ガルヴォルスEternal 第21話「救済」

 

 

 自分が理想としている救いを与えようとするシオンに対し、昇と香澄が龍と死神の怪物へと変わる。2人はシオンの発する光を目の当たりにしても、全く物怖じしない。

「私はあなたたちを救いたい・・あなたたちやみんなが、辛さや苦しさを感じてばかりにいるのが耐えられない・・・」

「それがオレに、辛さや苦しさを与えていることになっているんだよ・・・!」

 自分の気持ちを口にするシオンに、昇が反発を見せる。

「お前の言う救いなど、オレは求めていない・・押し付けられても、それは救いにならない・・・」

「でも、そうしないと、あなたたちは・・・」

 自分の意思を示す昇だが、シオンは納得しない。

「あなたたちは幸せでいるよりも、苦痛の中にいるほうがいいというの・・・!?

「そんなバカなマネ、死んでもしないぞ・・・!」

「幸せになるために、今の苦痛を消す戦いをしないといけない・・・!」

 声と体を震わせるシオンに、昇と香澄がさらに言いかける。

「誰かから幸せを与えられるとか、救いの手を差し伸べられるとか・・それで満足できればいいけど・・結局は助けようとしてくる人の自己満足じゃない・・」

「そうだと言ってくるならそれでも構わない・・あなたたちやみんなを救えるのなら・・」

「でも私も昇も、そんな形で救われても、心から救われたとは絶対に思わない・・振り回されることを心から嫌っているから・・・」

 切実に言うシオンの思いを、香澄がはねつけていく。

「オレはお前の言う救いがされるために、オレ自身が戦う・・そうするしかない・・・!」

「自分たちが救われるために、苦痛であふれた世界に飛び込むというの・・・!?

「そうしないといけないほど、世界はおかしくなってるし、オレも我慢の限界になってる!」

 悲痛さを込めて呼びかけるシオンに、昇が怒号を放つ。

「もう世界は、自分で何かしないと何も変わらない・・・!」

 昇が今の世界の現状への憤りを募らせていく。

「だからオレは叩きつぶして、安心を取り戻す・・好き勝手に世界を動かしてるゴミクズどもを・・・!」

「あなたたちを苦しめようとする人は、私が絶対に止める・・・!」

「そんな言葉が信じられないほど、何もかも悪くなってるんだよ・・・!」

 シオンがどんなに意思を示しても、昇の意思は変わらない。香澄の考えも不変である。

「オレはお前が押し付けようとしてくる救いを受け入れるつもりはない・・お前もオレの敵だ・・・!」

「そんな・・・そこまで・・・!?

