ガルヴォルスEternal 第9話「狂乱」

 

 

 次々に巻き起こる怪物の事件。全く怪物の排除ができていない状況に、政府は焦りといら立ちを募らせるばかりだった。

「バケモノどもが・・我々を弄びおって・・・!」

「早く根絶やしにしなければ、我が国の致命的な損害になるぞ・・!」

「だがバケモノを見つけて先手を打とうとしても、見分けがつかなくては・・・!」

「見境なくやれば、ただの人殺し・・虐殺でしかない・・・!」

 政治家たちが怪物への対処のための議論を重ねていくが、提案を見出すことができないでいた。

「やはり、バケモノどもを監視、追跡し、居所と正体を突き止めるしかないのか・・・!」

「引き続きバケモノたちの捜索を続ける・・正体を暴き次第、芋づる式にヤツらを引きずり出してやる・・!」

 結局政府が出した結論は、表立った攻撃は仕掛けずに監視と追跡をしていくという、これまで通りの作戦だった。

 

 怪物が引き起こす事件とその対処についての政府からの会見。当然その作戦の詳細については語られなかった。

「まだ解決しそうにないわね・・」

 涼子が会見のニュースを見て、不安を口にする。

「この近くでも怪物が出たって話をよく聞くようになってきましたよ・・」

 亮太もニュースを見て深刻さを見せる。

「ここに来てほしくないわね・・お店で、お客様が来るから・・」

「みなさんに何かあるのがいけないですからね・・」

 涼子と亮太が店内のテーブルや席を見渡して、不安を膨らませていた。

「どうして、みんながこんな怖い思いをしないといけないんでしょう・・みんなが悪いわけじゃないのに・・・」

「みんな誰もが、幸せでいられたらいいのにね・・」

 亮太が口にした言葉に、涼子が自分の切実な気持ちを口にする。

「きっとみんな、心の中でそう思っているよね・・」

「涼子さん・・僕もそう願いたいですね・・・」

 亮太も涼子に正直な気持ちを口にした。

「それじゃ、仕事に戻るわよ。」

「はい。」

 涼子と亮太が気持ちを切り替えて、店の仕事に戻っていった。

(みんなが幸せになるためには、怪物がいなくならないことには・・・!)

 2人の会話を聞いていた香澄が、心の中で呟いていく。

(誰も分かり合えるなんてこと、絶対にない・・ゴミクズたちが自分が正しいと思い上がったから・・・)

 昇も心の中で、誰もが分かり合えるという希望がわずかもないことを呟いていた。

 

 政府から強く注意を言われ、自衛隊は緊張を募らせていた。

「我々の危機的状況はさらなる悪化を辿っている。この国のみならず、世界の安寧は我々の作戦遂行にかかっている。」

 隊長が部下の兵士たちに警告を送る。

「必ずや怪物の居所と正体を暴き出すのだ。」

「はっ!」

 隊長の命令に兵士たちが答える。彼らは怪物の完全討伐のため、行動を再開した。

 

 怪物の脅威による恐怖が街の中で膨らんでいた。この状況が続いていて、香澄はたまらなかくなっていた。

(みんな怪物に怯えている・・このままじゃ、私と同じ思いをする人が出てきてしまう・・・)

 胸の中に秘めている不安を膨らませていく香澄。

(早く怪物たちを見つけて、潰していかないと・・私がまずやらないと・・・)

 彼女は自分に言い聞かせて、怪物の行方を追っていく。

(今、1番厄介なのはアイツ・・私が倒しきれない・・どんなに力を込めても・・・)

 香澄が怪物となった昇を思い出していく。自分の知る中で1番力のある怪物だと、彼女は思っていた。

(私が何とかしないと・・今のところ、私しかアイツに立ち向かえる人がいない・・)

 昇や怪物たちを止められるのは今は自分だけと、香澄は自分に念を押す。

(私がみんなの幸せを守る・・涼子さんも亮太さんも、昇も・・・昇・・・)

 考えていくうちに昇のことを思い出して、香澄が戸惑いを感じていく。

(昇・・昇も救われるはず・・昇も幸せに・・・)

