ガルヴォルスEternal 第12話「対決」
自衛隊が壊滅的な打撃を受けて、特殊部隊も全滅を被り、政府はさらに焦りと激高を募らせていた。
「もうダメだ・・いつかここにも来て、ヤツらは我らを殺しにかかる・・・!」
「そういうバケモノは分かっているだけでたった1人だ・・」
政治家たちが怪物について議論していく。そして彼らは昇と香澄を映した写真を提示した。
「赤垣昇、葵香澄・・この2人を指名手配する。」
「これでヤツらは手も足もでまい。少なくとも身動きが取れなくなる。」
政治家たちが2人の顔を見て、不敵な笑みを浮かべていく。
「そんなことをしても、彼の怒りを逆撫ですることになるだけよ。」
そこへ声がかかって、政治家たちが振り向く。長く白い髪をした少女が、会議場に入ってきていた。
「何だ、貴様は!?なぜここにいる!?」
「警備は何をしている!?そいつを早くつまみ出せ!」
政治家たちが声を張り上げて、警備員たちを呼ぶ。
「そういう無理やりなやり口が、彼の怒りをあおって、あなたたち自身の首を絞めることになっているのに・・」
「戯言を!我々がバケモノの勝手で殺されるなど、あり得はしない!」
微笑みかける少女に、政治家たちが怒号を放つ。駆けつけた警備員が拘束しようとするが、少女は軽やかに彼らの伸ばした手をかわす。
「いつまでもそういう態度でいるから、彼のような反乱分子というのが出てきてるの。このままだと彼はいつかここまでやってくるわよ・・」
少女が続けて投げかけた言葉に、政治家たちはいら立ちを見せるも反論ができなかった。
「あなたたちの正義も信念も思想も、彼を納得させることはできない。彼に必要なのは、絶対かつ永遠の安らぎ・・」
少女は呟くように言いかけて、天井を仰ぎ見る。
「そう・・怒りも憎しみも忘れてしまうような・・」
少女は本当に呟いてから、会議場の扉を開けた。
「余計な手出しはしてこないでね・・でないと私も、みなさんに容赦できなくなりますので・・・」
少女は笑みを消して忠告を投げかけると、会議場を後にした。
「何なのだ、あの小娘は・・・!?」
「あんなわけの分からんヤツの言うことなど聞くと思うか!すぐに赤垣昇と葵香澄の指名手配を!」
「あの女の正体も暴いてやるぞ!」
政治家たちが少女の忠告を聞かずに、昇たちの始末を強行しようとした。
そのとき、政治家たちのいる会議場の中央に1つの光が現れた。
「な、何だ!?」
「ま、まぶしい・・何事だ!?」
政治家たちが光のまぶしさに驚愕していく。光は強まって、会議場に広まっていく。
「う、うわあっ!」
絶叫を上げる政治家たちを巻き込んで、光は会議場を吹き飛ばした。
その光景を、会議場から出ていた少女が振り返って見ていた。
「人の忠告はきちんと聞いておくものよ。あなたたち自身の首を絞めるって言ったじゃない・・」
少女が微笑んだまま呟く。
「それじゃ、改めて行くとするかな・・2人とも戦っている・・・」
少女は歩き出して、昇と香澄に狙いを向けた。
剣と鎌を振りかざしていく昇と香澄。2人は互いの攻撃を防御と回避でかいくぐっていた。
昇と香澄の体からは、紅いオーラが霧のようにあふれてきていた。その状態の2人の力は格段に上がっていた。
「強くなっている・・オレと同じように・・・!」
「私も強くなってるって実感しているのに・・・!」
昇と香澄が互いの高まっている力を痛感していく。
「だけど、そんなこと関係ない・・オレは、ゴミクズを叩きつぶす・・この世から・・・!」
昇が声と力を振り絞り、剣を構える。
「私は人間を守る・・お前たちバケモノの勝手を、これ以上は許さない・・・!」
香澄も力を込めて鎌を構える。
「私がやらないと、みんなバケモノのいいようになってしまう・・・!」
香澄が昇に飛びかかり、鎌を振りかざす。昇も剣を振りかざしてぶつけ合う。
2人の高まっている力の衝突で、昇の剣と香澄の鎌が空高く跳ね飛ばされる。2人は毒づくと、すぐさま拳を振りかざしてきた。
昇も香澄も殴られても踏みとどまって、すぐに反撃を仕掛けていく。
「どこまでも、ゴミクズの味方をして!」
「人殺しをしておいて、何も感じないバケモノのくせに!」
2人がさらに怒号を放つ。また拳を振りかざして、互いにぶつけ合っていく。
強い力のぶつかり合いでダメージが大きく、体力を擦り減らすばかりの2人。しかし2人は退こうとせず、互いを倒すことだけを考えていた。
(オレはゴミクズの身勝手に寄って、父さんは死んだ・・ヤツらはその罪を認めず、自分たちは正しいと言い張った・・そんなのが、国を、世界をいつまでも好き放題にしている・・・!)
