ガルヴォルスEternal 第6話「復讐」

 

 

 夜の街の裏路地を駆け抜けていく1人の少女。少女は追ってくるものからひたすら逃げていた。

 少女は路地を曲がって小道に入り込んだ。彼女は走りながら後ろを見て、追跡者がいなくなったかを確かめる。

「ちくしょう・・アイツ、どこへ逃げやがった・・・!?

 少女の目に、路地を通り過ぎた異形の怪物が映った。追跡者はこの怪物だった。

 少女は視線を前に戻して、ひたすら小道を駆け抜けていく。彼女は何とか怪物から逃げ切ることができた。

「怪物・・・絶対に許さない・・・!」

 怒りを感じながら、少女はさらに駆けていった。

 

 ポニテでの仕事が休みだった香澄。彼女は1人で街に繰り出していた。

 気分転換だけが目的ではない。街中に紛れている怪物がいないかを確かめるのもあった。

(この街のどこかに、バケモノが隠れているなんて・・・)

 人の日常の中に怪物が平然と存在している現状に、香澄はいら立ちを感じていた。

(誰を信じたらいいのか、分からなくなりそう・・・)

 疑心暗鬼に駆られそうになるのを、香澄は何とかこらえる。

「考えててもしょうがない。気晴らしに歩いてみよう・・」

 香澄は自分に言い聞かせて、街の中を歩いていった。

 

 昇はこの日はポニテでの仕事があった。彼は黙々と皿洗いをこなしていた。

「今日は香澄ちゃんは休みか。あの子の笑顔が見られなくて残念。」

 香澄がいないことに亮太が肩を落とす。

「がっかりするのは後。今はしっかりと仕事をお願いね。」

「分かっています。仕事に支障をきたすようなことはしません。」

 涼子に声をかけられて、亮太が笑みをこぼす。

「仕事をしっかりやるところは、昇くんも見習わないといけないですね。」

「昇くんはあまり刺激しないほうがいいということね。それなら本当に真面目だから・・」

 昇の様子を見て、亮太と涼子が会話を交わす。

(本当に・・昇くんは真面目な人なんだから・・・)

 昇の気持ちを察して、涼子が沈痛さを感じていた。

 

 だんだんと混雑になっていき、香澄は慌てて人込みから外れて通りを出た。

「ふぅ・・街は混むとホントに大変だね〜・・」

 香澄が人込みを見て大きく肩を落とす。

「ちょっと落ち着いてから戻ってきたほうがいいかも・・」

 もう1度ため息をついてから、香澄は通りから路地へと進んでいった。

 そのとき、香澄は走り込んでくる1人の少女を目撃する。無我夢中で駆け込んできたその少女が、香澄に気付かずにぶつかってしまう。

「イタタタ・・ゴ、ゴメン・・・!」

「す、すみません・・急だったもので・・」

 声を上げる少女と香澄。少女は慌ててすぐに立ち上がる。

「あの、どうかしたのですか・・?」

「いけない・・早く逃げないと・・!」

 香澄が問いかけるが、少女は慌てて駆け出そうとする。だが彼女は足に痛みを覚えて顔を歪めた。

「転んだときに・・こんなときに・・・!」

 痛めた足を押さえてうめく少女。それでも彼女は進もうとする。

「そ、その足で走るなんてムチャですよ・・!」

「放して!早くしないと・・!」

 呼び止める香澄だが、少女は聞こうとしない。

 そのとき、少女だけでなく、香澄も緊張を覚える。1人の男が2人に近づいてきた。

「鬼ごっこはおしまいだ。おとなしくオレにやられろ・・」

 少女に言いかける男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。この異変に香澄が目を見開く。

「アンタ、バケモノ・・・!」

 声を上げる香澄に、少女が振り向く。2人の前で男がゴリラを思わせる姿の怪物に変わった。

「他のヤツも出てきたか。一緒に始末しとくのがいいか・・」

 怪物が両腕を振り回しながら言いかける。

「恨むなら自分の運のなさを恨むことだな。」

「同じ言葉を返すわ・・」

 不敵な笑みを浮かべる怪物に、香澄が低い声音で言い返す。彼女の頬にも紋様が走る。

「お前、まさか!?

