ガルヴォルスEternal 第17話「共闘」

 

 

 涼子と亮太に止められて、昇と香澄はポニテの奥の部屋で休息を取っていた。ところが2人とも焦りは感じていなかった。

「何でだろう・・今すぐ出て行って叩きつぶしたいはずなのに・・他のことを考えてしまう・・」

「私も・・涼子さんたちの言うことを聞かないといけない気がする・・」

 昇と香澄が自分の複雑な心境を口にしていく。

「これからやろうとしてるのが間違いだなんて思っちゃいない・・けど、それだけのことばかりって気には・・」

「うん・・涼子さんと亮太さんが、私たちを助けてくれた・・2人の気持ちを無視するんてできない・・」

「今は休んでいったほうがいいか・・・」

「休んでばかりだと涼子さんたちに悪いし、私たちも体がなまってしまいそうって思うから・・・」

「何もしないよりはマシか・・イヤなことを考えちまう暇もなくなるし・・」

「ちょっとだけでも、やってみようよ・・昔みたいに・・」

 昇と香澄が声を掛け合って、互いに笑みをこぼす。

「涼子さん、私たちにも手伝わせてください。」

 香澄が部屋を出て、涼子に声をかけに行った。

「オレもやるしかないってことか・・」

 昇は肩を落としてから、涼子たちの手伝いに向かった。

 

 1年ぶりにポニテでの仕事をすることになった昇と香澄。香澄はウェイトレスとしての接客のコツを忘れていなかった。

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 香澄がお客から注文を聞く。その様子を見て、涼子が笑みをこぼす。

 そして昇も皿洗いを続けていく。

「この調子も1年前と変わらないね、昇くん・・」

 亮太が気さくに言いかけるが、昇は黙々と皿洗いをしていく。

「マイペースだけど・・その調子はやっぱり昇くんだ・・」

 昇の変わらない姿を確かめて、亮太は安心を感じていた。

 特に問題も起こることなく、この日の営業は過ぎていった。

 

 必死に昇と香澄の行方を探ったシオン。しかし屋敷の周辺をくまなく探しても、感覚を最大限に研ぎ澄ませても、2人を見つけることも気配をつかむこともできなかった。

 昇たちのことを気に病みながらも、シオンは国会の仕事に臨んだ。2人への気がかりを表に出すことなく。

「シオンさんのおかげで、怪物による事件は大きく減少しました。ありがとうございます・・」

「全てはこの国や、世界のみんなが幸せになるために・・」

 感謝して頭を下げる議員に、シオンが微笑んで握手を交わした。周りにいる議員たちも、シオンたちに笑顔を見せていた。

「怪物の姿と力を持ってしまった人は、その力に溺れているばかりではありません。好きで怪物になったわけではないと拒絶しようとしても、迫害や恐怖に押しつぶされてしまう人もいるのです・・」

 シオンが怪物について議員たちに話していく。

「そのような人たちは、本来犯罪を犯そうとは思っていません。むしろ加害者ではなく被害者です。大切なのは、そのような人たちに救いの手を差し伸べることなのです。」

「シオンさん・・・」

「みなさんの心のケアも、私たちがしなければならないこと。それをお忘れのないよう・・」

 シオンは議員たちに告げると、1人会議場を後にした。

(私がみんなを救う・・辛いことも悲しいことも、私が忘れさせてあげる・・・)

 シオンが心の中で、人々の救済を強く願う。

(そして、あの2人も必ず・・・)

 昇と香澄を見つけ出すことを、シオンは強く願っていた。

 

