ガルヴォルスEternal 第10話「憎悪」
昇が目を覚ましたのは見知らぬ部屋。飛び起きて辺りを見回した彼は、そこが病院の個室であることに気付いた。
「気が付いたかい、昇くん?」
昇に声をかけてきたのは亮太だった。
「倒れて病院に運ばれたって聞いて、飛んできたんだ。疲労で倒れたと医者は言っていたよ・・」
亮太が昇に事情を説明していく。亮太の話を聞いて、昇は納得していた。
「香澄ちゃんも一緒に倒れていたよ。彼女には涼子さんが行っているよ。」
亮太が続けて言ったこの言葉を聞いて、昇がいら立ちを覚える。彼は香澄のことを思い出していた。
人間に味方する死神の怪物は香澄だった。そのことで昇は、香澄への憎悪を感じていた。
(アイツが・・ゴミクズに味方する怪物・・・!)
昇の香澄に対する感情は、憎悪一色だった。
昇が入院していた病院の別の病室に、香澄もいた。彼女の見舞いに涼子が来ていた。
「よかった。大変なことにならなくて。このまま休んでいけば回復するそうね。」
「涼子さん・・・すみません、迷惑かけて・・・」
話しかける涼子に香澄が謝る。
「いいのよ、それは。今は体をしっかり休めるいい機会と思って。」
「はい・・分かりました・・・」
涼子に言われて、香澄はベッドに横になった。
「昇くんもこの病院で入院しているわ。彼も心配ないそうよ。」
「昇・・・」
涼子が続けていったこの言葉に、香澄が深刻さを覚える。彼女の脳裏に怒りをあらわにしている昇の姿が浮かび上がる。
(昇が、怪物だったなんて・・・)
昇の正体が怪物だったことが信じられず、香澄はふさぎ込みたい気持ちに駆られていた。
自衛隊の1部隊が全滅に追い込まれたことに、政治家たちはさらなる危機感を感じていた。
「このままではまずい・・そのうちヤツらがここにも来るかも・・・!」
「こうなったら、他国に救援の要請を・・!」
「バカなことを言うな!バケモノ1匹仕留められずに助けを求めるなど、我が国の恥だぞ!」
「何としても我々でかたを付ける。なぁに、我々に対する非難や最悪は全てこちらでもみ消してしまえばいい・・」
政治家たちが冷静さを失って、声を荒げていく。
「特殊部隊を出動させる。怪物と可能性のある者は、問答無用に連行。逆らった場合は射殺も許可する。」
「こうでもしなければ、怪物を根絶やしになどできはしない・・・!」
怪物撲滅のために手段を選ばないことを辞さない政治家たち。彼らは強行と隠ぺいを徹底することを決め込んでいた。
すぐに退院することができた昇と香澄。しかし2人は互いに対して懸念を抱いていた。
そして昇がポニテに来なくなってしまった。彼と対面しないことに、香澄はいら立ちも安堵も感じることができず、複雑になっていた。
(昇は、私を敵視して、ここでは会おうとしなくて・・・)
昇の行動について考えを巡らせる香澄。
(何にしても、私はあなたを許さない・・みんなを傷つける怪物なんだから・・・!)
昇は敵だと自分に言い聞かせていく香澄。彼女は次に昇と会ったときに備えていた。
ポニテに顔を出さなくなった昇。彼は1人、身勝手な人間を打ち倒すために行動していた。
(アイツ・・ゴミクズの味方なんかして・・間違っていることに気付かないのか・・・!)
香澄の行動に憤りを感じていく昇。
(出てきても、オレはやめない・・敵は、ゴミクズは叩きつぶさないといけない・・でないと何もかも腐ってしまう・・・!)
