ガルヴォルスEternal 第19話「包囲」
戦いに赴いた昇と香澄に対して、涼子と亮太は心配を抱えていた。
「昇くんと香澄ちゃん、大丈夫かな・・・」
「2人が約束してくれたじゃないですか。僕たちが信じてあげなかったら、2人に悪いですよ・・」
そわそわする涼子に亮太が言いかける。彼に励まされて涼子が微笑んだ。
「そうね・・私たちがあたたかく迎えてあげないと・・」
頷きかける涼子に亮太も笑顔を見せていた。
「さて、私たちは仕事に集中しないとね。」
「はい、涼子さん。」
涼子に言われて亮太が答える。2人は他の店員たちとともに、店の仕事に励んでいく。
そのポニテにあるTVにニュースが映し出された。
“再び発生、続発しています、怪物による国会襲撃事件。政府はこれに対して、2人の人物を指名手配することを決定しました。”
TVのニュースが涼子たちの耳に入っていく。
“赤垣昇容疑者、葵香澄容疑者です。”
この言葉に涼子と亮太が驚愕を覚えた。亮太が驚きのあまり、持っていた皿を落として割ってしまう。
“政府は2人の容疑者の捜索と逮捕に向けて、全力に当たっています。”
このニュースに涼子も亮太も耳疑っていた。
(そんな!?・・・昇くんと香澄ちゃんが・・・!?)
昇たちが指名手配されたことに、涼子たちは愕然となっていた。
昇と香澄によって次々と殺されていく政治家たち。これを危惧した政府は、2人を重犯罪の容疑者として指名手配した。
これにより昇と香澄は軍や警察だけでなく、一般人からも敵視されることになった。
「まさか私たちが、国の敵になるなんて・・・」
香澄が自分たちが置かれている状況に不安を感じていく。
「そうまでして、オレたちをどうにかしようというつもりかよ・・・!?」
昇が国の上層部への憤りを募らせていく。
「いつまでもどこまでも、ゴミクズは・・・!」
「昇・・・」
両手を強く握りしめる昇に、香澄が戸惑いを感じていく。
「自分たちが正しいと言い張るためなら、どんな手段も使ってくる・・自分に悪いことは全部なかったことにする・・それがゴミクズなんだよ・・・!」
「私も・・人間というものが分からなくなってきた・・少なくても、国を動かしている人は・・・」
いら立ちを募らせる昇と、疑心暗鬼に襲われていく香澄。
「人間全部が悪いわけじゃない・・人間もバケモノも関係ないんだ・・悪いのは、心がバケモノ・・それがゴミクズなんだ・・・!」
「そいつらを滅ぼさない限り・・心から安心できない・・私たちも・・他のみんなも・・・」
頑なな意思をさらに強めていく昇に、香澄も自分が見出した答えを口にしていく。
「ヤツらの思い通りにはならない・・徹底的に叩き潰す・・・!」
昇が声を振り絞ってから歩き出す。
(昇・・・私が昇と一緒に行くのは、ひとつになったからとか、戦う目的が同じだからだけじゃない・・)
香澄も昇を追いかけて歩き出した。新しい答えを見出しながら。
(昇が暴走したときに、今度こそ私が・・・)
昇と香澄を指名手配をして、政治家たちは勝ち誇っていた。
「これでヤツらは思うように動くことができなくなった。」
「ヤツらを見つければ、殺人の犯罪者として捕らえてもおかしくない。」
政治家たちが笑みを浮かべて、言葉を交わしていく。
「バケモノの居場所などない。我々が認めん。徹底的に潰していく。」
「ヤツらが屈服すれば、我々の権力も信頼も絶対のものとなる・・」
自分たちの勝利を確信していく政治家。彼らは昇や香澄、怪物たちの根絶やしを至極当然と考えていた。
「赤垣昇、葵香澄を発見しました!」
そこへ1人の兵士が駆けつけて、政治家たちに報告をしてきた。
「直ちに始末しろ。決して逃がすな。」
「はっ!」
政治家の指示に答えて、兵士は離れていった。
「問題は黒野シオンか・・ヤツもバケモノの中でもバケモノの力を持っている・・」
