ガルヴォルスEternal 第5話「交錯」

 

 

 人間を憎む昇と、怪物を憎む香澄。互いの正体を知らないまま、2人は怪物となってぶつかり合っていた。

「どうして人間の味方をする!?・・自分たちのことしか考えないアイツらを・・!」

「自分たちのことしか考えていないのはバケモノの方・・滅びなければならないのはお前たちのほうだ!」

 昇と香澄が憎しみを込めた怒号を放つ。香澄が振りかざした鎌を、昇が素早くかわす。

「あんな連中を、どうして守ろうとするんだよ・・・!」

 昇が怒りを噛みしめて、剣を具現化させて手にする。

「アイツらがいると、国もみんなもおかしくなるっていうのに・・・!」

 昇がいきり立ち、香澄に飛びかかって剣を振りかざす。香澄も鎌を振りかざして、昇を迎え撃つ。

 ぶつかり合う剣と鎌。その衝撃で昇と香澄が吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

「うっ!」

 衝撃で遠くに飛ばされる2人。剣と鎌の柄も衝突によってへし折れていた。

 

 香澄との衝突で吹き飛ばされた昇。通りに転がり込んだ彼は、怪物から人の姿に戻った。

「アイツ・・どうして思い上がっている人間の味方をするんだ・・・!?

 怪物でありながら人間の味方をしている香澄に、昇は憤りを感じていた。

「アイツらのために何かしたところで、何のためにもならない・・利用されていいようにされるだけなのに・・・!」

 立ち上がった昇が怒りを抑えられなくなっていた。

「オレは絶対に受け入れたりしない・・自分たちのことしか考えないゴミクズは、絶対に許さない・・・!」

 憎しみを向けている相手への敵意を込み上げていく昇。

「1人残らずオレがぶちのめしてやる・・アイツらの味方をするヤツにも、オレは容赦しない・・・!」

 彼は憎悪を秘めて、体を休めるために帰路についた。

 

 同じく、昇との衝突で吹き飛ばされていた香澄。起き上がろうとした彼女だが、ふらついてしまい、さらには人の姿に戻っていた。

「バケモノ・・どこまでも自分勝手なことを・・・!」

 怪物への憎しみを募らせて、香澄が体を震わせる。

「怪物たちのせいで、私もみんなも・・・怪物がいなければ、みんないい思いをするのに・・・」

 怪物が現れ続ける現実に、香澄は悲痛さを感じていた。心が揺れたまま、彼女は帰ることにした。

 

 翌日のポニテでの仕事を、昇も香澄も淡々とこなしていく。2人は心の中で、それぞれ思い上がっている人間と怪物への憎しみを秘めていた。

「香澄ちゃん、今日は元気がないみたい・・まだ、緊張しているとか・・?」

 うまく笑顔を見せられないでいる香澄に、涼子が声をかけてきた。

「店長・・」

「ちょっと休憩に入ってきたら?体を休めよう。」

「いえ、大丈夫です!すみません、迷惑かけて・・!」

「いいから、ちょっと休んできて。ここは大丈夫だから。」

「は・・はい・・」

 涼子に言われて、香澄は気落ちしたまま奥の部屋に入っていった。

 その途中、香澄は厨房で昇が皿洗いをしているのを横目で見た。黙々としている昇に、香澄は不愉快を覚えた。

 憎んでいる人間への憎悪を、昇は表に出そうとしなかった。彼は黙々と自分のペースで、仕事をこなしていった。

 

 街路樹が立ち並ぶ大通り。家族連れやカップルでにぎわっている場所である。

 あたたかさのある大通り。ところが突然その通りに冷たい風が流れ込んできた。

「さ、寒い・・!」

「今日、こんなに寒くなるなんて、言ってなかったのに・・!」

 通りにいた人たちが寒気を覚えて震える。大通りを駆け抜けていく冷たい風は、さらに勢いを増していく。

 やがて人々の体に氷が張りついてきた。その氷に包まれて、人々は動かなくなった。

「ウフフフ・・みんないい感じに凍っちゃったわね・・」

 凍てついて動きを止めた大通りに、1人の女性が現れた。白く長い髪をなびかせて、女性はゆっくりと通りを歩いていく。

「みんなきれいに凍り付いてくれると、宝石に負けないくらいにきれいになるものね・・私の心を絶妙に刺激してくれる・・」

 凍り付いた通りや人々を見渡して、女性が喜びを募らせていく。

「他の場所も、もっともっときれいな光景にしないとね・・」

 他も凍り付かせようと、女性は再び歩き出す。

 様々な場所が氷付けにされる事件が多発していた。

 

