ガルヴォルスEternal 第4話「惨劇」
葵香澄。
怪物になってしまった少女。
怪物によって全てを奪われ、失った。
怪物を滅ぼすことが、彼女の目的となった。同じ怪物の力を使って。
悲劇は、香澄が高校3年生のときに起こった。
その頃の香澄は学校の友達と交流を深めていた。
「マオ、ひとみ、帰る途中で何か食べていこうよー。」
香澄がクラスメイトのマオとひとみに声をかけてきた。
「もしかして期間限定のヤツ目当て?」
「私も丁度食べたいと思っていたんだよね。行こう、香澄ちゃん。」
マオとひとみが香澄に微笑んで答えてきた。
「今度のヤツは当たりだといいなぁ〜・・」
期待に胸を躍らせて、香澄はマオたちと一緒に下校していった。そして彼女たちは近くのハンバーガーショップに来た。
新作メニューを買って口にしながら、香澄たちが談話にしゃれ込む。
「ねぇ、マオ、ひとみ、進路は決まった?やっぱり大学かな?」
香澄が将来について話を振ってきた。
「うん、まぁね、あたしは。でもあたしが行きたいところで行けるレベルなかなかないしなぁ・・」
「私は専門学校かな。将来の夢、だんだんと決まってきているってことかな・・」
マオとひとみが自分の将来をことを話していく。
「香澄はどこにするか決まってるの?」
「えっと、まだハッキリ決まってなくて・・候補はいくつか挙げてるんだけど・・」
マオに問いかけられて、香澄が苦笑いを見せる。
「ちょっと香澄、早く決めとかないと受験や面接でドタバタすることになっちゃうよ。」
マオに注意されて、香澄がさらに慌てふためく。
「2人ともいいなぁ・・進路とか将来とか決めてるんだから・・」
「決めてるって言ってもハッキリとってわけじゃないよ。まだまだざっとってとこだけ・・」
うらやましいと思ってため息をつく香澄に、マオが笑みをこぼして言いかける。
「決めなくちゃいけなくなるけど、ムリに早く決めることもない。香澄には香澄のペースがあるんだから・・」
「ひとみ・・マオ・・ありがとう・・私、やる気になってきたよ。」
ひとみからも声をかけられて、香澄が励まされて笑顔を取り戻した。
「目指すところは違うかもしれなくなるけど、あたしにできることだったら力になるよ。」
「将来に向かっていること自体は、みんな同じだからね・・」
マオとひとみがさらに香澄に励ましを送る。
「マオ、ひとみ・・これからも一緒にがんばっていこうね。」
香澄が2人に笑顔を見せて大きく頷いた。
高校を卒業した後もこの友情や交流は途絶えることはない。香澄はそう信じていた。
次の学校の日、香澄は登校しながら、自分の進路について考えていた。しかし彼女はなかなか答えを見つけられないでいた。
「私の将来か・・私、これからどうしていくんだろう・・・」
呟きながら考えていくうちに、香澄は学校にたどり着いていた。
「おはよう、マオ、ひとみ♪」
「香澄、おはよう。」
教室にした香澄が、ひとみと挨拶を交わす。
「あれ?マオはどこ?」
「今日はまだ来ていないの・・いつもは早く学校に来ているはずなのに・・風邪もひいたこともないし・・」
香澄が教室を見渡して、ひとみが答える。マオはまだ学校に来ていなかった。
「その風邪をひいたのかもね・・後で連絡してみるよ。」
「私も後でしてみるよ・・」
香澄とひとみが声を掛け合って頷く。朝のホームルームの時間となり、2人は自分の席に着いた。
(甘えてばかりなのはよくない。マオやひとみと一緒に、私も頑張らないと・・)
心の中で自分に言い聞かせて、香澄は気を引き締めなおした。
ホームルームが終わって、最初の授業が始まろうとしたときだった。突然生徒たちが窓に駆け寄って騒ぎ出した。
「どうしたの、みんな?外に何かいるの・・?」
香澄が気になって、同じく窓から外を見る。彼女は学校の校庭に数人の男女が足を踏み入れてきた。
「誰だろう、あの人たち・・?」
「何だか感じ悪そう・・」
生徒たちが男女たちを見て、動揺や不安など、いろいろな様子を見せる。その男女に教師が駆けつけてきた。
「何だ、君たちは?ここは学校の関係者以外は勝手に入ってきたらダメだ。」
教師が呼び止めてくると、男女の中の男の1人が不敵な笑みを浮かべてきた。
「さぁ、ゲームの始まりだぁ・・」
目を見開いたその男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の異変に教師が緊張を覚える。
