ガルヴォルスEternal 第11話「衝突」
人間である兵士たちを守ろうとする香澄に、昇が憤りを募らせる。それぞれ剣と鎌を手にして、昇と香澄が飛びかかる。
2人が剣と鎌をぶつけ合い、押し込もうとする。
「自分たちの目的のために手段を選ばず、有無を言わさず他人を手にかける・・そんなゴミクズを、お前は守ろうというのか!?」
「それはお前たち怪物のほうよ・・人を傷付けて弄んで、それを喜んで!」
「それはゴミクズのほうだろうが!」
香澄に怒鳴りかかり、昇が彼女を強引に押し込む。
「自分の話をまるで聞いてもらえず、無理やり連れて行かれそうになっただろうが!」
「それは私も怪物だから・・!」
昇の口にする言葉を拒絶していく香澄。彼女の返答に昇は呆れ果てていた。
「どうしてお前は、この現実を受け入れようとしない・・・!?」
昇が激高して、香澄に向けて剣を突き出す。
「人間ならどこまでムチャクチャなことでも受け入れるなんて、バカなことをぬかすんじゃないだろうな!?」
「バカなことをしているのは怪物・・私の大切な人、大切な場所を奪った怪物のやることが、間違いなく馬鹿げている・・・!」
「お前・・もう救えないな・・・!」
それだけ呼びかけても聞き入れようとしない香澄を、昇は完全に見下げ果てていた。
「ゴミクズ同様、お前も叩きつぶすしかない・・・!」
「叩きつぶされるのはお前たちのほう・・・!」
昇と香澄が剣と鎌を構えて、再び飛びかかる。
「撃て!」
そのとき、兵士たちが2人に向かって発砲してきた。2人が互いへの攻撃を止めて、弾丸をかわす。
「待って!私はそいつと違って・・!」
「ゴミクズどもが・・どこまで自分たちが正しいと言い張るつもりだ!?」
香澄が呼びかける中、昇が兵士たちに飛びかかる。彼が剣を振りかざして、兵士たちを切りつけていく。
「おとなしくしろ!でなければこの辺りの被害が大きくなる!貴様の隣人にも飛び火するぞ!」
隊長が昇に向けて忠告を投げかける。すると昇が隊長に一気に詰め寄ってきて、左手で彼の顔をつかんで握りしめてきた。
「隊長!」
兵士たちが隊長を助けようとするが、昇に鋭く睨まれて足を止める。
「そんなことで、オレがおとなしく言う通りにすると思ったのか・・・!?」
昇が隊長に視線を戻して言いかける。
「そんなマネをしてみろ・・地獄に落としてからも、お前らを徹底的に叩き潰すぞ・・・!」
「バ・・バケモノの分際で・・・!」
鋭く言いかける昇に、隊長が言い返す。次の瞬間、昇が激高して隊長の頭を握りつぶした。
「隊長!」
兵士たちが怒りを覚えて、昇に向かって発砲する。昇がさらに怒り、地面を強く踏みつけて土煙を舞いあがらせて、弾丸を弾く。
「自分たちのことしか考えないお前らゴミクズが、仲間を殺されて怒る資格なんてない・・思い上がるのもいい加減にしろ!」
昇が怒号を放ち、兵士たちに飛びかかり、剣で切り裂いていく。
「やめて・・やめろ!」
香澄が怒りを爆発させて、昇に飛びかかり鎌を振り下ろす。昇が剣で鎌を受け止める。
「よくも・・よくも人間を!」
「こんなゴミクズを守って、お前は正しいと思っているとはな!ヤツらは店の人たちがどうなろうと知ったことじゃない!そんなマネをしようとしたんだぞ!」
「人間は、そんなことはしない!」
「しようとしたのが分かんないのか!?」
怒鳴りかかる香澄に言い返す昇。昇が右足を突き出して、香澄を突き放す。
「目の前で起こった現実さえも見えなくて、自分の考えの方が正しいと言い張る・・本当に救えない・・・!」
昇が香澄に呆れ果てて、剣を構えて鋭く見据える。
「救いようがないのは、お前たちのほう・・・!」
香澄も鋭く言いかけて、鎌を構える。
