ガルヴォルスEternal 第20話「壊滅」
昇と香澄と仕留められないばかりか、これに乗じて他の怪物たちが暴動を起こしている事態に、政治家たちはいら立ちを隠せなくなっていた。
「ますます状況が悪化してくるとは・・・!」
「これではますます混乱をもたらすことになるではないか!」
政治家たちが次々に声を荒げていく。
「このままでは他国に示しがつかなくなる・・・!」
「やはり爆弾使用に踏み切るしかない・・バケモノどもをまとめて一掃してくれる!」
いきり立っていく政治家たちが、昇たちを滅ぼそうと爆弾の爆発に踏み切る。
「すぐに部隊に連絡して、作戦の準備を・・!」
政治家たちが指揮下の兵士たちに命令を下そうとした。
そのとき、政治家たちのいる部屋の扉が打ち破られた。政治家たちが驚きを見せて振り返る。
部屋に足を踏み入れてきたのはシオンだった。
「き、貴様は!?」
「黒野シオン!?なぜ貴様がここに!?」
シオンが現れたことに、政治家たちが驚愕の声を上げる。シオンが彼らに悲しい視線を向けていた。
「何をしているのですか?・・人間も異形の姿の人たちも、救われないといけないのですよ・・・」
「国や世界を救うためにの作戦を行っている。あなたばかりに任せきりにするのはよくない。」
悲痛さを込めて言いかけるシオンに対し、政治家たちは冷静を装って言葉を返す。
「向こうの感情をないがしろにして命を奪うことが、救うことになると思っているのですか・・・?」
「このまま野放しにすれば、国や世界、人々が混乱してしまう!それを止めなければ、救うことなどとても・・!」
「ですが、それで誰かを犠牲にしていいことにはなりません・・」
「現に、怪物たちが暴動を起こしているのです!それを止めなければ・・!」
「この悲劇を引き起こしたのは、あなたたちです。そのことを自覚してください・・」
「これは我々が悪いというのか!?血迷ったことを口にするな!」
切実に言いかけるシオンに、政治家たちがいら立ちをあらわにしていく。彼らの自己中心的な言動に、シオンは体を震わせる。
「あなたたち、そこまでして・・・」
シオンは政治家たちに対して憤りと悲痛さを募らせていく。この彼女に政治家たちが緊迫を覚える。
「あなたたちは、みんなを守ろうとはしていない・・守ろうとするのは、自分たちだけ・・・」
「く・・黒野シオン・・・!?」
「あなたたちのその態度が、みんなを苦しめている・・だからこそ、誰もが幸せになることはない・・・」
体から白い霧のような光をあふれさせるシオンに、政治家たちが畏怖して後ずさりする。
「まさか貴様、我々を始末しようというのか・・・!?」
「我々がいなくなれば、誰かこの国をまとめていくというのだ!?」
いら立ちを見せる政治家たちが怒号を放つ。
次の瞬間、怒号を叫んだ政治家2人が突然苦痛を覚えて、胸に手を当てる。まさに胸を締め付けられる激痛で、呼吸もままならなくなった。
シオンが発した念力が、政治家たちの心臓を圧迫したのである。呼吸困難となった彼らは、そのまま息絶えた。
「やはり・・やはり貴様もバケモノということか!」
「貴様も排除される対象だ!」
いきり立った政治家たちが、拳銃を取り出してシオンに銃口を向ける。
「我々がこの国を守る!この国をまとめていく!」
「いいえ・・あなたは守る人ではない・・・」
言い放つ政治家の言葉を、シオンが一蹴する。
「あなたたちは救いを壊す存在となってしまった・・・」
シオンが再び念力を発して、残る政治家たちの首を締め付ける。政治家たちが息ができなくなり、もがき暴れる。
「そのあなたたちは、滅ぼさなければならない・・そうしないと、国も世界も、みんなも救うことはできないから・・・」
シオンが力を込めると、政治家たちが次々に昏倒していく。窒息して事切れた政治家たちだが、1人だけ生き残った。
