ガルヴォルスEternal 第3話「策略」

 

 

 赤垣昇。

 異形の怪物へとなった青年。

 国や世界の理不尽で全てを失い、昇は怒りと憎しみに駆られた。

 世界を狂わせている敵を滅ぼすことを、彼は心に誓った。

 

 昇は元々平穏な日常を過ごしていた。世間や国、世界のことを気に留めていなかったが、嫌悪といった感情も持っていなかった。

「昇、お前、最近の日本や世界の情勢についてどう思ってる?」

 昇の父、(さとし)が昇に問いかけてきた。

「情勢って、政治とかのことか?別に気にすることじゃないよ・・」

「気にすることじゃないって・・昇もそのうち大人になるんだから、国でどういうことが起きているのかぐらいは把握しておかないと・・」

 我関せずの態度の昇に、悟が呆れて注意を投げかける。

「そういう国を動かしてる連中も、国の状況を分かってんのかどうかも怪しいもんだ。分かってたらちょっとでも状況がよくなってるもんだろうに・・」

「昇・・・」

 昇が口にした言葉に、悟が当惑を覚える。

「向こうも勝手気ままにやってるだけだ。だったらオレたちもそうやっても文句を言われる筋合いないってことだ・・」

 気のない態度を振りまく昇を見て、悟が苦笑をこぼした。

「オレはオレ。うちはうち。他の誰かが余計なマネをしてこないうちは、頭に血を上らせて、食って掛かることもないって・・」

「すっかり他人事だな、昇は・・それでいいのか悪いのか・・・」

 昇の態度に悟は呆れて肩を落としていた。

 

 悟から話を投げかけられたことで、昇は国や世界のことを考えるようになっていた。しかし情勢は彼がよく思うほどいいとは言えなかった。

(世界って何なんだ?オレの将来って、これからどうなってくっていうんだ・・・?)

 昇が心の中で呟いていく。しかし世界という大きな話に対して、彼は答えを見つけられるはずもなかった。

(今すぐ決めておかないといけないことなのか・・どうするのがいいのか・・・)

 自分の将来についても考えるようになっていく昇。1つも答えを見つけることができず、昇はため息をつく。

「もういいや・・やっぱオレには関係ないことだ・・・」

 昇は考えるのをやめて、気持ちを日常に戻した。

「でも、父さん、最近どっかのお偉いさんとの仕事を受け持つって言っていたな・・・」

 昇が悟の仕事のことを思い出した。

「まぁ、それもオレには関係ないってことで・・オレはあくまでオレでやっていけばいいだけなんだから・・・」

 昇はまた割り切って、気持ちを切り替えていった。

 

 昇が聞いていた悟たちの会社とお偉いさんたちの協力。しかしそれはその別会社の社長からの一方的な申し出だった。

「これからはこの案件は我々の管轄下に置く。君たちは我々の指示に従うことになる。」

「そんな!これは私たちが立案して、ここまで作成を進めてきたのです!最後まで私たちに着手させてください!」

 言いかける社長に悟が頼み込む。しかし社長たちは聞き入れようとしない。

「これは我々が作成を進めることで輝かしいものとなる。君たちは我々の言う通りにすればいいのだ。」

「これは私たちの責任と覚悟で進めている計画です!簡単に全て丸投げというわけにはいきません!」

「覚悟?それは我々に逆らう覚悟もあるということかな?」

 引かない悟たちに、社長たちが目つきを鋭くする。それでも悟は動じず、席を立つ。

「私たちは私たちだけで計画を進めます。どうぞお引き取りください。」

 悟は社長たちに告げると、同僚や部下たちを連れて部屋を後にした。

「愚かなことだ。実に愚かしい・・貴様たちの覚悟など、簡単に握りつぶせることを思い知らせてやる。後悔するといい・・」

 社長が悟たちに対して嘲笑していた。彼は部下たちに手配していた。

 