「やめなさい、あなたたち!」
そのとき、声が飛び込んできて昇と香澄が手を止める。2人を呼び止めてきたのは涼子だった。
「あなたたち・・昇くんと、香澄ちゃんだね・・・?」
「なっ・・・!?」
「涼子さん・・・!?」
涼子が投げかけた言葉に、昇と香澄が驚きを覚える。香澄が涼子の前で、怪物から人の姿に戻る。
「もしかして、知ってたんですか・・私のこと・・・!?」
香澄が問いかけると、涼子が小さく頷く。
「何となく何かあるとは思っていたけど・・まさか、怪物だったなんて・・」
「涼子さん・・・それは、その・・・」
言いかける涼子に香澄が困惑を見せる。自分が怪物であると知られて、香澄は涼子に怖がられてしまうと思っていた。
そのとき、昇がいら立ちを抱えたまま、2人の前から立ち去ろうとした。
「待って、昇くん!私の話を聞いて・・!」
「そいつはゴミクズに味方するゴミクズ・・もう救いようがない・・・!」
涼子が呼び止めるが、昇は聞かずに立ち去っていった。
「昇くん・・・」
昇を心配して、涼子が辛さを募らせていく。
「涼子さん・・アイツは、昇は人間を襲っている・・体だけじゃなく、心もバケモノなんです・・このままじゃみんながアイツに・・・!」
香澄が昇への憤りを口にしていく。すると涼子が彼女に対して、首を横に振ってきた。
「それは違うと思うわ・・昇くんが憎んでいるのは、人間の中で、今のこの国や世界を動かしている人たちじゃ・・」
「この国や世界を動かしている人たち・・・?」
涼子が語りかけることに、香澄が疑問符を浮かべる。
「昇くんは、権力を振りかざす人間に、父親を殺されているのよ・・それで権力者を強く憎んで・・・」
「でも人間なんですよね・・人間を手にかけること自体・・・」
「人間でも、昇くんにとっては憎むべき敵なのよ・・あなたが怪物を憎んでいるように・・」
「私はアイツとは違う!・・怪物とは、違います・・・!」
涼子が投げかける言葉を受け入れようとしない香澄。彼女は昇を完全に敵視していた。
「やっぱり、人間じゃなく怪物のほうが・・・」
「香澄ちゃん・・・」
昇を信じ切れないでいる香澄に、涼子は困惑する。香澄がそそくさにポニテの中に入っていった。
「昇くんも香澄ちゃんも、本当にガンコなのね・・」
涼子が頑なな2人にすっかり滅入っていた。
香澄だけでなく涼子にも正体を知られていたことに、昇は不快感を募らせていた。人の姿に戻っていた彼は、両手を強く握りしめていた。
「どいつこもいつも、オレを追い込もうとして・・・!」
信じられる気持ちを失って、昇が憤っていく。
「人間は、オレを陥れて楽しんでいる・・アイツも・・・!」
香澄への憎悪を強固にしていく昇。彼は目的のために手段を選ばない国の上層部やその指揮下の者、そして彼らを人間として守ろうとする香澄を、完全に敵と認識していた。
「他の誰が何を言ってきても、オレはこの目的を果たす・・そうしないと、オレはオレでなくなる・・・!」
昇は自分に言い聞かせて、再び歩き出す。自分たちの全てを奪った人間を根絶やしにするために。
香澄は涼子に助けられて、ポニテで休んでいた。涼子に気付かれていたことに、香澄は戸惑いを感じていた。
「驚いたよ・・まさか、君も昇くんも怪物だったなんて・・・」
亮太も部屋にやってきて、香澄に声をかけてきた。
「亮太さんも、私のことを・・・!?」
「私が話したの・・亮太くんなら分かってくれると思って・・」
動揺を見せる香澄に、涼子が事情を話す。
「あの、香澄さん・・あんまり他の人に話さないほうがいいです・・怪物を憎んでいる人もいますし、私のために涼子さんたちが危険に巻き込まれるかもしれませんし・・」