 昇のことを気にして、香澄は物悲しい笑みを浮かべていた。

 

 怪物の暗躍を気に留めながら、1人の議員が黒ずくめのボディーガード数人を引き連れて移動していた。それでも議員は不安と恐怖を隠せないでいた。

「もしも出てきたときは必ず私を守れ・・何があっても私の安全が第一だ・・!」

 議員が震えながらボディガードたちに呼びかける。

「もう少しでヘリポートだ・・そこから空港に行って、乗り換えて高跳びするのだ・・・!」

 自分の身の安全を優先する議員。彼らは海外へ逃亡して、怪物の脅威がなくなるのを待つことにしていた。

「思い上がったゴミクズは、1人も野放しにしない・・・!」

 そのとき、議員とボディガードたちの前に、怪物になった昇が現れた。

「バケモノ!?

 昇を目の当たりにして、議員が悲鳴を上げて後ずさりする。

「わ、私を守れ!ヤツを近づけさせるな!」

 議員の命令で、ボディガードたちが拳銃を取り出して、昇に銃口を向ける。

「そんなゴミクズを守って・・お前らもゴミなのか・・・!」

 彼らの言動に昇が憤りを浮かべる。

「バケモノが私をゴミ扱い!?凶暴さだけじゃなくて、頭のほうもどうかしてるな!」

 すると議員が暴言を吐き捨てて、ボディガード2人に守られながら離れていく。残りのボディガードたちが、昇に向けて発砲する。

「お前のようなヤツがいるから・・オレたちは・・この国は・・この世界は!」

 昇が激高して飛びかかり、放たれた弾丸をはじき飛ばしていく。

 ボディガードを殴り飛ばしていく昇。ボディガードたちが警棒を取り出すが、昇の力の前では役に立たない。

 昇に殴り飛ばされて、ボディガードたちが即死して動かなくなる。

「逃がさない・・・!」

 昇がいきり立ち、議員を追いかける。裏道を通ってヘリポートに行こうとしていた議員たちだが、昇に回り込まれる。

「うわー!来るな!来るなー!」

 議員が悲鳴を上げて、逆方向に逃げて、ボディガードが彼を守ろうと昇を迎え撃つ。だが昇に強く突き飛ばされて、ボディガードたちが昏倒する。

 再び昇に回り込まれた議員が、愕然となって後ずさりする。

「なぜ・・どうして私が執拗に狙われなくてはならない!?私は何も悪いことはしていない!国のために尽力しているだけ!」

「国のため・・自分たちが正しいと思い上がって、思い通りにしていることが国のためだと!?

 訴える議員だが、昇の感情を逆撫でするばかりだった。

「貴様がやっているのはただの人殺し!凶悪な犯罪者なのだぞ!」

 怒号を放つ議員に激高した昇が右足を振りかざす。

「ぐあぁっ!」

 足を蹴られた議員が倒れて、激痛にあえぐ。もがく彼を昇が鋭く見下ろす。

「自分のしている愚かさを棚に上げて、他のヤツに罪をなすりつける・・やはりお前らゴミクズに何を言っても意味がない・・・!」

 憤りを膨らませて、昇が剣を具現化して構える。

「見つけ次第、叩きつぶす・・確実に、この手で・・!」

「や、やめてくれ!助けてくれ!何でも言うとおりにするから、命ばかりはー!」

 議員が涙ながらに昇に命乞いをする。しかし彼のこの言葉も、昇の怒りをあおるだけだった。

「今そんなことをぬかすなら、最初から正しいことをすればいいのに・・・!」

 昇は低く言うと、議員に剣を突き立てる。鮮血をまき散らした議員が、事切れて動かなくなる。

「ゴミクズは始末するしかない・・何の同情も意味がない・・・!」

 国や世界の上層部への憎悪を抱えたまま、昇は剣を消して歩き出す。しかし人の姿に戻らず、彼は周囲に意識を傾ける。

「いつまでもオレに付きまといやがって・・・!」

 いら立ちを噛みしめて、昇は駆け出してスピードを上げた。

 議員とボディガードたちを惨殺する昇を、自衛隊の兵士たちが目撃していた。だが素早く動いた昇を、彼らは見失う。

「怪物が移動して、我々の視界から消えました・・!」

 兵士が隊長に報告をする。

「気付かれたというのか・・追跡しろ。ただし深追いはするな。」

「了解・・!」

 隊長の指示に兵士たちが答える。彼らは昇を追って動き出していった。

 

