ガルヴォルスEternal 第13話「永遠」
突如現れた少女、シオンによって、満身創痍の昇と香澄は動きを止められていた。シオンが口にした怪物についての話に、昇も香澄も困惑を痛感していた。
「怪物になるのが人から別の生き物になると思っていたの?それは違うわ。あなたたちも私も人間。人間が進化ということ・・」
「そんな・・そんな単純だなんて・・・!」
シオンの話に香澄が愕然となる。
「人間自体も、サルや魚、様々な生物が進化を繰り返してたどり着いた種族なのよ。動植物の遺伝子が表面化してもおかしくない。普通の人間が発現する可能性は極めて少ないけどね・・」
「怪物も、その人間がその流れでさらに進化したってこと・・・!?」
「そうよ。でも大抵の人はあくまで怪物なのだと思ってしまう。自分が被害にあう前に始末を付けなければと考えるのが普通になっている・・」
シオンの言葉に香澄は困惑するばかりになっていた。
「ふざけんな!始末されるのはゴミクズのほうだ!」
昇がシオンに反発をしてきた。
「自分たちがいい思いをするために、他のヤツを平気で陥れて、それを正しいことにしている!そんなヤツらをオレは許さない!」
「そのためにあなたは戦って、それで苦しみも増している・・それではただの悪循環でしかない・・」
「勝手を言うな!ヤツらを野放しにするほうが愚かなことだろうが!」
「そのためにあなた自身が傷ついていく・・それでは仮にあなたが望む幸せが実現されたとしても、自分が辛くなるだけ・・」
怒鳴りかかる昇にシオンが切実に言葉を投げかけていく。
「その辛さから、私があなたたちを解放してあげる・・・」
「ふざけんな・・オレはお前なんかに・・・!」
手を差し伸べてくるシオンに、昇が抗おうとする。しかし昇にはシオンの念力をはねのける力が残っていない。
そのとき、シオンが突然突き飛ばされてしりもちをついた。彼女に手を出したのは、昇と同じく動きを封じられていたはずの香澄だった。
「あなた、どうやって動けたの・・・?」
「残された力を溜めこんで、一気に出したからね・・何とか抜け出すことができた・・・」
疑問を投げかけるシオンに、香澄が語りかける。シオンが突き飛ばされたことで、昇が念力から解放される。
「今の私じゃ、とてもどうにもならない・・悔しいけど、逃げるしか・・・!」
もう自分に力が残されていないことを自覚していた香澄は、シオンから離れることにした。
「お、おい・・アイツ・・・!」
昇がいら立ちを噛みしめて、香澄を追うように駆け出す。
「逃げられるなんて・・消耗しているものだと甘く見ていたみたいね・・」
昇と香澄の底力を侮ったと思い、シオンが呟く。
「でも私は、あの2人を救い出す・・・」
シオンは2人を追って歩き出していった。
シオンから離れることにした昇と香澄。2人は互いに助けられたことに納得していなかった。
「どうして、オレを助けた!?・・助ければオレが信じてくれると思ってるのか・・・!?」
昇が香澄に疑問を投げかける。
「助けたつもりなんてない・・私はまだ死ぬわけにはいかない・・それだけ・・・!」
香澄が息を乱しながら答える。
「仮にそのつもりがあったとしたら、きっとそれは・・あなたをこの手で倒したいと考えたから・・・!」
「やっぱり、自分の目的のために・・・!」
「それはあなたたち怪物のほうじゃない・・これ以上、私の大切な人を傷付けさせない・・・!」
「何度言っても分かろうとしない・・ゴミクズどももお前も、自分のしている愚かさが・・・!」
互いに敵意を見せ合う香澄と昇。2人は互いの言動を受け入れようとしない。
「でもまずは、あの人を何とかするのが先・・あなたも嫌々ながらそう思っているのよね・・・?」
