ガルヴォルスEternal 第15話「幸福」
シオンの導きによって、世界各国も平和に向かっていた。事件の数も減り、怪物との和解も強くなりつつあった。
一方でシオンは女性たちを石化して、その快感によって安息を与えていた。
着実にシオンの思い描いている理想郷に近づきつつあった。
(そう・・もっと・・もっとみんなに幸せを・・・)
多くの人に救いの手を差し伸べようと、シオンは行動を続けていた。
国や世界のために尽力しているシオンのことは、人々の周知となっていた。不信や無関心が強まっていた政治に、人々の注目が強まっていた。
「シオンさんが現れてから、本当に暮らしやすい世の中になったよ・・」
「これまでの政治家は、みんな自分勝手だったからな。」
「国民のことをまるで考えてないからな・・!」
「国を導く立場なら、しっかりしてくれないとな。」
人々がシオンや現在の政府について語り合っていく。
「でも、シオンさんについて詳しくは知られていないよね・・」
「どういう経歴かなんて関係ない。私たちのために頑張ってるんだから。」
シオンのことを気にしながらも、彼女がもたらす平和のために追求しようとしない人々。
「信じよう、シオンさんを。シオンさんなら信じられる。」
「うんうん。ありがとう、シオンさん。」
シオンを疑うことなく、信頼を寄せていく人々。彼らのシオンに対する信頼は絶大となっていた。
シオンの存在は、涼子と亮太の耳にも届いていた。
「すっかり人気者ですね、あの黒野シオンって人・・」
「本当にみんなのことを大事に考えて・・国や世界の鏡になっているね・・」
TVのニュースで取り上げられているシオンの映像を見て、亮太と涼子が呟きかける。
「あの人なら、もしかしたら香澄ちゃんと昇くんを見つけてくれるかもしれない・・」
「そうかもしれない・・でも私は、あの人には何かあると思えてならない・・・」
亮太が考えを口にするが、涼子は腑に落ちなかった。
「涼子さん・・あの人が、香澄ちゃんたちに何かしたっていうんですか・・?」
「それは分からない・・ただそんな気がするだけ・・・」
「何か、関係しているとは、僕も思っています・・確証も何もないけど・・」
「でも、訪ねるにしても、どうやって会えばいいのか・・・」
シオンのことを気にしながらも、確実に会えるチャンスも思い浮かばず、亮太も涼子も悩むばかりだった。
「昇くん、香澄ちゃん・・何とか無事でいて・・」
昇たちの無事を心から願う涼子。彼女は何とかして気分を落ち着かせようとしていた。
石化した女性たちのいる部屋を訪れていたシオン。彼女の頭の中に、女性たちの恍惚で満ちあふれた心境の声が伝わってくる。
「みんな・・本当に幸せね・・何も悪いことを考えていない・・・」
女性の1人の頬に手を添えて微笑みかける。
「もっとみんなに幸せを与えてあげたい・・私が与えないと・・・」
シオンは自分に言い聞かせて、みんなを助けようとする意思を強めていく。
「これで世界が救われる・・救われるなら・・私は、迷ったりしない・・・」
みんなを救えるのは自分しかいないと言い聞かせて、部屋を後にするシオン。
「あの2人も、本当に救われている・・・強い怒りも憎しみも、私の解放が消した・・・」
昇と香澄のことを思い返して、シオンが微笑みかける。
「みんなが救われていないと・・誰かが辛い思いをしていたら、それは世界が幸せとは言えない・・・」
シオンは呟きながら、昔の自分を思い出していた。自分だけでなく、自分の周りにいる人たちさえも苦しさや悲しさ、辛さを抱えて抜け出せないでいた時間を。
そのときからシオンはひたすら願っていた。自分を含めたみんなの幸せを。