 この日の仕事が終わり、昇も香澄も奥の部屋に戻っていた。

「久々だからうまくいかないと思っていたんだけど・・そんなことなかったよ・・・」

 香澄が自分の仕事ぶりを確かめて、苦笑いを浮かべる。

「オレはオレで、オレの仕事だ。」

「昇のペースでね・・」

 昇が言いかけると、香澄が付け加える。

「何にしても、丁度いい気分転換になったかな・・」

「そうか・・・そうだな・・・」

 香澄が口にした感想に、昇が納得を見せる。

「昇・・昇は人間が信じられなくなっているんだったね・・・」

「ゴミクズのせいでな・・信じられる人間は、ホントに、数えるほどしかいなかった・・・」

 香澄が気遣いを見せると、昇が自分のことを打ち明けていく。

「ゴミクズのせいで、オレは人間を信じ切れていない・・というより、世の中そのものに納得しちゃいない・・」

「昇・・・」

「まだ世界は、ゴミクズが好き勝手に動かしてる・・自分たちの悪いことはもみ消して平気な顔して、他のヤツも平気で傷つける・・自分たちが正しいと思い上がっている・・」

 世界を好き勝手に動かしている人間に対する憎悪を見せる昇に、香澄が戸惑いを募らせる。

「だから昇は、まだ安心できないんだね・・」

「あぁ・・だから今まで戦ってきたし、これからも戦い続ける・・・」

 香澄が言いかけると、昇は頷いて、自分の頑なな意思を示していく。

「オレはアイツらを絶対に野放しにはしない・・1人残らず、この手で・・・」

「この決心、昇だけのものじゃない・・私も同じ・・」

 香澄が昇が握りしめていた手に触れる。

「私も、本当の敵を倒す・・私の倒すべき、本当の敵が誰なのかが分かった気がするから・・・」

「オレたちの敵は今は同じってことか・・」

 香澄が口にした決意を聞いて、昇が納得する。

「オレたちは、いろんな意味で、切っても切れないって感じだな・・」

「エッチなこと、散々やっちゃったし・・」

「最初は、好きであんなことしたわけじゃなかったのに・・」

「すっかり感化されちゃったみたい・・・」

 肩を落とす昇に香澄が苦笑いを浮かべた。彼女と話していくうちに、昇は笑みをこぼすようになっていた。

「いつ終わるか分かんないことだけど・・終わったら・・ううん、区切りが付いたら、またここに帰ってこよう・・」

「そうだな・・それもいつの話になるのか分かんないけど・・」

 1つの約束を交わす香澄と昇。2人いつしか手を握り合っていた。

「2人とも、今日は本当にお疲れ様。」

 そこへ涼子が声をかけてきてきた。昇と香澄が慌てて手を放す。

「じっとしてると、イヤなことを考えそうになったから・・」

「考える暇もないくらいに忙しくしたかっただけなんですけどね・・」

 昇が憮然とした態度で、香澄が苦笑いを浮かべて言いかける。

「もうちょっと待って。夕食を作るから・・」

 涼子が言いかけて、夕食を作るために厨房に向かった。

「涼子さん、本当にありがとうございます・・私たちのために・・いろいろなことに・・・」

 香澄が涼子に向けて感謝の言葉を口にした。

 

 議会を終えて1人の時間を迎えたシオンは、再び昇と香澄の捜索に乗り出した。

(必ず見つける・・必ず・・・!)

 シオンが感覚を最大限い研ぎ澄ませて、気配を探る。ところがこのときも気配を感じ取れない。

(どこか遠くに連れて行かれたのか・・それとも、本当に力を抑えて・・・!?

 不安がさらに膨らんでいって、シオンが焦りを感じていく。

(ダメ・・諦めきれない・・2人がまた辛い中に投げ出されているのを、放っておけない・・・!)

 昇と香澄を諦めることに、シオンは胸を締め付けられるような不快感に襲われていく。

「見つけないと、2人を・・絶対に・・・!」

 自分の思いを口に売るシオン。彼女は昇と香澄を心の支えにしていた。

(私、2人がいないとダメ・・そうなっているみたい・・・)

 シオンも自分のこの感情を実感していった。昇と香澄に救いを与えることが自分の幸せ。シオンは自分の気持ちを確かめていた。

(私も、甘えていたんだね・・・それで、みんなを救えるのなら、それでも・・・)

 ふと笑みをこぼすシオン。彼女は改めて、昇と香澄の捜索を行った。

 