香澄から注意を投げかけられて、涼子と亮太が気まずさを見せる。
「香澄ちゃん、あなたも昇くんのように、ここに来る以前に何かあったの・・?」
涼子が訊ねると、香澄が昔のことを思い返して悲痛さを覚える。
「怪物に殺されたんです・・学校の友達も、クラスメイトもみんな・・」
香澄の話を聞いて、涼子と亮太が息をのむ。
「自分たちが楽しむためにみんなを殺した怪物たちを、私は許せない・・だから私は怪物たちを滅ぼすために・・」
「それで他の怪物たちを倒しているっていうのかい・・・?」
香澄の話を聞いて、亮太が聞き返す。すると香澄が小さく頷く。
「そして、人間を殺して回っている昇も・・」
「だから香澄ちゃん、昇くんがあのようなことをしているのは・・」
昇への敵意を向ける香澄に涼子が言いとがめる。
「それでも、人殺しをしてるんですよ・・それが許されるなんて・・ありえない・・・!」
「人殺しならおそらく、昇くんが手にかけている人たちもやっている・・・」
「でも怪物はそれ以上に人を・・!」
涼子が呼び掛けるが、香澄は頑なに怪物への敵意を貫いていく。
「落ち着いて、香澄ちゃん・・感情に振り回されてばかりなのはよくない・・」
亮太も香澄を呼び止めていく。
「落ち着いていますよ・・落ち着いて、私は悪魔を憎んで・・・!」
「だったら僕たちの話を聞いて・・僕たちを信じて・・・」
声を振り絞る香澄に、亮太が微笑んで呼びかける。しかし香澄は素直に亮太と涼子の言うことを受け止めることができなかった。
「それでも、私は・・怪物を許せない・・怪物は、私の全てを奪ったから・・・!」
「いい加減にしなさい!それは香澄ちゃんのわがままにしかならないわ!」
怪物への憎しみに囚われている香澄に、涼子が怒鳴ってきた。滅多に怒らない彼女が感情をあらわにして、香澄が思わず押し黙ってしまう。
「あなたや昇くんが危険の中に飛び込んでいることが、私たちはとても辛い・・あなたたちに何か起こったらって・・・!」
涙があふれてくるのをこらえる涼子に、香澄は戸惑いを覚える。涼子がそんな香澄を強く抱きしめてきた。
「もう危ないことはしないで・・今まで通り、普通に過ごしていて・・スマイルで接客しているあなたを続けて・・・」
必死に香澄に懇願する涼子。彼女の願いを痛感する香澄が、怪物への憎悪との間で揺れていた。
(私・・・私は・・・)
膨らんでいく困惑に押し寄せられて、香澄は冷静さを取り戻せなくなっていた。
それから昇を追いかけられず、他の怪物を倒しに行くこともできなくなってしまった香澄。そのまま夜を迎えて、彼女はベッドに横たわるも寝付けないでいた。
(どうしても納得できない・・怪物たちを許すなんて・・ヤツらを滅ぼすのをやめるなんて・・・)
自分の正直な気持ちを曲げることができず、香澄が苦悩を深めていく。
(アイツらは私の全てを奪った・・もしも私が滅ぼさなかったら、殺されたみんなが浮かばれなくなる・・明良だって・・・)
自分が続けてきた戦いから退くことができず、香澄は自分に言い聞かせていた。
(ごめんなさい、涼子さん、亮太さん・・私は、どうしても・・・)
香澄はベッドから飛び起きると、部屋から出て外に向かった。
翌日、香澄のことが心配になった涼子は、彼女のいるマンションに向かった。彼女の部屋の前にたどり着いて、涼子はインターホンを押した。
しかし部屋から香澄が出てくる様子がない。
(香澄ちゃん・・・もしかして・・・!?)
不安を膨らませた涼子が、マンションの管理人を呼んでドアを開けてもらった。部屋の中を確認する2人だが、中に香澄はいない。
(香澄ちゃん・・また怪物を・・・昇くんを・・・!?)
