ガルヴォルスEternal 第16話「脱走」

 

 

 シオンの石化から解放された昇と香澄。2人はそのまま抱擁を交わして、そのまま横たわった。

 石化の快感に囚われてはいない。2人は自分たちの意思で触れ合っていた。

 かつてそれぞれの信念やすれ違いから憎み合っていた2人。そのわだかまりがなくなったわけではない。

 その中で昇と香澄は心身を通わすことを決めた。これは逃れられないことだと2人とも割り切っていた。

 自分たちが憎むべき真の敵を倒す。そのためなら自分たちが交わることなど、受け入れても構わないこと。

 自分たちが心から納得するために、昇と香澄はひたすら抱擁を交わしていった。

 

 抱擁を続けた昇と香澄は、いつしか眠りについていた。2人が目を覚ましたのは明け方だった。

「眠ってしまったか・・・」

「ずっとおかしな気分になってたのに比べたら、全然だけど・・・」

 昇と香澄が呟いて、部屋を見回していく。

「今までずっと休みすぎたか・・」

「ホント、そうかもね・・体は石になる前から変わっていないのに・・・」

「いいさ・・これから、オレたちは戦い続けることになるのだから・・・」

「私たちの、本当の敵に・・・」

 昇と香澄が声を掛け合って、互いを見つめ合う。

「また、おかしな気分だ・・オレたち、あんなに憎み合ってたのに・・・」

「昇がいないと・・心にぽっかり穴が開くみたい・・・」

 2人がゆっくり手を伸ばして、握り合う。

「いつの間にか、かけがえのない仲になっちゃったね・・・」

「どうしても、切り捨てられない・・・」

「いないと、さびしくなってしまう・・・」

「いないと、どうかなっちまいそうだ・・石にされてたときみたいに・・・」

 思いを交わした香澄と昇が、部屋を出て、石化されている女性たちのいる大部屋を飛び出した。

「また、オレたちは戦いを始める・・・」

 昇が香澄と歩きながら、決意を口にする。

「もうオレたちが認めたものにしか縛られない・・自分勝手にオレたちを縛り付けようとするヤツが出てきたら、オレは容赦しない・・今までのように・・・!」

「私も、もう迷いを振り切る・・今までのように・・・」

 香澄も自分の決心を口にする。

「私たちの生き方は、私たちで決める・・・でないと、心の底から安心することはできないから・・・」

「あぁ・・安心しないと、オレたちはおとなしくできない・・・」

 香澄の言葉に昇が頷く。2人の頬に異様な紋様が浮かび上がり、龍と死神の怪物へと変化した。

「行くぞ、香澄・・・」

「うん、昇・・・」

 昇と香澄が屋敷を出て、外を一気に駆け抜けていった。

 

 世界各国の大臣や議員との会合も、シオンが行っている仕事である。シオンは各国の大臣たちとの交流も友好的である。

Everything is when your cooperation is here. I thank deeply.(全てはあなたの協力があればこそです。深く感謝しています。)」

 感謝の言葉を送る大臣と握手をかわして、シオンが微笑みかける。大臣たちも彼女に厚い信頼を寄せていた。

(私は私たちの住む国だけでなく、世界中を幸せにする・・私がやらないといけない・・)

 世界の人々に対面しても自分の決心を貫こうとするシオン。自分の力がみんなを幸せにできると、彼女は確信していた。

 

 大臣たちとの会合を終えて、シオンはみんなと別れて、1人の時間に入っていた。

(また、みんなに幸せを与えてあげないと・・・)

