ガルヴォルスEternal 第18話「平和」
国の上層部を襲う怪物。1年間姿を見せていなかったその怪物が、再び行動を開始した。
この情報は他の政治家や議員たちの耳に入ってきていた。
「またアイツが出てきて、殺しを行うとは・・!」
「ヤツ、オレたちも見つけてやってくるぞ・・!」
「早く手を打たなければ!安全なところへ避難を・・!」
「ヤツがここを嗅ぎ付けてくるのも時間の問題だぞ!」
政治家たちが怪物の襲撃を恐れて慌てふためく。彼らは自分たちが助かることを第一に考えていた。
「そうだ!黒野シオンに協力を求めればいいのだ!彼女なら怪物たちを止めてくれる!」
「バカを言うな!アイツもバケモノのようなものではないか!あんなヤツに頭を下げられるか!」
「やはりここは我々だけで脱出しなくては・・!」
シオンに頼ることも却下して、政治家たちは国からの脱出を目論んだ。
そのとき、議員の1人が政治家たちのところに吹き飛ばされてきた。倒れた議員は血をあふれさせて動かなくなった。
「まさか・・アイツが・・・!?」
政治家たちが一気に緊迫を募らせた。彼らの前に怪物の姿の昇と香澄が現れた。
「どいつもこいつも、自分勝手なマネをして・・・!」
「自分勝手!?・・それは貴様らのしていることではないか!」
鋭く言いかける昇に、政治家が怒鳴り声を上げる。
「自分が満足するために人間を襲うバケモノが!」
「お前たちのために、国の安寧はムチャクチャだ!我々への信頼も大打撃を受けた!」
「貴様たちバケモノがいると、世界に恐怖が広がるのだ!」
政治家たちが昇や怪物たちへの憎悪を言い放つ。彼らの言動が昇の憤りを逆撫でする。
「お前らゴミクズに、何を言っても意味がない・・・!」
昇が両手を強く握りしめて、政治家たちに殴り掛かる。
「おわあっ!」
「ごあっ!」
政治家たちが殴り飛ばされて、次々に昏倒していく。残りの政治家たちが昇に対する恐怖を募らせる。
「やはり畜生は畜生・・言葉すら通じないとは・・・!」
政治家の1人が憤りを口にする。そのとき、彼の首元に香澄が死神の鎌の刃をあてがった。
「それはあなたたちのほう・・本当のバケモノは、あなたたちのほう・・・」
香澄は囁くように言うと、鎌を引いて政治家の首をはねた。
「あなたたちにはもう、失望しか感じない・・」
生き残っている政治家たちに、香澄も冷たい視線を送る。彼女と昇に迫られて、政治家たちが頭の中を緊迫でいっぱいにする。
「イヤだ・・こんなところで死にたくない!」
政治家たちが悲鳴を上げて逃げ出していく。だが昇にすぐに回り込まれる。
「他のヤツを苦しめておきながら、そんなことを言うのか・・・!?」
昇に鋭く睨まれて、政治家たちは絶望していく。昇に蹴り飛ばされて、彼らも命を落とした。
「ホントに・・どいつもこいつも・・・!」
上の地位にいる人間に、昇がいら立ちを膨らませていく。
(これが、私が憎んでいた、本当の敵・・私の友達を殺し、私自身もムチャクチャにした悪意と同じ・・・)
本当の敵がどういう存在なのかを再認識して、香澄が困惑していく。
(でも、敵を間違えていたわけでもなかった・・私が倒してきた怪物も、この悪意の持ち主だったから・・)
あふれそうになった涙をこらえる香澄。落ち着きを取り戻した彼女が、昇に振り向く。
「行こう、香澄・・まだ連中はたくさんいる・・・」
「昇・・うん・・・」
昇が声をかけて香澄が頷く。2人は安息を求めての戦いを続けていった。
昇と香澄を見つけることができず、不安を募らせる一方となるシオン。困惑を抱えたまま、彼女は会議場に赴いた。
「シオンさん、丁度いいところに・・!」
議員の1人が慌ただしくシオンに駆け寄ってきた。
「どうしたのですか?また問題が起こったのですか・・?」
「1年前、国会や政府を次々に襲った怪物のことはご存知ですよね?その怪物が、また現れたとの情報が・・!」
シオンが問いかけると、議員が状況を説明する。
「あの怪物・・・」
「このままでは我々の命が・・!」
考え込むシオンと、頭を抱えて慌てふためく議員。
(あの2人が、現れた・・しかも、2人とも元に戻っている・・・!?)