自分の過去を思い返して、憤りを募らせていく昇。
(オレは認めない・・・もう絶対に、オレは思い上がりに振り回されない・・・!)
彼は不条理に抗って、全身に力を込めていく。
(私は怪物のせいで何もかも失った・・友達を殺されて、友達だと思ってた人に裏切られて・・・!)
香澄も過去の惨劇を思い返していた。
(ひとりぼっちになった後も、私には大切な人、大切な場所があった・・)
彼女は涼子や亮太、ポニテでのひと時も思い返していた。涼子たちが支えてくれたから、香澄は孤独に押しつぶされずに済んだ。
(もう2度と、大切な人を失いたくない・・・!)
守りたい気持ちを強めて、香澄が昇に向かっていく。
「オレは・・・!」
「私は・・・!」
昇と香澄が感情を強めて、同時に拳を繰り出す。2人は互いに顔面を殴られるも、すぐさま拳を繰り出す。
次々に体に打撃を叩き込まれていく昇と香澄。それでも2人は怒りに突き動かされて、痛みを振り切っていく。
2人の心は研ぎ澄まされたままだが、体力は消耗するばかりとなっていた。そして体が悲鳴を上げ始め、思うように動かなくなっていった。
「オレは死ねない・・ゴミクズに押しつぶされたなら、死んでも死ねない・・・!」
昇が強引に体を突き動かそうとする。すると彼の体を駆け巡る激痛がさらに強まる。
「ぐっ!・・くそっ!・・動け!」
昇が声と力を振り絞るが、思うように攻撃を仕掛けることができない。香澄も思うように動くことができず、息を乱していた。
「このままじゃ、昇を・・怪物を・・・!」
香澄も前に踏み切ることができず、苦痛にさいなまれていく。それでも2人は相手に向けて拳を振りかざそうとする。
だが2人が当てる拳は、最初の勢いがまるでない弱々しいものだった。あまりにも威力が弱くなっている自分の力に、昇も香澄もいら立ちを感じていく。
「こんな・・ことで・・オレは・・・!」
昇が全身に力を入れて、強引に強さを発揮しようとする。が、体の痛みが増すばかりだった。
「すっこんでろ!オレはゴミクズを叩きつぶすんだよ!」
怒号を放って激痛を吹き飛ばそうとする昇。彼の激高に呼応するように、香澄も怒りを募らせる。
「人間を・・罪のない人を殺させない!」
香澄も力を振り絞って、拳を繰り出す。昇も同時に拳を振りかざす。
2人の拳は互いの体に命中した。渾身の一撃を打ち合った2人は、力を使い果たして倒れた。
仰向けに倒れて動けないまま、弱々しく呼吸をする昇と香澄。起き上がろうとする2人だが、体が言うことを聞かない。
「そんなに・・そんなに人を殺したいの・・・!?」
香澄が声を振り絞り、昇に問い詰める。
「自分たちが正しいと思い上がっているゴミクズを始末しているだけだ・・ゴミ掃除をするのは、いいことだろうが・・・!」
「勝手な理屈を・・・ゴミと人間は違う・・・!」
「ヤツらがそうだと言い張って聞かない・・だからそう思うしかないだろうが・・・!」
「どうしてそういうことになるっていうの・・・!?」
憤りを口にする昇に、香澄も不満を覚える。
「やっぱり怪物なんだね・・勝手なことばかりで、他の人を平気で傷つける・・・」
「それはゴミクズのほうだ・・オレはあんな連中には絶対に振り回されない・・・!」
ため息をつく香澄に、頑なに言い返す昇。
「くっ・・力が入らない・・コイツを、叩きつぶさないといけないのに・・・!」
力を入れても体を動かせず、昇がうめくばかりだった。
「私・・負けられない・・昇にこれ以上、人殺しはさせない・・・!」
香澄も起き上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
(動け・・動け!動けって言ってるだろうが、オレの体!)