「ヤツもうまく追い込めばいい。純粋なつもりでいるのだろうが、それが浅はかさとなる。」
シオンへの警戒をするも、策を弄して追い込もうと企む。
「この国は我々がまとめていく。これまでも、これからも。」
自分たちの権力が絶対だと誇示していく政治家たち。彼らの考えは昇と香澄に対しても、シオンに対しても変わることはなかった。
「いたぞ!赤垣昇だ!」
「葵香澄もいるわよ!」
昇と香澄を目撃した人々が声を上げていく。逃亡者はその声でたまらず逃げ出していくものだが、昇は逃げも隠れもしていなかった。
そんな昇と香澄を警官たちが取り囲んできた。
「動くな!2人とも逮捕する!」
警官たちが昇と香澄に向けて銃を構える。しかし昇は大人しくしようとしない。
「お前らも、ゴミクズの言いなりになってるのか・・・!」
昇がいら立ちを浮かべて、警官たちに鋭い視線を向ける。
「間違いに気づかないままでいて・・お前らはそれで満足なのかよ!?」
怒りをあらわにする昇の頬に紋様が走る。彼が龍の怪物になって、警官たちに向かっていく。
「バ、バケモノ!」
昇の怪物の姿を目の当たりにして、周りにいた人々が逃げ出していく。
「間違っているのは貴様たちのほうだ!おとなしく投降しろ!」
警官がさらに警告を投げかけるが、昇の怒りを逆撫でするばかりだった。
「ゴミクズの言いなりになると、同じゴミクズになるのか・・・!」
昇が飛びかかり、警官たちがたまらず発砲する。だが昇に弾丸は通じない。
「やはりバケモノ・・・に、逃げろ!」
警官が一気に恐怖を覚えて、昇から逃げ出していく。
「勝手なマネしておいて逃げるのかよ・・・!?」
昇がいきり立ち、逃げ惑う警官に殴り掛かる。警官数人が血をあふれさせて昏倒する。
(自分たちが利用されるってだけでも、償いきれない罪になってしまうんだね・・・)
昇に敵対しては返り討ちにされる人たちに、香澄は歯がゆさを感じていた。
再び人目のつかないところに来た昇と香澄。国の上層部の画策による濡れ衣を着せられても、昇は全く引け目を感じていなかった。
「もうみんなが、私たちを悪者だと思っている・・国の決定を、みんな鵜呑みにしている・・・」
「どいつもこいつも、ゴミクズの言いなりになりやがって・・・」
不安を口にする香澄と、いら立ちを募らせていく昇。
「でも、何も知らなかったり、無関心だったりの人も少なくないよ・・」
「それで自分のしてることがいいことにはならない・・・」
「みんな、自分が大事なんだよ・・自分に何かあるほうが、その人にとって1番辛いと思われているから・・・」
「それが、ゴミクズのやり口なんだよ・・そういうのがあるから、ゴミクズが出てくる・・ゴミクズが、付け上がる・・・!」
香澄が言いかけるが、昇は素直に受け入れようとしない。
「誰もやろうとしない・・だからオレがやるしかない・・・」
「昇・・・」
自分の意思を貫く昇に、香澄は困惑を募らせる。それでも香澄は共通の敵を倒す目的と理由で、昇に付いていく考えを変えなかった。
政府が下した昇と香澄への指名手配を、シオンも耳にしていた。この事態に彼女は驚きを感じていた。
「あの2人を・・みんなが・・・どうしてそんな・・・!?」
困惑と不安を募らせていくシオン。
「そんなことをしたら、2人が救われなくなってしまう・・それは絶対にダメ・・・!」
思い立ったシオンが昇と香澄の行方を探りながら、この事態を問いただすために政府に赴いていった。
徐々に昇と香澄を追い詰めていると確信していた政治家たち。彼は2人に対する監視をさらに強めるよう呼びかけていた。
「これでいい。ヤツらをこのまま追い込んでいけば、他のバケモノたちもおとなしくなっていく。」
「包囲網を密にする。それでヤツらは好き勝手にできなくなり、おしまいだ。」
政治家たちが強気の姿勢をさらに誇示していく。
