ガルヴォルスEternal 第1話「逆襲」
全てがオレを狂わせた・・・
何もしていないオレを、アイツらは一方的に敵と見なした・・・
だからオレもヤツらを敵と見なす・・・
オレはこの世界を許さない・・・
敵はこの手で全員潰す・・・
平穏な雰囲気を出している街並み。人々も穏やかに行き交うこの街を、1人の青年が歩いていた。少し逆立った黒髪をした青年である。
名前は赤垣昇。昇は知り合いに仕事を頼まれて、この街にやってきたのである。
「ったく、いきなり呼び出しやがって・・」
昇が気が滅入ってため息をつく。愚痴をこぼしながら、彼は道を進んでいく。
そして昇は1件のレストランにたどり着いた。
「ここか・・・」
レストランを見て昇が肩を落とす。彼はすぐに気持ちを切り替えて、レストランに入った。
「涼子先輩、来ましたよー・・」
昇が気のない態度で挨拶をしてきた。すると長い髪の女性が顔を出してきた。
白戸涼子。昇の母の親友で、このレストラン「ポニテ」の店長をしている。
「昇くん、こんにちは。来てくれたのね。」
「先輩の頼みだから来たんだ。あんまり期待しないでくれよな・・」
笑顔で挨拶する涼子に、昇が肩を落とす。
「オレ、接客も料理もやったことねぇんだけど・・」
「大丈夫、大丈夫。昇くんのお仕事はちゃんとあるから。」
憮然とした態度を取る昇に、涼子が微笑みかける。
「オレの仕事って・・もしかして・・・」
涼子の考えをすぐに察して、昇が頭に手を当てた。
涼子が昇に言い渡してきた仕事は皿洗いだった。彼は丁寧に食器を洗って、割ったり壊したりしないように注意を払った。
「接客も料理もロクにできないオレには、これぐらいしかやることねぇよな・・」
ひとり言を口にしながら、昇は皿洗いを続けていく。
「それにしても、面白いぐらいに洗い物が出てくるな・・お昼の混雑があるんだろうけど・・」
「ほらほら。動かすのは手だけにしてよね。」
呟いていく昇に1人の店員が声をかけてきた。
「僕は神楽亮太。君のバイト先輩になるかな。よろしく。」
「あぁ・・よ、よろしく・・」
店員、亮太に挨拶されて、昇が気のない返事をする。
「ま、あんまり思いつめないで、落ち着いてやっていけばいいさ。」
亮太は気さくに言ってから、自分の仕事に戻っていった。昇は気のない態度を変えずに皿洗いを続けていった。
皿洗いや掃除、荷物運びなどの仕事をこなした昇。この日の仕事を終えて、彼は肩を落としていた。
「ハァ・・地道な作業だったなぁ・・」
「お疲れ様。助かったわ、昇くん。」
そんな彼に涼子が声をかけてきた。
「昼メシと夜メシのときは忙しくて、それ以外はそうでもなかったな・・」
「食べ物のお店というのはそういうものよ。みんなおなかをすかせているからね。」
気のない態度で言いかける昇に、涼子が微笑んで答える。
「お客様が喜んでくれる、みなさんが幸せになってくれる。それが私たちの幸せになるのよ。」
「みんなか・・そのみんなが、いいヤツばかりじゃねぇってのに・・」
涼子の言葉を受けて、昇が憤りを覚える。
「むしろ悪いヤツのほうがいいくらいだ・・そんなヤツのためになることなんて、死んでもゴメンだ・・」
「昇くん、でも・・」
「そうだ・・この世の中は、マジでおかしくなっちまってるんだ・・・」
涼子が声をかけるが、昇は憤りを浮かべるばかりである。昇は世界の現状に不満を感じていた。
街の中の大通りを走る1台の黒い車。その後部座席には1人の男が乗っていた。
国で有力な政治家の1人である。
「これらの法案、どれも通過が難航しています。反対意見が半数に上っています。」
「フン。どいつもこいつも無能なヤツらばかりだ。私の言い分を素直に聞いておればいいものを・・」
秘書からの報告を聞いて、男がいら立ちを浮かべる。
「裏で脅しをかけておけ。そうすればどれだけ頭が悪かろうと理解する。」
「かしこまりました。」
男の言葉に秘書が頷く。男は自分の考えが正しいと思って疑わなかった。
そのとき、車が急停車して、男と秘書が踏みとどまる。
「何だ、急に!?」
