ガルヴォルスEternal 第2話「邂逅」

 

 

 龍の怪物、昇との衝突で吹き飛ばされた死神の怪物。死神も茂みの中に飛び込んで倒れる。

 死神の姿が人間の姿になっていく。肩ほどまで伸びた黒髪をした少女の姿に。

「あのバケモノ、強かった・・今までのバケモノの中で1番・・・」

 少女が怪物となった昇の力を痛感する。

「でも許せないことは変わらない・・バケモノは1人残らず、この手で倒す・・・!」

 少女は怪物への憎悪を募らせて歩き出す。自分の怪物となってしまったことすら恥として。

 

 龍と死神の怪物、昇と少女の衝突から一夜が明けた。

 ポニテは穏やかな日常が送られていた。昇も昨晩のことがウソのように、黙々と皿洗いをしていた。

 涼子も亮太も接客や調理をこなしていた。

「今日もお客様が入って、雰囲気は上々ですね。」

「ニュースを聞いて不安を感じていても、普段通りに過ごしたくなるものかもしれないわね・・」

 亮太と涼子は客足を見て会話をしていく。

「そういえば、今日からここで新しく入るんでしたね。」

「えぇ。もうそろそろ来るんじゃないかな・・?」

 亮太が話題を変えると、涼子が時計に目を向けた。今日ポニテで新しく働くことになった人がいるのである。

「すみませーん!遅くなりましたー!」

 そのとき、ポニテのドアが開かれて、1人の少女が飛び込んできた。少女は涼子の前に来て、乱れた息を整えていく。

「もしかして、君が・・?」

「はい!はじめまして!(あおい)香澄(かすみ)です!」

 涼子が声をかけると少女、香澄が自己紹介をする。すると涼子と亮太が苦笑いを見せてきた。

「香澄さん、少し落ち着こうかな・・」

「えっ?・・あ、はい、すみません・・」

 涼子に言われて、香澄が我に返って頬を赤らめる。

「それじゃ、更衣室に案内するわね。制服も用意してあるから。」

「はい!ありがとうございます!」

 微笑んで案内する涼子に香澄が感謝する。2人は更衣室に向かうと、香澄は用意されていた制服を見つける。

「元気は1番みたいだから、あとはリラックスね。落ち着いて順々にやっていこうね。」

「は・・はい・・」

 涼子に励まされて、香澄が肩を落としながら答えた。彼女は気を落ち着けてから、制服に着替えた。

「それじゃ香澄ちゃん、よろしくね。」

「はい。どうかよろしくお願いします。」

 涼子に笑顔で声をかけられて、香澄が落ち着きを取り戻して挨拶をした。

 

 人通りの少ない街の裏路地。その小道を1人の少女が必死に駆けていく。

「逃げようとしてもムダだぞ・・どうせオレに切り刻まれることになるんだからな・・」

 少女を追ってカマキリの怪物が笑みを浮かべていた。怪物は素早く飛びかかり、少女の前に回り込んできた。

「さぁ、鬼ごっこは終わりだ・・これからはオレの殺戮ショーだ・・」

「イヤッ!来ないで!近寄らないで!」

 不気味な笑みを浮かべる怪物に、少女が悲鳴を上げる。さらに逃げようとした彼女に、怪物が右手の鎌を振り下ろす。

「キャアッ!」

 背中に鎌を突き立てられた少女が、悲鳴を上げて倒れた。

「そうだ・・もっともっと、悲鳴と血しぶきをあげろ!」

 怪物が少女に向けてさらに鎌を振り下ろす。ズタズタにされた少女から鮮血があふれる。

「そうだ・・この感触・・この心地よさ・・たまんないなぁ・・・」

 少女を切り刻んだことに喜びを感じていく怪物。

「たとえ警察や軍隊が来ても、オレは恐れることはない・・このままこの気分を味わい続けてやる・・」

 怪物は男の姿に戻って、裏路地を後にした。彼に手にかかり、また人が命を落とした。

 