 驚愕を見せる怪物の前で、香澄も怪物の姿になった。

「怪物は、私が倒す・・!」

 目つきを鋭くする香澄が、怪物に向かって近づいていく。

「何だよ・・仲間に牙を向けるつもりかよ!?

 怪物がいら立ちを見せて、香澄に拳を振りかざす。香澄は怪物の拳を紙一重でかわす。

「コ、コイツ・・!」

 怪物がいきり立って、左の拳を繰り出そうとした。だがその瞬間、香澄が彼の体に肘打ちを入れる。

「うっ!」

 痛烈な一撃を受けて、怪物がふらついて後ずさりする。膝をつく彼を香澄が冷たく見下ろす。

「この小娘・・調子に乗りやがって・・!」

「バケモノは私が、1人残らず叩きつぶす・・・!」

 いら立ちを膨らませる怪物に、香澄が敵意を向ける。彼女は鎌を手にして、怪物の左腕を切り落とした。

「ぐあぁっ!」

 切られた腕を押さえて絶叫する怪物。苦しむ怪物を見据えて、香澄が鎌を構える。

「バケモノたちの幸運は、私が許さない・・・!」

 香澄が低く言うと、鎌を振りかざして、怪物の首を跳ね飛ばした。怪物の首が地面に落ちて、体が倒れて崩壊を引き起こす。

 香澄が肩を落としてため息をつく。人の姿に戻った彼女を見て、少女は戸惑いを感じていた。

「怪物が、怪物を殺した・・・ううん・・怪物を憎んでいる、怪物・・・!」

 困惑を膨らませていく少女に、香澄が振り返って動揺を見せる。

「あ、あの・・これは・・その・・・!」

 自分が怪物であることを知られて、香澄が慌てる。

「助けて・・助けて・・・!」

 その彼女に少女が飛びついてきた。思わぬ少女の反応に、香澄はさらに動揺を膨らませる。

「私、怪物が許せないの!でも私に怪物を相手にできるだけの力がなくて・・!」

「あなたも、怪物を憎んで・・・」

 少女の言葉を聞いて、香澄が戸惑いを覚える。

「もしかしてあなたも、誰かを殺されて・・・?」

 香澄が問いかけると、少女は涙ながらに頷いた。

(怪物を憎んでいる人・・幸せを願っている人がいた・・・)

 香澄は心の中で、自分と思いを同じくしている人と出会えたことを喜んでいた。

「私は香澄。葵香澄。」

「私、福居(ふくい)明良(あきら)。よろしくね・・

 香澄が少女、明良と握手を交わした。香澄は志を同じくする明良を大切にしたいと思っていた。

 

 この日のポニテの仕事が終わり、昇は外を歩いていた。彼は歩きながら警戒を感じていた。

(また警察やらが警備しているな。怪物を始末しようと・・)

 昇が辺りに目を向けて、警備を強めている警察について考える。

(何も知らずに、何も分からずに・・本当に捕まえなければならないのは、お前らに命令してきてるゴミクズのほうだってのに・・・)

 昇が警察に対してもいら立ちを感じていた。

(知らなかったっていうのはもういいわけにもならない・・アイツらの味方になっている時点で、もう同罪だ・・・!)

 政治家や議員の言いなりになっている警察に対しても、昇は敵意を膨らませていた。

 そのとき、昇の視界に車で通りを進んでいく議員が入ってきた。

(ヤツらは1人も野放しにしない・・・!)

 昇は怒りのままに駆け出していく。人の目が届かなくなった一瞬で、彼は龍の怪物へと変わった。

 昇は一気に駆け抜けて、議員の乗る車の前に回り込んだ。車の運転手がたまらずブレーキをかけるが、昇に足で押さえられることで止まった。

「バ、バケモノ!?