 また女性を探しに行くシオン。彼女は今夜も1人の女性を自分の屋敷に招いて、石化をかけた。

「気分がよくなってる・・こんな感じ、初めて・・・」

「あなたもみんなと同じように、私が守るわ・・辛いことも悲しいことも忘れて、この気分に心を預けて・・・」

 体を石にされて、そのときの快感に心を満たしていく女性に、シオンが喜びを感じていく。

「もうあなたを、不幸にはさせないから・・・」

「このまま・・この気分に・・・」

 微笑みかけるシオンの見つめる前で、女性も笑みをこぼす。快感で愛液をあふれさせていた彼女は、体が完全に石に変わり、動かなくなった。

「これであなたも、救われた・・・」

 また人を救えたと思って、シオンが喜びを募らせていく。

「もっとみんなを幸せに・・私の力が、みんなから苦しさや悲しさ、辛さを忘れさせて、幸せにしていく・・・」

 みんなに快感を与えて幸せを感じ続けていてほしいと、シオンはひたすら願っていた。

「あの2人に会いに行くことにしよう・・2人の幸せが、私の心を満たしてくれる気がするから・・」

 シオンは昇と香澄の様子を見ようと、奥の部屋に向かった。

 だが部屋にいるはずの昇と香澄がいない。

「えっ・・・!?

 2人がいないことにシオンが目を疑う。彼女は部屋を見回して、さらに部屋の中で気配を探っていく。

「い、いない・・・!?

 一気に緊張と不安を膨らませていくシオン。彼女は昇と香澄を必死に探すが、見つけることができない。

「どこに行ったの!?・・出て行けるはずがない・・・!」

 2人がいないことに、シオンは完全に冷静さを失ってしまう。

「いなくなるはずがない・・元に戻るなんてことはないし・・・!」

 シオンが部屋を飛び出して大部屋を見回す。そこでも昇と香澄の姿を見つけられない。

「誰かがここに入ったということ・・・!?

 屋敷に忍び込んだ人がいるのではという疑いも感じていくシオン。

「落ち着いて・・私なら居場所を感じ取れる・・・!」

 シオンが自分に言い聞かせて意識を集中する。彼女は昇と香澄の気配を正確につかもうとしていた。

「外!?・・・動いている・・・!?

 シオンは昇と香澄の気配を感じ取り、振り返る。

「2人を持ち出した・・・!?

 彼女は2人を追って、たまらず屋敷を飛び出した。

(気配が弱まって、感じ取れないほどになってしまった・・石になっていたら、そんなことにはならないはず・・・!)

 さらなる疑問に襲われていくシオン。彼女は徐々に、絶対にありえないと思っていることが現実に起きたと思い知らされていく。

(自分で元に戻るなんてことはない・・石になっているし、快感で満ちているから解放されたいと思うはずもない・・・!)

 昇も香澄も石化から解放されてなどいないと、シオンは必死に言い聞かせていく。

(何にしても見つけないと・・このままだと2人はまた、辛い時間の中に逆戻りになる・・・!)

 昇たちが血塗られた戦いの中にいることを危惧するシオン。彼女はさらに2人を探していくのだった。

 

 ポニテの営業時間が終わって、涼子たちは店の片づけをしていた。

「涼子さん、今日はもう上がってください。後は僕たちでやっておきますから・・」

「ううん、大丈夫。最後までやるわ・・」

 亮太が気遣いを見せるが、涼子は仕事を続けた。片付けが終わって、他の店員たちが帰っていく。

「では僕も上がります・・」

「今日もお疲れ様、亮太くん・・」

 声をかける亮太に涼子が答えた。

 そのとき、店の窓に影が映ってきた。人ではなく怪物の形の影である。

「か、怪物・・!?

 涼子が緊迫を覚えて後ずさりする。亮太も恐怖を感じながらも、彼女を守ろうとする。

 影は小さくなると、ポニテのドアが開かれる音がした。振り向いた涼子と亮太が、2人の怪物を目の当たりにする。

「あれは・・・もしかして・・・!?