「関係ない・・オレを陥れようとするヤツは、全て敵だ・・・!」
シオンへの警戒を口にする香澄だが、昇はシオンを含めて敵と見なした相手を全て倒すことしか考えていない。
「彼女を倒すにしても、回復してから・・・あなたが疲れ切ったままでも攻撃をしようとするなら、勝手に死ねばいい・・」
香澄は昇に吐き捨てると、1人で歩き出そうとする。体力が回復しておらず、彼女はまだふらふらしていた。
「オレは死なない・・ゴミクズどもがまだいい気になってるのに、イヤな思いをしてるオレがのこのこくたばってたまるか・・・!」
昇も力を振り絞って前進していく。傷ついていても、2人は立ち止まろうとは思っていない。
そのとき、昇と香澄の前に一瞬で回り込んできた人影があった。追いかけてきたシオンだった。
「もうここまで・・・!?」
「疲れ切っているあなたたちを見失うわけがないでしょう・・」
驚愕を覚える香澄に、シオンが淡々と言い返す。
「私はあなたたちを救いたいの・・ここまで心が荒んでいるあなたたちを救えるのは、もう私しかいない・・」
「ふざけんな・・お前はオレの救世主にはなれない・・絶対に・・・!」
切実に言うシオンに、昇が怒りをあらわにする。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「オレはお前らには、絶対に屈しない!」
龍の怪物となった昇が、シオンに向かっていく。だが殴りかかろうとした昇が、シオンがかざした右手に止められる。
「その状態で変身できるとは・・少しは回復したみたいだけど・・・」
シオンが昇に言いかけて、ため息をつく。
「それでも私を仕留めることはできない・・・」
シオンが右手を前に出すと、衝撃波が出て昇を突き飛ばす。昇は大きく突き飛ばされて、地面を横転する。
「くっ・・オレは・・オレはまだ・・・!」
起き上がる力もなくして、うめいていく昇は怪物から人の姿に戻った。
「私は、ここで倒れるわけにはいかない!」
香澄も死神の怪物になって、鎌を手にしてシオンに振りかざす。だが鎌の刃をシオンに受け止められる。
「もう、ムリしなくていい・・・」
シオンが意識を集中させて、香澄に念力を仕掛ける。香澄が突き飛ばされて、地面に叩き落とされる。
香澄も力を使い果たして、人の姿に戻ってしまう。
「これ以上ムリをすると、本当に取り返しのつかないことになってしまうわ・・」
シオンが昇と香澄を見下ろして深刻さを込めて言いかける。昇も香澄も力を使い果たして、身動きもままならない。
「私はあなたたちを救う・・・あなたたちが抱えている憎悪と苦痛を消し去る・・・」
シオンが言いかけて、両手を掲げて意識を集中する。昇と香澄が彼女に対して反射的に動く。
だがその弾みで2人はぶつかり合ってしまう。
「これで、あなたたちを・・・」
シオンが意識を傾けると、昇と香澄のいる地面から光があふれ出してきた。光は柱のように伸びて、2人を包み込んだ。
「な、何だ・・!?」
「か、体が・・・!」
体に異変を覚えて、昇と香澄がうめく。2人は今まで以上に体の自由が利かなくなっていた。
やがて光が治まった。ぶつかった際に不本意に抱擁していた昇と香澄から、煙が立ち込めていた。
「これで、もうあなたたちが辛くなることはない・・・」
シオンが2人を見つめて微笑みかける。
「あなた・・今、何をしたの・・・!?」
香澄が声を振り絞って、シオンに問い詰める。
「これであなたたちは、辛さも悲しみも、苦しみも忘れられる・・」
シオンがさらに言いかけると、昇と香澄の体にさらなる異変が起きた。2人の体が徐々に人の体とは違うものに変わり出していた。
「ど・・どうなってるんだ、こりゃ・・!?」
「体が、固くなってく・・動けない・・・!」