 運転手と議員が昇を見て驚愕を見せる。昇は車を踏みつけて跳ね飛ばす。

 車は逆さになって地面に落ちてつぶれる。運転手は気絶し、議員はドアを開けられずに車から出られなくなる。

「は、早く逃げないと・・このままでは・・!」

 もがく議員の前に、昇が近づいてきた。彼は剣を具現化して構える。

「お前たちはいい気のままではいられない・・オレがそうさせない・・・!」

 昇が鋭く言って、剣を車に突き立てる。車を貫いた剣が議員の体にも突き刺さった。

「がはっ!」

 議員が吐血して、血をあふれさせて動かなくなった。昇が車から剣を引き抜いた。

「オレが、連中を叩き潰す・・それがみんなのためになる・・・!」

 昇は低く告げると、発火し始めた車から離れていく。彼は怪物の姿から元に戻ろうとして、思いとどまった。

(誰か見張ってる・・それも1人や2人じゃない・・・)

 木陰や物陰に隠れてうかがってきている人物に、昇は気づいた。その誰もが監視を続けていて、大きく動き出そうとしない。

(何か企んでるのか・・・!?

 監視している人物たちに対して目つきを鋭くした昇。彼は一気にスピードを上げて、人物たちから離れていく。

 昇は動きながら周囲をうかがっていく。監視している人物が各地に配置されている。

 昇はさらにスピードを上げて、ついに監視の目を振り切った。

「オレの動きを探ろうとしているのか、アイツら・・・」

 昇が呟いて、人目がないのを確かめてから人の姿に戻る。

「何をしてこようと、オレはお前らを叩き潰す・・姑息なマネをすればするほど、首を絞めることになるのはお前らのほうだ・・・!」

 自分を追い込もうとする敵への憎悪を募らせて、昇は歩き出していった。

 

 怪物への憎しみを抱く少女、明良と出会った香澄。彼女は明良をポニテに連れて行こうとしていた。

「どこへ行くの・・?」

「私の仕事先・・そこの人たちならあたたかく迎えてくれるよ・・怪物のことはよくは知らないけど・・」

 明良の問いかけに、香澄が答えて苦笑いを見せる。

「そこなら落ち着けると思うよ・・」

「香澄・・ありがとう・・私のためにそこまでしてくれて・・」

「弱きを助けて悪しきを憎む・・なーんてね。そんなたいそうなことじゃないんだけどね・・」

 さらに苦笑いを見せる香澄に、明良も笑みをこぼしていた。

 そのとき、香澄が気配を感じて突然足を止めた。

「どうしたの、香澄?・・もしかして、近くにバケモノが・・・!?

 明良が問いかけると、香澄は小さく頷く。

(気配だけじゃなくて視線も感じる・・もしかしたら私たちを狙って・・・!?

 香澄は警戒を強めて辺りを見回す。

(私が離れて、みんなが危ない目に合わないようにしないと・・でも、明良が狙われている可能性も・・・!)

「香澄、ここから離れよう・・!」

 思考を巡らせていた香澄の腕をつかんで、人通りから離れた。

「明良!?

