ガルヴォルスEternal 第7話「狡猾」
昇と香澄を取り囲んで、自衛隊が発砲を仕掛けてきた。昇が怒りを膨らませて、兵士たちに殴り掛かる。
「ゴミクズの言いなりになっているヤツもゴミクズだ!」
昇が言い放ち、さらに兵士たちを殴りつけていく。兵士たちが発砲するが、昇は弾丸を受けても傷はつかず、平然としていた。
「間違っていることをしている連中の言いなりになって・・使われているだけなのにいい気になって・・・!」
「バケモノが知った口を叩くな。上官に従うのは我々の義務。理由や疑問を持ちうる必要はない。」
怒りを募らせる昇に、隊長は表情を変えずに言葉を返す。
「そうやって言いなりになる・・やっぱりお前らもゴミクズでしかない!」
昇がさらに怒りを見せて、さらに拳を振るっていく。彼の力の前に、兵士たちは追い込まれていく。
「このバケモノ、本当に強い・・!」
「銃も全く効き目がない・・・!」
兵士たちが昇に対して毒づく。
「やむを得ない・・撤退するぞ!」
体調が兵士たちに命令を出す。
「逃げるな!」
昇が叫んで兵士たちを追いかけていく。兵士の1人が煙幕を投げつけて、煙を舞いあがらせる。
「くそっ!・・どこだ・・逃げるな!出てこい!」
昇が怒号を放って、剣を振りかざして煙を振り払う。だが既に部隊は姿を消していた。
「ちくしょう・・ちくしょう!」
昇が怒りを抑えられなくなり、地面を強く踏みつけていく。
「これがアイツらのやり方・・自分が安全で有利なところじゃいい気になって、不利になったらすぐ逃げる・・だからゴミクズなんだよ!」
部隊や彼らを指揮する人々への憎悪を膨らませていく昇。人の姿に戻った彼は、怒りを抱えたまま立ち去っていった。
明良を連れて部隊から逃げ出した香澄。周りに他の人がいないのを確かめてから、香澄は人の姿に戻った。
「危ないところだった・・事情を知らないみんなにとっては、私も怪物の1人なんだね・・」
怪物になった自分に皮肉を覚える香澄。
「香澄、大丈夫?・・自衛隊の人、かなり発砲してきたし・・」
「大丈夫、大丈夫。これでも丈夫だから。」
明良が心配するが、香澄は笑顔を見せる。
「今度はちょっと気を付けないといけないね。同じく、怪物を倒そうとしている人たちだから、勘違いさせたらいけないよね・・」
「ゴメン、香澄・・大変なときなのに、何もできなくて・・」
「いいって、いいって。明良が近くにいるだけで力が湧いてくるっていうか、勇気づけられるんだよね・・」
謝る明良に香澄が笑顔を見せる。仲間ができたことで、香澄は落ち着きを取り戻しつつあった。
「それじゃ、改めてポニテに・・明良、行こう。」
「う、うん。」
香澄に呼びかけられて、明良が頷く。2人は改めてポニテを目指して駆け出していった。
(心から幸せを願っている明良・・かけがえのない人を大切にしようとしている明良・・今の私の支えになっている・・・)
香澄が心の中で、明良への思いを膨らませていた。
(あなたを・・あなたを失いたくない・・・!)