「黒野シオンは今どこにいる?」
「現在捜索中。見つけ次第罪状を突き付けて連行する。」
シオンの動向も調べようとする政治家たち。
「この国は我々が構築しなければならん。我々が導かねば、崩壊するしかなくなる。」
自分たちの権力が絶対の正義と疑わない政治家。彼らは怪物もシオンも全て排除しようと、策を巡らせていた。
昇と香澄は警察や自衛隊の追跡と包囲に追われることになった。
「逃がすな!ヤツらを始末しろ!」
自衛隊が昇と香澄に攻め立てる。昇がいきり立ち、隊員たちを殴り倒して返り討ちにしていく。
「そうまでして・・そうまでして愚か者になりたいのかよ!?」
昇が怒号を放つが、それでも警官や隊員たちは彼と香澄を敵視する。
「このままでは全滅に・・ここは撤退するしかないか・・・!」
「引け!いったん引き上げろ!」
自衛隊と警察が昇と香澄から離れていく。彼らに追撃を振り切られて、昇が憤りを募らせていく。
「そうまでして死にたがって・・何がいいんだよ・・・イヤならやらなきゃいいのに・・・!」
「そうなることは、向こうにとってもいいことにならないことは分かるはずなのに・・・」
昇だけでなく、香澄も国の上層部のやり口に胸を痛めていく。
「ならばやめればいい・・そうすれば何もかも終わるのに・・・」
「そうだね・・やめられたらいいのに・・・みんなも・・私たちも・・・」
「オレはやめるつもりはない・・ゴミクズがいつまでも勝手なマネをしているから、叩きつぶさないといけなくなったんだ・・・」
「向こうがやめればこっちもやめる、か・・お互い、引くに引けないってことになってるんだね・・・」
頑なに自分の意思を貫く昇に、香澄は困惑を募らせていく。
「私も、人のことが言えなくなっている・・私も怪物を敵だと思っていたときから、そんな戦いをしてきたんだから・・・」
そして香澄が自分自身に対する皮肉を口にする。怪物への復讐と殲滅が、彼女の戦いのきっかけだった。
「私も、引くに引けない・・何もかも終わらせるまで・・悲劇も、戦いも、何もかも・・・!」
香澄は自分に言い聞かせて、歩き出す昇に付いていくのだった。
警察や自衛隊が死力を尽くしても昇と香澄を始末できないことに、政治家たちはいら立ちを募らせていた。
「なぜだ・・なぜこれだけやって、ヤツらは降伏しない!?」
「これでは埒が明かないということなのか!?」
自分たちにとって悪化する状況に、政治家たちが声を荒げていく。
「ヤツらは時期にここをかぎ付けてやってくる・・・!」
「我々は他の者とは違う。他国への亡命の手筈は整っている。」
政治家たちは自分たちが生き残ることを最優先の対策を練っていた。
「それに、我々の手がなくなったわけではない。」
「甚大な被害が出てしまうのは正直心苦しいが、ヤツらを野放しにしてそれ以上の被害が出てしまうよりは・・」
「破壊力の高い爆弾を使用する。都市への被害が甚大だが、それでバケモノどもを一掃できるなら・・・!」
昇や香澄、怪物たちを滅ぼすため、政治家たちは野心をむき出しにしていた。
「国民には伝えるな。公になれば、ヤツらの耳に知れ渡ることになる。」
「国民からは批判を受ける愚かしいこととされるだろうが・・我々が生き残れば、いくらでも国は立て直せる。」
自分たちを守るために、自分たちの国の人々をも犠牲にすることも厭わない政治家。昇たちに対する彼らの憎悪は過激化の極致に達していた。
昇と香澄が警察と自衛隊、国の上層部を手にかけていることは、怪物たちの耳にも入っていた。
「おい・・あの2人、人間どもをことごとく始末していってるぜ・・」
「今が絶好のチャンスってヤツじゃねぇか?」
「オレたちもアイツらに協力してやろうぜ。アイツらのほうがとんでもないとしても、力を合わせたほうが仕留めやすいのは、向こうも分かるだろうし・・」