「すみません!・・突然人が前に出てきて・・!」
声を荒げる男に運転手が答える。車の前に1人の人影があった。
「馬鹿者が・・早くそこをどけ・・・!」
男がいら立ちを見せて、運転手がクラクションを鳴らす。しかし人影は車の前からどかない。
「貴様、いい加減に・・!」
男が窓を開けて怒鳴ろうとしたとき、人影が車に向かってきた。すると人影の姿かたちが突然変わってきた。
「な、何っ!?」
この瞬間に男も秘書も運転手も目を疑った。人影は異形の怪物の姿に変わった。
「な、何だ、コイツは!?」
声を荒げた男に、怪物が手を伸ばしてきた。男が首をつかまれて絞められていく。
「な、何をする・・放せ・・・!」
「やめなさい!」
うめく男を放すよう、秘書が非常用に携帯していた銃を取り出して構えた。しかし怪物は手を離さない。
秘書が怪物に向かって銃を発砲する。弾は怪物の頭に当たったはずだったが、傷ひとつついていなかった。
「そ、そんな!?」
驚愕する秘書が、続けて発砲する。しかし怪物は傷つくことなく、男を放さない。
「放せ・・貴様、何をしているのか、分かっているのか・・・!?」
男が声を振り絞るが、怪物は手を離さない。
「私に何かあれば、この国は混乱に陥る・・全てを敵に回すことになるぞ・・・!」
「お前が、オレを敵に回した・・・!」
忠告を投げかける男に、怪物が言葉を返した。
「貴様、言葉を・・!?」
怪物が会話をしてきたことに男が驚く。次の瞬間、男が怪物に首の骨を折られた。
男は腕をだらりと下げて動かなくなった。運転手は恐怖して震えるばかりで、秘書も目を見開くばかりだった。
怪物は男を秘書に叩きつける。秘書は悲鳴を上げる間もなく、ドアを突き破って外に投げ出された。
倒れた秘書は叩きつけられた衝撃で即死に陥っていた。運転手がドアを開けて、泣き叫びながら逃げ出す。
だが怪物に一気に詰め寄られて、運転手は頭を後ろから殴られる。彼は頭を地面にぶつけて、鮮血をまき散らして昏倒した。
運転手の死を見下ろしてから、怪物は去っていった。怪物の手にかかり、男は秘書、運転手共々殺害された。
この近日、世間ではある事件でニュースが持ちきりになっていた。立て続けの殺人事件が起こっていた。
被害者のほとんどが政治家や議員とその関係者だった。一部では他国のテロリストが犯行を行っているという推測が出ているが、今時点で確証は出ていない。
「怖い事件が起こっているのね・・」
涼子がニュースを見て不安を覚える。
「殺されているのは、みんな政界の大物ばかりですね。テロだという意見も出ていますね・・」
「この近くで起こるようになっているし・・怖くなってきたわね・・」
亮太が言いかけて、涼子が不安を浮かべる。そんな中、昇は黙々と皿洗いをしていた。
「昇くんはニュースには無関心というところか・・」
「・・・むしろ、嫌っているのよ・・・」
言いかける亮太に、涼子が困惑を浮かべてきた。
「政治家とか芸能人とか、嫌っている人が多いのよ・・そういうのはどんな話でも聞きたくなくて・・・」
「そうなのか・・そういうのも世の中にいるものだけど・・」
涼子の話を聞いて亮太が納得する。彼は昇にその手の話をしないように肝に銘じた。
政治家や議員など、国の大物が襲われる事件は、彼らの中でも物議を醸していた。議員たちは事件に屈しない姿勢を見せつつ、国民に夜間の外出を極力避けるように呼びかけていた。
通りがかる人々に、号外や注意を記した紙が手渡される。
「怪物・・・」
そこを通りがかった1人の少女が、その紙を手に取って呟く。
(怪物・・許してはおかない・・・)
少女が憤りを覚えて、思わず持っていた紙を握りしめていた。彼女はそのままゆっくりと歩き出していった。
怪物を警戒する警官や自衛官が一気に増えた。街も夜に外出する人が少なくなり、にぎやかさが減っていた。
警備が強化されて、噂されている怪物もなりを潜めていると思われていた。だが怪物は警備を全く恐れていなかった。
(バカなヤツらだな・・そんなんでオレがおとなしくすると思ってんのか・・?)