明良を守ることを、香澄は固く心に誓っていた。
昇に追い込まれて撤退した部隊。彼らは体勢を立て直して、再び作戦を遂行しようとしていた。
「ヤツらは同士討ちを仕掛けようとしている。これは丁度いい好機だ。」
隊長が状況を分析して呟いていく。
「ヤツらを追い込んで、うまく同士討ちをするように仕向けよう。」
「了解。」
隊長の命令に兵士たちが答える。彼らは昇と香澄を戦わせて、消耗したのを見計らって攻め立てようとしていた。
ポニテを目指していた香澄と明良。その途中、2人の前に昇が通りがかった。
「昇くん・・・」
昇と会って戸惑いを覚える香澄。事情を話しても昇は取り合ってくれないと思い、香澄はためらっていた。
「ちょっと涼子さんに用があって・・」
「そうか・・・」
口ごもりながら説明しようとする香澄に返事をして、昇が歩き出す。
「あの人は・・?」
「私が働いているお店のバイト。でも無口で自分から関わろうとしないの・・」
明良の問いかけに香澄が答える。
「だから聞いても多分取り合わないと思う・・今はお店の方に行こう。」
「うん・・」
香澄の呼びかけに明良が頷く。2人は改めてポニテを目指す。
そのとき、香澄に気付かれないように、明良が笑みを浮かべてきた。野心を込めた不敵な笑みを。
その瞬間を、足を止めていた昇が目撃していた。
(アイツ、もしかして・・・)
昇は明良に対して疑念を抱いていた。
ポニテに向かっていく香澄と明良。彼女たちの動きを、自衛隊が捉えていた。
「ヤツらはこの近くに潜んでいるぞ。決して油断するな。」
隊長の声に兵士たちが頷く。彼らは散開して、香澄たちを包囲しようとしていた。
同じく香澄とアキラの動きを、チーターの怪物もつかんでいた。
「そこにいたか。自衛隊のヤツらも包囲してきているようだが、オレをどうにかできるはずがない。」
怪物が自衛隊の様子もうかがって、強気を感じていた。
「あの2人、オレが必ず仕留めてやる・・・!」
いきり立った怪物が、香澄を狙って飛び出していく。彼の接近に気付いて、香澄が足を止めた。
「お前は、あのときの・・!」
身構えた香澄が死神の怪物に変わる。チーターの怪物が振りかざした手を、香澄が両腕で防ぐ。
「今度こそお前を仕留めてやるぞ。」
「それはこっちのセリフよ・・もう逃がさない!」
不敵な笑みを見せる怪物に、香澄が鋭い視線を向ける。彼女が両腕を振りかざして、怪物を押し返す。
「確実に・・確実にここで切り裂いてやる・・お前を!」
香澄が憎悪を噛みしめて、怪物目がけて鎌を振りかざす。怪物は素早く動いて鎌をかわす。
「お前ではオレのスピードには勝てない。身の程をわきまえないのが、お前の弱さだ。」
「私のことを勝手に決めるな!自分勝手なバケモノのくせに!」
淡々と言葉を投げかけていく怪物に、香澄がいら立ちを募らせていく。
「お前もそのバケモノだ。とことん身の程をわきまえようとしない・・」
「黙れ!」
怪物の挑発に激高して、香澄が飛びかかる。力任せに鎌を振りかざしていく彼女だが、怪物にことごとくかわされていく。
「怪物は1人残らず叩きつぶす!そうしなければ悲劇は繰り返される!」
「ならばお前も悲劇の一端ということだな。」
怒鳴りかかる香澄に怪物がさらに挑発を投げかけていく。香澄が振り下ろした鎌が地面に刺さり、怪物が鎌の上に乗っていた。
「これで終わりだ。身動きの取れないお前の首を、オレの爪でかき切って・・」
怪物が香澄を見据えて、爪を構える。
そのとき、自衛隊が一斉に飛び出してきて、香澄と怪物に向かって発砲してきた。2人はとっさに動いて、飛び交う弾丸をかわす。
「こんなときにしゃしゃり出てきて・・!」
怪物が毒づき、自衛隊の兵士たちに飛びかかって爪で切りつけていく。
「また自衛隊が・・私を怪物として始末しようとしている・・・!」
自衛隊に標的にされていることに、香澄が危機感を覚える。
(あれ!?明良がいない・・!?)