そして男の姿がライオンに似た姿の異形の怪物へと変わった。
「なっ!?・・バ、バケモノ!?」
教師が恐怖をあらわにして、怪物から離れる。怪物は笑みを強めると、教師を追いかけて右手を振りかざした。
教師が怪物の爪に切り裂かれて、鮮血をまき散らして昏倒する。
「キャアッ!」
教師が切りつけられた瞬間を目の当たりにして、教室にいた生徒の中の女子が悲鳴を上げる。残りの男女たちが校舎に振り返って、笑みをこぼしていく。
「それじゃ、あたしたちもやっちゃおうか・・」
女性の1人が言いかけると、男女たちも怪物へと変化する。
「オレはあっちの入り口から行くぜ!」
狼の怪物が昇降口の1つに飛び込んできた。
「に、逃げろ!」
「うわあっ!」
校舎にいた生徒や教師たちが慌てて外へ逃げようとする。廊下はごった返しとなり、逃げるのにもたつくことになった。
「おい、早くしろよ!」
「怪物が来るぞ!」
慌てふためく生徒たちが、他を押しのけてでも逃げ出そうとする。そこへ怪物たちが飛び込んできて、不気味な笑みを浮かべてきた。
「き、来た!」
生徒たちが怪物から離れようとする。サメの怪物が飛びかかり、肘の角や口の鋭い歯で教師や生徒たちに襲い掛かる。
怪物の手にかかり、教師や生徒たちが血をまき散らしながら倒れていく。
「や、やめてくれ!助けてくれ!」
「死にたくない!死にたくないよー!」
さらに悲鳴を上げて、死に物狂いで逃げようとする生徒たち。香澄とひとみも校舎から逃げ出そうとしていた。
「ちょっと・・何がどうなってるの・・!?」
「香澄、怖い・・怖いよ・・!」
声を上げる香澄に、ひとみが怯えてすがりつく。
「一緒に逃げよう、ひとみ・・こんなことで死ぬなんて、私はイヤ・・・!」
「香澄・・・」
呼び掛ける香澄にひとみが戸惑いを見せる。2人がごった返している生徒たちを避けて、別の階段を使って校舎から出ようとした。
だがその先に虎の怪物がやってきたことに気付いて、香澄がひとみと一緒にそばの物陰に隠れた。
「バケモノが、もう回り込んでいるなんて・・・!?」
香澄が怪物の接近に緊迫を募らせる。足音がだんだんと2人に向かって近づいてくる。
悲鳴を上げようとしたひとみの口を、香澄が慌てて手で押さえる。
(もしかして、私たちに気付いて・・!?)
不安を直感した香澄が、即座にひとみを連れて逃げ出す。同時に近づいてきていた怪物が、左手を振りかざして壁をえぐる。
「ちっ。いい感してやがったか・・隠れててもオレたちの目や耳、鼻からは逃げられないっていうのに・・」
怪物が舌打ちをして、香澄たちを追って歩き出す。
必死に階段を駆け下りて、1階までやってきた香澄とひとみ。2人とも恐怖を膨らませて、冷静さを揺さぶられていた。
「もうちょっとで裏口から出られる・・もうちょっとで・・・!」
「香澄・・早く出ようよ・・怖い・・死にたくない・・・!」
言いかける香澄と、怖がって震えるひとみ。2人は怪物がいないことを確かめてから、慎重に歩いていく。
そして裏口に近づいてきたところを見計らって、香澄はひとみと一緒に走り出そうとした。
「ここにもいたか・・!」
そのとき、ハチの怪物が通りがかり、香澄たちに気付いた。
「ひとみ、走って!」
香澄がひとみに呼びかけて、一気に走り出した。裏口から外に出ることができた2人だが、その瞬間、ハチの怪物に追いつかれてしまう。
「お前からチクッといっちゃうよ〜・・」
怪物が左手から針を伸ばして、香澄を狙って突き出してきた。
「ひとみ、逃げて!」
香澄がひとみの背中を押すと、ハチの怪物に向かって飛びかかった。
「香澄!?」
ひとみが声を荒げて、たまらず足を止める。香澄が怪物に組み付いて食い止めようとする。
「早く逃げて、ひとみ!私もすぐに逃げるから!」
「でも、香澄・・!」
「早く!」
困惑するひとみに香澄が呼びかける。彼女に促されて、ひとみは振り返って走り出した。
「そんなに仕留められたいなら、望みどおりにしてやるよ。」
ハチの怪物が目を見開いて、針を剣のように振りかざす。その切っ先が香澄の頬をかすめ、血があふれ出す。
「ムダムダ。あたしらにただの人間が何とかできるわけないじゃない。」
笑みをこぼす怪物に香澄は息をのむ。
(私も・・私も逃げないと・・・!)