怪物が昇と香澄であると確信して、シオンは驚愕を覚える。彼女は困惑を表に出すのをこらえていた。
「シオンさん、何とかしてください!あのバケモノを止められるのは、もうあなたしかいないです!」
議員がシオンに懇願してきた。
「ここから全員退避してください。私だけが残ります。」
シオンが落ち着きを見せてから、議員に呼びかけた。
「ですが、シオンさんだけでは、さすがに危険なのでは・・!?」
「あなたたちを危険に巻き込むことのほうが、私にとって辛いことです・・私なら大丈夫ですから・・」
心配する議員にシオンが微笑を見せる。
「分かりました・・みなさんにもそのように伝えておきます・・」
「お願いします・・お気を付けて・・・」
頷く議員にシオンが声をかける。議員が去っていくのを見送ってから、シオンが抑えていた感情をあらわにした。
(間違いない・・あの2人よ・・・!)
シオンが昇と香澄のことを考えて、不安を感じていく。
(2人が、また争いの場に・・・!?)
困惑を募らせる彼女が、2人と対面する瞬間を頭の中で思い描いていた。
シオンに懇願して、彼女の言う通りに避難をした議員たち。彼らはシオンが昇と香澄を止めてくれると信じていた。
「シオンさん、大丈夫だろうか・・・!?」
「シオンさんなら何とかしてくれる・・たとえ相手があのバケモノだとしても・・!」
議員たちがシオンのことで話し合っていく。
「だが黒野シオンも危険分子だ・・あのまま同士討ちされてくれればいい・・」
「バカなことを言うな!シオンさんが我々を助けてくれたことを忘れたのか!」
「彼女のおかげで我々は平穏でいられる!国民も我々を支持してくれている!」
シオンについて考えをぶつけ合う議員たち。
「こんなところで言い合っている場合ではない!早く逃げるぞ!」
議員たちが呼びかけ合って、避難を急いでいく。
そのとき、兵士の1人が血しぶきをまき散らしながら、議員たちの前まで突き飛ばされてきた。この瞬間に議員たちが驚愕を覚える。
「逃がさない・・1人残らず叩きつぶす・・・!」
彼らの前に昇が現れた。彼と香澄は直接会議場に飛び込むようなことはせず、常に議員たちの動きを見計らっていた。
「いかん!バケモノがこっちに!」
議員が昇の姿を目の当たりにして目を見開く。議員の1人が携帯電話を取り出して、シオンに連絡しようとする。
「本当に姑息なんだね、あなたたちは・・」
だが携帯電話が突然切り裂かれた。香澄が振りかざした鎌が、携帯電話を切り裂いたのである。
「そんなに・・そんなに自分たちが守られればいいのかよ・・・!?」
昇が議員たちに怒りの言葉を口にする。
「我々に何かあれば、この国は混乱であふれてしまうことになる!」
「我々が生き残れば、国を建てなおすことは十分にできる!我々を守るのは当然のことではないか!」
「貴様らは国を、世界を狂わせたいのか!?」
議員たちが昇と香澄に怒号を放つ。だが彼らのこの言動が昇の逆鱗に触れていく。
「お前らも、自分たちが正しいと言い張るのか・・・!」
昇が両手を強く握りしめて、議員たちを鋭く睨みつけてくる。
「どうして分かろうとしない・・・お前らだけいい思いをしているようじゃ、何もかもおしまいなんだよ!」
昇が飛びかかり、議員たちを殴り飛ばす。議員たちの恐怖が頂点に達する。
「や、やめてくれ!助けてくれ!」
「お願いだ!死にたくない!死にたくないんだよ!」
体を震わせて涙を流して、議員たちが助けを請う。しかし昇に彼らを許すつもりは毛頭なかった。
「そう頼み込んでくるヤツを、お前らは助けたのか・・・!?」