香澄、そして昇が気がかりになって、涼子は深刻さを隠せなくなっていた。
今朝も昇は政治家の1人を攻撃していた。政治家はそばにいたボディガードや秘書、運転手を盾にして逃げて、人気のない荒野にたどり着いた。
「ちくしょう!なぜ私が命を狙われなければならんのだ!?私に何かあれば、国に甚大な影響をもたらすことになるのだぞ!」
政治家が憤り、不満の声を上げていく。息を絶え絶えにしている彼を、昇が追ってきた。
「私を誰だと思っている!?この国の暮らしを支えている人間の1人なんだぞ!」
昇に向かって怒号を放つ政治家。彼の言動が昇の怒りを逆撫でする。
「お前は国や他のヤツを苦しめているゴミクズ・・自分たちが正しいと思い上がっているヤツらなんだよ!」
「勝手なことを・・根も葉もない戯言を押し付けるとは、実に愚かしい!」
怒鳴りかかる昇に政治家が言い返す。激高した昇が一気に飛びかかり、政治家を殴り飛ばす。
殴られた政治家は即死して、倒れて動かなくなった。
「他のヤツのいうことを全く聞こうとしない・・自分たちが正しいと思い上がって、間違いを正そうともしない・・だから始末するしかないんだよ・・・!」
権力を持った人間への憎悪を噛みしめる昇。彼はそういった人間を始末しなければ、世界は腐りきってしまうと、頑なに思っていた。
「そして香澄・・ゴミクズを守ろうとするアイツも・・・!」
そのとき、昇が気配を感じ取り振り返る。彼の視線の先に香澄が現れた。
「また、人を襲ってたんだね、昇・・・!」
「人じゃない・・ゴミクズだ・・自分たちのことばかり、他のヤツがどんな思いをしようと知ったことのない連中・・・!」
香澄と昇が互いに鋭い視線を向け合う。
「ゴミクズなのは人間じゃない・・バケモノのほう・・・!」
憤りを浮かべる香澄の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「同じバケモノになってしまった私自身も、許すことができない・・・!」
彼女が死神の怪物に変わる。昇が彼女を見据えて、両手を握りしめる。
「オレとお前とも、言葉は何の意味もない・・今まで仕留めてきたゴミクズ連中も、何を言っても聞こうともしないヤツらだったが・・」
「バケモノはやはりバケモノ・・私みたいなのは、異例中の異例だったってだけ・・・」
互いにため息まじりに言いかける昇と香澄。2人がそれぞれ剣と鎌を手にして構える。
「オレはゴミクズを滅ぼす・・お前も・・・!」
「お前は正真正銘のバケモノ・・私がここで仕留める!」
昇と香澄が同時に飛び出して、剣と鎌を振りかざす。互いの刃がぶつかり合い、強く響き合う。
昇が右足を出して香澄を蹴り飛ばそうとした。香澄は反応して彼の蹴りをかわし、そのまま鎌を押し込む。
「うっ!」
昇が香澄に押されて突き飛ばされる。香澄が昇に追撃を仕掛けて、鎌を振り下ろす。
昇が反応して、紙一重で鎌をかわした。2人が同時に左の拳を繰り出して、反対に突き飛ばされる。
「力任せはもう通じない・・・!」
「関係ない・・オレはゴミクズを叩きつぶすだけだ!」
言いかける香澄に昇が怒号を放つ。彼の言動に香澄がさらに憤る。
「お前は自分を押し付けるだけのバケモノ・・・私は、お前を許さない・・・!」
香澄が鎌を構えて、全身に力を込めていく。彼女の体から紅く禍々しいオーラがあふれ出してきた。
「これ以上、ゴミクズどものいいようにされてたまるか!」
怒号を放つ昇からも紅いオーラがあふれ出した。2人は力を高めて、さらにぶつかり合おうとしていた。
次回
「もう絶対に、オレは思い上がりに振り回されない・・・!」
「もう2度と、大切な人を失いたくない・・・!」
「オレは・・・!」
「私は・・・!」