昇は諦めきれず、強引に体に力を入れて動かそうとする。
(これじゃあのときと同じじゃないか・・ゴミクズどもにいいようにされても、何もできなかったときと!)
怒りと憎しみを膨らませる昇の体から、紅いオーラがあふれ出してくる。
「昇・・・このまま・・・!」
香澄も感情を強めて、強引に起き上がろうとする。彼女の体からも紅いオーラがあふれ出してくる。
「お前たちに・・大切な人を殺させない!」
香澄が昇と一緒に立ち上がった。激痛が駆け廻っていた2人の体は、その痛みも感じなくなっていた。
「オレはもう、ムチャクチャなのには振り回されない・・・!」
「私は、大切な人を守る!」
昇と香澄が目を見開いて、拳を振りかざす。拳が互いの体に当たった瞬間、2人が力なく倒れていった。
(オレは・・・)
(私は・・・)
ついに意識を保つこともできなくなり、昇と香澄は眠りについた。人気のない荒野の真ん中で、2人は倒れたまま動かなくなった。
香澄を心配して、彼女と昇を探し回った涼子。しかし涼子は2人を見つけられず、途方に暮れたままポニテに戻ってきた。
「涼子さん・・・香澄ちゃんと昇くんは・・・?」
亮太が涼子に歩み寄って、小声で聞いてきた。涼子が困った顔で首を横に振る。
「そうですか・・2人とも、また誰かと戦って・・もしかしたら、2人が・・・」
「それを言わないで、亮太くん・・そんなこと、考えたくもない・・・」
不安を口にする亮太に、涼子がたまらず言い返す。すると亮太が気まずくなってしまう。
「今は休んでください、涼子さん・・ムチャすると、今度は涼子さんに何かあってしまいますよ・・・」
「亮太くん・・・ごめんなさい・・私、気が動転していたみたい・・・」
「仕方ないですよ・・僕だってどうしても落ち着けないですから・・」
気落ちする涼子が亮太に励まされる。
「ごめんなさい、亮太くん・・みんなに迷惑をかけて・・・」
「いえ・・・警察とかに連絡できればいいことなんですが・・・」
「その警察が昇くんたちをどうにかしているみたいだし・・・」
落ち込んでいく涼子と亮太。会話をしていって、涼子が思わず笑みをこぼした。
「少しここで休憩させて。後でまた探しに行くから・・」
「ここで休むのは構わないのですが、僕も一緒に探しに行きます。手分けしたほうが見つけやすいかと・・」
「でもお店を放っておくのも・・」
「では今度は僕が探しに行きます。涼子さんは仕事のほうをお願いします。」
「亮太くん・・あなたも仕方のない人ね・・私も人のこと言えないんだけどね・・」
亮太の意見に呆れて、涼子が苦笑いを見せる。
「分かった・・見つからなくても、30分後に連絡を入れて・・」
「涼子さん・・分かりました・・すみません・・」
涼子に言われて頭を下げる亮太。涼子に代わって、彼は昇と香澄を探しに外に飛び出した。
怒りのままにぶつかり合い、力を消耗して倒れた昇と香澄。意識を失った2人は、倒れたまま動かなくなっていた。
夕暮れを迎えて日が落ちようとしたところで、昇と香澄が同時に意識を取り戻した。
昇も香澄も互いにそばにいたことに、激情を覚える。2人は力を振り絞って起き上がろうとする。
「今はムリに体を動かさないほうがいいわ・・」