 涼子が怪物たちに対して戸惑いを覚える。そのとき、怪物たちが突然倒れる。

「昇くん!香澄ちゃん!」

「えっ!?・・涼子さん・・・!」

 声を上げて怪物たちに駆けつける涼子に、亮太が驚きを浮かべる。怪物たちの正体は昇と香澄だった。

「昇くん・・香澄ちゃん・・・!」

 2人とまた会えたことに、涼子が一気に涙をあふれさせる。

「すぐに手当てを!亮太くんは昇くんをお願い!」

「わ、分かりました!」

 涼子に呼びかけられて、亮太が昇を運ぶ。涼子も香澄を抱えて、部屋に運んでいった。

 

 昇と香澄の手当てを終えた亮太と涼子。昇たちが安静になったのを見てから、亮太たちは合流した。

「何とか助けられたみたいです・・」

「体の傷は大したことはなかった・・よかった・・・」

 亮太と涼子が言葉を交わして、安堵を浮かべる。そして涼子がまた目に涙を浮かべてきた。

「本当によかった・・・昇くん、香澄ちゃん・・無事に、帰ってきた・・・」

「涼子さん・・・」

 喜びを感じて泣き崩れる涼子に、亮太も戸惑いを募らせていた。

「普通の人間でなくてもいい・・2人が無事に帰ってきてくれて、私は嬉しい・・・!」

「僕もです・・2人とも、やっとここに帰ってこれた・・・」

 涼子に続いて、亮太も昇と香澄の無事を喜んでいた。

「でも、2人とも今までどうしていたのでしょうか・・1年もの間・・・」

 亮太がふと疑問を投げかけてきた。

「私たちの想像のつかないことだらけだから・・今まで何をしてきたのか、私たちには・・・」

「今度こそ・・2人は話してくださるでしょうか・・・」

「分からない・・2人次第としか・・・」

 昇と香澄に対して、亮太と涼子は疑問と不安を感じていた。

 

 ポニテにたどり着くものの、昇とともに倒れてしまった香澄。朝日が昇ろうとしていたところで、彼女は意識を取り戻した。

「・・・ここは・・・」

 香澄が体を起こして部屋を見回す。彼女はここがポニテの部屋だと思い出した。

「ポニテ・・・私たち、帰ってきたんだね・・・」

 帰ってこれたと思って、香澄が安堵を浮かべる。

「この服・・涼子さんが着せてくれたのかな・・・」

 涼子が介抱してくれたと香澄は思った。

「香澄ちゃん・・・」

 そこへ涼子がやってきて、香澄に声をかけてきた。

「涼子さん・・涼子さんが、私たちを助けてくれたんですか・・・?」

「えぇ。昇くんは亮太くんが見ているわ・・とても疲れていたみたいだけど、体の傷は大したことはないみたい・・」

 香澄の疑問に涼子が答える。昇と亮太のことを気にしながら、涼子は香澄に視線を戻す。

「今まで、何があったの?・・何をしていたの・・・?」

 抱えていた疑問を香澄に投げかける涼子。すると香澄が深刻な面持ちを浮かべてきた。

「言いたくなければいいわ・・でもあなたたちに何かあると、私たちも辛くなるから・・・」

「・・・正直、この1年は私たちでも、どう説明したらいいのか分からないんです・・」

 首を横に振る涼子に、香澄が話を切り出した。

「私たち、石にされていたんです・・それも、いい気分にさせる石化に・・・」

 香澄が語りかけるが、涼子はあまりに突拍子な話だと感じて、困惑するばかりになった。

「私と昇は石にされて、おかしな気分で心がいっぱいになって・・その気分のままずっと過ごすことになっていたんです・・」

「それで、香澄ちゃんたちでも、よく分からない状態になっていたの・・・?」

 涼子が投げかけた疑問に、香澄が小さく頷く。

「あの気分のまま、私たちはずっと一緒に・・・」

 昇と過ごした快感の1年を思い返して、香澄が自分の体を抱きしめる。

「もしも自分を取り戻すことができなかったら、私たちはずっと、あのおかしな気分の中で生き続けることになっていた・・・」

「香澄ちゃん・・昇くん・・・」

 香澄の話を聞いて、涼子が戸惑いを感じていく。

「あなたたちは、仲直りできたの・・・?」

「仲直り?・・・あぁ・・私たち、憎み合って戦い続けていたけど・・」

 涼子が投げかけた疑問に香澄が思い出して答える。

「私たち、お互いの過去を確かめ合って、話し合うことができたんです・・それでお互い、分かった気がしたんです・・・」

 香澄がさらに話を続けて、表情を曇らせる。

「本当の敵が何なのかと・・私たちの敵が、本当は同じだったことが・・・」

「香澄ちゃん・・・昇くん・・・」

 彼女が見出した答えに、涼子は複雑な気分を感じていた。

 