好き勝手な人間への憎悪をさらに強固にしていく昇。彼は人間に味方する香澄をも敵と認識していた。
「一緒に来てもらう。協力していただこう。」
そのとき、昇の耳に声が入ってきた。駆けつけた彼は、数人の男が1人の男性を無理やり連れだそうとしていた。
「何を言ってるんです?私は怪物なんかじゃない!」
「それは向こうで調べる。逆らうと命の保証ができなくなるぞ。」
男性が抗議の声を上げるが、男たちに無理やり連れて行かれる。
「アイツら・・勝手なことを・・・!」
いら立ちを覚える昇の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼が龍の怪物になって男たちの前に出てくる。
「おっ!バケモノが!」
「こんなところに出るとは!すぐに離れるぞ!」
男たちが男性を連れて、昇から逃げ出そうとする。
「逃げるな!」
昇が怒号を放ち、男たちに飛びかかってその1人を殴り飛ばす。男たちがたまらず、携帯していた銃を手にして発砲する。
昇が飛び込む弾丸をはじき飛ばして、男たちを次々に殴り飛ばしていく。男性を連れ出す前に、男たちは昇の手にかかり倒れた。
「か、怪物!?・・ウソや噂じゃなかったのか・・・!?」
男性が怪物の姿の昇を目の当たりにして、愕然となる。昇は彼を気に留めず、きびすを返して歩き出す。
(どいつもこいつも、自分たちの目的のためにどんなこともやる・・それでオレさえも狙ってくる・・アイツも、香澄さえも・・・)
昇が心の中で、国の上層部の人間への憤りを募らせていく。
(何もかもが、オレを陥れようとする・・・!)
自分を追い込んでくる敵を憎悪し、昇が両手を強く握りしめていく。
(そこまで・・そこまでオレを怒らせて楽しみたいのか・・・!?)
込み上げてくる憤りを抑えるのに、昇は必死だった。
ポニテでの仕事を終えると、香澄は昇を探しに外を駆け回った。
(昇、どこなの?・・どこかで誰かを襲って・・・!?)
昇の動向に不安を感じて、香澄が足早になっていく。彼女は大通り近くの河川敷に来ていた。
「キャアッ!」
そのとき、香澄の耳に女性の悲鳴が入ってきた。彼女が駆けつけた先で、女性が巨大な紅いバラの花に取り込まれていた。
「また怪物が、人を襲って・・・!」
怪物への怒りを覚えた香澄の頬に紋様が走る。彼女は死神の怪物になって、女性をのみ込んだバラの怪物の前に駆け込んだ。
「バケモノは、1人残らず息の根を止める・・!」
「バケモノを1人残らず?・・あなたもそのバケモノの1人じゃない・・」
鋭い視線を向ける香澄を、怪物が嘲笑する。
「そうよ・・だから私自身も許せないのよ・・・!」
香澄が言いかけてから、怪物に向かって飛びかかる。
(少しでも昇を信じようとした、私自身も・・・!)
昇への憎しみとともに、香澄は自責も抱えていた。彼女が繰り出した拳を、怪物が軽やかにかわしていく。
「力強そうだけど、猪突猛進ね。難なくよけられる・・」
微笑みかける怪物に香澄がさらに飛びかかる。すると怪物がバラの花びらをまき散らしてきた。
香澄が花びらを振り払うが、花びらは彼女が怪物を見失わせる目くらましになった。
「私にはあなたの動きが手に取るように分かる・・」
さらに微笑みかける怪物。いら立ちを覚える香澄がさらに飛びかかるが、バラの花びらに視界をさえぎられる。
「逃げるな!おとなしく私に倒されろ!」
「おかしなことを言うのね。あなたは同じことを言われて、言うとおりにするのかしら?」
怒鳴る香澄に怪物が悠然と言葉を返す。
「お前たち怪物に、生きる権利などない・・・!」
「あなた、本当に勝手ね。言うことが勝手な理屈ばかり・・」
鎌を手にして構える香澄に、怪物が呆れてため息をつく。
「正義の味方気取りは、誰からも愛想を尽かされる・・そのことを思い知るといいわ・・」
「どこまでも勝手を・・!」
怪物の嘲笑に激高して、香澄が鎌を振りかざす。怪物は後ろに飛んで鎌をかわしていく。
「逃げるなと言っている!」
香澄が言い放ち、ばらまかれているバラの花びらを鎌で振り払う。
「そろそろあなたもいただかせてもらうわ・・」
香澄の背後に回り込んでいた怪物。怪物が大きなバラを伸ばして、香澄の頭にのしかからせる。
「うわっ!」
バラに吸われて香澄が声を上げる。バラはさらに彼女を吸い込んで、のみ込もうとする。
「このまま私の中に入ってきなさい。そして私と1つになるのよ・・」
怪物が笑みを強めて、香澄を吸い込んでいく。香澄は抗いきれずにバラに吸い込まれていく。
「私は・・お前たちの思い通りには・・ならない!」