 1度帰宅してから、香澄はすぐに出かけた。怪物を仕留めるため、彼女も外を回ることにした。

(どこに隠れていても、怪物は必ず見つけて叩きつぶす・・・)

 怪物を滅ぼすことを頑なにして、香澄は街のほうに向かっていた。

 そのとき、香澄の視界に、怪物の姿の昇が速い動きで駆け抜けていくのが入ってきた。

「アイツ・・・!」

 昇に憤りを覚えた香澄の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女も怪物になって、昇を追いかけていく。

 香澄に気付いた昇が、足を止めて振り返る。2人が同時に拳を振りかざしてぶつけ合う。

「お前、また出てきたのか・・!」

 昇が声を上げると、2人が拳の反動で押し返される。

「お前、まだゴミクズを守るために・・!」

「人間はゴミクズじゃない・・みんなをムチャクチャにしているのは、お前たちバケモノのほう!」

 にらみつけてくる昇に、香澄も憎悪をあらわにする。

「お前たちが、私の全てを壊した!お前たちがいなければ、私たちはいつまでも幸せでいられたのに!」

「あくまで自分たちのこと・・それがゴミクズの考えだというのに!」

 悲痛さを込めた香澄の叫びにも、昇は自己満足な考えだと捉えて憤る。

「自分たちだけいい思いをして、他のヤツを陥れても平気な顔をする・・オレはそんなゴミクズを野放しにはしない!」

 昇が言い放ち、剣を具現化して構える。

「それはバケモノのほう・・自分勝手なバケモノを、私は許さない!」

 香澄が怒りの言葉を叫んで、鎌を具現化して構える。2人がそれぞれの武器を振りかざして、刃をぶつけ合う。

(ゴミクズは1人残らず潰す!ゴミクズに味方するヤツも!)

(怪物は必ず倒す・・みんなが幸せになれるなら、昇もきっと・・!)

 昇と香澄が頑なな意思を強めていく。その瞬間、香澄は昇に対する戸惑いも募らせていた。

「そこまでだ、怪物ども!」

 そのとき、自衛隊が現れて、昇と香澄を包囲してきた。兵士たちが銃を構えて、2人に銃口を向ける。

「お前たちは何者だ!?素性を洗いざらい話すのだ!」

 隊長が呼びかけ問いかけてくる。香澄が緊迫を覚えて、昇が憎悪を募らせる。

「どいつもこいつも・・自分たちの目的のために・・・!」

 昇が自衛隊に対しても憎悪を傾ける。彼は剣を構えて、兵士たちに向かっていく。

「今度こそ、お前たちを仕留める!」

 兵士の1人に剣を振り下ろしてくる昇。その間に香澄が鎌を入れて防ぐ。

「邪魔をするな!コイツらはゴミクズに味方する・・!」

「お前たちなんかに、これ以上人殺しはさせない!」

 互いに怒号を放つ昇と香澄。香澄が右足を振り上げて、昇の体に膝蹴りを叩き込む。

「ぐっ!」

 この一撃で昇が一瞬怯む。彼は香澄が押し込んだ鎌に突き飛ばされる。

「アイツ・・!」

 昇が香澄に対する憎悪を募らせる。彼に立ち向かおうと、香澄が鎌を構えた。

 次の瞬間、香澄が突然背中に激痛を覚える。彼女の後ろにいた兵士が、銃を撃ってきたのである。

「怪物は1人残らず倒す・・好きにはさせない・・・!」

 兵士が声を振り絞り、香澄に向けてさらに発砲する。香澄は素早く動いて銃弾をかわし、昇がその弾丸を剣で弾く。

「ゴミクズの味方も、ゴミクズということ・・・!」

 昇が兵士たちに向かって飛びかかる。彼が振りかざした剣が兵士を切りつけていく。

「やめろ・・人間に、手を出すな・・・!」

 香澄が体を襲う痛みに耐えて、声と力を振り絞って立ち上がる。痛む体に鞭を入れて、香澄は動き出して、昇が振りかざす剣を鎌で受け止める。

「お前、ゴミクズにやられたのに、まだゴミクズを守ろうとするのか・・!」

「みんな、私も怪物だから・・でも、きっと分かってもらえる・・・!」

 いら立ちを見せる昇だが、香澄は人間を信じようとする。

「分かろうともしない・・だからゴミクズだということが分からないのか、お前も!?