 いつものように授業を終えて学校から帰ってきた昇。ところが彼がたどり着いた家の前には、ガラの悪い男たちが立っていた。

「おい!さっさと出てこいよ!」

「居留守使おうとしてもそうはいかねぇぞ!」

 男たちが玄関のドアを乱暴に叩く。それを見た昇が隠れて、携帯電話を使って警察に連絡した。

 少しして警察がやってきたが、そのときには男たちはいなくなっていた。

「確かにドアに蹴られた跡が数ヵ所ありますね・・」

「なぜ、このようなことを・・・」

 警官たちが様子を見て深刻な面持ちを見せる。

「分かりません・・帰って来たときに、あの人たちが・・・」

「この近辺の警備と聞き込みを行いますので、何かあれば連絡します。」

 歯がゆさを浮かべる昇に、警官たちが告げて、1度赤垣家を後にした。

「何で、こんなことを・・あんなのに嫌がらせされる覚えなんてないのに・・・!」

 男たちがしてきたことにいら立ちを感じていく昇。

「でも警察にも知らせたし、すぐに捕まることになるだろうな・・」

 昇は気持ちを切り替えて、日常に戻ろうとしていた。

 

「そうだったのか・・すまない、昇。そのときに父さんがいなくて・・」

「いや、いいよ、別に・・これで警察がうまくやってくれるって・・」

 その日の夜の食事のとき、昇は悟に昼間のことを話した。

「世の中にはひどいヤツがいるとは聞いてるけど、まさかうちにそんなのが来るなんて・・・」

 昇が自分たちが直面している現状への不満を浮かべて、ため息をつく。

(もしかして・・向こうの会社の・・・)

 悟がふと一抹の不安を覚えて考え込む。

「父さん?」

 すると昇が気にして声をかけてきた。

「どうかしたのか、父さん?」

「あ、いや、何でもない・・」

 我に返った悟が首を横に振る。疑問符を浮かべる昇だが、これ以上聞こうとしなかった。

 

 昼間の男たちの暴動が社長の差し向けたものだと察していた。

(向こうの嫌がらせなのは分かっている・・でも問い詰めても知らぬ存ぜぬの一点張りだろう・・)

 社長たちの仕業と察しながらも手立てがないことに、悟は深刻さを募らせていた。

(私たちを追い込むのが目的。そのためなら手段を選ばない・・私たちのことで、昇に迷惑をかけるわけにはいかない・・・)

 昇のことを思って、悟は新たな覚悟を心に決めていた。

(昇、どんなことがあっても、必ずお前だけは私が守ってやるからな・・必ず、私が・・・!)

 

 数日後、気持ちを日常へと戻そうとしていた昇は、いつものように授業を受けて、学校から帰ってきた。

「ただいま〜・・って、今日も父さんは仕事から帰ってきてないか・・・」

 家に入った昇が、中に誰もいないことを察してため息をつく。

「時間つぶしにパソコンネットでもやるか・・」

 昇は自分の部屋に行って、パソコンでネットをつなげようとした。

「ん?・・何か焦げ臭いぞ・・・?」

 そのとき、昇が突然異臭に気付いて、すぐに部屋から出る。彼は家の中を見て回って、さらに庭に出る。

 そこで昇は家のそばに火がついているのを目撃した。

「お、おい!」

 昇が慌てて、庭に水を撒くためにあるホースと水道を使って、火に水をかけた。火はすぐに消えて、壁や草をわずかに焦がしただけだった。

「おい・・何でこんなとこに火がついてるんだよ・・・!?

 火がつけられたことに憤りを覚える昇。彼は誰かが放火したと思えてならなかった。

「また、警察に知らせないといけないってか・・・」

 さらなる嫌がらせに昇の不満は膨らむばかりとなっていた。

 

 放火の件でまた警察に知らせることになった昇。そして昇は悟にもこのことを知らせようと、連絡を試みた。

 だが何度電話をかけても、悟との連絡がつかない。

「父さん、どうしたんだ・・これだけかけても出ないなんて・・いくら仕事中だからって・・・!」

 昇はさらなる不安を感じていく。彼は少し間を置いてから、悟に電話しようとした。

「赤垣昇さんですね?」

 刑事がやってきて昇に声をかけてきた。

「実は悟さん、あなたのお父さんに逮捕状が出されることになりました。」

「なっ・・・!?