「どうしたらみんなが幸せになれるのか・・ずっと考えて、考え続けて・・・」
シオンは呟きを続けて、落ち着きを取り戻していく。
「本当の幸せの形を、私は見出した・・・」
解放の石化を使えることを、シオンは喜ばしく思っていた。
「怒りも憎しみも、苦しみも悲しみも、辛さも忘れられる・・幸せで満ちあふれている・・そうさせてあげるのが、私からの救済・・・」
心からの笑顔を浮かべて、シオンは救済のための行動に向かった。
満ちあふれている快感の中で、抱擁を続けている昇と香澄。憎悪も辛さも感じていないはずの2人だったが、稀に涙や抗いの声が漏れていた。
「あ・・・ぁぁぁ・・・」
抱擁の中でまた、昇と香澄が声を漏らしていく。
「オ・・・オレ・・・」
「わ・・・私・・・」
ついに言葉を口にするようになった2人。彼らはわずかだが自我が戻りつつあった。
「し・・・昇・・・」
「か・・・香澄・・・」
さらに互いの名を口にする2人。快感に突き動かされて互いに触れ合い続けていても、彼らは徐々に自分を取り戻しつつあった。
そして昇と香澄は、相手の記憶の光景を見るようになっていった。
昇はかつては屈託のない日常を送っていた。彼のそばには父、悟の姿があった。
(これが・・・昇の、お父さん・・・)
昇と悟を見つめて、香澄が戸惑いを感じていく。
昇はこの時間の日常がいつまでも続いていくものだと信じて疑っていなかった。
だが、自分たちの思惑通りにしようとする人間たちによって、悟は犯罪者に仕立てられた挙句に命を落とした。さらにその人間たちは政治家たちと結託して、自分たちの罪を完全にもみ消していた。
(そんな・・・人間が、こんなことをするなんて・・・)
悟を陥れた人間たちに香澄が目を疑う。彼らの行動に憤慨して、昇が問い詰めてきた。
(このときの昇はまだ普通の人間・・人間が、怪物がやるようなことを・・・)
人間たちが昇にしたことを目の当たりにして、香澄が愕然となる。人間たちは昇をも陥れようとする。
そのときだった。昇が異形の怪物へと変貌を遂げたのは。
「これが人のやり方なら、オレは人を憎む・・この国や世界で思い上がっているゴミクズは、見つけ次第始末する・・・」
自分たちを陥れた人間たちを手にかけた昇が、国や世界を動かす人間への憎悪を固めた。
(これが、昇が人間を憎むようになったきっかけ・・・)
昇の過去を目の当たりにして、香澄は困惑を募らせていく。
(違う・・人間がこんなことするはずない・・きっと、怪物が人間に成りすまして・・・)
人間は間違っていないと自分に言い聞かせようとする香澄。だが怪物が怪物にならずに昇に殺される理由が分からず、彼女は彼の憎悪を認めざるを得なかった。
(怪物は・・・元々は、人間・・・)
シオンの言葉を思い返して、香澄は辛さを募らせる。彼女は怪物を憎んできた自分の感情に揺らぎを感じていた。
(私も、人殺しをしていたっていうの・・・)
自分が間違ったことをしていると思い、香澄が心を揺さぶられていく。
(私が通ってた学校を襲って、みんなを殺して、裏切って笑って平気な顔をしていた怪物たちも、元は人間だった・・・)
自分が体験した悲劇も、怪物になった人間が引き起こしたものだと思い知らされて、香澄が絶望していく。
(それじゃ、私が憎んでいたのは・・・)
彼女は自分が憎むべき敵が何なのか分からなくなり、ふさぎ込んでいく。
(私・・私は・・・)
自分の決心を見失い、香澄は昇の過去から目をそむけた。
昇も香澄の過去を目の当たりにしていた。マオ、ひとみとの友情の中で暮らしていく香澄を見て、昇は当惑を感じていた。
「アイツ・・人間と仲良く・・・」
憤りを覚える昇が弱々しく声を発する。香澄のこの平穏はいつまでも続くことはなかった。
