもいいようにされるつもりはない・・」

「私も敵を倒していく・・どうしてもしなくちゃならないと思ったら、昇でさえも・・」

 それぞれの決意を口にしてから、昇と香澄が再び口づけを交わす。敵を滅ぼす戦いに身を投じるだけでなく、2人は互いとの抱擁と心地よさを感じていた。

 

 昇と香澄がポニテに帰ってきてから一夜が明けた。2人はまた出かけることにした。

「もう、行くのかい、2人とも・・・」

 亮太が声をかけて、昇と香澄が小さく頷く。

「いつでも帰ってきていいからね・・それと、たまにでも連絡してきて・・・」

「涼子さん・・・はい・・・」

 呼びかけてくる涼子に、香澄が微笑んで頷く。

「オレはこれからも戦いを続けていく・・でも、必ずまた帰ってくる・・絶対に死なない・・・」

 昇が自分の意思を香澄、涼子、亮太に告げる。

「私が昇を見ています・・何かあれば、私が止めることも・・・」

「香澄ちゃん・・今更になってしまうけど、危ないことはあんまり関わらないで・・危なくなったらムチャしないですぐに逃げてきて・・自分たちを大事にして・・」

 香澄が続けて言うと、涼子が切実に2人に呼びかけてきた。涼子と亮太の思いを受け止めて、香澄がまた笑みをこぼす。

「ありがとうございます、涼子さん、亮太さん・・・また必ず、ここに帰ってきます・・・」

 香澄が感謝の言葉を言って頭を下げた。

「もう行く・・いつまでもじっとしてるわけにいかない・・・」

 昇はきびすを返して、涼子と亮太に背を向ける。

「私も行きます・・自分たちが、心から安心できるようになるために・・」

「香澄ちゃん・・昇くん・・いってらっしゃい・・気を付けて・・・」

 香澄も言いかけて、涼子が答えて2人を見送った。昇と香澄は歩き出して、ポニテを後にした。

「また、行っちゃったね・・・」

「うん・・2人とも、本当にガンコだよ・・」

 涼子と亮太が声を掛け合って、戸惑いを不安を感じていく。

「これからもずっと、2人は戦っていくんだね・・」

「昇くんも香澄ちゃんも、自分たちを脅かしている敵が許せないんだ・・でも、それが誰なのか、何人いるのか、全然把握できてない・・」

 涼子が深刻さを込めて言うと、亮太が昇と香澄の心境を口にする。

「もしかしたら、2人とも、この先ずっと、救われないままかもしれない・・戦いが終わらない・・」

「・・私、2人を止めるべきだったのかな・・無理やりにでも・・・」

「分からない・・どっちにしても、2人とも聞かないと思うよ・・本当にガンコだから・・・」

「昇くん・・香澄ちゃん・・・絶対に帰ってきて・・・」

 亮太の考えを聞いてから、涼子が昇と香澄の無事を祈った。

 

 それから昇と香澄は、自分たちの敵を倒す戦いを再開した。

 自分の目的のために他の人を平気で傷つける敵を、昇も香澄も人間、怪物関係なく倒していった。

 昇、香澄による国や世界への抑止はさらに続くことになった。

 世界の勝手を押さえつけることによって、心からの安らぎを手に入れられる。昇と香澄はそう確信していた。

 しかし長い時間をかけて戦い続けても、昇と香澄の心に本当の安らぎはやってこない。戦いを始めたときよりも格段に国や世界の暴挙が減少したにもかかわらず。

 そして昇と香澄は、人気のない草原の真ん中で休息を取っていた。

「オレが戦い続けて、やっとみんなおとなしくなった・・勝手なマネで苦しむヤツが出なくなった・・・」

 仰向けに倒れている昇が、空を見上げて呟いていく。

「これでやっと・・救われるのか・・・」

「分かんない・・もしかしたら、これも救いの形じゃないのかもしれない・・・」

 昇の言葉に香澄が言いかける。

「私たちのために家族や友達、大切な人を失った人がいるかもしれない・・それで私たちを憎むことは、私たちの敵に味方することにもつながる・・」

「だから何が正しくて、何が間違ってるのか・・きちんと考えるべきなんだよ・・・」

「そういう私たちも、ホントは答えを見つけられていないのかも・・・」

「でもだからって納得できなかった・・オレもお前も・・だから戦ってる・・今までも、これからも・・・」

 香澄が言いかけるが、昇は頑なに意思を貫くだけである。

「全ては安心できるようにするため、か・・」

 香澄がため息をついて肩を落とす。

「私たちはどこまでも戦い続ける・・敵であるものを、全て倒すまで・・」

「そうだ・・そうしないと、絶対に安心できないから・・・」

「それまで・・束の間のお休み・・・」

「オレたちが終わらせる・・終わらなくても終わらせる・・・」

 香澄が昇と言葉を交わしてから、自分も草原の上に横たわる。

 そんな2人を黒い影たちが取り囲んできた。怪物たちが木陰から続々と姿を現した。

「やっとこのときが来た・・・」

「コイツらがいると、自由に生きていけない・・」

「1人や2人じゃムリでも、大勢でかかれば・・・」

 怪物たちが昇と香澄を取り囲んで、一斉にかかろうとする。すると昇と香澄が体を起こしてきた。

「どいつもこいつも、勝手なマネを・・・!」

 目つきを鋭くした昇が龍の怪物へと変貌する。彼はすぐに剣を具現化して振りかざして、怪物たちを切りつける。

「数で押し切れば何とかなると思って・・・」

 香澄も目つきを鋭くして、死神の怪物へと変化した。彼女は死神の鎌を手にして振りかざし、怪物たちを切りつけていく。

「怯むな!一斉にかかれ!」

 怪物たちが退かずに、昇と香澄に向かって飛びかかる。

「死なないと分かんないのかよ・・・!?

 昇がさらに目つきを鋭くして、剣を振りかざして怪物たちを切りつける。香澄も鎌を振りかざして、怪物たちを切り裂いていった。

 大勢の怪物が昇と香澄を取り囲んだが、全員返り討ちになって全滅することになった。

「オレたちは絶対に、お前らみたいな身勝手な連中には屈しない・・・」

「そんな連中を世界から根絶やしにするために、私たちは戦い続ける・・・」

 怪物たちの残骸を見渡して、昇と香澄が決意を口にする。

「行こう、昇・・私たちが安心できるようになるために・・・」

「あぁ・・そうだな・・オレが・・オレたちがやるんだ・・やるしかないんだ・・・」

 香澄が声をかけて、昇が頷く。敵を世界から完全に消すため、2人は安心できる場所と時間を追い求めて、戦いを続けていった。

 

 

安心できるようにするための戦い。

安心を壊す敵と戦い続ける2人。

いつか安らぎのときが来ると思って。

 

2人の戦いは、まだ終わらない・・・

 

 

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