昇が口にした冷徹な言葉で、議員たちの思考が完全に凍てついた。昇が繰り出した拳と香澄が振りかざした鎌で、残った議員たちも死を迎えた。
シオンに救援を懇願して避難しようとした議員たちだが、昇と香澄によって惨殺されることになった。
「・・オレたちのことを、ちょっとは考えろよ・・・!」
政治家や議員たちの態度や言動に、昇は憤りを噛みしめるばかりになっていた。
「昇・・・」
香澄が彼を見て戸惑いを覚える。
彼女は昇の心境を理解していた。昇も自分と自分の大切なものを守りたい一心であると分かっていた。
「中にまだいるはずだ・・1人も逃がさない・・・!」
昇は会議場に向かっていく。香澄も戸惑いを抑えて、彼に続いていった。
昇と香澄によって議員たちが殺されたことを、シオンは感じ取っていた。
(間違いない・・2人がみんなを・・・そして、こっちに近づいてきている・・・)
状況と昇たちの接近を感じ取っていくシオン。
(2人にもう1度、幸せを与えないと・・私が救ってあげないと・・・)
揺るぎない救いの決意を強めていくシオン。やがて彼女のいる会議場に昇と香澄が入ってきた。
「お前は・・・!?」
「あなたは・・私たちを・・・!」
昇と香澄がシオンを目の当たりにして、目を見開く。
「やっと見つけた・・・あなたたちを・・・」
シオンも昇と香澄を見て感情をあらわにしていく。
「どうやって・・どうやって元に戻ったの・・・!?」
「そんなことは知らない・・あんな状態にいつまでもいたくなかっただけだ・・・」
問いかけるシオンに昇が憮然とした態度で答える。
「私たちはあなたの言う幸せの中にいた・・あなたの救いの中に溺れていた・・でも、それは私たちの本当の幸せじゃなかった・・」
香澄が自分の気持ちをシオンに向けて言いかける。
「イヤなものが世界から消えない限り、私たちは本当の意味での幸せにはなれない・・たとえあなたが、最高の幸せを与えてくれたとしても・・」
「そんなことはない・・私の与える幸せは、辛さや悲しみ、イヤなものを忘れさせる・・・」
香澄が語りかける言葉を、シオンが言い返していく。
「自分の思い通りにならなさすぎるのが、幸せを壊すこともあるんだよ・・」
昇が自分の感情を口にしていく。ところがシオンは自分の意思を曲げない。
「自分の思い通りに・・幸せになりたいというなら、私に何もかも任せてくれたら・・・」
「自分で何とかしないと、納得できないこともあるんだよ・・・!」
シオンが言いかけた言葉を、昇が憤りを込めて一蹴する。それでもシオンは考えを変えない。
「それであなたたちが辛さの中にいるのは、よくないこと・・」
シオンが落ち着きを取り戻そうとして、昇と香澄に向けて右手を伸ばしてきた。
「今度こそ救ってみせる・・あなたたちを・・」
「あなただけでは、私たちは救えない・・・」
シオンの口にした言葉を香澄もはねのける。
「私はみんなを救う・・私にしか救えない・・・!」
シオンが昇と香澄に向かって飛びかかる。
「救いの押し付けは、ホントの救いにならないんだよ・・・!」
昇が低く言うと、シオンに向かって右の拳を振りかざす。その瞬間、昇が動きを突然止められた。
「また、金縛りを・・・!」
昇がシオンの念力で動きを止められたことに、香澄が毒づく。
「こ、この・・!」
「今度こそ、あなたたちに救いを・・!」
もがく昇に対して解放の力をかけようとしたシオン。そこへ香澄が飛び込み、鎌を振りかざしてきた。
シオンが伸ばしかけた右手を振りかざして、鎌を押さえて防ぐ。その隙に香澄は昇を抱えて、会議場を飛び出した。