ひとみのため、マオのため、みんなのため、香澄は怪物たちから逃げ切ると心に誓っていた。
香澄に助けられて、ひとみは先に学校から逃げ出すことができた。道の途中で立ち止まった彼女は、香澄のことを心配していた。
「香澄ちゃん、大丈夫かな・・・」
香澄も無事に逃げ切ることができるのかを考えて、ひとみは気が気でなくなっていた。
「ひとみ。」
そこへ声をかけられて、ひとみが一気に震える。彼女が振り返った先にいたのは、今朝学校に来なかったマオだった。
「マオ、来てたの!?どうしていたの!?」
「エヘヘ、ちょっとね・・」
驚きの声を上げるひとみに、マオが照れ笑いを見せて答える。
「マオ、大変なの!いきなり学校に怪物が現れて、私を逃がすために香澄ちゃんが・・!」
「ひ、ひとみ!?落ち着いてって・・何が何だか分かんないって・・!」
事情を説明するひとみに、マオが疑問符を浮かべて動揺を見せる。
「とにかく、香澄ちゃんを助けに行かないと・・このままじゃ香澄ちゃん・・!」
「死んじゃうって、ことなのかな・・・?」
呼びかけて香澄を助けに学校に戻ろうとしたひとみに、マオが微笑みかける。
「えっ・・・?」
ひとみが疑問の声を上げた瞬間だった。彼女の胸を鋭い刃物が貫いていた。
「でも、先にひとみが死んじゃったね・・」
マオがひとみに向けて言いかける。マオの姿がメカジキを思わせる姿の怪物になっていた。
ひとみを逃がして怪物から逃げ出そうとする香澄。だが他の怪物たちもやってきて、香澄は取り囲まれてしまった。
「人間のくせにここまで粘るとは大したもんだなぁ・・」
「けどやっぱただの人間だ。オレらに勝てるわけないっての。」
呼吸を乱している香澄を見て、怪物たちがあざ笑ってくる。
(すっかり囲まれちゃった・・どうしたら・・・!?)
逃げる方法を必死に探っていく香澄。その間にも、生徒たちは怪物の手にかかって、血をあふれさせていた。
「あたしが最初に見つけたんだから、あたしが仕留めるよ、コイツは。」
ハチの怪物が言いかけて、針の切っ先を香澄に向けてきた。
そのとき、香澄と怪物たちの前にひとみが現れた。
「ひとみ!?・・何で戻ってきたの!?」
香澄がひとみに対して、たまらず声を上げる。ところがひとみが反応しない。
「ひとみ・・・!?」
様子のおかしいひとみに、香澄が疑問符を浮かべる。次の瞬間、ひとみが力なく前のめりに倒れた。
「ひとみ!」
香澄がひとみにたまらず駆け寄ろうとした。
「香澄、けっこう頑張ってるね。正直驚いたよ・・」
香澄の前にマオがやってきた。彼女の登場に香澄は驚きを覚える。
「マオ!?・・これって、どういうことなの・・・!?」
笑みをこぼすマオに香澄が疑問を投げかける。
「簡単なことだよ・・あたしも怪物の仲間だということだよ・・」
言いかけるマオの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の姿がメカジキの怪物へと変わる。
「マオ・・・!?」
香澄がマオの姿に目を疑う。マオがひとみを手にかけたことも。
「あたし、目が覚めたような気分だよ・・この姿になって、この力になって、すごく気分がよくなってる・・」
怪物になった自分を喜び、酔いしれていくマオ。
「マオ・・どういうことなの!?どうしてひとみを!?」
「もうどうでもよくなっちゃったんだよ・・律儀に家族とか先生とかの付き合いをしてくなんて・・」
問い詰める香澄に対し、マオがため息まじりに言いかける。
「実はあたし、親に思いっきり不満があったんだよね。あたしの言うことをまるで聞かず、いっつもあたしにああだこうだと言うばっかりで・・」
不満を込めて語りかけるマオ。彼女は消していた笑みを再び浮かべてきた。
「この姿と力になれて、あたしは幸運に恵まれてるよ・・うっさい親もうざい連中も、みんな八つ裂きにしてやれるんだから・・」
マオは言い放ち、刃の切っ先を香澄に向けてきた。学校のみんなやひとみを殺され、マオに裏切られた香澄の心は、絶望で満たされていた。
「ひとみもアンタも正直ウザかったんだから・・自分の将来についてダラダラと語ってるから!」
マオがいきり立って刃を振りかざす。刃の切っ先が香澄の頬をかすめた。
切れた頬から血があふれた瞬間、香澄の心の中に、今まで感じたことのない怒りが湧き上がってきた。
「結局・・結局自分が満足したかっただけなの・・・!?」