人込みに紛れた1人の男が、心の中で笑みをこぼしていく。
(逆だ・・もっともっと遊ばせてもらうぜ・・お前らもまとめてな・・)
野心を募らせて、男は人込みから外れた。彼は人気の少なくなった通りで、楽しく会話をしていく2人の男女を目にする。
「今回はアイツらか・・」
男が笑みを強めると、男女に向かっていく。男の頬に様な紋様が浮かび上がっていく。
そして男の姿も変化する。カマキリに似た異形の怪物になった。
「えっ!?怪物!?」
「もしかして、これがニュースになってた!?」
男女が怪物を目の当たりにして、恐怖して後ずさりする。
「今度の獲物はお前らだ・・楽しませてもらうぜ!」
怪物が笑みを強めて、男女に飛びかかって両手の鎌を振りかざす。
「うわあっ!」
怪物の鎌に切られて、男が血をあふれさせて倒れる。
「キャアッ!」
女性が悲鳴を上げて怪物から逃げ出していく。男は出血で事切れて動かなくなっていた。
「次はお前の番だぜ・・」
怪物が飛びかかって、逃げ惑う女性の背中に手の鎌を突き刺した。
「イヤアッ!」
女性も鮮血をまき散らしながら、怪物に命を奪われた。
「この感触・・この悲鳴・・実に心地いい・・」
男女を手に駆けた感触を実感して、怪物が不気味な笑みを浮かべる。
「この調子でもっともっと楽しんでやる・・ただの人間が、オレをどうにかできるものか・・」
人を手に掛ける感触を確かめて、怪物が男の姿に戻る。彼は喜びを募らせながら、次の獲物を求めて歩き出した。
警備が強化されても、怪物による事件の減少は見られなかった。
怪物の事件に議員たちは頭を悩ませていた。議員の1人が怪物たちにいら立ちを隠せなくなっていた。
「おのれ、バケモノどもが・・部隊の展開を急がせるしかない・・・!」
議員が怪物討伐のための決断を下しつつあった。
「このまま好き勝手にさせてたまるか・・・!」
そのとき、議員の耳に近づいてくる足音が入ってきた。議員は目つきを鋭くして、足音のする方に振り向く。
近づいてきていたのは異形の怪物だった。
「バ、バケモノ!?」
怪物の出現に議員が驚愕する。彼は慌てて怪物から逃げ出していく。
だがすぐに怪物が議員の前に立ちふさがってきた。月明かりに照らされて、怪物は龍を思わせる姿をあらわにしてきた。
「お前たちがいるから・・全ては・・・!」
怪物が議員に向けて低く声をかけてきた。
「な、何を言っている、バケモノ・・・!?」
議員が恐怖と憤りをあらわにして言い放つ。彼の態度が怪物の感情を逆撫でする。
「我々はこの国や世界のために心血を注いでいる!お前たちのようなバケモノを野放しにすれば、世界は・・!」
「違う・・お前のようなゴミがいるから、世界がおかしくなっている・・・!」
「ふざけるな!ゴミというのはお前たちのような、世界にあってはならないもののことを・・!」
怪物に対して怒号を放つ議員。彼の態度に怪物が逆に怒りを膨らませて、右足を強く振り上げた。
議員が体を蹴り飛ばされて、地面を大きく横転していく。怪物の蹴りの衝撃で、議員は体中を粉砕骨折されて即死していた。
「自分たちを棚に上げて、その罪を他のヤツに押し付ける・・自分は正しいと言い張っている・・だからゴミなんだよ、お前らは・・・」
議員への強い憎悪を口にする怪物。彼は怒りを抱えたまま、1人移動しようとした。