突如現れた怪物たちに襲われて、生徒も先生も次々に殺されていく。香澄も必死に怪物から逃げ惑う。
さらに香澄は怪物となったマオに裏切られた。怪物に友達も学校の人たちも殺されて、騙されて裏切られた怒りと悲しみで、香澄は死神の怪物に変貌した。
「アイツに、こんなことが・・・」
香澄が体験した惨劇を目の当たりにして、昇が困惑を募らせる。
「あのバケモノたちも、自分たちの目的のためにみんなを殺して、平気な顔をして・・・ゴミクズじゃないか・・・」
マオたち怪物を自分が憎んできた国の上層部たちと重ねていく昇。
「香澄・・・お前も・・ゴミクズのことを憎んでいたのか・・・」
昇は香澄との戦いの中で、彼女の心境を察していく。
「お前はゴミクズの味方ではなく、敵・・それなのに、オレは・・・」
香澄と敵対したことに、昇は自分自身に憤りを感じるようになっていた。
「オレが・・後悔するなんて・・・」
心の揺らぎを感じて、昇が自分の胸に手を当てる。自分の怒りと決意をひたすら貫いてきた昇にとって、彼自身、後悔することはないと思っていた。
「・・・オレは・・・アイツと・・香澄と向き合わないといけないってことなのか・・・」
自分のやるべきことを確かめて、昇は瞳を閉じた。
それぞれ互いの過去を目の当たりにした昇と香澄。意識を心の中に戻した2人は、快感に包まれて失っていた自我を取り戻していた。
「・・・オレ・・・」
「・・・私・・・」
昇と香澄が声を振り絞って、互いを見つめ合う。
「これが・・お前の・・・」
「あなたの・・・過去・・・」
互いの過去と心を垣間見た2人が戸惑いを募らせていく。
「お前も、オレと同じだったのか・・・」
「まさか人間も、怪物みたいなこと・・・」
香澄への共感を抱く昇と、人間への絶望と憤りを感じていく香澄。
「オレとお前は、憎むべき相手が同じだったなんてな・・」
「私が憎んでいたのは、怪物でも人間でもない・・身勝手に自分を押し付けてくる相手・・・」
「オレも、そうだったんだ・・別に怪物の味方をしていたわけでもなかった・・・」
「大切な人を守るために、私もあなたも、敵と戦ってきただけ・・その矛先を向けていたのが、怪物ばかりだとか人間ばかりだとか、その程度の違いでしかなかった・・・」
自分たちの考えを確かめていく昇と、不安を募らせていく香澄。
「でも、どっちにしても、私たちは今は・・・」
香澄が自分たちの現状を口にする。2人ともシオンの力で石化されていて、全く体が動かなくなっていた。
「そんなの関係ねぇ・・無理やりにでも元に戻ってやる・・・」
昇が憤りを浮かべて言いかける。
「今まで元に戻れなかったのは、おかしな気分になってたからなんだ・・あの気分のせいで、ホントに自分を見失ってた・・・」
「昇・・・」
「この気分に浸ってれば、オレもお前も、イヤなことを考えることなく、ずっと暮らしていけると思う・・けど、これは・・何かが違う・・オレたち、らしくない・・・」
自分たちの現状を口にする昇に、香澄が戸惑いを募らせる。
「いくらいい気分になっても、縛られるのはいいことにはならねぇ・・だからオレは、こんなの、打ち破ってやる・・・!」
「でもどうやって?・・私たち、怪物になれない・・今もなろうとしているけど、やっぱり石にされているから・・」
意識を集中させる昇と、さらに不安を感じていく香澄。昇が感覚を研ぎ澄ませても、怪物になることも力を強くすることもできない。
「力が使えない・・ホントにオレたちは、何もできない・・・!?」
昇が愕然となって、自分の手のひらを見つめる。
「こんなのってない・・このままいいように縛られるなんて・・・!」