「みんなを巻き込まないようにしてるけど、私のことも考えてたでしょ!?だったら私も一緒に離れたら・・!」

 驚きを見せる香澄に明良が呼びかける。

「でも、それだと明良が・・!」

「今の私には、最強の友達がいるから・・!」

 心配する香澄に明良が呼びかける。彼女から信頼を寄せられて、香澄は笑みをこぼしていた。

 人気のない道にたどり着いた香澄と明良。香澄が改めて周囲をうかがう。

「オレに気づいて、わざわざ人のいないところまで誘い込んでくるとは・・」

 香澄と明良の前に長身の男が現れた。男は2人を見て笑みを浮かべてきた。

「オレは獲物を仕留められるなら、どっちでも構わないけどな・・」

 男の姿が異形の怪物へと変わる。チーターを思わせる姿の怪物へ。

「追いかけっこは終わりだ。ここで始末してやる・・」

「始末されるのはお前のほうだよ・・自己満足のために他人を平気で手にかけるバケモノが・・!」

 不敵な笑みを見せる怪物に香澄が鋭く言い返す。彼女も死神の怪物へと姿を変えた。

「お前もバケモノだったか。自分もバケモノのくせに、同じバケモノを憎んで手にかけようというのか?」

「私はお前たちとは違う・・罪のない人を傷つけるようなことはしない!」

 あざ笑ってくる怪物に、香澄が言葉を返す。

「きれいごとをぬかして・・それもまた自己満足だっていうのに・・」

「勝手なことを言うな!」

 怪物に怒りを覚えて、香澄が飛びかかる。彼女が繰り出した拳を、怪物は素早く動いてかわす。

「自分はオレたちとは違う。オレたちを憎んで始末する。それもまた自己満足だ。」

「違う!」

 怪物が投げかける言葉を香澄がはねつける。さらに拳を繰り出していく彼女だが、怪物にことごとくかわされていく。

「私は自己満足にはなっていない!どこまでも勝手なことを!」

 香澄が声と力を振り絞り、死神の鎌を構える。

「怪物は1人残らず私が始末する!誰も逃がさない!」

 香澄が言い放ち、怪物に向けて鎌を振りかざす。怪物は後ろに下がって鎌をかわす。

 そのとき、怪物は突然横に視線を向ける。彼は他に誰かがいることを察した。

 その怪物に、香澄は怒りのままに飛び込んで、鎌を振りかざしていった。

 

 香澄たちが争っている場所の近くに、昇も来ていた。彼も怪物の気配を感じ取っていた。

(この感じ・・またアイツか・・・!)

 憤りを覚えた昇が、気配のする方へ駆け出す。彼の視界に、香澄と怪物の姿が入ってきた。

(やっぱりアイツか・・バケモノなのに、バケモノを倒そうと・・・!)

 怪物の姿になっている香澄の行為に、昇がさらに憤る。駆け出した彼が龍の怪物になる。

「お前の勝手にさせるか!」

 向かってきた昇に、香澄と怪物が振り向く。

「お前!?こんなときに!」

 昇の乱入に香澄が毒づく。彼女は怪物を突き放して、昇を迎え撃つ。

「思い上がっているゴミクズどもを守ろうとしているヤツは、誰だろうと容赦しない!」

「怪物は1人残らず叩きつぶす!お前もだ!」

 昇と香澄が怒号を放つ。香澄が振りかざした鎌を、昇が身をかがめてかわす。

 昇が右手を握りしめて、拳を振りかざす。打撃を体に受けて、香澄が跳ね飛ばされる。

「まさか他の怪物に助けられるとはな・・とりあえずそいつの相手でもしているんだな・・」

 怪物が笑みをこぼすと、昇と香澄から離れて去っていく。

「待て!」

 香澄が怪物を追おうとするが、昇に行く手を阻まれる。

「邪魔するな!アイツを逃がせば、また自己満足に誰かを襲うことになる!」

「自己満足なのは人間のほうだ!自分たちが正しいと思い上がり、他のヤツを平気で踏みにじる!そんなゴミクズ、オレが滅ぼす!」

 香澄が言い放つ言葉を、昇がはねつける。昇が具現化した剣を手にして、香澄の鎌とぶつけ合う。

(早くしないと、怪物がまた・・・!)

 怪物を逃がさないようにと思い、香澄は焦りを感じていく。

「そこまでだ!」

 そのとき、昇と香澄に向かって声がかかった。自衛隊の隊員たちが駆けつけて、2人を取り囲んで銃を構えてきた。

「バケモノども、ここで殲滅する!」

 部隊の隊長が昇と香澄に言い放つ。

(私を怪物だと見て・・明良まで巻き込まれる!)

 香澄が近くで隠れていた明良に振り返る。彼女は明良を助けようと飛び出す。

「逃がすか!」

 兵士たちが香澄を撃とうとした。そこへ昇が飛びかかり、兵士たちに殴り掛かってきた。

「お前ら・・誰かの言いなりで動いてるのか!?

「貴様に答えることは何もない。ここで始末されるしかない。」

 問い詰める昇だが、隊長は答えようとしない。

「だったらお前らも叩きつぶす・・ゴミクズの言いなりになる同罪の連中として!」

 昇が怒りを膨らませて、兵士たちに拳を振りかざしていった。

 

 

次回

第7話「狡猾」

 

「あなたを・・あなたを失いたくない・・・!」

「ヤツらはこの近くに潜んでいるぞ。」

「お前が、こんなマネをしてたのか・・・!?

「思い上がっているヤツは、誰だろうと許しちゃおかない!」

 

 

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