 そして昇も別の部屋で意識を取り戻した。

「ここは・・・」

「ポニテだよ。君と香澄ちゃんは、店にやってきたところで倒れたんだよ・・」

 声を上げる昇に亮太が声をかけてきた。

「オレ・・戻ってこれたのか・・」

「香澄ちゃんは涼子さんが見ているよ・・知らせに行ってくるよ・・」

 呟きかける昇に言いかけて、亮太が部屋を出ようとした。

「香澄も一緒か・・外に出てからここに来るまで、無我夢中だったから・・・」

「昇くん・・・」

 昇が口にした言葉に、亮太が戸惑いを覚える。

(昇くん、どこか変わった・・変わった気がする・・・)

「香澄は別の部屋なのか・・・?」

 昇に声をかけられて、亮太が我に返る。

「あぁ・・香澄ちゃんも目が覚めたのかな・・・」

「そうか・・・」

 動揺を見せる亮太の答えを聞いて、昇は安心を感じていた。

「まだ動いたらダメだよ・・疲れてここに来て、一晩ずっと寝ていたんだから・・」

「寝てる場合じゃない・・オレには、やらないといけないことがある・・・」

 起き上がろうとする昇を亮太が呼び止める。しかし昇は思いとどまらない。

「今は体を休めないといけないよ・・やることがあるならその後だよ・・」

「関係ない・・オレは・・オレは・・・!」

 亮太の呼びかけを振り切って、部屋を出ようとする昇。だが意識を失いかけて、彼はふらついて部屋の壁にもたれかかる。

「ほら、だから言わないことじゃない・・まだ横になってないと・・」

 亮太に支えられて、昇は腑に落ちないながらも横たわることになった。

「亮太くん、昇くんは?・・昇くんも気が付いたのね・・」

 そのとき、涼子がやってきて、昇が目が覚めたのを確かめた。

「亮太くんの言う通り、今は休んだほうがいいわ・・あなたたちに何かあったら、私も亮太くんも・・」

 涼子が呼びかけても、昇は納得していない。しかし頑なな意思とは裏腹に、彼の体は思うように動かなくなっていた。

「昇くん・・香澄ちゃんも、やらないといけないことがあって、ムリに動こうとしていたわ・・今はおとなしくなって休んでいるけど・・」

「香澄ちゃんも・・・この1年で、本当に何があったっていうんだ・・・」

 涼子の話を聞いて、亮太が昇と香澄のことを気に病む。

「僕たちが思っている以上に、大変な経験をしてきたんですね、2人とも・・・」

「香澄ちゃんから話を聞いたけど・・きっと私たちには、とても手に負えないことだと思う・・・」

 昇と香澄の体験と心境に、亮太も涼子も深刻さを隠せなかった。彼らは昇たちの力になれないことを思い知らされていた。

 

 屋敷からいなくなった昇と香澄を探すシオン。一晩中探しても、シオンは昇たちを見つけられなかった。

(どこに行ってしまったの!?・・これだけ探して、見つからないはずがないのに・・・!)

 昇と香澄がいないことに、シオンは平穏さを失っていた。

(どこかにいる・・どこにいても、必ず見つけないと・・・!)

 昇と香澄を追い求めて、シオンはさらに駆け回っていく。いつしか2人の存在は、彼女にとっての心の支えになっていた。

 

 

次回

第17話「共闘」

 

「まだ世界は、ゴミクズが好き勝手に動かしてる・・」

「オレはアイツらを絶対に野放しにはしない・・」

「私も、本当の敵を倒す・・」

「私たちが力を合わせるときが来るとはね・・・」

 

 

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