 この日の仕事が終わって、香澄はポニテを後にしようとしていた。そこで彼女は涼子に声をかけられた。

「またここのところ、おかしな事件が起こっているみたいだから、気を付けて帰ってね・・」

「おかしな事件・・もしかして、怪物の事件じゃ・・・」

 涼子の話を聞いて、香澄が深刻な面持ちを見せる。

「それは分からないけど・・とにかく気を付けてね・・」

「は、はい・・」

 涼子に注意を促されて、香澄は小さく頷く。彼女は改めてポニテを後にした。

(香澄ちゃん、何もなければいいけど・・・)

 香澄が事件に巻き込まれないことを、涼子は心の中で祈っていた。続けて昇が店から外に出ていった。

「昇くんも気を付けてね・・」

 昇にも声をかける涼子。昇は返事することなく立ち去っていった。

 

 涼子の話を聞いた香澄は、怪物の行方を探ることにした。彼女は先ほど事件が起こった現場の近くに来ていた。

「みんな、凍ってる・・道も、人も・・・」

 氷で覆われた大通りを目の当たりにして、香澄が息をのむ。

(怪物の仕業・・また自分勝手に人を襲って・・・!)

 怪物に対する怒りを感じて、香澄が右手を握りしめる。彼女の脳裏に、通っていた学校での悲劇の記憶がよみがえっていた。

(もうあんなのを繰り返させない・・他の誰にも体験してほしくない・・私が、怪物を・・・!)

 怪物を滅ぼすことを、香澄は改めて心に誓った。彼女は感覚を研ぎ澄ませて、怪物の気配を探ろうとする。

(ダメ・・バケモノの殺気とか感じない・・力や感情を抑えているのかもしれない・・)

 気配を感じ取れず、香澄が肩を落とす。それでも彼女は怪物を見つけ出そうとして、歩き出して場所を変えるのだった。

 

 立て続けに起こる奇怪な事件の対策に、警察も政府も追われていた。しかし怪物に対する決定的な手立てを見出すこともできず、政府の議員たちは苦悩を深めていた。

「おのれ・・バケモノどもにいいようにされるとは・・なめられたものだ・・!」

 議員の1人が怪物たちに対して、いら立ちを感じていく。

「バケモノは一刻も早く根絶やしにしなければならん・・人の皮をかぶっていようと、害悪しかもたらさん!害虫駆除と同じことなのだ!」

「害虫駆除と同じ・・・!?

 声を荒げる議員に対して、返ってくる声があった。議員が足を止めて辺りを見回す。

「誰だ?私に何か用か?」

 議員が声をかけると、龍の怪物となった昇が現れた。

「バケモノ!?