「分かろうとしていないのはお前たちのほうよ、バケモノ!」

 憤りを募らせる昇に香澄が怒号を放つ。昇とつばぜり合いをしたときに体に痛みを覚える香澄だが、その痛みさえも力を出す刺激にした。

 香澄が発揮した力に競り負けて、昇が押される。香澄がすぐさま昇に向けて鎌を振りかざす。

「ぐっ!」

 鎌の刃先に傷をつけられて、昇がうめく。彼は踏みとどまろうとして、香澄が再び振りかざしてきた鎌を、剣で受け止める。

「今だ!一斉射撃だ!」

 そのとき、自衛隊の隊長が命令を下した。兵士たちが一斉に銃を放ち、昇と香澄を射撃する。

「うっ!」

「ぐあっ!」

 体を撃たれて香澄と昇が苦痛にあえぐ。

「お前ら・・お前ら!」

 激高した昇が強引に体を突き動かして、兵士たちに飛びかかる。彼は剣と拳を振るい、兵士たちを次々に手にかけていく。

「やめて・・これ以上、人を傷つけるな!」

 香澄が怒りを爆発させて、昇に飛びかかる。この衝突で2人は持っていた武器を手から離してしまう。

 2人は組み付いたまま、通りを離れていった。

「くっ・・バケモノどもが・・・!」

 隊長が昇と香澄に対して毒づく。兵士たちのほとんどが昇に斬り殺されていた。

 

 昇と香澄は組み付いたまま、人のいない裏通りまで転がり込んできた。2人は撃たれた体を突き動かして、互いを鋭く見据える。

「お前・・絶対に許さない・・・!」

「許さないのはお前のほうだ・・ゴミクズに味方するお前も、ゴミクズだということか!」

 互いに憎悪を傾ける香澄と昇。2人が右手を握りしめて、拳を振るってぶつけ合う。

 さらに2人は左の拳を繰り出す。この一撃は互いの顔面を捉えた。

 強く殴られた衝動で昇と香澄がふらつく。踏みとどまろうとする2人だが、体が言うことを聞かない。

 力が弱まった昇と香澄の姿が、怪物から人へと戻っていく。

「なっ・・・!?

「えっ・・・!?

 互いの正体を目の当たりにして、昇と香澄が驚きをあらわにする。

「ウソ・・・昇・・・!?

 人殺しをする怪物が昇だったことが信じられず、香澄が絶望していく。

「お前が、人間に味方する怪物・・・!?

 昇も香澄が怪物だったことに驚愕していく。

「何で・・何でゴミクズの味方をする!?自分たちだけがいい思いをすればそれでいいと思い上がり、他のヤツを陥れて平気な顔をしてるヤツらなんだぞ!」

「それはバケモノのほう!自分たちの目的のために、罪のない人を傷つけて殺して奪って!」

「それは人間のほうだ!自分たちの悪さを他人に押し付けることもしている・・お前もその1人なのか!?

「違う!怪物のしていることじゃない!人間は悪くない!」

 昇が怒りの言葉を叫ぶと、香澄がひたすら反論する。

「お前もオレの敵だ・・叩きつぶさないと・・!」

 昇が香澄に飛びかかろうとしたが、意識が途切れて倒れてしまう。

「昇・・・!」

 香澄も意識を失い、その場に倒れる。倒れて動かなくなった2人は、お互いを憎むべき敵だと認識していた。

 

 

次回

第10話「憎悪」

 

「何もかもが、オレを陥れようとする・・・!」

「怪物はみんな自分勝手・・」

「絶対に滅ぼさないといけない・・・!」

「私はあなたを倒す・・昇・・・!」

 

 

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