「はっ?何言ってんの?あたしは今まで勝手な屁理屈を押し付けられてきたんだよ・・それを押しのけて満足したくなるのは、当然じゃない!」
声を振り絞る香澄を、マオがあざ笑っていく。彼女の態度が、香澄の感情を逆撫でする。
「そのために、自分の家族を・・ひとみを・・みんなを・・・!」
怒りを膨らませていく香澄の頬に紋様が走る。彼女の変化にマオも他の怪物たちも目を見開く。
「もうアンタは、友達でも何でもない・・体も心も、バケモノだ!」
怒号を叫んだ香澄の姿が変貌を遂げた。異形と怪物と化した彼女に、マオたちは緊迫する。
「おい・・コイツも、オレたちと同じに・・!」
「なり立てだって・・たとえ強くても、その力をうまく使いこなせないって・・」
怪物たちが香澄を見て声をかけていく。
「まさか香澄もそうなるとはね・・せっかくだから、一緒に暴れてやろうよ・・!」
マオが笑みをこぼして、香澄に手を差し伸べてきた。すると香澄が鋭い視線を向けてきた。
「私は・・お前たちとは違う・・自分たちのためだけに、傷つけたり壊したりしない!」
香澄が言い放つと、そばにいたライオンの怪物に右手を振りかざして殴りつける。殴られた怪物が大きく吹き飛ばされる。
「なっ・・!?」
突然の香澄の攻撃に怪物たちが驚きの声を上げる。マオに視線を戻して、香澄が目つきを鋭くする。
「私は、お前たちバケモノを許さない・・・!」
怒りの言葉を口にした直後、香澄がマオを殴り飛ばした。吹き飛ばされたマオが、その先の壁に叩きつけられる。
「コ、コイツ!」
虎の怪物が飛びかかるが、香澄は素早くかわす。彼女は死神の鎌を具現化させて手にする。
「し、死神・・!?」
香澄の姿が死神に見えて、サメの怪物が息をのむ。香澄が鎌を振りかざして、虎の怪物を切り裂いた。
ハチの怪物とサメの怪物がいきり立ち、戻ってきたライオンの怪物とともに飛びかかる。香澄が鎌を振りかざして、3人を同時に切り裂いた。
香澄の手にかかり、怪物たちが鮮血をあふれさせながら倒れた。
「どういうつもり・・同じ仲間を手にかけるなんて・・・!?」
驚愕するマオに振り返って、香澄が鎌を構える。
「お前たちは仲間ではない・・滅ぶべき、敵・・・!」
香澄が鋭く言いかけて、マオに向けて鎌を振りかざす。マオがいら立ちを噛みしめて、刃を振りかざす。
マオの刃は香澄の鎌とぶつかり、折れて切っ先が地面に刺さる。
「香澄・・・」
力負けしたことにマオは愕然となる。香澄は彼女に激しい怒りを向けてきていた。
「お、お願い・・香澄・・あたしと一緒に、これからも好き放題に・・・!」
マオが笑みを見せて、改めて香澄を誘い込もうとした。だが次の瞬間、香澄が振りかざした鎌が、マオの体を横一線に切り裂いた。
「なっ・・・!?」
驚愕の声を上げるマオが、事切れて倒れた。
「言ったはずよ・・私はお前たちとは違うと・・・」
死神の鎌を消した香澄が低く呟く。彼女の姿が怪物から人に戻る。
香澄は学校で起きた悲惨な出来事を目の当たりにして、再び一気に絶望を感じていく。
「イヤ・・イヤだよ、こんなの・・・!」
香澄が悲しみを覚えて、涙があふれる顔を手で押さえる。今の瞬間が悪夢であってほしいと願っても、非情の現実に彼女は襲われていた。
泣き続けるうちに、香澄はいつしか意識を失って倒れていた。
学校を襲った怪物の事件。生き残ったのは香澄を含めてわずか数人だった。
生徒たちが恐怖しながら、怪物襲撃について話したが、警察も他の人も信じられないでいた。
保護されて療養を受けた香澄だが、マオに裏切られ、ひとみたちを殺された絶望で頭の中が真っ白になっていた。そして彼女は自分が怪物になってしまったことを自覚していながら、そのことを他の人には打ち明けなかった。
療養を得て体の疲弊は解消された香澄。しかし彼女の心は荒みきったままだった。
怪物の暴挙によって全てを失った香澄は、心の中で1つの決意を固めていた。
(私の全てを奪ったバケモノ・・・)
心の中で呟いていく香澄が、両手を強く握りしめていく。
(1人残らず、私が必ず叩きつぶす・・・!)
怪物を滅ぼすことを決意する香澄。憎しみをぶつけているその怪物の力を使って。
次回
「自分たちのことしか考えないゴミクズは、絶対に許さない・・・!」
「怪物がいなければ、みんないい思いをするのに・・・」
「オレはお前たちを野放しにしない・・・!」
「これ以上、罪のない人を傷つけさせない!」