 ポニテでの仕事1日目でありながら、香澄は明るい接客と仕事をこなしていった。

「すごいね、香澄ちゃん。のみ込み早いっていうか、本当に的確で・・」

「前にレストランの接客の仕事をしたことがあったので・・」

 亮太が声をかけると、香澄が微笑んで答える。

「それにしても、あの人、黙々とやっていますね・・」

 香澄がふと、皿洗いを続けている昇を目にして言いかける。

「香澄ちゃん、昇くんのことはあまり気にしないであげて。下手に関わると刺激してしまうから・・」

 涼子が昇を気にして、香澄に注意を投げかけた。

「でも挨拶ぐらいはしておいたほうが・・」

 香澄は涼子に答えると、昇に近寄っていった。

「はじめまして。葵香澄です。今日からここで働くことになりました。」

「あぁ・・」

 挨拶をした香澄だが、昇は気のない返事をしただけだった。

「あの、あなたのお名前は・・・?」

「わざわざオレが名乗らなくてもいいじゃないか・・今、仕事やってるんだ・・」

「何か、感じ悪いです・・そういうのはよくないと思うのですが・・・」

「これがオレの話し方なんだ・・仕事の邪魔になるからどっか行ってろよ・・」

「何よ、その態度!?そんなの人に悪い気分を与えるだけじゃない!」

 昇の態度に香澄が腹を立ててきた。彼女の態度に昇が不満げにため息をついてきた。

「アンタもここで働いている身なんだから、もうちょっと自分の仕事に責任を持ってよね!」

「ったく、オレのことをガミガミ言ってくれるな・・お前は何だ?オレの親か?先生か?」

 怒鳴ってきた香澄に腹を立てて、昇が皿洗いをしていた手を止めた。

「オレが許せないヤツを教えておいてやる・・自分が正しいと思い上がって、自分を押し付けていい気になってるヤツのことなんだよ!」

「それはアンタのことじゃない!自分がよければそれでいいって考えて、そんな態度を・・!」

 互いに怒鳴りかかり、にらみ合う昇と香澄。すると涼子がやってきて、手を叩いてきた。

「はいはい、そこまで。お客様の耳にも入ってしまうわ・・」

 涼子に注意されて、昇と香澄が押し黙る。昇は仕事を再開して、香澄は休憩室に移動していった。

 

 この日のポニテでの仕事が終わり、昇は1人帰っていく。その様子を香澄と涼子が目にする。

「香澄ちゃん、あまり昇くんを刺激しないであげて。彼、強く言われるのを嫌っているのよ・・」

「でもだからって、仕事のときはコミュニケーションはきちんとしないといけないものじゃ・・」

「どんな理由でも、一方的に押し付けられるのが、昇くんには我慢がならないのよ・・あなただって、有無を言わさずに一方的に押し付けられたらイヤでしょう・・?」

「それはそうですけど・・それで公私混同していいことには・・・」

「そういうのは昇くんには通じない。自分を押し付けるための言い訳にされるだけ・・」

「ガンコですね・・ものすっごくガンコ・・・」

 涼子から説明されて、香澄が昇に対して肩を落とす。

「だから用事がない限りは、そっとしてあげて・・」

「は、はい・・・」

 涼子に言われて、香澄が小さく頷いた。

「それより、これからもよろしくね、香澄ちゃん。」

「はい。こちらこそよろしくお願いします、涼子さん。」

 笑顔を見せた涼子に、香澄が改めて挨拶をする。

「それでは今日はこれで。お疲れ様でした。」

 香澄は涼子に一礼すると、ポニテを後にした。

(昇くん・・そんなに刺激したらいけない人なんだね・・・)

 香澄は昇に対して複雑な気分を感じていた。

 

 夜になって、警察が街の警備でより目を光らせていく。しかしその警戒網を気に留めず、怪物たちは暗躍を続けていた。

 カマキリの怪物も人気のない小道で標的を探していた。

「さぁて・・今度はどいつを八つ裂きにしてやろうか・・どんな悲鳴を上げてくれるか、楽しみだぜ・・」

 怪物が辺りを見回して笑みをこぼしていく。そして小道を歩いていく女性を見つけた。

「よぉし・・今度はアイツだぞ・・」

 怪物が笑みを強めて、女性に向かって飛びかかっていく。着地した怪物を目の当たりにして、女性が恐怖を覚える。

「さぁ、たっぷりオレを楽しませてくれよな・・」

「怪物!?