「この・・犯罪者が・・自分のしていることを、見誤りおって・・・!」
「それはあなたたちのほう・・・」
声を振り絞る政治家にシオンが悲しみを込めて言い返す。彼女が念じたことで、政治家が上から圧力をかけられて、動かなくなる。
「自分の首を絞めてしまったのよ・・あなたたちは・・・」
事切れた政治家たちを見下ろして、シオンが悲しみを募らせていく。
「止めないと・・私が・・みんなを救わないと・・・」
シオンが振り返って、外の状況を気にする。
「2人だけじゃない・・みんなを救わないと・・・」
昇と香澄、世界の人々を救うため、シオンは外へ繰り出していった。
国や人々を自分たちの思い通りにしようとする権力者を滅ぼそうとする昇と香澄。2人の行為が他の怪物たちをさらなる無法者へと変えることになった。
さらなる暴徒と化した怪物たちに、警察も自衛隊も止めることができず、国内は混迷を深めていた。
膨らむばかりの不安と恐怖。怪物たちの中で巻き上がる狂気。ところがにとっては関係のないことだった。
怒りと憎しみをぶつけてくる人間も、誘い込もうとしてくる怪物も、昇は邪魔してくるのであれば敵意を向けていた。
「どいつもこいつも、自分勝手だ・・叩きつぶさなければいけないゴミクズがいるのに、そいつらを棚に上げて、オレたちを・・・!」
昇が憤りを募らせていく。
「向こうからしたら、私たちのほうが自分勝手なんだよね・・・」
「明らかに間違っているのを分かっていないくせに・・・!」
香澄が言いかけるが、昇の感情を逆撫でするしかなかった。
「どいつもこいつも、ゴミクズになって・・ゴミクズを野放しにする・・ゴミクズの見方をする・・そんなヤツもゴミクズなんだよ・・もう知らないとか知らんぷりとかで済ませられるか・・・!」
「昇・・・」
「そんなのばかりで何も変わんないから、オレがやるしかなくなったんだろうが・・・!」
憤りを募らせる昇に、香澄は戸惑いを募らせていく。
(どうして・・どうしてこんなに理不尽なんだろう・・・)
胸を締め付けられるような気分を感じていく香澄。
(何もなければ・・私も昇も、平穏無事に暮らせていたのに・・・)
不条理に対する憤りと、昇の感情を感じて、香澄は昇を追って歩いていく。
道を歩いていく昇と香澄が、暴れている怪物たちを目撃する。
「バケモノ・・・!」
「調子に乗って、人を襲っている・・・!」
昇と香澄が猛威を振るっている怪物たちに憤りをあらわにする。2人も怪物の姿になって向かっていく。
「ア、アイツらは!?」
昇たちが現れて、怪物たちが驚愕の声を上げる。
「アイツらは人間もバケモノも、見境なく始末しに来るぞ!」
「早く逃げたほうがいい!」
怪物たちが慌ただしく昇と香澄から逃げていく。だがすぐに2人に回り込まれる。
「勝手なマネして逃げられると思ってるのか・・・!?」
「お前たちのような連中を、私は許さない・・今までも、これからも・・・!」
昇と香澄が怪物たちに鋭く言いかける。
「人間もオレたちも皆殺しにするつもりなのか、お前らは・・!?」
「そんなマネして、自分たちがどうなるのか分かってるのか!?」
「世界の連中、全部を敵に回すつもりか!?」
怪物たちが昇と香澄に向かって不満を言い放つ。
「違う・・世界がオレたちの敵に回ったんだろうが・・・!」
昇が怪物たちに鋭く言いかける。彼は怪物たちに飛びかかり、力任せに殴り掛かっていく。
「ちくしょう!死にたくない!死にたくないよ!」
怪物たちが悲鳴を上げて逃げようとする。だが死神の鎌を手にした香澄に回り込まれる。
「人間とか怪物とかじゃない・・お前たちのような考え方の連中を、私は許さない・・・!」
香澄も鋭く言うと、鎌を振りかざして怪物たちを切りつける。
「やめてくれ!助けてくれ!」
「命ばかりは!頼む、見逃してくれ!」