そこへ声をかけられて、昇と香澄が目を見開いた。2人のそばには白髪の少女がいた。
「全力を出し尽くして、その状態から強引に力を振り絞ってぶつけ合った。限界を超えて体がバラバラになっていてもおかしくなかった・・」
少女が昇と香澄に向かって語りかけていく。少女は2人の戦いのことを知っていた。
「お前は誰だ・・・お前も・・オレを陥れようとするヤツか・・・!」
カズヤが声を振り絞って、少女に問い詰める。
「自分のことを話さないのはよくないわね・・私は黒野シオン。あなたたちを救いに来たのよ・・」
「わ・・私たちを・・救いに・・・!?」
少女、シオンが告げた言葉に、香澄が疑問を投げかける。
「そんなふざけたことに、オレは騙されないぞ・・お前も、オレの敵だということか・・・!」
昇はシオンを敵視して、力を込めて立ち上がろうとする。だがまだ彼の体は思うように動かない。
「私をどう思おうとあなたの自由だけど、今のあなたたちに抗うだけの力が残っていないわ・・」
シオンが淡々と昇に言いかける。
「それに言ったはずよ。あなたたちを救いに来たと・・」
「どういう、こと・・・!?」
彼女の投げかける言葉に、香澄は疑問を募らせるばかりになっていた。
「気にすることも考えることもないわ。私に全て任せればいい・・」
「それが、自分たちの思い通りにしようとする・・ゴミクズのやり方だ・・・!」
手を差し伸べてくるシオンだが、昇は彼女に憎悪を向ける。
「ゴミクズは・・オレが1人残らず叩きつぶす!」
昇が強引に怪物の姿になろうとする。だが怪物になったのは一瞬で、すぐに疲弊して座り込んでしまう。
「何度も言うけど、今のあなたたちに体力が残っていない。といっても、痛い目にあってもやめようとしないのも分かったけど・・・」
シオンが笑みを消して、昇と香澄に言いかける。香澄も力を振り絞って立ち上がろうとする。
「今のあなたたちに危害を加えたら、あなたたちは破滅する可能性が高い・・でも、このまま力を行使されるだけになりそう・・・」
シオンが言いかけて、両手をかざして意識を傾ける。すると昇と香澄が体の自由を奪われる感覚に襲われる。
「さ、さっきよりも・・体が、動かない・・・」
「念力って、ヤツか・・・」
身動きが取れないことに、香澄と昇がうめく。
「これで少しはおとなしくしてくれるでしょう・・?」
シオンが2人を見つめて微笑みかける。思うように動けず、昇も香澄ももがく。
「あなた、本当に何者なの?・・まさか、怪物・・・!?」
香澄がシオンに対して警戒と憎悪を感じていく。
「確かに私も、あなたたちのいう怪物といえる力を持っているわ。でもそれは元々人間なのよ・・」
「えっ!?・・・怪物が、人間・・・!?」
シオンが語りかけたことに、香澄が耳を疑った。
「怪物が、元々人間!?・・何をバカな!?」
昇もシオンの言葉が信じられなかった。
「本当よ。あなたたちも、元々は人間。人間だったのが怪物になった・・」
2人に向けて淡々と語りかけるシオン。怪物について聞かされて、昇も香澄も困惑を痛感していた。
次回
「私はあなたたちを救う・・・」
「あなたたちが抱えている憎悪と苦痛を消し去る・・・」
「もうあなたたちが辛くなることはない・・・」
「これからはずっと、私があなたたちを守るから・・・」