香澄は全身に力を込めて、触手を打ち破ろうとする。
「ムダよ。私の花は内側からは絶対に破れない。吸い込まれたら私のものになるしかない・・」
怪物が妖しく微笑んで、香澄をさらに吸い込もうとする。
「私はお前たちを滅ぼす!」
そのとき、怪物の触手が破裂して、中から香澄が飛び出してきた。
「えっ!?」
思っていなかったことが起こって、怪物が驚愕する。香澄が着地して、息を乱しながら怪物を見据える。
「あなた、今、何をしたの・・・!?」
怪物が香澄に対して疑問を投げかける。香澄は全身からかまいたちを放って、触手を切り裂いたのである。
「お前たちは絶対に、私を思い通りにはできない・・・!」
香澄が鋭く言いかけると、落としていた鎌を拾う。鎌を構えた彼女に対して、怪物がまたバラの吹雪を放つ。
「何度も同じ手は通用しない!」
香澄はバラの花びらに惑わされず、鎌を力強く振りかざす。鎌の一閃が怪物の左腕を切り裂いた。
「うわあっ!」
切られた腕から鮮血があふれ出して、怪物が絶叫を上げる。香澄がさらに鎌を構えて、怪物を見据える。
「こんなことが・・私が死ぬなんて・・・!」
絶望する怪物に香澄が鎌を振りかざす。鎌が怪物の体を斜めに切り裂いた。
怪物が昏倒して、血にまみれて動かなくなった。崩壊していく怪物を見下ろして、香澄が人の姿に戻る。
(怪物はみんな自分勝手・・絶対に滅ぼさないといけない・・・!)
怪物への憎悪を抱えて、香澄が手を握りしめる。
(私がやらないといけない・・・!)
自分の使命だと言い聞かせて、香澄は歩き出す。彼女は迷いを振り切って、怪物打倒を目指した。
香澄と怪物の河川敷での戦いは、怪物殲滅を目論んでいた特殊部隊に監視されていた。彼らは香澄の正体を目の当たりにした。
「ついに正体を暴いたぞ。すぐにデータと照合して手配するのだ。」
隊長の命令で、兵士の1人がデータベースを確認する。
「葵香澄。近辺のレストランで働いています。」
「すぐにそのレストランを押さえる。来ていないようなら監視体制を維持。」
報告した兵士に隊長がさらなる命令を下す。部隊は香澄を拘束するため、行動を本格化させた。
その翌日、早番である昇がポニテにやってきた。香澄がいないことを確かめて、昇は内心安堵していた。
(昇くん・・香澄ちゃんと何かあったのかな・・・)
昇の様子を気にして、涼子は心配を感じていた。
(今日は香澄ちゃんが後で来るけど・・)
一抹の不安を抱えながら、涼子は仕事に意識を戻した。
店内の掃除や手入れをしてから、涼子たちは開店時間を迎える。そして昇はいつものように食器洗いに専念する。
その最中、昇は違和感を覚えて、裏口から外に出た。そこで彼は違和感を確信に変えた。
「店の周りでコソコソしたマネはやめろよ・・出てこないなら引っ張り出すぞ・・」
昇が周囲に向かって呼びかける。周辺でそよ風以外の動きが見られない。
昇がいら立ちを浮かべて、近くの木に近づく。すると物陰が次々にざわつくのを耳にして、昇が足を止める。
「逃げ足の速いヤツらめ・・・!」
不快感を噛みしめて、昇は店の中に戻った。彼は物陰に誰かが潜んでいて、近づいたらすぐに逃げ出したことに気付いていた。
ポニテの周辺に監視体制を敷いていた特殊部隊だったが、昇に気付かれて即座に撤退した。
「まさか詰め寄られるとは・・・!」
「あれは間違いなく我々に気付いていた・・・!」
兵士たちが昇に迫られたことに毒づいていた。
「もしや、ヤツの怪物なのでは・・・!?」
「その可能性が高い・・でなければ我々の潜伏が気づかれるはずがない・・・!」
兵士たちが言葉を交わす中、隊長が小さく頷いた。
「その者の調査も行うのだ。葵香澄同様、対象とする。」
「了解。」
隊長の命令に兵士たちが答える。彼らは香澄だけでなく、昇にも狙いを向けた。
それから時間がたった頃に、香澄がポニテに向かっていた。ところが彼女はポニテにたどり着く直前に足を止めた。
(誰かがここを見張っている・・ううん、ここというよりは、誰かを・・)
香澄が辺りを気にして違和感を覚える。彼女も周辺の物陰に誰かが潜んでいることに気付いていた。
(あのとき、怪物を狙って自衛隊が動いていた・・もしかして、昇を何とかしようと・・・)
香澄が記憶と思考を巡らせていく。
(でも、いくらなんでも昇の力を止めるのは極めて難しい・・被害が増すことに・・・)
さらなる危険につながるという危惧を、香澄は感じていた。
(やっぱり私が昇を何とかするしかない・・・私はあなたを倒す・・昇・・・!)