避難しようとした香澄だが、明良がいないことに気付く。
「明良、どこ!?」
香澄が慌てて明良を探す。彼女は自衛隊の射撃をかいくぐり、明良を追い求めて駆けていった。
香澄が怪物、そして自衛隊と衝突したとき、明良は場所を変えて移動を続けていた。
「アイツ、うまくぶつかり合ってるね・・それに、私が知らせた自衛隊も来てくれたし・・」
明良が今の状況を喜んで笑みをこぼす。彼女が自衛隊に知らせて、香澄たちを始末させようと仕向けたのだった。
「バケモノなんてみんないなくなっちゃえばいいんだよ。人間に味方するバケモノなんて、気色悪いったらありゃしない・・」
明良が怪物への憎悪と香澄への嘲笑をあらわにする。
「人間に対してあそこまで良心的なのは初めて見た気がするよ。信じやすいヤツほどバカを見るってね・・」
香澄に対して笑い声を上げる明良。彼女は香澄を他の怪物たちと戦わせて潰し合うために利用していたのである。
「おかげでうまく騙せたってものよ。バケモノは潰し合って共倒れしちゃえばいいんだから・・」
「お前が、こんなマネをしてたのか・・・!?」
そのとき、明良が声をかけられて緊張を覚える。振り返った彼女の前にいたのは、昇だった。
「アンタは、あのときの・・・!?」
「お前も今の国や世界を好き勝手に動かしている連中と同じだ・・他のヤツをいいように利用して、自分は安全なところでほくそ笑んでいる・・・」
目を見開く明良に、昇が鋭く言いかける。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「お前も、ゴミクズでしかない・・・!」
昇が龍の怪物へと変貌を遂げる。異形の怪物となった彼の姿を目の当たりにして、明良が緊迫を募らせる。
「アンタもバケモノだったのね!・・アイツに知らせて、助けてもらって・・・!」
香澄が慌てて昇から逃げて、香澄と合流しようとした。だが昇にすぐに回り込まれる。
「これ以上好き勝手なことさせるかよ・・」
「バケモノが・・好き勝手なのはアンタたちじゃない・・自分の力を楽しんで、私たちを痛めつけて・・!」
さらに目つきを鋭くする昇に、明良が憎悪を向ける。
「バケモノなんてみんないなくなっちゃえばいいのよ!そうすればみんな幸せに暮らせるんだから!」
明良が怒鳴りかかると、昇が地面を強く踏みつける。この瞬間に明良が思わず押し黙る。
「いなくなるべきなのは、自分たちの思い通りに何もかも動かしているゴミクズ連中のほうだ・・お前も、ゴミクズの1人なんだよ!」
昇が目を見開いて、明良に向かって拳を振るう。明良が慌ててよけようとして、昇の拳は彼女の眼前を通り過ぎる。
昇がさらに拳を振りかざす。この一撃が明良の左腕に命中した。
「うわあっ!」
殴られた腕の折れた激痛で、明良が絶叫を上げる。苦しみあえぐ彼女を昇が見下ろす。
「どこまでも好き勝手に・・私たちを、ゴミクズがゴミクズ呼ばわりするなんて!」
「自分のことを棚に上げて、他のヤツに責任転嫁する・・救いようがない・・!」
声を張り上げる明良の怒号に、昇が逆に怒りを膨らませる。彼が足を振り上げて、明良を蹴り飛ばす。
激しく横転した明良がさらなる激痛に襲われる。
「バケモノが・・何でもかんでも思い通りになると思って・・・!」
「自分の愚かさに気付こうとせず、あくまで他のヤツを悪いと決めつける・・どこまで自分が正しいと言い張れば・・・!」
憎悪を傾ける明良の言動に、昇の憤りは頂点に達していた。
「人殺し・・偉そうなことを言って、人を殺して喜ぶ・・やっぱバケモノだよ、アンタたち・・・!」
「お前たちは人じゃなくゴミクズだ・・ゴミクズは始末しても罪にはならない・・掃除をして悪く思うヤツはいないからな・・・」
明良が投げかける言葉を昇がはねつける。彼が剣を具現化して、明良に向ける。
「思い上がっているヤツは、誰だろうと許しちゃおかない!」
昇が明良に剣を突き立てた。刺された明良の体からおびただしい鮮血があふれ出した。
「わ・・わた・・・私は・・・!」
声と力を振り絞って、明良が昇に向かって手を伸ばそうとする。
(こんなところで死ぬなんて・・認めたくない・・・!)
死ぬことに抗う明良だったが、さらに剣を突き立てられて事切れた。
「お前たちの・・お前たちのようなヤツがいるから・・・!」
自分勝手への憎悪を募らせる昇。彼は怒りを抱えたまま、明良から剣を引き抜いた。
いなくなった明良を探して、香澄は通りを探し回っていた。
「明良・・どこに行ったの、明良・・・!?」
明良が無事で見つかることをひたすら祈る香澄。彼女はさらに通りを駆け抜けていく。
次の瞬間、香澄の視界に明良の姿が入ってきた。昇の剣に貫かれた姿が。
(明良・・・!?)