 議員が昇の怪物の姿を目の当たりにして、緊迫を膨らませる。後ずさりしながら身構える議員に、昇が鋭い視線を向ける。

「お前たちはどこまで行っても、自分たちのことしか考えない・・腐ってやがる・・・!」

「腐っている?それは貴様たちのほうだ!自分たちの目的のために、破壊と殺戮を繰り返しおって!」

 憎悪の言葉を口にする昇に、議員がいら立ちをぶつける。彼の言動が昇の感情を逆撫でする。

「自分たちの身勝手を棚に上げて、他のヤツに罪をなすりつける・・駆除されるべき害虫は、お前たちのほうだ!」

 怒号を放った昇が飛びかかり、議員につかみかかってきた。

「自分たちが正しいと思い上がり、他のヤツらを平気で傷つけ、それすら正しいものだと言い放つ・・それがお前たちなんだよ!」

「ふざけるな・・それは貴様らのほうだ・・自分の責任を我々に押し付けるとは・・・!」

 怒りをぶつける昇に、議員が逆に憤りを見せる。

「貴様らがいなくなれば、全ては解決する・・貴様らの殲滅が、この国の・いや、世界のため・・!」

 憎悪を向けてくる議員の言動に激怒して、昇が拳を叩き込む。議員が激しく吐血して、即死して動かなくなる。

「どこまでも・・どこまでもお前たちは・・・!」

 自分たちのことばかりを優先させる人間への怒りを抱えたまま、昇は人の姿に戻る。

「オレはお前たちを野放しにしない・・・!」

 国や世界を好き勝手に動かしている人間への憎悪を募らせる昇。

「絶対にこの世界から消してやる・・絶対に・・・!」

 怒りを噛みしめて、昇は歩き出していった。彼の怒りがまた、国を動かす人間の命を奪った。

 

 人の行き交う夜のショッピングモール。街灯に照らされることで、夜でもさほど冷えないはずだった。

 だがそのショッピングモールの道に、冷たい風が流れ込んできた。

「さ、寒い・・何でこんなに寒いの・・!?

「ちょっと、こんなところになんていられないよ〜・・!」

 ショッピングモールにいた人々が、寒気に耐えられなくなって離れようとする。だが彼らの動きがだんだんと止まっていく。

 冷たい風がショッピングモールを人々ごと氷に包み込んでしまった。

「ここもうまく凍ってくれたわね・・」

 白い髪の女性が凍てついたショッピングモールを見渡して、喜びを感じていく。

「今度は街丸ごと凍り付かせるのもいいかもね・・」

「そんなことはさせない・・」

 歩いている途中で声をかけられ、女性が足を止める。彼女の前に香澄が現れた。

「凍らせ損ねた人がいたなんて・・私としたことが・・・」

 微笑みかける女性に、香澄が鋭い視線を投げかける。

「でも心配しないで・・あなたもすぐにきれいに包んであげる・・・」

「もうそんなこと、私がさせない・・・!」

 手を差し伸べてくる女性に言い返す香澄の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「お前たちバケモノは、私が滅ぼす・・!」

 死神の怪物へと変貌した香澄。彼女は手にした鎌を構えて、女性に飛びかかる。

「あなたも私の仲間だったのね・・こうして会うときが来るとは思っていたけどね・・」

「私はお前たちとは違う!自分たちが楽しむために力は使っていない!」

 さらに微笑む女性に言い返して、香澄が鎌を振りかざす。女性は後ろに飛んで鎌をかわす。

「あなたもきれいに凍らせてあげる。痛くも苦しくもないから安心して・・」

 女性が香澄に向かって吹雪を放つ。香澄が吹雪を切り裂こうと、鎌を強く振りかざす。

 だが吹雪を完全に切り裂けず、香澄は吹雪を受ける。彼女の体に徐々に氷が張りついてくる。

「このまま氷に包んであげる・・私に何もかも委ねて・・・」

「私は、お前たちに従うつもりはない・・・!」

 軽く手招きをする女性に、香澄が声を振り絞る。抗おうとする香澄だが、吹雪によって氷に包まれてしまった。

「あなたもきれいに凍ってくれたね・・」

 氷付けになった香澄を見つめて、女性が喜びを感じていく。

「同じ怪物でも凍らせることができる・・私の理想が叶わないことはもうない・・」

「そうやって、自分勝手なことばかりして・・・」

 微笑んでいく女性に対して声が返ってきた。香澄の声であることに、女性は驚きを覚えて笑みを消す。

 次の瞬間、香澄を包んでいた氷が粉々に吹き飛んだ。氷から出てきた香澄は、女性に鋭い視線を向けてきていた。

「そんな・・私の氷から抜け出してくるなんて・・・!?