 構えを取る怪物に女性が声を上げる。彼女は振り返って、怪物から逃げ出した。

「いつもいつも、最初は鬼ごっこになるな・・」

 怪物はため息をついてから女性を追いかける。動きの速い怪物に女性はすぐに回り込まれる。

「追いかけっこじゃオレに勝てるわけないだろ・・?」

 不気味な笑みを浮かべる怪物に、女性が恐怖して後ずさりしていった。

 

 仕事を終えて、新しく部屋を借りたマンションに帰っていく香澄。新しい場所での仕事に、彼女は充実を感じていた。

「明日からも頑張らないとね・・ちょっと心配なこともあるけど・・・」

 前向きになろうとする香澄が、気分をよくして足早になる。

 そのとき、香澄の前に女性が飛び出してきた。女性は左腕から血が出ていて、右手で押さえていた。

 続けてカマキリの怪物が女性を追って現れた。

(怪物・・・!)

 怪物を目の当たりにして、香澄が感情を揺さぶられる。彼女は女性に駆け寄って支える。

「大丈夫ですか!?早く逃げてください!」

 香澄が呼びかけて、女性が立ち上がって逃げ出していった。

「だから逃げられないって・・」

 怪物が女性を追おうとするが、香澄が立ちふさがってきた。

「邪魔しようってか?・・まぁいい。獲物が変わるだけだ・・」

 怪物が香澄を見つめて、不気味な笑みを浮かべる。

「自分の目的のために他人を傷つけるバケモノ・・絶対に許さない・・・!」

 香澄が怪物に鋭い視線を向ける。彼女の顔に異様な紋様が浮かび上がる。

「まさか、お前も・・・!?

 香澄の異変に怪物が驚愕を見せる。香澄の姿が死神の怪物へと変わった。

「面白くなってきたな・・せっかくだ。一緒に楽しもうじゃないか・・」

 怪物が再び笑みを浮かべて、香澄を手招きする。すると香澄が死神の鎌を具現化させて、手にして構える。

「バケモノは私が、必ず滅ぼす・・・!」

「おいおい、そりゃ何の冗談だよ・・・?」

 鋭く言いかける香澄に、怪物が苦笑を浮かべる。次の瞬間、香澄が怪物に向けて鎌を振りかざしてきた。

「おわっ!」

 怪物が左手の鎌を構えて、香澄の鎌を弾いて回避する。

「おい、本気かよ!?・・本気でオレを・・・!?

 怪物が緊迫を募らせて、香澄から後ずさりしていく。

「オレたち、同じ仲間じゃないか。獲物を狙って派手に暴れてやろうぜ・・」

「お前は仲間などではない・・滅ぼすべき敵・・・!」

 誘いを持ちかける怪物に、香澄が強い敵意を向ける。彼女が怪物に向けて再び鎌を振りかざす。

「ぐっ!」

 怪物が気圧されて後ずさりする。香澄がさらに鎌を振りかざしていく。

「コイツ、いつまでも調子に乗りやがって・・!」

 怪物がついに香澄にいら立ちを覚える。香澄が振りかざした鎌をかわして、怪物が彼女に向けて両手の鎌を振り下ろす。

 すると香澄が持っていた鎌を上に振り上げた。鎌の柄が怪物の鎌を防いだ。

「何っ!?

 攻撃を受け止められて怪物が驚愕する。香澄が怪物を押し切って、勢いにに乗せて鎌を振りかざす。

 鎌の切っ先が怪物の体に傷をつけた。

「ぐっ・・!」

 手傷を負わされて怪物がうめく。いら立ちを浮かべていた彼だが、すぐに笑みを取り戻す。

「こうなれば、オレらしいやり方で・・・!」

 怪物は素早く動いてそばの茂みに身を隠した。彼は物陰に紛れて、香澄を狙うことにした。

(闇に紛れれば、すぐに反撃することもできないぞ・・・!)

 心の中で勝利を確信して、怪物が香澄の隙を狙う。彼は香澄の背後のほうに回り込んだ。

(あっさり終わらせるのは納得しないが・・)

「これで終わりにしてや・・!」

 怪物が飛び出して香澄を後ろから襲いかかろうとした。だが香澄が振りかざした鎌に、怪物が体を切り裂かれた。

「バカな・・オレの動きを・・・!?