自分たちの異変に声を荒げる昇と香澄。シオンの光の影響で、2人の着ていた衣服が崩れるように破損していく。
「どうなってるの!?・・私、裸に・・!?」
素肌がさらけ出されていくことに、香澄が動揺を見せる。あらわになった2人の体は、石の質感も併せ持っていた。
「これって・・石化・・・!?」
「そう・・私があなたたちにかけたのは石化・・それも解放的な・・・」
声を荒げる香澄に、シオンが妖しく微笑む。
「ふざけんな・・石になるって・・自由が利かなくなることになるじゃないか・・・!」
「いいえ、解放的になるわ・・体も心も・・」
昇も憤りを口にするが、シオンの微笑は消えない。
次の瞬間、昇と香澄が奇妙な感覚を覚える。突然不可思議な感情が込み上げてきて、抑えられないほどに強まっていく。
「な、何だ・・この感じ・・・!?」
「抑えられない・・それに何でか・・いい気分に感じてくる・・・!」
押し寄せる衝動に昇も香澄も心を揺さぶられていく。抱擁をしている状態が、2人への衝動をさらに強めていた。
「気分がよくなってきたでしょう?・・それが、私があなたたちを救う方法・・・」
「何だとっ!?・・どういう、ことだよ・・・!」
「あなたたちは今、体が人から石に質が変わってきている・・その変化があなたたちに快感をもたらしているのよ・・」
「快感!?・・そんなもの、感じられるものか・・!」
「頭でそう思っていても、体は感じているものよ・・」
声を荒げる昇にシオンが喜びを見せる。込み上げてくる快感に抗えず、昇と香澄が息を乱していく。
「石化が進むにつれて、快感は強くなっていく。完全に石になったとき、あなたたちは心地いいことしか考えられなくなる・・あなたたちの中にあった憎しみも悲しみも、怒りも忘れていく・・」
「そんな・・そんなことで・・・!」
語りかけるシオンの言葉に、昇が反発しようとする。が、込み上げてくる快感を振り払うことができず、さらに押し込まれていく。
「この心地よさの中に身を委ねていく・・そしてその中で、永遠に幸せでいる・・」
シオンが見つめる前で、昇と香澄がさらに石化と快感に蝕まれていく。
「それに今回は、新しい発見をした・・この快感、触れ合っていくことで心地よさが増していくみたい・・触れ合うこと、抱きしめたくなることを望むようになる・・たとえその相手が、心の底から許せない人だったとしても・・・」
「そんなの・・・イヤ・・昇なんかとこのまま一緒にいるなんて・・・!」
さらに投げかけられるシオンの言葉に、香澄が愕然となる。
「く・・くそっ・・耐えられない・・・!」
「ダメ・・・我慢・・できない・・・!」
呼吸を乱していく昇と香澄。2人が強まる快感から来る衝動に耐えられなくなる。
そしてついに、昇の性器から精液が、香澄の秘所から愛液があふれ出してきた。
「何だよ・・何で出てくるんだよ・・・!?」
「やめて・・止まって・・止まってよ!」
精液、愛液を止めようとする2人だが、彼らの抑制が利かず、あふれ続けていく。
「あなたたちの体は、すっかり快感に酔いしれているのよ・・あなたたちが我慢しようとしても、この興奮は止められない・・」
シオンが昇と香澄を見つめて言いかける。
「でもそれは恥や屈辱じゃない・・むしろ自分たちが解き放たれて幸せだと思うべきよ・・」
シオンがさらに2人に言いかける。2人の意思に反するように、彼らの体が互いの抱擁を求めていく。
「何で・・何でこんなことを・・・!?」
「私は・・昇とこんなことをしたくないのに・・体が、思うように動かない・・昇から、離れられない・・・!」
不快に感じることもできなくなっていく昇と香澄。2人が呼吸を乱したまま、快感に促されて顔を近づけて唇を重ねた。