そのとき、1つの影が怪物に向かって飛び込んできた。怪物が腕を振りかざすが、影は軽々とかわした。
怪物がその影に振り返って、鋭い視線を向ける。その影は龍の怪物と同種の、別の怪物だった。
「お前は、オレと同じ・・・!?」
怪物がその影の姿に当惑を覚える。死神の姿をした怪物が、龍の怪物に鋭い視線を向ける。
「お前たちバケモノは、1人残らず断罪する・・・!」
死神の怪物が鋭く言いかけると、死神の使うような鎌を手にする。死神は龍の怪物に飛びかかり、鎌を振りかざす。
「おい!いきなり何をする!?」
怪物が声を荒げて問い詰めるが、死神は答えずに鎌を構える。
「お前も、自分たちが正しいと思い込んでいる敵を叩き潰しに来たんじゃないのか!?」
「それはお前のことだ・・自分の目的のために、人間を、関係ない人を!」
怪物の問いかけをはねつけて、死神が再び鎌を振りかざしてきた。怪物は後ろに下がって鎌をかわす。
「もしかしてお前、思い上がっている人間に味方するつもりなのか・・・!?」
怪物が死神に対して憤りを感じ始めていく。
「だったらお前も、オレの敵でしかない!」
怒りをあらわにした怪物が死神に飛びかかる。死神が振りかざした鎌を、怪物は一瞬で体を低くしてかわす。
「なっ・・!?」
驚きの声を上げる死神に、怪物が繰り出した拳が叩き込まれる。重みのある一撃を受けて、死神が跳ね上げられる。
怪物がさらに拳を振りかざす。だが死神が宙で足を振り上げて、怪物を蹴り飛ばして引き離す。
「私はお前たちには屈しない・・1人残らずバケモノを切り捨てる!」
死神が鋭く言いかけて、鎌を構える。
「自分たちが満足するために、人間を弄ぶバケモノなど・・・!」
「弄んでいるのは、人間のほう・・自分たちが正しいと思い上がっているゴミクズ連中のほうだ!」
死神が口にする言葉に、怪物が怒りを込めて言い返す。
「アイツらがいい気になっている限り、世の中はいつまでも腐ったままだ・・野放しにすれば、世界は連中のおもちゃになる!」
「それはお前たちバケモノを野放しにすればのことよ!お前たちがいたから、お前たちが勝手なマネをしたから、私たちはムチャクチャになったのよ!」
怪物と死神が言い放ち、同時に飛び出す。怪物が1本の剣を具現化させて手にして、死神の鎌と同時に振りかざす。
剣の刀身と鎌の刃がぶつかり合うと、爆発のような衝撃が巻き起こった。
「ぐあっ!」
「うわっ!」
怪物と死神が衝撃で吹き飛ばされて、物陰まで飛ばされて姿が見えなくなった。
死神との激突で吹き飛ばされた怪物。大きなダメージを負った怪物が、茂みの中で倒れた。
思うように動くことができなくなった怪物が、人間の姿に戻っていく。その姿は昇だった。
「アイツ・・オレと同じ・・しかもとんでもなく強い・・・」
昇が立ち上がって、死神のことを考える。
「許せないのは・・アイツが人間の味方をしていること・・・!」
怒りを募らせて、昇が両手を握りしめる。世界を狂わせている人間に対しても、彼は強い憎悪を抱えていた。
次回
「どうかよろしくお願いします。」
「オレのことをガミガミ言ってくれるな・・」
「もうちょっと自分の仕事に責任を持ってよね!」
「オレたちは屈しない・・お前らを、許しはしない!」