 夕食を終えて、昇と香澄は部屋で2人きりになっていた。

「もうオレたちは、切っても切れない関係になっちまった・・・」

「うん・・私たちの目的のためなら、それを受け入れても構わない・・」

 昇が口にした言葉に、香澄が小さく頷く。

「こうなったら、とことん相乗りしてやるよ・・香澄、お前と・・」

 昇が言いかけてから、香澄を抱きしめてきた。彼からの抱擁に香澄が戸惑いを覚える。

「いいよ・・目的が同じだから、どこまでも付き合う・・」

 香澄も昇と抱きしめて、そのまま2人は横たわった。彼らは衣服を脱いで、さらなる抱擁を続けていく。

「体の傷は消えたけど、心の傷はきっと、まだ深く残ってる・・多分、一生消えないのかもしれない・・」

「だからって諦められない・・今の世界でおとなしく暮らしてるくらいなら、オレは敵を滅ぼす・・」

「もう私たちと、連中が分かり合うことなんて、絶対にない・・・」

「違うというなら、アイツらはオレたちの声をちょっとでも聞いたはずだ・・」

 互いに体に触れ合って、香澄と昇がそれぞれの思いと決意を口にしていく。

「もうオレはゴミクズと一緒にはいられない・・この世界から完全に消す・・」

「私も、昇とこのまま進んでいく・・私の、本当の敵を倒すために・・」

 決意を口にした昇と香澄が、顔を近づけて口づけを交わした。2人は自ら望んだ抱擁での恍惚に、心を傾けていた。

 

 抱擁を交わした昇と香澄は、いつしか眠りに付いていた。明け方になって2人は目を覚ました。

「もう十分休んだよな・・・」

「うん・・もう大丈夫・・・」

 昇が声をかけて、香澄が小さく頷く。

「そろそろ行こうか・・オレたちの戦いに・・」

「うん・・私たちの敵を倒しに・・・」

 昇と香澄が服を着てから部屋を出る。2人はまた自分たちの戦いに赴こうとしていた。

「2人とも行くのね・・」

 涼子が顔を出して、昇たちに声をかけてきた。

「涼子さん、ありがとうございました・・涼子さんと亮太さんのおかげで、元気になりました・・」

「また帰ってきて、香澄ちゃん、昇くん。いつでも待っているから・・また、帰ってきて・・・」

 お礼を言って頭を下げる香澄に呼びかけて、涼子が表情を曇らせる。彼女の目から涙があふれてきていた。

「ごめん・・ごめんなさい・・・香澄ちゃん、昇くん・・お願い・・また、ここに帰ってきて・・・」

「涼子さん・・私たちのことを・・・」

 涼子の気持ちを受け止めて、香澄が戸惑いを覚える。亮太もやってきて、涼子の肩に優しく手を乗せてきた。

「僕からもお願いだ・・またここに戻ってきてほしい・・」

「亮太さん・・・私も、またここに戻りたいです・・でも、私たちには、やらないといけないことがありますので・・」

 亮太からも頼まれて、香澄が自分の正直な気持ちを口にする。

「絶対にここに帰ってきます・・ここが、私の帰る場所になったから・・」

「オレも、ここでまた皿洗いをやっていたい・・・」

 香澄に続いて昇も言いかけてきた。涼子と亮太が顔を見合わせて、笑みを見せて頷いた。

「調理とかもやってみたらどうかな・・?」

「・・・考えておく・・・」

 亮太が投げかけた言葉に、昇が憮然とした態度を見せる。その反応を見て、香澄と涼子が笑みをこぼした。

「・・もう行く・・必ず戻ってくるから・・・」

 昇はそそくさにポニテから外に出ていった。

「昇・・それじゃ、私も行きますね・・それじゃ・・」

 香澄は涼子と亮太に一礼してから、昇を追って駆けていった。

「帰ってきますよ・・2人とも、きっと・・」

「昇くんも香澄ちゃんも、体も心も強いから・・」

 亮太が声をかけて、涼子が頷く。2人は昇と香澄がまた戻ってくることを信じていた。

 

 シオンの言動と怪物の動向。政治家たちの中にその疑念を抱く人がまだいた。

「怪物との共存?世迷言も大概にしろと言うものだ。」

「黒野シオンというのもバケモノじみた力を使いおって・・」

 政治家たちがシオンや怪物に対する憤りを見せていく。

「必ずヤツをはめてくれる。世界がヤツに疑惑の目で見るようになれば、ヤツも好き勝手にできなくなる・・」

「早速手配のほどを。のんびりしているとヤツに気付かれる・・」

 政治家たちがシオンを陥れようと画策を図る。

「た、大変です!」

 そこへ1人の兵士が政治家たちの前に駆け込んできた。

「どうした!?いきなり何事だ!?