 鋭い視線を消さない昇に、シオンが愕然となる。

「私はあなたを倒すことも迷わない・・!」

「本当に救われてほしいというなら、おとなしく始末されろ!」

 香澄と昇が言い放ち、シオンに向かっていく。

「そこまで・・辛さの中に飛び込もうとするなら・・・!」

 シオンは困惑を振り切り、両手を前に出して念力を発動させる。その瞬間、昇と香澄が左右に動いて、念力から逃れる。

「オレはお前の思い通りにはならない!」

「私を救うのは、私自身・・!」

 昇と香澄が言い放ち、シオンに飛びかかり、剣を鎌を振りかざす。

「私は、あなたたちを・・・!」

 次の瞬間、突然昇と香澄の動きが止まった。シオンが手を動かした様子がないにもかかわらず、2人は体の自由が利かなくなった。

「くっ・・体が、動かない・・・!」

「また、アイツの力に・・・!」

 動けなくなり、香澄と昇がうめく。

「今度こそ・・今度こそあなたたちを救う・・・!」

 シオンが言いかけて、昇と香澄に石化の力をかけようとする。

「させるか!」

 昇が強引に体を動かして、地面を強く踏みつける。その衝撃にシオンが揺さぶられる。

 その瞬間、香澄が鎌を力強く振りかざす。シオンが飛翔して鎌をかわす。

「そう何度も・・オレをどうにかできると思うな!」

「私は、あなたの思い通りにはならない・・・!」

 昇と香澄が再びシオンに鋭い視線を向ける。2人に敵視されて、シオンは悲痛さを募らせる。

「私の救いから、あなたたちは何が何でも抜け出そうとする・・・」

 自分から昇と香澄が離れていくことが耐えられなくなるシオン。

「私はこの力を手にしたとき、みんなを救えると実感した・・苦しいこと、悲しいこと、辛いことに振り回されている人たちから、そういうものを忘れさせて幸せにしていく・・それができるのは、私だけ・・・」

「それをオレに押し付けられても、逆に不愉快なんだよ・・・!」

「だからって、幸せになれなかったら・・・」

「幸せになるためにオレは戦っているんだ・・・!」

 シオンが呼びかけも昇がことごとくはねつけていく。香澄もシオンの考えを受け入れない。

「ダメ・・そんなこと・・・私・・どうしても・・あなたたちを・・・」

 シオンがそれでも昇と香澄に救いの力をかけようとする。彼女はもう1度、昇と香澄に向けて念力を放つ。

 昇がシオンに飛びかかり、念力を受けても強引に突っ込もうとする。彼が手にしている剣が、シオン目がけて振り下ろされる。

 次の瞬間、昇の剣が突然消えた。

「何っ!?

 この瞬間に驚愕を覚える昇。彼は突撃をかわされて、シオンの念力に捕まってしまう。

「お、お前・・何を・・!?