怪物たちが涙ながらに昇と香澄に助けを請う。しかし昇たちは敵意を募らせるばかりである。
「そう言ってきた人たちを、お前たちはどうしたの・・・!?」
香澄は低い声音で告げると、残る怪物たちを切り裂いた。怪物たちは血しぶきを上げながら、昏倒して動かなくなっていく。
「全てを敵に回すことになる、か・・・」
香澄が怪物たちの言葉に対して皮肉を感じていく。
「世界から孤立しても、あなたも、私も・・・」
周辺や世界からどう思われても、自分たちの意思を貫く。そうしなければ自分たちは生きながら死んでいることになる。香澄と昇の意思は変わらない。
昇と香澄の始末とシオンの追放を目論んでいた政治家たち。だが逆に彼らは一掃されることになってしまった。
昇と香澄の捜索に改めて乗り出すシオン。しかし彼女は、彼女に味方する議員たちに声をかけられた。
「シオンさん、これはどういう・・・?」
「独自に行動を行っていた罪人を処罰しました。国や人々を自分たちの思うがままにしようと画策していました・・」
議員の問いかけに、シオンが深刻な面持ちで答える。
「処理のほうはお任せします。私にはやることがありますので・・」
「分かりました。こちらはお任せください・・」
シオンが投げかけた声に議員が答える。シオンは1人でこの場を離れた。
(あの2人を、私が救う・・救わないと、誰も、世界も救えない・・・)
シオンは自分に言い聞かせて、昇と香澄を探しに行った。
画策を練っていた政治家たちがシオンに粛清されたことによって、昇と香澄への包囲と怪物たちの討伐が混乱、沈静化していった。
だが昇と香澄の反逆が怪物たちの暴徒化を促すことになってしまった。暴れる怪物たちを止めるのに、政治家たちはさらに苦悩することになってしまった。
しかしこの事情は昇と香澄にとって関係のないことだった。そして今のシオンもそれどころではなく、2人にもう1度救いの手を差し伸べることで頭がいっぱいになっていた。
「ここまで戦い続けてきたのだから、あの人が来てもおかしくないよね・・・」
香澄が投げかけてきた言葉を聞いて、昇が足を止める。
「今度こそ、私たちをあの気分にさせようと・・・」
「そんなことにはならない・・今度こそ叩きつぶす・・・」
言いかける香澄に、昇が頑なな意思を示す。
「せめて、場所を変えよう・・私たちとあの人の因縁を終わらせるために・・・」
「場所・・あの場所か・・・」
香澄が口にした言葉から、昇は1つの記憶を思い返していた。自分たちが憎悪をぶつけ合った場所、シオンによって石化されて快楽に沈んだ場所を。
「あそこで全ての終止符を打つ、か・・皮肉なことだな・・・」
「うん・・でも、他の場所で終わらせても、どこかで納得できなくなりそうだから・・・」
呟きかける昇に香澄が小さく頷く。彼女の言い分を昇は聞き入れることにした。
「あの場所に行く・・オレは2度と、アイツのいいようにはならない・・・!」
昇は両手を強く握りしめて、香澄と戦った荒野に向かった。香澄も緊張を噛みしめて、荒野を目指した。
昇と香澄を探し続けるシオン。彼女はついに2人の気配を感じ取った。
「やっと見つけた・・あの2人・・・!」
シオンが昇と香澄を実感して、安堵と歓喜を募らせていく。
「移動している方角は・・あのときの場所・・・!」
昇たちの気配を辿って、シオンが記憶を呼び起こしていく。
「私が2人を解放させた場所・・悲劇の過去、復讐と憎悪に囚われていた2人に、私は救いの手を差し伸べた・・解放させて、イヤなことを何もかも忘れさせた・・」
昇と香澄を石化させて快感で心を満たしたことを思い返していくシオン。
「あれで2人は救われた・・救われたはずだった・・・」
安らぎを感じていたシオンが、表情を曇らせる。
「どうして・・どうして救いから抜け出すの?・・苦痛の時間に戻りたいというの・・・?」