 刑事から告げられた言葉に、昇は耳を疑った。

「バカな・・そんなバカなことあるか!でたらめを言うな!」

「残念ながら・・交渉相手だった企業の社長への脅迫と暴行の容疑があります。現在行方が知れなくなり、捜索を行っています。」

 怒鳴りかかる昇に刑事が冷静に説明する。

「そんなこと絶対にあるか・・あるわけがない!」

 昇が怒りをあらわにして、家を飛び出した。昇は感情のままに、悟が務める会社に駆け込んだ。

「父さんは!?赤垣悟は!?

 受付に詰め寄って訪ねる昇。いきなりのことに受付は唖然となった。

「あの、どちら様でしょうか・・・?」

「あ・・赤垣悟の子供の昇です!父さんは!?

「こちらでも連絡を試みているのですが、全くつかめなくて・・・」

 昇の問いかけに受付が困ったかを見せて答える。

「父さんが交渉してたってとこはどうなんですか!?それはどこなんですか!?

「それは・・個人や企業の情報に関わることですので・・たとえ親族であっても・・・」

「父さんがあらぬ疑いをかけられているんだぞ!それがいいことだなんていうつもりなのかよ!?

 教えることをためらう受付に昇が怒鳴りかかる。

「わ、分かりました!分かりましたから・・!」

 彼に脅されて、受付がやむなくその会社のことを話すことにした。

「分かりました・・早速行ってみます・・・!」

 昇は会社のあるほうを目指して駆け出していった。

 

 受付から聞き出した会社の住所を目指した昇。彼はその会社の前にたどり着いた。

 乱れた呼吸を整えないまま、昇は会社に乗り込んだ。

「何だ、君は?」

 会社の社員の1人が、入ってきた昇を呼び止めてきた。

「赤垣悟は!?ここに来てないんですか!?

「赤垣さん?君は誰だ?」

「赤垣悟の子供の昇といいます!父さんは!?

「赤垣さんの・・こちらとしても、まさかこのようなことになるとはと思っています・・」

 昇の言葉を聞いて、社員が深刻な面持ちを見せてきた。

「こちらとしても行方を気にしているところです。お気持ちは分かりますが、今日はお引き取り願います・・」

「そうですか・・・分かりました・・・」

 社員の言葉に昇が渋々納得する。彼は会社から出て、その社屋の前の通りと路地に差し掛かったときだった。

「早くアイツをこっちで差し押さえなくては・・」

「言いふらされても口止めの手立てはあるが、野放しにしておいていいこともないからな・・」

 会社の社員たちの呟きが、昇の耳に入ってきた。

「本当にバカなヤツだ。我々の言う通りにしていればいいものを・・」

「あんなことをしてやったのに、考えを改めないとは・・実に愚かで・・」

「警察もヤクザもこちらの言いなりだ。全ては議員たちがうまく根回ししてくれたおかげだ・・」

「正義はオレたちにありってな。ハハハ・・」

 話を続けて、悟に対してあざ笑ってくる社員たち。彼らの言葉が昇の感情を逆撫でした。

「アイツら・・父さんを何だと・・・!」

 怒りに駆られた昇は、再び会社の社屋に乗り込んだ。

「お前らか!?お前らか父さんにひどいことしたのか!?

 昇が社員の1人につかみかかって問い詰める。

「何をする!?何を言っている!?

「とぼけるな!アンタのとこの人間がそう言って、父さんをあざ笑っていたんだぞ!」

「あらぬことでこんなマネをするな!名誉棄損だぞ!」

 怒鳴りかかる昇を社員が振り払う。さらに社長や他の社員たちも昇の前に現れた。

「親も親なら子も子ということか・・実に滑稽な・・」

「滑稽なのはお前らのほうだろうが・・父さんにありえない濡れ衣を着せて、それで平気な顔して・・!」

「ありえない濡れ衣?罪なら十分にある。我々への、そして国への反逆罪だ。」

「何、寝ぼけたことをぬかしてんだ!?国が父さんを陥れるわけねぇだろ!」

「私はこの日本のある政治家と交流があってな。こちらの都合の悪いことは全てもみ消してくれる。」

「バカな・・・!?