「怪物が・・怪物が官僚に・・!」

 政治家の1人の問いかけに、兵士が慌ただしく答える。その報告に政治家たちが緊迫を覚える。

「迎撃しろ!最低でも時間を稼げ!」

 政治家たちは呼びかけて、兵士を送り出す。その間に政治家たちは自分たちだけで脱出を図る。

「やはりバケモノだ!好き勝手に襲ってきて、我々を・・!」

「我々を襲うバケモノ・・もしやこれは、1年前にいた、あのバケモノ・・・!?

 政治家たちはさらなる不安と危機感を感じていく。彼らは昇のことを覚えていた。

「だが、1年ももう出てきていないのだ!今になって出てくる理由は何だというのだ!?

「知るか、そんなこと!バケモノの考えなど知ったことか!」

 政治家たちが廊下を駆け抜けながら、疑念を込めて怒鳴り合う。彼らは官僚から外に飛び出そうとしていた。

 その出入口の外に、怪物の姿になった昇が現れた。

「あ、あのバケモノ!?

「間違いない!1年前まで暴れていた、あのバケモノだ!」

 政治家たちが昇を目の当たりにして驚愕をあらわにする。

「お前ら・・いつまでもどこまでも、性懲りもなく・・・!」

「兵はどうした!?早く何とかしろ!」

 声を荒げる政治家たち。しかし彼らが呼びかけても、兵士が出てこない。

「どうした!?何をグズグズしている!?

「兵士たちはみんな始末したよ・・」

 声を張り上げる政治家たちに言いかけたのは、同じく怪物の姿になっている香澄だった。

「お前は、バケモノを退治していたバケモノ・・!?

「バカな!?貴様も人間を襲うというのか!?

 香澄の襲撃に政治家たちがさらなる驚愕を見せる。

「私の本当の敵が誰なのか、ようやく分かったのよ・・それは、怪物も人間も関係ない・・」

 香澄が自分の考えを口にする。彼女と昇に挟まれて、政治家たちがいら立ちを募らせる。

「バケモノは・・所詮バケモノということか・・!」

 政治家たちが言いかけると、拳銃を取り出して昇と香澄に向かって発砲する。だが2人に軽々とかわされる。

「ゴミクズは所詮ゴミクズ・・同じセリフを返してやる・・・!」

 昇が右手を強く握りしめて、政治家たちに振りかざす。昇に殴り飛ばされて、政治家たちが鮮血をまき散らす。

「や、やめてくれ!助けてくれ!」

 生き残っている政治家が悲鳴を上げて、昇と香澄に助けを請う。昇は彼に鋭い視線を向ける。

「そう言っているヤツを、お前らは助けたのか・・・!?

 昇が口にしたこの言葉に、政治家は絶望に襲われた。昇が繰り出した拳を顔に受けて、政治家は即死した。

 政治家たちや兵士たちの亡骸を見つめて、昇が憤りを浮かべて、香澄が深刻さを感じていく。

「まさかこうして、私たちが力を合わせるときが来るとはね・・・」

「共通の敵がいるってだけだけど・・・」

 言いかける香澄に昇が憮然とした素振りを見せる。

「次に行くぞ・・敵は、他にもいるから・・・」

「昇・・うん・・・」

 昇が声をかけて、香澄が頷く。2人は自分たちの敵を倒すために、場所を移動していった。

 

 

次回

第18話「平和」

 

「2人が、また争いの場に・・・!?

「これが、私が憎んでいた、本当の敵・・」

「お前らだけいい思いをしているようじゃ、何もかもおしまいなんだよ!」

「オレたちのことを、ちょっとは考えろよ・・・!」

 

 

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