「必ず・・必ずあなたたちを救ってみせる・・これ以上、戦いや悲劇の中にいさせるわけにいかない・・・」
昇と香澄を救う決意をさらに強めるシオン。彼女は気分を落ち着けようとして、今はあえて2人を追わないことにした。
昇を抱えて外に飛び出した香澄。体の自由を取り戻した昇が、香澄の腕を振り払う。
「やめろ!なぜ逃げる必要がある!?」
「あの人の力がものすごく厄介なのは、昇も分かっているはずだよね!?」
文句を言う昇に香澄が言いかける。
「もうあんな気分の中に沈むわけにはいかない・・それだけは絶対に避けて・・・!」
「くっ・・・!」
香澄に警告を投げかけられて、昇はいら立ちを押し殺すしかなかった。
「いったん出直したほうがいいみたいか・・アイツ以外にもう、ここにゴミクズはいない・・・!」
「うん・・他の場所に逃げているはず・・でも必ず見つけて追いついて・・今度こそ逃がさないで、この手で・・・」
低く呟く昇に香澄が頷く。2人はひとまず会議場から離れていった。
会議場の真ん中で1人たたずんでいたシオン。そこへ自衛隊が駆けつけてきて、彼女を発見した。
「黒野様、ご無事でしたか!」
隊員に声をかけられて、シオンは我に返って振り向いてきた。
「怪物はどうしたのですか・・・!?」
「・・・いなくなってしまった・・遠ざかってしまった・・・」
隊員の問いかけに、シオンが弱々しく答える。
「シオンさんからも逃げてしまうとは・・・!」
「本当に、とんでもないバケモノということなのか・・・!」
「こんなのに、我々は無力ではないのか・・・!?」
自衛隊の隊員たちが昇と香澄の力への脅威を痛感していく。
「みなさんは深追いはしないでください。下手に手を出すと命に関わります・・」
「黒野様・・しかし、あなただけでは・・・!?」
「私は大丈夫です・・私にとって、あなたたちやみなさんに何かあるほうが辛いから・・・」
心配する隊員たちに、シオンが微笑んで答えていく。彼女は昇と香澄を救いたいという感情を表に出さないようにしていた。
「分かりました・・私たちはこことこの周辺を調べてみます。」
「見つけ次第あなたに知らせます。よろしくお願いします。」
隊員たちがシオンに全てを託して、会議場から散開した。
(私がやるしかない・・私にしか、あの2人を救い出せない・・・)
抑えていた感情を実感して、シオンも会議場を後にした。昇と香澄を探しに。
(私が守る・・もう放さない・・・!)
その後、自衛隊が昇と香澄の行方を探ったが、2人を見つけることはできなかった。
また怪物が襲い掛かってきている事態に、政治家たちは憤りや恐怖など、様々な様子を見せていた。
「このままバケモノのいいようにされては、我が国の失墜となる!」
「何としてでもヤツを始末しなければ!最低でも追放しなければ、我らの命が・・!」
「しかしバケモノ相手に人間の力ではもはや無力・・!」
政治家たちが昇と香澄への対処を考案していく。
「こうなれば、ヤツらを指名手配にする・・犯罪者として、ヤツらを徹底的に追い込む・・・!」
政治家の1人が不敵な笑みを浮かべて、写真を机の上に出した。昇と香澄を写したものである。
「赤垣昇と葵香澄を指名手配する。ヤツらに安息の場所は与えん。」
昇と香澄を徹底的に追い込もうと、政治家たちは乗り出していた。
次回
「バケモノの居場所などない。我々が認めん。」
「いつまでもどこまでも、ゴミクズは・・・!」
「昇くんと香澄ちゃんが・・・!?」
「逃がすな!ヤツらを始末しろ!」