明良の無残な姿に香澄が目を疑う。彼女はさらに、剣を引き抜く昇の姿を目撃する。
「アイツが・・アイツが明良を!」
明良を手にかけた昇に怒りを爆発させる香澄。彼女は飛びかかり、昇に殴り掛かる。
殴り飛ばされた昇が、両足に力を入れて踏みとどまる。
「お前・・!」
「お前だけは許さない・・自分勝手なことをして、明良まで・・・!」
目つきを鋭くする昇に、香澄も敵意を募らせていく。
「絶対に許さない!」
香澄が再び昇に飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、昇は横に動いてかわす。
「許さないのはゴミクズのほうだ!自分の目的のために他のヤツを利用して、いい気になるコイツは!」
「明良に勝手なことを言うな!何も知らないくせに!」
「何も知らないのはお前のほうだ!ヤツの企みを!」
「明良はバケモノを憎み、みんなの幸せを願っていた!それをお前は踏みにじった!」
「自分のことしか考えないゴミクズをそこまで庇っても、自分がゴミクズになるだけだ!」
「ゴミクズ、ゴミクズって・・人間をそんなふうに言うな!」
「アイツらがそう言ってほしいっていう態度を取っているんだろうが!」
「どこまで勝手なことを!」
それぞれの怒りが互いの怒りを逆撫でしていく。昇と香澄が力任せに拳を振るって、ぶつけ合っていく。
昇と香澄はさらに剣と鎌を具現化して、振りかざしていく。2つの刃がぶつかり合い、火花と衝撃を巻き起こしていく。
「お前も・・お前も結局はゴミクズだったんだな!」
昇が怒号を放って、強引に香澄を押し込もうとする。
「お前も叩きつぶさないと、世界は何も変わらないっていうのか!」
「叩きつぶされないといけないのは、お前たちバケモノのほうだ!」
怒りのままに戦い、激情を押し付けようとする昇と香澄。2人がぶつけ合った剣と鎌が折れて、刃が地面に刺さる。
昇も香澄も引き下がろうとせず、力を込めて拳を繰り出す。ぶつけ合った2人の一撃が、さらなる衝撃を巻き起こし、爆発を巻き起こす。
「ぐっ!」
「うわっ!」
昇と香澄がその衝撃で吹き飛ばされる。互いに通りの壁の向こうまで飛ばされていった。
チーターの怪物に襲われて、自衛隊は追い込まれていた。
「おのれ・・一時撤退だ!体勢を立て直す!」
隊長が呼びかけて、兵士の1人が煙幕を放つ。煙が舞い上がり、怪物が視界をさえぎられる。
「人間でありながら、姑息なマネを・・・!」
怪物が毒づきながら、煙をかき分けて外に出る。しかし兵士たちの姿はなかった。
「逃げられたか・・まぁいい。ひ弱な人間などいつでも始末できる。ヤツらが何をしてこようと・・」
怪物は男の姿に戻って、通りを後にしていった。
昇との衝突で大きく吹き飛ばされた香澄。人の姿に戻って茂みの中で仰向けに倒れていた彼女は、ただただ空を見つめていた。
(明良・・・せっかく・・せっかく心から分かり合える仲間ができたのに・・・)
明良を失った悲しみに暮れて、目から涙を流していく。
(あの子の願いを身勝手に踏みにじったバケモノ・・絶対に許さない・・・!)
怪物への憎悪をさらに強めていく香澄。
(明良・・あなたの願い、必ず叶えるから・・・)
明良への思いを胸に秘めて、香澄がゆっくりと起き上がる。彼女は気落ちしたまま、家に戻っていった。
明良が利用していたことを、香澄は最後まで知ることはなかった。
次回
「本当の人間って、何だっていうんだ・・・」
「自分勝手な連中に期待したって、何にもならない・・」
「昇も、何かを失って・・・」
「ホントの地獄は、許せないヤツの言いなりになったり、ほったらかしにすること・・・」