昇と香澄に対して不安と悲痛さを募らせていく。
「あなたたちが悲劇に見舞われていくのは、私は耐えられない・・・」
自分の思いに素直となって、シオンも荒野を目指して移動していった。
街から離れ、人のいない荒野にたどり着いた昇と香澄。2人はこれまでの自分たちを思い返していた。
「ここでオレは、お前とぶつかり合って・・・」
「その後、あの人に石にされて、おかしな気分になって・・・」
昇と香澄が荒野を見回して、記憶を巡らせて呟く。
「そんな気分を1年も味わってて、オレたちはいい気になってたのかよ・・オレらしくない・・・!」
「仕方ないよ・・そういう気分で、すっかり自分を見失ってしまったのだから・・・」
「それでも納得できない・・オレがこんなこと・・・!」
「うん・・納得できなかったから、私たちはまた自分を取り戻せた・・あの気分の中にいるのが耐えられなかった・・」
いら立ちを募らせていく昇に、香澄が頷いていく。2人ともシオンのもたらす救いを認めてはいない。
「もういい加減に、あの人が気づいてるはずだよ・・」
「そしてこっちに来る、か・・望むところだ・・」
香澄と昇がシオンのことを考えていく。彼女を倒さないことには自分たちの安息は永久に訪れないと、2人は思っていた。
「オレは敵を叩きつぶす・・アイツも、オレを縛る敵でしかない・・・!」
「私も・・束縛されたくない・・私の気持ちをないがしろにされたくない・・たとえどんないい気分でいられるとしても・・・」
変わることのない意思を口にする昇と香澄。
そのとき、2人は強く異質な気配を感じ取った。彼らにはこの気配の持ち主が分かっていた。
「ついに来たか・・・!」
昇が香澄と一緒に振り返る。彼らの前にシオンがやってきた。
「見つけた・・やっと見つけた・・あなたたちを・・・」
昇と香澄を見つけられて、シオンが戸惑いを浮かべていく。
「いつまでも付きまとわれてもいい気がしないからな・・ここで何もかも終わらせる・・・」
昇が憤りを口にして、香澄とともにシオンに振り返る。
「あなたたちを追い込もうとした人たちは、私が葬った・・あなたたちに苦痛を与えていたから・・・」
「それで自分は悪くないと言いたいのか・・・お前だって、オレを縛り付けようとしているヤツの1りだろうが・・・!」
自分のしたことを伝えるシオンを、昇が鋭く睨みつけてくる。
「縛り付けてはいない・私はあなたたちを救いたいだけ・・・」
「あなたの言うその救いは、私たちにとっては縛り付けでしかない・・心から救われていることにはならない・・・」
言いかけるシオンの言葉を、香澄も否定する。
「あなたたちを救えるのは私だけ・・他の人では、あなたたちに悲劇を与えるだけ・・・」
「いや・・オレを救えるのはもう、オレ自身でしかない・・・」
「私の救いの道は、私の力で進んでいく・・・」
互いに頑なな意思を示すシオン、昇、香澄。
「どうしても・・私たちは争わないといけないの・・・?」
悲痛さを募らせるシオンが、体から淡い光をあふれさせる。
「本当はこんなやり方はしたくない・・本当の救いのやり方じゃないから・・・」
「分かっているなら何もしてくるな・・オレの安息は、オレの手で取り戻す・・・!」
不本意なやり方をする自分を辛く思うシオンに、昇が憤りを見せる。
「誰だろうと、他の誰かに一方的に何かされるのは、もう耐えられない・・・!」
香澄も鋭く言いかけて、昇とともに異形の怪物の姿になった。自分たちが安心できる形を作るため、2人はシオンの前に立ちはだかった。
次回
「自分たちが救われるために、苦痛であふれた世界に飛び込むというの・・・!?」
「もう世界は、自分で何かしないと何も変わらない・・・!」
「本当に救われてほしいというなら、おとなしく始末されろ!」
「私・・どうしても・・あなたたちを・・・」