怪物の姿を持っている男たちが、野心を浮かべて話し合っていく。
「そうと決まれば、派手に暴れてやるとするか!」
「よっしゃ!行くぜ!」
男たちが怪物の姿になって、街に繰り出してきた。
「うわあっ!」
「怪物!」
怪物たちを目の当たりにした街の人々が、悲鳴を上げて逃げ出していく。
「大暴れしてやるぜ!イヤッホー!」
怪物たちがいきり立って、次々に人々を襲っていく。自分たちがやりやすい時間がやってきたと、怪物たちは思っていた。
昇と香澄が国の上層部に対して敵意を向けたり攻撃を仕掛けたりしているのが、他の怪物たちの暴挙を助長する事態を引き起こしてしまっていた。
他の怪物たちが暴れまわっていることは、昇と香澄にも伝わっていた。ところが昇も香澄も怪物たちを快く思っていなかった。
「人間もバケモノも関係ない・・ゴミクズはゴミクズなんだよ・・・」
「私も、元々は怪物を憎んでいたから・・・」
不満を口にする昇と、歯がゆさを浮かべる香澄。
「怪物を仕留めることに、ためらいはないよ・・」
「オレも、迷うことはない・・今までも、これからも・・」
揺るがない決意を胸に秘めて、昇も香澄も自分の戦いに意識を傾ける。街の中心地へ向かっている彼らの前に、怪物たちが現れた。
「アンタたちのおかげで助かってるぜ、ホント・・」
「これでバカな人間どもに思い知らせることができる・・・!」
「もっと派手にやってやろうぜ!アンタたちのおかげで、勇気が湧いてきた!」
怪物たちが昇と香澄に意気込みを見せる。
「みんなで人間どもを襲って、オレたちの力を見せつけてやろうぜ!」
勝ち誇っている怪物たちに対して、昇がため息をつく。
「お前らも・・結局はゴミクズなのかよ・・・!」
憤りを募らせる昇が怪物の姿になる。彼は剣を手にして、怪物たちを見据える。
「な、何だよ!?何のマネだよ、そりゃ・・!?」
「自分たちの目的のために、何も悪くないヤツを苦しめておいて平気でいるのを、オレは許さない・・・!」
驚愕する怪物たちに、昇が鋭い視線を向ける。そして香澄も死神の怪物となって、鎌を構える。
「私も元々は、怪物を憎んでいたのよ・・・!」
「コ、コイツら・・人間も怪物も関係なく・・・!」
怪物たちが危機感を覚えて後ずさりする。
「ゴミクズは、1人残らず叩きつぶす・・・!」
「お、おのれ!」
昇が鋭く言うと、怪物たちがいきり立って飛びかかってきた。だが昇と香澄が振りかざした剣と鎌に切りつけられる。
「オ、オレたちまで敵に回してるのか!?」
「ちくしょう!全員で始末しろ!そうすりゃ勝てる!」
驚愕を募らせる怪物たちが、激情をあらわにして昇と香澄に飛びかかる。だが2人に次々と切り裂かれて昏倒していく。
「自分勝手が何もかも狂わせる・・どいつもこいつも、それが分かっていない・・・!」
昇が声を振り絞って、剣を構える。
「だからオレは、いつまでも安心できないんだよ・・・!」
昇が目を見開いて、怪物たちに切りかかる。怪物たちがさらに切りつけられて、鮮血をまき散らしていく。
「や、やばい・・逃げろ!」
怪物たちが畏怖して、慌ただしく逃げ出していく。
「くっ・・・ホント・・どいつもこいつも・・・!」
「昇・・・」
いら立ちを噛みしめる昇に、香澄も困惑を募らせていく。
「オレは誰の思い通りにもならない・・人間だろうがバケモノだろうが、ゴミクズには・・・!」
憤りを口にして、昇は香澄と一緒に歩き出す。
人間も怪物も関係ない。たとえ自分以外の全てが敵に回っても、その敵を滅ぼす。そうしなければ安心して生きていくことができない。
昇も香澄もその考えを貫いていた。
次回
「あなたたち、そこまでして・・・」
「世界から孤立しても、あなたも、私も・・・」
「あなたたちは救いを壊す存在となってしまった・・・」
「自分の首を絞めてしまったのよ・・あなたたちは・・・」