不自由に縛られた状態に、昇は憤りを感じていく。そのとき、昇の右の手のひらに香澄が自分の左手を合わせてきた。
「私も・・いつまでもこんな形で縛られていたくない・・自由になりたい・・・!」
「香澄・・・」
香澄も自分の感情を浮かべてきて、今度は昇が戸惑いを覚える。
「どうしたらいいのか分からない・・・怒りとかを出せば、何とかなるのかな・・・!?」
「オレにも分かんない・・けど、何とかしてやる・・・!」
互いに感情を募らせていく香澄と昇。
「それに、石化されるとき、私たちはあの気分に襲われて、逆らえないまま抱きしめ合って・・・」
香澄が石化されたときの自分たちの状態を思い返す。完全に石化したとき、2人は性交したままである。
「もう私とあなたは、離れることができない・・私の中に、あなたが混じっている・・・」
「・・今まで憎み合ってきたオレたちが、ひとつになるとは・・今の状態から抜け出せても、オレはお前にずっと囚われたまま・・・」
「昇・・私もずっと、昇に囚われていくだけ・・・」
昇の感情を聞いて、香澄が自分への皮肉を口にしていく。
「ううん・・こうなる前から、私はあなたに囚われていたのかもしれない・・あなたも、私に・・・」
「何もかも、オレたち自身の怒りが招いたことか・・」
自業自得を痛感していく香澄と昇。2人はやるせない気分と込み上げてくる感情に突き動かされるように、抱擁を交わす。
「ここまで来たなら、このぐらいのこと、受け止めてやる・・絶対に許せないことを叩きつぶすために・・・」
「私も・・本当に倒すべき相手を、私は見つけた・・今まで以上に、迷いを切り捨てるよ・・・」
昇と香澄が抱きしめ合い、それぞれの決意を口にする。
「オレたちはこんなところでじっとしてるわけにいかねぇ・・・!」
「どうすればいいのか分かんないけど・・元に戻りたい・・たとえ今が1番気分がいいと思えても・・・!」
2人が意識を集中して、元に戻ることを強く念じる。叶わないとか関係ない。ひたすら石化から解放されることを念じていく。
そのとき、昇と香澄の体にヒビが入った。
「なっ・・!?」
「えっ・・!?」
突然のことに2人が驚愕する。ヒビはさらに広がって、その中から光があふれてきていた。
「これって・・・もしかして・・・!?」
香澄はこの異変に1つの考えを脳裏に浮かべた。自分たちがひたすら念じた、元に戻る自分たちを。
屋敷の奥の部屋で石化して立ち尽くしていた昇と香澄。2人の石の体から光があふれ出した。
石の殻が剥がれるように、昇と香澄の体が元に戻った。
「オ・・・オレ・・・」
「私・・・」
互いの顔を見つめて戸惑いを浮かべる昇と香澄。2人はそのまま互いの体を強く抱きしめた。
「元に戻れた・・のか・・・」
「そうみたい・・体が、石でなくなっている・・・」
昇と呟き合って、香澄が自分の手を確かめる。体は石から元に戻っていた。
「私たち、まだ抗うことができるんだね・・まだ、戦える・・・」
「誰の許可ももらわねぇよ・・オレがヤツらを倒すだけだ・・・」
気を引き締める香澄と、自分の意思を示す昇。
「オレたちの敵は、同じになったみたいだ・・・」
「うん・・私たちはもう、一心同体になった・・・離れようとしても、離れられない・・・」
昇と香澄が抱擁したまま横たわる。2人は互いの体に触れ合って、心身を通わせていく。
シオンの石化による快感に振り回されてはいない。2人は自分たちの意思で交わりを行った。
次回
「もうオレたちが認めたものにしか縛られない・・」
「私たちの生き方は、私たちで決める・・・」
「い、いない・・・!?」
「でないと、心の底から安心することはできないから・・・」