自分が昇を倒すことを改めて心に決める香澄。彼女はポニテにたどり着いて、裏口から中に入ろうとした。
「葵香澄だな。」
声をかけられて、ドアのノブに伸ばしかけた手を止める香澄。彼女の後ろに現れたのは、特殊部隊の兵士たちだった。
「あの、あなた方は・・?」
「おとなしく我々に付いてきてもらおう。逆らわなければ全てが穏便に進む。」
香澄が問いかけるが、兵士たちは答えることなく彼女を取り囲む。
「ち、ちょっと・・いったい何が何だか・・説明してほしいんですけど・・・」
「説明する必要はない。」
当惑を見せる香澄を、兵士たちが無理やり連れて行こうとする。
「放して!放してください!いきなり有無を言わさずだなんて、そんな!」
香澄が悲鳴を上げて、兵士たちの手を振り払っていく。
「抵抗するな。さもなくば発砲するぞ。」
兵士から忠告を投げかけられて、香澄は一気に緊迫を募らせた。
ポニテの外からした香澄の声。店の中にいる人の中で、昇だけが彼女の声を耳にしていた。
(アイツ・・・!)
香澄に対する憎悪を覚えて、昇が再び裏口から外に出た。そこで彼は香澄と兵士たちを目の当たりにする。
「お前ら・・どこまでもオレに付きまといやがって・・・!」
怒りとともに昇の顔に紋様があらわになる。彼が龍の怪物になって、香澄と兵士たちに飛びかかる。
「やはりコイツも怪物だったか!」
「こうなれば撃て!葵香澄共々始末しろ!」
兵士たちが昇と香澄に対して銃を構える。
「お前ら!」
激高した昇が発砲する前に殴り掛かった。兵士たちが昏倒して、血をあふれさせる。
「やめて!人間は悪くない!」
香澄が呼びかけるが、昇は攻撃をやめない。
「やめろ!」
香澄も激高して、死神の怪物になる。彼女は兵士たちの前に飛び出て、昇に組み付く。
「人間を傷付けることは、私が許さない!」
「お前、どこまでふざければ気が済む・・お前が守ろうとしてるゴミクズに、お前は今無理やり連れて行かれそうになっていたんだぞ!」
「違う!それは私が怪物だから・・!」
「怪物だから、自分たちの敵だから・・それだけの理由で有無を言わさず弄ぶのが、アイツらなんだぞ!」
香澄の言葉をはねつけて、昇が力を込めて突き飛ばす。香澄は足に力を入れて踏みとどまる。
「そんなゴミクズは何を言っても意味がない・・自分たちが正しいと思い上がっているから・・・!」
昇が目つきを鋭くすると、剣を具現化させて手にする。
「だから始末するしかない・・ゴミは掃除するのが当然だから・・・!」
「人間はゴミじゃない・・ゴミなのは、怪物のほう!」
昇の言葉に反発して、香澄も死神の鎌を手にする。
「お前たちバケモノを滅ぼせるなら、私はその後で地獄に落ちても構わない!」
「お前も・・思い上がっているゴミクズだな!」
意思を示す香澄に、昇がいら立ちを爆発させる。各々の武器を構えて、昇と香澄が飛びかかった。
次回
「やっぱり、人間じゃなく怪物のほうが・・・」
「どうしてお前は、この現実を受け入れようとしない・・・!?」
「オレはゴミクズを滅ぼす・・お前も・・・!」
「私は、お前を許さない・・・!」