 社長が口にする言葉に、昇が耳を疑う。

「総理を始めとした政治家たちは、自分たちの都合の悪いものを全て権力で打ち消している。この世は力のある者だけが自由でいられるのだ。」

 社長が言い放ち、昇をあざ笑う。怒りを募らせて、昇が両手を強く握りしめる。

「そうまでして・・自分たちが正しいと言い張りたいのかよ・・・!?

 昇が社長たちに向けて声を振り絞る。

「オレは、オレたちは普通の暮らしをしてただけだ・・・それなのに、お前らは自分の都合で、オレたちを・・・!」

「赤垣悟は我々の申し出を拒んだ。大罪なのは当然というものだ。」

「罪を犯してるのはお前らのほうだろうが!」

 あざ笑ってくる社長に昇が怒号を放つ。その瞬間、昇の頬に異様な紋様が浮かび上がってきた。

「な、何だ?」

 昇の異変に社長たちが目を疑い、眉をひそめる。

「お前らはどこまで、オレたちのことを・・・!」

 声と力を振り絞る昇の姿も変化した。彼は龍を思わせる姿をした異形の怪物と化した。

「な、何だ、コイツは!?

「バケモノ!?

 昇の姿を目の当たりにした社員たちが、驚愕の声を上げる。昇が怒りを込み上げて、社長にゆっくりと近づいていく。

「何だ、その姿は・・何のトリックだ・・!?

 社長が声を荒げて後ずさりする。怒りに駆られた昇が右手を振りかざして、社長を横に突き飛ばした。

「ぐあっ!」

「社長!」

 倒れてうめく社長に社員たちが駆け寄る。殴られた右腕を押さえて、社長が顔を歪める。

「と、とんでもない力・・腕の骨が・・・!」

 腕が折れているのを実感して、社長がさらにうめく。

「本当に・・本当にバケモノだ・・・!」

「バケモノ?・・オレをバケモノ呼ばわりするお前ら・・・」

 声を張り上げた社員のこの言葉を聞いて、昇が目つきを鋭くする。彼が手の爪を鋭く尖らせる。

「そのバケモノよりはるかに凶悪で最低なゴミクズだ!」

 昇が飛びかかり、社員たちに向けて爪を振りかざした。

「うわっ!」

「がはっ!」

 切りつけられた社員たちが、血をあふれさせながら昏倒していく。社長が力を振り絞って、この場から逃げ出していく。

「逃げるな!」

 昇が追いかけて、逃げる社長につかみかかる。

「や、やめろ!こんなマネをしてただで済むと思っているのか!?

 声を張り上げる社長が、昇に力任せにつかみあげられる。

「お前も国家反逆罪となり、手配されることになるぞ・・それでもいいのか・・・!?

「そうやって自分たちが絶対正しいと思い上がり、オレたちを追い込んで平気な顔をする・・・やっぱゴミクズだ!」

 脅しをかける社長に怒りを込めて、昇が拳を振りかざす。社長が殴り飛ばされて、強い衝撃と圧力で即死した。

 血にまみれた社長や社員たちの遺体を見つめて、昇が息を絶え絶えにする。

「これが人のやり方なら、オレは人を憎む・・この国や世界で思い上がっているゴミクズは、見つけ次第始末する・・・」

 昇が怒りを抱えたまま、怪物から人の姿に戻る。

「ゴミは掃除するものだ・・片づけてもいいことになっても、罪になるはずがないからな・・・」

 無意識に物悲しい笑みを浮かべる昇。彼は目から涙があふれていることにも気付いていなかった。

 

 昇が怪物への転化を果たしてから一夜が明けた頃、悟が河川敷で遺体となって発見された。川に落ちての溺死と断定された。

 だが真相は国家の捜査員の手にかかり、溺死に偽装されたものだった。

 国家が偽装を施して自分たちを保守している中、昇は人間への憎悪に駆り立てられた。自分の思い通りに何もかも操作している人たちを打ち倒すために、彼は怪物としての戦いに身を投じた。

 本当の人のあるべき姿を守るために。

 

 

次回

第4話「惨劇」

 

「これからも一緒にがんばっていこうね。」

「イヤ・・イヤだよ、こんなの・・・!」

「私の全てを奪ったバケモノ・・・」

「1人残らず、私が必ず叩きつぶす・・・!」

 

 

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