「救いを阻むものを排除しただけ・・そう強く念じたの・・」

 声を上げる昇にシオンが言いかける。

「私は救いを与える力と、救いを壊そうとするものを消す力を使う・・剣を消したのは、その力・・・」

「くっ・・ふざけたマネを・・・!」

 目つきを鋭くするシオンに、昇がいら立ちを見せる。彼が力を振り絞って抗うが、シオンの念力から抜け出せない。

 香澄がシオンに向かって飛びかかり、鎌を振りかざす。だが鎌もシオンの力で消失してしまう。

「武器が、消されていく・・・!」

「ものであるなら、強く念じただけで消すことができる・・・」

 驚愕する香澄にシオンが言いかける。彼女が手を伸ばすと同時に、香澄は横に動いて捕まらないようにする。

「オレは・・オレはこんなところで・・・!」

 昇が念力から抜け出そうと、全身に力を込めていく。

「もうちょっと辛抱して・・今あなたを押さえている力は、今までで1番強いから・・・」

 シオンが昇に振り向いて注意を促す。

「無理やり抜け出そうとすると、今度こそ体がバラバラになってしまう・・だからおとなしくしていて・・・」

「何度も言わせるな・・オレは、お前に絶対に屈しない・・・!」

 それでも昇はシオンに抗うことをやめない。強引に念力から抜け出そうとして、体から血があふれ出す。

「屈服させたいんじゃない・・支配したいんじゃない・・・本当に・・本当に救いたいの!」

 昇に呼びかけるシオンが感情をあらわにする。そのとき、香澄がシオンに飛びかかり、組み付いてきた。

「あなたに救われたいなんて、私は望んでいない!それはもうあなたのわがまま!救いになんてなっていない!」

「それでも、あなたたちやみんなが救われないままなのは耐えられない!」

 呼びかける香澄にシオンが言い返す。彼女が左手を出して、香澄に念力をかける。

「これで、あなたたちに救いの解放を・・・!」

 シオンが笑みをこぼして、昇と香澄を引き合わせていく。

「このままじゃ、あの時みたいに・・・!」

 石化されてしまうと危機感を覚える香澄。彼女も抗おうと強引に念力を破ろうとする。

「もうやめて・・危険に飛び込む必要はない・・イヤなことは何もかも忘れて、いい気分になって・・・」

「またあんな気分を味わわされても・・きっと、幸せな気分にはなれない・・・」

 微笑みかけるシオンに香澄が言い返す。

「もしも幸せになれるのなら、元に戻ることはなかったし、自分を取り戻すこともできなかったはず・・だから今また石になっても、きっと幸せにはなれない・・」

「そんなことはない・・私の力で、みんな辛さを忘れられた・・幸せになれた・・・」

「それがずっと続いていくものなら、私は今ここにいない・・・」

 呼びかけるシオンに、香澄が悲しい顔を浮かべる。

「幸せでいられるのは、そんな気分になれるのは、イヤなことを忘れさせられているだけだから・・・」

「忘れさせられているだけ・・・」

 香澄が口にしたこの言葉に、シオンが心を揺さぶられていく。

「それでも・・それでもそれが幸せの形になる・・・」

「なれないことをいい加減に分かれよ・・・!」

 自分の気持ちを言おうとするシオンに、昇が声を振り絞る。

「オレはオレ自身で安心できるようにする・・他の誰かに幸せにしてもらおうなんて、全然思っていない・・むしろオレを苦しめるだけにしかならない・・・!」

「そんなこと言わないで・・それではあなたたちが幸せになれなくなってしまう・・・!」

「もうお前も・・オレを思い通りにしようとするゴミクズだということだ・・・!」

 シオンを完全に倒すべき敵だと言い出す昇。

「お前に屈するぐらいなら、死んだほうがマシだ!」

 昇が全身に力を込めて、シオンの念力から抜け出そうとする。

「けどオレは死なない!死んでもゴミクズどものいいようにしかならないから!」

 束縛によって血があふれ出してきても、昇は構わずに全身に力を込めていく。

「昇・・私も、あの人の思い通りにはならない・・・!」

 香澄も全身に力を入れていく。2人は傷つきながらも、シオンの念力を強引に打ち破る。

 体から血をあふれさせて息を乱しながらも、昇と香澄がシオンに鋭い視線を向ける。

「救われることから抜け出そうとする・・そうまでして、幸せから抜け出そうとする・・・」

 自分の救いを受けてくれない昇と香澄に、シオンが悲痛さを募らせる。

「それで満足なの・・あなたたちはそれで・・・!?