敵だと思っていた相手との口づけに、昇も香澄も絶望を感じていた。
(やめろ・・オレは・・こんなヤツと・・このままだなんて・・・)
(憎いはずなのに・・許せないはずなのに・・・)
(どんどん・・どんどん気分がよくなっていく・・・)
(一緒にいるほうが・・安心してくる・・・すがりたくなってくる・・・)
互いへの憎悪や怒りを感じられなくなり、昇と香澄は心地よさに身を委ねていく。2人は快感のために徐々に自我を失っていった。
さらに昇の性器が香澄の秘所に入り込んでくる。この衝動にも快感を覚えて、2人の心が揺さぶられる。
「本当にすごい・・ここまで2人が寄り添うなんて・・・」
シオンが2人の様子に、驚きを込めた喜びをさらに感じていく。石化は抱擁したままの昇と香澄を石へと近づけていく。
(オレ・・・オレは・・・)
(私は・・・)
それぞれが憎む敵への抵抗までもが消えて、昇と香澄が意識を失う。同時に2人の体が完全に石に変わった。
シオンの力によって、昇と香澄は一糸まとわぬ姿の物言わぬ石像と化した。2人の心も石化がもたらした快感で完全に満たされていた。
「これで・・これであなたたちは救われた・・・」
シオンが昇たちの姿を見つめて微笑みかける。彼女は石化した2人にゆっくりと近づいていく。
「あなたたちは自分が見せつけていた怒りと憎しみから解放されて、この快感に入り浸っている・・憎んでいた相手を、すっかり愛らしくしている・・・」
昇と香澄をじっくりと見渡していくシオン。
「そこを交えるほどにまでに・・そこまで快感に浸っているということね・・」
石化の中で性交をしている昇と香澄に、シオンがさらに喜んでいく。
「このまま外にいさせるのはよくないよね・・私のところへ行こう、2人とも・・・」
シオンが昇と香澄の石の体を、優しく抱きしめる。
「みんなも待っているよ・・あなたたちのように、解放された人たちが・・・」
シオンが意識を集中すると、彼女は昇、香澄と一緒に荒野から消えた。荒野には静寂が戻り、かすかに砂煙が舞うだけだった。
昇、香澄を連れて移動してきたシオン。彼女が来たのは人目に付きにくい場所に点在している彼女の屋敷だった。
シオンは昇と香澄を抱きしめたまま、屋敷の中の廊下を進んでいく。彼女は1つの大きな部屋にたどり着いた。
部屋の中には多くの石像が置かれていた。全て全裸の女性の石像である。
「また新しく解放された人たちを連れてきたよ・・」
シオンが囁いて、石像に呼びかける。石像の全てが、シオンによって石化された女性たちである。
いつもは石化した人をこの部屋に置いているシオンだが、昇と香澄を抱えたまま、部屋を抜けてその先の部屋に入った。そこで彼女は2人を置いた。
「これであなたたちは救われた・・誰もあなたを追い込むことはない・・・」
改めて昇と香澄を見つめて、シオンが微笑みかける。2人が体も心も解放されたと実感していて、彼女は喜びを募らせていた。
「もうムリしなくていい・・あなたたちが体を張って、戦いを挑むことはない・・」
2人の頬に手を添えてから、シオンはその手を離してきびすを返す。触れられても、2人は全く反応を見せない。
「これからはずっと、私があなたたちを守るから・・・」
自分の思いを口にしてから、シオンは部屋を後にした。
部屋には静寂が包み込んだ。その部屋の中で昇と香澄はたたずんでいた。
表面は静寂の2人だが、心の中では快感で満ちていた。2人の心は触れ合いを続けて、安らぎを感じることしか考えられなくなっていた。
次回予告
「本当に愛し合っているのね、あなたたちは・・」
「荒んでいる世界のために、純粋な心に怒りや憎しみ、悲しみや辛さがあふれている・・」
「救う方法は、それ以上の解放を与えて、辛さを忘れさせること・・・」