 驚愕の声を上げる怪物。上半身と下半身に切り裂かれた彼が倒れて、事切れて動かなくなる。

「お前の動きは分かっている。たとえどこに隠れていても・・」

 香澄は低く告げると、霧散した怪物の亡骸を見つめる。

「バケモノは1人残らず私が倒す・・絶対に野放しにはしない・・・」

 怪物への憎悪をふくらませていく香澄。

(そして、バケモノになってしまった、私も・・・)

 香澄は怪物になっている自分自身をも嫌悪していた。

 そのとき、香澄が強い力の気配を感じ取って、目つきを鋭くする。

「この感じ・・もしかして、この前のヤツ・・・!?

 記憶のある気配を感じた香澄は、その方向に向かって駆け出していった。

 

 政治家たちの会合の場となった会議場。和気藹々とした交流をしていた会議場は、会合を始めて数分後に惨劇となった。

 龍の怪物となった昇が会議場に乗り込んで、その場にいた政治家たちを次々に手をかけた。ボディガードや兵士たちが駆けつけるが、昇は彼らにも怒りをぶつける。

「おのれ、バケモノが・・我々を殺して、国を支配用とでもいうのか・・・!?

 生き残っている政治家たちが、昇に怒鳴りかかる。

「支配?・・そうしているのはお前たちだろうが・・・!」

 昇が振り向いて、政治家たちに鋭い視線を向ける。

「何を言っている!?・・我々は、常に国と国民のために行動を・・!」

 言い返してきた政治家に、昇が怒りを込めて蹴りを見舞った。その政治家が吐血して、事切れて倒れた。

「みんなの前でそう言いながら、結局は自分たちのことしか考えていない・・そのことすら自覚していない・・しようともしていない・・・!」

「やはりバケモノか・・自分たちのしていることを、我々のしていることだと言い張って・・!」

 怒りを募らせる昇に言い返す政治家。すると昇が飛びかかり、その政治家の首に手を押し付ける。

 政治家は悲鳴も絶叫も上げる間もなく即死した。

「もう何を言ってもムダか・・お前たちは自分たちが正しいと思い上がり、他のヤツの言葉をまるで聞かない・・自分たちを愚かさを他のヤツにすり替える始末・・」

 昇が不満を口にして、他の政治家たちに目を向ける。

「もうゴミでしかない・・ゴミは始末しないといけない・・・!」

「貴様・・どこまでも勝手を・・・!」

 憤りを口にする昇に政治家が声を振り絞る。昇は激情に駆られて、政治家たちに次々に殴り掛かった。

(オレたちは屈しない・・お前らを、許しはしない!)

 昇は憎悪を募らせて、抗議の声を上げる政治家たちに力を振るっていく。言うことにまるで耳を貸さず、自分たちのしていることが正しいと言い張る彼らに、昇はもはや言葉を交わす気もなくしていた。

 会議場にいた全員を、昇は手にかけることになった。

「やはりゴミは、死ななきゃ愚かさが直らない・・死んでも直らないということなのか・・・」

 憎む相手に何の改善も見られず、自分勝手を続けている現状に、昇はさらに怒りを募らせる。彼はゆっくりと会議場から外に出ていく。

 血まみれの体のまま歩いていく昇。街路樹の並ぶ道に来た彼の前に、死神の怪物の姿をした香澄が現れた。

「お前・・あのときの・・・!」

「やはりお前・・何ともなかったのね・・・!」

 昇と香澄が互いに鋭い視線を向ける。

「今度こそあなたをこの手で仕留める・・・!」

「それはこっちのセリフだ・・思い上がっている連中に味方するヤツが!」

 鎌を構える香澄と、いきり立つ昇。2人が同時に飛び出してぶつかり合った。

 

 

次回

第3話「策略」

 

「オレは、オレたちは普通の暮らしをしてただけだ・・・」

「お前らはどこまで、オレたちのことを・・・!」

「オレをバケモノ呼ばわりするお前ら・・・」

「そのバケモノよりはるかに凶悪で最低なゴミクズだ!」

 

 

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