 自分の氷を打ち破られたことに、女性が驚愕をあらわにする。

「これ以上、罪のない人を傷つけさせない!」

 香澄が言い放ち、女性にまた飛びかかって鎌を振りかざす。女性が吹雪を放って香澄を引き離そうとするが、鎌の勢いを止められず、体を切り裂かれた。

「どうして・・私に・・こんな・・・こと・・・」

 愕然となる女性が倒れて、事切れて崩壊を引き起こしていった。

「私はお前たちとは違う・・バケモノを倒すことに、わずかの迷いもない・・・」

 自分の意思を口にする香澄が、人の姿に戻る。

(バケモノを世界から消すために、私はこれからもこの力を使う・・それが全部終わったら、私自身も命を絶つ・・・私も、私が憎んでいるバケモノの1人だから・・・)

 心の中で怪物への敵意を呟く香澄が、氷が消えていくショッピングモールを後にした。彼女は同じ怪物となってしまった自分自身も敵だと思っていた。

 

 女性が死んで、ショッピングモールに広がっていた氷が溶けた。氷付けにされていた人々が解放されて、戸惑いや恐怖を浮かべていた。

「何が起こったの・・・!?

「何がどうなってるの・・!?

 様々な反応を見せる人々。

「もしかして、怪物が何かしたの・・・!?

「早く・・早く警察に知らせないと・・・!」

 慌ただしく警察に知らせる人々。ところが怪物に関する手がかりを見出せず、警察は今度も手を焼かされていた。

 

 昇が議員を、香澄が怪物の女性を手にかけてから次の朝を迎えた。普段と変わらない様子で、2人はポニテに来ていた。

「香澄ちゃん、昨日は大丈夫だった!?・・昨日も怪物が出たって聞いて・・」

「えっ・・昨日言ってくれたことですよね?・・私は大丈夫でした。」

 涼子が心配の声をかけると、香澄が微笑んで答える。怪物のことを切り出したくなかった彼女は、知らないと嘘をついた。

「よかった・・最近、本当にこの辺りも危険になってきたから・・ここの営業時間も切り上げたほうがいいのかも・・・」

「涼子さん・・・」

 不安を浮かべていく涼子に、香澄も深刻さを感じていた。

「そんなに気に病むことはないですよ。涼子さんは何も悪くないんですから・・」

「香澄ちゃん・・・」

「もしも本当に悪い怪物がいるとしても、悪いものは必ずいなくなるものですから・・」

 自分の考えを言っていく香澄に、涼子が戸惑いを覚える。

(本当にいなくなってほしい・・怪物は、この世界から・・1人残らず・・みんなのために・・・)

 怪物が滅びることがみんなのためになる。香澄はひたすらにそのことを信じ続けていた。

「あ、すみません。話し込んじゃいました・・早く着替えないと・・」

 香澄が動揺を見せると、慌てて店の中に入っていった。彼女の様子を見て、涼子は不安が和らいだような気がした。

「おはようございまーす。」

 更衣室に向かいながら、香澄が挨拶をしていく。彼女が前を通り過ぎた厨房では、昇が掃除を行っていた。

(ホントのバケモノは、自分勝手なゴミクズのほうだってのに・・・)

 昇は心の中で、国や世界を動かす人間への憎悪を感じていた。

 

 立て続けに起こる怪物たちの事件と、政治家たちや議員たちの殺害事件。政治家たちは事件について打開策を練り上げようとしていた。

「怪物は根絶やしにしなければならん。ヤツらのために我々は・・」

「しかし怪物は人に化け、人に紛れて行動している。見分けがつかなければ先手は打てんぞ・・」

「バケモノ自体は、同じバケモノを見分けられるようだが・・」

 政治家たちが怪物の対処の議論を交わしていく。

「1人でも怪物だと断定できる相手を見つけられたのなら、打つ手は一気に増えてくる・・」

「捜査を念入りにしよう。くれぐれも深追いをして、こちらの手の内が明るみにされるのだけは避けなくては・・」

 1つの妙案を練り出した政治家たち。彼らは怪物殲滅に向けての作戦を始めようとしていた。

 

 

次回

第6話「復讐」

 

「助けて・・助けて・・・!」

「怪物を憎んでいる人・・幸せを願っている人がいた・・・」

「何か企んでるのか・・・!?

「バケモノども、ここで殲滅する!」

 

 

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