「満足するためにやってるんだよ・・・!」

 問い詰めてくる彼女に、昇が声を振り絞る。

「ゴミクズに何を言ってもムダだ・・連中は自分が正しいと思い上がって、他のヤツの言うことを聞こうともしない・・・!」

 昇が怒りを口にして、再び剣を具現化して握る。

「だから叩きつぶす・・叩きつぶさないと、何もかも狂ったまま・・そんなこと、死んでも我慢ならない・・・!」

 昇がシオンに飛びかかり、剣を振りかざす。だがまた剣が彼の手の中から消えた。

「何度でも消すことができる・・あなたたちが何度、何かを傷付けるものを呼び出したとしても・・・」

「それでも何度でも・・オレは!」

 低く告げるシオンに言い返して、昇がまた剣を具現化する。が、またすぐに消える。

「あなたが意思ひとつで武器を出すように、私も意思ひとつで消せる・・意味がないよ・・」

「そんなの関係ない・・それに、武器など使わなくても・・・!」

 シオンに言い返して、昇は今度は右手を握りしめて振りかざしてきた。シオンは今度は後ろに動いて拳をかわす。

「生き物は念じても消すことができない・・・」

 香澄がシオンの能力について呟く。しかしそれでもシオンは昇の攻撃を回避していた。

「逃げるな!おとなしく叩きつぶされろ!」

「あなたを突き動かしている、その感情を止めないと・・・」

 怒号を放つ昇を見据えて、シオンが言いかける。攻撃をかわしているものの、シオンは昇の強い憎悪を痛感していた。

「止めるためには、逃げていてはダメ・・受け止めないと・・・!」

 シオンは足を止めて、昇が繰り出してきた拳を受け止めた。彼女は両手に力を集中させていた。

 力を込めた昇の拳を、シオンは両手で受け止めていた。

「ぐっ・・・!」

 昇が押し込もうとするが、シオンを押し切ることができない。

「これがあなたたちの怒りと憎しみ・・傷つけようとしてきている世界への憎悪・・・」

 昇の憎悪を痛感して、シオンが悲しみを募らせていく。

「それを、自己中心的な国や世界が生み出した・・・」

 彼女が両手から念力を放って、昇の動きを止める。

「こんなの・・何度やったところで!」

 昇がまた念力を打ち破ろうとする。だが念力がさらにかかって、昇は徐々に体の感覚さえも失われていく。

「体が、全然言うことを聞かない・・・!」

「あなたのことをとことん縛る・・そうしないと、あなたたちは絶対に止まらない・・あなたたちの憎しみは、絶対に止まらない・・・」

 うめく昇にシオンが言いかける。

「本当はこんな無理やりなこと、したくはないのだけど・・・」

「このままじゃ昇が・・・!」

 香澄が鎌を具現化して、シオンに向かって投げつける。気づいたシオンが意識を傾けて鎌を消す。

 その一瞬に香澄が昇を抱えて、シオンの前から離れる。香澄にとって一瞬でもシオンの注意を昇からそらせればよかった。

「昇、大丈夫!?昇!」

 香澄が呼びかけるが、昇は意識を失いかけていた。

(あの人の力は体だけじゃなくて、感覚まで締め付けてる・・下手をしたら命を奪うほどなのに・・・!)

 香澄がシオンの使った力の強さを痛感していく。

(それだけ追い詰められているというの?・・・それとも、見境を失くしている・・・!?

 香澄はシオンの様子に異変が起きているように思えた。

(何にしても、昇が回復しないうちは・・あの人のあの力には太刀打ちできない・・・!)

 自分だけではシオンに敵わないと感じて、香澄は昇を連れて荒野を離れた。

 

 昇と香澄に逃げられたシオンは、さらに心を揺さぶられていた。

「止める・・私が2人の憎しみを・・そして今度こそ、2人に救いを・・・」

 昇と香澄に今度こそ救いを与えようと、シオンはゆっくりと歩き出していく。

「救えなくなってしまった私は・・何もないただの人になってしまう・・・」

 自分に言い聞かせてシオンが歩いていく。救世主でいられる自分を、彼女自身は強く望んでいた。

 今の世界に、みんなを救える人はいない。自分がなるしかいない。それだけの力を持ったのだから。

 その決断と意思が、シオンを突き動かしていた。

「あの2人も救わないと・・これ以上放っておいたら・・2人とも・・・」

 昇と香澄に救いを与えることが、世界みんなを救えることにつながる。シオンはそう思い続けていた。

 

 荒野の近くの崖下に身をひそめた昇と香澄。人の姿に戻っていた昇は、意識を失っていた。

(昇が回復するまで、少し時間がかかりそう・・それまでにあの人に見つからないようにしないと・・・)

 シオンを警戒しながら、香澄は昇の心配をする。

(でも、私たちでも、感覚まで麻痺させられたら、さすがに敵わない・・どうしたら・・・)

 シオンに対して打開の糸口を探っていく香澄。

(私だけでも・・昇だけでも・・・)

 憎む敵を倒すための力が足りないと思う香澄。

(昇も分かってるはず・・それでも許せないから倒す・・そう思っていても・・・)

 香澄が昇を見つめて、彼に寄り添っていく。それでも昇は意識が戻らない。

(私と昇はもう、離れたくても離れられない関係・・交わりを持ってしまった・・・)

 心の中で思いを募らせて、香澄が昇に寄り添う。彼女は改めて、昇と一心同体の関係であることを実感していた。

 

 

次回

第22話「意志」

 

「敵わないとか、できないとか関係ない・・」

「オレを押さえつけてくるものは、徹底的に叩き潰す・・・!」

「私たちの意思も同じになっている・・」

「お前たちを許せないこの感情は、ここまでになった・・・!」

 

 

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